ヒカルのチェス2の記事一覧

「ヒカルのチェス」(201)

「L’Italia Scacchistica」2010年7-8月号(1/1)

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決定的瞬間

第3119問 ナカムラ対シュールマン(2010年米国選手権戦、セントルイス)

 黒先黒勝ち

解答 25…Qd4+! 26.Kh1 Qe3! 0-1 (27.Qh4 Rc1)

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(この号終わり)

2011年01月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(202)

「Chess Life」2010年11月号(1/4)

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2218のピラミッド!この数字はカリフォルニア州アービンでのここにいる米国オープン出席者の平均レイティングである。一番下の列の左から二人目がGMヒカル・ナカムラ

米国オープンのおまけ


米国チャンピオンのヒカル・ナカムラは米国チェス連盟の年間最優秀GM賞の受賞のために街に来ていたが浮き浮きしていた。あまつさえ高校チャンピオンが同時対局を行なうデンカー大会の盤の一つに着席し、同時対局をしていたデンカーチャンピオンのスティーブン・ジールクを当惑させた。

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2011年01月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(203)

「Chess Life」2010年11月号(2/4)

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海外の米国選手

アムステルダムNHで若者が勝利

2010年アンバーにナカムラが進出

記 イアン・ロジャーズ
写真 キャシー・ロジャーズ

 レイティング世界一が19歳で世界チャンピオンが40歳超の時代には、たった1回の新鋭対熟練戦でも最高に興味深いことだろう。それでもアムステルダムでの第5回そして最後のNH新鋭対熟練競技会はお楽しみ企画を超えたものになった。

 NH大会は世界の最強新鋭5選手が一流グランドマスター(30歳以上)5選手と戦う方式で、世界の新星たちにとって真剣勝負の場である。

 伝説的選手との対局はアムステルダムの最高級ホテルの一つのグランドホテル・クラスナポルスキーで少数だが博識の観戦者の前で行なわれ、検討は飲み物とオードブルの置かれたVIP室で行なわれる。これはほとんどの若い選手たちにとって夢のような待遇だが、NH主催者の設定はそれだけに留まらなかった。若手選手それぞれのトレーナーの経費を負担し、服装規定を課し、名誉賓客にジョン・ナンを任命して収局の評価には神託が得られるようにした。

 2010年はアレクサンドル・ベリヤフスキーをボリス・ゲルファンドに代えてベテランチームが強化された。しかし不屈のゲルファンドの大活躍をもってしても若者チームの5年間で4回目の勝利を阻むことはできなかった。アダルトの中でゲルファンドとピョートル・スビドレルだけが勝率50%を超えた。

 シニアの中でゲルファンドだけが若者を完全に鎮圧することができた。42歳のイスラエル選手は10戦して負けなしの7点を挙げ、負けそうになったことがなかった。

 しかし残念ながら主催者はチーム戦を優先して、最優秀若手選手のためにことのほか名誉で豪華な賞を設けた。

 若者のトップ賞に2011年アンバー公演大会への切符がかかっているので、若者選手たちは自分の試合に勝つ動機を与えられただけでなく、皮肉にも仲間が苦戦するのを期待することにもなった。

 若者たちの競争は確かに見ものだった。最初はヒカル・ナカムラが首位に立っていたが、そのあと2連敗して地元の期待の星の16歳アニシュ・ギリに追い越された。ギリは最終2戦でつまづくまで首位に立っていた。それでナカムラが最終局で追いついた。

 それで来年3月のアンバーへの金の切符をどちらが得るかを決める決定戦が必要になった。全手3分で毎手2秒加算の持ち時間はナカムラにとってはおあつらえ向きで、やっぱりギリが2-0で粉砕された。

 これでナカムラは最後になりそうなアンバー大会でアーナンド、トパロフ、クラムニクらを相手に自分の技量を試す機会を得た。

 ナカムラは昨年の新鋭対熟練大会では病気のために悪夢のような結果に終わっていた。衝撃的な1勝のほかは本来の調子でなかった。

 22歳のナカムラは若者チームの中ではっきり最年長で、標準的なチェスでは既に最上位20人に入りつつあり、全力を尽くして二度目のチャンスに臨んでいた。それなのにオランダのスターが大会の最後で息切れするまでギリの後塵を拝することを観念していたと認めた。

 ナカムラは少なくともアンバーでの目隠し対局では好結果を出せるはずだと思っている。快速戦(持ち時間1時間)はナカムラの好みよりも少し長い。しかしお好み対局といえどチェス界の達人たちと対戦するのはナカムラにとって刺激となるに違いない。

アムステルダムNH 最終成績

新鋭チーム
=1位 ナカムラ(米国)、ギリ(オランダ)6点
3位 カルアナ(イタリア)5点
=4位 ハウエル(イングランド)、ソー(フィリピン)4½点
合計26点

熟練チーム
1位 ゲルファンド(イスラエル)7点
2位 スビドレル(ロシア)5½点
=3位 ニールセン(デンマーク)、ファン・ベリー(オランダ)4点
5位 リュボエビッチ(セルビア)3½点
合計24点

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(この号続く)

2011年01月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(204)

「Chess Life」2010年11月号(3/4)

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海外の米国選手

アムステルダムNHで若者が勝利(続き)

 ナカムラがオランダの最強選手に圧勝した次の試合はわずか90分しかかからず、面白い後日譚までついた。

シチリア防御ナイドルフ戦法 (B94)
□GMヒカル・ナカムラ (FIDE2729)
■GMローク・ファン・ベリー (FIDE2677)
2010年アムステルダムNH

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 Nbd7!?

7.f4

 この試合と並行してゲルファンドはギリ戦で同じ激しいナイドルフの戦型を指していた。ゲルファンドは 7.Bc4 と指したが引き分けにしかならなかった。

7…Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Rb1 Qa3 10.Bxf6! Nxf6 11.e5! dxe5 12.fxe5

12…Nd7??!

 NH大会の始まる少し前にファン・ベリーは「New in Chess」誌にワールドオープンの記事を書いていた。その中で彼はビクトル・ラズニツカがブライアン・スミスに勝った試合を解説していた。その試合では 12…Ng4 13.Nd5 Qc5 14.Nb3 Qc6 15.Na5 Qd7 16.Nc4!?

と進み、白が Nb6 で交換得したが勝負は最後に負けた。

 ナカムラは「これはもちろん研究していた」と語った。「それでも …Ng4 は黒にとってかなり危なっかしい。13.Nd5 Qc5 14.Nb3 Qc6 のあと 15.Na5 と指すか 15.Qa5 と指すか決めかねていた。」

13.Nd5! Qc5 14.Nb3! Qc6 15.Na5 Qc5

 ファン・ベリーは「『New in Chess』誌でスミス対ラズニツカ戦を解説していた」と説明した。「白が Na5-c4-b6 と指したことは覚えていた。そこで考え始めた。『黒のナイトがd7にいてb6に利いているのにどうしてこれが可能なんだろう。』しかしそれでも黒のナイトがd7でなくg4にいたことを思い出せなかった。」

16.Nxb7!

 「相手がb7のポーンを取ってやっと思い出し始めた。しかしもう手遅れだった」とファン・ベリーは打ち明けた。あとでばつの悪いことにファン・ベリーは自分の解説のコピーを見せられた。それには次のように書いてあった。「12…Nd7 は良くない。なぜなら 13.Nd5! Qc5 14.Nb3! Qc6 15.Na5 Qc5 16.Nxb7 で黒が負けるからである。」

16…Qc6

 16…Bxb7 は 17.Rxb7 Rc8 18.Bxa6 Qc6 19.Qa5! ではやり見込みがない。

17.Rb6!! 黒投了

 17…Nxb6 と取るしかないが 18.Nf6+! exf6 19.Qd8# で詰みになる。

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(この号続く)

2011年01月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(205)

「Chess Life」2010年11月号(4/4)

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海外の米国選手

アムステルダムNHで若者が勝利(続き)

 ブリッツ戦はドタバタのポカ合戦になるのが普通だが、ナカムラが決定戦最終局でギリに勝った試合は非常に見ごたえのある内容だった。

クイーン翼インディアン防御 (E15)
□GMアニシュ・ギリ (FIDE2672)
■GMヒカル・ナカムラ (FIDE2729)
2010年アムステルダムNH決定戦第2局

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.g3 d5 4.Nf3 Bb4+ 5.Bd2 Be7 6.Bg2 c6 7.O-O O-O

8.Qc2

 8.Bf4 dxc4 9.Ne5 b5! 10.Nxc6 Nxc6 11.Bxc6 Bd7!

は今年前半のアーナンドとの世界選手権戦の一局でトパロフが作戦勝ちを収めた。

8…b6 9.Rd1 Ba6 10.b3 Nbd7 11.Bf4 Rc8 12.Nc3 c5

13.dxc5?!

 13.cxd5! cxd4 14.Nxd4 Nxd5 15.Bxd5 exd5 16.Qb2

がわずかな優勢を確保する最善の機会だった。

13…Bxc5 14.a3?! b5! 15.b4?!

 これは明らかに黒を押し返そうという手だが、ギリは突然ショックに見舞われた。

15…Bxf2+!! 16.Kxf2 Rxc4!

17.Rd3

 どうと倒れていく手だが、17…Rxc3! の狙いは致命的で、白キングが逃げるのは 17…Ne4 18.Rd3 Qf6 で圧力に耐えられない。

17…e5!

18.Bg5

 18.Bxe5 も 18…Ng4+ でやはり悪い。

18…e4 19.Rxd5 Qb6+ 20.Kf1

20…Nxd5

 ここからの清算で勝ちが決まったが、20…Rxc3 も同様に強手だった。

21.Nxd5 Rxc2 22.Nxb6 exf3 23.Nxd7 fxg2+ 24.Kf2 Re8 25.Be3 Bc8 26.Nc5 Bg4 白投了

 27.Re1 には 27.Rxe2+ が決め手である。

 このみごとな指し回しにナカムラは1手平均5秒未満しか要しなかった。

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(この号終わり)>

2011年02月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(206)

「The British Chess Magazine」2010年12月号(1/1)

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タリ記念大会

 一方ナカムラは悲劇に見舞われた。同点優勝にからむためにはどうしても勝つことが必要で、グリシュクとの黒番で大胆にもオランダ防御レニングラード戦法を採用した。そしてそれが報われて相手を圧倒しはっきり勝ちの収局になった。しかし長い対局の終わりで、明らかに大会全般の疲労から、大きな戦力得の局面を勝ちきることができなかった。


最終戦で勝ちをふいにしたことに気づいた憔悴のナカムラ


□アレクサンドル・グリシュク
■ヒカル・ナカムラ

タリ記念大会
モスクワ、2010年
オランダ防御 (A81)

1.d4 f5 2.g3 Nf6 3.Bg2 g6 4.Nf3 Bg7 5.O-O O-O 6.b3 d6 7.Bb2 c6 8.Nbd2 a5 9.c4 Na6 10.Qc2 Qc7 11.a3 Re8 12.e4 fxe4 13.Nxe4 Bf5 14.Nh4 Bxe4 15.Bxe4 Nxe4 16.Qxe4 e5 17.dxe5 Qb6 18.Qc2 dxe5 19.Bc1 Nc5 20.Rb1 Ne6 21.Be3 Nd4 22.Qe4 Qc5 23.a4 Qb4 24.Kg2 Re7 25.Nf3 Nf5 26.Rfd1 Nxe3+ 27.fxe3 Rf8 28.Rf1 Qa3 29.h4 Ref7 30.Qc2 Qc5 31.Rbe1 Bh6 32.Qe4 Qb4 33.Rb1 Qc3 34.Rbd1 Qxb3 35.Rd3 Qc2+ 36.Rf2 Qb1 37.Rf1 Qc2+ 38.Rf2 Qxa4 39.h5 gxh5 40.Rd6 Bg7 41.Kh3 h6 42.Rg6 Qb4 43.Nh4 Qe7 44.Rd2 Rf6 45.c5 Qe6+ 46.Kg2 Rxg6 47.Nxg6 Ra8

 3ポーン得の黒が楽に勝つと思うだろう。しかしここからおかしな展開が始まる。

48.Qb1 Qf7 49.Rf2 Qd7 50.Kh2

50…Qe6?!

 bポーンを見捨てるのは控え目に言っても直感に反するように思われる。しかし白の直前の手には巧妙な罠が仕組まれていた。当然の 50…a4(「パスポーンは突き進めなければならない」)は 21.Qa2+ Kh7(白の直前の手の意味はここで 51…Qd5?? がチェックにならないことである)52.Qb1 のあと黒は 52…Kg8 と手を繰り返すよりなく引き分けになってしまう。

51.Qxb7 Re8 52.Nh4 Rf8 53.Rxf8+ Bxf8 54.Qa8 Qa2+ 55.Ng2 Qd5 56.Qxa5 Qxc5 57.Qa8 Kg7

 まだ2ポーン得だが、クイーン・ナイト組のために黒が勝つのはもっと困難になっている。

58.Nh4 Qc2+ 59.Kh3 Qe4 60.Qb7+ Kf6 61.Kh2 Be7 62.Qa8 Kf7 63.Qb7 Qc4 64.Qc7 Qe2+ 65.Ng2 Qb5 66.Nh4 Qb2+ 67.Kh3 Qc1 68.Kh2 Qd2+ 69.Kh3 Qd6 70.Qb7 Ke6 71.Nf3 Bf6 72.e4 Qd7 73.Qb8 Kf7+ 74.Kg2 Qe6 75.Kh2 Kg7 76.Qc7+ Kg6 77.Qb8 c5 78.Qf8 c4 79.Qc5 h4 80.Nd2 Qg4 81.Nxc4

81…Qe2+

 まだ完全に勝っているが、どうしてチェックでg3のポーンを取らなかったのだろうか。

82.Kh3 Qxe4 83.Kh2 Qe2+

 84…Qe1 でもg3のポーンを取っても黒がまだ勝っていた。しかしナカムラはついにポカを出し勝ちを逃がした。

84…Qf3?? 85.Nxe5+ Bxe5 86.Qxe5 Qh1+ 87.Kg4 Qd1+ 88.Kh3 Qh1+ 89.Kg4 Qd1+ 90.Kh3 Qh1+ ½-½

 信じられない負けからの復活だった。何年か前ナカムラはスミスロフの試合の分析から得るものがあるという説を一笑に付して多くの伝統主義者の怒りを買った。彼は今違う考え方になっているだろうか。もっとも偉大なワシリー・ワシリエビッチは1手30秒で収局を指す野蛮な実戦に関与しなかったことは確かである・・・

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(この号終わり)

2011年02月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(207)

「Chess Life」2011年1月号(1/3)

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世界に挑むヒカル

 米国の最高レイティング選手のヒカル・ナカムラがベイクアーンゼー(2011年1月14日ー30日)でのタタ鉄鋼チェス大会でカールセンとアーナンドを含む世界の最強選手たちに挑戦する。GMイアン・ロジャーズからの速報を含むチェスライフオンラインでの報道をお楽しみに。

2010年オリンピアード

GMロバート・ヘス

ヒカル・ナカムラ レイティング2733、主将

 ヒカルはほとんどのファンにはまばゆいばかりの攻撃型選手と戦術の天才として知られている。これはほとんど真実であるが、彼のチェスにはそれだけに留まらないものがたくさんある。ヒカルは恐れ知らずで引き分けの提案を嫌っている。ブルガリアと対戦することになった時ヒカルはそれまで一度もべセリン・トパロフと対局したことがなかったので喜び試合を楽しみにした。ヒカルは偉大な戦士なので前2局を白で負けても士気はくじけていなかった。オリンピアードをとおして彼は準備のほとんどを別個に行なったが意見を求めることは決して躊躇しなかった。コーチのバルージャン・アコビアンと私は必要ならば彼を支援し彼は喜んで受け入れた。彼はチーム選手で、そのことはポーランドとの第7回戦で証明された。ヒカルは最初の方で勝つ手を逃がしたが、望むならいつでも引き分けにしてしまうことができた。しかしカームスキーの試合を覗くと形勢が悪かった。そこでチームの勝ち点のために全力を尽くすことにした。そして指し過ぎて負けてしまった。彼は第1席で立派な主将であることを立証した。

 ヒカルの出だしは4½/5で、世界チーム戦でのときのように第1席賞のメダルへの道を邁進した。もっとも結果は彼のチェスを反映したものにはならなかった。それでは彼の第2回戦の試合を途中から見てみよう。


□バヤルサイハーン・グンダバー(FIDE2460、モンゴル)
■GMヒカル・ナカムラ(FIDE2733、米国)
第39回オリンピアード男子、2010年9月22日、第2回戦

 34…a4 の局面

 ここでは完全に白の勝ちである。しかし区切りの40手目が迫っていて白は勝ち筋を読みきれなかった。実際区切りの手数に達した時ヒカルは既に勝つ手段を追求していた。

35.Qe5

 簡単な勝ち筋は 35.Qh7+ Kf8 36.Ka2 Nd6 37.Rxc7 Rd8(37…Nc4 は 38.Rd7 Rc8 39.c7 で良くない)38.b6 Nc4 39.Rd7

である。黒は 39…Nxb6 と取るよりないので 40.Ne4 Nxd7 41.Nxf6 Nxf6 42.Qg6 で決まっている。

35…Qg6 36.Qe4

 クイーンなし収局は完全に望みがないので黒は手を繰り返すしかない。

36…Qf6 37.Qe5 Qg6 38.f5 exf5 39.Rd3 f4 40.Rd2 f3

以下57手目で白投了

 両選手とも区切りの手数に達し黒にはもう負けようがなくなった。局面は互角に近いがヒカルは段違いの実力を見せつけてはるか格下の相手を下した。

 第5回戦のアルゼンチンのGMディエゴ・フローレス戦もそうだがこの試合は苦戦の局面で盛り返す彼の比類ない実力が現れている(編集部注 「収局研究室」を参照)。しかし元世界選手権者ウラジーミル・クラムニクとの試合はまさしくこのオリンピアードでの彼の最高の試合である。

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(この号続く)

2011年02月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(208)

「Chess Life」2011年1月号(2/3)

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2010年オリンピアード(続き)


GMヒカル・ナカムラ(右)は第4回戦で元世界チャンピオンのGMウラジーミル・クラムニクと対戦し引き分けた


ホテルの部屋で一心不乱に研究するGMユーリ・シュールマン(左)、GMヒカル・ナカムラ(右奥)、GMバルージャン・アコビアン

キング翼インディアン防御/古典主流戦法 (E97)
□GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2780、ロシア)
■GMヒカル・ナカムラ(FIDE2733、米国)
第39回オリンピアード男子、2010年9月24日、第4回戦

 スーパースターがチェスの試合を指すのをまじかで観戦するのはどのようなものなんだろうと思っている人たちは私の警告に耳を傾けて欲しい。試合のすぐそばに立っていてはいけない!私が序盤の手を見ていようとしていたところ完璧な顔の表情や手の動きを撮ろうとしていた何十人もの写真家やジャーナリストに手荒く扱われた。

 そのような経験は素晴らしいことだったとは認めるが、それ以来私はホテルで自分のラップトップPCから試合を観戦するだけで完全に満足してきた。それではお待ちかねの試合である。

1.Nf3

 早くもちょっとした驚きの手である。クラムニクは初手に 1.d4 と指す傾向がある。この二人が1月にコーラスで対局した時もそうだった。クラムニクはこのクイーンポーンの手を選びオランダ防御を打ち破った。ここではその繰り返しにはならなかった。代わりにキング翼インディアン防御になった。この布局はナカムラが世界最高の使い手の一人であることは間違いない。

1…Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.d4 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Nd2

 ここでクラムニクの選択した手は3番目によく指されている手である(もっとも彼は 9.Ne1 と 9.b4 もよく指している)。一般的にはもっとよく指されているのは 9.Ne1 で、その構想はキング翼での守りの選択肢は決めないまま Nd3、f2-f3、b2-b4、c4-c5 と指し進めてクイーン翼で攻撃をかけることである。

9…Ne8

 9…a5 の方が安全な手だが、ヒカルは自分の棋風に忠実にすぐに直接攻撃に向かった。

10.b4 f5 11.c5 Nf6

12.a4

 12.a4 は最もよく指される手というわけではない。しかしクラムニクは深く研究してきた。この手の構想はクイーン翼に襲撃をかけ続けて、ポーンの暴風を止める面倒な …a5 を指させずに Ba3 を可能にすることである。またこの手は f2-f3 突きを省略する選択肢を白に与える。そうなれば黒の攻撃は実現がより困難になる。実戦の手より 12.f3 f4 13.Nc4 g5 の方が普通で、難解な戦いになる。

12…f4 13.Nc4 g5 14.Ba3 g4 15.cxd6 cxd6 16.b5

 この手のあと白はポーン得になる。黒はdポーンを放棄すれば自陣が崩壊するのでそうするわけにはいかない。そこでヒカルはgポーンを捨てる方を選んだ。

16…Ne8

 16…f3 は 17.gxf3(17.Nxd6!? fxe2 18.Nxe2 Rb8 19.Ng3 はまったく形勢不明である。白は白枡ビショップの代わりに2ポーン、広い陣地、安全なキング、それにはるかに優る駒の働きを得ている。黒の方は白の攻撃をかわしながら自分の駒を効果的に配置する必要がある)17…gxf3 18.Bxf3 Ne8 19.Ne3 Ng6 20.Kh1 Qh4

で白キングがだいぶ危険な状況になる。もっとも白はまだポーン得で受けの手段に事欠かない。このような局面はたった一度の間違いで白がたちまち負けてしまうので受けがとてつもなく難しい。だからクラムニクよりもナカムラの方が得意とする。21.Ra2 Bh6 22.Rg1 Bf4 23.Nf1 Bd7 24.Ng3 Rc8 25.Rc2 Kh8

というようなことになればヒカルの方にチャンスがあると思う。

17.Bxg4 Qc7 18.Be2 f3

19.b6!

 19.gxf3 は 19…Bh3 20.Re1 Ng6 21.b6 Qe7 -これは 19.b6 と指さずにf3ポーンを取ったことにより可能になっている- 22.Kh1 Nf4 23.Rg1 a6 24.Bf1 Rc8

となって、白は2ポーン得だが絶えず攻撃の脅威にさらされているので形勢不明である。しかし前の 16…f3 の方がわずか1ポーンの犠牲で有望な主導権が取れていただろう。

19…axb6

 19…fxe2 は 20.bxc7 exd1=Q 21.Rfxd1 Ng6 22.Nb5 Rf6 23.Ncxd6 Nxd6 24.Bxd6

となって、白がビショップの代わりに3ポーンを得て盤上を完全に席巻している。cポーンとdポーンがパスポーンになっているので白が危なげなく勝つだろう。

20.Nb5?!

 クラムニクは極度に慎重で、ナカムラに攻撃の筋を開けさせなかった。しかし gxf3 と取ることもできてその方が強い手だった(「最善手」と言うことは控えておこう。なぜなら簡単に指せる手ではなく、特に 20.Nb5 が首尾一貫した有望な手に見える時はそうである)。20.gxf3 Bh3 21.Re1 Ng6 22.Nb5 Qd8 23.Kh1 Nf4 24.Rg1

となれば 19.gxf3 で分析した局面よりも黒駒が守勢で白の攻撃目標が多いので白陣が良くなっている。

20…fxe2 21.Qxe2 Qd8 22.Nbxd6 Nxd6 23.Bxd6

23…Rf7!

 ヒカルはルークをg7に寄せてg2の地点に利かせるつもりである。代わりの手はたぶん「もっと安全」だろうが黒がはるかに反撃の機会がない局面でもある。23…Re8 24.Bxe5 Bxe5 25.Nxe5 Ng6 26.Nxg6(26.Nc4 は 26…b5! 27.axb5 Rxa1 28.Rxa1 Qxd5 29.exd5 Rxe2 30.h3 Bd7

で互角である)26…hxg6 27.Qd3 Qd6

は黒が受けきる可能性は十分あっても明らかに引き分けを目指しての話である。

24.Bxe5 Ng6 25.Bxg7

25…Nf4?!

 これがもっとも働いた手のように見えるが、黒よりも白の方に資するようである。25…Rxg7 26.g3 Nh4 27.f4(27.Qe3 は 27…Bh3 28.Nxb6 Rb8 29.Rfd1 Qf6

となって黒の勝つ可能性が大きい)27…Bh3 28.Rfc1(28.Rf2 は 28…b5 で反撃される)28…Qf6

となればどうやって黒の反撃を抑えるかはっきりしない。たとえば 29.Kf2 Ng2! 30.Qd2 Rf8 で何がなんだか私には分からない。

26.Qe3 Qg5 27.g3 Qxg7 28.Nxb6

28…Bg4

 28…Rb8 は 29.Nxc8 Rxc8 30.Rac1(30.Rad1? は大悪手で 30…Rc3 31.Qb6 Qg4 で黒の攻撃を受けきれない)30…Re8 31.Rcd1 Qg6 32.f3 h5 33.Kh1 Nh3 34.d6

となって、白のポーンが黒の駒得をものともしないだろう。

29.Nxa8 Ne2+ 30.Kg2 Bf3+ 31.Qxf3 Rxf3 32.Kxf3 Nd4+ 33.Kg2 Qf8

 ここから少しの間の指し手は最善ではないが、驚くほど難解な局面なので両対局者を批判するわけにはいかない。コンピュータを用いても完全に解明するのは困難である。時計を用いた実戦では気にすることはない。

34.Rfe1?

 この手は制限時間近くで指された。だから正しく応じられたら勝つ可能性が全然なくなるとしても「?」を二つ付けるわけにはいかない。34.h4!(白キングをくつろげた)34…Qxa8 35.Rfd1 Nc2 36.Rac1 Qxa4 37.d6 Qxe4+ 38.Kh2 Nd4 39.d7 Nf3+ 40.Kh3

これで白の勝ちになる。もっとも本当に終わる前に数多くのチェックをかわさなければならない。例えば 40…Qf5+ 41.Kg2(41.g4? は 41…Ng5+! 42.hxg5 Qf3+ で永久チェックになる)41…Nxh4+ 42.gxh4 Qg4+ 43.Kf1 Qh3+ 44.Ke2

44…Qe6+(44…Qg4+ は 45.f3 Qe6+ 46.Kf2 でチェックが尽きる)45.Kf3 Qf5+(45…Qh3+ は 46.Ke4 Qe6+ 47.Kf4 Qf6+ 48.Kg3 Qe5+ で主手順に戻る)46.Kg3 Qe5+ 47.f4 Qe3+ 48.Kg4

48…Qe6+(48…Kf7 なら 49.d8=N+)49.f5 Qe4+ 50.Kg5 Kg7 51.f6+ Kf7 52.d8=N+! Kg8 53.f7+

53…Kf8(53…Kg7 なら 54.Rg1!+-)54.Rg1! Qg6+ 55.Kf4 Qf6+ 56.Ke4 Qxh4+ 57.Ke5 Qh2+ 58.Ke6 Qa2+ 59.Kd7 Qa4+

60.Kc8 Qa8+ 61.Kc7 Qa5+ 62.Kb8! Qxd8+ 63.Rc8 Qxc8+ 64.Kxc8 Kxf7 65.Kxb7 Kf6 66.Kc6

これで白キングがゆっくり戻って間に合う。

34…Qxa8?!

 34…Nc2 35.Nc7(35.Nb6 は 35…Nxe1+ 36.Rxe1 Qb4 37.Rc1 Qxb6 で白の方だけ負ける可能性がある)35…Qb4! 36.Reb1 Qxe4+ 37.Kg1 Ne3 38.fxe3 Qxe3+ 39.Kf1 Qf3+

で永久チェックによる引き分けである。

35.Red1?!

 この手のあとは否応なしに引き分けになる。勝つには 35.Rac1 しかないが状況は暗中模索である。35.Rac1 Qxa4 36.Rc8+ Kg7 37.Rec1(37.d6 は 37…Nc6 38.Rc7+ Kg6 39.Rxb7 Qd4

で反撃される)37…b5 38.R1c7+ Kf6 39.Rxh7

35…Nc2 36.Rac1 Qxa4

37.d6

 37.Kf3 Qb3+ 38.Kg4 Qb4 39.Kf3 Qb3+ も互角である。

37…Qxe4+ 38.Kg1

 ここではもう勝ちにいくことはできない。38.Kh3?? は 38…Nd4 39.Rc3 Qe6+ 40.Kg2 Qxd6

で負ける。

38…Nd4 39.d7 Nf3+ 40.Kf1 Nxh2+ 41.Kg1 Nf3+ 合意の引き分け

最終成績 10試合6点
実効レイティング 2741

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(この号続く)

2011年02月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

「ヒカルのチェス」(209)

「Chess Life」2011年1月号(3/3)

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収局研究室

外側パスポーン

GMパル・ベンコー

 外側パスポーンは収局での決め手になることがよくある。今回はシベリアのハンティ・マンシースクで開催された2010年オリンピアードに出場した米国の一流男女選手たちからいくつかの例を取った。

ヒカル
□GMヒカル・ナカムラ(FIDE2733、米国)
■GMディエゴ・フローレス(FIDE2615、アルゼンチン)
第39回チェスオリンピアード、2010年

 白の手番

 ここでは白が有望だが、見かけほど容易ではない。b2ポーンが攻撃されていて守り切ることはできない。だから思いつくのは 19.a4! Nc4 20.a5 である。

19.Nc6!? Na4 20.Bh6 Nxb2 21.Rdc1 Rxc1+ 22.Rxc1 Re8 23.g4 e5

24.Be2

 黒ポーンをあまりにも速く進攻させないように 24.Re1 が用心深い手だった。

24…e4 25.Rb1 Nd3 26.a4 Bh4 27.Be3 f5 28.gxf5 gxf5 29.Bd4 f4 30.a5 e3!

31.fxe3

 31.Bxd3 と取ると 31…Bxf2+ 32.Kh1 f3 で黒の勝ちになるのでこう指すところである。

31…Bf2+ 32.Kh1 Ne1 33.Rxe1 Bxe1

 黒は交換得したが局面はまだ混沌としている。

34.a6

 白は 34.Bh5 Ra8 35.Bf3 Kf8 36.exf4 Bxa5 も 34.e4 Rxe4 35.Bf3 Rxd4 36.Nxd4 Bxa5 も単なる引き分けしか望めないと読んで賭けに出た。

34…Be6?

 黒は正しい道筋を逃がした。34…Bf2 35.e4 Be3 と指すべきで、変化によっては詰みの可能性が残っていた。

35.Bf3 fxe3 36.Bxe3

36…Bc8

 他の手も良くならない。例えば 36…Bg4 なら 37.Bd5+ である。

37.a7 Bb7 38.Ne7+ Rxe7 39.Bxb7 Re8 40.a8=R Rxa8 41.Bxa8 Bc3 42.Kg2 Bb2 43.Kf3 Bc3 44.Ke4 Bb2

45.Kf5

 黒枡ビショップ同士を交換すると誤色ビショップしか残らず引き分けになるので交換できないことに気づけば、これは容易に勝てる局面である。

45…Bc3 46.Ke6 Bb2 47.Kf5 Bc3 48.Kg5 Bb2 49.Kh5 Bc3 50.h4 Bb2 51.Kh6 Bc3 52.Be4 Kh8

 これは最後のお願いである(53.Bxh7? なら 53…Bd2 で引き分け)。

53.Kg5 Bb2 54.h5 Kg8 55.Bd5+ Kh8 56.Kf5 Bc3 57.h6 Bb2 58.Ke6 Kg8 59.Ke7+ Kh8 60.Kf7 Bc3 61.Bc5 黒投了

 Bf8-Bg7+ から hxg7# で詰みになる。

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(この号終わり)

2011年03月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(210)

「Chess」2011年1月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック

第2回ロンドン・チェスクラシック オリンピア 12月8日-15日

選手名 国名 棋力 1 2 3 4 5 6 7 8 実効
マグヌス・カールセン ノルウェー 2802 * 0 0 3 1 3 3 3 13 2816
ビスワーナターン・アーナンド インド 2804 3 * 1 1 1 1 1 3 11 2815
ルーク・マクシェーン イギリス 2645 3 1 * 1 1 1 1 3 11 2838
ヒカル・ナカムラ 米国 2741 0 1 1 * 3 1 1 3 10 2772
ウラジーミル・クラムニク ロシア 2791 1 1 1 0 * 1 3 3 10 2765
マイケル・アダムズ イギリス 2723 0 1 1 1 1 * 3 1 8 2725
デイビド・ハウエル イギリス 2611 0 1 1 1 0 0 * 1 4 2583
ナイジェル・ショート イギリス 2680 0 0 0 0 0 1 1 * 2 2422

 くじ引きの結果はナカムラにとって厳しくて、最上位3人に対して黒番だった。しかし出だしは好調で、アーナンドとクラムニクに対してそれぞれ引き分けと勝ちだった。残念ながら第4回戦のカールセン戦が大きな障害になった。ヒカルはイギリスの若手2選手に対して優勢の局面を絶対にものにする必要があったが、どちらも勝利に逃げられた。もっとも全般的には若い米国選手にとって良い成績で期待を抱かせる大会だった。英国には彼のファンが多く、今回の成果で世界レイティング一覧の十傑に名前を連ねることになる。

第1回戦(12月8日)
アーナンド ½ – ½ ナカムラ

 ヒカル・ナカムラも「ベルリンの壁」を用いた。この防御はガリー・カスパロフをてなずけるためにクラムニクが用いた定番の処方せんである。ビシーは16年ぶりに英国でチェスの試合を指したが、収局での勝ちをもぎ取ることに乗り出した時には非常に落ち着いているように見えた。英国のGMのジョン・スピールマンとジョン・ナンは長期戦の収局の見込みによだれを流さんばかりだった。ビシーは収局が本当に収局だった頃を思い出すことができる(指しかけ、封じ手、再開と呼ばれる奇妙な儀式のことで、マグヌス、ヒカルらは幸いにも知らない)。しかし結局アーナンドはヒカルの頑強な抵抗を打ち砕くことができなかった。前日ヒカルはくじ引きの結果-アーナンド、クラムニク、それにカールセンに黒番-にあまり喜べなかった。しかし初戦の結果は良かった。

第2回戦(12月9日)
クラムニク 0 – 1 ナカムラ

 ヒカル・ナカムラは第2回戦の日に23歳の誕生日を祝い、大会からの「贈り物」はきつい対戦のウラジーミル・クラムニクに対する黒番だった。クラムニクからの誕生祝いの贈り物ははるかに寛大な捨て駒だった。クラムニクはカタロニア模様からすぐにニムゾインディアンに転じ、広さで優位に立っているようだった。しかし12手目で突然駒を切ってきた。

 ポカかそれとも捨て駒か?捨て駒なら何を期待したのだろうか。ヒカルはキングの安全を危うくしなければならなかったが、それでもかなり有利な取引のようだった。時間切迫に近づくにつれて少し戦術の応酬があり、ナカムラのキングは上方に逃げなければならなかった。しかしなんとかすべて無事におさまり、ついに黒でクラムニクに勝つという申し分のない誕生日祝いの贈り物を得た。1回戦でアーナンド相手の頑強な引き分けと相まってこの上ない出だしとなった。


23歳の誕生日にうれしそうなヒカル・ナカムラ。元世界チャンピオンのウラジーミル・クラムニクに黒で勝ってその晩はもっと幸せだった。

第3回戦(12月10日)
ナカムラ ½ – ½ ハウエル

 デイビド・ハウエルはまたしても盤上と時間で瀬戸際政策の才能を発揮した。ヒカル・ナカムラ相手にフィアンケット・グリューンフェルト防御を用いたが、その戦型は2009年にカルポフとカスパロフの郷愁対局で指されたものだった。デイビドはその布局を予期していなくて、12手目あたりでどう指そうかと考えて大量に時間を使った。一方ヒカルはオンラインで弾丸試合を指していると考えているようだった。これは冗談だが、彼の早指しの真の理由はある程度深くこの戦型を研究していたためだった。25手目でデイビドはわずかに5分ほどしか時間が残っていなかった。これに対しヒカルは12-15分ほどしか使っていなかった。しかしデイビドは巧妙な「要塞」計画を考え出して窮地を脱した。ルーク、ナイトそれにキングが寄り集まって身の安全を図り、それと共に2個の重要なポーンを守りヒカルのキングが小競り合いに加わるのを防いだ。ヒカルのクイーンはつついたり押したりし、キングは息を吹いたりはいたりしたが、英国選手の家を吹き飛ばすことはできなかった。

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(この号続く)

「ヒカルのチェス」(211)

「Chess」2011年1月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第4回戦(12月11日)
カールセン 1 – 0 ナカムラ

 ヒカル・ナカムラはカールセンのイギリス布局に一種のオランダ防御で応じた。しかしノルウェー選手は布局からしっかり優勢に立った。一つ面白かった場面はカールセンがビショップをナイトと交換した時だった(23.Bd4 と 24.Bxb6)。ヒカルが双ビショップになって問題ないように思えたが、時間が切迫したときカールセンの圧力がものをいった。ヒカルは 33…Rd8!? の方が良いかもしれないと考えたが読みきる時間がなかった。相手の特攻の 36.Rxg6+ を見落としていて収局でポーン損になった。カールセンの技術は完璧で、すぐに勝負がついた。

第4回戦
M・カールセン-H・ナカムラ
イギリス布局

1.c4

 カールセンは白の布局の選択ではいまや確固とした「イギリスびいき」になった。

1…f5

 一方ナカムラは黒ではオランダが好きである。もちろん白はずっと d4 と突かないので純正オランダ防御ではない。

2.g3 Nf6 3.Bg2 d6 4.Nc3 g6 5.e3 Bg7 6.Nge2 O-O 7.O-O e5 8.b3 Nbd7 9.d3 c6 10.Ba3 Qc7 11.Qd2 Re8 12.Rae1 Nc5 13.h3 e4

14.dxe4

 14.d4 はまったく候補外である。14…Nd3 と跳び込まれ厄介な存在になる。

14…Nfxe4 15.Qc2 Nxc3 16.Nxc3 Be6 17.Rd1 Rad8 18.Bb2 Bf7 19.Rd2 a5 20.Rfd1 Be5 21.Ne2

 ここまで有利さを求めて慎重な位置取りがずっと続いてきたが、ナカムラはここで形を決めてきた。

21…a4 22.b4 Nd7

23.Bd4

 すぐに 23.Qxa4 とaポーンを取るのは非常にまずい考えである。23…Nb6! 24.Qb3 Nxc4 で白の方が戦力損になる。しかしaポーンは守りづらいので長期的には負担になる。

23…Nb6

 23…Bxd4 はd6ポーンの大切な守り駒をなくすので良い考えではない。

24.Bxb6! Qxb6 25.Rb1 Qc7 26.Nd4 Rc8 27.Rc1 Qe7

28.Rd3

 aポーンはまだ間接的に守られている。28.Qxa4? なら 28…Bxg3! で黒が良い。

28…c5 29.bxc5 Rxc5 30.Qxa4 Rec8 31.Rb1 Rxc4 32.Qd1!

 白が24手目でビショップでナイトを取ったのは勇断だった。白の大局的な作戦はb7とd6の浮いているポーンを標的にすることのようである。

32…b6

 この手のあと白が局面をしっかり支配した。たぶん 32…R4c5!? はやってみる価値があるだろう。例えば 33.Rxb7 R8c7 34.Rxc7 Qxc7 35.Qd2 Rc1+ 36.Kh2 Bxd4 37.Rxd4 Rc2

という具合である。

33.Nb5

33…R4c5

 ナカムラは持ち時間が少なくなっていた。33…Rd8 34.f4 Bf6 35.Nxd6 Rc3 36.Rxb6 Qc7 37.Rxc3 Qxc3 38.Qe2 Bd4!?

を読んだが、形勢まで検討する時間がなかった。

34.Nxd6 Bxd6 35.Rxd6 Bxa2 36.Ra1 Rc1 37.Rxc1 Rxc1 38.Rxg6+

 この突撃で白のポーン得になった。

38…hxg6 39.Qxc1 Qd6 40.h4 Bf7 41.h5

41…Kh7

 41…gxh5 は 42.Qc8+ Kg7 43.Qxf5 でもっと悪い。

42.hxg6+ Kxg6 43.Qc2 b5 44.g4

44…Qe5

 44…Be6? は 45.gxf5+ Bxf5 46.e4! で駒損になる。しかし 44…b4!? はやってみる価値があったかもしれない。白がこのbポーンを抑えるのは非常に難しいし黒のfポーンはどうせ取られるのだから。

45.gxf5+ Kg7

 45…Kf6 は 46.Qc6+! Kxf5? 47.Bh3+ Kg5 48.f4+ でクイーンを取られる。

46.Qe4 Qd6

 クイーン交換はすぐにそうなるが白の勝ちになる。

47.Qh4 Bc4 48.Bf3 Qf6 49.Qxf6+ Kxf6 50.Be4

50…Ba2

 50…b4 は 51.f4 b3 52.Kf2 b2 53.Bb1 で白が勝つ。

51.f4 b4 52.Kf2 b3 53.Bd5 Kxf5 54.Kf3 Kf6 55.e4 Kg6

56.Ke3

 これで一直線の技術的な勝ちである。もっとも我々のような技量の低い者は簡単にだめにしてしまうことがある。例えば 56.Kg4? なら Bb1! で引き分けにしてしまう。

56…Kh5 57.Kd4 Kg4 58.f5 Kg5 59.Ke5 1-0

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(この号続く)

2011年04月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(212)

「Chess」2011年1月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第5回戦(12月12日)
ナカムラ 1 – 0 ショート

 ナイジェル・ショートにはまたついてない日になった。彼はやけから出た向こう見ず精神でマーシャル攻撃の捨て駒の傍流戦型(9…e4)を試した。ヒカル・ナカムラはそれをほとんど研究していなかったが、11.g3 に基づいた信頼できる手順を見つけることができた。この戦型はスーパーGMレベルには通用しないのかもしれない。ショートの陣形は 20.Qf5 のあと望みがないように見え、実際そうだった。ショートは解説室ではいつものように快活で、終わりには突然短い歌を歌って楽しませてくれた。

第5回戦
H・ナカムラ-N・ショート
ルイロペス/マーシャル攻撃

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.c3 d5

 マーシャル攻撃。ショートは長年の間にちょっと指しているが、ナカムラはたぶん予想していなかった。

9.exd5 e4!?

 スタイナー戦法。GMたちが詳しく本局を研究したあとは感嘆符と疑問符が入れ替わるかもしれない。「これは成績が ½/4 のとき起こるたぐいの無鉄砲さである。」(ショート)「ショートが何かちょっと変わったことをしてくるのではないかと思っていた。」(ナカムラ)ショートはマルコム・ペインがこの戦型を指すと指摘し、冗談めかして彼の名誉のために指したようなことを言った。

10.dxc6 exf3

11.g3

 単に序盤からポーン得を図るこの論理的な手は、文字どおりナカムラが盤上で考え出した。以前に指されたことはあるが本にはこの戦型についてほとんど記載されていない。「本の推奨手は 11.d4 だが、本局のあと新しく本の推奨手になるかもしれない。」(ショート)11.Qxf3 と取る手もあり、ボビー・フィッシャーが2回ほど指している。

11…Re8

12.d4

 黒のさりげない手には実際には毒が含まれていた。もし 12.Qxf3? と取ると 12…Bc5! で白は急にルークと最下段に対する策略に引っかかり易くなる。例えば 13.Rf1 なら 13…Bg4! 14.Qg2 Qc8 という具合である。

12…Bg4 13.Bg5

13…h6

 13…Qd6 は 14.Qd3 h6 15.Bxf6 Bxf6 16.Nd2 Qxc6 17.Qg6!? Be6 18.Qh5

となって、f3ポーンをからめ取り白に1ポーン得の優勢が約束される。

14.Bxf6 Bxf6

 黒の残った黒枡ビショップは黒枡にある白の圧倒的なポーンに対してあまり影響がないので、自分の黒枡ビショップをなくすという白の方針にはあまり問題がなかった。

15.Nd2 Qd6 16.h3!

16…Bh5

 16…Rxe1+ は 17.Qxe1 Bxh3 18.Qe4 で白がすぐにまた1ポーン得になり陣形の優位も増す。

17.Qc2!

 Qf5 の狙いでh5のビショップをまごつかせている。

17…Bg5 18.Ne4

18…Qxc6

 18…Qg6 なら白は 19.Qd3 から 20.Bc2 で圧力を強めることができる。一方黒はキング翼で自分の駒を封じ込めるのに成功しただけである。

19.Nxg5 hxg5 20.Qf5

 逆説的になるが、ショートはポーン損の間はまだ形勢に自信があったと我々に語った。しかし戦力が互角になった今彼は完全にあきらめた。

20…Rxe1+

 20…Qg6 は 21.Qxg6 Bxg6 22.Bd5 でf3のポーンが取られ、白が技術的に楽に勝つ。

21.Rxe1 Re8

22.Re5

 22.Rxe8+ は 22…Qxe8 で最下段の狙いに備えて 23.Qe5 Qxe5 24.dxe5 と指す必要があり白の勝ちが怪しくなる。

22…Rxe5 23.dxe5

23…Bg6

 やはり 23…Qg6 は 24.Qxg6 Bxg6 25.Bd5 でf3のポーンが落ちる。

24.Qxg5 Qe4 25.Qd8+ Kh7 26.Qh4+ Qxh4 27.gxh4

27…f6

 黒にとっては具合の悪いことに二重hポーンは白の大義をほとんど助けているに近い。もし黒が 27…Bh5 でfポーンを守れば、白キングはh2からg3を通ってそのポーンを攻撃しに行き Bd1 と指して取ってしまうことができる。

28.exf6 gxf6 29.Bd5 a5 30.b4 axb4 31.cxb4 Bd3 32.Kh2 Bc4

33.Be4+

 33.Bxc4?? は考えるまでもない。33.Bxf3? も最善ではなく、33…Bxa2 のあと黒がbポーンを突っ走らせる狙いで引っ掻き回しにくるかもしれない(あわよくばの話である)。

33…Kh6 34.a3 1-0

 ちょうど投げ時である。この後の想定手順は 34…Be6 35.Bxf3 Kg6 36.Kg3 f5 37.Kf4 Bd7 38.h5+ Kf6 39.Be2 Bc6 40.Bd3 Bd7 41.h6

で見込みがない。解説室での質疑の終わりにショートは歌の一片を歌って締めくくった。その第1節は「ポーンを捨てるとどうなるのか」で、曲は1960年代にヒットしたボビー・ジェントリーの「I’ll Never Fall in Love Again」(訳注 邦題『恋よさようなら』)だった。彼の歌は大会ウェブサイトのビデオの5.3で聴くことができる。ショートは丁重にも元英国チャンピオンで並みはずれた冗談好きのGMジョナサン・メステルが歌詞を作ったと言った。

訳注 ショートの替え歌の歌詞は次のとおりです。
What do you get when you sac a pawn? (ポーンを捨てるとどうなるのか)
Several hours of grim defending, (何時間もの気の滅入る受け)
And then you lose the ending, (そして収局で負ける)
I’ll never sac a pawn again. (もう二度とポーンは捨てないぞ)

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(この号続く)

2011年04月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(213)

「Chess」2011年1月号(4/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

第6回戦(12月14日)
マクシェーン ½ – ½ ナカムラ

 ルーク・マクシェーンはヒカル・ナカムラと激闘を演じた。マクシェーンは第4回戦で試した 1.g3 をまた用いた。そのあとイギリス4ナイト戦法に移行した。マクシェーンは18手目あたりで Qa4 と指せばもっと良くなっていたかもしれない。40手の制限時間に近づく頃には局面は非常に複雑になり両者とも時間に追われた。

 ナカムラはたぶんもっとうまく指して勝ちに近づくことができたかもしれない。しかしマクシェーンは黒キングの近くにクイーンを寄せることができ、永久チェックの可能性をこしらえた。ヒカルは駒得する手段を見つけたが、マクシェーンのクイーンは単独で引き分けをもぎ取った。

第6回戦
L・マクシェーン-H・ナカムラ
イギリス布局

1.g3 e5 2.c4 Nf6 3.Bg2 d5 4.cxd5 Nxd5 5.Nc3 Nb6 6.Nf3 Nc6 7.O-O Be7 8.a3 O-O 9.b4 Re8 10.d3 Bf8 11.Bb2 a5 12.b5 Nd4 13.Nd2 c6 14.bxc6 Nxc6

15.Nc4!?

 ここでは 15.Nb5、15.Rb1 や他の手もいくつか指されているが、これは新手である。

15…Be6

 15…Nxc4 16.dxc4 で白はcポーンが孤立ポーンになるが、代償としてd5の地点がしっかり支配できる。

16.Nxb6 Qxb6 17.Rb1 Qa6 18.Bc1 Rac8

19.Re1?

 19.Qa4 と出て黒のbポーン突きを防ぎ、そのポーンを列と対角斜筋上とで標的のままにしておいた方が良かった。実戦の手のあと優勢は黒に移った。

19…b6 20.Bd2

 ここで 20.Qa4 と出ると黒は単に 20…Nd4 と応じて楽である。

20…Red8

 20…Bxa3?? は 21.Bxc6 Rxc6 22.Qa4 で両当たりになる。

21.a4 Nd4 22.Nb5

22…Bc5

 22…Bb4!? という手もあり、23.Bxb4 axb4 となれば 24.Rxb4? には 24…Nc2 でルークの両取りがかかるので非常に有望である。

23.Nxd4 Bxd4 24.Be3

24…Rc5

 24…Bxe3 25.fxe3 Rc5 は黒がほんの少ししか優勢にならない。

25.Bxd4 exd4 26.Rc1 Qc8 27.Rxc5 Qxc5 28.Qa1 Rc8 29.h4 Qc3 30.Bb7 Rc7 31.Be4 f5 32.Bf3 Bb3 33.Kf1

33…Kf8

 a4のポーンは取られそうだが、33…Qb4 には 34.Rb1 で黒がa4のポーンを取れば白は代わりにb6のポーンが取れる。

34.e3?!

 お互い時間が少ない状況で非常に危険を伴う手である。

34.Qxd3+

 34…dxe3 と取った方が良かった。35.Qa3+ Qb4 36.Qxb4+ axb4 37.Rxe3 Rc1+ 38.Re1 Rxe1+ 39.Kxe1 Bxa4

で黒がはっきりポーン得になる。もっとも白はまだまだ指す余地がある。

35.Kg2 Qc3 36.Qa3+

36…Ke8

 36…Qb4 37.Qxb4 axb4 38.Rb1 Rc3 39.exd4 Ke7 は指してみても良かったかもしれない。もっとも黒がどのように駒を解きほぐして進展を図るかははっきりしない。

37.Qd6

 この時点で白はあと4手に1分ほど、黒は3分ほど残っていた。37.exd4+!? Qxe1 38.Qxb3 も相当良さそうである。白キングは安全だが黒キングはチェックの砲火を逃げ切れそうにない。

37…Rd7 38.Qe5+ Re7 39.Qb5+ Kf8 40.Qxf5+ Rf7

41.Qe5

 Qd8 の1手詰み狙いの 41.Qg5?! に食指が動くが、黒は実戦と同じように応じて勝てるかもしれない。いくつかの分析エンジンは 41.Qb1 を強力に推すが、人間選手には 41…Rxf3 42.Kxf3 Bd5+ 43.Kf4 d3 が心配である。露出している白キングに対するいろいろな狙いを簡単に見落とすことがある。

41…Rxf3

 すぐに 41…Qxe1 と取るのは盤上に白ビショップが「生きて」いるのであまりに危険である。例えば 42.Qb8+ Ke7 43.Qc7+ Kf6 44.Qd6+ Be6 45.Bd5 Re7 46.Qf4+ Bf5 47.g4

となる。

42.Kxf3 Qxe1 43.Qb8+ Ke7 44.Qc7+ Kf6

45.Qd8+

 45.Qxb6+?! は 45…Be6 46.Qxd4+ Kf7 となって、黒が勝つ可能性がわずかながらある。

45…Kf7 46.Qd7+ Kf8 47.Qd8+ Kf7 48.Qc7+ Kf6 49.Qd8+ Kf7 50.Qc7+ ½ – ½

第7回戦(12月15日)
ナカムラ ½ – ½ アダムズ

 ヒカル・ナカムラとミッキー・アダムズとの試合はすぐさまキングを巻き込む戦いになった。これは戦う大会の締めくくりに非常にふさわしかった。ミッキーは得意のマーシャル攻撃を用い、ヒカルは 17.a4 と指して「定跡書」からはずれた。ヒカルは21手目でクイーンに直射攻撃を受ける手を指したが、実際はもっと良い手があった。クイーン同士が盤上から消え、アダムズは犠牲にしたポーンの代わりに双ビショップとナカムラの浮きポーンに対する圧力という形で代償を保持した。最終的には戦力を互角にすることができて引き分けになった。

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(この号終わり)

2011年04月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(214)

「Chess」2010年12月号(1/2)

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ロンドンは招く

ジョン・ソーンダーズが近づくロンドン・チェスクラシックを予想


ヒカル・ナカムラ - レイティング2741

 ヒカル・ナカムラは2010年は数多く対局し着実にレイティングの階段を昇っている。去年ロンドンで対局した時は2715だったが、それから2741に上がり15位になっている。生の順位によれば10位に上がったかもしれない。最近のモスクワでのタリ記念大会では優勝者からわずか半点差だった。ロンドンでは優勝できるだろうか?もちろんだ!賭ける価値がある・・・

決め手を見つけろ


(1)G・サガルチク対H・ナカムラ
ブエノスアイレス、2003年
黒の手番

解答 1…Qxa3+! 機敏な仕上げ 2.bxa3 2.Kxa3 Ra1# 2…Ra1#


(13)M・クラセンコフ対H・ナカムラ
バルセロナ、2007年
黒の手番

解答 1…Qxf2+!! 2.Kxf2 Bc5+ 3.Kf3 3.Kf1 c3+ 4.Re2 c2 で黒の勝ち。3.Bd4!? Bxd4+ 4.Kf3 Rf6+ 5.Kg4 Ne5+ 6.Kh4 Bc8! このあとの華麗な仕上げは 7.Qh5 Rf4+!! 8.gxf4 Bf2+ 9.Kg5 f6# 3…Rxf6+ 4.Kg4 Ne5+ 5.Kg5 Rg6+ 6.Kh5 f6 7.Rxe5 7.Bd5+ Kh8 8.Kh4 Rh6+ 9.Qh5 g5+ で黒の勝ち 7…Rxe5+ 8.Kh4 Bc8 0-1


(21)B・ゲルファンド対H・ナカムラ
トルコ、2010年
黒の手番

解答 21…Qd3!! 22.Nxe5 2.Bxd3 Bg2#。2.Bxh3 Qxf3+ で次の手で詰み 2…Bxf1! 3.Qxf1 Qxc3 4.Rc1 4.Nd3 Qxc7 で黒のルーク得 4…Qxe5 5.c8=Q Rxc8 6.Rxc8 Qe6 0-1

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(この号続く)

2011年04月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(215)

「Chess」2010年12月号(2/2)

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ニュース総ざらい

フランス – カップ・ダグド国際大会(10月23日-26日)は8人総当たりの2グループの1位同士が快速の2試合で優勝を決める形式で行なわれた。

Aグループ 1位 ヒカル・ナカムラ(米国)6½/7、2位 プー・シャンチー(中国)5½、3位 ニュエン・ニョク・トゥルオン・ソン(ベトナム)4、4位 ユディット・ポルガー(ハンガリー)3½、5位 ロマン・エドゥワール(フランス)3、6-7位 アナトリー・カルポフ(ロシア)、ナデジダ・コシンツェバ(ロシア)2½、8位 ソフィー・ミリェ(フランス)½

Bグループ 1-2位 ワシリー・イワンチュク(ウクライナ、順位判定で1位)、レ・クワン・リーム(ベトナム)5½/7、3-4位 ヤニック・ペルティエ(スイス)、ヨン・ルドビグ・ハンメル(ノルウェー)4、5-6位 ティグラン・ガラミアン(フランス)、カテリナ・ラーノ(ウクライナ)3、7位 チュー・チェン(カタール)2、8位 タチアナ・コシンツェバ(ロシア)1

これでナカムラ対イワンチュクの「夢の決勝戦」になった。2試合ともキング翼ギャンビットになった。ナカムラは第1局に負けたあと自分も採用したが引き分けにしかできず王座をイワンチュクに譲った。

2010年カップ・ダグド決勝第1局
V・イワンチュク – H・ナカムラ
キング翼ギャンビット

1.e4 e5 2.f4 Nc6
 第2局のナカムラ対イワンチュク戦では 2…exf4 3.Nf3 g5 4.Bc4 Bg7 5.h4 h6 6.d4 d6 7.c3 Nc6 8.O-O g4 9.Ne1 Qxh4

と進んだ。イワンチュクはこの第2局について「h4 と O-O が疑問で白がいいわけがない」とコメントした。
3.Nf3 f5 4.d3 d6 5.Nc3 Nf6 6.g3 g6 7.Bg2 Bg7

8.fxe5 dxe5 9.Bg5 h6 10.Be3 O-O 11.O-O fxe4 12.dxe4 Be6

13.a3 Kh7 14.Kh1 a6 15.Bg1 Rf7 16.Qe2 Nd4 17.Qd3 Nxf3 18.Qxf3 Rd7

19.Rad1 Bg4 20.Rxd7 Bxf3 21.Rxd8 Bxg2+ 22.Kxg2 Rxd8 23.Be3 g5

24.h3 Kg6 25.g4 c6 26.Rf2 b5 27.Rd2 Rxd2+ 28.Bxd2 Bf8

29.Kf3 h5 30.Ne2 hxg4+ 31.hxg4 Nd7 32.Nc1 c5 33.Na2 Nb8

34.c4! bxc4 35.Nc3 Nc6 36.Nd5 Nd4+ 37.Ke3 Kf7

38.Nb6 Ke6 39.Nxc4 Be7 40.Ba5 Nb5 41.Kd3

41…Nd6?? 42.Nxd6
cポーンがすぐに落ちてそれで勝負も決まる。
1-0

ロシア – タリ記念大会(モスクワ、11月4日-18日)はレボン・アロニアン、セルゲイ・カリャーキン、シャフリヤル・マメディヤロフの三人が 5½/9 で同点に並び、順位判定で前の二人が優勝した。順位 1-3位 L・アロニアン(アルメニア)、S・カリャーキン(ロシア)、S・マメディヤロフ(アゼルバイジャン)5½、4-6位 A・グリシュク(ロシア)、H・ナカムラ(米国)、ワン・ハオ(中国)5、7位 V・クラムニク(ロシア)4½、8位 B・ゲルファンド(イスラエル)3½、9位 A・シロフ(スペイン)3、10位 P・エリャーノフ(ウクライナ)2½。すぐに引き続いて同所で第6回世界ブリッツ選手権戦が開催され、参加選手が20人に増えて38回戦が行なわれた(11月18日-20日)。レボン・アロニアンが 24½/38 で危なげなく優勝し、テイムール・ラジャーボフ(アゼルバイジャン)24 と2009年のチャンピオンのマグヌス・カールセン 23½ が続いた。また、モスクワではマグヌス・カールセンが2009年チェス「オスカー」(世界のチェスジャーナリストの投票による年間最優秀選手)の受賞トロフィーを授与された。

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(この号終わり)

2011年05月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(216)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(1/9)


ヒカル・ナカムラがベイク・アーン・ゼーの超弩級大会で優勝
世界の頂点に立つ

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 写真 キャシー・ロジャーズ
表紙写真
ヒカル・ナカムラ。ベイク・アーン・ゼーの超弩級大会での彼の優勝は一大センセーションを巻き起こした。やる気満々の指しっぷりと機知に富んだ試合解説は観衆に好評だった。

一大センセーションの小さな日記
ヒカル・ナカムラがベイク・アーン・ゼーの超弩級大会で優勝
解説 GMイアン・ロジャーズ

 かつてヒカル・ナカムラはオランダのベイク・アーン・ゼーで開催される有名なチェスの祭典への招待状を受け取ったことがある。その主催者は彼にBグループの参加枠を用意していた。彼はそれを辞退した。米国チャンピオンとしてAグループが当然と考えたからだった。

 そうこうしているうちに世界ランキングで二桁台から一桁台に上昇した。そして昨年末にベイクから新たに招待状が家に届いた。今度はAグループへの招待だった。ナカムラは小躍りして喜んだ。彼は受諾し「来た、見た、勝った」!

 それは誰も予想していなかったし、彼自身も予期していなかった。予想は世界チャンピオンのアーナンドと「チェス界のプリンス」カールセンとの優勝争いになるというのが一般的だった。あるいは世界ランキング第3位のアロニアンと元世界チャンピオンのクラムニクもからんでくるかもしれなかった。しかし考えられるのはもうそこまでだった。

 ナカムラのことは誰も勘定に入れていなかった。彼の名前は「弾丸」試合と分かちがたく結びついていた。弾丸試合はインターネットでの「脳みそを破壊する」(GMのヒューブナー博士)1分ブリッツで、個人的には感じのいいこの米国のティーンエージャーがかっとなったり半狂乱になって対局していた。時にはチャットでひどく下品な言葉をはいていた。それに 1.e4 e5 2.Qh5 のような布局での乱行もまだ記憶に新しい。要するに(極端な言い方をすれば)チェスのギャンブラーという評判が彼にはこびりついている(あるいはもう少し良く言えばこびりついていた)。

 しかし彼は変わっていた。「去年から真剣にチェスに打ち込み始めた。以前は今のカールセンのように気楽なティーンエージャーとしてやっていた。あるレベルまでは無鉄砲な指し方が通用する。しかし非常に強い相手と当たるようになるといいかげんな布局は胴体着陸になりがちだ。今でもまだ自分の指し方は攻撃的だと思っているが、以前ほど危険を冒さなくなっている。それに以前ほど対局中にかっとしないで冷静さを保つようになった。生き方が楽になった。」

 ほとんどすべての超一流選手が集まった中でナカムラが番狂わせの優勝をしたことはこの祭典の一つの事件で、それゆえにこの記事の中心となっている。彼は至る所で評価されたし、権威者からもそう言われることがある。ガリー・カスパロフはニューヨークタイムズ紙の「ギャンビット」というブログで次のように引用されている。「フィッシャーは世界チャンピオンの参加した大会で優勝したことがなかった。・・・それどころかナカムラと比較できる米国人の大会優勝を見つけようとすると、ピルズベリーがヘースティングズ[当時の世界チャンピオンのラスカーが参加していた]で優勝した1895年までさかのぼらなければならないと思う。」カスパロフの比較は-米国人にとってはしてやったりだが-いささか誇張しすぎのように思われる。それでもナカムラの優勝はとりわけ彼にとって既に過去の偉業である。優勝者自身は浮わついたことを考えていなかった。「今年の目標は[レイティングで]2800を突破することです。今はまだその途中です。」

 それではベイク・アーン・ゼーで彼のたどった道のりをもっと詳しく見ていこう。

 写真 キャシー・ロジャーズ
ヒカル・ナカムラ
1987年 日本の枚方(ひらかた)市に生まれる
1989年 一家で米国に移住
1998年 11歳の時レイティング大会の試合でグランドマスターに勝った最年少米国選手となる
2003年 1958年からボビー・フィッシャーの保持していた記録を破って米国チェス史上最年少のグランドマスターとなる
2004年 米国選手権戦で優勝
2006年「弾丸」戦(インターネットでの持ち時間1分のブリッツ)で世界ランキングの1位となる
2006年 トリノでのチェスオリンピアードで米国チームの一員として銅メダルを獲得
2009年 米国選手権戦で二度目の優勝
2009年 サンセバスティアンでの第18水準大会でスビドレルとカルポフを抑えて優勝
2010年 トルコのブルサでの世界団体選手権戦で第1席での個人最優秀選手となる
2011年 ベイク・アーン・ゼーでの超弩級大会で世界ランキング最上位4人を抑えて優勝

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(この号続く)

2011年05月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(217)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(2/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

電撃スタート

 ナカムラは最初の3回戦で早くも優勝コースに乗った。レイティング最上位クラスのアロニアンとの黒番での引き分けと白番での2勝。その2勝では受けにも強いことを示し、無理な捨て駒を咎めた。

クイーン翼ギャンビット D38
H・ナカムラ – A・グリシュク
ベイクアーンゼー Aグループ 第1回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 d5 5.cxd5 exd5 6.Bg5 Nbd7

7.e3 c5 8.dxc5 Qa5 9.Rc1 Bxc3+ 10.bxc3 O-O 11.Nd4 Qxc5

12.Bd3 Ne4 13.Bf4 Nb6 14.Qc2 h6 15.f3 Nf6 16.g4 Re8

17.Kf2 Nc4 18.h4 Bxg4 19.Bxc4 dxc4 20.fxg4 Nxg4+ 21.Kf3 Ne5+

22.Bxe5 Rxe5 23.Kf2 Rae8 24.Rh3 b5 25.Rg1 Re4 26.Qd1 b4 27.Qf3

 グリシュクは18手目で駒を犠牲にして敵キングの「風通しのいい」状態に賭けた。しかしここでは積極的な指し方を保持したまま例えば 27…Kh8 28.Nf5 bxc3 と指すべきだっただろう。代わりに彼の指した手は・・・

27…Rxe3?

 この手は 28.Qxe3 Rxe3 29.Rxe3 bxc3 30.Ne2 c2 なら黒の満足のいく局面になる。しかしナカムラは返し技を見つけた。

28.Rxg7+!

28…Kxg7

 28…Kh8 とよけるのは 29.Qxf7! でうまくいかない。チェックの千日手狙いも 29…Re2+ 30.Kg1! Re1+ 31.Kg2! R1e2+ 32.Nxe2 Rxe2+ 33.Kf1

で続かず白の勝ちになる。

29.Qg4+ Kf8 30.Rxe3 Rxe3 31.Kxe3 bxc3 32.Ke2

 32.Ke4 がずっと強い手だった。

32…Qe5+

ナカムラは 32…Qb4 を少し心配していた。しかしその場合でも 33.Qc8+ Kg7 34.Nf5+ Kf6 35.Ne3

で白が明らかに優勢を保持している。例えば 35…Qb2+ でも 36.Kf3 でc4のポーンが落ちc3のポーンも止まる。36…Qxa2? は 37.Qc6+ で詰みになる。

33.Kd1 Qh2 34.Ne2

 そしてナカムラはまだわずかに残っている黒の反撃をしだいに削いでいった。

34…Qd6+ 35.Qd4 Qxd4+ 36.Nxd4 Kg7 37.Nc6 a6 38.Nb8 a5 39.a4 Kf6 40.Nc6 Ke6 41.Nxa5 Kd5 42.Kc2 1-0

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(この号続く)

2011年05月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(218)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(3/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

電撃スタート(続き)

ルイロペス C78
H・ナカムラ – A・シロフ
ベイクアーンゼー Aグループ 第3回戦、2011年

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O b5 6.Bb3 Bc5 7.c3 d6 8.a4 Rb8 9.d4 Bb6 10.axb5 axb5 11.Na3 O-O 12.Nxb5 Bg4 13.d5 Ne7 14.Bc2 Qd7

15.Na3!?

 これはこの戦型での新手で(普通は 15.c4)、彼はこれで指せると確信していた。しかし注目に値するのは別のところにあり、ナカムラは相手の棋風を熟知することができて、このあとの乱戦を予期し相手の捨て駒への対策を立てていた。「この試合は特に自慢できる。」

15…Nexd5!?

 シロフらしい捨て駒である。

16.h3 Bh5 17.exd5

17…e4

 黒の読みは 18.g4 Nxg4 19.Ng5 Nf6 20.Qe1 Rfe8 から …h6 で、黒の攻撃が強まる。

18.Bg5!

 白の意図は 18…exf3 19.Bxf6 fxg2 20.Bxh7+! Kxh7 21.Qxh5+ Kg8 22.Qg5 g6 23.Qh6 から詰ませることである。

18…Bxf3

 ここで白が 19.gxf3 と取るのは 19…Qxh3 20.fxe4 Qg3+ 21.Kh1 Qxg5 で良くないが・・・

19.Qd2!

 ナカムラはすべてを見通していた。黒の攻撃は完全に終わっていて(例えば 19…Bh5 20.Bxf6 gxf6 21.Bxe4 +-)、すぐに白の明らかに有利な収局になる。

19…e3 20.Bxe3 Bxe3 21.fxe3!

21…Be4

 21…Bxd5 には 22.Rxf6! がある。

22.Rxf6! Bxc2 23.Rf4 Bg6 24.Nc4 Ra8 25.Na5

 そして白は非常に手数がかかったが(かかり過ぎ?)この収局を勝ちきった。

25…Rfe8 26.Ra3 Be4 27.c4 g5 28.Rf1 g4 29.h4 Qe7 30.Qf2 Bg6 31.b4 h5 32.Rc3 Qe5 33.Rb3 Qe4 34.Rc3 Qe5 35.Rfc1 Be4 36.Qf4 g3 37.Qxe5 Rxe5 38.Ra3 Kg7 39.Rf1 Ree8 40.Rfa1 Re5 41.Nb3 Rxa3 42.Rxa3 Bxd5 43.Nd2 Be6 44.e4 Bg4 45.Rxg3 f5 46.Re3 Re8 47.Kf2 Ra8 48.exf5 Ra2 49.Rd3 Bxf5 50.Rd5 Be6 51.Rg5+ Kh6 52.Ke3 Ra3+ 53.Kd4 Ra1 54.g3 Rd1 55.Kc3 Rg1 56.b5 Rc1+ 57.Kd3 Bf7 58.Nb3 Rd1+ 59.Ke2 Rb1 60.Nd4 Bxc4+ 61.Kd2 d5 62.Nf5+ Kh7 63.Rxh5+ Kg6 64.Rg5+ Kf6 65.Ne3 Rb2+ 66.Kd1 Be2+ 67.Kc1 Rxb5 68.Kd2 Rb2+ 69.Kc3 Rb5 70.Nxd5+ Kf7 71.Re5 Bg4 72.Re7+ Kf8 73.Re4 Bf5 74.Nxc7 Rc5+ 75.Rc4 Re5 76.Rf4 Ke7 77.Kd4 Ra5 78.Nd5+ Ke6 79.Nc3 Ra8 80.g4 Bh7 81.Ke3 Rc8 82.Ne2 Ke5 83.Ra4 Rb8 84.Nd4 Rb1 85.Ra5+ Kf6 86.Kf4 Rf1+ 87.Nf3 Bc2 88.Kg3 Rb1 89.Ra6+ Kg7 90.Nd4 Bd3 91.Rd6 Kf7 92.Kf4 Ra1 93.h5 1-0

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(この号続く)

2011年05月27日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(219)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(4/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

減速と加速

 第4回戦でナカムラは16歳のオランダのスターのアニシュ・ギリ(前日にカールセンに勝っていた)と対戦して苦労して引き分けに持ち込まなければならなかった。次の回でも元世界チャンピオンのルスラン・ポノマリョフ相手に急いで避難港に駆け込まなければならなかった。これらの「減速」のあと着実な指し回しのアーナンドに追い抜かれた。しかしオランダのエルウィン・ラーミとヤン・スメーツに連勝して「黄色いトリコット」を取り戻すことができた。とりわけ収局が見事だった。

ニムゾインディアン防御 E32
E・ラーミ – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第6回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2 O-O 5.a3 Bxc3+ 6.Qxc3 b5 7.cxb5 c6 8.Bg5 cxb5 9.e3 Bb7 10.Nf3 h6 11.Bh4 a6 12.Bd3 d6 13.O-O Nbd7 14.Rfc1 Qb6 15.Qc7 Rfc8 16.Qxb6 Nxb6 17.Bg3 Rxc1+ 18.Rxc1 Rc8 19.Rxc8+ Nxc8 20.h3 Ne4 21.Bh2 Kf8 22.Ne1 Nd2 23.f3 f5 24.Nc2 Ke7 25.Kf2 Nb6 26.Ke2 Nb3 27.Nb4 Na5 28.Bc2 Nac4 29.Nd3 a5 30.Bg3 Nd5 31.Bf2 g5 32.g4

 収局の初めあたりでナカムラは相手の双ビショップに敬意を表して引き分けを提案した。白は双ビショップを頼りに引き分けの申し出を拒否した。しかしそのあと白は何も進展が図れず、その間にナカムラはいつのまにかポーンを前進させて図の局面になった。

32…a4!

 これで主導権はもうナカムラのものになった。主要な狙いは 33…b4! 34.Bxa4(34.axb4 なら 34…Nxb2! 35.Nxb2 a3)34…Nxb2! である。ラーミの応手はとりあえず正しかった。

33.e4! fxe4 34.fxe4 Ndb6

 そしてここで 35.d5! exd5 36.e5! dxe5 37.Nxe5 Nxe5 38.Bxb6

で双ビショップをもっとよく働かせればポーン損でも対抗できていたはずだった。しかしオランダの選手はそれが見落とし

35.e5?

と指して破滅した。

35…Be4 36.exd6+ Kxd6 37.Bg3+ Ke7

 これでb2のポーンが落ち、それと共に勝負がつく。

38.Kd1 Bxd3 39.Bxd3 Nxb2+ 40.Ke2 Nd5 41.Be4 Nc3+ 42.Kf3 b4! 43.Be1 Nbd1! 0-1

 きれいな最後だった。黒のクイーン翼のポーンのどちらかがa列で凱旋する。

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(この号続く)

2011年06月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(220)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(5/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活

 第8回戦でナカムラは蹂躙された。この大会でマグヌス・カールセンの試合はむらがあった。ギリ戦では序盤でのばかげた思いつきで早々と敗勢に陥ったし、ネポムニャシチ戦でも戦術でへまをした。他の試合では何度か近年のように、即ち世界最強選手のように、指し回した。ナカムラとの試合は会心中の会心の一局だった。もちろん世界中の注目の試合だった。

シチリア防御 B92
M・カールセン – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第8回戦、2011年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Be2 e5 7.Nb3 Be7 8.Be3

8…O-O(訳注 本手は 8…Be6 です。8…O-O は本局のように 9.g4 と突く選択肢を白に与えます)9.g4 Be6 10.g5 Nfd7 11.h4 Nb6 12.Qd2 N8d7 13.f4 exf4 14.Bxf4 Ne5 15.O-O-O Rc8 16.Kb1 Qc7 17.h5 Rfe8 18.Ka1 Bf8 19.Nd4 Qc5 20.g6 Nec4 21.Bxc4 Nxc4 22.Qd3

22…fxg6?!

 22…h6!? と突く方が頑強だった。

23.hxg6 h6 24.Qg3 Qb6 25.Bc1 Qa5 26.Rdf1 Ne5

 ナカムラはかなり分かり易い攻撃の第1波はしのいだが、クイーンが端に追いやられた。カールセンは次のようにキング翼で巧妙に攻めた。

27.Nd5!

 狙いはお手本のような手筋で 28.Nxe6 Rxe6 29.Qh3 Rce8 30.Bxh6! gxh6 31.Rxf8+ Kxf8(31…Rxf8 なら 32.Qxe6+)32.Qxh6+ でd5のナイトが利いているので黒キングがe7から逃げられず詰みになる。だからこのナイトを取らなければならない。

27…Bxd5 28.exd5 Qxd5 29.Bxh6!!

 ナイトを取ると 29…Qxd4 30.Be3 で Rh8+、Qh2+ から Qh7# という詰みがある。

29…gxh6 30.g7! Be7

 30…Bxg7 なら 31.Nf5 で白の勝ち。

31.Rxh6 Nf7 32.Qg6! Nxh6 33.Qxh6 Bf6 34.Qh8+ Kf7 35.g8=Q+! Rxg8 36.Qxf6+ Ke8 37.Re1+ 1-0

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(この号続く)

2011年06月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(221)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(6/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 第9回戦でナカムラがアーナンドを相手に形勢が怪しくなったとき、ある観戦者は「ああ、彼は2連敗をくらい脱落する」と思った。しかし米国選手は巧妙に苦境から抜け出し、この決戦(結果的には大会優勝者対準優勝者戦)で引き分けをもぎ取った。

后印防御 E21
H・ナカムラ – V・アーナンド
ベイクアーンゼー Aグループ 第9回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 b6 5.Bg5 h6 6.Bh4 g5 7.Bg3 Ne4 8.Qc2 Bb7 9.e3 d6 10.Bd3 Bxc3+ 11.bxc3 f5 12.d5 Na6 13.h4?!

13…Qf6 14.Bxe4 fxe4 15.Qxe4 Qxc3+ 16.Ke2 Nc5 17.Qg6+ Ke7 18.Rac1 Qf6 19.Qxf6+ Kxf6

 13手目の疑問の新手でナカムラは苦戦に陥った。特にg3のビショップが働いていない。「壁」のc7/d6を見つめているだけである。ナカムラは最善の受けを見つけた。

20.Rhd1! exd5 21.cxd5 Ba6+ 22.Ke1!

 この手は 22.Kd2 よりはっきり優る。22.Kd2 は確かに交換損にならないが、なおも守勢が続く。実戦の手のあと 22…Nd3+ なら強く 23.Rxd3 Bxd3 24.Rxc7 と応じて交換損の代わりに1ポーンを取り、g3の「ゾンビー」が蘇って急に(d6に対して)攻撃的にさえなる。問題は白がまだ不利なのかということである。アーナンドは同じように考えていて交換損のプレゼントを断った。

22…Rae8 23.Rc3 Re4 24.Rd4

24…Rhe8?

 この手よりも 24…Rxd4 25.exd4(25.Nxd4 は 25…Bb7! でdポーンがすぐにあるいは 26.Nc6 Bxc6 27.dxc6 Ke6! から …Kd5xc6 で落ちる)25…Re8+ 26.Kd1 Be2+ 27.Kc1 Na6 の方がチャンスがあり、白はまだ苦労しなければならない。

25.Ra3! Bc8 26.hxg5+ hxg5 27.Rxa7 R8e7

 白の得したポーンはたいした価値がない。試合は14手後に半点ずつ分け合った。

28.Kf1 Bg4 29.Nd2 Rxd4 30.exd4 Nd3 31.f3 Bf5 32.a3 Nf4 33.Bxf4 gxf4 34.Ne4+ Bxe4 35.fxe4 Rxe4 36.Rxc7 Rxd4 37.Rc6 Ke5 38.Rxb6 Rd1+ 39.Ke2 Ra1 40.Rb3 Kxd5 41.g3 引き分け

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(この号続く)

2011年06月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(222)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(7/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 まずカールセンに負け、次は世界チャンピオンと引き分け、そしてついにそれまで負けなしの選手に快勝した。ナカムラは再び優勝争いに復帰した。

グリューンフェルト防御 D87
H・ナカムラ – M・バシエ=ラグラーブ
ベイクアーンゼー Aグループ 第10回戦、2011年

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Bc4 c5 8.Ne2 Nc6 9.Be3 O-O 10.O-O Na5 11.Bd3 b6 12.Qd2 e5

 ここまではすべて2010年世界選手権戦第1局と同じである。トパロフは 13.Bh6 と指し最終的に勝った。しかしナカムラには一家言あって、研究で優勢を証明するために「3時間を無駄に費やした。」ついに失望してトパロフの道を放棄し、別の手本に針路を変えた。

13.Bg5 Qd7 14.Bh6 Bb7 15.Bxg7 Kxg7 16.d5 f5 17.f3

17…Rf7?!

 試合後両対局者は 17…c4 18.Bc2 f4 の方が良かったということで一致した。バシエは対局中もその変化を読んでいた。しかし 19.g3 g5 20.gxf4 gxf4 21.Kh1 Kh8 22.Rg1 Qh3 23.Nd4!

となった局面を良くないと判断していたのかもしれない。

18.exf5!

 この白の手には素晴らしい戦術の着想が込められている。18…Qxd5 には白は 19.fxg6! と取る。これは確かに 19…Rd7 でd3のビショップが落ちるが、白の攻撃が炸裂する。20.Qe3! Qxd3 21.Qxe5+ Kg8 22.Qe6+ Kh8 23.Rad1!

23…Qxd1 24.Rxd1 Rxd1+ 25.Kf2 hxg6 26.Nf4 Rg8 27.Nh5!!

(Qe5+ から Nf6+ の狙いで白の勝ちになる)27…Rd2+ 28.Ke1 Rd6(絶対手。他の手はすべて即負け)29.Qxd6 Re8+ 30.Kf2 gxh5 31.Qh6+ Kg8 32.Qxh5

白の連結3ポーンが強力である。

 実戦は次のように進んだ。

18…c4 19.Bc2 gxf5 20.Rad1

 狙いは Ng3 である。

20…f4 21.g3!

21…Qd6

 ナカムラは対局中は 21..Rg8 22.gxf4 Kh8+ 23.Kh1 Qh3 24.Rf2 Qh4

を危険がないわけではないと思っていた。そのあとは 25.Qe3! exf4 26.Qd4+ Qf6 27.Rg2

が予想され、この収局は白の方が断然良い。

22.gxf4 exf4 23.Kh1! Re8 24.Rg1+ Kf8 25.Be4 Bc8 26.Nd4

 26…Ree7 と応じると 27.Nb5 から d5-d6 突きで白の優勢はほとんど疑いようがない。しかし実戦は何もかもぶち壊した。

26…Qf6? 27.Ne6+! Bxe6 28.dxe6 Qxe6 29.Bd5 Qh3 30.Bxf7 Qxf3+ 31.Rg2 Kxf7 32.Qd7+ Kf6 33.Qg7+ 1-0

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(この号続く)

2011年06月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(223)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(8/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

つまづきと復活(続き)

 第11回戦でナカムラはなおも勝利を積み重ねた。

カロカン防御 B12
I・ネポムニャシチ – H・ナカムラ
ベイクアーンゼー Aグループ 第11回戦、2011年

1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5 Bf5 4.h4 h5 5.c4 e6 6.Nc3 Ne7 7.Nge2

7…Bg4

 ここでは 7…Nd7 と 7…dxc4 が普通の手として知られている。実戦の黒の手は特に、このロシア選手に不慣れなできるだけ未知の局面に引きずりこむ目的を満たしている。

8.f3 Bf5 9.Ng3 Bg6 10.Bg5 Qb6 11.Qd2 Nd7

12.a3?!

 白はクイーン翼の閉鎖の意図をつらぬくべきだった。だからすぐに 12.c5 と突き、そのあとで b4 または a3 から b4 と突く方が良かった。

12…f6 13.Be3 Qb3 14.cxd5 Nxd5 15.Nxd5 Qxd5 16.Rc1 Nb6

 ここではf6でポーンを交換してから Bd3 でビショップも交換することが考えられる。ナカムラは対局後次のように語った。「彼はここで40分長考した。そしてほぼ互角の戦いの代わりに非常に攻撃的な手を決断した。」

17.Ne2?! fxe5 18.dxe5

 「何よりもまず 18…Qxd2+ と指すつもりだった。しかしもう一度読んでみるとポーンの代わりにどんな代償が相手にあるのかはっきりしなかった。それでポーンを取った。」

18…Qxe5 19.Bd4 Qc7 20.Qg5 Bf5

 ポーンを取らせた白だけでなく黒にも多くの戦術の狙いがある。試合後ナカムラが機嫌よく示したように、ここでは例えば 21.Ng3 のあと 21…Be7 22.Qxg7 Rh7! 23.Bxb6(23.Qg8+ は 23…Kd7 でクイーンが捕まる)23…Bb4+! 24.axb4 Qxg7 という手筋が成立する。

21.g4 hxg4 22.fxg4

22…Be4

 これは手拍子で指した手だった。22…Be7! なら 23.Qxg7 Rh7 24.Qg8+ Kd7 25.Bxb6 Rxg8 26.Bxc7 Be4 27.Rh3 Kxc7 28.g5 Bf5 で大いに優勢だった。

23.Rh3 Be7! 24.Qxg7

 これは負けになる。しかし 24.Qe3 でも 24…Bd5 25.h5 O-O-O 26.Nc3 Nc4 で黒が明らかに優勢である。

24…Rh7!

25.Qe5

 25.Bxb6 には例の 25…Bb4+! がある。

25…Qxe5 26.Bxe5 Bxh4+

27.Ng3

 「27.Bg3 の方がいくらか良かった。しかし 27…Bxg3+ 28.Nxg3 Bg6 のあとこちらのナイトをd5に置けば黒が勝つはずである。」(ナカムラ)

27…Nd7! 28.Bd4 Bf3! 29.g5 Bg4 30.g6 Rh6 31.Rxh4 Rxh4

 白は44手目まで指したが、そんなに指すまでもなかった。

32.Rc3 Bf3 33.Rxf3 Rxd4 34.Bh3 Ne5 35.Rf6 Nd3+ 36.Ke2 Nf4+ 37.Ke3 e5 38.Rf7 Rd3+ 39.Ke4 Rxg3 40.Bd7+ Kd8 41.Bf5 Nxg6 42.Rg7 Rb8 43.b4 b5 44.Bxg6 Rg5 0-1

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(この号続く)

2011年07月01日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(224)

「Schach-Magazin 64」2011年3月号(9/9)

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一大センセーションの小さな日記(続き)

終幕

 最後の2回戦を残した状況はナカムラが8点で首位を走り、そのあとに7.5点のアーナンドと7点のアロニアンが続き、カールセンとクラムニクがさらに0.5点差で追っていた。ナカムラはまずは「鉄の」クラムニクとの対戦だが、もちろんクラムニクが黒なので引き分けに「説き伏せる」のは容易である。その次の相手は中国のワン・ハオだが黒で勝つのは難しい。だから2引き分けが考えられた。アーナンドの最終戦はロシアのネポムニャシチで、その前に誰もが認める超天才の16歳のアニシュ・ギリと対戦することになっていた。しかしギリは世界チャンピオン相手にそれも黒で勝負になるのだろうか。そう信じている者は少ししかいなくて、ナカムラもアーナンドが最後の2回戦で1.5点取るものと思っていた。ということは最終的に両者が1位を分け合うことを意味していた。そして世界チャンピオンと優勝を分けることは誰にとってもうれしいことだろう。しかし第12回戦では予期せぬことが起きた。アーナンドが不利になり一時は敗勢が明らかだった。

(アーナンド対ギリ戦の棋譜省略)

 これが引き分けに終わったのはナカムラにとって痛かった。ギリが勝っていれば最終戦を前にナカムラがアーナンドに1点差をつけているところだった。だから彼はまだ安心するわけにはいかなかった。ワン・ハオとの最終戦は引き分けに終わり、衆目はアーナンドの試合に向けられた。彼はネポムニャシチに勝てるだろうか(そしてナカムラに並べるだろうか)、それともできないだろうか?ナカムラには精神的圧迫が大きすぎた。そして「以前」のように対局場にたむろして興奮することなく、ホテルの部屋に引きあげ画面上で試合の経過を追った。そしてアーナンドが引き分けたとき彼は「部屋で小躍りし始めた」と打ち明けた。「これは何と言っても最高の成績だった」とナカムラは喜び「最後に米国人が超一流の大会で優勝したのがいつだったか思い出せない」と言った(そこで我々が助けてあげると2007年にワールドカップでカームスキーが優勝している)。そして真の米国人として愛国心いっぱいに「米国のチェスにとっても偉大な日だった。これで米国の多くの子どもたち、多くの人たちがチェスに夢中になることを期待する」と言った。

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(この号終わり)

2011年07月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(225)

「Chess Life」2011年4月号(1/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる

米国の最強選手が今や世界の一流選手に

GMイアン・ロジャーズ
写真 キャシー・ロジャーズ

 3年前ヒカル・ナカムラはベイクアーンゼーのグランドマスターB級大会への対局招待を断り、もっと楽なジブラルタルオープンへの参加を選んで批判されたことがあった。彼は米国チャンピオンとしては一流の大会に招待されるべきだと思っていた。それにこのティーンエージャーはオランダの海沿いの町の凍てつく天気にも気乗りがしなかった。

 2年後ナカムラはベイクアーンゼーでの一流の大会で世界の最強者たちと伍して戦い、立派な4位の成績を収めていた。

 もうナカムラは批評家によって単なるブリッツの専門家あるいはうぬぼれが才能を上回っている若者としてけなされなくなっていた。

 2010年をとおしてナカムラの成績は上昇を続けた。ロンドンクラシックとモスクワでのタリ記念では優勝者たちからわずか半点差に迫る成績で、世界の10傑に仲間入りした。しかし超一流大会での優勝には届かないままだった。

 今までは。

 2011年1月ベイクアーンゼーでの伝統の第73回大会の主催者はタタ製鉄を新スポンサーに迎え、世界のレイティング4傑を-10年ぶりに-呼び集めることができた。マグヌス・カールセン、ビスワーナターン・アーナンド、レボン・アロニアン、それにウラジーミル・クラムニクの4人である。

 これらの4強による優勝争いは熾烈になることが予想された。しかしこの一群はナカムラによって粉砕された。

 ナカムラは初戦から突っ走り、肩を並べることができたのは世界チャンピオンのアーナンドだけだった。

 第8回戦でカールセンに惨敗したあとでさえ、急にカールセン、アロニアンそれにクラムニクが一団となって迫ってきたけれどもアーナンドと共に首位に留まっていた。しかし彼が第10回戦と11回戦に勝って逃げ切りを図ったとき誰も彼と並ぶことができず、米国選手のグランドスラムにおける初優勝が決まった。

 アーナンドは結局わずか半点差でナカムラに及ばなかったが、ナカムラの優勝はとても価値があると認めた。「ナカムラはここで最高のチェスを指した。そして定跡の選択も特に優れていた。」

 今は無くなったニューヨークタイムズ紙の「ギャンビット」というブログで、ガリー・カスパロフはもっと熱烈にナカムラの優勝を米国人の記録した最高の優勝になぞらえたと引用されている。「フィッシャーは世界チャンピオンをおさえて大会に優勝したことがなかった。・・・マーシャルは1904年にケンブリッジスプリングズでラスカーを押さえた。・・・だからカパブランカを米国選手に含めなければ、ナカムラと匹敵する米国人の大会優勝は1895年ヘースティングズでのピルズベリーまでさかのぼると思う。」

 カスパロフの歴史の類推は大げさすぎるようである。近年は大会で負かすべき相手はアーナンドでなくカールセンになってきている。それに米国選手のガータ・カームスキーが厳しいワールドカップで優勝したのは2007年にさかのぼれば済む話である。それでもあの出場選手の顔ぶれで優勝するのはそれだけで偉業である。

 ナカムラ自身は自分の成績についてもっと控え目で、世界の超一流と本当に肩を並べた証とみなしている。「今年の目標はレイティング2800に届くことだった。もう半分来た。」

ナカムラの棋歴

1987年 日本の枚方市にうまれる

1989年 家族と共に米国に移り住む

1998年 米国のレイティング試合でグランドマスターに勝った米国最年少選手になる

2003年 ボビー・フィッシャーの長年の記録を破り、グランドマスター称号を獲得した米国最年少選手になる

2004年 リビアでのFIDE勝ち抜き方式世界選手権戦で第4回戦まで進出

2004年 米国選手権戦で優勝

2006年 インターネット「弾丸」(1分試合)の世界最強選手に認定される

2006年 トリノオリンピアードで米国チーム銅メダル

2008年 ジブラルタルマスターズで優勝

2009年 米国選手権戦で2度目の優勝

2009年 サンセバスティアンでピョートル・スビドレルとアナトリー・カルポフをおさえて第18水準の文化都市大会に優勝

2010年 トルコでの世界団体選手権戦で第1席の金メダルリスト

2010年 アムステルダムでのNH老練対若者大会で若者の1位

2011年 1月のFIDEレイティング表で最上位10人に入る

2011年 ベイクアーンゼーで世界最強4人をおさえて優勝

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2011年07月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(226)

「Chess Life」2011年4月号(2/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ナカムラの優勝への道のり
 大会の星取表を見てナカムラが簡単に独走し下位者にまったく容赦なかったと思うかもしれない。しかし2011年タタでのナカムラの優勝への道のりは容易どころか、以下の回戦ごとの試合を見れば分かるように多くの紆余曲折があった。

素早い出だし
 最初の3回戦はナカムラにとってこれ以上はない出来だった。グリシュクの捨て駒を正確に咎め、難関の一人のアロニアンと黒で楽に引き分け、昨年のベイクアーンゼーのスターのアレクセイ・シロフに激闘の末勝った。

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMアレクサンドル・グリシュク(FIDE2773、ロシア)
ベイクアーンゼー Aグループ 第1回戦、2011年1月15日

 27.Qf3

 グリシュクは18手目で捨て駒で白キングを露出させた。ナカムラの時間が少なくなり始めたこともいくらかの代償になっている。しかしグリシュクはここで 27…Kh8 28.Nf5 bxc3 でさらに難しい局面にする代わりに、2ルークを与えてクイーンを取る手を指した。しかしその作戦はすぐに裏目に出た。

27…Rxe3? 28.Rxg7+!

28…Kxg7

 グリシュクは 28…Kh8 と寄るつもりだったのかもしれない。しかし 29.Qxf7! と取られて 29…Re2+ 30.Kg1! Re1+ 31.Kg2! R1e2+ 32.Nxe2 Rxe2+ 33.Kf1

のあと有効なチェックがないことに気づくのが遅すぎた。

29.Qg4+ Kf8 30.Rxe3 Rxe3 31.Kxe3 bxc3 32.Ke2

 対局後ナカムラは 32.Ke4 の方が強手だったとこの手を批判した。それは確かだが実戦の手でも十分である。

32…Qe5+

 ナカムラは 32…Qb4 を恐れていた。しかし 33.Qc8+ Kg7 34.Nf5+ Kf6 35.Ne3

のあと白の勝ちはもう時間の問題である。35…Qb2+ 36.Kf3 Qxa2 と指しても 37.Qc6+ で詰みがあるので黒の負けである。

33.Kd1 Qh2 34.Ne2

 黒のポーンが孤立しているのであとは白の簡単な勝ちである。

34…Qd6+ 35.Qd4 Qxd4+ 36.Nxd4 Kg7 37.Nc6 a6 38.Nb8 a5 39.a4 Kf6 40.Nc6 Ke6 41.Nxa5 Kd5 42.Kc2 黒投了

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(この号続く)

2011年07月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(227)

「Chess Life」2011年4月号(3/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

素早い出だし(続き)

白 GMレボン・アロニアン(FIDE2805、アルメニア)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第2回戦、2011年1月16日

 8.d5

 これはオランダ防御レニングラード戦法の標準的な局面だが、ナカムラはアロニアンがそれまで出くわしたことがなかったあまりはやらない作戦を用いた。

8…Na5!?

 8…Ne5 9.Nxe5 dxe5 の方がよく指されている。

9.Nd2 c5

10.Rb1

 この手は正確さが足りなかった。10.a3 b6 11.Rb1 なら白がわずかな優勢を保つことができた。

10…e5! 11.dxe6e.p. Bxe6

12.b3

 12.Nd5 Nxd5 13.cxd5 Bd7 も黒は怖くない。

12…d5 13.cxd5 Nxd5 14.Nxd5 Bxd5

15.Ba3

 15…Bxd5+ は 15…Qxd5 16.Nc4 Qe4! で良くない。

15…Bxg2 16.Kxg2 Nc6 17.Nf3 合意の引き分け

 ここでアロニアンが黒に何の問題もないことを受け入れて引き分けを提案し、すぐに合意された。

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(この号続く)

2011年07月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(228)

「Chess Life」2011年4月号(4/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

アルハンゲリスクの新構想

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMアレクセイ・シロフ(FIDE2722、スペイン)
ベイクアーンゼー Aグループ 第3回戦、2011年1月17日

 14…Qd7

15.Na3!?

 ルイロペスのアルハンゲリスク戦法はシロフの十八番(おはこ)だが、その激しい戦型でナカムラが新手を出した。これまでは 15.c4 が指されていた。

15…Nexd5!?

 いかにもシロフらしい手である。しかしナカムラは対策を立ててきていて、次の手を指すのにほとんど時間を使わなかった。

16.h3 Bh5 17.exd5 e4 18.Bg5! Bxf3! 19.Qd2!

 この妙手のあとシロフはポーン損の収局に入るしか成すすべがなかった。

19…e3 20.Bxe3 Bxe3 21.fxe3!

21…Be4

 21…Bxd5 にも同じく 22.Rxf6! がある。

22.Rxf6! Bxc2 23.Rf4 Bg6 24.Nc4 Ra8 25.Na5 Rfe8 26.Ra3 Be4 27.c4 g5 28.Rf1 g4 29.h4 Qe7 30.Qf2 Bg6 31.b4 h5 32.Rc3 Qe5 33.Rb3 Qe4 34.Rc3 Qe5 35.Rfc1 Be4 36.Qf4 g3 37.Qxe5 Rxe5 38.Ra3 Kg7 39.Rf1 Ree8 40.Rfa1 Re5 41.Nb3

 白が楽に勝つはずだったが、散々苦労した挙句やっとそうなった。

冷静沈着な手

 ここでシロフは苦境を脱する戦術を見つけたと思って次のように指した。

41…Rxa3 42.Rxa3 Bxd5!

 というのは 43.cxd5 なら 43…Rxe3! で白が指す手に窮するからである。しかしナカムラは冷静に応じた。

43.Nd2!! Be6 44.e4

 ポーンを取り返してポーン得に戻り、ゆっくりと93手で勝ちきった。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(229)

「Chess Life」2011年4月号(5/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ずぶとさ

 第4回戦の相手は前日に21手でカールセンを撃破した16歳のオランダの人気者アニシュ・ギリで、ナカムラは夢から現実に引き戻された。引き分けへの必死の戦いが最後には成功した。次の回はほんの少しだけましだった。元FIDE勝ち抜き世界チャンピオンのルスラン・ポノマリョフがうまく指し回したが、ナカムラは形勢を混沌とさせまたかろうじて引き分けを得た。

白 GMアニシュ・ギリ(FIDE2686、オランダ)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第4回戦、2011年1月18日

 14.O-O

 ナカムラはかろうじて虎口を脱した。ニムゾインディアン防御のロマニシン戦法でのギリの指し方は決め手を欠いていて、ここで黒が 14…Be6! 15.Bxd6 Rfd8 と指していれば混戦になっていただろう。代わりにナカムラは守勢の 14…Rd8? を指し 15.Bb4 Qb6 16.a4! Na5 17.Rfd1 Be6 18.Bxa5 Qxa5 19.Bxb7 Rab8 20.Bd5

と進んで若いオランダ選手がゆうゆうとポーン得した。しかしナカムラはチャンスを最大限に生かして最終的に引き分けの型の1ポーン損ルーク収局に持っていき50手後に得点を折半した。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(230)

「Chess Life」2011年4月号(6/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ずぶとさ(続き)

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMルスラン・ポノマリョフ(FIDE2744、ウクライナ)
ベイクアーンゼー Aグループ 第5回戦、2011年1月20日

 30…Qd4

 この試合には主導権を得ようとするナカムラの感覚がよく現れている。黒の狙いの …d6-d5 突きを目前にして白陣は既に憂慮すべき状態になっている。しかしナカムラは 31.Ne5! Bxe5 で打って出た。ポノマリョフはポーン得の安全策を選んだ。31…dxe5! 32.Rd1 exf4 33.Rxd4 Rxd4 とクイーンを捨てて有利な陣形を築く危険を犯す気にはならなかった。

32.fxe5 Qxe5 33.Ng4 Qg7 34.Rd1

 ナカムラは受けに回るよりも黒ポーンに対して圧力をかけ、ポノマリョフは難しい決断を迫られた。

34…h5

 ここでの 35…d5 には 36.c5! がある。

35.Nf2 Qe5 36.Re1 Qd4 37.Rd1 Qe5 38.Re1 Qf5 39.Be4 Qc5 40.Qb2 Qg5 41.Bd3 e5 42.Ne4 Qe7 43.Rf1 Kg7 合意の引き分け

 規定手数がすぎて陣形がほぼまとまったにもかかわらず、ポノマリョフはまだ圧力にさらされていて、引き分け提案に逃げ込んだ。ポーン損の代わりに漠然とした狙いしかないのでナカムラには拒否する理由がなかった。

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(この号続く)

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「ヒカルのチェス」(231)

「Chess Life」2011年4月号(7/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

地元勢を踏みつぶす

 オランダのエルウィン・ラーミとヤン・スメーツは順位の底の方を占めると見られていた。しかし二人とも世界の強豪相手に経験が豊富な実力ある選手たちである。彼らに対するナカムラの戦略は完璧だった。ラーミ戦では一直線に収局を目指し、スメーツ戦では定跡の戦いに持ち込んだ。

白 GMエルウィン・ラーミ(FIDE2628、オランダ)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第6回戦、2011年1月21日

 32.g4

 収局に入ったときナカムラは引き分けを提案した。しかし双ビショップのラーミは試合を続けることにした。それ以来白は全面的に圧倒されて、32…a4! のあとラーミは重大な事態になっていることにきづいた。33…b4! 34.Bxa4(34.axb4 Nxb2!)34…Nxb2!! が迫っている。

33.e4! fxe4 34.fxe4 Ndb6

35.e5

 白はポーン損になる。しかし白が 35.d5! exd5 36.e5! dxe5 37.Nxe5 Nxe5 38.Bxb6

という手段を見つけていたら双ビショップが本領を発揮するようになるので黒は勝てそうもなかった。

35…Be4 36.exd6+ Kxd6 37.Bg3+ Ke7

 これで白のbポーンが助からず、それと共に勝敗も定まる。

38.Kd1 Bxd3 39.Bxd3 Nxb2+ 40.Ke2 Nd5 41.Be4 Nc3+ 42.Kf3 b4 43.Be1 Nbd1 白投了

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(この号続く)

2011年08月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(232)

「Chess Life」2011年4月号(8/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

あまり通らない道

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMヤン・スメーツ(FIDE2662、オランダ)
ベイクアーンゼー Aグループ 第7回戦、2011年1月22日

 18…cxb4

 これは現代チェス定跡で最も激しく最も詳しく研究されている局面の一つである。衆目は 19.Be3 に集中していた。ここでイワンチュクの驚異の着想の 19…Nc5 20.Qg4+ Rd7 21.Qg7!!! は今では引き分けらしいというところまで研究されている。ナカムラはあまり思いつかない代わりの手を考え出した。

19.Bf4!? Bh6 20.Qd2 Bxf4 21.Qxf4

21…Bc6?

 長考のあとスメーツは誤った作戦を見つけ、すぐに罰せられた。ChessVibes Openings は驚くべき引き分けの手順の 21…d4! 22.Qxd4 Bxg2 23.Kxg2 Qc6+ 24.f3 Nxf6 25.Qxa7

を示した。黒は負けをまぬがれないように見えるが、25…Rd2+ 26.Rf2 Rxf2+ 27.Kxf2 Rxh2+ 28.Kg1 Rh1+! 29.Kxh1 Qxf3+

で永久チェックをかけることができる。

22.Qd4! Kb8 23.Rfe1 Rhe8 24.Re7! Qa5 25.Rxf7! Bxa4 26.Bxd5 61手目で黒投了

 これがナカムラの目指していた局面である。黒は駒得にもかかわらず相手の狙いが多すぎてすぐに駒を返し負けの収局に入らなければならなかった。

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(この号続く)

2011年09月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(233)

「Chess Life」2011年4月号(9/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

とんだ災難と復活

  立て続けに世界の2強と対局するのは大変な苦行で、明らかにナカムラは狙われる立場だった。ナカムラも世界中に報道されることは分かっていた大一番ではカールセンに虐殺された。多くの者は怖気づいてアーナンド戦では短手数の引き分けを目指すかもしれなかった。しかし翌日世界チャンピオンを相手にナカムラは一歩も引かずに自ら苦難に分け入った。だがそうなってもうまく挽回してしのぎきり、自信を回復することができた。

白 GMマグヌス・カールセン(FIDE2814、ノルウェー)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第8回戦、2011年1月23日

 26…Ne5

 この日はナカムラの暗黒の日だった。白の攻撃の第一波をしのいだあとナカムラはクイーンを盤端に追いやられた。そしてカールセンは決め手の派手な手筋を見つけた。

27.Nd5! Bxd5 28.exd5 Qxd5 29.Bxh6!!

29…gxh6

 29…Qxd4 とナイトを取るのは 30.Be3! Qg4 31.Rh8+! Kxh8 32.Qh2+ で詰みになる。

30.g7!

30…Be7

 30…Bxg7 と取っても 31.Nf5 でやはり負ける。

31.Rxh6 Nf7 32.Qg6! Nxh6 33.Qxh6 Bf6 34.Qh8+ Kf7 35.g8=Q+! Rxg8 36.Qxf6+ Ke8 37.Re1+ 黒投了

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(この号続く)

2011年09月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(234)

「Chess Life」2011年4月号(10/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

盛り返す

白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMビスワーナターン・アーナンド(FIDE2810、インド)
ベイクアーンゼー Aグループ 第9回戦、2011年1月25日

 19…Kf6

 ナカムラはニムゾインディアン防御の主流手順の13手目で疑問の新手を指したあとg3のビショップが働かず苦戦の収局に陥った。しかしここで白は交換損の犠牲を差し出して打って出る。

20.Rhd1! exd5 21.cxd5 Ba6+ 22.Ke1

22…Rae8!

 22…Nd3+ は 23.Rxd3 Bxd3 24.Rxc7 となって白に反撃の余地がたくさんありg3のゾンビー状態のビショップも生き返ってくる。

23.Rc3 Re4 24.Rd4

24…Rhe8?!

 優勢を保つには 24…Rxd4 と取るのが最善だった。例えば 25.exd4(25.Nxd4 と取るのは 25…Bb7! でd5のポーンがからめ取られる。つまり 26.Nc6 Bxc6 27.dxc6 Ke6! から …Kd5 で取られる)25…Re8+ 26.Kd1 Be2+ 27.Kc1 Na6 となれば白にはまだ解決しなければならない問題がある。

25.Ra3! Bc8 26.hxg5+ hxg5 27.Rxa7 R8e7

 そして白のポーン得はたいした価値がないので14手後に引き分けが合意された。

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(この号続く)

2011年09月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(235)

「Chess Life」2011年4月号(11/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ラストスパート

 フランスのスターGMのマクシム・バシエ=ラグラーブは第10回戦に来るまでは負けなしだった。しかしこの20歳の走りはナカムラ戦で急に止まった。この試合でのナカムラの指し回しは大会で最も力強かった。

 翌日のやはり才気あふれる20歳のロシア選手権者のGMヤン・ネポムニアシチ戦では同じ処方で難解な中盤を完璧に処理した。

 最後の2戦は引き分けで優勝を手にした。クラムニク戦は超安全な引き分けで、中国のGMハオ・ワン戦はアーナンドが追いつきそうになるのに備えて勝ちにいく可能性を残しながら注意深く判断をして指し進めた。

ルイロペス・ベルリン防御 (C67)
白 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
黒 GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2784、ロシア)
ベイクアーンゼー Aグループ 第12回戦、2011年1月29日

 ナカムラはクラムニク戦では全力で立ち向かうことをほのめかしていた。しかし核心に至ると慎重が勇気の大半を占めた。ナカムラの語ったところでは、事前研究時間のほとんどを 1.c4 と 1.d4 に費やしたがクラムニクの主手順に有力な対策を見つけられなかった。そこで最も退屈な定跡の一つであるクラムニクのベルリンの壁を指させることにした。この定跡はクラムニクが2000年にカスパロフから世界選手権を奪取するのに貢献した。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4

5.Re1

 これは引き分けを提案したに等しい。もうちょっとだけわくわくするような定跡の手は 5.d4 である。

5…Nd6 6.Nxe5 Be7 7.Bf1 Nxe5 8.Rxe5 O-O 9.d4 Bf6 10.Re1 Re8

 そして両選手はやらずもがなの手を10手も指して引き分けに合意した。

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(この号続く)

2011年09月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(236)

「Chess Life」2011年4月号(12/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ラストスパート(続き)

白 GMハオ・ワン(FIDE2731、中国)
黒 GMヒカル・ナカムラ(FIDE2751、米国)
ベイクアーンゼー Aグループ 第13回戦、2011年1月30日

 19.Bf1

 布局は激しいべノニ防御で始まり-昨日の試合とははっきり対照をなすが、ナカムラは「ワン・ハオはクラムニクではない」と語った-難解な中盤戦に至った。そしてナカムラは創造的な作戦を思いついた。

19…a5!? 20.Bd2 Ne5!

 黒は喜んで交換損を受け入れてクイーン翼に連結パスポーンを作り出そうとしている。そうなればフィアンケットされたビショップに支援されて決定的な存在になるだろう。ワンはその誘いに乗らなかった。

21.Nxe5 Bxe5 22.Bc3! Bd7 合意の引き分け

 ここでナカムラは後を追うアーナンドの試合が引き分けに向かっていると正しく見てとってワンに和平を提案した。中国のグランドマスターは 22…Bd7 のあと 23.f4(23.Bxe5 なら 23…dxe5![23…Rxe5 は弱い手で 24.f4 Re8 25.e5 となる]24.d6 Qb6 となって「白が何もない」とワンが言った)23…Bxc3 24.Rxc3 a4 25.Rce3 Qb6 26.e5 Rb3

と読んではっきりした見通しが得られず、得点を折半することに同意した。

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(この号続く)

2011年09月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(237)

「Chess Life」2011年4月号(13/13)

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ナカムラがベイクアーンゼーで批評家を黙らせる(続き)

ナカムラは語る

 優勝が決まったあとナカムラはインドからロシアまで色々なメディアといつ終わるとも知れないインタビューに応じた。以下は彼の発言の抜粋である。

 超一流の大会での初優勝はどんな感じか?

 アーナンドの試合の終わるところはホテルの自分の部屋でネットで見ていた。彼が引き分けになったときは部屋で飛び跳ね始めた。これはなんといっても自分の最高の優勝だった。米国人が最高の大会で前回優勝したのがいつだったか思い出せない。優勝して天にも昇る気分だ。優勝は米国のチェスにとってもすばらしい日だ。米国でチェスをやる子どもや大人をもっと刺激することができればと思う。

 このような大会で優勝できると信じていたか?

 米国選手権とサンセバスティアンで既に優勝していたので、一流の大会でも優勝できることを証明していた。最近は多くの大会で優勝にもう一歩のところまできていたが、最後の1、2回戦では大きな期待はずれに終わっていた。ここでは大会の終わりの方で非常にうまく指せた。モスクワとロンドンではそうでなかった。本当に自分にとっての証明になった。任務をやり遂げた。

 違いは何だったのか?

 昨年あたりにチェスにうんと真剣になった。そして結果がぐんと良くなった。それより前の十代だった2、3年は今のカールセンのようだった。あるレベルでは非常に危なっかしいことをやってもそれで何ともないで済ませられる。でも定跡に精通した強豪たちと指すようになると、いいかげんな序盤では裏目に出がちだ。。自分はまだ非常に攻撃的だと思っているが、以前やっていたのと同じようなリスクは負わない。自分の棋風では物事に冷静に対処する方法を知らなければならない。今ではずっと冷静だ。今では試合中にかっとならなくなった。その方が生きるのが楽だ。

 自分のチェス全般をどう見ているか?

 8回戦で指したほんとにまったくひどい1試合を除けばこの大会には満足している。助手のクリス・リトルジョンと自分でスメーツ[彼は2010年世界選手権戦でのトパロフ協力者の一人だった]を研究で本質的に圧倒したことには満足がいった。シロフとの第3回戦の試合は一番の自慢だ。モスクワでのように以前の大会では終盤に乱れた。でもあの試合は最後までうまく指せた

 これからあとはどうするのか?

 世界の最強者たちを押さえて優勝したので、自分がヨーロッパのチェス独占への潜在的な脅威だとみんなもう気づいているだろう。このような大きな大会に優勝することはいつも夢見ていたがこれまで実現したことはなかった。今はもっとゆとりができている。世界の最強者たちと戦えると感じている。今年の終わりまでには2800に到達したい。

 まだインターネットでブリッツを指しているのか?

 ブリッツの試合は回数を減らしている。ゆっくりとしっかりしたチェスをもっと指しいいかげんな序盤は指さないようにすることを学ばなければならなかった。どういうわけか今では多くの試合で時間に追われるようになった。たぶん短い持ち時間で指すには年を取りすぎたのだろう。毎手30秒の加算の方が自分にとってずっと楽だ。

 2、3年前にベイクアーンゼーよりジブラルタルを選んだのはなぜか?

 ジブラルタルには行ったが究極の目的はここに舞い戻ることだった。米国チャンピオンだった。だから良くても悪くてもAグループに招待されるべきだと思っていた。最初は本当はベイクアーンゼーが好きでなかったにもかかわらずこの2年で変わった。今ではここでまったく楽しんでいる。この大会は特別だ。ベイクアーンゼーでの試合に見られる熱気は気に入っている。

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(この号終わり)

2011年10月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(238)

「British Chess Magazine」2011年5月号(1/1)

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チェスのテスト

IMショーン・トールバット

 あなたは最後となったモナコでのメロディー・アンバー大会における米国のグランドマスターのヒカル・ナカムラと同じ側で黒を持っている。この対局は目隠し試合で、相手はあの偉大なワシリー・イワンチュクである。黒のそれぞれの手を考えて下さい。

 テストをするには紙で文章を隠し、黒の手を考えて決めたら紙を下にずらす。得点は妥当な手のほとんどに与えられる。全部終わったら得点の合計を求めて、棋力の推定と比較する。それでは頑張って!

□ V・イワンチュク
■ H・ナカムラ

第20回アンバー 目隠し試合
モナコ、2011年
ルイロペス C65

1.e4 e5 2.Nf3

2…Nc6

 この手は2点、堅実な 2…d6 と 2…Nf6 は1点。もちろんこのような早い段階ではいくつも選択肢がある。

3.Bb5

3…Nf6

 この手堅いベルリン防御は2点。もっと一般的な 3…a6 は3点。3…d6、3…f5、3…g6 それに 3…Nge7 は1点。

4.d3

4…Bc5

 このベルリン・クラシカルは2点。堅実な 4…d6 も2点。この手は Bxc6 から Nxe5 で黒のeポーンを取る白の狙いを防いでいる。

5.c3

 白が 5.Bxc6 dxc6 6.Nxe5 とポーン得してくれば 6…Qd4 で良い。そこで白は 6…Nd4 を防ぎながら中央で行動を起こすことにした。5.O-O は 5…Nd4 6.Nxd4 Bxd4 7.c3 Bb6 で黒が満足の展開である。

5…O-O

 1点。白に戦力得の機会を与えた。他には 5…Qe7 も1点。

6.O-O

 6.Bxc6 dxc6 7.Nxe5 Re8 8.f4 Bd6 9.O-O Bxe5 10.fxe5 Rxe5 11.Qf3 なら白が好調だった。

6…d5

 この攻勢を目指す手は2点。自然な 6…d6 も2点。6…Re8 と 6…Qe7 は1点。

7.Qc2

 7.Bxc6 は 7…bxc6 8.Nxe5 dxe4 9.d4 Qd5 で黒駒の働きが活発になるので白はe4の地点を守ることにした。

7…Re8

 eポーンを守るこの手は2点。同じくe5を守る 7…Bd6 は消極的なので1点。

8.Bg5

8…dxe4

 このポーン取りは2点。8…a6 は1点。黒は自陣の展開を図るために中央の形を決めておかなければならない。

9.dxe4

9…h6!

 釘付けをはずすこの重要な手は3点。しかしビショップに進退を聞かない 9…Bg4 と 9…Bd7 は1点。ここで白がビショップをf6の地点で切ることはできるけれでも、黒クイーンがすぐに好所に来る。

10.Bh4

10…g5!

 陣地を広げるこの手は4点。ここは本局の重要な場面である。黒はキング翼に陣形上の弱点があるが、その代わり駒の働きが良い。eポーンを守る 10…Qe7 と 10…Bd6 は1点。

11.Bg3

 ナイトを犠牲に 11.Nxg5 と取るのは 11…hxg5 12.Bxg5 Qd6 13.Rd1 Qe6 となって黒が優勢である。この手順で黒が釘付けをはずすことができることを読んでいたらボーナスで1点。

11…Nh5

 この手は 10…g5 に続く当然の手で2点。eポーンを守る 11…Bd6 は1点。

12.Nbd2

 12.Bxc6 bxc6 13.Bxe5 g4 14.Nd4 Ba6 15.Rd1 Rxe5 16.Nxc6 Bxf2+ 17.Kh1 Ng3+ 18.hxg3 Rh5# を読んでいたらボーナスの2点。白がe5のポーンを取れないのでここでは黒が少し優勢である。

12…Qf6

 この手は1点。白のクイーンビショップを消して圧力を緩和する 12…Nxg3 も1点。黒はナイトを残しておく方が良いと考えた。f6のクイーンはe5のポーンを守り、イワンチュクのキング翼に圧力をかけている。

13.Nc4

13…Nf4

 e5のポーンを守るこの手は2点。13…Nxg3 は1点。本譜の手のあと白がナイトを取れば黒は取り返しの選択肢がある。

14.b4

 14.Bxf4 exf4(14…Qxf4 15.Bxc6 bxc6)15.b4 Bf8 16.e5 Qe6 は黒が良い。

14…Bb6

 2点。14…Bf8 は1点。黒は白ナイトとb6のビショップの交換を恐れない。なぜなら残りの小駒は白の小駒より働きのある地点にいるからである。

15.Nxb6

 白は 15.a4 a6 16.Bxc6 bxc6 で黒ポーンの形を乱す方が良かった。

15…axb6

 2点。15…cxb6 は0点。黒のクイーン翼ルークは半素通しa列で動けるようになった。

16.Nd2

16…Be6

 この展開の手は2点。16…Red8 は1点。

17.f3

17…h5

 この手と 17…Red8 は1点。

18.a4

18…Red8

 2点。

19.Rae1

19…Ne7!

 この大局観に優れた手は3点。黒はb5にいる白ビショップの動ける地点が少ないことに目をつけ、それを利用しようとする。

20.Bf2

20…h4

 圧力を強めるこの手は2点。

21.Be3

21…h3

 イワンチュクのキング翼を乱す目的のこの手は3点。

22.g3

22…Ng2

 3点。黒はe3とe1の地点に利くことを見越してこのナイトをg2の好所に行かせた。

23.Re2

23…c6

 ビショップを閑地に追い払うこの手は2点。

24.Bd3

 24.Bc4 は 24…Rxd2 25.Qxd2 Bxc4 26.Bxg5 Qe6 で黒の戦力得になる。

24…b5

 a列の利用を目的とするこの手は3点。

25.a5

 25.axb5 と取るのは 25…Ra2 26.Qb1 Nxe3 27.Rxe3 Rxd2 で黒の駒得になるので、白はポーンを突き進めなければならない。

25…Rd7

 d列にルークを重ねてd3のビショップを取るのが目的のこの手は2点。

26.Bb6

 26.Nb1 Rad8 27.Rd1 は 27…Bc4 がひどい。d1のルークをかばっているd3のビショップが釘付けにされている。この手を読んでいたらボーナスの1点。


26…Nc8

 2点。黒の狙いはb6のビショップと交換してからルークを重ねることである。

27.Bc5

 27.Nb1 でも 27…Nxb6 28.axb6 Qd8 29.Rd2 Ra2 で黒の勝ちになる。

27…Qd8! 0-1

 このきれいな決め手は4点。盤なしでは見つけにくい。

合計点を求めて下表と比較する。

53点-63点 グランドマスター級
48点-53点 国際マスター
43点-48点 国内マスター
33点-43点 県の強豪選手
23点-33点 クラブの強豪選手
13点-23点 クラブの選手
0点-13点 チェスが初めてならクラブに入り、この結果はあまり深刻に受け止めないこと。

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(この号終わり)

「ヒカルのチェス」(239)

「Chess」2011年5月号(1/4)

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メロディー・アンバー

モンテカルロ快速/目隠し大会が終了へ

 そう、ついに交通信号のライトのようにアンバー(交通信号の黄色)が赤に変わった。メロディー・アンバー大会が終了したのだ。20回目、そして最後の開催が3月にモナコで行なわれた。いつもどおり12人の参加選手による快速と目隠しの2本立ての競技会だった。相変わらず豪勢な賞金総額は最後の大会では22万7千ユーロで、この20年間にガリー・カスパロフを除く全ての一流選手を引きつけてきた。大会名は1992年に世界通信チェスチャンピオンで大会主催者のヨープ・ファン・オーステロムの娘の名前から付けられたが、その少女が今では成人し恐らく誕生日にチェス大会以外のものを望んでいるのだろう。とまあ、これは冗談だが。開会の晩餐会でメロディー・ファン・オーステロムは大会に20年間自分の名を冠してくれた両親に感謝した。大会期間の2週間モンテカルロベイホテルの会場に彼女の絵とデッサンが展示されていた。

 この大会がなくなるのは寂しい。プロのチェス界で春の訪れを告げていたし、超一流グランドマスターにとってはレイティングの損失を気にすることなく休息療法と報償になっていた。ガリー・カスパロフはこの大会に背を向けていたが、目隠し試合の部門で自分の比類ない大会記録に傷を付けたくなかったのだろう。他にもこの大会を軽蔑しちゃんとしたチェス大会にお金が使われることを望んでいる人たちがいた。それでもこの大会では独特の雰囲気が生まれ、GMたちは危険を冒したり気楽な戦法を指したりできた。周知の反目もいくらか棚上げされ、クラムニクとトパロフのような選手たちもホテルのバーで同席することはありえなくても、同じ大会で指すことに少なくとも同意していた。

 今年の大会には世界のレイティング最上位11人のうち10人の顔があった。第10位のマメジャロフだけが欠けていた。他の選手は世界第16位のボリス・ゲルファンドと、世界第43位だがすぐにもっと上昇するはずの16歳のオランダの神童アニシュ・ギリだった。

 2回戦を残して楽に優勝したのはレボン・アロニアンだった。以前には2008年と2009年に優勝していて、近年は大会の最有力選手になっていた。この大会では目隠しの部門で1位になり快速の方はマグヌス・カールセンが1位になった。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2011年10月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(240)

「Chess」2011年5月号(2/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合

 マグヌス・カールセンは競争相手のヒカル・ナカムラとの試合から始まった。快速戦では捨て駒で勝ち、目隠し戦では両者ともカールセンのビショップを見失うという滑稽な最後で引き分け、勝負に勝った。駒が繰り返しただ取りの状態になっていた。

快速戦 第1回戦
M・カールセン - H・ナカムラ
準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.e3 a6 5.Qc2 e6 6.Nf3 Nbd7 7.Bd2 dxc4 8.a4 c5 9.Bxc4 cxd4 10.exd4 Nb6

11.Bd3

 ここでは 11.Bb3 が指されてきたが、アンバー大会ではレイティングがかかっていないので試しにやってみるいい機会である。

11…Nbd5 12.Nxd5 Nxd5 13.O-O Nb4

 13…h6 は 14.Ne5 で白が少し優勢だが、本譜の手は楽観的なように見える。

14.Bxb4 Bxb4 15.Bxh7

15…g6

 15…Bd7 は 16.Be4 Qb6 17.Ne5 Rc8 18.Qe2 Qxd4 19.Nxf7!

で白の勝勢になる。19…Kxf7 と取ると 20.Rfd1 でd列で強烈な串刺しがかかる。しかし 20.Rad1 は誤りで、20…Bd6! 21.Rxd4 Bxh2+ で黒がチェックの千日手で逃れる。

16.Bxg6 fxg6 17.Qxg6+ Kf8

 ここまでは当然である。しかし一流GM以外の誰にとっても勝利への道は五里霧中になりそうで、狡猾なナカムラなら逃げおおせそうである。

18.Ne5 Qe7 19.Rac1 Qh7

 19…Rg8 20.Qe4 も難しい変化で、白が勝つためには極度の正確さが要求される。

20.Qg3 Ke8 21.d5

21…Bd6

 21…Rg8 なら白は 22.Ng4 Rf8 23.Rc4 と逆手にとって攻撃を続行することができる。

22.Rfe1 Bd7 23.h3 Bxe5 24.Rxe5 Rg8 25.Qe3 Rg6 26.dxe6 Bc6 27.Rxc6! bxc6 28.Qe4!

 家で座りながらこの局面を見、連れ合いがお茶を入れ、世界中がずっとこの局面を考えていると、ここで何が起こっているのか理解するのはかなり難しい。そしてそれからこれが快速の持ち時間で指されていたことを思い出す。コンピュータはあらゆる変化で白が勝つと保証している。

28…Qg7

 28…Ke7 は 29.Qxc6 Qg7 30.Re3! となってここで 30…Rg8 なら白は 31.Qc5+ Kf6 32.Rf3+ Kxe6 33.Qc6+ Ke7 34.Re3+ Kd8 35.Rd3+ Ke7 36.Rd7+ Ke8 37.Qc8#

で即詰みに討ち取る。代わりに 28…Rc8 は 29.Rg5! Rg7 30.Qxh7 Rxh7 31.Rg8+ で白がルークを取って圧倒的なポーン得になる。

29.Qxc6+ Ke7 30.Qc5+ Ke8 31.Qc6+ Ke7 32.Re3!

 カールセンは2回目の試行で正着を見つけた。

32…Ra7 33.Qc5+ Ke8 34.Qc6+ Ke7 35.Qb6!

 直前の解説はここでも当てはまる。カールセンには明らかに残酷なところがあり、最善でない手で相手をじらし、それからまるでやすやすと二度目には最善手を生み出してくる。

35…Rxg2+ 36.Kf1 Rg1+ 37.Ke2 Ra8 38.Qb7+ Kd6 39.Rd3+ Kxe6 40.Qc6+ 1-0

 40…Kf5 なら 41.Rd5+ Ke4 42.Qc4+、40…Kf7 なら 41.Rd7+ Kg8 42.Qxa8+ までである。

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(この号続く)

2011年10月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(241)

「Chess」2011年5月号(3/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合(続き)

目隠し戦 第1回戦
H・ナカムラ - M・カールセン

 少し前に黒のビショップはf6の地点にいてe5の白クイーンを取り返していた。しかしナカムラは記憶違いをしていて黒ビショップがまだf6の地点にいると思っている。そこで・・・

44.Rc7?? Kd8??

 これまた非常に奇妙である。カールセンもちょうど同じ勘違いをしている。

45.Rd7+ Ke8 46.Rc7?? Kd8?? 47.Rf7 Ke8

48.Bg6??

 黒ビショップがf6にいるならこの手は問題ない。しかし黒は局面を正しく思い浮かべていたらぱっと取ってしまうことができた。

48…Kd8?? 49.Be4 Ke8 50.Rxb7 Rxb7 51.Bxb7 Kf8 52.Kg2 g5 53.Kf3 Kg7 54.Kg4 Bc7

 これも奇妙である。カールセンはビショップを規則に反しないで指せるようにようやくどこにいるか思い出したに違いない。

55.h4 Bb6 56.f3 Bf2 57.hxg5 hxg5 58.Kxg5 Bxg3 59.f4 Bxf4+ 60.Kxf4 ½ – ½

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(この号続く)

2011年11月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(242)

「Chess」2011年5月号(4/4)

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メロディー・アンバー(続き)

試合(続き)

目隠し戦 第3回戦
V・イワンチュク - H・ナカムラ
ルイロペス、ベルリン防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.c3 O-O 6.O-O d5 7.Qc2 Re8 8.Bg5 dxe4 9.dxe4 h6 10.Bh4 g5

 ナカムラはビショップを追うことにした。この局面でこれまでの黒番の選手たちはもっと抑制していた。

11.Bg3 Nh5 12.Nbd2 Qf6 13.Nc4 Nf4 14.b4 Bb6

15.Nxb6

 ナカムラはこの手は悪手だと思った。15.a4 から 16.a5 が良かったそうだ。

15…axb6 16.Nd2 Be6 17.f3 h5 18.a4 Red8 19.Rae1 Ne7 20.Bf2

 イワンチュクが当てもなく指しているように見え始めた。彼のビショップは共に働きが悪い。

20…h4 21.Be3 h3 22.g3 Ng2 23.Re2 c6 24.Bd3 b5!?

25.a5

 25.axb5? は 25…Ra2 26.Qb1 Nxe3 で駒を取られる。

25…Rd7

26.Bb6?

 白は明らかに黒がd列でルークを重ねるのを防ぎたがっている。しかしこのビショップはすぐに追い出されもっと悪い運命が待ち受けている。26.Rxg2!? hxg2 27.Kxg2 Rad8 28.Be2 がチェスソフトのリブカの推奨手順で、頑強な受けに徹する。

26…Nc8 27.Bc5

 このビショップは引き下がらなければならない。白は 27.Nb3 と指したいのだが 27…Bxb3 から 28…Rxd3 で駒を取られる。

27…Qd8! 1-0

 このビショップは安全に動かすことも守ることもできない。二つの駒が最下段に下がる(一つは元の位置に戻る)珍しい手筋だった。

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(この号終わり)

2011年11月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(243)

「Chess Life」2011年8月号(1/2)

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収局研究室
2011年メロディー・アンバー大会

GMパル・ベンコー

交換損の返却
GMレボン・アロニアン(FIDE2808)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2774)
第20回アンバー、快速戦

 黒の手番

 我らの代表はスタートからついていなくてアロニアンに逃げられた。黒は交換得したが、白陣は双ビショップが強いので見込みがないというわけでは全然ない。黒のポーンは散らばっていてパスポーンもない。

27…Bc1 28.Rc4?!

 代わりに 28.Rb4 Bxb2 29.f4 Ba3 (29…Ree8 30.Bxh7+) 30.fxe5 Bxb4 31.e6 も考えられた。

28…Bxb2

 ここでは 28…b5 29.Bxh7+ Kxh7 30.Rxc1 Re2 31.g4 Rf4 の方が実戦より優るようである。

29.f3 Ba3

 29…Ree8 の方が強手で、30.Rc7 には 30…Rf7 と応じられる。

30.Rc7 Rf7 31.Rc8+ Kg7 32.g4 Rxe4!

 黒は交換得を返した。白のルークは働いているのに黒のルークは働いていないので他の手では見通しが立たないからである。

33.fxe4 Rf4 34.Rc7+ Kg6 35.Kg2 Rxg4+ 36.Bg3 Rxe4 37.Rxb7

37…Rb4

 残念ながら 37…Bc5 には 38.Bxd6! がある。

38.Kf3 Rb5 39.Bf2 Rxd5 40.Rxb6

40…Kf5

 黒の不運は続いている。40…Rf5+ は 41.Kg3! Rxf2 42.Rxd6+ Bxd6 43.Kxf2 となって、hポーンと誤色ビショップのために理論的に引き分けで白が助かる。

41.Rb3 Ra5 42.Be1 Ra4 43.Bf2 Bc5 44.Bxc5 dxc5 45.Rb5

45…Rc4

 45…Ra3+ は 46.Ke2 Rxa2+ 47.Kd3 h5 48.Rxc5+ Kg4 49.Ke3 で1手遅いので引き分けにしかならない。

46.a4 Rc3+ 47.Ke2 Ke4 48.a5 c4 49.Rh5 Rc2+ 50.Kd1 Ra2 51.Rxh7 Rxa5 52.Kc2 c3 53.Rh4+ Kf3 合意の引き分け

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(この号続く)

2011年11月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(244)

「Chess Life」2011年8月号(2/2)

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収局研究室
2011年メロディー・アンバー大会(続き)

大ポカ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2774)
GMレボン・アロニアン(FIDE2808)
第20回アンバー、目隠し戦

 白の手番

 これは白の楽勝の局面である。しかし白は黒のビショップがc4の地点にいると間違って思い込んでいた。

70.Rc7?

 正しい局面を思い描いていたら詰みを狙う同じ着意の 70.Rb7 Kg8 71.Rxb5 で試合終了となっていただろう。

70…Kg8

 それでも白は 71.Rcg7+ で局面を元に戻す機会があった。しかしそうする代わりに・・・

71.Rc4?? Bxc4

 ・・・ということが起こって白は投了した。同じような見損じは他の選手にも起こった。

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(この号終わり)

2011年11月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(245)

「Chess」2011年7月号(1/1)

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セントルイス対決


セントルイスでのルスラン・ポノマリョフ(左)対ヒカル・ナカムラ戦の第1局。米国の超一流GMは出だしは良くなかったがしだいに盛り返して元FIDE世界選手権者との番勝負に勝った。

IMリチャード・パリサー

 セントルイス・チェス・教育センターで(5月16日から25日まで)開催された正規チェス非公式番勝負で、米国ナンバーワンで世界第7位のヒカル・ナカムラが元FIDE世界選手権者で世界第11位のルスラン・ポノマリョフ(ウクライナ)に 3½-2½ で勝った。ナカムラは番勝負の最初は苦戦し第1局に93手で破れたが、巻き返して第3局と第6局に勝った。両者は続いて4局の快速戦を指し、ナカムラが 3-1 で勝って明らかに卓越していることを見せつけた。

セントルイス6番勝負、第6局
H・ナカムラ – R・ポノマリョフ
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7

 これはカスパロフの好んだ手順で、次の手順を避けている。3…Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 Be7(近く発売される「Declining the Queen’s Gambit」でジョン・コックスは 6…Bf5!? 7.Qf3 Bg6 8.Bxf6 Qxf6 9.Qxf6 gxf6

から生じるいくらか論争のある収局を分析している)7.Bd3 O-O 8.Qc2 Nbd7 9.Nge2 Re8 10.O-O Nf8 11.f3

カスパロフは白のときこの手で圧倒的な成績をあげていた。

4.cxd5 exd5 5.Bf4 c6

6.Qc2!?

 これで第4局から離れた(私に言わせればそもそもナカムラが初手に 1.e4 を指しベルリンの壁戦法に突入した第2局の改良だった)。その第4局ではかなりおとなしい 6.e3 Bf5 7.Bd3(7.g4! こそ重大な試練である。1963年世界選手権戦第14局の名局ボトビニク対ペトロシアン戦では 7…Be6 8.h3 Nf6 9.Bd3 c5 10.Nf3 Nc6 11.Kf1 O-O 12.Kg2

のあと白がわずかに有利だった。カスパロフが保証する 8.h4!? はずっと厳しい着想である)7…Bxd3 8.Qxd3 という手順だった。ナカムラのために言うとボトビニクの眼目の作戦がまだ通用することを期待していたのは疑いなかった。しかし 8…Nf6 9.Nge2 Nh5!(ビショップを捕まえるだけでなく黒の12手目も可能にしている)10.Bxb8 Rxb8 11.f3 O-O 12.O-O f5 13.a3 a6 14.b4 Qd7 15.Rae1 Rbe8

のあとポノマリョフはきわめて楽な陣形にすることができた。

6…Bd6

 交換戦法の主手順(黒の3手目の解説を参照)で黒はしばしば手数をかけて黒枡ビショップ同士を盤上から消し自陣を楽にしようとする。ここではポノマリョフはこんなに早くビショップ同士を交換することができて嬉しかったに違いない。もっともこれでも形勢は完全には互角になっていない。

7.Bxd6

 白はこのように落ち着いて指し進めるべきである。7.Nxd5 は 7…Bxf4 で白にとって何の得にもならないことが実戦で証明されている。なぜなら 8.Qe4+ Be6 9.Nxf4 Qa5+ 10.Kd1 Nf6 11.Qc2 O-O

で黒にポーン損の代償が十分にあるからである。

7…Qxd6 8.e3

8…Qg6?!

 ポノマリョフはあとで布局をもっとゆっくりと慎重に指すべきだったと告白した。次局からの快速試合から分かるように、ナカムラはただの戦術の達人であるだけでなく最近では捌きにも同じくらい長(た)けている。たぶんウクライナ選手は心理的な角度からだけでなくこの戦法自体においても少し準備が足りなかったのだろう。黒は 8…Ne7 と指すべきで、9.Bd3 のあとヤコベンコの 9…b6 から …Ba6 か、カシムジャーノフの 9…Qf6!? から …Bf5 がある。

9.Qxg6!

 9.Qd2 Ne7 10.Nge2 も白の方が少し良いと思うが、ナカムラの単純な手にも納得できることが多い。

9…hxg6 10.b4!

 展開した駒数で1-0とリードしているので米国ナンバーワンはキング翼を急いで展開する必要がないことに思い至った。この陣形における白の主要な作戦の一つはもちろん少数派攻撃で、即刻 b2-b4 と突くのはまったく理にかなっている。さもないと黒が 10…a5 と突いて白のポーン突きを妨げてくるかもしれなかった。

10…a6

 これでしばらくは b4-b5 突きを妨げられるが、黒は本当にもうそのポーン突きを心配する必要があったのだろうか。まともに 10…Ne7 と展開できるはずで、そのとき 11.b5?! と来れば(実戦のように 11.f3 の方が良い)11…Bf5 12.f3(12.bxc6 は 12…Nbxc6 のあと …Nb4 または …Na5 で黒も反撃がしやすくなる)12…Nd7 で …c5 突きを用意して黒が十分反撃できるはずである。あとで両選手は実戦の手は最善手ではなかったようだと示唆した。生じたb6の地点の弱点は確かにあとでポノマリョフを悩ますようになった。

11.f3

11…Nd7

 ポノマリョフはこのナイトをf6の地点に持って来たがっている。いずれにしても私は白陣の方を持ちたいが、11…Ne7 と指した方が良かったのではないかと思う。実際この局面になった唯一の前例の2006年アブダビでのスツルア対ネザド戦では 12.Bd3(たぶん 12.g4!? が白としての構想だった。現代チェスの真骨頂がここにある。白はこんなに多くポーンを動かし、黒はそれでも有効な反撃策に乏しい)12…Bf5 13.e4 dxe4 14.fxe4 Bg4 15.Kf2 Nd7

となってあまりはっきりしなかったようである。白の「理想の」中原は特に …O-O-O となりそうなことを考えればここではいくらか形を決めすぎている。

12.Bd3 Ne7 13.Nge2 g5

 これは白がいつかこの突起を利用してh列をこじ開けるにしても役に立つ十分な陣地拡張である。黒が静観し守勢のままでいたら、白はきっと g2-g4 突きから h2-h4 突きで陣地を拡張しついには好機の h4-h5 突きか e3-e4 突きで列を素通しにしていただろう。

14.Kf2 Nf6 15.g4!

 白はどんな …g5-g4 突きの可能性もなくし、目指す陣地拡張を行なった。

15…Kd8 16.Kg3 Bd7

17.a4!

 これも役に立つ手である。直前の2手の顔を立てて 17.h4 と突くのはどうかと思うかもしれないが、黒も措置を講じていて 17…gxh4+ 18.Rxh4 Rxh4 19.Kxh4 のあと選択肢があり、一つは単純な 19…Kc7 でそのあとh列を占拠し、もう一つは 19…a5!? 20.b5 cxb5 21.Nxb5 Bxb5 22.Bxb5 Rc8 でc列から反撃する。どちらにしても白は局面の支配権を少し失う。それはナカムラが本局で絶対しないようなことである。

17…Nc8

 このナイトはe7の地点でほとんど働いていなかったので、ポノマリョフは働かせようとしている。17…a5 と突いてクイーン翼で反攻しようとしたら 18.b5 cxb5 19.Nxb5 Bxb5 20.Bxb5 となり、ここで 20…Rc8 としても 21.Rhc1 で白が支配を維持していただろう。

18.h3 Re8

 黒にとっては不本意なことに e3-e4 の仕掛けはまだ狙い筋となっていて、18…Nd6?! なら 19.e4 で白がいくらか優勢になる。

19.Kf2 Nd6

 一見白が押し返されたようだが、よく観察すると黒はまだまだ凝り形で反撃に乏しい(双方のビショップを比較するとよい)。一方キング翼のルークをe列に配置したことにより h3-h4 突きを自ら招いている。

20.a5!

 キング翼で急いでも意味がない。20.h4 gxh4 21.g5(21.Rxh4 なら 21…g5 22.Rh6 Ke7)21…Nh5 22.Rxh4 g6 で相手に防御壁を作らせてしまう。しかし実戦の手はまたしても分別のあるナカムラの深い読みの入った手である。白はもう b4-b5 突きには何の関心もない。この手は素通し列を作って黒に反撃を与えてしまう。そこで彼はキング翼にまた目を向ける前にまずクイーン翼を永久に閉鎖した。

20…Re7?!

 反撃力が低いときにはこのような面白くない局面を守るのは決して容易でない(黒がたとえ …b7-b6 と突けたとしてもa6とc6の地点をかなり弱めるだけである)。しかし実戦の手のあと黒はクイーン翼をほどくのに苦労することになる。ここは 20…Kc7 21.Rac1 Be6 と指すことが必要で、キング翼と中央で白に一番したくないことをやらせることになる。

21.Rac1!

 この先受けの好手が黒にとって問題である。21.Ng3 なら 21…Kc7 22.h4 gxh4 23.Rxh4 Rae8 で黒が最後の部隊を戦闘に投入できる。しかし実戦の手のあとの 21…Kc7? は 22.h4 gxh4 23.g5 のためにほとんど不可能である。ナイトが逃げれば 24.Nxd5+ がある。

21…Nfe8 22.Ng3 g6 23.h4 gxh4 24.Rxh4

24…f5

 あとから批判するのは簡単である。しかし黒には他に何があっただろうか。例えば 24…Ng7 は 25.Rh7 Ne6 で白には 26.Na4 ともっと直接的な作戦の 26.f4 との楽しい選択がある。

25.gxf5 Nxf5 26.Nxf5 gxf5 27.Rh8

 ポノマリョフがこのように完全に指し回されているのを見るのは珍しい。お互いの戦力の働きの違いだけでも比べてみるとよい。

27…Rb8 28.Na4!

 少数派攻撃全般に不可欠のこの主題はここしばらくの間予定に上っていた。そして今ナイトが来て黒の既にかなり不安定な陣形にさらに圧力が加わった。

28…Kc7 29.Nb6 Be6 30.Rf8

 これでポーン得になる。

30…Rf7 31.Rxf7+ Bxf7 32.Bxf5 Nd6 33.Bd3 Rh8 34.Rg1

34…Kd8

 34…Rh2+ は 35.Rg2 Rxg2+ 36.Kxg2 となって白がキング翼の多数派ポーンを突き進める前にキングをe5の地点に持ってくる余裕さえできる。

35.Na4!

 このナイトはb6の地点での役目を果たしたのでもっと良い拠点を目指す。

35…Nc4!?

 これはルーク交換と相まって黒にとって反撃の唯一の現実的な試みだった。しかしそれでもしのぎには役立たなかった。

36.Nc5! Rh2+ 37.Rg2 Rxg2+ 38.Kxg2

38…Kc7

 38…Nxe3+ は 39.Kf2 Nd1+ 40.Ke1 Nc3 41.Nxb7+ Kc7 42.Nc5 となってaポーンが落ちそれと共に負けも決まる。

39.Bxc4 dxc4 40.Na4 Be8 41.Nc3 b6 42.e4

 向かうところ敵なしの中央のポーン集団のすごさよ。

42…Kb7 43.Kf2 c5 44.bxc5 1-0

 全盛期のカルポフを彷彿(ほうふつ)とさせる見事な完封だった。

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(この号終わり)

2011年12月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(246)

「Chess」2011年8月号(1/1)

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キングの中のキング

キング大会、2011年
M・カールセン – H・ナカムラ
クイーン翼ギャンビット拒否

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7 4.cxd5 exd5 5.Bf4 c6 6.Qc2 Bg4

 これはビショップをg6の地点に転回させる作戦だが、ちょっとおおげさなように思われる。

7.e3 Bh5 8.Bd3 Bg6 9.Bxg6 hxg6 10.O-O-O Nf6 11.f3!

11…Nbd7

 11…Nh5 と指したいところだが白に単に 12.Be5 とかわされると黒はこのビショップを捕まえるわけにはいかない。…f7-f6 突きは Qxg6+ があるので不可能だし、…Nd7 から …Nxe5 もh5のナイトが g2-g4 突きで取られることになるので無理なようである。

12.Nge2 b5 13.e4

 白は展開で先行しているので開戦に踏み切った。

13…b4 14.Na4 dxe4 15.fxe4 Qa5

16.Kb1

 16.e5 Nd5 17.e6 が魅力的だが 17…fxe6 18.Qxg6+ Kf8 19.Rhf1 N7f6 であまりはっきりしない。

16…O-O

 16…Nxe4? は 17.Qxe4 Qxa4 18.Bd6 で白が駒得する。

17.h4! Rfe8

 白の手の意図はここで黒が 17…Rac8 で反撃しようとすると 18.e5 Nd5 19.h5 で黒陣をこじ開けることができるということである。

18.e5 Nd5

 コンピュータの 18…Ng4 を信用する人間はいないだろう。h5へ跳ぶのは白のビショップが安全な所に逃げたあと g2-g4 突きでこのナイトが捕まるので駄目である。

19.h5

19…g5

 19…Nxf4 20.Nxf4 Bg5 は 21.hxg6! Bxf4 22.gxf7+ Kxf7 23.Qf5+ でキングが攻撃にさらされるので黒が負ける。

20.h6 g6

 20…gxf4 21.hxg7 N7f6!? は 22.Qf5! に気づくまでは受かっているように見える。このクイーン出によっていろいろな嫌な詰み筋が見えてくる。

21.Bc1 N7b6?!

 21…N5b6 22.Nxb6 axb6 23.b3 Nf8 でキング翼に目を配る方が良さそうである。

22.Nc5 Bxc5 23.dxc5

23…b3

 黒は状況が思わしくなくなってきたのでクイーン翼で駒の動ける余地を作ることにした。代わりに 23…Nd7 は 24.e6! で受けに窮する。24…Rxe6 と取ると 25.Nd4 と跳ばれて、ルークが縦に逃げるとc6のポーンが落ちるし 25…Rf6 は 26.Bxg5 でルークが捕まる。

24.Qxb3

 24.axb3? はもちろん 24…Nb4! でひどい。

24…Qxc5 25.Nd4!

 25.Bxg5?? はとんでもない不注意で、25…Rxe5 で両当たりになる。

25…Rxe5

 結果論だが 25…Rab8 で 26.e6 f6 を期待する方がちょっとだけ頑強だったようである。

26.Nf3

26…Re2

 26…Rf5!? 27.g4 Nc3+!

27.Nxg5 Qe7 28.Qd3

 この手は 29.h7+ を狙っていてキングがh8に行けば 30.Nxf7+! によるそらしの手筋がある(30…Qxf7 31.Qxe2)。

28…Rf8

 28…Re5 の方がよい。もっとも白のキング翼攻撃を食い止めるというより遅くさせるのに役立つだけだろう。

29.Rdf1

29…f5

 白がf7のポーンを取ったあと Qxg6+ を狙っていたので黒はほとんど選択の余地ががなかった。例えば 29…Rxg2 なら 30.Rxf7! でどの戦術も白の有利になる。

30.g4 Na4

 人間の目には黒がまったく見込みがないとはすぐには分からないが、黒はどうしようもないようである。例えば 30…Re5 なら 31.gxf5 Rexf5 32.Re1! Qd7 33.Ne6 R8f7 34.Rhg1 Ne7 35.Qxd7 Nxd7 36.Ng5

で白の戦力得になる。

31.Qd4 Qe5 32.Qxe5

 32.Qxa4?? は 32…Nc3+ 33.bxc3 Rb8+ となって白は詰みを避けるためにクイーンを差し出さなければならない。

32…Rxe5 33.gxf5 gxf5 34.Nf3

34…Re7

 この手は白を少しやり易くさせた。とはいうものの 34…Re6 でもカールセンが 35.h7+ を見つけ出したらあまり良くない。以下は 35…Kh8 36.Bh6! Rb8 37.Rfg1! でまた白の戦術の方が強力である。

35.Rfg1+ Kh7

 35…Kh8 は 36.Nh4 で白の交換得になる。

36.Rg7+ Kh8

 36…Rxg7 は 37.hxg7+ Kxg7 38.Bh6+ で1ポーンの代わりに白の交換得になるが、黒の残りのポーンはばらばらで弱い。

37.Rhg1 Rfe8 38.Nh4 Rxg7 1-0

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(この号終わり)

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「ヒカルのチェス」(247)

「Chess」2011年9月号(1/2)

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ドルトムント・シュパルカッセン

 ヒカル・ナカムラは気落ちしていた。「非常に苦しい大会だった。それはアニシュ・ギリ戦から始まり、もう少しで負けるところだった。大会の中盤ではチェスをどう指したらよいのか忘れてしまった。ルスラン・ポノマリョフとウラジーミル・クラムニクに負けたのにはがっかりした。その段階でやる気を出して調子を取り戻すのが非常に困難になった。」刺激を求めて自分のツイッターファンに破れかぶれで訴えたところ心を落ち着かせてくれる言葉がいくつか返ってきた。彼は感謝の意を表わし、大会の終盤では順調に調子が上向いていった。

 第4回戦のクラムニク戦では何の変哲もなさそうな中盤の局面になった。しかしとんでもない陣形上の間違いを犯した。

ドルトムント、2011年
H・ナカムラ – V・クラムニク

25.Rb3

 25.Be3 とも指せる。もっとも 25…Rc6 で実戦と同じようになるかもしれない。

25…h5 26.Be3 Nd5

27.Bd4?

 これは陣形上のポカだった。米国選手は不良ビショップを抱えることになった。ここでは単純に 27.Bxa7 Rxc3 28.Rxb7 Ra3 と指すことができ、合意の引き分けになるかもしれない。

27…b6 28.f4

 28.Ra3 は 28…a5 29.Rb3 a4 で救いにならない。このあと 30.Rb5 Nxc3 31.Bxc3 Rxc3 32.Rxb6 Rc2

で白がポーン損になり収局で負ける。

28…Rc4 29.Kf1 Ra4 30.Rb2 Kh7 31.Kf2 Kg6 32.Rc2 Ra3 33.h3 b5 34.Rb2 a6 35.Rc2 Kf5

 白は受け一方なので、クラブのほとんどの強豪選手ならたぶん黒の最後の7、8手が自動的に分かっただろう。ここで白はきびしい選択に直面している。黒キングをe4の地点に侵入させるか、それとも自分のキングを前に進めて …b5-b4 と突かせるかである。実際はどちらも不可である。

36.Kf3 b4 37.g4+ hxg4+ 38.hxg4+ Kg6 39.Ke4 bxc3 40.Rh2

 何とかして反撃の機会を作り出そうとしているが、クラムニクは動じない。

40…Ra4 41.Rf2

 41.f5+ も 41…Kg5 でどうにもならない。

41…a5 42.Kd3

 白は手詰まりに近い。42.Rc2 なら 42…Nxf4! 43.Kxf4 Rxd4+ 44.Kf3 Rd2 45.Rxc3 Rxa2

ですぐに決着がつく。

42…c2!

43.f5+

 このポーンを取ると白が交換損か駒損になる。43.Bb2 は 43…Nb4+ 44.Kc3 Rxa2 で実戦のように黒が勝つ。

43…Kg5 44.Bb2 Nb4+ 45.Kc3 Rxa2 46.Rf1 Kxg4 47.fxe6 fxe6 0-1

 48.Rg1+ Kf3 49.Rxg7 c1=Q+ 50.Bxc1 Rc2+ はいくつかある終わり方の一つである。

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「シュパルカッセン」はドイツの貯蓄銀行で、本大会の主催者です。

(この号続く)

2011年12月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: ヒカルのチェス2

「ヒカルのチェス」(248)

「Chess」2011年9月号(2/2)

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ドルトムント・シュパルカッセン(続き)

 実際ナカムラの運は大会終了が近くなるにつれて変わっていった。最終戦の前の試合ではどんじりのゲオルク・マイアーに少し幸運な勝利を収めた。それから最終戦では既に大会優勝を決めていて気楽に指しているクラムニクと対戦した。しかしそれでもクラムニクが捨て駒の代わりに得た代償を無害にするにはナカムラの知力を尽くした積極的な防御が必要だった。この両者が来たる12月にロンドンでまた対戦するのを見られる我々は非常に幸運で、今から手もみして期待している。


最終戦でヒカル・ナカムラ(右)と対局中のウラジーミル・クラムニク。クラムニクは既に大会優勝が決まっていて、この試合で自由奔放なチェスを指したが負けてしまった。

ドルトムント、2011年
V・クラムニク – H・ナカムラ

23.Nfxg5!?

 クラムニクはこの手を気の向くままに指した。

23…hxg5 24.Qxg5 Bg6

 24…Rf5 と指したいところだが 25.Qh4 でビショップを釘付けにされるのが嫌である。

25.cxd6

25…cxd6

 25…Bxe4+ は 26.Rxe4 cxd6 27.Rh4+ Kg8 28.Qh5 Rf7 29.Qh7+ Kf8 30.Rg4

となって白に犠牲にした駒の代償が十分にあるので、実戦の手の方が良い。

26.Ra7 Rc8

 26…Rf7 と受けても大丈夫である。

27.Rxe7

 恐らくこの手はやり過ぎである。27.Bd3 Rc7 28.Rea1 ならいけそうだが、28…Qd7 29.Rxc7 Qxc7 30.Ra3 でたぶん黒の方が良い。

27…Rxc4 28.f3 Rc2+ 29.Kg1 Rc8 30.Ra1 Rf7

 黒は非常に正確な読みが必要だが、ナカムラの戦術能力は定評がある。

31.Qxg6 Qxe7 32.Ng5 Kg8 33.Qh7+ Kf8 34.Ne6+ Ke8

35.Qh5

 35.Qg8+ Bf8 36.h4 なら黒は 36…Qf6! で反撃を開始し、白の防御は心もとない。例えば 37.Rf1 なら 37…e4! である。

35…Bf6 36.g4 Qb7 37.Rd1 Qa6!

 上述の変化のように黒が反撃を開始した。

38.Qg6 Ke7 39.g5 Bh8

 この一手だがぴったりである。

40.Re1 Qa3! 41.Nd4

41…Qxb4!

 チェスエンジンは 41…Rc1!? を推奨するが人間は 42.Nf5+ Rxf5 43.Qe6+ Kd8 44.Qxd6+ Kc8 45.Qe6+ のあと永久チェックにならないかと心配する。

42.Nf5+

 42.Qe6+ は 42…Kd8! 43.Re4 Qb1+ 44.Kf2 Rd7 45.Nc6+ Kc7 で黒が戦利品を得て逃れているようである。

42…Kf8! 43.Rd1

 43.Qxd6+ は 43…Qxd6 44.Nxd6 Rd8 45.Nxf7 Kxf7 で黒が勝つはずである。

43…Rc2!

44.Nd4!?

 たぶんこの手が最善である。44.Qh6+ なら黒は 44…Bg7 45.Nxg7 Qc5+! 46.Kh1 を用意していて、ここで 46… Rh2+! 47.Kxh2 Qf2+ 48.Kh1 Qf3+

というてきぱきした仕上げでクイーンと控えのルークの筋が開通し数手で詰みになる。

44…exd4! 45.Qxc2 Qc3 46.Qe4

 白はクイーン交換が避けられない。46.Qg6 は 46…Qe3+ で上述の解説のように黒が勝つ。

46…Qe3+ 47.Qxe3 dxe3 48.Kg2 Bc3 49.Kf1 Rxf3+ 50.Ke2 Rxh3 0-1


クラムニクは肉体的に他の選手より抜きん出ている。花束を持っているのが選手たちで、クラムニクの隣から右へレ・クワン・リーム、ルスラン・ポノマリョフ、アニシュ・ギリ、ヒカル・ナカムラ、ゲオルク・マイアー。

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(この号終わり)

2011年12月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(249)

「Chess Life」2011年9月号(1/6)

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宿敵

 チェスの一流有名選手は他のどんなプロの大会よりも賞金と栄誉を懸けて直接対決で決着をつけることがしょっちゅうある。通信チェス国際マスターのバート・ギボンズが二人の選手の棋歴をとおして記憶に残る試合を振り返る。

GMヒカル・ナカムラ
1987年生まれ、日本・大阪府出身、FIDEレイティング(2010年11月)2741(15位)

 ヒカル・ナカムラは10歳で国内マスター、13歳で国際マスター、そして15歳でグランドマスターになった。米国選手権を2度獲得し、ヨーロッパではいくつかの国際大会で優勝した。2010年にトルコで開催された世界チーム選手権戦では世界第6位の選手のボリス・ゲルファンドを撃破して第1席の金メダルに輝いた。最も輝かしい優勝は2011年のタタ製鉄大会で、アーナンド、カールセン、その他のスーパースターたちを抑えた。ブリッツ・チェスでの成績も傑出していて、オスロでの2009年BNバンク大会では当時の世界ブリッツチャンピオンのカールセンを3-1で破って優勝した。

GMアレグザンダー・シャバロフ
1967年生まれ、ラトビア・リガ出身、FIDEレイティング(2010年11月)2591(29位)

 アレグザンダー・シャバロフは元世界チャンピオンのミハイル・タリと同じ市(リガ)で生まれた。「シャバ」はタリと共に研究し、難解な局面を求めることでも知られている。GMニック・ド・ファーミアンはある局面をひどい泥仕合でシャバロフかフリッツしか指しこなせないとして、同僚GMがシャバロフに抱く敬意を表わした。シャバロフは米国選手権を2003年と2007年の2回単独獲得し、1993年と2000年は同点優勝した。そしてシカゴオープン、北米オープン、ワールドオープン及び米国オープンにも単独または同点優勝している。

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(この号続く)

2011年12月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「ヒカルのチェス」(250)

「Chess Life」2011年9月号(2/6)

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宿敵(続き)

見せ場と試合解説(マスターチェス7000を援用)

 重要な大会で戦いを繰り広げることは宿敵となることの基盤で、この二人の一流グランドマスター同士の勝負は確かにこれまで火花を散らしてきた。これらの抗争で特に目立つのは6勝のうちの5勝で勝った方が大会に優勝したことである。

 初めて勝負のついた試合は2004年シカゴオープンでの最終戦だった。27手目のあと白番シャバロフの手番で次の局面になった。

 27…Rxd5

 白は 28.Rc6 ですぐに黒のaポーンに対し包囲攻撃を始めることができる。しかし代わりにビショップを5手連続動かす方を選んだ。

28.Bc3 Rd8

 黒はこれに代わる手が 28…Rc5 29.Rxc5 Nxc5 30.Bd4 と 28…f5 の二つある。どちらも手段は異なるがポーンを取られる。28…f5 が一番てごわい抵抗だった。

29.Bf6 Re8 30.Bd4 Nb8 31.Bxa7 Nd7 32.Bd4 Ra8 33.Rc7 Nf8 34.Ra7

 白のよどみない技法が勝利を引き寄せる。

34…Rd8 35.Be3 Kg7 36.a4 Ne6 37.a5 Rd3 38.Kf2 Ra3 39.Bb6 Rb3 40.Ke2 Kf8 41.Kd2 Ke8 42.Kc2 Rb4 43.Kc3 Rb1 44.Be3 Ra1 45.Kb2 Ra4 46.a6 Kd8 47.Ra8+ Kd7 48.a7 h5 49.Rb8 Nc7 50.Kb3 Ra1 51.h4 Ra6 52.Bf2 Ra1 53.Bb6 Kc6 54.Bxc7 Rxa7

 黒はようやく白のaポーンを取ったが敗勢であることには変わりない。

55.Bf4 Kd7 56.Rb6 Ra1 57.Kc3 Rg1 58.Rb2 f6 59.Kd3 Rh1 60.g3 Ke6 61.Rb6+ Kf5 62.Bd2 Rd1 63.Ke2 黒投了

 シャバロフはこの勝利でGMヤーン・エールベストと共に優勝することができた。

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(この号続く)

2012年01月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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