チェス布局の指し方の記事一覧

チェス布局の指し方[1]

第1章 展開と戦術

 チェスの布局は1局の中で白と黒が来るべき中盤戦の戦いのためにできるだけ有利に自分の駒を配置しようとする段階である。

1.1 展開

 駒を元の位置から前進させる過程は展開と呼ばれる。

 駒をどの地点に配置(または展開)するのが一番良いかを決める時には色々な要素を考慮しなければならない。駒をある地点に展開する唯一の理由が見え見えの戦術的な狙いのためというのは良い考えでないのが普通である。その狙いが相手の応手によって無効になってしまうと展開した駒は見当違いの地点にいることになり何の役にも立たない。一つの簡単な例はまったくの初心者がよく指す手である。1.e4 e5 の後 2.Qh5 は 3.Qxe5+ を狙った露骨な手であり、少し高級な 3.Bc4 から 4.Qxf7#(学者の詰み)の着想もある。黒は 2.Qh5 に対して 2…Nc6 と応じる(第1図)。

 図1(白番)

これでe5のポーンは守られていて黒は 3…Nf6 または 3…g6 から 4…Bg7 で白クイーンを当たりにして自分の展開を加速させることができる。

 対照的に、狙いを持ちながら駒を効果的な地点に展開するのは通常良い指し方である。このようにすれば相手はこちらの狙いに手をかけなければならないので「手得」(1手余計に指せること)するかもしれない。相手の応手が展開に役立たないならばこちらの直前の手はただで指せたことになる。だから「1手得をした」ことになる。相手の応手も展開にあたる手ならば何も得しなかったことになる。なぜなら両者とも1手ずつ展開の手を指したからである。しかしこの応酬でどちらも失ったものは何もない。

 例えば次の手順を考えてみよう。1.e4 Nf6(アリョーヒン防御)2.e5 Nd5 ここで白は 3.Bc4 と指せば黒のナイトに当たっているのでただで展開できるように思えるかもしれない。しかし黒が 3…Nb6 と引くと今度は白のビショップが当たりになっていて、3手目で「手得」した1手はビショップを引く4手目(4.Bb3 または 4.Be2)で返さなければならない。

(この章続く)

チェス布局の指し方[2]

第1章 展開と戦術(続き)

1.2 主導権

 「主導権」という用語はチェスの本で繰り返し用いられる。この言葉が何を意味しなぜそんなに重要なのかを考えてみよう。試合の始まりでは白が手番なので優位に立っている。手番の優位はよくテニスのサーブの優位にたとえられてきた。しかしトップクラスのテニスでサーブがほぼ90%の割合でゲームポイントを得るのに対して、白の優位はマスターの試合で約32%の勝ちにしか結びつかない(黒の勝ちは大体22%で引き分けは46%である)。これらの数字により白の平均的な有利さはほぼ55対45と表される。

 主導権の一つの明白な特性は黒が白と同じ手を不正でない限り指していくといずれ白が圧倒的に優勢になるということである。もう少しわざとらしくない議論をすると対称な局面はほとんどの場合手番の方が有利である。この法則の唯一の例外は収局で起こるがここでは採り上げない。

 対称な局面を続けるのは望ましくないので黒は通常は最初の2手のうちに対称を解消する。黒の手はどれも白の展開の作戦に対し何らかの対処をすべきである。もし黒の布局の戦略が成功すればば白の主導権を無効にするか、もっとうまくいけば白から主導権を奪い取ることになる。もし黒が失敗すれば白は主導権を生かして攻撃を加え戦力を得するかはっきりした大局上の優位を得ることになる。

 どちらに主導権があるかはどうしたら分かるのだろうか。この問題は見かけほど単純でない。というのはよく主導権を一連の簡単にかわせる狙いと混同している選手が多いからである。実際は経験を積んだ選手だけが主導権が架空(一時的)なのか本当なのかを判断できるのである。

 主導権そのものは具体的な有利ではない。その価値は他の種類の有利と引き換えにできることにある。例えば戦力、攻撃または有利な収局とである。布局の原則について説明している時に有利な収局のことにまで議論が及ぶのはおそらく読者にとって理屈に合わないと思われることだろう。しかしチェスの布局の本に「・・・で収局は黒が有利である」というような文章が見られるのはきわめて普通のことである。実際ルイロペスの交換戦法は白が主導権を用いて早くも4手目から有利な収局を目指す好例である(5.3を参照)。

 主導権をめぐる戦いは布局での基本的な主題の一つである。白は1手の優位(つまり先手)を持って指し始め戦力を展開している間にこの優位を維持しさらには増大するように努める。したがって駒を好所に展開するのみならずできるだけ迅速に展開するのは最も大切である。チェス布局の科学的な研究がまだ始まっていなかった19世紀には展開の速度は非常に重要であると広くみなされていたので選手たちは大きな主導権を得るために喜んで戦力を犠牲にしていた。ムツィオ・ギャンビット(3.1を参照)はこの主題に沿った例である。白はまずポーン、次にナイトを犠牲にして展開に大差をつける。

 先手を正しく用い駒を迅速に展開し大切な主導権を敵に渡さないようにしたい人のための指針となる一般原則は一つしかない。布局では同じ駒を2度動かすな。これはがんじがらめの規則というよりも一つの原則である。その理由は簡単に分かる。それはもし既に動かした駒をまた動かせば他の駒を動かすのに使えたはずの手を無駄にしたことになるからである。もちろんこの原則には例外も数多い。ある駒が当たりになっていればその駒を動かさなければならないかもしれない。当たりにしている駒が初めて動いた駒ならば、敵の展開がそれによって促進されこちらの当たりにされた駒は動かしても展開に役立たないのでこちらの手損になるかもしれない。一方当たりにしている駒が既に動いたことのある駒ならば、こちらの手損にならないかもしれない。

(この章続く)

2010年03月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[3]

第1章 展開と戦術(続き)

1.3 ポーン中原

 中原の支配は試合の初期の段階では主に駒の役目だが実際に中原を占拠するのは通常はポーンにまかされている。ポーン中原の問題については二つの対照的な考え方がある。古典的な方法は中原のあたりにできるだけ多くのポーンを配置しどんな手段を用いてもそれらを支える考えを良しとするものである。だから古典派はキング翼インディアン防御の多くの戦型で白のポーン中原を好んでいる。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4

 図2(黒番)

白のポーンはc5、d5、e5およびf5の地点を支配している。しかしそれらは見かけのように本当に堂々たるものなのだろうか。

 特定の定跡や戦法に特有のポーンの形は多数ありマスターの実戦に何千回も現われている。壮大なポーン中原の別の例はグリューンフェルト防御の交換戦法に現れる。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3

 図3(黒番)

 これらの二つの局面に共通しているのは、白ポーンが中原で強大な勢力を誇っていて黒が白の中原の支配に挑むのは極めて難しそうに見えるということである。それでもこの課題全体に対する二つ目の手法をもたらしたのは白のポーン中原の土台を突き崩すという行為であり、それが超現代派のやり方である。

 超現代派はブレーヤー、レーティおよびニムゾビッチによって創始され、その考え方は後で土台を崩し(できれば)壊滅させる方策が可能ならば相手に強大なポーンの壁を作らせてもよいというものであった。したがって上図のグリューンフェルト防御の局面では黒は早期に …c5 で白の中原に挑み白のd4の地点に争点を作り出すのである。そうすると白のdポーンは急に弱体化し黒のフィアンケットされたビショップの逆鱗に触れるのである。キング翼インディアン防御における白のポーン中原に対処するため黒の用いる手法は該当する第12章で説明する。

 最も強い中原ポーンの形はdポーンとeポーンが4段目に並んだ形であると認識するのは難しいことではない。これにより二つのポーンは盤上の敵側に属する4箇所の中央の地点を支配する。しかしd4とe4にポーンを維持するのは無理になることがよくある。例えばフランス防御では 1.e4 e6 2.d4 d5 のあと白のeポーンが当たりになっていてほとんどの戦法ではe5に進むことになる。それから黒は二とおりの方法で白の中原ポーンの構造を崩す作業に着手することができる。つまり …f6 によって前からと …c5 によって後ろから攻撃することができる。どちらの手法もフランス防御の章(第7章)で説明される。しかしここで一つの具体的な戦法を簡単に見ておこう。1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.e5 Nfd7 5.Nce2 c5

白の根元のポーンが攻撃されている。そこで 6.c3 Nc6 7.f4 b5 8.Nf3 b4

 図4(白番)

白の連鎖ポーンがまた根元付近で攻撃を受けている。

 黒の着想は …bxc3 に次いで …cxd4 と2回ポーンを交換することである。そうすれば白の連鎖ポーンの根元が上ずって黒駒からの攻撃にもっと弱くなる。連鎖ポーンの根元を攻めるこの戦略は色々な局面で役に立つ。原則は連鎖ポーンの根元が上ずると弱体化するということである。

(この章続く)

2010年03月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[4]

第1章 展開と戦術(続き)

1.4 中原の支配

 展開に関連した最も重要な概念は盤上の中原の支配である。ナイトまたはビショップをまず空の盤の中原の4箇所の地点のいずれかに、次に(例えば)2段目の地点の1箇所に、最後に盤の端または隅の1箇所に置いて行ける地点の数を数えることにより、中原に置かれた駒がそうでない駒よりも多くの地点に利いていることが容易に分かる。この簡単な確認から駒は可能ならば中原の支配に役立つ地点に配置すべきであるという論理的な結論が得られる。そうすれば試合が進むにつれて中原を占拠しそれにより盤の大部分を支配することが可能になってくるだろう。

 ここで読者は「どの地点に駒を展開したらよいのか」という質問をしたくなるかもしれない。単純な答えで済むならばチェス布局についてのもっと上級の本の多くは要らなくなるだろう。白の用いることのできる展開の作戦は多種多様である。これらの作戦のそれぞれに対して黒にも色々な展開の仕方がある。特定の布局やその布局の中の戦法を生み出すのは両者の戦法の組み合わせによるものである。

 駒の展開のための一般的な原則を挙げるよりもナイトとビショップを特定の地点に展開する長所と短所を並べるほうが読者にとって大切だと思う。通常はクイーンとルークの展開は中盤の戦略に大きく関わっている。一般原則を一つだけなら挙げることができる。「試合の早い段階でクイーンを展開するな。」本書の中心となる章では読者はこの原則がよく当てはまる色々な局面に出くわすだろう。またすべての原則につきものの少数の反例にも出会うだろう。

(この章続く)

2010年03月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[5]

第1章 展開と戦術(続き)

1.5 ナイトの展開

 ナイトの伝統的な地点はf3/f6とc3/c6である。例えばf3の地点からナイトは中原の2地点のd4とe5に利いていて、いつかg5に跳ねて敵のf7とh7に対する攻撃に加わるかもしれない。ナイトをf3に展開する時、覚えておいて必要ならば防護しなければならない重要な反撃がある。それはeポーンが動くと …Bg4 による釘付けが敵からの強力な一撃になることがあるということである。ジュオッコ・ピアノの次の戦型を考えてみよう。1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.Nc3 Nf6 5.d3 d6

 図5(白番)

 対称な局面は手番の方が有利であることは前に述べた。そしてこの局面も例外でない。6.Bg5 のあと白の主導権は実質的に何らかの優勢をもたらす。しかし代わりに白が 6.O-O と指せば今度は黒が 6…Bg4! で主導権を奪い取り、白のナイトが自分のクイーンに対して釘付けにされる。釘付けを緩和するために 7.h3 Bh5 8.g4 と指すのは悪手になる。8…Nxg4 9.hxg4 Bxg4

 図6(白番)

となって黒は白のキング翼を乱し、駒1個の代わりにポーン2個を得、…Nd4 と …Qf6 の狙いが残っている。

 だから白の 7.h3 は何の役にも立たなかった。自分のキングの周りを弱めたので白の不利を招いただけである。白がクイーンをビショップの利き筋(つまりd1-h4の斜筋)からそらすのは黒に …Bxf3 で白キングの囲いを破らせてしまう。このような弱体化は通常は何としても避けるべきものである。

 Bg5/…Bg4 による釘付けに対するよくある対処法は次の二つである。
 (1)h3/…h6 として釘付けを避ける。
 (2)Be2/…Be7 とすれば釘付けの効果を大きく減らすことができる。

 Bb5 による釘付けは通常は対応するキング翼の釘付けよりも危険でない。それはキング翼キャッスリングの方がクイーン翼キャッスリングよりもはるかに普通で、Bxc6 の交換でcポーンを二重ポーンにするのは通常は狙いにならないからである。…Bb4 による釘付けはニムゾインディアン防御の章(第10章)で詳しく説明する。

 ナイトはe2やd2に行くこともある。キング翼ナイトは通常はf3に展開する。中原に影響を及ぼし Ng5 の可能性を保つだけでなく、キング翼キャッスリングのあと弱点になることが多いh2の地点も守っているからである。だから Nbd2 は Nge2 よりももっと多く指される。2段目のこれらの地点からナイトは中原の4地点のうち1地点(e4またはd4)にしか利いていない。しかしこのことは中原の支配の観点から見て必ずしも劣っているとは言えない。例えば Nbd2 ならcポーンが自由に進める。c3 ならd4の地点に守りが加わり、c4 ならd5の地点に利きが及ぶ。c3 と連係して Nbd2 が指されている例は閉鎖ルイロペス(第5章)に現れる。

 ナイトを2段目に展開するもっと積極的な目的はさらにf4またはc4に展開するかもしれないからである。そこからは影響が6段目にまで及ぶ。布局の段階(中盤の初期)で Nf4(または Nc4)は通常は相手がeポーン(またはdポーン)を自陣からの5段目に進めた後か盤上から消えた後でのみ指される。明らかに相手のポーンがまだd7またはd6にあれば、こちらが Nc4 と指した時相手のdポーンが動けない(こちらのdポーンによってせき止められている)場合を除きいつでも …d5 と突いてナイトが追い払われる。しかしf4またはc4のナイトが恐れなければならないのは中央列のポーンからの攻撃だけではない。…b5 と突いて敵駒を追い払うと同時にクイーン翼の自陣を広げるのはごく普通のことである。例えばキング翼インディアン防御の次の戦型を考えよう。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Nf3 O-O 6.Be2 e5 7.O-O Nbd7 8.d5 Nc5

 図7(白番)

 白のeポーンが当たりになっているので黒のc5のナイトを 9.b4 によってすぐに追い払うことはできない。そこで白は 9.Qc2 と指してeポーンを守る。すると今度は 10.b4! を防ぐために黒がすぐに対処しなければならない。黒の常套手段は 9…a5 である。これですぐに 10.b4 とやってくるのを防いでいる。白は a3 と Rb1 でこのポーン突きの準備をしようとすれば黒は a3 に対して …a5 から …a4 で応じることができる。それでも b4 と突いてくれば …axb3e.p. と取れる。

 この例で黒は …a5 の前に …Nc5 と指すことができた。それはeポーンを守るために白が手をかけなければならなかったためである。しかしこの種の多くの局面で …Nc5 は直接の狙いを持たないために黒は …Nc5 の前に …a5 と指さなければならない。この題材はキング翼インディアン防御でよく見受けられる。

 ナイトの展開についての最後の注意書きである。ナイトを盤の端に置くのはめったに良い考えとはならない。ナイトをh3またはa3に展開するのは中原に何も利いていないので通常は長期的に損な投資である。時には Nh3/Na3 が f4/c4 への捌きの一部として指されることはある。レーティ・ギャンビットはその例である。1.Nf3 d5 2.c4 dxc4 ここで白はよく 3.Na3 から Nxc4 と指す。これは上記の「原則」に対する比較的数少ない例外の一つである。

(この章続く)

2010年03月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[6]

第1章 展開と戦術(続き)

1.6 ビショップの展開

 ビショップは動きが大きいおかげで展開にも色々な可能性がある。g5/g4またはb5/b4の位置では敵のキングまたはクイーンに対してナイトを釘付けにする。このような釘付けはその価値がかなり変動する。ある時は敵を守勢(古典的な例はルイロペスにおける白の 3.Bb5)に追い込むのに役立つかもしれないし、ある時は次の例のように敵に側面攻撃の弾みをつけるのに役立たせてしまうかもしれない。

 図8(黒番)

 白の直前の手は 7.Bg5 で、クイーンに対し黒ナイトを釘付けにしたところである。 7…h6 8.Bh4 白がビショップをf4に引けば 8…g5 でやはり白のキング翼に対する黒の襲撃に弾みがつく。8.Bxf6 は何の代償も引き出せずに黒に双ビショップの優位を与えてしまう。 8…Bg7 9.e4 g5 10.Bg3 Nh5

 図9(白番)

 黒の7手目と9手目はキング翼攻撃の準備である。白のc1のビショップは黒のポーン突きによってキング翼に追い込まれ交換される(黒の最後の手に注目)寸前である。白はこのように双ビショップの優位を与えたが、それによって弱体化した黒のキング翼につけこめることを期待している。これから分かってくるが、キング翼における黒の示威行動はgポーンとhポーンがさらに前進できる可能性があるので黒にとってうまくいく。この局面はマスターの実戦に少しだが現れている。実戦によれば黒のここからの攻撃は非常に強力なので既に大いに優勢である。

 ここからはあるマスターの実戦の手順をたどる。読者はほとんどの指し手の要点を理解しなくてもよい。この実戦例の目的は白がキャッスリングした後いかに容易に黒の攻撃態勢が構築されたかを説明し、先手で進んだポーンによって攻撃が行なわれる部分を示すことである。11.Bb5+ Kf8(キング翼のルークは攻撃に用いるためにh列においておく必要があるので黒はキャッスリングの権利がなくなることは気にしない)12.Be2(白の最善の手は 12.e5 とギャンビットすることである。この手は黒がキングを安全にすることができる前に中央を開けさせる)12…Nxg3 13.hxg3 Nd7 14.Nd2 Qe7 15.g4(黒ポーンの前進を止めることを期待した)15…a6 16.a4 Bd4!

(白キングの周りに圧力を加え、17…Qf6 としてf2での詰みと 18…Bxc3 19.bxc3 Qxc3 によるポーン得の可能性を準備している)17.O-O Nf6 18.Nc4 h5!

(これで攻撃が本格的に始まり短手数で試合が終わる)19.gxh5(白が 19.Nb6 hxg4 20.Nxa8 で駒得しようとすると 20…Qe5 で詰まされる)19…g4 20.Ne3 Nxh5(白はどうすることもできない。黒は 21…Qh4 と 21…Ng3 を狙っている)21.Bxg4 Qh4 22.g3 Nxg3 23.Kg2 Nxf1 24.Kxf1 Bxe3

ここで白が投了した。

 この攻撃がうまくいったのは白キングがf8で安全で、白が 12.e5! で筋を開けて黒キングの位置に付け込む機会を逃がしていたからである。もし既にキャッスリングしていたら …h6 から …g5 と突く贅沢はできそうにない。なぜなら自分のキングが薄くなって危険だからである。おおざっぱな指針として Bg5 による釘付けは敵キングが既にキング翼に位置していたら有利になる公算が大きいということができる。クイーン翼についても同じことが言える。

 Bg5 による釘付けの他の側面についてはナイトの展開の節で議論ないしは言及した。

 c4またはf4にいるビショップはh2/a2からb8/g8への斜筋に利きを及ぼしている。eポーン布局ではc4に展開したビショップはこの利きが効果的であることが多い。その理由はf2/f7の弱点の節で明らかになる。dポーン布局ではビショップがf4に展開するのはそれほど見かけない。それは相手のキングがクイーン翼にキャッスリングしない限りh2からb8への斜筋はそれほど重要でないからである。

 キング翼ビショップをc4に展開する時にはこのビショップを …Na5 で攻撃する手が相手の有利になるか(または将来そうなるか)どうかを考える必要がある。チェスでの最も基本的な質問の場合のように答えは局面の正確な特性により、何にでも当てはまる答えはできない。しかしこのような局面で相手の …Na5 の得失を見極めようとする時に自問してみるとよい二つの問いを挙げることはできる。

 (1)ビショップがd3またはe2に下がったとき相手のa5のナイトが良い位置にいるといえるかどうか。後でこのナイトがc4の地点に行けるのでなければ、答えはほとんど常に「いえない」。なぜならそうでなければナイトは元来たc6の地点に戻るしかないからである。シチリア防御から生じる多くの局面でまず …b5、…Rc8、…Qc7 のどれかまたは全部でc4の地点を支配してナイトをそこに置くことは可能となる。その場合でもc4のナイトがほとんど何も役立たないというのは時折起こることである。

 (2)ビショップがb3に下がった場合 …Nxb3 による交換でどちらかが優勢になるか。通常この交換で一方の選手が双ビショップの優位を手に入れる。他方はaポーンでナイトを取り返すことによりa列が自分の方にだけ素通しになって敵のaポーンに圧力をかけることになると共に、クイーン翼のルークを Ra4 で中原やキング翼に素早く回す可能性が生じる。これらの要因はどちらも交換の短期的な効果と合わせて考えなければならない。その時初めて正確な評価が可能となる。

 ほとんどの場合強手となるもっと重要な反撃は「両当たり仕掛け」として知られる戦術の手段で、通常は黒によって用いられる。両当たり仕掛けは手始めに次の図で示されるような配置が必要である。

 図10(黒番)

 黒のdポーンがd7にあるかd6にあるかは重要ではなく黒は …Nxe4! と指す。白が Nxe4 と取れば黒は「捨てた」駒を …d5 でビショップとナイトの両取りにして取り返す。両当たり仕掛けの着想は敵の中原の清算に結びついている。白は中原の4地点に2個のポーンがあり、2個の駒で中原を支えている。両当たりの捌きが完了すると白にはポーンの1個と駒の1個が交換されている。白の中原の支配は大きく縮小した。実戦で効果的な両当たり仕掛けの次の例はグランドマスター同士のリュボエビッチ対ドナー戦である。この試合は次のように始まった。1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Bc4 Nxe4!

 図11(白番)

 黒に両取り仕掛けをされた場合白のとるべき道は二つに一つである。それは前述の例題にあるようにナイトで取るか、まず黒キングの状態を弱めておくかである。本局でリュボエビッチがとった方針は二番目の方であった。6.Bxf7+ Kxf7 7.Nxe4

これで駒割が互角に戻った。しかし黒には双ビショップの優位があり白の中原は2手前ほど強力でない。黒の方から見てこの応酬の唯一の不利な点はキングが明らかに不安定なことである。しかしこの問題点は造作なく解決できる。実戦は次のように続いた。7…Re8 8.Nf3 Kg8 9.O-O Nd7 10.c3 b6 11.Qb3+ e6 12.Nfg5 Nf8

これで白に優位はない。

 e3またはd3にいるビショップは通常は攻撃を恐れることなく中原を支援することができる。3段目にいるビショップが一番よく攻撃されるのはg4に跳んできた敵のナイトによってである。通常は …Ng4 から …Nxe3 という手順は f3 または h3 によって防ぐ。しかし時にはこの捌きをやらせることがある。それは …Nxe3 のあと fxe3 と取り返すとポーン中原が強化され、少なくともビショップをナイトと交換した「損」に見合った代償となるからである。白はシチリア防御のカン/タイマノフ防御(第6章参照)で両方のビショップを三段目に展開することがよくある。

 ビショップを3段目に展開する一つの指針、実際には行動規範とも言うべきものは「まだ動いていないeまたはdポーンの前の3段目にビショップを展開するな」である。中央列のポーンは中原を占拠したり支援を加えたり、駒の展開のために進路を開けたりするために自由に動けるようにすべきである。

 e2/e7とd2/d7は通常は守りのためにビショップが占める位置である。これはそのようなビショップの利きが3段目のナイトによって制限されるためでもある。この「規則」に対する最も有名な例外はシチリア防御の多くの戦型で見られる。そこでは白のe2のビショップが中盤で攻撃と防御の両用によく用いられる。例えばドラゴン戦法(第6章)では白の 7.Be2 がe3のビショップを攻撃してくる黒の …Ng4 を防ぎ、あとで g4 突きを支援する。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[7]

第1章 展開と戦術(続き)

1.7 フィアンケット

 フィアンケットとは g3/b3 の後 Bg2/Bb2 とする手順のことである。これでビショップが「対角」斜筋(h1-a8またはa1-h8)の一つに展開される。このように展開されたビショップはフィアンケットビショップと呼ばれる。現代防御システムでは黒が真っ先に行なうことはキング翼ビショップをフィアンケットすることである。1.e4 g6 2.d4 Bg7

  図12(白番)

 g7またはb7からビショップは中原にも支援をおくっているだけでなく、斜筋上のもっと遠い地点(a1とb2)にも潜在的な圧力をかけている。チェス理論の初期の頃にはビショップが対角斜筋上に展開されることはめったになかった。しかし過去半世紀の間にフィアンケットは周知の主題となり、現在ではすべての棋力の試合でよく見られるようになった。フィアンケットビショップは攻撃の武器として用いることができるだけでなく、背後のg8にいるキャッスリングしたキングを守ることもできる。

 時には敵のフィアンケットビショップを交換によって取り除くことが望ましいことがある。これを行なうためによく用いられる手段が次の図で示されている。

  図13(白番)

 白はクイーン翼ビショップをe3に展開し、黒がこのビショップを …Ng4 によって攻撃できないように用心している(f3 と突くことにより)。そしてクイーンをこのビショップの背後に置きこれから Bh6 と指した後このビショップに紐をつけている。ビショップをh6に進めたあと白はg7のビショップとの交換を狙っている。黒はビショップをh8に引くことはできない。そうするとルークが当たりになって取られてしまう。だから黒は自分から …Bxh6 と交換するか白に好きな時に交換させるかしなければならない。

 もちろん黒は f3、Be3、Qd2、Bh6 という手順を認識して自分のフィアンケットビショップの交換を防ぐ手段を講じることができる。例えばルークをf8からそらして白が Bh6 と指した時フィアンケットビショップをh8に引くことができる。ビショップはその位置からでも対角斜筋にまだにらみを利かすことができる。別の方法は Be3 に …h6 と突き Qd2 に …Kh7 と応じることである。このようにすれば白はビショップをh6に進めることができない。その地点は黒のキングとビショップによって守られている。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[8]

第1章 展開と戦術(続き)

1.8 f2/f7の弱点

 白にとってf2、黒にとってf7の地点は早期の攻撃に最ももろい。eポーン布局の昔の定跡のほとんどはこの弱点をめぐって組み立てられていた。キング翼ギャンビットとジオッコピアノが19世紀と20世紀前半に隆盛を極めたのはこのためだった。

 f2/f7の地点の重要性と脆弱性は試合の始まりではキングでしか守られていないということに起因している。これによりいろいろな詰みの可能性が生まれ、迂闊な相手に対して時折用いられる。読者もチェスを覚えたての頃「学者の詰み」にはまったことがあるだろう。そんな早々の災難はひどい見落としの結果でしかないが、熟達した選手でもf2/f7への攻撃に基づいた戦術の企みのためにあっさり負けることがある。以下はそのいくつかの例である。

 (1)1.e4 e5 2.Nf3 d6 3.Bc4 Bg4 4.Nc3 h6? 5.Nxe5! Bxd1?

 図14(白番)

(5…dxe5 なら 6.Qxg4 で白がポーン得で優勢である)6.Bxf7+ Ke7 7.Nd5#

 (2)1.e4 e5 2.Nf3 d6 3.Bc4 Be7 4.d4 exd4 5.Nxd4 Nf6 6.Nc3 Nc6 7.O-O O-O 8.h3 Re8 9.Re1 Nd7?

10.Bxf7+! Kxf7(キングがf8またはh8に逃げると 11.Ne6 でクイーンを取られる)11.Ne6!! Kxe6 12.Qd5+ Kf6 13.Qf5#

 (3)1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 b5 5.Bb3 Nf6 6.d4 Nxd4?

7.Bxf7+ Kxf7 8.Nxe5+ Ke8 9.Qxd4 白は駒を取り返し1ポーン得になった。

 (4)1.d4 g6 2.e4 Bg7 3.Nf3 d6 4.Nc3 Nd7 5.Bc4 Ngf6 6.e5!

6…dxe5 7.dxe5 Nh5 8.Bxf7+ Kxf7(8…Kf8 は 9.e6 で駒損になる)9.Ng5+ Kg8(キングが他に動けば 10.Ne6 でクイーンが取られる)10.Qd5+ 黒投了(f7での詰みが防げない)

 (5)1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2 c5 4.exd5 exd5 5.dxc5 Bxc5 6.Ne2??

6…Qb6 これで白が負ける。白は詰みを避けるためにはナイトを捨てるしかない。例えば 7.Nf3 は 7…Bxf2+ 8.Kd2 Qe3# で詰む。

 (6)1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bc4 g6?

7.Nxc6 bxc6 8.e5 dxe5?? 9.Bxf7+! Kxf7 10.Qxd8 これで白の勝ちとなる。

 上例のそれぞれで一方が急に負けの局面になった。それはf2/f7の地点にきちんと目配りしていなかったためである。これらは特異な例ではない。チェスの書物にはそれこそ何千もの例がある。読者は本書の以降の章を学んでいる間にもっと多くの例に出会うだろう。布局でのf2/f7の地点の重要性はいくら強調してもしすぎることはない。f2/f7の地点への攻撃と捨て駒にはいつも注意しなければならない。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[9]

第1章 展開と戦術(続き)

1.9 キングの安全

 キングは盤上で最も重要な駒であり、いつも細心の注意を持って扱わなければならない。試合の始まりではキングは自陣の中央に位置していてかなり不安定である。戦いが激しくなり戦術がたけなわになってくればキングを中央に置いておくのは非常に不利である。なぜなら戦闘に巻き込まれかねず悲惨な結果を招くかもしれないからである。

 幸いにもチェスの規則にはキングを中央から遠ざける手段、即ちキャッスリングがある。通常は試合の早い段階でキャッスリングするのが賢明である。キャッスリングは普通は布局戦略の一環として行なわれる。中盤までキャッスリングを持ち越すのはたまにしかないが状況によっては、特にクイーンが交換された場合には、キャッスリングを全然しないことが可能なことがある。そもそもキャッスリングというものはキングを安全な所に置くのが重要な務めである。クイーンが交換されてしまえばキングに対する攻撃の危険性は大きく減少する。だから布局で互角になれば満足の黒は時にはキャッスリングの権利を放棄してもクイーンを交換することがある。次の戦法はその一例である。1.d4 Nf6 2.c4 d6(古インディアン防御)3.Nc3 e5

ここで白は黒からキャッスリングの権利を奪う選択肢がある。4.dxe5 dxe5 5.Qxd8+ Kxd8+
 図15(白番)
 黒はすぐに …c6 と突いてキングの避難所を作る。そうすればキングはc7に安全に落ち着くことができ収局に備えることができる。クイーンの交換によって白の布局の優位は最小限になっていて、注意深く指せば黒は引き分けにできる。

 ほとんどの布局では白も黒もキャッスリングするのが普通である。だから読者はキャッスリングしたキングの陣形に存在するいろいろな種類の弱点を注意深く研究するのがよい。そうすれば自分のキングの陣形にそのような弱点を作ることを避ける方法を学んだり、敵陣のそのような弱点につけ込むいろいろな攻撃の仕方の作戦を検討したりできる。

 キャッスリングしたキングの安全の要はキングを保護するポーンの形である。安全かつ柔軟性のあるポーン構造はh2、g2およびf2のポーンから成る基本的な配置である(白キングがキング翼にキャッスリングしたものとする)。h2のポーンは通常はg1のキングだけでなくf3のナイトによって守られている。もしh2-b8の斜筋に沿ってh2の地点に対する攻撃が強ければ、g3と突いてこの攻撃を鈍らせることができる。もしhポーンがh2でなくh3にあれば敵はそれを目標に …g5-g4 突きによって、またはビショップかナイトをh3で切ってキング翼攻撃を加速させることができる。

 h3、g2およびf2のポーン構造に付きまとう弱点のためにh3突きは軽い気持ちで行なってはならない。h3突きの別の不利益な点はナイトの展開の節でも見られた。このポーン突きは確かに何らかの弱点を作るが必要かつ利益となることもよくある。h3と突くべきか突くべきでないかを判断できるようになるためにはチェスの他の要素の判断と同様に経験によるしかない。

 既にビショップの展開の節でフィアンケットを見てきた。キャッスリングしたキングは普通はフィアンケットビショップの背後でうまく隠されている。キングの周辺に侵入するためには敵は侵入口を見つけなければならない。そのような陣形を攻撃する通常の方法は h4-h5 と突き hxg6 でh列をこじ開けることである。そうなれば以前に述べた捌きでフィアンケットビショップを交換すればh列に沿って詰みを目指す攻撃が可能となってくる。

 ずっと先に進んだgポーンの背後でキャッスリングする(またはキャッスリングしたキングの前のgポーンをずっと突き進めて行く)のは非常に攻撃的な戦術だがはねっ返りもよく起こる。攻撃がうまくいかなければ攻撃側のキングは守りが手薄になり相手の猛烈な反撃にさらされる。

 hポーンやgポーンを突くのはしばしばキャッスリングしたキングを弱めるが、fポーン突きは通常はそれほど危険な被害をもたらさない。このポーン突きはキング翼攻撃の役に立つことがよくあり、e5突きによる中央突破の支援に役立つこともある。fポーン突きによりできる一つの弱点はg1-a7の斜筋である。

(この章終わり)

2010年04月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[10]

第2章 ポーンの重要性

フィリドール「ポーンはチェスの魂である」

 自分のポーンの扱い方をある程度理解したり敵の歩兵に対する正しい対処法をある程度知っているのでなければ誰もチェス布局の複雑さの習得は期待できない。ポーンは骨の構造、即ち盤上の骨格を成し、自分のポーンが弱ければ自陣が全体的に病んでいるかもしれない。一方自分のポーンが強ければ恐らく自陣が全体的に健全で元気であろう。

 布局から生じるポーンの形で駒の働きが決まってくるかもしれない。弱いポーンの守りに汲々とすることになるかもしれないし、不本意な地点にいるポーンによって自分の駒が動きを阻害されることが起こるかもしれない。さらに言えば弱い地点のような要因はポーンの形しだいである。

 これからこの最も重要な分野を系統的に調べていくことにしよう。

2.1 ポーンの弱点

 ポーンはかなり異なる二つの方面で弱くなる。即ち守りにおいて弱くなるし攻めでも弱くなる(「静的」および「動的」弱点が通常の用語である)。まず守りに弱いポーンを考えてみよう。ポーンはチェス駒の中で最も動きが少ない。だからポーンに当たりがかかっている時、攻撃している駒の利きからよけることが非常に困難なことがある。危険にさらされているポーンを守る最も経済的な方法は別のポーンで守ることである。駒で守るのは守る役目を負わされた駒の動きが損なわれることになる。

 他のポーンで守れないポーンは疑念の目で見るべきである。つまり潜在的な弱点になるかもしれないのである。このような弱点の見本は孤立ポーンと出遅れポーンである。両隣の列の味方のポーンがなくなったポーンが「孤立」ポーンで、両隣の列の味方のポーンが進みすぎてそれらから守られなくなったポーンが「出遅れ」ポーンである。

 もちろん前の段落の説明はせいぜい役に立つ一般論である。孤立または出遅れポーンが本当に弱いかどうかは盤上の駒配置全体に依存している。本書の布局を読んだり並べたりしていくうちに孤立dポーンが強力な攻撃の道具になる局面の例に出くわすだろう(特にクイーン翼ギャンビット受諾で)。シチリア防御でも黒が早期に …e5 と突いて出遅れdポーンを甘受しながら白軍がこの欠陥につけ込む態勢にないために黒の指しやすい局面になるいくつかの戦型がある。しかしこれらは原則というより例外である。読者は次の顕著な例でポーンの弱点がどれほど深刻になる可能性があるか納得するはずである。

 図16(黒番)

 この局面は1925年バーデン=バーデンでのジョージ・トマス卿対アリョーヒン戦に現れた。目立つ特徴は白の二つのポーンの弱点、即ち孤立aポーンと出遅れcポーンである。これらは次々に白陣の全体的な崩壊につながった。白駒は守りの地点を占めるように強いられている。特に白のビショップは教会の大黒柱というより栄光あるポーンになっている。勝利への過程は手数がかかるが最終的な結果について何の疑いもないのは白が一度としてほんのわずかな活動の余地も許されなかったからである。図から試合は次のように決着がついた。1…Qd5 2.Qe3 Qb5 3.Qd2 Rd5 4.h3 e6 5.Re1 Qa4 6.Ra1 b5

7.Qd1 Rc4 8.Qb3 Rd6 9.Kh2 Ra6 10.Rff1 Be7 11.Kh1 Rcc6

(これは …Qc4、…Ra4 そして …Rca6 と駒を組み換える作戦である。その後は白のaポーンが守れなくなる。この狙いのため白はすぐにクイーン交換を強いられる)12.Rfb1 Bh4 13.Rf1 Qc4 14.Qxc4 Rxc4 15.a3 Be7 16.Rfb1 Bd6

17.g3 Kf8 18.Kg2 Ke7 19.Kf2 Kd7 20.Ke2 Kc6 21.Ra2 Rca4

22.Rba1 Kd5 23.Kd3 R6a5 24.Bc1 a6 25.Bb2 h5

(白のすべての駒が縛り付けられているのでキング翼に新たな弱点を作らせるのはたやすい。狙いは …h4 である)26.h4 f6 27.Bc1 e5

(白陣がついに崩壊する)28.fxe5 fxe5 29.Bb2 exd4 30.cxd4 b4 31.axb4 Rxa2 32.bxa5 Rxb2 白投了

 この実例はポーンの弱点が比較的長く持続することをよく説明している。即ちそういう弱点がいったん現れれば根絶することは難しいのである。図16で示された局面で黒はすぐに戦力を得する手段はないけれども決定的な優勢に立っている。白は弱いポーンを絶えず守る必要があるために完全な守勢に追い込まれ黒は意のままに態勢を強化することができる。

(この章続く)

2010年05月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[11]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 さらに続ける前に二つの明らかだが重要な一般的要点について触れておこう。一つ目は素通し列上の出遅れポーンと孤立ポーンは素通しでない列にあるものよりはるかに弱いのが普通である。これは素通し列上のポーンは敵の大駒によって縦から攻撃されるからである。二つ目はポーンそのものだけでなくポーンの前の地点も弱点になるかもしれない。例えば前に出てきたトマス対アリョーヒン戦ではc4の地点がしっかり黒の手中に落ち黒駒の絶好の拠点として利用された。

 盤上の戦力が交換によって減っていくにつれて弱いポーンの不利は減少するどころか増大していく傾向がある。それは弱者の保護を他の個所の活発な活動と組み合わせるのがだんだん困難になるからである。その実例が図17で見られる。この局面は1912年ブレスラウでのルビーンシュタイン対マーシャル戦である。

 図17(白番)

 ここまでの指し手でルビーンシュタインはマーシャルの2ナイトに対し双ビショップを持つ有望な中盤戦を拒絶し大駒だけの収局に持ち込んだ。明らかに彼の判断は主観的にも(マーシャルは収局よりも攻撃の方が得意だった)客観的にも正しかった。中盤戦では黒はf列を白キングに対する襲撃の集結地点として用いることができた。これに対して実戦の収局ではこの列の支配は大して重要でなく、黒は孤立cおよびeポーンの代償がない。これらのポーンの弱さは試合の結果を決めるのに十分だった。1.e4! Qh5 2.f4!(2.Qxc6 は 2…Rh6 3.h4 Qg4 で黒にキング翼で手を作らせ十分な引き分けの可能性を与えてしまう。黒はルークを切って永久チェックをかけるのがよくやるやり方である。白は急いで弱いポーンを取る必要はない。それらは逃げだすことはない。だから白はまず自分のキングの安全を確保すべきである)2…Qa5 3.e5 Rh6 4.Rc2 Qb6+ 5.Kg2 Rd8 6.Rff2

(これで黒は戦術の狙いが尽きて自陣が崩壊する)6…Rc8 7.Rfd2 Kh8 8.Rd6 Qb8 9.Rxc6 Rg8 10.Rc8

これで白が勝つ。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[12]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 孤立dポーンには独自の世界がある。タラシュはかつて「孤立dポーンを持つことを恐れる者はチェスを止めた方がよい」と言っていた。このポーンの静的な弱さはしばしば動的な威力によって補われる。この点をもっと明らかにするのに役立つ二例を挙げる。

 図18(白番)

 図18で白は孤立dポーンとの戦いに成功している。白のルークは素通し列で活発に活動し、素晴らしい配置のナイトは盤上を席巻している。盤上で最も弱い駒は明らかにdポーンによって閉じ込められた黒のビショップである。白の陣形上の大きな優位を見ればこの優位を戦力上の観点に転換する手筋があっても少しも驚くにあたらない。図の局面から実戦は次のように進んだ。1.Qxc7! Qxc7 2.Ncxe6 Qxc3(クイーンが逃げれば白は切ったクイーンの代わりに2ルークとビショップを手に入れることになる)3.Rxc3 fxe6 4.Nxe6

白は1ポーン得で楽勝の収局になる。

 図19(白番)

 次は図19の局面を考えよう。ここでも白は非常に優勢である。しかし今度は孤立dポーンが攻撃側に立っている。ポーンがd4にいるので白はナイトを攻撃的な地点のe5に置くことができた。白の他の駒も活動的な地点に配置されている。対照的に黒の兵力は非常に守勢で、d5に駒を置いて白のdポーンをせき止めることもできなかった。このような局面では白はポーンをd5に進めて敵陣を乱す手筋を探すのがよい。白はここから次のような手順で勝った。1.Nxf7 Kxf7 2.d5 Nxd5 3.Nxd5

3…Qb8(3…exd5 は 4.Bxd5+ Kg6 5.Bxe7 Rxe7 6.Qxe7 Nxe7 7.Rxc7 で白の勝勢)4.Nxe7 Rxe7(4…Nxe7 は 5.Rxd7 Rxd7 6.Qxe6+)5.Bxe7

 一般に孤立dポーンの動的な強さはe5/e4とc5/c4の効果的な拠点の支配と好機に d5/…d4 と突いて仕掛ける可能性とから生じると言える。d4のポーンが敵のe6のポーンと対峙している通常の局面では孤立dポーン側は中原でいくらか陣地が広い有利さもある。孤立dポーンに対する時にはこのポーンをせき止め、キャッスリングしたキングや素通しc列に対する直接攻撃を用心することによって相手のdポーンの利点を無効にするように注意しなければならない。収局になれば孤立dポーンははっきりとした(おそらく致命的な)弱点になるのが普通である。

(この章続く)

2010年05月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[13]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 強くなることもあれば弱くなることもある別のよく見られるポーンの形を以下の2図に示す。

 図20(白番)

 黒のd5とc5のポーンは「浮きポーン」と呼ばれる。浮きポーンが強いか弱いかはどちらの陣営が主導権を握っているかとそのポーン自身が縛り付けられているかそれとも自由に進めるかで決まってくる。図20は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキー戦の第6局である。ここでは攻撃を受けていて黒はそれらを突き進めることができないのでいくらかお荷物になっている。黒はそれらのポーンを駒で守ってきたが防御手段を取ってきた結果として黒軍はいくらか陣形が乱れている。特にcポーンが釘付けにされていることに注意が必要で、白(フィッシャー)は次の手でそのことにつけ込んだ。1.Nd4 そして次のように進んだ。1…Qf8 2.Nxe6 fxe6 3.e4!

3…d4(3…dxe4 と取ると黒のポーンの形がどうしようもないほどばらばらになってしまいフィッシャーは容易にポーンを取り返して優位に立つだろう)4.f4 Qe7 5.e5 Rb8 6.Bc4 Kh8 7.Qh3 Nf8 8.b3

スパスキーがどのように転落していったかが簡単に見て取れる。フィッシャーはビショップ対ナイトの優位を得て f5 と突いてキング翼に決定的な攻撃を開始しようというところである。スパスキーの白枡ビショップが交換されたのでキングの周りの白枡が非常に弱くなっている。黒の陣形は動きが難しく反撃もほとんど期待できない。黒キングとcポーンは厳しい圧力にさらされパスdポーンは白のビショップとクイーンによって厳重にせき止められているので役に立っていない。

 図21(黒番)

 今度は図21を見てみると状況が違うことに気がつく。ここでは黒の浮きポーンは働きの良い駒によってしっかり守られていて、すぐにそれらを突き進めることにより黒は非常に強力なパスポーンを作り出すことができる。結末は以下のとおりだった。1…d4! 2.Qe2 Ne5 3.exd4

3…cxd4(3…Bxc1? 4.dxe5)4.Rxc8 Bxc8 5.Re1 d3!

6.Qd1(6.Qxe5 Qxe5 7.Rxe5 d2 はなおさら悪い)6…Bg4 7.Qa1 d2 8.Rxe5 d1=Q 9.Re8+ Rxe8 10.Qxf6 Be2

11.Ng3 Bg7 12.Qc6 Bb5 13.Qc1 Qxc1 14.Bxc1 Re1 15.Be3 Ra1

16.a4 Bd3 17.f4 Rb1 18.Kf2 Bxf1 19.Nxf1 Rxb3 白投了

収局は黒の楽勝である。

 以上から導かれる一般的な結論は浮きポーンは守りにおいては弱い存在(隣接した列の2個の出遅れポーンのようなものである)であるが自由に前進できれば攻撃の戦力となれるということである。

(この章続く)

2010年05月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[14]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 本節の初めに述べたように防御における弱点は外形に現れるポーンの弱点が唯一の種類というわけではない。図22のわざと作った局面を考えてみよう。

 図22

 これは単純なキング+ポーン収局である。戦力は互角だがポーンの形は均等でない。黒はキング翼で3対2で優勢だが白はクイーン翼で同じような態勢になっている。この局面の唯一の違いは白の二重bポーンである。ほとんど違わないと思うかもしれない。しかしこの局面がマスターの試合に現れたら白の選手のほとんどは状況が絶望的だとしてためらうことなく投了するだろう。白の負けは何によるのだろうか。白のポーンはどれも防御するのに弱いというわけではない。それらはすべて黒のポーンと同じく簡単に守ることができる。しかし二重bポーンのために白のクイーン翼のポーンは攻撃力が非常に弱い。黒はキング翼の多数派ポーンを突き進めてすぐにパスポーンを作ることができる。しかし白は正確に応じられるとクイーン翼の多数派ポーンからパスポーンを作ることがどうしてもできない。

(この章続く)

2010年05月31日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[15]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 図23(白番)

 図23に示されているのは攻撃における弱点の別の様相である。白にはナイトに対するビショップだけでなく威容を誇るポーン中原があり、一見したところ白が好調のようである。しかしよく調べてみると勝つ可能性は黒にだけあることが分かってくる。白の誇りの中原はそのままでいる限り申し分ない。しかしそれが前進しようとすると粉みじんになる。読者に覚えておいて欲しいが、ポーン中原は決してそれ自身を目的として追求すべきものではなく攻撃の突破口の手段として追求すべきものである。

 図の局面で通常のe5突きは白に二組の二重孤立ポーンが残るので陣形上の自殺行為である。ポーンをc5に突いてクイーン翼での攻撃を図るのはそのポーン突きを支援するポーンがb列にないので同じく失敗する運命である。黒がキング翼で攻撃の準備を始めている間に白にできることは重厚だが動かせないポーンの背後でじっとして何かが起こるのを期待するのが関の山である。実戦は次のように進んだ。1.Rb5 Qh6 2.Rbg5 f6 3.R5g4 g6 4.Bd3 Re7 5.c4 Ng7

6.c3(6.Qxf4 Qxf4+ 7.Rxf4 Ne6 から 8…Nxd4 も同じく黒が良い)6…Ne6 7.Bf1 f5 8.R4g2 Rf6 9.Bd3 g5

(…Qxh3+ の狙い)10.Rh1 g4 11.Be2 Ng5 12.fxg4 f3 13.Rg3 fxe2

これで白が投了した(ヤノフスキー対ラスカー、世界選手権戦、1909年)。

(この章続く)

2010年06月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[16]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 以上の例から分かるように二重ポーンを含むポーン群は攻撃力が弱くなることがよくある。しかし二重ポーン群が弱点であると言うのは公正ではない。例えばニムゾインディアン防御の章を読めば二重ポーン群の動きの不自由さが、二重ポーンが中原に与える強さによって補われている局面の例に出くわすだろう。二重ポーンが中原を強化している別の実例は本章の後半に出てくるゲルファー対キーン戦で見られる。

 読者は孤立二重ポーンがほとんどすべての局面で重大な弱点となっていることを既に確信しているだろう。それは孤立ポーンに伴う通常の困難に、前の方のポーンを大駒で後ろから守れないということが付け加わるからである。

 図24(白番)

 図24は真の弱点がポーンの前の地点であることがよくあることを示している別の例である。黒ポーンをせき止めている白のナイトは黒陣を席巻していて黒駒がキングの守りに来るのを防いでいる。最後はきれいな詰みで終わった。1.Re3 Kh8 2.g4 Rg8 3.Qxh7+!! Kxh7 4.Rh3+ Nh4 5.Rxh4+ Kg6 6.Rh6+ Kg5 7.f4+ Kxg4 8.Ne3#

(この章続く)

2010年06月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[17]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 戦術上のよくある狙い筋は交換損の犠牲で相手陣に孤立二重ポーンを作らせることである。その過程で相手側の防御がずたずたになる時は最も効果的となる。この主題の最もよく知られた例はシチリア防御のドラゴン戦法に見られる。しかしここでは二つの例をとおしてその構想を解説する。

 図25(黒番)

 図25から次のように進んだ。1…Rxf4!? 2.gxf4 Qxf4

黒の駒捨てで一本道の勝ちになるわけではない。しかし白キングの薄さと弱いポーンのために実戦的には非常にその可能性がある。3.Ne5? Nxe5 4.dxe5 Rf8 5.Qg3 Qc4 6.Raa1 Rf4 7.f3 Nf5

8.Qg6 Nxh4 9.Qxe6+ Kh7 10.Qh3 Qxc3 11.e6 Nxf3+ 12.Kg2 Qxc2+

13.Kg3 Rh4 14.Rxf3 Qg6+ 15.Kh2 Rxh3+ 16.Rxh3 Qxe6 17.Rg3 Qe4 白投了

 図26(黒番)

 図26からは次のように進んだ。1…Rxe3 2.fxe3 Qe8

3.Qc2(3.Kf2 なら黒は単純に 3…Qe6 から 4…Re8 と指す)3…Qxe3+ 4.Kh1 Ne5 5.Rf1 Re8 6.Rf4 f6 7.Qe4

7…Ng6(7…Qxc3 は 8.Rxd7 で紛れる)8.Qxe3 Rxe3

9.Rxd7(9.Rf2 でも 9…Ne5 で白の2個のcポーンがすぐに落ちるので黒が勝つ)9…Nxf4 10.gxf4 Rxe2 11.Rxa7 Rf2 12.Rb7 Rxf4 13.Rxb6 Rxc4 14.Rb3 Kf7

黒がこの収局を勝つのは難しくなかった。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[18]

第2章 ポーンの重要性

2.1 ポーンの弱点(続き)

 どんな連結ポーン群にも少なくとも1個の仲間に守られていないポーンがなければならないので、多くのポーン島のある局面には少ないポーン島の局面よりも弱いポーンが多いのが普通である。本節の最後にこの原則をよく物語る教訓を紹介する。

 図27(黒番)

 図27の局面は1955年ブタペストでのペトロシアン対バルツァ戦である。自著の「ペトロシアン名局集」の中でP・H・クラークは次のように述べている。「白の陣容は申し分ないが黒はばらばらである。一般原則としてポーン群(ポーンの『島』と呼ばれることがある)は少ないほど良い。この局面では1対4になっていてこれより鮮明な実例は望めない。これ以降ポーンが熟れすぎたプラム(西洋スモモ)のように落ちていく。」試合は次のように進んで終わった。1…Be7 2.Rxb6 Rc6 3.Rxc6 Rxc6 4.Ra8+ Kd7

5.Ra7+ Rc7 6.Rxc7+ Kxc7 7.Qxh7 Qa2+ 8.Kf3 Qd2

9.Qb1 f5 10.Ng3 Bh4 11.Ne2 Be7 12.h3 Bb4

13.Ng3 Kc6 14.Nxf5 Kb5 15.Nd6+ Ka4 16.Nxf7 Ba3 17.Ne5 黒投了

(この章続く)

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チェス布局の指し方[19]

第2章 ポーンの重要性

2.2 ポーンの形

 個々のポーンの弱点はさておき、ポーンの形の悪さに直接起因する陣形上の欠陥にはいくつかの種類がある。通常これらはあまりに多くのポーンが同一の色の枡に固定された時に起こってくる。最も顕著に現れたのが「不良」ビショップ(味方のポーンによって動きが阻害されているビショップ)である。際立った例を次に示す。

 図28(白番)

 図28で白は非常に優勢である。それはf5とh5の空所を自分の駒の拠点として利用できることと、黒のどうしようもないg7のビショップがこの局面でポーンよりましと言えそうもないことによる。黒の窮状は厳しい締め付けによって倍加している。白のポーンが広い陣地を占めているので黒は息が詰まりそうである。勝利への作戦は見つけるのが難しくない。白は単に駒を組み換えて Nxd6 の犠牲を成立させるようにすればよい。これに対して黒は駒の動きが不自由で行ったり来たりさせるしかないので絶望的である。試合は次のように進んだ。1.Qc1 Rd8 2.Qa3 Bc8 3.Be3 Rd7 4.Rac1 Rd8 5.Red1 Bd7

6.Nxd6! Nxd6 7.Bxc5 Bc8 8.Bg4! Bxg4 9.hxg4 Rd7 10.Nf5 Qd8

11.Bxd6 Nf8 12.c5 Ng6 13.c6 bxc6 14.dxc6 Rxd6 15.Qxd6 Qxd6 16.Rxd6 黒投了

(この章続く)

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チェス布局の指し方[20]

第2章 ポーンの重要性

2.2 ポーンの形

 不良ビショップはある定跡、特にフランス防御、につきものの災難である。ポーンの形が固定されるとビショップの不利が終局までずっと続くことがある。

 図29(白番)

 図29では収局における優良ナイトの不良ビショップに対する勝利が見られる。ビショップ対ナイトのすべての局面における一般原則は、ビショップを持っている側は自分のポーンをビショップのいる枡と同じ色の枡に置かないようにすべきであるということである。図の局面で黒のビショップは動く範囲が非常に制約を受けているので保護パスcポーンがあっても負けを免れない。試合は次のように進んで終わった。1.f5(見せかけのポーンの犠牲でナイトのためにf4の拠点を空けた)1…g5 2.h4 f6 3.hxg5 fxg5 4.Ng1 Bd7 5.f6+ Ke8

6.Nf3 g4 7.Nh4 Be6 8.Ng6 Bf7 9.Nf4 Kd7 10.Ke2 a5 11.Ke3

(黒はほぼ「手詰まり」である。キングは白の e6 突きを防ぐためにd7にいなければならずビショップはdポーンとhポーンを守るためにf7にいなければならないので黒が駒を動かせば戦力損になる)11…Bg8 12.Nxh5 Bf7 13.Nf4 Bg8 14.Ne2 Be6 15.Kf4 Ke8

16.Kg5 Kf7 17.Nc3 Kf8 18.Kg6 Kg8 19.f7+

19…Kf8(19…Bxf7+ は 20.Kf6 Kf8 で本譜に戻る)20.Kf6 Bxf7 21.e6 Bh5 22.Nxd5 Be8 23.Nc3 黒投了

dポーンが前進していってすぐに白の勝ちが決まる。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[21]

第2章 ポーンの重要性

2.2 ポーンの形

 図30(黒番)

 図30ではあまりに多くのポーンを同じ色の枡に置くことにより生じる別の種類の不利が見られる。ここではh7、g6およびf5の黒ポーンがみな白枡にありその結果キング翼の黒枡がひどく弱体化している。これらの地点の弱点は、通常は補ってくれるキング翼のビショップが交換されているために弱さが増している。黒のf6およびh6の空所は特に目立っている。白は次のように手早く勝ちを決めた。1…Qf7 2.exf5 gxf5 3.g6!

3…Qxg6(3…hxg6 は 4.Ng5 から詰みになる)4.Bxg7 Qxh6+(4…Qxg7 5.Rhg1)5.Bxh6

(この章続く)

2010年07月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[22]

第2章 ポーンの重要性

2.2 ポーンの形

 均衡のとれたまたは対称的なポーンの形は引き分けっぽい局面になりやすいことがよく知られている。最も激しい布局定跡は不均衡なポーンの局面を作り出そうと努め勝つ可能性を高めている。不均衡な局面では二種類の多数派ポーンを区別すべきである。それは中原での多数派ポーンと側面での多数派ポーンである。

 図31(黒番)

 図31で白は双ビショップによってしっかり支援された立派な可動多数派ポーンを中原に持っている。ビショップは閉鎖的な局面が好きでない。しかしこの図のような開放的局面では双ビショップを持っていることは優勢の重要な要因である。白ポーンの迅速な前進により黒は自軍の協調が困難になる。1…Kd7 2.Rfe1 e6 3.Rad1 Nd8 4.Bf4 Rc8 5.c4 Re8

6.c5 Ke7 7.Bd6+ Kd7 8.b4 a6 9.Bg3 Re7 10.Bh4 f6

11.d5 exd5 12.Bg4+ Ne6 13.Rxd5+ Kc6 14.Rd6+ Kb5 15.Rb6+ 黒投了

(この章続く)

2010年07月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[23]

第2章 ポーンの重要性(続き)

2.2 ポーンの形(続き)

 今度は中原の可動ポーン軍のもたらすことのできる破滅的な効果の例である。ゲルファー対キーン、学生オリンピアード、ドレスデン、1969年 1.c4 c5 2.Nc3 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 Nc6 5.Nf3 e6 6.d3 Nge7

7.Bf4 e5 8.Bg5 h6 9.Be3 d6 10.Qc1 a6 11.Rb1 Rb8

12.a3 b5 13.cxb5 axb5 14.b4 c4 15.dxc4 bxc4 16.O-O Nd4

17.Qd1 Nef5 18.Nd2 Be6 19.Bd5 Rc8 20.Rc1 O-O 21.Bxf6 exf6

(二重ポーンはここでは弱点とならない。黒の中原の強化に役立たせるだけである)22.Bxd4 exd4

(黒のポーンの強さ-特にパスcポーン-は圧倒的である。白のクイーン翼の連結2ポーンは相対的に価値がない。なぜならそれらの前進を支援する駒を効果的に配置できないからである)23.Nce4 c3 24.Nb3 Qb6 25.Qd3 e5

26.Rfd1 Rf7 27.Ra1 Rcf8 28.Rf1 d5

29.Nec5 e4 30.Qd1 Ne3! 31.Nd7 Qd6 白投了
 図32(白番)

(この章続く)

2010年08月02日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[24]

第2章 ポーンの重要性(続き)

2.2 ポーンの形(続き)

 不均衡な局面の非常によくある型は両者の反対翼に多数派ポーンがある場合である。両者がキング翼にキャッスリングすればたいていクイーン翼に多数派ポーンを持つ方が優勢である。これは二つの理由による。中盤ではクイーン翼のポーンは自由に進めるのが普通である。これに対してキング翼のポーンは前進したポーンのせいでキャッスリングしたキングの前に弱点ができる可能性があるので細心の注意を払わなければ進めることができない。同様に収局では両者がパスポーンを作り出そうとしている時、相手のキングによってせき止められないクイーン翼のパスポーンの方が役に立つ。

 クイーン翼多数派ポーンの潜在的な優位性に対抗するために企てられる重要な戦略計画は「少数派攻撃」である。これは同じ翼の相手の多数派ポーンに対して少数派ポーンをぶつけることである。少数派攻撃を行なう方は硝煙が晴れたあと敵の多数派ポーンの「余分な」ポーンが弱体化しむき出しになることを期待している。このような戦略の例として1963年のキーン対パターソン戦を取り上げる。これは少数派攻撃の大成功の例である。1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.Nf3 Bg7 5.Bg5! Ne4

6.cxd5 Nxg5 7.Nxg5 e6 8.Qd2 h6 9.Nh3 exd5

10.Nf4 c6 11.e3 Bf5 12.Bd3 Qf6 13.O-O O-O

(これで少数派攻撃の舞台が整った。白はbポーンとaポーンを進めていきこれらが交換されたあと黒の残ったクイーン翼ポーンは弱体化している)14.b4 Nd7 15.b5 Bxd3 16.Qxd3 Nb6 17.a4 Rac8

18.a5 Nc4 19.a6 Qe7 20.axb7 Qxb7 21.bxc6 Rxc6

(白の戦略が成功しdポーンは助からない)22.Rfb1 Qd7 23.Nfxd5 Rfc8 24.Nb4 Ne5 25.Qe4 f5?

(これはポカだがどのみち黒の負けである)26.Qd5+ Qxd5 27.Ncxd5 黒投了

(この章続く)

2010年08月09日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[25]

第2章 ポーンの重要性(続き)

2.3 ポーンと広さの支配

 一般に、可能ならばいつでも自陣を広げるのはそれによって自陣に弱点を作らないかぎり良い考えである。陣地を確保する最も重要な方法はポーンの前進である。狭小な陣形に伴う困難さの顕著な例を既に見てきた(図28)。読者は本書の以降でも他の例を見つけるのに事欠かないだろう。

 しかし一言注意しておくと、側面の一撃に気をつけよ。図33を考えてみよう。

 図33(黒番)

 この局面は白がdポーンをd5まで突き進めて中原で陣地をよけいに取ったところである。このために中原は閉鎖状態になった。側面攻撃に対処する適切な方法は中原で反撃するのが通例である。ここでは白は中原で何もできないのでそれは不可能である。そして黒はキング翼でポーン雪崩を開始することができ、それに対して白は無力である。局面は次のように進んだ。1…f5 2.Bh6 f4 3.Bxg7 Kxg7 4.Qd3 g5

(勝ちはほとんど自動的である)5.Nh2 Nf6 6.f3 h5 7.Kf2 g4 8.hxg4 hxg4 9.Ke2

(被災地から避難しようとしたがすぐに負けになる)9…g3 10.Ng4 Nxg4 11.fxg4 Bxg4+

そして黒が勝った。

(この章続く)

2010年08月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[26]

第2章 ポーンの重要性(続き)

2.4 パスポーンの注意点

 パスポーンが本領を発揮するのは通常は収局に入ってからなので、その研究は本当は布局定跡の本でなく収局の手引書の方がふさわしい。しかし布局、中盤、収局という標準的な分割は恣意的な面もあり、パスポーンが非常に早い段階でできることもあり得る。パスポーンを作ることは普通は良い考えである。前に出てきたゲルファー対キーン戦は保護パスポーンがどのように強力になり得るかの好例である。別の参考になる例は1972年スパスキー対フィッシャーの世界選手権戦第6局におけるパスeポーンである。

 もちろんパスポーンが弱体化することもあり得る。特に孤立している時はそうである。だからパスポーンができたらそれを必ず支援できることを確認しなければならない。中盤ではパスポーンを性急に突き進めず、収局にたどり着くことができるようになるまで大切に扱うことが良い考え方となることが多い。ポーンが自陣から遠く離れると敵駒に飲み込まれてしまうかもしれない。

 図34(黒番)

 図34では黒のaポーンが脅威のように思われるかもしれない。しかし実際はすぐに取られることになる。というのは Rfc1、Rc2、Rcxa2 という狙いに対して黒が受けがないからである。自分の子を見捨てるのは罰当たりである。

(この章終わり)

2010年08月23日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[27]

eポーン布局

初めに

 1.e4 は中原に地歩を占め白枡ビショップとクイーンの筋を開けるので白の初手として最も自然な選択の一つである。1.e4 に対する応手は一般的に二つのグループに分けることができる。一つは白が 2.d4 で完全なポーン中原を形成するのを黒が阻止するもので、もう一つはそのような中原を許し後でそれを反撃の目標として利用することに期待するものである。初めの種類には 1…e5 から始まるすべての対称形防御とシチリア防御(1…c5)とが含まれる。二番目の種類はここではフランス防御(1…e6)、カロカン防御(1…c6)および現代防御(1…g6)を代表的なものとする。

 まず考えるべき最も明らかな応手は 1…e5 である。というのは少なくともこの手を指すことによって黒が自分の可能性を低めることがないと思われるからである。白が 1.e4 と指す理由はすべて同じ正当性で黒にも当てはまる。もちろん局面が対称なので白にはまだ先着の利がある。しかしそもそも白はその有利さを持って試合を始めたのである。さて、白はどのように次の手を指すべきだろうか。可能ならば狙いを持って展開すべきという一般原則に従えば白の論理的な進路は自分の展開に寄与し同時に守られていない黒のeポーンを攻撃する手を探すことである。

 白がこれらの課題に取り掛かる方法は自分の棋風に大きく依存している。攻撃的な選手は例えばキング翼ギャンビットのように早い段階で局面が複雑化する布局をよく採用する。大局観で指し進める選手は争点をいくらか長く維持するのを選ぶのが普通で、2.Nf3 から始まる布局の一つを好みやすい。これはナイトを戦闘に投入する利点があり、いつかは起こる主眼の d4 突きに道を開く。これに対して黒はeポーンを守りながら展開する手を探すべきで、通常は 2…Nc6 を選ぶ。

2010年08月30日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[28]

eポーン布局

第3章 キング翼ギャンビット

1.e4 e5 2.f4

 19世紀においてキング翼ギャンビットはどの棋力の試合でも断トツの人気を誇る布局だった。白は2手目でポーンをただ取りに差し出すが、その意図は展開を速め黒キングに速攻をかけるために列を空けることである。絶頂期には白がキング翼ギャンビットの布局から猛攻を仕掛けて鮮やかな勝利をあげることがよくあった。しかし布局定跡が進歩するにつれて黒が賢明なやり方で戦力を展開することによって完全に満足のいく局面を得られることが発見された。

 白は2手目でfポーンを与えてf列を利用して黒のf7のもろい地点を攻撃する作戦である。第1章でf7の地点がc4のビショップとe5またはg5のナイトからしばしばどのように圧力を加えられるかを見てきた。ここでは白はキング翼キャッスリングによって攻撃の三つ目の戦線を開くことを期待している。hルークはf1に回りそこからf列に影響力を及ぼすことができる。

 ギャンビットの別の側面はもし黒がポーンを受諾(2…exf4)すれば中原の唯一の兵員が横にそれ、白が後で d4 と突いて中原の支配を増強し易くなるということである。それでも黒の最善の防御システムはギャンビットを受諾し、そのポーンを返して展開を容易にすることである。

 キング翼ギャンビットから生じる動的な局面のそもそもの特性によりこの布局は通常生じる切ったはったの戦術が好きな初心者とクラブ選手に最も人気がある。対照的にギャンビットが非常にしばしばかつ長い間指されてきたのでマスターのレベルでは研究により怖さがほとんど失われている。

(この章続く)

2010年09月06日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[29]

eポーン布局

第3章 キング翼ギャンビット(続き)

キング翼ギャンビット受諾

1.e4 e5 2.f4 exf4(図35)

 図35(白番)

3.Nf3

 これは最も自然な手である。…Qh4+ のチェックを防ぎ、キング翼で迅速に展開するという白の戦略全般に合致している。

3…g5

 黒は白がそう遠くない将来に d4 と突いて、犠牲にしたポーンを Bxf4 によって取り返しにくることを予期している。

4.Bc4

 ここでも白はキング翼展開の方針を推し進め、同時に黒のf7の地点を虎視眈々と狙っている。

4…d6

 これは堅実な手で、白のナイトがe5の地点に来れないようにし、黒のクイーン翼ビショップの筋を開けている。4…g4 なら白は 5.O-O で面白いムツィオ・ギャンビットをやってくるかもしれない。それは白がナイトを犠牲にしてf列に強い圧力をかけることになる。

5.O-O

 犠牲にしたポーンの代わりに白は展開で3手優っている。白のこの手はルークをf列に回すことにより黒のf7の地点への圧力を強めている。

5…h6

 gポーンを支えるのは今か 5…Bg7 6.d4 の後で必須である。なぜなら白は 7.Nxg5 Qxg5 8.Bxf4 でf列を素通しにし非常に危険な攻撃を始めることを狙っているからである。

6.d4

 白は代償の別の側面を利用している。黒は …exf4 と取った時ポーンを中原からそらし中原の支配を放棄した。ここで白は威容を誇るポーン中原を構築し、それから初めてキング翼の攻撃に乗り出していく。

6…Bg7

 ここはビショップにとってe7よりも良い地点である。なぜなら白は最終的に e5 突きで仕掛けるかもしれず、そうなればその地点にできるだけ多くの利きがあった方が役に立つからである。これから先ビショップがd8-h4の斜筋に必要になれば黒は本譜で実際にそう指すように自由に …Bf6 と指すことができる。この段階でe7の地点を空けておく別の理由は、黒にとってキング翼ナイトをここに展開させるのが良い手となるかもしれないからである。

7.c3

 この手には二重の目的があり、一つはdポーンを支えることで、もう一つはf7の地点への攻撃支援を増やすことになる Qb3 を指せるようにすることである。

7…Nc6 8.g3!

 これで白は攻撃の準備ができた。この手ですぐにf列が素通しになる。

8…g4 Nh4 f3

 黒はうまくf列を閉じたままにした。本当にそうだろうか?

10.Nd2 Bf6

 ここでは黒が優勢になりつつあるように見える。黒はまだ1ポーン得だし、端で立ち往生しているように見える白のキング翼ナイトに対する攻撃も始めた。このナイトは退くことができないし、f5の地点に跳ぶこともできない。というのは 11.Nf5 Bxf5 12.exf5 Qd7 のあと白のfポーンが極度に弱いしf列に沿ってもはや攻撃が望めないからである。しかし別の可能性があった。

11.Ndxf3! gxf3 12.Qxf3

 白は邪魔なf3のポーンを消し去り、黒のf7の地点に対する圧力を最高度に高めた。

12…Rh7

 黒は自分のアキレス腱を守った。

13.Ng6(図36)

 図36(黒番)

 この手には驚かされる。なぜならg6のこのナイトは何も当たりになっていないからである。この手の主眼は Nf4 によって中原に近づくことである。この目的は 13.Ng2 によっては達成されない。なぜなら黒は 13…Bh3 によって白のルークに対してこのナイトを釘付けにし、そのあといくらか無用な存在のこのビショップをナイトと交換するからである。

 1922年テプリッツ・ショーナウでのシュピールマン対グリューンフェルト戦は以下のように進んだ。

13…Rg7

 13…fxg6 とは取れない。取れば 14.Bxg8 Rg7 15.Bb3 Be7(強制)16.Bxh6 Rh7 17.Bf7+ Kd7 18.Qg4# とたちまち負けてしまう。

14.Nf4 Bg4

 白は Nh5 を狙っていた。

15.Qg2 Bg5 16.h3 Bd7 17.Nh5 Rh7 18.e5!

 また攻撃の筋のe列を開け、同時にクイーンのためにe4の地点を空けた。

18…dxe5 19.Qe4 f5

 19…Rh8 では 20.Ng7+ から詰みになるのでこの手は仕方がない。

20.Rxf5! Bxf5 21.Qxf5

 白の態勢は圧倒的である。

(この章続く)

2010年09月13日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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「チェス布局の指し方」について

 いつか少し余裕ができてくるかと思っていましたが、いつまでたってもそうなりそうにありません。誰か「チェス布局の指し方」を楽しみにしている人がいますか?もしいないのなら頑張っても仕方ないので、あと6回分のストック(そこまででこの本の1/3にあたります)を掲載して打ち切りにしたいと思いますが、いかがでしょうか(毎週月曜の定期連載がなくなるということです)?

チェス布局の指し方[30]

eポーン布局

第3章 キング翼ギャンビット(続き)

現代防御

1.e4 e5 2.f4 exf4 3.Nf3 d5(図37)

 図37(白番)

 黒はすぐにポーンを返して展開のために筋を開けようとしている。これでクイーン翼ビショップが自由に動けるようになりクイーンの利きも広がった。このシステムはスパスキーやボトビニクをはじめ世界の最強の選手たちの多くがかつて得意にしていた防御だった。

4.exd5

 4.e5? は 4…g5 と強手で応じられるので白はこのポーンを取らざるを得ない。

4…Nf6

 この手は展開しながら白のdポーンの前の方を当たりにしている。4…Qxd5 は早まったクイーン出で、例えば 5.Nc3 Qe6+ 6.Kf2 で 7.Bb5+ から 8.Re1 を狙われる。

5.Bb5+

 このチェックは黒の …c6 を誘って白の当たっているdポーンを交換しようという意図である。もちろん黒は駒をd7に動かしてチェックから逃れることはできるが、あまり活発な試合にはならなくなる。

5…c6 6.dxc6 Nxc6

 この手はスパスキーが同時指導対局で何回か相手に指されてから彼自身が指すようになった。c6の地点はしょせん黒のクイーン翼ナイトにとって自然な場所であり、黒が Bxc6 の交換を恐れる理由はない。

7.d4

 7.O-O? は 7…Qb6+ でビショップを取られるので白はすぐにキャッスリングすることはできない。そこで白はg1-a7の斜筋をふさぎ、同時に黒のfポーンの前の方を当たりにした。

7…Bd6

 黒は当たりのポーンを守った。

8.Qe2+

 これは自然な 8.O-O に代わる思惑のある手である。白はe列で生じる釘付けをうまく利用することができるだろうか。

8…Be6 9.Ng5

 黒が困っているのは確実なように見える。ここで白の狙いはポーンを得することである。注意しなければならないのは 9.c4? O-O 10.d5 と指すと黒は白のクイーンとキングの位置にうまくつけ込んで 10…Bg4 と指してくることである(11.dxc6? Re8)。

9…O-O

 黒はポーンを犠牲にして展開の迅速化と反撃のための重要な筋(e列)の開通を優先した。

10.Nxe6 fxe6 11.Bxc6 bxc6 12.Qxe6+ Kh8

 黒は次に 12…Re8 でクイーンを取る手を狙っている。黒の小駒はよく働いているのに対して白のクイーン翼はまったく展開できていない。このような開けた局面では展開の優位とそれに伴う攻撃の可能性は捨てたポーンを十分に補ってくれる。

13.O-O Qc7(図38)

 図38(白番)

 1970年ルガノでのベント対メディナ戦は次のように進んだ。

14.Qh3 Qb6 15.Qd3 Rae8 16.Nc3 Qb8

 この手の狙いは 17…f3 18.Qxf3(18.g3? Bxg3! 19.hxg3 Qxg3+ 20.Kh1 Qg2#)18…Bxh2+ 19.Kh1 Nh5 で、黒の勝勢になる。

17.Qf3 c5 18.d5 g5! 19.h3 h5 20.Qd3 g4

 黒の攻撃は非常に厳しい。

(この章続く)

2010年09月20日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[31]

eポーン布局

第3章 キング翼ギャンビット(続き)

ファルクベーア逆ギャンビット

1.e4 e5 2.f4 d5(図39)

 図39(白番)

 黒は白のポーン捨てを無視し、展開を速めるために自分の方からポーンを(一時的に)捨てにきた。2手目のあと黒のビショップは両方とも動きが自由で、展開の問題には直面しそうにない。

3.exd5

 もちろん 3.fxe5?? は 3…Qh4+ で負けてしまう。

3…e4

 これが逆ギャンビットの二の矢である。黒は自身の展開を(…d5 によって)容易にしただけでなくすぐの Nf3 を防ぐことにより白の身動きを不自由にさせた。黒はすぐに 3…c6 と指すこともできそのあと素早い展開を目指すか 3…exf4 と取る。

4.d3

 白はクイーン翼ビショップが動けるようにし黒のeポーンを当たりにした。キング翼ギャンビット受諾の現代防御の同じような局面のように、白が早く c4 と突くのは前の方のdポーンにしがみつこうということではなく、d5の地点を支配しようという作戦の始まりである。しかし 4…c6 5.c4 Nf6 6.d4 cxd5 のあとe4のポーンが強力なので黒が指し易い。例えば 7.Qb3 Be7 8.cxd5 O-O 9.Ne2 Nbd7 10.Ng3 Nb6 となれば黒が優勢である。

4…Nf6

 黒はすぐに 4…Qxd5 でポーンを取り返している余裕はない。なぜなら 5.Qe2 f5 6.Nc3 Bb4 7.Bd2 Bxc3(ポーンを守る唯一の方法)8.Bxc3 Nf6 9.O-O-O! Qxa2 10.dxe4 Nxe4(10…Qa1+? 11.Kd2 Ne4+?? は 12.Qxe4+ で黒の駒損になる)11.b3 O-O 12.Qc4+ Kh8 13.Bb2 で黒のクイーンが働かず白の攻撃が強力になるからである。

5.dxe4 Nxe4

 黒は 6…Qh4+ 7.g3 Nxg3! を狙っている。

6.Nf3 Bc5

 ここはビショップにとって白の弱点のf2をにらむうってつけの地点である。

7.Qe2

 白はこの手でe列に圧力を加えて優勢を確実なものにした。

7…Bf5

 ナイトを支える手段は他にもあるがどれも黒にとって満足な結果にならない。(a)7…Qe7 8.Be3!(b)7…f5 8.Be3 Qxd5 9.Bxc5 Qxc5 10.Nc3(c)7…Qxd5 8.Nfd2 f5 9.Nc3(d)7…Bf2+ 8.Kd1 Qxd5+ 9.Nfd2! f5 10.Nc3 いずれの場合も白が優勢である。

8.Nc3

 白はe列での圧力を増大させた。一見 8.g4 で駒得になりそうだが黒はビショップを取らせることができる。8…O-O! 9.gxf5 Re8 これで黒がe列を乗っ取って白が負ける。

8…Qe7

 8…Bb4? には 9.Qb5+ がある。

9.Be3 Bxe3

 黒は 9…Nxc3 10.Bxc5 Nxe2 11.Bxe7 Nxf4 12.Bg5 Nxd5 と指せばポーン得することができる。しかし 13.O-O-O のあと白は代償として有益な主導権を得る。

10.Qxe3 Nxc3 11.Qxe7+ Kxe7 12.bxc3 Bxc2 13.Kd2(図40)

 図40(黒番)

 白は主導権を握っている。例えば 13…Ba4 なら 14.Re1+ Kd8 15.Re4 である。また 13…Bf5 なら 14.Re1+ Kf6 15.Nd4 Bd7 16.h3 で g4 突きを狙う。これはキング翼ギャンビットを得意戦法とするGMジョー・ギャラガーの分析によると白がかなり優勢である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[32]

eポーン布局

第3章 キング翼ギャンビット(続き)

古典防御

1.e4 e5 2.f4 Bc5(図41)

 図41(白番)

 この手で始まる古典防御はキング翼ギャンビットを拒否する一番人気のある手段だった。黒はさっそくg1-a7の斜筋に沿った白の弱みを利用している。その意図は白のキング翼キャッスリングをしばらくの間遅らせ、白が黒のf7の地点にかけることのできる圧力をそれにより制限することである。

3.Nf3

 この展開の手は黒のeポーンに二つ目の当たりをかけている。注意しなければならないのはすぐにこのポーンを取ると次のように白のルークが取られるということである。3.fxe5?? Qh4+ 4.g3 Qxe4+ から …Qxh1

3…d6

 この手はeポーンを守りクイーン翼ビショップの展開のために筋を開けている。3…Nc6 は 4.Nxe5 Nxe5 5.d4! という両取りの計略に会う。

4.Nc3

 これは自然な展開の手で、Na4 で目ざわりなビショップと交換する可能性を用意している。4.c3 も有力な手で、中原を 5.d4 で占拠する意図である。

4…Nf6

 これは最も自然な展開の手である。

5.Bc4

 これも自然な手で、f7に圧力をかける白の戦略に沿っている。5.fxe5 dxe5 6.Nxe5 と取るのは 6…Qd4 7.Nd3 Bb6 で黒が白を押し込めることができる。

5…Nc6

 5…Be6 と対抗するのは 6.Bxe6 fxe6 7.fxe5 dxe5 8.Nxe5 Qd4 9.Nd3 Nxe4 10.Nxe4 Qxe4+ 11.Qe2 Qxe2+ 12.Kxe2 となって黒のeポーンが孤立しているので白の有利な収局になる。しかし 5…c6 6.d3 b5 7.Bb3 Qe7 は1991年ロンドンでの挑戦者決定大会番勝負のショート対スピールマン戦のように完全に指せる手である。

6.d3 Bg4

 これは最も普通の手だが最善手ではない。黒の着想は …Nd4 からf3で交換してf列に二重ポーンを作らせ白のキング翼を弱体化させることである。黒は 6…O-O または 6…a6 と指す方が良かった。

7.Na4 Nd4

 この手は前の手と連動している。

8.Nxc5 dxc5 9.c3

 9.fxe5 と取るのは危険で、9…Nd7(10…Nxe5 と取る狙いで、釘付けの効果で圧倒的な態勢になる)10.Bf4 Qe7 11.O-O O-O-O で黒駒の働きが非常に良い。

9…Nxf3+ 10.gxf3 Bh5(図42)

 10…Nxe4 は面白い手だが、11.O-O! で黒の二つの駒が当たりになるので成立しない。

 図42(白番)

 双ビショップと白ポーンの中原に対する大きな影響力とで白が優勢である。

(この章終わり)

2010年10月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[33]

eポーン布局

第4章 イタリア試合

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4(図43)

 図43(黒番)

 この章の布局はすべて白の 3.Bc4 から始まる。ルイロペスの章では 3.Bb5 が論理的な手で、白が黒のeポーンに対して大局的に圧力をかけていくと説明している。それではこのビショップの展開の仕方はなんと説明したら良いのだろうか。確かにc4のビショップは悪い位置ではない。なぜなら中原のd5の地点の支配に役立ち、黒のf7の弱点も脅かしている。しかし現代のマスターたちの一般的な感覚はそれだけでは十分でないということである。黒の防御手段はよく知られていて、c5のビショップの位置を利用したいくつかの戦術的手段(例えば両取りの策略や …Na5 でナイトをビショップと交換する可能性)で互角の形勢を達成できることは日常茶飯事である。本章で採り上げる布局は歴史的にも(19世紀には大流行していた)戦術的にも(黒のf7をにらむビショップは面白い手筋を生み出す)非常に面白い。しかし十分な経験を積んだ選手相手には白にあまり有利をもたらしそうにない。

(この章続く)

2010年10月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[34]

eポーン布局

第4章 イタリア試合(続き)

ジュオコ・ピアノ

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5(図44)

 図44(白番)

 3手目でキング翼ナイトの代わりにキング翼ビショップを展開することにより黒は 3…Nf6 から生じる可能性のある戦術のいくつかを避けた。例えば 3…Bc5 への応手で白は黒のクイーンがg5の地点に利いているので Ng5 と指すことができない。キング翼ビショプを動かすのは妥当な作戦だと判断したとして、c5は正しい地点なのだろうか。その答えは明らかに「正しい」である。なぜなら他の地点はどれも黒にとって不利な点があるからである。ビショップをe7の地点に展開するのは不必要なほど消極的だし、d6は後でdポーンを突くのにさしつかえるし、b4は白が強力なポーン中原を構築するのを手助けするだけである(白は 3…Bb4? に対して 4.c3 と突いてビショップを当たりにして d4 突きを用意する)。さらに言えばc5のビショップは中原のd4の地点に利き白の弱点のf2をにらんでいるので好位置である。

4.d3

 この手からのあとの布局はしばしば「ジュオコ・ピアニッシモ」(最も静かな試合)と呼ばれる。今の時点では 4.d3 でクイーン翼ビショップの筋を開けc3の地点をナイトが自由に占めることができるとだけ言っておく。だからこの布局での白の取るべき戦略は兵力を素早く積極的に協調させて展開することにより優勢になるように努めることである。4.d3 の代わりに早い段階での d4 突きの達成を目指す 4.c3 もよく指される手である。しかし 4…Nf6 5.d4 exd4 6.cxd4 Bb4+ で黒は何の問題もない。

4…Nf6

 黒も迅速に駒を戦いに投入したがっている。黒はもうf7の地点への狙いを心配する必要がない。例えば 5.Ng5? O-O 6.Bxf7+? は 6…Rxf7 7.Nxf7 Kxf7 となって黒はルークとポーン1個と引き換えに駒を2個得る(これ自体黒が戦力的にわずかに有利である)。そして白の展開していた駒がすべて盤上から消えたので黒が大いに優勢である。

5.Nc3

 これも単純な展開の手である。このナイトは明らかにc3にいるべきで、黒がポーンを …d5 と突いて捌きに出てくるのを防ぎ、あとで効果的なd5の拠点を自分で占拠する狙いを持っている。

5…d6

 これで局面は対称形になった。白がまだ先着の効を保っているので形勢互角とはとても言えない。

6.Bg5

 これは最も攻撃的な手で、黒のナイトを釘付けにしている。この釘付けは黒にとって少し不快である。というのは白が Nd5 から Nxf6+ で黒のキング翼のポーンの形を乱す狙いを持っているからである。

6…h6

 黒はすぐに釘付けをはずそうとしている。ここで白が 7.Bh4 と引けば黒は 7…g5 で釘付けをはずすのを続けるだろう。普通はキング翼のポーンをこのように突くのはキングの前面に深刻な弱点を作り出すのだが、黒はまだキャッスリングしていないので大丈夫だろう。

7.Bxf6 Qxf6 8.Nd5

 白はナイトを圧倒的な地点に据えた。これで黒は 9.Nxf6 と 9.Nxc7+ によるキングとルークの両取りに対処しなければならない。

8…Qd8

 8…Qg6 は本譜の手よりも劣るだろうが戦術的に面白い手である。

9.c3

 白は主導権を用いて中原を強化しクイーン翼を広げるところである。この手は黒の駒をd4の地点に来られなくし、b4 突きを用意している。

9…Ne7

 もちろん黒は白の邪魔なナイトと交換したがっている。

10.b4

 黒のビショップを攻めた。

10…Bb6 11.Nxb6 axb6 12.d4!

 これは中原の主眼のポーン突きである。

12…exd4

 この手のあと白が中原で優勢になるが他に適当な手がなかった。黒のeポーンは二重に当たりになっていて、守ろうとしてもうまくいかない。例えば 12…Ng6? は 13.dxe5 Nxe5 14.Nxe5 dxe5 15.Qxd8+ Kxd8 16.Bxf7 だし、12…Bg4? も 13.dxe5 dxe5 14.Bxf7+ Kxf7 15.Nxe5+ でどちらも白が戦力得する。

13.Nxd4

 13.cxd4 なら黒が 13…d5 と突いて白の中原を攻撃できる。白の最良の作戦は楽に維持することのできないポーン中原を構築しようとすることでなく、駒の活動できる地点を確保することである。

13…O-O 14.O-O(図45)

 図45(黒番)

 白の駒が好所についているので形勢は白が少し優勢である。黒の最良の作戦は 14…Nc6 で駒を交換し引き分けの収局に持ち込むことである。14…d5 は 15.exd5 Nxd5 16.Qf3 で白の圧力が強いので少し疑問である。

(この章続く)

2010年10月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[35]

eポーン布局

第4章 イタリア試合(続き)

エバンズ・ギャンビット

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5 4.b4!?(図46)

 図46(黒番)

 純正ジュオコ・ピアノのところで見たように 4.d3 や 4.c3 の後で白が大きく優位を勝ち取れそうにはない。本譜の手はこの駒組に息吹を吹き込もうとする重要な試みである。白はポーンを犠牲にして本当に強力で圧倒的なポーン中原を築くのに必要な手数を得ることを期待している。そしてクイーン翼ビショップをb2かa3に展開させる可能性も作っている。

4…Bxb4

 「ギャンビットを打ち破るには受諾することである」-シュタイニッツ。黒はこのポーンを取るべきである。さもないと明らかな代償もなしに白に広さと手得を与えることになる。

5.c3

 ギャンビットの要点は黒のビショップが当たりになっているので白がこの手を先手で指すことができることにある。白はポーンをd4とe4に並べて中原を支配することを期待している。

5…Ba5

  6.d4 なら 6…exd4 で白のcポーンが釘付けになるのでここがビショップの最も理にかなった引き場所のようである。しかし白がこの釘付けを恐れる理由はない。

6.d4 exd4

 もっと堅実な受けは 6…d6 7.Qb3 Qd7 8.dxe5 Bb6 9.O-O Na5 である。しかし実戦では黒はこの2個目のポーンを取ることが多い。

7.O-O!

 白は喜んで2個目のポーンを取らせる。

7…d6

 7…dxc3?! で3個目のポーンを頂くのは少し欲張りである。本譜の手は受けに役立つ手で、弱いf8-a3の斜筋を止め、クイーン翼ビショップの筋を開け、黒のe5の地点に利かせて白のポーン中原を抑えるのを助けている。

8.cxd4

 白はd4とe4にポーンを進めるという第1の目標を達成した。そして d5 突きでナイトをどかせて Qa4+ でビショップを取る手を狙っている。

8…Bb6

 黒は白の狙いに備えた。これでエバンズ・ギャンビットのいわゆる「基本局面」になった。この局面は150年以上に渡って戦われ研究されてきた。

9.Nc3

 白はいろいろなやり方で攻撃を続けることができるが、この単純な展開の手が最善手とみなされている。

9…Na5

 この手は白のキング翼ビショップと交換するかそれを引き下がらせて黒の弱点のf7に利かせないようにする意図である。この手は黒の展開を無視しているように見えるが、実際はこの局面で黒が普通に展開することは非常に難しくなっている。例えば 9…Nf6 ならポーンを犠牲に 10.e5! dxe5 11.Ba3! で斜筋を通して白の攻撃が非常に強くなる(黒のキングが中央列でむき出しになっているので白の勝勢かもしれない)。

 黒は実際には白のキング翼ビショップをただ取りにすることを狙ってはいない。なぜなら …Nxc4 のあと白はいつでも Qa4+ で駒を取り返すことができるからである。

10.Bg5

 展開して黒のクイーンを当たりにした。

10…f6

 黒は白のキング翼ビショップと交換するためにキング翼の弱体化を受け入れた。

11.Bf4 Nxc4 12.Qa4+ Qd7

 黒が 12…Bd7 でなくこの手を指したのはクイーンでg8-a2の弱い斜筋をカバーできるようにしたいからである。

13.Qxc4 Qf7

 働きのよい白のクイーンに対抗した。

14.Nd5(図47)

 図47(黒番)

 もちろん白はクイーン交換に応じるべきでない。この局面では白が優勢である。白の強力な中原と動きの非常に活発な駒は攻撃の可能性を生み出し犠牲にしたポーンの代償を十分に取っている。

(この章続く)

2010年10月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[36]

eポーン布局

第4章 イタリア試合(続き)

2ナイト防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6(図48)

 図48(黒番)

 黒はこの手で繁雑で戦術優位の2ナイト防御に入った。白は当然 4.Ng5 と跳ねて黒のf7の弱点に非常に強い圧力をかける。その一方で白はキング翼ナイトを2度動かし展開で後れをとった。黒はそれにつけ込んで(通常はポーンを犠牲にして)反撃して白を守勢に追い込むことに期待をかける。

4.Ng5

 白は黒の挑戦を受けて立った。4.d4 exd4 5.O-O の後 5…Bc5 6.e5(マックス・ランゲ攻撃)と 5…Nxe4 6.Re1 d5 7.Bxd5 Qxd5 8.Nc3 も詳しく研究されていてどちらも非常に難解である。

4…d5

 黒はビショップの筋をさえぎってf7の地点を守った。4…Bc5 はウィルクス・バリー戦法と呼ばれる激しい着想で、次局で採り上げる。黒の他の4手目はあまり考慮に値しない。4…Nxe4? はたまに見かけるが 5.Bxf7+(ただし 5.Nxe4? は 5…d5! で駄目である)5…Ke7 6.d4!(展開しながら …Nxg5 を防いだ)ですぐに敗勢になる。

5.exd5

  白はもちろん 5.Bxd5? とは取れない。取れば 5…Nxd5 6.exd5 Qxg5 7.dxc6 Qxg2 で黒の勝ちになる。

5…Na5

 当たりを避けて逆に白の浮いているビショップを当たりにした。5…Nxd5?! は 6.Nxf7 Kxf7 7.Qf3+ Ke6 8.Nc3 で白の猛攻を浴びる。

6.Bb5+

 これは最も理にかなった手で、白のポーン得が保証される。6.Bb3? のように後退すると黒は 6…Nxb3 からポーンを取り返すことができる。

6…c6

 この手はほとんど絶対である。6…Bd7 は 7.Qe2(ビショップを守り黒のeポーンを当たりにしている)7…Bd6 8.O-O O-O 9.Nc3 で、白はポーン得で黒には反撃の可能性がほとんどない。途中 7…Bxb5?? は 8.Qxb5+ で黒が駒損になり、7…Nxd5 は 8.Bxd7+ Qxd7 9.d4 で釘付けにされたeポーンが落ちる。

7.dxc6 bxc6

 7…Nxc6? ならクイーン翼のポーンの形を崩さなくて済むが、布局の方針からどうしようもないほどはずれてしまう。というのはナイトが自分から釘付けを招き、白に次の手で好きな手を指させるからである。黒はしょせんポーン損なので、戦力損の正当化のために筋を開け展開の優位を利用して攻撃に努めなければならない。本譜の手のあと白はまたビショップを移動させるために手を費やさなければならない。

8.Be2

 このビショップ引きは 8.Ba4?! よりも安全である(8.Qf3 は 8…Rb8! で黒が喜んでもう一つのポーンを犠牲にし展開で大差をつける)。8.Ba4 は浮き駒になり、黒が …Qd4 と指す好機を見つけることができればさらに狙われるかもしれない。例えば 8.Ba4 h6 9.Nf3 e4 10.Ne5 Qd4(ビショップとナイトの両当たり)11.Bxc6+ Nxc6 12.Nxc6 Qc5! で白のナイトが捕まる。

8…h6

 白の攻撃的なナイトを追い返す。

9.Nf3 e4

 白はまたナイトを動かさなければならない。10.Ng1?(駒を「反展開」する)は黒が展開で大きくリードすることになるので、ナイトは盤の中央に浮き駒として単騎飛び込まなければならない。

10.Ne5

 黒がポーンの代わりに展開の優位と攻撃の可能性という形で十分代償を得ているようなので、一見しただけではこの局面は黒が良さそうに見える。ところが驚くことに黒には互角より優る優位を確保する手段が見つかっていない。

10…Bd6

 これは展開しながら白のナイトを攻撃していて当然の手である。

11.f4

 白はナイトをe5にとどめておきたいところである。白はできるだけ早くキャッスリングしたいので本譜の手は 11.d4 より優る。安全にキャッスリングするためには白のナイトはe5にいるか(重要なh2-b8の斜筋をさえぎっている)f3にいる(弱点のh2に利いている)必要がある。だから 11.f4 exf3e.p. 12.Nxf3 Qc7 13.O-O はナイトがhポーンを守っているから良いが、11.d4 exd3 12.Nxd3 はナイトがキング翼を守るには不都合な位置にいる。

11…Qc7

 白の守られたe5のナイトは黒陣の中のとげである。黒としては犠牲にしたポーンを取り返す狙いでこのナイトをどかせたい。

12.O-O

 白は展開を続けた。白は得した戦力を返すことによって黒の攻撃を鈍らせることができるならば喜んでそうする。というのは黒はクイーン翼にポーンの弱点を多くかかえているからである。

12…O-O

 黒はキングを安全なところに移しルークを展開させて攻撃が続くことを期待している。

13.Nc3

 この展開の手も良い手である。

13…Bxe5

 この手で戦力の損得がなくなった。しかし黒のキング翼ビショップが交換になって黒の攻撃の可能性もほとんど消えた。はるかに有望な手は1977年バート・ラウターベルクでのティマン対グリゴリッチ戦で指された 13…Bf5 である。

14.fxe5 Qxe5 15.d4

 白の指し手は非常に積極的である。クイーン翼ビショップの筋を開けて戦いに参加させた。

15…exd3e.p. 16.Qxd3(図49)

 図49(黒番)

 16.Bxd3 は 16…Ng4 で黒が攻撃をかけることができるので少し正確さに欠ける。

 局面が一段落して形勢は白が有利である。1940年ニューヨークでのファイン対レシェフスキー戦では黒が 16…Ng4 で攻撃を続けた。この手の二つの狙いは明白な 17…Qxh2# ともっと巧妙な 17…Qc5+ 18.Kh1 Nf2+ である。しかし 16…Ng4 には 17.Rf4! がうまい応手で、17…Qc5+ なら 18.Qd4! で白の勝ちが確実な収局になる。なぜなら白には双ビショップがあり黒には弱い孤立ポーンがあるからである。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[37]

eポーン布局

第4章 イタリア試合(続き)

ウィルクス・バリー戦法

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.Ng5 Bc5(図50)

 図50(白番)

 黒は自陣のf7の地点が狙われているのに目もくれず、駒を展開しすぐに白のf2の地点ににらみを利かせた。読者はこの戦型を初めて見るならば以下の戦術のめまぐるしさに目を見張るかもしれない。しかしこの華々しい戦いはどうやっても引き分けにしかならないようである。

5.Nxf7

 これはポーン得し、黒のクイーンとルークを両当たりにし、やれるものならやってみろと黒をけしかける当然の応手である。しかし1991年リナレスでのアーナンド対ベリヤフスキー戦のように 5.Bxf7+ Ke7 6.Bd5 の方が強手だっただろう。以下 6…Rf8 には 7.Nf3、6…Qe8 には 7.d3 と応じる。

5…Bxf2+!

 この手が成立するということが 4…Bc5 の根拠である。この大乱戦の戦法がf2とf7の相対的な弱点について本章の初めで述べたことを説得力のあるものにしている。

6.Kxf2

  6.Kf1 は 6…Qe7 7.Nxh8 d5! が効果的な反撃になるので役に立たない。

6…Nxe4+ 7.Kg1!

 ここが唯一の逃げ場所である。7.Ke3 は 7…Qh4 で黒の攻撃がきつい。例えば 8.Qf3(…Qf2+ の狙いを防ぐため)8…Nc5 9.Nxh8(白は詰みを狙っている。しかし黒の手番である)9…Qd4+ 10.Ke2 Qxc4+ 11.Ke1 Nd4(黒は …Nxf3+ と …Nxc2+ を狙っている)12.Qf7+ Qxf7 13.Nxf7 Nxc2+ 14.Kd1 Nxa1 15.Nxe5 d6 16.Nc4(Ne3 と指して黒のナイトを閉じ込めておく狙い)16…Nc2! 17.Kxc2 Bf5+ から …Bxb1 で黒がポーン得になる[訳注 12.Qh5+ で白の勝勢になるので 11…d6 が正着かもしれません]。

7…Qh4

 8…Qf2# の狙いがある。

8.g3

 これも最善手である。8.Qf3 には 8…Nd4 が強手で、8.Qf1 には 8…Rf8 と応じられる。以下は例えば 9.d3(危険なナイトを追い払う)9…Nd6(10…Nxf7 で駒を取り返す狙い)10.Nxd6+ cxd6 11.Qe2 Nd4 12.Qd2 Qg4 で 13…Nf3+ と 13…Ne2+ の両狙いで黒が勝つ。途中 12…Qg5!! の方がもっときれいに勝つ(13…Qd1 Qxc1!)。

8…Nxg3

 二度目の捨て駒で白キングの囲いを壊した。

9.Nxh8

 9.hxg3? は疑問手だが次のような見事な戦いになる。9…Qxg3+ 10.Kf1 Rf8! 11.Qh5! チェコの研究家のローリチェクがここから黒が勝てることを示した。11…d5!(白のビショップをf2のナイトの守りから断ち切るための手筋の始まり)12.Bxd5 Nb4 13.Bc4(13.Bb3 なら 13…Nxc2)13…b5 14.Bxb5+ c6 15.Bc4 Nd5 これで黒のキング翼ルークがすぐに戦いに加わり白に大打撃を与える。

9…Nxh1 10.Qf1

 10.Kxh1 は 10…Qxc4 で黒が白の捕まったナイトを取り2ポーン得になる。代わりに 10.Bf7+ Ke7 11.Kxh1 Qe4+ 12.Kg1 は 12…Nd4 で黒に新たな駒を戦闘に投入する余裕ができる[訳注 13.Nc3 でも 13.d3 でも白の勝勢のようです]。本譜の手はクイーン翼ビショップを守り詰みを狙っているが黒にはまだ引き分けにする手段がある。

10…Qg4+ 11.Kxh1 Qe4+ 12.Kg1 Qg4+ 13.Kf2 Qh4+ 14.Kg1(図51)

 図51(黒番)

 白はチェックの千日手を逃れるうまい手段がない。13.Qg2 のような手は役に立たない。例えば 13…Qd4+ 14.Kh1(14.Kf1? Qxc4+)14…Qxc4 15.Qxg7 Qf1+ 16.Qg1 Qf3+ 17.Qg2 Qd1+ という具合である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[38]

eポーン布局

第5章 ルイロペス(スペイン布局)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5(図52)

 図52(黒番)

 この手は白の3手目の中で最強の手である。世界チャンピオンのガリー・カスパロフ、元世界チャンピオンのボビー・フィッシャーそれにナイジェル・ショートが得意にしていた。白はキング翼を迅速に展開し、2手目で始めた黒のeポーンに対する攻撃を続けた。今度はその守り駒を突き崩そうとしている。この基本的な構想は論理的で簡明でありかつ意外にも対処が難しい。通常白は少なくとも中盤まで続くわずかな主導権を得る。

 ルイロペスは最古の定跡の一つである。ルイ・ロペス自身はスペインの聖職者で、1561年に「チェスの本」という定跡書を書いている。この本は布局定跡を研究する最初の科学的な試みと通常みなされている。それ以来ほとんどすべての著名な選手がこの定跡を極めることに手を染めてきた。

 ルイロペスには多種多様の戦法があり、それぞれ特色のある内容を持っている。白が中原を閉鎖してキング翼攻撃のために駒を捌き穏やかに大局観で指し、黒がクイーン翼で活動するものもある。激しくて難解な戦法もある。

 布局の初期の戦いは通常は両者のeポーンの強さと弱さをめぐって行なわれる。白は早くから黒のeポーンに圧力をかけ d4 突きを目指す。黒は白が d4 と突いてきた時に対処できるように駒の展開に注意を注ぐ。ルイロペスの題材のいくつかは初心者が理解するにはやや難しいかもしれない。しかし基本的な特色を理解すればこの最も信頼できる布局をさらに学ぶことが容易になる。

 この章ではルイロペス木の4本の枝を見ることにする。閉鎖戦法は黒がe5のeポーンを中原の拠点として維持しようと努める。開放戦法は黒が5手目で中原を開放する(白がそうする機会を与えてくれる時)。交換戦法は白が双ビショップを放棄するのと引き換えにポーンの形で優位に立つ。シュリーマン防御は黒の華々しい逆襲ギャンビットである。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[39]

eポーン布局

第5章 ルイロペス(スペイン布局)(続き)

閉鎖防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5(図53)

 図53(黒番)

 この陣形では白の3手目の中で最も理にかなった手である。白は素早くキング翼を展開し、黒のeポーンを守っているナイトを攻撃してこのポーンに間接的に圧力をかけた。

3…a6!

 モーフィーの時代からこれが黒の最善の応手であることが知られている。この手が正当な理由は黒がdポーンを突くことになれば(eポーンを守りクイーン翼ビショップの展開のためにいずれそうしなければならない)、黒のクイーン翼ナイトが釘付けの形になるからである。3…a6 はこの釘付けの効果を前もって緩和させる。

4.Ba4

 交換戦法(4.Bxc6)は別の節で詳しく説明する。しかし 4.Bxc6 で白がポーン得しないことは指摘しておく。なぜなら 4…dxc6 5.Nxe5 のあと 5…Qd4 で黒が楽にポーンを取り返すからである。

4…Nf6

 これは逆に白のeポーンを標的にして駒を展開するそつのない手である。黒のこれからの作戦は …b5 と突いて白のビショップを追い払いクイーン翼で陣形を広げるつもりである。しかしすぐに 4…b5 と突くのは誤りである。なぜなら白から例えばすぐに a4 突きでクイーン翼のポーンに攻撃されると展開の立ち遅れが明らかだからである。

5.O-O

 白はキングを安全地帯に移し中央にポーンを突けるようにした。eポーンを捨てるのは開放防御の節で見られるように見かけだけにすぎない。

5…Be7

 5…Nxe4 から始まる開放防御は別の節で解説する。黒は 5…Be7 でもっと人気のある閉鎖防御を選択した。この戦法では黒はe5のポーンを維持することに努め、白の中原が強大化しすぎないようにする。この目標を念頭におけば黒のキング翼ビショップは(例えば)c5よりもe7にいる方がよい。というのはc5では白が適当な準備のあと d4 と突くとこのビショップが当たりになるからである。

6.Re1

 白の作戦は有利な状況で d4 と突くことである。できることならば白は完全なポーン中原(e4とd4にポーンが並んだ形)を作りたい。だから d4 と突くための自然な手順は Re1 と寄せ(eポーンの守り)c3 と突く(d4 突きに …exd4 と取られた時にポーンで取り返すため)ことである。

6…b5

 黒はキング翼を展開したので今度は白のキング翼ビショップを追い払う番である。黒がこれを遅らせて最初に 6…d6 と突くと、白は 7.c3 と突いて 7…b5 に 8.Bc2 と応じることができ手を節約できる。

7.Bb3 d6

 黒はクイーン翼ビショップの筋を開けeポーンを支えた。代わりに 7…O-O 8.c3 d5 は人気のあるマーシャル攻撃で、一流グランドマスターたちによって深く研究されている。

8.c3 O-O

 8…Bg4 は正確さで劣る。なぜなら白には釘付けをはずし自分の陣形の優位を増す効果的な手段があるからである。即ち 9.d3 のあと Nbd2-f1-e3 と指す手順である。このナイトはe3に到達すると黒の弱点のd5とf5の地点を攻撃することになるので好位置になる。白がdポーンを既にd4まで突いている場合はこの捌きは無理である。というのはe3のナイトが、黒に狙われているeポーンを守っている白のキング翼ルークの利きをさえぎってしまうからである。だから黒の最良の方針は白が d4 と指すまでクイーン翼ビショップの展開を遅らせることである。

9.h3

 読者は上述の解説から気づいただろうが、この手の代わりに 9.d4 と突くと 9…Bg4! と指されて白のキング翼ナイトに強力な釘付けをかけられる。本譜の手はこの手を防ぐ目的である。しかし 9.h3 は本質的に展開と関係のない先受けの手なので、黒はクイーン翼で行動を開始する余裕を与えられたことになる。

9…Na5

 黒の希望は …c5 と突いてクイーン翼で勢力を拡張することである。だから黒はまずcポーンの進む道をふさいでいるナイトを動かさなければならない。a5の地点を選んだのは白の大切なキング翼ビショップとの交換を狙える位置だからである。しかし 9…Nb8(…Nbd7 の意図)、9…Bb7、9…h6 および 9…Nd7 も同様に良い手である。

10.Bc2

 もちろん白は双ビショップの優位をむざむざ手放したくはない。一見すると白は Bc2 でまたビショップに手を費やしたように見える。しかしこの場合はそうではない。というのは白のビショップが当たりから逃れれば、黒のナイトは盤の端の働きのない位置にいることになるからである。黒は早急に1手かけてこのナイトを盤の中央に戻さなければならない。

10…c5 11.d4

 長いこと待ち望んだ中原へのポーン突きが実現した。これで白は黒のeポーンを脅かしている。

11…Qc7(図54)

 図54(白番)

 黒はeポーンを守り、ルークがあとで来れるようにd8の地点を空けた。

 この局面はマスターたちの実戦に何千局も現われた。そしてこの戦型を白番でも黒番でも指すグランドマスターたちもいる。ここからの中盤戦は優れた大局観や巧妙な戦術の戦いとなることがよくある。黒はまだ完全な互角は達成していないが、序盤の形勢の差を広げられてもいない。白は中原ですこし優勢だが黒がポーンをe5に維持する限り白がこの方面で突破口を開くのは難しい。白の展望は明らかにキング翼で有望で、注意深く指せば強力な攻撃を仕掛けることができるだろう。白はこの攻撃を支援するためにクイーン翼ナイトをd2からf1を経てe3かg3に展開させるべきである。

 対照的に黒はクイーン翼で有望である。しかし性急な攻撃はしないように注意しなければならない。なぜならそれは恐らく自分の突き進めたポーンを弱めることにしかならないからである(a4への反撃はルイロペスにおける白の主眼点の一つである)。

 1959年マルデルプラタでのフィッシャー対ショクロン戦は以下のように続いた。

12.Nbd2 Bd7 13.Nf1 Rfe8

 黒は好機を待ちながら陣形を強化している。そして白の作戦が分かるまで積極的に動かないようにしている。

14.Ne3 g6

 黒は白のナイトがf5の地点から侵入してくるのを防いだ。また局面の進行によってはビショップをf8からh6またはg7に展開し直す用意もしている。

15.dxe5

 白は黒陣の「空所」にあたるd5の地点に対する圧力を増すために中原の争点を解消した。

15…dxe5 16.Nh2

 これは重要な防御用の駒である黒のキング翼ナイトと交換するための準備である。

16…Rad8 17.Qf3

 17…Bxh3 でクイーン当たりとなる黒の攻撃をかわした。

17…Be6

 17…h5 は 18.Nd5! Nxd5 19.exd5 で黒のキング翼がだいぶ弱体化する。

18.Nhg4 Nxg4 19.hxg4

 白はh列を開け後でこの列を攻撃に用いることに期待した。

19…Qc6 20.g5!?

 ナイトのためにg4の地点を空けた。

20…Nc4

 黒はナイトを中央に近い所に戻した。もっと手ごわい手は 20…Bxg5 だが 21.Nd5 Bxc1(21…Bxd5? は 22.Bxg5 で黒が戦力損する)22.Nf6+ で乱戦になり白が優勢かもしれない。

21.Ng4 Bxg4

 Nf6+ は許せないのでこの一手である。

22.Qxg4 Nb6

 23.a4 を防いだ。

23.g3

 キングを動かしてルークをh列に回す準備である。

23…c4!

 黒はクイーン翼ナイトをキング翼の守りに回したいのだが、まずこの手でg8-a2の斜筋をふさがなければならない。すぐに 23…Nd7? と指すのは 24.a4 b4 25.cxb4 cxb4 26.Bb3 で白のキング翼ビショップの位置が絶好である。

24.Kg2 Nd7 25.Rh1 Nf8 26.b4

 攻撃の鉾先をクイーン翼に向けた。

26…Qe6

 黒はクイーン交換を期待している。

27.Qe2 a5 28.bxa5 Qa6 29.Be3 Qxa5 30.a4 Ra8

 実戦の手よりも 30…Qxc3 31.axb5 の方が黒にとって良いかもしれない。

31.axb5 Qxb5 32.Rhb1 Qc6 33.Rb6!

 黒のクイーンが追い回されて白がa列を制圧する。

33…Qc7 34.Rba6 Rxa6 35.Rxa6 Rc8

 白に狙いの 36.Ra7 を指されると黒のクイーンはビショップとcポーンを両方守ることができない。

36.Qg4

 狙いは 37.Ra7 のあと 38.Rxe7 から 39.Qxc8 である。

36…Ne6 37.Ba4 Rb8 38.Rc6 Qd8?

 これは悪手だった。38…Qd7 なら勝負はまだ分からなかった。

39.Rxe6! Qc8

 39…fxe6 なら 40.Qxe6+ Kf8 41.Qxe5 で白が勝つ。

40.Bd7! 1-0

 40…Qxd7 と取ると 41.Rxg6+ でクイーンを取られるので黒は投了した。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[40]

eポーン布局

第5章 ルイロペス(スペイン布局)(続き)

開放防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4(図55)

 図55(白番)

 白は最後の手(5.O-O)でeポーンの守りを放棄したように見える。この節では黒がこのポーンを取ったらどうなるかを調べる。

6.d4

 白はもちろん 6.Re1 または 6.Qe2 ですぐにポーンを取り返すことができる。しかしどちらの場合も黒は 6…Nc5 と応じて白のキング翼ビショップをナイトと交換させることができ、互角の形勢になる。6.d4 の方が白にとって良い作戦である。即ち局面を開放的にして展開の優位を生かすわけである。黒は結局白のeポーンを取るのにかけた手が無駄になる。

6…b5

 …d5 と突くとクイーン翼ナイトが釘付けになるのでその可能性をなくした。

7.Bb3 d5 8.dxe5

 これで戦力が互角に戻った。黒の陣形はあまり悪いようには見えないが、これから分かるようにまだ対処しなければならない困難がある。

8…Be6

 2駒で当たりにされているdポーンを守った。

9.Qe2

 ルークのためにd1の地点を空け、d列に圧力をかけられるようにした。

9…Be7

 この段階では黒にいくつもの手がある。しかしキング翼ビショップを展開するこの単純な手は通常は黒の最も堅実な手と考えられている。

10.Rd1 O-O

 非常に複雑な局面になるが 10…Nc5 11.Bxd5 Bxd5 12.Nc3 Bc4! という指し方もある。

11.c4!

 dポーンに対する釘付けを利用して局面をさらに開放的にした。次に白から cxd5 で駒得する狙いがある。

11…bxc4 12.Bxc4 Qd7

 この手に代わる改良手順は 12…Bc5 13.Be3 Bxe3 14.Qxe3 Qb8 15.Bb3 Na5 16.Nbd2 Qa7 17.Nd4 Nxd2 18.Qxd2 Qb6 19.Bc2 c5 20.Nf5 Bxf5 21.Bxf5 Rad8 22.Re1 Nc6 で、どちらも指せる。1979年モントリオールでのカバレク対タリ戦ではここで合意の引き分けになった。

13.Nc3

 13.Bxa6 は 13…Nc5! で黒の願ってもない態勢になる。

13…Nxc3 14.bxc3 f6

 白のeポーンが消えれば黒のキング翼ビショップが対角斜筋で力を発揮するようになると考えられる。

15.exf6 Bxf6(図56)

 図56(白番)

 この局面はかつて両者に同等のチャンスがあると考えられていた。しかしその評価はたぶん正しくない。白には 16.Bg5 という強手がある。以下は例えば 16…Bxc3(16…Na5? は 17.Qxe6+ Qxe6 18.Bxd5 でポーン損になる)17.Rac1 Bf6 18.Bb3!(Ba4 でナイトを取る狙い)18…Nd8 19.Bxf6 Rxf6 20.Qc2 で、白が優勢である。あるいは 16…Kh8(Qxe6+ のような狙いの防ぎ)17.Bxf6 Rxf6 18.Ng5(狙いは Nxe6 で、dポーンがどうしても落ちる)18…Bg8 19.Bxa6 で、白は少なくとも1ポーン得になる(19…h6 なら 20.Nf3 Rxa6!? 21.Qxa6 Nd4 22.Ne5 で白が勝つ)。

 旧来の手は・・・

16.Ng5

 やはり白が有望である。これは1970年ジーゲンでのシュミット対クリスティンソン戦の手で、以下のように進んだ。

16…Bxg5 17.Bxg5 h6 18.Be3 Qd6

 これは …Ne5 の準備である。

19.Bb3 Ne5 20.Rd4!

 21.Bf4 を狙っている。

20…c5 21.Rf4!

 Bxc5 から Qxe5 の可能性を開いた。

21…Kh8

 ビショップを引くためにg8の地点を空けた。

22.Rd1 Nd7 23.Qf3!

 黒のdポーンにさらに圧力をかけた。本局は様々な釘付けとその狙いで面白い効果が見ものになっている。

23…Nf6 24.c4! Rac8

 24…d4? は 25.Rxf6 のあと 25…Rxf6 26.Qxa8+ または 25…gxf6 26.Bxh6 で白が勝つ。

25.cxd5 Bg8

 こう受けるしかない。

26.Bc4!

 黒のパスcポーンによる反撃は何もさせない。

26…Nd7 27.Qg3 Ne5 28.Bb3!

 28.Bxa6 Qxa6 29.Rxf8 Rxf8 30.Qxe5 Qxa2 31.Bxc5 Qc2! 32.Qd4 Rf4! 33.Qd2 Qxd2 34.Rxd2 Rc4 という変化は黒がdポーンを取ったあと引き分けにしかならない[訳注 35.Ba3 という手があるようです]。

28…c4 29.Rxf8 Rxf8 30.Bc2 Re8 31.Bd4!

 これでナイトがまた詰み狙いの釘付けをかけられた。だから黒は 32.f4 を防がなければならない。

31…Bh7 32.Bxh7 Kxh7 33.Bc3 1-0

 黒は最後の釘付けの 34.Re1 に対して受けがないので投了した。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[41]

eポーン布局

第5章 ルイロペス(スペイン布局)(続き)

交換戦法

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Bxc6 dxc6(図57)

 図57(白番)

 初心者にとって 4.Bxc6 という手は少し理屈に合わないように思えるのが常である。なぜなら白が自分から双ビショップの優位を相手に与えているからである。この手の真意は早くも4手目で白が収局での優位を得ようとしていることにある。このあと白が d4 と突き黒のeポーンと交換することになれば白に有利なポーンの形になる。白はキング翼で4対3の多数派ポーンになり、収局でこの優位を用いてパスポーンを作りクイーン昇格を目指すことができる。もちろん黒もクイーン翼で4対3の多数派ポーンになる。しかし黒のポーンはc列に二重ポーンがあるという障害を抱えていて、白が正しく指せば黒は自分のパスポーンを作ることができない。

 試しに読者は盤上から白のdポーンと黒のeポーン、それにすべての駒を取り除いて、キングとポーンだけによる収局を指してみればよい。そうすればすぐに白がこの収局に勝つ可能性が非常に高いことに納得するだろう。しかしある著名なチェスの賢者が述べたように「布局と収局の間に神は中盤を作った」。黒のよりどころは中盤戦にある。黒は駒を積極的に働かせて(双ビショップがその助けになる)ポーンの弱点を補うべきである。以前は交換戦法は非常に引き分けになり易いという評価があった。そしてフィッシャーの改良にもかかわらず黒はこのシステムを恐れる理由がない。

 4…dxc6 と取り返すのは黒のクイーン翼ビショップの筋を開け 4…bxc6 よりも優っている。4…bxc6 なら白は 5.d4 exd4 6.Qxd4 で優勢になる。以前に別の個所で本譜の手のあと 5.Nxe5?! でポーン得しようとするのは誤りであることを既に指摘した。5…Qd4 で簡単に互角の形勢になってしまうからである。

5.O-O

 この旧来の手はオランダのマスターのバレンドレヒトが現代の実戦によみがえらせ、1966年にボビー・フィッシャーによって採用された。それ以前は 5.Nc3 と 5.d4(5…exd4 6.Qxd4 Qxd4 7.Nxd4 というようにクイーン交換を目指す)の方が普通の手だった。しかしどちらの手も互角にしかならないようである。白は 5.O-O でキング翼の展開を完了し、黒のeポーンに対する狙いを復活させた。

5…f6

 ここではeポーンは守る必要がある。クイーンで 5…Qf6 と守るのは白が 6.d4 exd4 7.Bg5 Qg6 8.Qxd4 というようにこのクイーンを攻撃することにより手得する。ビショップで 5…Bd6 と守るのも劣った手だと考えられる。即ち 6.d4 exd4(6…f6 は 7.dxe5 fxe5 8.Nxe5! で白には駒を取り返す Qh5+ がある)7.Qxd4(gポーンに当たっている)7…f6 8.Nbd2! から 9.Nc4 で黒陣に圧力がかかる。最後に最も攻撃的な 5…Bg4 6.h3 h5!? には白は無視して 7.d3 と指すのが最善である。

6.d4 Bg4

 6…exd4 は中原を放棄し白に好き勝手にさせてしまう。例えば白は 7.Nxd4 Bd6 8.Qh5+ g6 9.Qf3 で黒のキング翼を弱体化させることができる。9…Bxh2+ なら 10.Kxh2 Qxd4 11.Rd1 で黒が早くつぶされるのを免れるために苦労する。1992年ベオグラードでのフィッシャー対スパスキー戦第9局ではこの評価が裏付けられた。即ち 6…exd4 7.Nxd4 c5 8.Nb3 Qxd1 9.Rxd1 Bg4 10.f3 Be6 11.Nc3 Bd6 12.Be3 b6 13.a4! で白が主導権を手にした。白のキング翼ナイトを釘付けにする本譜の手はずっと積極的な防御法である。

7.c3

 白はこの手でdポーンを支えて完全なポーン中原を作ることを期待している。この手はポーンの犠牲の可能性を含みにしているが、黒は危険すぎてとても受け入れられないだろう。7…exd4 8.cxd4 Bxf3 9.Qxf3 のあと 9…Qxd4 と取ると白は 10.Rd1 と指すことができ、黒はクイーンをまともな地点に捌くためにかなり手数を費やさなければならないだろう。例えば 10…Qc4 11.Bf4(cポーンに当たっている)11…Qf7 となれば白には明らかにポーン損の代償がある。

7…exd4

 黒は局面を少し開放的にした。この手は上記の危険なポーンの犠牲を受け入れるために指されたものではなく、…Qd7 から …O-O-O で白の中原に圧力をかける意図である。黒の堅実な別策は 7…Bd6 8.h3 Bh5 で、互角にできる可能性が高い。

8.cxd4 Qd7 9.h3

 釘付けが手に負えなくなる前にビショップを当たりにして追い払おうとしている。

9…Be6

 ビショップを引くならここだが、9…Bh5! で釘付けを維持した方が良かったかもしれない。9…Bh5 10.Ne5 Bxd1 11.Nxd7 Kxd7 12.Rxd1 なら白が有利の収局になるが、勝つには十分でないだろう。欲張りの 9…Bxf3 10.Qxf3 Qxd4 は 11.Rd1 でやはり白が良い。

10.Nc3 O-O-O 11.Bf4!(図58)

 図58(黒番)

 黒キングの頭上の地点のc7に狙いをつけた。白は次に 12.d5! を狙っている。例えば 12…cxd5 13.Rc1 dxe4 14.Na4! Qxd1 15.Rxc7+ Kb8 16.Rc8+ Kxc8 17.Nb6# で詰みになる(途中 16…Ka7 なら 17.Bb8+ Ka8 18.Nb6#)。黒の最善手は 11…Bd6 12.Bxd6 Qxd6 で、困難さがいくらか取り除かれるがそれでも白がまだ優勢を保持している。というのは白のポーン中原が黒を押さえ込んでいるし、クイーン翼ナイトのために絶好のc5の地点を拠点として使えるからである。1966年ハバナ・オリンピアードでのフィッシャー対グリゴリッチ戦では黒の手は少し正確さに欠けていた。

11…Ne7

 そして以下のようにまもなく黒が投了した。

12.Rc1 Ng6 13.Bg3 Bd6 14.Na4!

 このナイトはc5の地点を目指している。

14…Bxg3 15.fxg3 Kb8

 黒は 15…b6 でナイトを来させないようにすることができない。そう指すと 16.d5 cxd5 17.Nxb6+ でクイーンが取られる。

16.Nc5 Qd6 17.Qa4!

 白は厳しく攻めたてている。

17…Ka7?

 このポカで終わりが早まった。比較的良い手は白の次の手を防ぐ 17…Bc8 だった。

18.Nxa6! Bxh3

 この手は 19.gxh3 Qxg3+ でキング翼に騒動を起こすことを期待している。18…bxa6 は 19.Rxc6 で、詰みを避ければクイーンを取られるのでだめである。

19.e5 Nxe5

 もうどんな手も望みがない。

20.dxe5 fxe5 21.Nc5+ Kb8 22.gxh3 e4 23.Nxe4 Qe7 24.Rc3

 この手は 25.Ra3 を狙っている。

24…b5 25.Qc2 1-0

 黒は駒を2個損しているので投了することにした。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[42]

eポーン布局

第5章 ルイロペス(スペイン布局)(続き)

シュリーマン防御

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 f5?!

 ルイロペスのシュリーマン防御における戦略はいくつかの点でキング翼ギャンビットの動機に似たところがある。その動機とはポーンを捨てて駒を積極果敢に展開し素通しのf列で敵キングに対し直接攻撃をかける可能性を得ることである。しかしここではポーンを与えようとしているのは白ではなく黒で、しかも1手遅れているのである。

4.Nc3(図59)

 図59(黒番)

 白にとって最も賢明な方針はすばやく展開することである。4.exf5 と取るのは 4…e4 と突かれて紛れる。例えば 5.Qe2 Qe7 6.Bxc6 bxc6 7.Nd4 Nf6 8.O-O c5 となると強力な中原のポーンが黒の代償となる。うまくいかない別の方針は 4.Bxc6?! dxc6 5.Nxe5 Qd4 6.Qh5+? g6 7.Nxg6 hxg6 8.Qxg6+ Kd8 で、白の早まった攻撃が終わり黒が優勢になる。しかし単純な 4.d3 は完全に成立し、主手順の大乱戦を避けることができる。

4…fxe4

 黒はf列を素通しにした。さもなければ 4…Nf6 5.exf5 Bc5 で白のf2の地点に狙いをつけたいところだがあいにく白には両当たり狙いの 6.Nxe5 がある。

5.Nxe4 d5

 この手は白のクイーン翼ナイトを当たりにしてその浮いている状態に付け込もうとしている。

6.Nxe5!

 この手は黒のナイトの釘付けにつけ込んでいる。6.Ng3 は弱気の手で 6…Bg4 7.h3 Bxf3 8.Qxf3 Nf6 となって、黒の中原の強力なポーンが白の双ビショップに対する代償となっているので白は優勢にならない。この手順中 6…Bd6? なら 7.Nxe5 Bxe5 8.Qh5+ で白が駒を取り返してポーン得になる[訳注 8…Kf8 9.Bxc6 Bxg3 で黒が優勢なので先に 8.Bxc6+ と取るのが正しい手順のようです]。

6…dxe4

 6…Qe7 は単純に 7.d4 と応じられる。

7.Nxc6 bxc6

 黒はこの手よりも良い手が二つあるがどちらも非常に難解になる。この局面をどちらを持っても指したいならば定跡手順を覚えておかなければならない。さもないと簡単に負かされてしまう。本譜の代わりの手は 7…Qd5 8.c4 Qd6 9.Nxa7+ Bd7 と 7…Qg5 8.Qe2 Nf6 9.f4 Qh4+ 10.g3 Qh3 で、悪夢のような乱戦になる。

9.Bxc6+ Bd7 10.Qh5+

 この手は 9.Bxa8 よりも正確である。これで黒キングが中央に引きずり出されて立ち往生する。

9…Ke7

 9…g6 なら 10.Qe5+ で白が少なくとも交換得になる。

10.Qe5+ Be6(図60)

 図60(白番)

 10…Kf7 は 11.Bd5+ で黒がたちまち負けになる。

 白は勝勢である。このあと 11.Bxa8 Qxa8 12.Qxc7+ で2個の駒の代わりにルークと3ポーンを得、黒キングは野ざらしになっている。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[43]

eポーン布局

第6章 シチリア防御

1.e4 c5(図61)

 図61(白番)

 シチリア防御はチェスの他のどんな定跡よりも研究されてきた。おびただしい本や冊子がこの特定の戦法について出版されている。マスターの全ての試合のうち25%以上がシチリア防御である。なぜこのように人気があるのだろうか。

 黒は1手目で戦いの意図を宣言する。中原をc列から攻撃することによって黒は不均衡な状況を作り出す。そしてそれは激しい局面になり両陣営に多くの面白い可能性をもたらす。この章で議論する四つの戦法は一つの点で基本的に異なっている。それは黒のポーンの形である。

 黒の選ぶことのできるポーンの形の可能性は数多いがそれぞれ長所と短所がある。ポーンがe5にあると(例えばレーベンタール戦法)d5の地点が弱くて白がいつか駒でそこを占拠できる。そして黒がd5の地点をほとんどまたはまったく支配できなければもちろん主眼のdポーン突きを行なうこともできない。黒のポーンがe5にある利点は白のキング翼ナイトから自然な居場所のd4を奪うことにある。そして自分はあとで …Nd4 と進出する可能性を作り出している。

 カン/タイマノフの陣形では黒のポーンはa6(白のナイトがb5に侵入するのを防ぎ自分の …b5 突きを用意する)とe6(キング翼ビショップと戦法によってはキング翼ナイトの展開に役立ち、後の …d5 突きを支援する)とにある。黒のdポーンは白の狙いの e5 突きを防ぐためにd6に進むこともある。このようなポーンの形は黒の黒枡を少し弱めることになりがちである。

 黒がキング翼ビショップをフィアンケットすると(例えばドラゴン戦法)キング翼にいくらか弱点を抱え込むが、ポーンの形は全然弱くない。

 シチリア防御での黒には展開が完了したあと二つの主要な目標がある。これらのうち最も重要なのは白のeポーンに対する攻撃で、通常はf6のナイトと時にはb7のビショップによっても行なわれる。この攻撃は時には捌きの …d5 突きによって完了することがある。黒がこれを無事にやり遂げることができれば必ず満足のいく局面になる。

 黒のもう一つの主題はc列での攻撃で、通常はクイーン翼ルークをc8に展開することによって行なわれる。時にはこのルークは白のクイーン翼ナイト(このナイトはeポーンを守っている)と刺し違えて、白のクイーン翼ポーンを乱しeポーンの土台を崩す。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[44]

eポーン布局

第6章 シチリア防御(続き)

レーベンタール戦法

1.e4 c5 2.Nf3

 これは最も自然な展開の手である。白の2手目についてはゆうに1冊の本が書ける。

2…Nc6

 これも自然な手で、局面の機軸となってきそうなd4の地点にさらに利かしている。

3.d4

 この手は局面を開放的にし、駒の展開の可能性を高め、中原に地歩を築いている。

3…cxd4

 取らないと 4.d5 で白に黒陣を乱される。

4.Nxd4 e5(図62)

 図62(白番)

 この手でレーベンタール戦法になる。黒が主導権を握っているが、d5の地点を恒久的に弱めるという犠牲を払っている。この戦法の解説では黒が早期に …e5 と突いたシチリア防御の陣形の重要な側面の多くを明らかにしていく。

5.Nb5

 積極性のあるのはこの手だけである。5.Nf5? は 5…d5! 6.Qxd5 Qxd5 7.exd5 Bxf5 8.dxc6 で黒が良い。シチリア防御の局面のほとんどすべてで白は Nxc6 とナイトを交換するのを差し控えた方が良い。というのは黒がポーンで取り返すとd5の地点がよく守られた状態になるからである。この局面も例外でない。5.Nxc6 bxc6 6.Bc4 Ba6 で互角の形勢になる。7.Bxa6? は 7…Qa5+ から 8…Qxa6 で、白のキング翼キャッスリングが当面妨げられる。

5…a6

 これは黒の作戦の論理的な継続手である。黒は手得をしながら役に立つ …a6 突きを指し主導権を維持している。

6.Nd6+ Bxd6 7.Qxd6 Qf6

 黒は主導権を利用してクイーンの交換を迫った。

8.Qd1!

 これまで展開についてさんざん言ってきた後では逆説的だが、この「反展開」の手はたぶん白に永続的な優勢をもたらす唯一の手である。

8…Qg6

 この手は白のeポーンを当たりにし、白のgポーンに圧力をかけて白のキング翼ビショップが展開できなくしている。

9.Nc3 Nge7

 もっと自然そうな 9…Nf6 は 10.Qd6 で黒がキャッスリングできなくなるのでだめである。

10.h4!

 この例外的な手は黒クイーンの位置につけ込んでさらに黒枡に弱点を作らせようとしている。ここで白が主導権を握った。

10…h5

 10…h6 は次のように主導権を維持しながら陣形を広げる機会を白に与えてしまう。11.h5 Qf6 12.Be3 O-O 13.Qd2 b5 14.O-O-O b4 15.Na4 これで黒陣に弱点がいっぱいあるので白が明らかに優勢である。

11.Bg5

 黒の弱い黒枡につけ入った。

11…d5

 黒は捌きに出なければならないのだが他に良い手がない。11…f6 12.Be3 d5 なら白はポーンでなくナイトで取った方が良い。なぜなら 13.Nxd5 Nxd5 14.Qxd5 と取ったとき黒が …Be6 と指せないからである。

12.exd5 Nb4

 12…Nd4 は 13.Bd3 Bf5 14.O-O で黒に犠牲にしたポーンの代償がない。

13.Bxe7 Kxe7

 13…Nxc2+? は 14.Kd2 Nxa1 15.Bg5 となって白がナイトを取り返した時ルークとポーンの代わりに2駒を得ることになるので黒が駄目である。

14.Bd3!(図63)

 図63(黒番)

 黒は白に二重孤立ポーンを作らせることができる。しかしそれでも白はポーン得で、白駒は次のように収局でよく連係を保つことができる。14…Nxd3+ 15.Qxd3 Qxd3 16.cxd3 b5(こうしておかないと黒はクイーン翼で動きが不自由になる)17.O-O-O! Rd8 18.Rhe1 これで白は 19.d4 を狙い(二重ポーンを解消する)優勢である。図の局面で黒はもちろん 14…Qxg2?? とは指せない。そう指すと 15.Be4! から a3 と突かれる。他には 14…Nxd3+ 15.Qxd3 Qxg2 だが 16.d6+ から O-O-O で白に猛攻を浴びる。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

チェス布局の指し方[45]

eポーン布局

第6章 シチリア防御(続き)

ラウゼル戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 Nc6(図64)

 図64(白番)

 黒は最初に中原へさらに圧力をかけて、白がキング翼の展開を完了する前に形を決めるように誘った。

6.Bg5

 白はある段階で Bxf6 と取る可能性を作って黒のdポーンに間接的に圧力をかけた。例えば 6…g6 7.Bxf6 exf6 となればdポーンが孤立化し弱体化する。8.f4 のあと黒が通常の展開の方針で手を進めれば、次のようにすぐに中央で強い圧力にさらされる。8…Bg7 9.Ndb5 O-O 10.Qxd6 f5 11.O-O-O これで白が優勢になる。

 6.Be3 は単純に 6…Ng4 から 7…Nxe3 と応じられる。

6…Bd7

 これは最も現代的な手である。黒は …Rc8 から …Qa5 で素早くクイーン翼を展開する作戦である。その後は紹介のところで述べたように多くの場合 …Rxc3 と交換損の犠牲を決行する。別の一般的で本筋の手は 6…e6 である。以下は 7.Qd2 Be7 8.O-O-O O-O 9.f4 Nxd4 10.Qxd4 Qa5 11.Bc4 Bd7 12.e5 dxe5 13.fxe5 で、1992年リナレスでのイワンチュク対アーナンドの番勝負第7局ではここで戦力損を避ける 13…Bc6! が指された。

7.Qd2 Rc8 8.O-O-O

 黒のクイーン翼攻撃の襲来を考えればこれは「飛んで火に入る夏の虫」のように危険に思われるかもしれない。しかし他の手も研究されたが白はこれより良い手がないようである。

8…Nxd4

 黒はルークのためにc列を空けた。

9…Qxd4 Qa5

 黒の作戦の第一部が成し遂げられた。黒のクイーン翼は完全に展開し終わり、眼目の …Rxc3 切りの用意が整っている。ここで白は当たりになっているクイーン翼ビショップを何とかしなければならない。

10.f4

 これはビショップを守る最も自然な手段である。それと同時に中原の支配も強化している。

10…Rxc3!? 11.bxc3

 11.Bxf6? は 11…Rc7 12.Bxg7(12.Bh4 Qxa2 は白に望みがない)12…e5! で白の戦力損になる。同様に良くないのは 11.Qxc3 Qxc3 12.bxc3 Nxe4 で、黒は交換損の代わりに1ポーンを得ていろいろなうるさい狙いも持っている。

11…e5!

 これは黒キングがまだ最初の位置にいることを考えれば大胆な手である。しかし黒としては積極的に動かなければならない。

12.Qb4

 クイーンが他に逃げると 12…Ng4 とされ、13…h6 から 14…exf4 を狙われる。

12…Qxb4 13.cxb4 Nxe4(図65)

 図65(白番)

 黒は交換損の代わりに1ポーンを得ているが、他にも代償となる要素が数多くある。黒の狙いには 14…Nf2 で白のルークを両当たりにする手や、14…Nc3 のあと 15…Nxa2+ から 16…Nxb4 とする手がある。実戦では黒が完全に不満のない局面であることが実証されている。1969年リュブリャナでのウンツィカー対ゲオルギウ戦は次のように進んだ。

14.Bh4 g5! 15.fxg5

 15.Bxg5? は 15…Nf2 で黒に交換損を回復される。

15…Be7 16.Re1 d5 17.Bd3 h6 18.c4 hxg5 19.cxd5 Rxh4 20.Rxe4 Rxe4 21.Bxe4 f5

 このあとまもなく合意の引き分けになった。ソ連の故GMボレスラフスキーの研究によるとわずかではあるが白の改良手順は 18.Bxe4 dxe4 19.Rxe4 hxg5 20.Bg3 f6 21.c3 である。

(この章続く)

2011年01月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[46]

eポーン布局

第6章 シチリア防御(続き)

ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6

 この手は黒のクイーン翼ビショップの筋を開け、白からの早期の e5 突きを防いでいる。

3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6

 この手は黒の布局戦略の重要な一部で、白から次の手を引き出すためにeポーンを当たりにして白のcポーンを突かせないようにしている。この手の代わりに黒が 4…g6 と突くと白は 5.c4 と突くことができていわゆるマローツィ縛り(1920年代の有名なハンガリー人マスターにちなむ)を構築することができる。この縛りの主眼は黒の狙いとする …d5 突きによる捌きを防ぐことである(願わくばずっと)。もし実際に黒の主眼の捌きの手が抑えられることになれば、黒はたちまち守勢に追い込まれて反撃がほとんどまたは全然できなくなってしまう。

5.Nc3 g6(図66)

 図66(白番)

 この手でドラゴン戦法に入る。そう名付けられたわけは黒のポーンの形がドラゴンの輪郭に似ていることによる。黒はキング翼ビショップをフィアンケットして対角斜筋(h8-a1)に圧力をかけ自分のキングに安全地帯を設ける。

6.Be3 Bg7

 6…Ng4? は 7.Bb5+ Bd7 8.Qxg4 で駒損になる。しかし本譜の手のあとは 7…Ng4 が狙いとなる。

7.Be2

 代わりに 7.f3 は 7…Nc6 8.Qd2 O-O となってチェスの最も難解な局面になる。白はこのあと 9.O-O-O または 9.Bc4 と指すことができる。この戦型のどちら側を持つにせよ大会や決定戦で勝負をかける前に専門書で研究しておくべきである。

7…Nc6 8.O-O O-O

 両者とも普通の展開の手を指している。

9.Nb3

 白はd4の駒をどけて黒が …d5 突きの可能性に基づいた手を作るのをより難しくさせた。この白の手は 10.f4 と突く準備でもある(すぐに 9.f4 と突くと強く 9…Qb6 と応じられる)。

 穏やかな手は 9.Qd2 だが黒はほとんど痛痒を感じない。自然な応手の 9…Ng4 10.Bxg4 Bxg4 でやや味気ない局面になる。

9…Be6

 ここはこのビショップにとって最も働きのある地点で、いつかこのビショップまたはクイーン翼ナイトでc4の地点を占拠する準備である。9…Bd7 は消極的すぎる。

10.f4

 白も強気で応じた。黒が何もしなければ白からの f5、g4 から g5 で激しいキング翼攻撃に直面することになる。

10…Qc8!

 この手には三つの目的がある。11.f5 を防ぐこと、11….Ng4 と捌いて交換をねらうこと、そしてルークのためにd8の地点を空けることである。

11.h3

 白は 11…Ng4 を防いだ。

11…a5!

 黒は快調に飛ばしている。次の狙いは 12…a4 13.Nd4 a3 で白の対角斜筋を弱めることである。

12.a4 Nb4

 黒の完全に満足できる局面になった。黒のクイーン、クイーン翼ナイト、クイーン翼ビショップおよびキング翼ビショップが全部クイーン翼を向いている。クイーン翼では白のわずかに優る中原支配を埋め合わせる十分な可能性がある。黒のとりあえずの狙いは 13…Nxe4! 14.Nxe4 Nxc2 である。

13.Bd4 Bc4(図67)

 図67(白番)

 この活発な局面では両者の勝ち目はほぼ互角である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[47]

eポーン布局

第6章 シチリア防御(続き)

カン/タイマノフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 e6(図68)

 図68(白番)

 一度ならず黒のd5の地点の重要性を述べてきて、今度はその地点の支配をめぐって黒のポーンの形が作られる戦法に注意を向ける。

 本譜の手は黒のキング翼ビショップの筋を開けてd6またはc5の地点(戦法によってはb4もある)に出られるようにしている。このビショップは一箇所以上の地点で良い働きをするので、読者はその役に立つ捌きを注意深く観察するのがよい。

3.d4 cxd4 4.Nxd4 a6

 黒のここまでの指し方は迅速な展開の重要性について述べてきたことすべてに当てはまっていない。この「ポーン先行」戦略にひそむ論理は、難攻不落のポーンの形を築いておいて、白が駒を動かすのを見ながら自分の駒を最適な地点に配置しようというものである。

5.Nc3

 既に白は展開で2手先行している。代わりに 5.c4 は 5…Nf6 6.Nc3 Bb4 と応じられる。

5…Qc7

 5…b5 もマスターの試合に時おり見られる。しかし 6.Bd3 Bb7 7.O-O となると白が展開でリードしていて積極性のある好形になるようである。

6.Bd3 Nc6

 これは自然な展開の手で、白のd4のナイトに当たりになっている。

7.Be3

 7.Nxc6 はシチリア防御では当然ながら黒のd5の地点の支配を強めるのに役だつだけである。7…bxc6 8.O-O Nf6 となればほぼ互角の形勢である。

7…Nf6

 この型(…e6 と突いている)の戦法では黒は …Nxd4 と争点を解消したあと …Ne7 から …Nc6 と指すことがある。しかしこのような戦術には黒のキング翼の守りが薄いという欠点がある。例えば 7…Nxd4 8.Bxd4 Ne7 9.O-O Nc6 10.Be3 b5 11.f4 Bb7 12.Qh5 となれば白はキング翼で主導権があり攻撃を仕掛ける可能性がある。

8.O-O

 8.Qe2 は 8…Bd6 でビショップの働きが強いので黒にも等分の可能性がある。このあと白は 9.g3(9…Bf4 から 9…Bxe3 という駒を交換するための捌きを防ぐため)9…Be5! 10.Nb3 Bxc3+ 11.bxc3 d5 12.exd5 Nxd5 13.Bd2 と指すのがよく、どちらも指せる分かれである。

 本譜の手はもっと自然な手で、白がいくらかの優勢を保持する可能性が高い。

8…Bd6

 この手はhポーンを当たりにしながら重要なe5とf4の地点を押さえている。白が最初にしなければいけないことは当たりのポーンを救うことである。

9.h3

 9.f4? は 9…Nxd4 10.Bxd4 Bxf4 でポーンを損する。また、9.Kh1 は 9…Bf4 10.Bxf4 Qxf4 11.Nde2 Qc7 で互角の形勢で黒の満足である(ただし 9…Bxh2? は 10.g3 Bxg3 11.fxg3 Qxg3 12.Qf3 となって、黒のポーン3個より白の駒得の方が優る)。

9…b5

 これは最も積極的な手で、クイーン翼ビショップをb7に展開して白のeポーンに対する圧力を増す準備をしている。

10.Nxc6

 黒がビショップを対角斜筋(a8-h1)に配置するつもりなので、黒からナイトを交換させるよりも自分からc6で交換して手を稼ぐことにした。黒がナイトを取り返すとクイーンが自分のビショップの利きの邪魔になる。ビショップの利きを通すためには黒はあとで1手かけてクイーンをどけなければならない。

10…Qxc6 11.Bd4

 白はビショップをもっと攻撃的な地点に進めて 12.e5 から 13.Be4 を狙った。

11…Bb7

 黒は当然 12.e5 を防いだ。

12.a3

 黒のポーンがb5にある局面ではこの手は役に立つ用心となることがよくある。これで黒はもう …b4 と突いてナイトを追い払いeポーンを取ることができなくなった。

12…e5!

 一見したところこの手は黒のd5とf5の地点を弱めるので意外な感じがする。しかし実際には白がこれらの弱点につけ込む手段はない。なぜなら白にはf5に行くべきナイトがd4にいないし、白がナイトをd5に行かせようとしても黒のナイトがそこを見張っているからである。本譜の手は白が e5 と突く可能性も完全になくした。

13.Be3 Bc5(図69)

 図69(白番)

 この手はビショップ同士を交換するためである。14.Qf3 Bxe3 15.Qxe3 O-O 16.Rad1 d6 となればどちらも指せる局面である。

(この章終わり)

2011年01月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[48]

eポーン布局

第7章 フランス防御

1.e4 e6 2.d4 d5(図70)

 図70(白番)

 これは 1.e4 に対し非常に古くからの非常に堅固な防御法である。黒は自分の連鎖ポーンにより直接攻撃にも比較的安全になるのと引き換えに中原の形で劣ることになるのを甘受することを表明している。さらには収局ではポーンの形で優位に立つことを見越している。シチリア防御では動的な試合になるのが一般的なのに対し、フランス防御の試合はしばしば塹壕戦のようになる。手が少し進んだだけで中原は閉鎖されるのが普通で、かみ合った連鎖ポーン(白ポーンはd4とe5、黒ポーンはd5とe6)が出来上がる。

 戦いはそれからc/f列に移り、お互いに相手の連鎖ポーンの土台を崩し側面から攻めようとする。突き越し戦法のところで見られるように、白は早くも3手目で主眼の e5 突きを指すことができる。しかしこのように早すぎる突き越しは主導権を放棄することになる。ほとんどの場合白は黒が …Nf6 と指すのを待ち、e5 突きがf6のナイトに当たって先手になるようにする。

 中原の閉鎖ポーンの形に何らかの変化が起こるのは、黒が …c5 および/または …f6 突きで土台を崩そうとすることによるものである。側面の …c5 の突っ掛けは白のナイトがc3にいる時に最も効果的で、白はポーンをc3に突いて中原のポーンを支えることができない。黒からの …f6 突きはそれほど効果的でないのが普通である。なぜなら白は黒に …fxe5 と取らせて自分のキング翼ナイトで(f3から)取り返したり、eポーンを支えるためによくf4に進んでいるfポーンで取り返したりできるからである。いくつかの戦法を詳しく検討する前に、「フランスビショップ」について少し話しておく。これは黒のクイーン翼ビショップのことで、e6のポーンにさえぎられて布局で閉じ込められる不遇をかこつことが多い。この駒をどのように働かせる(または交換する)のが一番良いかという問題は、いつもフランス防御を指す者の心を離れない。一般的にビショップはナイトより少し強力であるが、味方のポーンによってさえぎられた守勢の不良ビショップは活動的なナイトよりはるかに劣る。

(この章続く)

2011年01月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[49]

eポーン布局

第7章 フランス防御(続き)

古典戦法

1.e4 e6 2.d4

 これは明らかに 1…e6 に対する最も攻撃的で自然な応手である。白はこの手で中原における態勢を強化し、自分の駒のために陣地を広げ展開のためにより多くの筋を開けている。

2…d5(図71)

 図71(白番)

 黒の希望はd5の地点に「橋頭堡」を確立することと白の中原ポーンを固定することである。自由に動ける中原は閉鎖的な中原よりも攻撃の道具としてはるかに強力である。

3.Nc3

 白は駒を展開しながらeポーンを守った。これは白の最も自然な3手目だが、3.Nd2 と 3.e5 もよく指されている。この二つの手は別の節で取り上げる。3.exd5 はあまり勧められない。なぜなら 3…exd5 のあと黒のクイーン翼ビショップが自由に動けるようになるからである。ガリー・カスパロフはこの退屈そうな交換戦法でも面白い試合を指していた。このことはチェスがいかに深遠で可能性に富み魅力的かを示している。

3…Nf6

 黒も駒を展開し白のeポーンに圧力をかけ続けている。これに代わる重要な手は 3…Bb4(ビナベル戦法)で、次節で取り上げる。

4.Bg5

 これも自然な手で、駒を展開し黒のナイトを釘付けにしてeポーンへの攻撃を緩和している。本譜の手で白は 5.e5 を狙っている。すぐに 4.e5 Nfd7 5.f4 と指すのもよく指されていて、本譜の戦法と似た戦いになる。

4…Be7

 これは黒のキング翼ナイトへの釘付けをはずす最良の手段である。代わりに 4…Bb4(マクカチオン戦法)は 5.e5 h6 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3 Ne4 8.Qg4 と進み難解な局面になる。

5.e5

 eポーンをe4の地点に維持する適当な方法はない。例えば 5.Bd3 は 5…Nxe4 6.Nxe4 dxe4 7.Bxe4[訳注 Bxe7 が抜けているようです]となって、一組のナイトが交換になって黒陣が楽になる。一般的な原則として窮屈な陣形の側は駒の交換に努めれば残りの戦力を捌く空間が広がる。

 本譜の手のあと白のポーンは固定され攻撃の標的になり易い。しかし代償として白は陣形の広さの優位を得る。

5…Nfd7

 当たりのナイトは下がったが、その地点は …c5 突きを助けることができ、あとで白のeポーンが弱体化すればそれを狙うこともできる。

6.Bxe7

 この交換は白と黒のどちらに有利だろうか。読者は前述の解説から駒交換は黒陣を解放するのに役立つだけだと思うかもしれない。その解説とは対照的に、ビショップはその占める枡の色と同色の枡に固定された連鎖ポーンにより働きがひどく狭められることも強調してきた。だからここでは白は自分の「不良」ビショップを黒の「優良」ビショップと交換したことになる。いずれにしても白がビショップを引くのは手損になり黒に …c5 と突く隙を与える。白は 6.h4 と突くこともでき(アリョーヒン=シャタール攻撃)、ポーンを与えて列を素通しにし迅速な展開を図る。

6…Qxe7 7.f4

 これは白の最も積極的な手である。中原が閉鎖されている局面では展開の速さはポーンと駒の適切な配置ほど重要でない。だから白はまずfポーンを突くまでキング翼ナイトを動かすのを遅らせることができる。

 f4のポーンは白のe5の支配を増している。これはあとで分かるように非常に重要である。

7…O-O

 黒は急いでキングを安全地帯に移した。これでルークもf列で働ける。黒は白の増大する圧力を迎え撃つためにすぐにfポーンを突くことになる。

8.Nf3

 これは自然な展開の手である。ナイトを進めるにはf3が最良の地点である。そこからは要所のd4とe5の地点に利かすことができる。

8…c5

 黒は中央で打って出て、白の連鎖ポーンの根元に攻撃を加えた。

9.Bd3

 白はビショップを展開し、h7に切る恐ろしい狙いを抱いている。戦術の主題の研究は布局戦略についての本よりも中盤戦についての本がふさわしいが、実戦でよく生じるので読者はこの手筋を熟知していた方が良い。主たる狙い筋は (9.Bd3) a6 10.Bxh7+ Kxh7 11.Ng5+ Kg8 12.Qh5 で、黒は詰みを逃れることができない。例えば 12…Rd8(キングのためにf8の地点を空けた)13.Qh7+ Kf8 14.Qh8# で詰む。黒は次のようにキングが広いほうに逃げても運命を避けられない。11…Kg6 12.Qd3+ f5(12…Kh6 または 12…Kh5 なら 13.Qh3+ Kg6 14.Qh7#)13.Qh3[訳注 13…Nf6 で受かるので正着は 13.Qg3 です]これで黒は 14.Qh7# を避けるために駒をいくつか捨てなければならない。

9…f5

 白の直前の手により黒はキング翼で即刻の対処を迫られた。黒はこの手でポーンの配置をさらに固定し白が進展を図るのをもっと難しくすることを狙っている。

10.exf6e.p.

 白は展開に優っているので局面を開放することを望んでいる。本譜の手のあと黒のeポーンは正面から攻撃を受けてついには弱体化する。

10…Rxf6 11.Qd2

 白は当たりのfポーンを守らなければならない。本譜の手はクイーン翼ルークを容易に戦いに投入できるので 11.g3 より優っている。

11…Nc6

 黒は遅れている展開をおもんぱかった。すぐに 11…cxd4 と取るのは局面をさらに開放的にして黒の利益にならないが、本譜の手の後は 12…cxd4 が狙いになっている。

12.dxc5 Nxc5

 12…Qxc5 と取れば白の 13.O-O を防ぐが、12…Nxc5 と取る方が良い。理由は白の働いているビショップと交換できるし、クイーン翼ビショップのためにd7の地点を空けてクイーン翼の展開を速めるからである。

13.O-O Nxd3 14.cxd3(図72)

 図72(黒番)

 白のキング翼ビショップが消えて黒キングに対する攻撃の成功の可能性が減少した。陣形的には黒は全然喜べない。黒のeポーンが出遅れになっていることと、クイーン翼ビショップがまだ働いていない(つまり典型的な「フランスビショップ」)ので白が優勢である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[50]

eポーン布局

第7章 フランス防御(続き)

ビナベル戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Bb4(図73)

 図73(白番)

 この手からビナベル戦法が始まる。この戦法はフランス防御群の中で黒の最も人気のあるシステムになっている。黒の戦略はクイーン翼で厳しい攻撃を仕掛けることである。白はたいていキング翼で活動する。そこなら黒の守られていないgポーンを攻撃することによって黒のキング翼ビショップがいなくなったことにつけ込もうとするかもしれない。戦いはフランス防御の他のほとんどの戦法よりもはるかに複雑になる可能性がある。両者のキングはしばしば真ん中で立ち往生することがある。

 白のクイーン翼ナイトを釘付けにした本譜の手は白のeポーンに対する攻撃を再開し、ルビーンシュタイン戦法の 3…dxe4 よりはるかに積極的である。ルビーンシュタイン戦法は 4.Nxe4 Nd7 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6 7.Bd3 で白が有望になる。

4.e5 c5

 白は中原で進攻し、黒は新たにできた連鎖ポーンの根元を攻撃することによって迅速に応じている。

5.a3

 釘付けが非常に厄介になってきたので白は非展開の手を指す代価を払ってもそれを終わらせることにした。釘付けをはずす別の方法は 5.Bd2 だが、この控えめな手は黒に問題を突きつけない。5.Bd2 のあと黒の最善手はキング翼をすみやかに展開する 5…Ne7 である。5…cxd4 と応じるのは 6.Nb5 という手があるので悪い。これで黒ビショップは適当な引き場所がなく(6…Be7 はキング翼ナイトの邪魔になり、6…Bc5 は 7.b4 と調子よく突かれる)、ビショップ同士を交換すればd6の地点が弱くなる。

5…Bxc3+

 黒は 5…Ba5 で釘付けを維持することはできない。なぜなら 6.b4! cxb4 7.Nb5 bxa3+ 8.c3 Bc7(9.Nd6+ を防ぐため)9.Bxa3 となって、白が展開で優位に立ち、犠牲にしたポーンの代わりに攻撃が強力になるからである。

6.bxc3 7.Ne7

 黒は白クイーンがやって来て対処しにくくなる前にキング翼の展開を図った。

7.Qg4

 これは白の最も激しい手である。7.Nf3 なら黒は普通に展開し陣容を固めることができる。そのあとは白のクイーン翼のポーン形が弱点になっているので黒が適切な反撃を行なうことができる。

7…cxd4

 7…O-O なら白は単純な展開で強力な攻撃態勢になる。例えば 8.Nf3 Nbc6 9.Bd3(h7で切る狙い)9…f5 10.Qg3! という具合である。

 本譜の手は黒の迅速な反撃の作戦に論理的によく合っている。

8.Qxg7 Rg8 9.Qxh7

 これで白は黒のキング翼の破壊を完了した。しかし盤の反対側の状況は白が展開で遅れているせいではなはだ不透明である。

9…Qc7

 これで黒は …Qxc3+ と …Qxe5+ という強力な狙いができた。

10.Kd1

 これは面白い受けである。10…Qxe5 11.Nf3 と 10…Qxc3 11.Rb1 は白の展開を助けるので良くない。しかし現在もっと人気のある選択肢は 10.Ne2 Nbc6 11.f4 Bd7 12.Qd3 dxc3 で、非常に難解である。

10…Nbc6

 別の駒を戦いに投入し白のeポーンをさらに狙っている。

11.Nf3

 白は急いで別の駒を攻撃に参加させ、12.Ng5 でf7の地点を狙う作戦に出た。

11…dxc3

 犠牲にしたポーンを取り戻した。

12.Ng5 Nxe5 13.f4

 この手は守りのナイトを追い返そうとしている。黒の次の手はほとんど必然である。

13…Rxg5 14.fxg5 N5g6(図74)

 図74(白番)

 黒は白のクイーンを閉じ込め 15.Qh8+ を防いだ。ここまでケレスの分析を追ってきて非常に興味深い局面に至った。黒は交換損に対してかなりの代償を得ている。即ちポーンを得し、中原の可動ポーン群は堂々たるものである。両者のキングはいくらか露出しているが白の方が程度が大きい(黒キングは …Bd7 から …O-O-O で比較的安全になる)。さらに白のクイーンは働いていない。この局面は非常に難解で、各自の研究の余地が非常に大きい。

(この章続く)

2011年02月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[51]

eポーン布局

第7章 フランス防御(続き)

タラシュ戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nd2(図75)

 図75(黒番)

 一見したところではこの手は奇妙に思える。なぜならd2はナイトにとってc3よりも働きの劣る地点であるのは確かだし、さらには白のクイーン翼ビショップとクイーンの利き筋をふさいでいるからである。他方では 3.Nd2 はビナベルを回避し(3…Bb4? は 4.c3 と応じられる)、戦型によっては突き越し戦法のように白が c3 と突いてdポーンを支えることができる。

3…c5

 この手と 3…Nf6 は大会の実戦で同じくらいの頻度で現れる(3…Nc6 もよく見かける)。3…Nf6 は白が 4.e5 と突いていつものフランス防御の連鎖ポーンを形成するよう誘っている。そして黒はあとでそれを攻撃する。本譜の手はすぐに白のdポーンに当たりをかけることによって e5 突きを防いでいる。だから白は他の方法で優勢を確保するよう努めなければならない。

4.exd5

 白は中原ですぐに交換して黒に孤立ポーンを作らせることに期待した。(孤立ポーンの側は二つの不利に直面する。一つ目はそのポーンを別のポーンで守ることができないので、それが攻撃された時は駒を使って守らなければならない。二つ目は孤立ポーンの直前の地点が非常に弱くなることがあり、敵の駒の拠点として使われるかもしれない。孤立ポーンの目の前の地点の駒は両隣の列にポーンがもうないのでポーンを突いてどかすことができない。)

4…exd5

 黒は将来dポーンが孤立化する可能性を受け入れ、活発な展開と駒の活動によりこの弱点の代償が得られることを期待した。特に黒のクイーン翼ビショップの展開はもうたいした問題ではなくなっている。グランドマスター級の試合では 4…Qxd5 も流行している。もっとも白はクイーンを攻撃して手得をするかもしれず、黒のクイーン翼ビショップは問題をかかえたままである。

5.Ngf3

 5.dxc5 で黒のdポーンをすぐに孤立させるのは、黒が展開の手で応じて(5…Bxc5)手得するので正しくない。白はできるならば黒がキング翼ビショップを動かすまで dxc5 を遅らせるべきである。それまではキング翼を迅速に展開するのが白のもっとも理にかなった方針である。

5…Nc6

 黒も早く自分の駒を働かせたい。この手は 5…Nf6 より正確である。というのは白がキング翼ビショップをb5に出せば黒のキング翼ナイトはe7が良い位置になるかもしれないからである。

6.Bb5

 この展開の手は良い手で、黒のクイーン翼ナイトを釘付けにして、d4ポーンに対する圧力を取り去っている。

6…Bd6

 黒は釘付けを(例えば)6…a6 ではずしている余裕はない。なぜなら必然の応手の 7.Bxc6+(7.Ba4?? は 7…b5 8.Bb3 c4 でビショップを取られるので不可である)のあと、白が 8.O-O から 9.Re1 と指しe列での新たな釘付けが前の釘付けよりももっと面倒になるからである。同じ理由で 6…Nf6 と 6…Be7 も良くない。例えば 6…Nf6 なら 7.O-O(8.Re1+ の狙い)7…Be7 8.dxc5 となってこの時黒は 8…Bxc5 と取り返すことができない。なぜなら 9.Re1+ Be7 10.Qe2 で黒はキャッスリングすると駒をとられるからである。

7.O-O

 白はキング翼の展開を完了し 8.Re1+ を狙っている。

7…Nge7

 この手はほとんど絶対である。他のどんな手も黒はかなり不利になる。

8.dxc5

 白はようやく黒のdポーンを孤立させるという基本的な陣形上の主題に戻った。

8…Bxc5 9.Nb3

 このナイトはもちろん絶好の拠点のd4を目指している。そのかたわら黒のビショップを攻撃している。

9…Bd6

 このビショップはb8-h2の斜筋上にいるのが一番良い。

10.Nbd4 O-O 11.Be3

 このビショップはd4とc5の地点の支配を助けるためにここにいるのが理にかなっている。

11…Bg4(図76)

 図76(白番)

 孤立dポーンにもかかわらず黒は布局から互角になった。それは駒が活動的な地点にいるし他に弱点もないからである。1961年ブレッドでのパッハマン対ポルティッシュ戦は次のように進んだ。

12.h3 Bh5 13.Qd2 Rc8 14.Be2 Bb8

 黒の次の手と共にこの手は素通しc列と白キングに対し圧力をかける態勢を作っている。

15.c3 Qc7

 この手は 16…Nxd4 のあと 17…Bxf3 から 18…Qh2# を狙っている。

16.g3 Qd7 17.Kg2

 どちらも進展が図れないようである。

(この章続く)

2011年02月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[52]

eポーン布局

第7章 フランス防御(続き)

突き越し戦法

1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5(図77)

 図77(黒番)

 この強制されない白の二度目のeポーン突きは「突き越し」戦法と名づけられている。3手目でもう白の戦略の全貌が明らかになりつつある。白は先着の優位を広さの優位に変えることを選び、より長続きすることを期待している。この作戦自体は理にかなっているが、手数をかけたため主導権が黒の手に渡り相当続く。そのためこの戦型は棋理に合っていると考えられているが、布局の指し方に機動性をより好む現代のマスターたちからはあまり高く評価されていない。

3…c5

 これは自然な(かつ最善の)応手である。黒はクイーン翼で陣地を広げ、白の連鎖ポーンの根元にすぐに突っ掛けた。

4.c3

 いつかは黒が白の中原を …cxd4 で侵食しようとするので、白はこの手に対しポーンで取り返し進攻した連鎖ポーンを確実に維持できるように方策を講じた。

4…Nc6

 黒の迎撃戦略は全力を挙げて白のdポーンを攻撃することである。このポーンが本当に取れるとは予想していないが、白駒のほとんどをその守りに縛り付けることは期待している。

5.Nf3

 白は駒を展開しd4のポーンの守りにまた護衛を付けた。

5…Qb6

 これはクイーンを試合の早い段階で動かすなという原則への重要な例外である。黒のクイーンはb6なら攻撃を受けることがなく、好所でもある。なぜなら白のdポーンへの攻撃に加わり、白のクイーン翼ビショップが動けばbポーンが取れるのでその動きを制限しているからである。

6.Be2

 このビショップをe2とd3のどちらに進めるかの選択は、白がこの布局でしなければならないもっとも重要な決断の一つである。最初にこの戦法の定跡を発展させたニムゾビッチは Bd3 より Be2 の方がd4のポーンを完全に「守っている」との立場をとった。彼の意味するところは Be2 なら白クイーンのdポーンを守る働きを阻害しないということである。6.Bd3 のあと黒は 6…cxd4 7.cxd4 Nxd4? 8.Nxd4 Qxd4?? でポーンを取ることができない。それは 9.Bb5+ でクイーンを取られてしまうからだが、7…Bd7 と指すことによりdポーンに対する狙いを新たにすることができる。

6…cxd4

 この交換は黒の作戦の自然な一部である。黒が少しでも遅らせれば白の方が dxc5 と取ろうとするかもしれない。

7.cxd4 Nge7

 黒はキング翼ナイトをf5の地点に捌いて白のdポーンに対する圧力を強めるつもりである。

8.Na3

 白は包囲されたかわいそうなポーンに急いでさらに守り駒を駆けつけさせた。このナイトはc2の地点を目指している。

8…Nf5 9.Nc2 Bb4+

 これは面白い着想である。白の駒はd4とb2の地点を守らなければならないので過負荷になっている。そのためここではキングを動かしてキャッスリングの権利を失わなければならない。

10.Kf1

 白は 10.Nxb4 でも 10.Bd2 でも弱いポーンを守ることができなくなる。だからこのキングは歩いて難を避けなければならない。しかし本譜の手のあと白の方にも狙いがある。機会があれば a3 から b4 と突いて広さの優位を拡大し、ポーンの弱点の一つを解消する。

10…Be7

 11.a3 突きに 11…a5 と応じられるようにビショップをどけた。

11.g3

 白はキングのために少し空間を作り、キング翼ルークが隅から出て働けるようにした。

11…Bd7

 黒はまだクイーン翼ビショップをどのように働かせるかという問題を解決していない。これはいつもフランス防御の悩みの種である。当面はd7に置いてルークのためにc8の地点を空けてこの列が素通しになれば好所になるようにした。

12.Kg2(図78)

 図78(黒番)

 この局面はマスターの実戦に何回か現れた。黒のあらゆる努力にもかかわらず広さの優位を維持してきた白がたぶん少し優勢だろう。しかし黒は悲観することはない。すこし窮屈なことを除いて黒陣には弱点がない。黒は白の駒をいくらか守勢の立場に追いやり、将来は …f6 突きを準備して白の中原ポーンに眼目の襲撃を続けることができる。

(この章終わり)

2011年02月21日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[53]

eポーン布局

第8章 カロカン防御

1.e4 c6(図79)

 図79(白番)

 カロカン防御の戦略構想はフランス防御(1.e4 e6)の発想と似かよったところがある。どちらの布局でも白は 2.d4 で完全なポーン中原を築くことができ、黒はd5にポーンを進めてその影響を妨害しようとする。元世界チャンピオンのボトビニクとペトロシアンを含むいく人かの強豪選手たちは棋歴のなかで何度かこの二つの布局を代わる代わる用いてきた。

 どちらの布局がより「棋理」に合っているかという問題は答えるのが難しい。フランス防御の信奉者は、カロカン防御の本手順では 1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 のあと黒はd5のポーンを維持する良い手段がなく 3…dxe4 と取ることにより中原を放棄しなければならないと指摘する。カロカン防御の支持者はフランス防御の 1…e6 は不必要にクイーン翼ビショップを閉じ込めこの駒を受け身の役割に運命づけると反論するだろう。

 カロカン防御のポーン構造の主要な利点は白の中原ポーンの一つがすぐに交換されてフランス防御のように永続する押し込めを白が発揮できないことにある。また黒の駒は展開に問題がない。しかしそれらの駒の占める位置は活動的というより防御的であることがよくある。カロカン防御の最も目に付く欠点は黒が守勢に陥るのが通常で、勝つ可能性は自分の積極的な作戦の成功によることよりも白の間違いよることが多いことである。

 歴史的にはカロカン防御はフランス防御よりもずっと最近になってから発展してきた。定跡の名前の由来になっているH・カロとM・カンの二人のマスターは共に1890年代に活躍した。しかし重要な定跡のほとんどはボトビニクが世界チャンピオンとして君臨した1950年代から始まる。

(この章続く)

2011年02月28日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[54]

eポーン布局

第8章 カロカン防御(続き)

4…Bf5 の古典システム

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3(図80)

 図80(黒番)

 これは最も分かり易い手で、展開しながらeポーンを守っている。

3…dxe4

 黒はこう取るより他に良い手がない。3…e6 で中原をさらに守るのは一種のフランス防御になってしまい、黒があとで一手かけて …c5 と突くのはほとんど確実なので白が手得になっている。単に 3…Nf6 と展開するのも、白からすぐに 4.e5 と突かれてナイトを追い払われるので感心しない。4…Nfd7 と引けば白は 5.e6! fxe6 6.Nf3 と面白いポーン捨てを行なうことができ、黒陣を恒久的に締め付けることができる(黒は駒を展開するのが困難になる)。

4.Nxe4 Bf5

 黒は 3…dxe4 で中原を放棄しなければならなかったが、展開しながら白のクイーン翼ナイトを当たりにすることによりその浮き駒状態から利益が得られることに期待している。ここで白がナイトをc3に引けば黒は明らかに手得であるが、白がナイトをg3に引けば黒は手得にならない。代わりに …Nf6 は別の節で取り上げる。

5.Ng3

 これが白の最善手である。

5…Bg6

 他の引き場所はあまり考える必要がない。5…Be6 はeポーンの邪魔になり、黒がキング翼ビショップを展開するのが難しくなる。5…Bd7 はクイーン翼ナイトの邪魔になり、黒があとで …e6 と突いたあと閉じ込められる。5…e6 6.Nxf5 Qa5+ から 7…Qxf5 は黒が双ビショップを放棄することになる。

6.h4

 7.h5 と突いてのビショップ取りが狙いになっている。通常このような手は白キングの上部に弱点を作り出すので注意して指さなければならない。しかしこの局面では白はクイーン翼にキャッスリングするつもりなので、そのような弱点は生じない。

6…h6

 代わりに 6…h5?! は白が Nh3-f4 と捌くことができるので非常に疑問である。この手は黒のクイーン翼ビショップをこのナイトと交換させるか、またはhポーンを取らせることになる。

7.Nf3

 展開し Ne5 と跳ねる手を狙っている。

7…Nd7 8.h5

 これは黒のキング翼を完全に動けなくする作戦の始まりである。

8…Bh7 9.Bd3

 白の立場から見ると黒のクイーン翼ビショップは白のhポーンの標的としても役割を果たした。論理的な次の手順は、このビショップがまだ好位置にいてg3の白ナイトの動きを制限しているの、それを交換して取り去ることである。

9…Bxd3 10.Qxd3 Qc7

 この手は 10…e6 や 10…Nf6 よりも正確である。それらの手なら白のクイーン翼ビショップがもっと活動的なf4の地点を占める。

11.Bd2 e6 12.Qe2

 白の作戦の次の手順は Ne5 跳ねを準備することである。

12…Ngf6 13.O-O-O O-O-O

 13…Bd6 でe5の地点に利かせるのは 14.Nf5! で駄目である。そのあと黒が 14…Bf4 と指せば 15.Nxg7+ Kf8 16.Nxe6+ fxe6 17.Qxe6 という犠牲で1個の駒の代わりに3ポーンを得て激しい攻撃が続く。

14.Ne5

 中央の強力な地点に陣取ってf7の地点を攻撃している。

14…Nxe5

 このナイトはまったく強力すぎるので生かしておけない。fポーンを守る他の方法はあまり薦められない。例えば 14…Nb6 は 15.Ba5 と応じられる。

15.dxe5 Nd7

 15…Nd5 の方が良いかもしれないが、いずれ c4 突きで追い払われる。

16.f4(図81)

 図81(黒番)

 白はeポーンを支えてキング翼で厳しく締め付けている。黒は絞め殺されないように注意深く指さなければならない。ここまでの手順は1966年のスパスキー対ペトロシアンの世界選手権戦第13局である。長い戦いの末に白が勝ったが、それでも黒の陣形は打ち破るのが非常に困難である。

(この章続く)

2011年03月07日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[55]

eポーン布局

第8章 カロカン防御(続き)

4…Nf6 の古典システム

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Nf6(図82)

 図82(白番)

 4…Bf5 に代わる手は本譜の手と 4…Nd7 の2手がある。4…Nd7 のあと白の通常の手順は 5.Bc4 Ngf6 6.Ng5 e6 7.Qe2(8.Nxf7! の狙い)7…Nb6 で、ここで 8.Bd3 または 8.Bb3 で白が優勢になる可能性が大きい。

5.Nxf6+

 手損をしないのとすぐに黒にどのように取り返すのかという問題を突きつけるのでこの交換が最善である。5.Ng3 は黒がすぐに 5…c5! で中原を解体することができる。

5…gxf6!?

 5…exf6 と取る方が危険が少ないが、ポーンの形に優る白が永続的に優勢になる(なぜこのようなポーンの形だと白の方が有利なのかという議論については、ルイロペスの交換戦法の節を参照されたい)。

 本譜の手のあと局面は急戦調になる。黒のキング翼はひどく乱れていて、キングはそちらに避難するわけにはいかない。黒のこれからの作戦はクイーン翼をすばやく展開し、…O-O-O とキャッスリングし、素通しのg列で攻撃の機会をつかむようにすることである。

6.c3

 白の最善手を決めるのは簡単でない。本譜の手は最もよく指されている。この手はdポーンを保護し、中原を強化し、戦型によっては …Qa5+ を介して黒クイーンが迅速にキング翼に移動することによる戦術の可能性を防いでいる。

6…Bf5 7.Ne2

 このナイトはg3に行って黒のビショップをいじめキング翼を守る。ためになる間違いは 7.Qb3?! Qc7 8.Bf4? で、白はビショップを犠牲にして黒のクイーン翼ルークを取ろうとする。しかし 8…Qxf4 9.Qxb7 Bh6(10…Qd2# の狙い)10.Nf3 O-O 11.Qxa8 Qc7 で白クイーンが捕まる。12.d5 としても 12…Qb6 13.Bc4(他に適当な手がない)13…Bc8(…Bb7 の狙い)14.dxc6 Nxc6 のあと …Bb7 が防げないので逃げられない。

7…h5

 この手はナイトからg3の地点を奪うか、白枡ビショップの交換を容易にする意図である。7…Nd7 のような展開では黒のビショップは働きのない地点に追いやられてしまう。例えば 8.Ng3 Bg6 9.h4 h6 10.h5 Bh7 11.Bc4 で白が主導権をつかむ。

8.h4

 白はナイトがずっとg3の地点にいられるようにした。8.Ng3 は正確さで少し劣り、8…Bg4 9.Be2 Bxe2 10.Qxe2 Qd5! 11.O-O h4 12.Ne4 Nd7 13.Bf4 O-O-O 14.h3 Rg8 で黒がg列で反撃できる。

8…Nd7 9.Ng3 Bg4 10.Be2

 10.f3 は白のキング翼を弱める。

10…Bxe2 11.Qxe2 Qa5 12.O-O O-O-O

 黒は作戦の第一段を完了したが、ゆっくりしすぎていて白の攻撃が始まってしまう。

13.c4 e6(図83)

 図83(白番)

 この局面は第18回全ソ連選手権戦のアベルバッハ対ソコルスキー戦に現れた。その試合では白は次のように指した。

14.a3

 この手はクイーン翼でポーンの暴風を見舞う意図である。しかし黒にビショップを戦いに参加させる余裕を与えた。

14…Bd6!

 ボレスラフスキーは代わりに 14.Bf4 を推奨した。こう指せば白は連係に優るので攻撃が非常に有望になる。例えば 14…Bh6? 15.Bxh6 Rxh6 16.d5! cxd5 17.cxd5 Qxd5 18.Qe3 でキング翼のルークとaポーンの両当たりになる。

(この章続く)

2011年04月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[56]

eポーン布局

第8章 カロカン防御(続き)

パーノフ攻撃

1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5

 3…Qxd5? なら 4.Nc3 と展開しながらクイーンを当たりにして白が手得する。

4.c4(図84)

 図84(黒番)

 白のこの手でパーノフ攻撃になる。このシステムは1930年代にカロカンに対する必勝法であると信じられた。しかしそれ以降防御法が十分に改良されて定跡の均衡が回復した。黒がここで 4…dxc4 と取ると白のdポーンは孤立ポーンになるがそれは恐れる必要がない。例えば 5.Bxc4 e6 6.Nf3 となればクイーン翼ギャンビット受諾の布局に転移したことになる。このような局面では孤立ポーンは攻撃の可能性を生み出すので弱点というよりも強みであることが知られている。

4…Nf6

 黒は展開しながらdポーンを守った。4…Nc6?! は正確さで劣る。というのは 5.cxd5 Qxd5 のあと黒クイーンがかなり露出した状態になり、白が(dポーンを守ってから)Nc3 と指して手得できるからである。

5.Nc3

 グンデラムの 5.c5 は魅力的な着想で、黒は 5…e5 と応じることができ大乱戦になる。これは「An Opening Repertoire for the Attackingu Player」で詳しく解説されている。

5…e6

 これは最も堅実な防御の手で、黒がd5にポーンを維持できる。5…g6 は 6.Qb3! Bg7 7.cxd5 O-O 8.Be2 Nbd7 9.Bf3 となって、黒が楽にポーンを取り返すことができないので互角にできない。

6.Nf3 Be7 7.c5!?

 7.Bg5 は 7…O-O または 7…Ne4 と応じられどちらも互角になる。だから白はクイーン翼のポーンを迅速に突いて優勢を目指す。

7…O-O 8.Bd3

 この手は黒のナイトをe4に来させないようにしている。すぐに 8.b4 と突くのは 8…Ne4! 9.Qc2(9.Nxe4 は 9…dxe4 10.Ne5 f6 11.Nc4 Nc6 で白のポーン損になる)9…Nc6 10.a3 e5! で黒が優勢である。例えば 11.dxe5 Nxc3 12.Qxc3 Bg4 で白のキングがまだ安全な所に退避していないので攻撃が非常にきつくなる。

8…b6!

 白が陣容を整える余裕が持てないように白のcポーンに対して反撃を仕掛けた。

9.b4 a5 10.Na4

 白はナイトでbポーンを攻撃した。すぐに 10.a3? と突くのは 10…axb4 でaポーンが釘付けにされるので白の連鎖ポーンを維持するのに役立たない。

10…Nbd7

 10…bxc5? は 11.bxc5 で白の保護パスcポーンが黒とって厄介になる。本譜の手は 10…Nfd7 よりも少し改良されている。10…Nfd7 に対して白は 11.b5 と応じることができ(12.c6 の狙い)、11…bxc5 12.dxc5 e5!(12…Nxc5? は 13.Nxc5 Bxc5 14.Bxh7+ で良くない)13.c6 e4 14.cxd7 Nxd7 15.O-O で白がまだわずかに優勢である。

11.a3

 白の連鎖ポーンはまだ威容を誇っているように見える。しかし実際には黒が単純な手筋で互角にできる。これは根元が浮き上がれば連鎖ポーンは弱体化するという金言の好例である。

11…axb4 12.axb4 bxc5 13.bxc5

 13.dxc5 は 13…e5 で黒の中原のポーンの方が白のクイーン翼のポーンよりも良くなる。

13…e5! 14.Nxe5

 他の手はこの手よりも悪い。例えば 14.dxe5 なら 14…Nxc5! 15.exf6(15.Nxc5 は 15…Rxa1)15…Nxd3+ 16.Qxd3 Bxf6 17.Nd4 Qe8+ 18.Be3 Rxa4 だし 14.c6 なら 14…e4 15.cxd7 Bxd7 である。

14…Bxc5! 15.O-O

 15.Nxd7 は 15…Bb4+ 16.Bd2 Bxd2+ 17.Qxd2 Bxd7 となって白がa4のナイトを救うことができないので黒の勝ちである。

15…Nxe5

 15…Bxd4 は 16.Bxh7+ と応じられる。

16.dxe5

 16.dxc5? は悪手で、16…Nxd3 17.Qxd3 Ba6 で交換損になる。

16…Ne4(図85)

 図85(白番)

 思い切った 16…Ng4!? も可能である。例えば 17.Bf4(駒を展開しながらeポーンを守った)17…Bxf2+ 18.Rxf2 Nxf2 19.Kxf2 Qh4+ 20.Bg3(20.g3 なら 20…Qxh2+)20…Qd4+ 21.Kf1 Kh8(22.Bxh7+ からのクイーン素抜きを防ぐため)となればa4の悪形のナイトと白キングの露出のため黒に勝つチャンスがある。本譜の手のあとは完全に互角の形勢である。白の最善の手順は 17.Bxe4 dxe4 18.Qxd8(18.Nxc5? にはやはり 18…Rxa1 がある)18…Rxd8 19.Bg5 Rd5(白のナイトが釘付けでなくなったのでビショップを守るため)20.Nxc5(20.Rfc1? は 20…Bd4 と応じられる)20…Rxa1 21.Rxa1 Rxc5 ですぐに引き分けになる。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[57]

eポーン布局

第8章 カロカン防御(続き)

突き越し戦法

1.e4 c6 2.d4 d5 3.e5(図86)

 図86(黒番)

 突き越し戦法は英国最強のグランドマスターで世界選手権挑戦者のナイジェル・ショートが非常に得意にしている戦法である。彼はリュボエビッチ、セイラワン、ティマンそれにカルポフのような一流の相手に対してこの戦法を用いてきた。

 読者はこの局面をフランス防御の突き越し戦法(1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5)の局面と比較してみるとよい。そこには大きな違いが二つある。

 (a)フランス防御では黒は通常cポーンをc5に突いて白の連鎖ポーンの根元を攻撃する。カロカン防御ではこのポーン突きはcポーンを既にc6に突いているので1手損することになる。

 (b)フランス防御では黒のクイーン翼ビショップはe6ポーンの内側に閉じ込められていて、局面が閉鎖的なためにかなりの間働かないままであることが普通である。対照的にカロカン防御での 3.e5 突きは黒が自由に攻撃的な地点のf5にこの駒を展開できる。チェスの理論によれば白の観点からは(a)の長所より(b)の短所の方が優っていると考えられている。そのためこの戦型はあまり高く評価されていない。

3…Bf5

 黒は早く …e6 と突いて白のポーンを固定し自分の中原を強化したいので、このビショップをすぐに出すのが最善である。

4.c4!?

 これは積極性のある面白い手で、独特の戦法になっている。一見したところ黒が 4…dxc4 と取ってから …e6 と突き、白にはっきりとした代償のない弱い出遅れポーンを作らせることができそうである。しかしそれが話のすべてというわけではない。白の突き越しeポーンは白陣に広さをもたらし続け、さらに重要なことはもし黒のポーンがd5からいなくなれば白はe4の地点を使えるようになりナイトの絶好の拠点として用いることができる。ナイジェル・ショート自身は単に 4.Nf3 と展開しそのあと Be2 から O-O と指している。本譜の手はもっと激しい手である。

4…dxc4

 黒は挑戦を受けて立った。

5.Bxc4 e6

 恒久的に d5 突きを防ぐことにより白のdポーンを動けなくした。

6.Nc3 Nd7 7.Nge2

 この手は 7.Nf3 よりもはるかに理にかなっている。というのはこの戦法では白のキング翼ナイトはg3にいるべきもので、そこならe4の地点を監視できたぶんfポーン突き(白の長期的な大局的狙いの一つは f4-f5 の仕掛けである)も支援できるからである。

7…Ne7

 キング翼ビショップを 7…Bb4 と展開するのはあまり意味がない。なぜなら黒は本気でこのビショップを白のナイトと交換しようと狙っているわけではまったくないからである。もし黒が …Bxc3 と指せば白は bxc3 と応じ、結果として白の弱いdポーンが強化され、黒のd6の地点に空所ができそこを白の残りのナイトが占拠することになる。だから 7…Bb4 のあと白は単にポーンを突いてこのビショップを追い払うことができ、クイーン翼の陣地も広がる。

8.O-O Nb6

 白の駒がe4の地点を支配しようと奮闘している間に、黒のナイトの一方がd5の地点の占拠を目指している。

9.Bb3 Qd7

 この手はクイーン翼キャッスリングの準備である。そうなれば白の出遅れポーンに対するd列での圧力が増すことになる。

10.a4!

 この手は 10…O-O-O を思いとどまらせるためである。例えば 11.a5 Nbd5 12.Na4 となってクイーン翼に圧力がかかる。

10…a5

 面倒なことになる白のaポーン突きを止めた。もちろんここで …O-O-O とキャッスリングするのは黒のクイーン翼のポーンの形が崩されるので大変危険である。しかし本譜の手の代償として黒はb4の地点がナイトのもう一つの拠点として使えるようになった。

11.Ng3 Bg6

 黒は双ビショップの優位を手放したくない。このビショップ引きのあとでも 12…Nf5 でdポーンに対する圧力を増すことを狙っている。

12.Bc2!

 …Nf5 を防ぎ白枡ビショップの交換を迫った。交換になれば白は文句なくe4の地点を支配することになる。もちろんこの手にはポーンの犠牲の可能性があり、次の解説でさらに説明する。

12…Bxc2 13.Qxc2 Ned5

 13…Qxd4?! とポーンの犠牲を受け入れるのは非常に危険である。例えば 14.Be3 Qb4(14…Qd8 なら 15.Qb3)15.Ra3(ナイトを取りに行く狙い)15…Ned5 16.Rb3 Nxe3 17.fxe3 Qc5 18.Qf2 となれば黒はナイトとf7の弱点を同時に守ることができない。

14.Nce4 Nb4 15.Qe2 N6d5(図87)

 図87(白番)

 15…Qxd4?! は 16.Be3 Qd8 17.Qg4 で 18.Nh5 を狙われるのでまだ危ない。しかし本譜の手のあと黒はナイトがよく働いていて、それほど不利とは感じられない。ここまでの手順は1958年ミュンヘンオリンピアードのタリ対ゴロンベク戦である。

(この章終わり)

2011年04月18日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[58]

dポーン布局と側面布局

初めに

 白は初手に 1.e4 と指すことによって中原に領有権を主張するだけでなく(これは普通は従うべき有利な原則である)、クイーンとキング翼ビショップのために斜筋を開けることにより迅速な展開を準備する。1.e4 のあと白は素早い展開の可能性に基づいた攻撃を始められることがよくある。黒が 1…e5 で断固対抗すれば白は黒のeポーンが守られていないことを利用して(ルイロペスのように絶えずeポーンを狙って)自駒を迅速に展開することができる。

 1.d4 は見た目は 1.e4 に似ているがまったく異なった構想の布局の指し方になる。もちろん白はやはり中原に領有権を主張するが、1.d4 は白が 1.e4 の場合ほど迅速に駒を展開できない。さらに、もし黒が 1…d5 と応じればこのdポーンは黒のクイーンによって自動的に守られているので、単純に 2.Nc3 と展開しても何も成さず白のcポーンの邪魔になるばかりである。クイーン翼の布局ではcポーンは通常相手のdポーンを攻撃する主要なてことして必要なのでこういうやり方は良くない。

 1.d4 のあと白の主要な目的は駒を迅速に展開することではなく、中原にポーンの厚みを築くように努めることである。白はその厚みの内側で黒陣に対する襲撃を準備することができる。この白の戦略に対する黒の3種類の応手を分析すると次のようになる。

 (1)黒が自分もポーンで中原を占拠することにより白のポーン中原の形成と戦う(クイーン翼ギャンビット)。

 (2)黒が駒で中原の要所を支配することにより白のポーン中原の形成と戦う(ニムゾインディアン防御)。

 (3)最も現代的なやり方は、黒が白のポーン中原の形成を積極的に助長し、そのような構造が延びすぎとなり弱点を抱えやすくなることを期待する(キング翼インディアン防御と、現代防御の1戦型)。

 具体的な戦法の検討に移る前に、まず 1.d4 で始まる試合を1局見てみよう。白が理想的な戦略を実行するこの試合は、次のような段階に分けることができる。

 (1)白が強力なポーン中原を築く。

 (2)白がポーンの内側で攻撃準備のために駒を集結させる。

 (3)白がポーンをぶつけて集結した駒のために攻撃の筋を開ける。

 (4)白の解放された駒が黒キングの周りに集まり詰みに討ち取る。

 注意してほしいのは本局で中原を支配した白がどのように攻撃目標を選ぶことができたのかということである。黒の駒は盤の端の方に追いやられ、効果的な抵抗ができなかった。

 この番勝負の試合は1962年に有名なソ連のグランドマスターのケレス(白番)とゲレル(黒番)との間で戦われた。

 第1段階:1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c5 5.cxd5 Nxd5 6.e3 Nc6 7.Bc4 Nxc3? この手は薦められない。黒に何の反撃や切り崩しの手段も与えることなく側面ポーンで中央に向かって取り返し(bxc3)白の中原を強化させてしまう。

 第2段階:8.bxc3 Be7 9.O-O O-O 10.e4 b6 11.Bb2 Bb7 12.Qe2 Na5 13.Bd3 Rc8 14.Rad1(図88)

 図88(黒番)

 第3段階:14…cxd4 15.cxd4 Bb4 16.d5! 急に白の駒のすべてが黒の不幸なキングを狙い始めた。16…exd5 17.exd5 Qe7(17…Qxd5? は 18.Bxh7+ でクイーンを取られる。一方 17…Bxd5 も 18.Qe5 f6 19.Qh5 でキングに対する狙いをかわすことができず黒が破滅する。例えば 19…g6 20.Bxg6 hxg6 21.Qxg6+ Kh8 22.Ng5 Qd7 23.Rxd5! となる)18.Ne5 f6 19.Qh5

 第4段階:19…g6 20.Nxg6 これはキングを守るポーンの柵を破壊する非常にありふれた種類の捨て駒である。17手目の解説でこれに似たものを既に見ている。20…hxg6 21.Bxg6 Qg7

 ケレス自身はこの局面について次のように書いている。「黒の受けは極度に難しい。白は既に捨てた駒の代わりに2ポーンを得ていて、さらにほとんどすべての駒が弱体化した敵のキングを攻撃する用意を整えている。一般的に言っても黒は絶望的な局面から無事に抜け出すとはほとんど期待できそうにない。」22.Rd3 Bd6 23.f4 Qh8 24.Qg4 Bc5+ 25.Kh1 Rc7 26.Bh7+ Kf7(26…Kxh7 27.Rh3#)27.Qe6+ Kg7 28.Rg3+ 28…Kxh7 29.Qh3#

 圧倒的な攻撃に結びついた中原の支配の見事な例のあとは、クイーン翼ギャンビットの具体的な分析に入っていく。

(この章終わり)

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チェス布局の指し方[59]

dポーン布局と側面布局

第9章 クイーン翼ギャンビット

1.d4 d5 2.c4(図89)

 図89(黒番)

 19世紀の最後の四半世紀まで国際大会では初手に 1.e4 と指すのが普通だった(もちろん他の手は知られていなかった)。しかしチェスの進歩におけるこの時期に 1.d4 も盛んになり、黒は決まって …d5 と応じてクイーン翼ギャンビットになった。ギャンビット受諾は100年ほどの間散発的に現れたが、あまり熱心に用いられることはなかった。当初最もはやった防御はオーソドックス防御(黒は塹壕戦に徹する)とタラシュ防御(ポーンの弱点を犠牲に駒の働きを良くする)だった。どちらも1920年代に超現代の発想(例えばニムゾインディアン防御)の勃興で人気が落ちたが、今日まで多くの信奉者がいる。タラシュは19世紀の終わり頃にクイーン翼ギャンビットの自分の防御に専心したが、ロシアの偉大なマスターのミハイル・チゴーリンは自分の高度に独自のやり方を開拓していた。チゴーリンの考え方は広く受け入れられることはなかったが、クイーン翼ギャンビットの防御でなお魅力的な未踏の道となっている。

 1.d4 のあと猿まねの 1…d5 は、白が 2.e4 でポーン中原の見通しを広げるのを防ぐ最も明白な方法である。1.d4 d5 2.Nc3 が的外れであることは、黒のdポーンがクイーンによって自動的に守られていることから分かる。従って白はこの段階では 2.c4 でギャンビットに出るのが普通で、黒のdポーンをそらして中原を平和裏に構築できることを期待する。

 クイーン翼ギャンビットに対する黒の応手の3方式をこれから調べていくことにする。

 (a)クイーン翼ギャンビット受諾。黒はポーンを取り、白が戦力を取り戻すことに手を費やさなければならないことに頼って反撃にかける。白は中原を支配することになるのが普通なので、これは黒にとって非常に危ない方針である。もっとも白はこれを成し遂げるためにdポーンの孤立化を受け入れなければならないかもしれない。

 (b)黒が白のdポーンに対して、駒で(チゴーリン防御)またはポーンで(タラシュ防御)迅速に反撃を図る。

 (c)黒が白のどのような襲撃に対しても頑強に自分のdポーンを守る(オーソドックス防御)。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[60]

dポーン布局と側面布局

第9章 クイーン翼ギャンビット(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾

1.d4 d5 2.c4 dxc4(図90)

 図90(白番)

 この手は表面的には白の注文どおりのように見える。即ち黒は中原の足場を放棄し、白に中央で多数派ポーンをこしらえさせている。さらに白はキング翼ビショップで、もし必要ならばクイーン翼ナイトとクイーンで、c4のポーンを攻撃して簡単にポーンを取り返すことができる。ここで 3.e4 は 3…e5 と中原で逆襲される恐れがあるので白は普通は最初に次の手を指す。

3.Nf3

 この手の目的は黒の …e5 突きを防ぐことである。しかしここで黒はこの間隙を縫って反撃を策することができる。それでもクイーン翼ギャンビット受諾は黒にとって非常に危険の多い防御法となっている。白には 3.Qa4+ としてポーンを取り戻す手段もあるが、試合のこんなに早い段階でクイーンをc4に進出させるよりもキング翼ビショップを展開させた方が良い。

3…Nf6

 展開は黒にとって本質的に重要である。この手も 4.e4 を防いでいる。

4.e3

 この手はポーンを取り返す用意をしながら同時にキング翼ビショップを要所につかせようとしている。

4…e6

 黒の指したい手は白のdポーンを攻撃する …c5 突きである。本譜の手で黒のキング翼ビショップの利きがc5の地点に達する。代わりに 4…Bg4 とかかると白は単刀直入に 5.Bxc4(6.Bxf7+ という狙いがある)5…e6 6.Nc3 Nbd7 7.O-O Bd6 8.h3 Bh5 9.e4 e5 10.Be2 と展開することができ危なげなく優勢になる。

5.Bxc4 c5 6.O-O

 6.dxc5 と取るのはクイーンを交換され白の中原での多数派ポーンが解消してしまうので明らかに価値がない。しかし白が引き分けで満足の時にはよく指される。

6…a6

 このポーン突きは必要のない手のように思われる。しかし黒の狙いは …b5 突きから …Bb7 で手得をしながらクイーン翼ビショップを絶好の斜筋につけることにある。もちろん白はこれを阻止する。

7.a4!

 これで白は一種の盾として働く中原ポーンの内側で駒を攻撃のために集める用意ができた。

7…Nc6 8.Qe2 cxd4 9.Rd1 Be7

 9…e5? は 10.exd4 でeポーンが釘付けになる。展開しポーンを守る 9…Bc5 は良さそうな手に見えるが、10.exd4 Nxd4 11.Nxd4 Bxd4 12.Be3 となって釘付けがきつすぎる。

10.exd4 O-O 11.Nc3

 白は十分に展開し d5 と突いて黒陣を乱す準備ができた。従って黒は定評のあるやり方で孤立dポーンをせき止める。

11…Nd5 12.Bd3!(図91)

 図91(黒番)

 この手は黒キングに攻撃の狙いをつけている。これはクイーン翼ギャンビット受諾から生じる典型的な局面である。これに似た局面は大会の実戦で何千回も現れている。この局面は孤立dポーンが白に優位をもたらしている場面である。というのは白が中原をしっかりと掌握しているのに対し、黒は展開が十分でなく駒がdポーンの弱点につけ込むのに効果的に配置されていないからである。白が先着の利で駒を理想的に連係させて黒の孤立dポーンにつけ込むことのできるタラシュ防御の節(後出)と比較してみるとよい。1971年ユーゴスラビア対ハンガリーの主将戦のグリゴリッチ対ポルティッシュ戦は次のように進んだ。

12…Ncb4 13.Bb1

 ビショップを絶好の斜筋上に置いておくならばルークを閉じ込めてもかまわない。

13…b6 14.a5! Bd7 15.Ne5

 ナイトが孤立dポーンの利いている地点に陣取った。

15…bxa5 16.Ra3

 この手は 17.Nxd5 のあと 18.Bxh7+ Kxh7 19.Rh3+ から 20.Qh5 という典型的な詰み手順を狙っている。黒はこの脅威をかわすためにポーンの囲いを弱めなければならない。そこに Bb1 の価値がある。

16…f5 17.Nxd5 Nxd5 18.Nxd7 Qxd7

 18…Bxa3?? は 19.Qxe6+ Rf7 20.Ne5 で壊滅する。

19.Rxa5

 黒のaポーンとキング翼ビショップに対し白には双ビショップと素通し列があり非常に有利な態勢である。また、e5が駒の絶好の地点となるのに対し、黒には孤立dポーンに対し特に圧力となるようなものはない。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[61]

dポーン布局と側面布局

第9章 クイーン翼ギャンビット(続き)

チゴーリン防御

1.d4 d5 2.c4 Nc6(図92)

 図92(白番)

 この防御は19世紀の偉大なロシアのマスターのチゴーリンによって開拓された。黒は駒を駆使することによって白の中原に対する素早い反撃をもくろんでいる。2…Nc6 はdポーン布局ではナイトによってcポーンの動きを止めてはいけないという重要な原則をあざ笑っている。この過失はeポーン布局で Bd3 によってdポーンを止めることになぞらえることができるが、その場合は決して言語道断というわけではない。チゴーリン防御は指せる戦法には違いないが、ここでは白が正確に指せば黒は互角にできないことを示唆する分析を示すことにする。

3.Nc3

 黒のdポーンに対する圧力を増すのは正確な対応である。黒はcポーンで自分のdポーンを支えることができないので、中原の支配は今や放棄せざるを得ない。すぐに 3.Nf3 と指すのは 3…Bg4 で黒の注文にはまる。

3…dxc4

 黒は 3…e6 によってdポーンを維持することもできたが、クイーン翼ビショップを閉じ込める形がひど過ぎるし、ナイトも既にc6に跳ねてしまっている。黒は …c5 突きで狭小な陣形を解放するのにひどい困難をかかえている。

4.Nf3

 このナイトはこのように中央に向かって展開するのが最善である。白は犠牲にしたポーンを取り返すのを急ぐ必要はない。この展開の手は黒の2手目によって間接的に脅かされている自分のdポーンの補強にもなっている。

4…Bg4

 黒は白のdポーンを駒で攻撃するという自分の主題を追求している。4…Nf6 は 5.d5 Na5 6.Qa4+ c6 7.dxc6 Nxc6 8.e4 から Bxc4 で、展開の優位により白の優勢が保証される。

5.d5!

 ここで初めて白は黒の可愛そうなクイーン翼ナイトを追い立てる。これで 2…Nc6 の欠点がさらに明らかになった。

5…Bxf3

 これは一貫性のある手だが役に立たない。黒が白のキング翼ナイトを取ったのは、自分のクイーン翼ナイトが中央の地点を占めるようにするためである。

6.exf3

 普通は側面のポーンで中央に向かって取り返すのが推奨されるが、ここでは exf3 と取るのが正しい。というのは白のキング翼ビショップの利き筋が通って、黒のまだキャッスリングしていないキングに対する猛攻に加わることができるようになるからである。

6…Ne5 7.Bf4!

 哀れなナイトのいじめがまだまだ続く。これに対して 7…Ng6 と引けば 8.Bxc4! Nxf4 9.Bb5+ c6 10.dxc6 で白の攻撃が決まる。

7…Nd7 8.Bxc4

 Nb5 を狙っているので黒はそれを防ぐ。

8…a6 9.O-O

 白は展開を完了した。

9…Ngf6 10.Re1(図93)

 図93(黒番)

 ルークが黒キングに通じる素通し列を自動的に占めた。これで白の優勢は明らかである。理由は開放的な局面で双ビショップを保有していること、展開で大きくリードしていること、一方黒キングは恐ろしい攻撃にさらされていることによる。以下は考えられる進行である。10…Nh5 11.Be3 g6 12.d6!(攻撃の筋を開ける)12…cxd6 13.Qb3 e6 14.Bd4 Bg7 15.Bxe6! fxe6(15…Bxd4 16.Bxd7+ Kxd7 17.Qxb7+ Qc7 18.Re7+)16.Qxe6+ Kf8 17.Rad1 これで白が勝つ。

 結論 クイーン翼ギャンビットのチゴーリン防御に投げかけた我々の疑問は重要な原則を明らかにしてくれた。それは長期的な戦略の必要性はdポーン布局における迅速な展開よりもはるかに重要であるということである。

(この章続く)

2011年05月16日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[62]

dポーン布局と側面布局

第9章 クイーン翼ギャンビット(続き)

タラシュ防御

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3

 この展開の手は黒のdポーンに圧力をかけているので最善である。

3…c5(図94)

 図94(白番)

 これがタラシュ防御の眼目の手である。黒はどんな犠牲を払っても中央で駒を活躍させようとしている。20世紀初頭にはドイツの偉大なマスターのジークベルト・タラシュ博士の影響を受けて、これがクイーン翼ギャンビットに対する唯一の「正しい」防御であるとみなされていた。しかしチェスの定跡が進歩するにつれてタラシュ防御は評判が悪くなっていった。タラシュ防御では黒はほとんど常に孤立dポーンを背負わされる(早い活動に対して払わなければならない代価)。そして1920年代からはマスターたちは黒陣のこの弱点を大きすぎる負債とみなしてきた。それでも世界チャンピオンのカスパロフとスパスキーによって時々用いられた。

4.cxd5

 黒のdポーンに対する攻撃はこの布局を通しての主題である。だからこの手も最善である。4.Nf3 による単純な展開はここではぴったりせず不十分である。一方 4.dxc5? とこちらを取るのは黒に中原での重要なポーン突きを許すことになる。即ち 4…d4 突きで白の展開したばかりのナイトが追い払われる。4.Na4 と逃げると黒は 5…Bxc5 6.Nxc5 Qa5+ 7.Bd2 Qxc5 というちょっとした仕掛けでポーンを簡単に取り返すことができる。黒は中原の支配(前進したdポーン)により相応の展望がある。黒のクイーン出がかなり早いことは認めなければならないが、白がこれにつけ込むには展開が不十分である。実際c5にいる黒のクイーンは白のcポーンに当たっていて、白はこのポーンを守るために1手費やさなければならない。

4…exd5 5.Nf3

 5.dxc5 d4 6.Na4 で中原のd4の地点を明け渡すのはやはり薦められない。白が今いる黒のdポーンを攻撃したいのなら、d4の地点をしっかり支配して黒のdポーンが前進できないようにしなければならない。白の作戦は黒がすぐに …d4 と突き返せない時に dxc5 と取ることである。それから白はdポーンをせき止め(普通はナイトをd4の地点に据えることにより)、自分の駒でよってたかって黒のdポーンを攻撃することにする。

 弱いポーンを攻撃したい状況のためにニムゾビッチによって作られた役に立つ原則は、まず弱いポーンを制止し、次にそれをせき止め(無事に前進できることのないように)、それから撃滅することである。

5…Nc6

 5…cxd4? 6.Nxd4 は白のキング翼ナイトをただでd4の地点に来させて白を利することになる。

6.g3!

 これにより白のキング翼ビショップが非常に効果的な地点に展開できる。g2の地点から黒のdポーンに対して最も効果的な方法で狙いをつけることができる。

6…Nf6

 タラシュ防御における黒の布局の指し方は、駒を適切かつ迅速に最も効果的な中央の地点に動員することがそのほとんどである。即ちビショップを側面のg2の地点におく白の「現代的」展開に対する「古典的」展開である。

7.Bg2 Be7 8.O-O O-O 9.Be3(図95)

 図95(黒番)

 白は9手目でいくつかの代わりの手がある。9.dxc5 はまだ時期尚早である。9…d4! 10.Na4 で黒のdポーンがせき止めをまぬがれ、白のクイーン翼ナイトがまたも盤端に追いやられる。白は得したcポーンを保持する可能性がいくらかあるけれでも、白を持つほとんどのマスターの選手はこの戦型を避ける。理由は黒駒の働きが増しdポーンも強力だからである。このdポーンは白陣に近づくほど威力が強くなる。黒は 10…Bf5 で …d3 突きを狙って恐るべき主導権を維持する。

 9.Bg5 は1969年世界選手権戦のスパスキー戦でペトロシアンの指した手だった。しかし 9…Be6 10.dxc5 Bxc5 11.Bxf6 Qxf6 12.Nxd5 Qxb2 となって黒が形勢を互角にできた。

 本譜の手(9.Be3)は1970年世界チーム選手権戦のソ連対カナダ戦で第1席のスパスキーが指した。黒はヤノフスキーだった。

 白は 9.Be3 で黒のcポーンを攻撃する駒を二つにすると共に、d4の地点の支配も強めた。この試合の以降の進行により孤立dポーンの潜在的な弱さが驚くべき方法で明らかになる。

9…cxd4

 これは白の作戦にはまってしまう。黒の最善手はたぶん1987年ブリュッセルでのラルセン対カスパロフ戦のように 9…c4 10.Ne5 h6! で、ほぼ互角の形勢である。

10.Nxd4

 これは急所のd4の地点でせき止めを行なうので非常に重要である。これで戦闘の半分は白の勝利に帰した。

10…h6

 黒は孤立dポーンを支えているキング翼ナイトを Bg5 で攻撃されるのを恐れた。

11.Rc1 Na5 12.b3!

 黒のc4とe4の地点に対する支配は、孤立dポーンに対する代償の主要な表れの一つである。白は 12.b3! で黒が占拠を狙っていた地点の一つを使えなくした。

12…Nc6 13.Qd3

 白は Rfd1 でナイトの背後から陣形を強化する意図である。

13…Ne5 14.Qc2

 白は素通し列に集中している。

14…Qa5 15.Ncb5 Bd7 16.Qc7!

 7段目をクイーンまたはルークで占拠するのはほとんどいつも有利である。

16…Qxc7 17.Nxc7 Rad8 18.Nxd5 Nxd5 19.Bxd5 Bh3 20.Bg2

 白は黒の孤立dポーンをそのまま取った。黒には代償がまったくなく(20…Bxg2 21.Kxg2 Ng4 22.Nf5! Nxe3+ 23.Nxe3 Rd2 24.Rc2!)42手目で負けた。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[63]

dポーン布局と側面布局

第9章 クイーン翼ギャンビット(続き)

オーソドックス防御

1.d4 d5 2.c4 e6(図96)

 図96(白番)

 この手はdポーンをしっかりと守っている。2…Nf6 による「防御」は幻想である。3.cxd5 Nxd5 4.e4 となって白のポーン中原は危険で動ける多数派ポーンになる。しかし 2…c6(スラブ防御)はよく指される。もっとも 3.cxd5 cxd5 4.Nf3 Nf6 5.Nc3 Nc6 6.Bf4 Bf5 または 6…e6 となってだいぶ無味乾燥ではある。

3.Nc3 Nf6 4.Bg5

 この手は狙いを持ちながら展開し、黒のキング翼ナイトを釘付けにすることによりdポーンへの襲撃を続けている。この手に対して 4…h6 と突くのは黒が破綻する。5.Bxf6! gxf6(5…Qxf6 は 6.cxd5 でポーンのただ損)6.cxd5 exd5 となって、黒はあらゆる弱点の中で最も忌み嫌われる弱点の一つの孤立二重ポーンにより不自由をかこつ。それゆえにf5の地点は黒陣を脅かす白駒の理想的な拠点となることがある(例えば Bd3/Ne2-g3)。またe列とg列に黒ポーンがないためにf5に陣取った白駒が決して追い払われることがない。

 交換戦法も非常に人気がある。4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7 6.e3 c6 7.Bd3 O-O 8.Nf3 Nbd7 9.O-O Re8 10.Qc2 Nf8 のあと白は 11.Rab1 で b4-b5 と突く少数派攻撃にでるのが普通である。

4…Be7

 黒は釘付けをはずした。

5.Nf3 O-O 6.e3

 この戦型では白のキング翼ビショップをd3に展開するのが最善である。6.g3 と Bg2 でフィアンケット展開するのは黒のdポーンが厳重に守られているのでここでは的外れである。d3ならキング翼ビショップは黒キングをにらみ攻撃に加われる。

6…Nbd7

 この手はキング翼ナイトを補強している。もっと自然な手の 6…Nc6 は自分のcポーンの邪魔になるので間違いである。繰り返すがdポーン布局ではこのような妨害行為は避けるべきであることを強調しておく。代わりに 6…h6 7.Bh4 b6(タルタコワ戦法)は当然ある手で、ナイジェル・ショートとボリス・スパスキーによって数多く指されてきた。

7.Rc1

 ルークがあとで cxd5 によって素通しにできる列を占めた。あとでこれがいかに有効であるかをまのあたりにする。

7…c6

 この手はdポーンをさらに守っている。黒はゆっくりだが確実に駒交換によって陣形を解放していく準備を進めている。

8.Bd3 dxc4!

 ここで中原を放棄することによって白にキング翼ビショップをまた動かすことを強いている。これにより黒は偉大なキューバの世界チャンピオンカパブランカによって考案された交換の捌きを実行に移す機会が得られる。黒は狭小な陣形では交換によって陣形を解放することに努めよという原則に従っている。

9.Bxc4 Nd5!

 これで白のビショップは引き場所がない。だから・・・

10.Bxe7 Qxe7 11.O-O

 白は展開を完了した。

11…Nxc3 12.Rxc3

 12.bxc3 なら中原を強化するがルークを閉じ込めることにもなる。

12…e5

 これは解放の捌きの総仕上げである。この局面はマスターの実戦に数多く現われている。13.dxe5 Nxe5 14.Nxe5 Qxe5 15.f4 Qe4 16.Bb3(Bc2 と引く意図)16…Bf5 のあといい勝負である。主導権を維持するためには白は次のように指さなければならない。

13.Qc2

 これで白のビショップが伝統的にもろい黒のf7の地点をにらみ、同様にクイーンがh7の地点をにらんでいる。白は黒キングに対して強襲をかける素地がある。

13…exd4 14.exd4(図97)

 図97(黒番)

 この局面は中原の要所と駒の利き筋の支配を保持するために孤立dポーンを自ら受け入れるべき状況の明白な事例になっている。白はわずかに優勢で、特にe列の支配からそれが言える。

 勉強のためになる鮮やかな手筋が現れる進行をお目にかける。

14…Nf6 15.Re1 Qd6 16.Ng5 Bg4

 16…Qxd4 には 17.Rf3 で 18.Rxf6 から 19.Qxh7# と 18.Nxf7 Rxf7 19.Re7 の二つの狙いがある。

17.Rg3 Bh5 18.Rh3 Bg6?

 18…Qb4! と指さなければならず、それなら黒がまだ十分戦えた。

19.Qxg6!! hxg6 20.Bxf7+ Rxf7 21.Rh8+ Kxh8 22.Nxf7+ Kg8 23.Nxd6 Rd8 24.Re6

 この電光石火の手筋のあとの収局は白の勝勢になっている。

(この章終わり)

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チェス布局の指し方[64]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4(図98)

 図98(白番)

 この布局における白の主要な大望の一つは強力なポーン中原を構築して、その背後で駒を静かに集結して攻撃できるようにすることである。1.d4 のあと白は 2.e4 と突いて目標を一部達成することを狙っている。前章では黒がおうむ返し又は石垣作りの 1…d5 でこの狙いをかわすのを見た。ここでの 1…Nf6 も同じ目的を達成するが、ポーン突きの代わりに駒の展開を用いている。2.c4 e6 3.Nc3 のあと白はまたも強力な e4 突きを狙っている。そしてまたも黒はポーンによるせき止めの …d5 突きでなく …Bb4 による釘付けでこの狙いを防いでいる。

 白のe4の地点に対する指し方はニムゾインディアン防御における黒の戦略の主題の一つになっている。そして黒はしばしばクイーン翼ビショップをb7に展開することによりこの主題を補強し急所に対して圧力を加える。

 長い目で見れば黒は白がポーンをe4の地点に進めるのを防げないかもしれないが、代償として …Bxc3 と取ることにより相手に二重ポーンを作らせることができる。ニムゾインディアン防御の創始者でグランドマスターのアーロン・ニムゾビッチは1920年代後半と1930年代前半には世界選手権挑戦候補だったが、相手に二重ポーンを作らせた局面の扱いの偉大な専門家だった。

 以前に二重ポーンの相対的な長所と短所について説明した。ニムゾインディアン防御では二重ポーンがよく現れるので、この章の4節のうち3節は黒が白陣に二重ポーンを生じさせる状況を調べる。それらを研究することにより読者はどのような二重ポーンの形が白と黒のどちらに有利に働くのかを見極めることができるようになるだろう。最後の節では白が4手目で駒でクイーン翼ナイトを守って二重ポーンになるのを避ける戦型が出てくる。

 黒が自ら双ビショップを放棄しそれにより不均衡なポーンの形も生じさせる防御法はどれも引き分けに終わりにくい激しくて動的な局面になりがちである。従ってニムゾインディアン防御は黒番で 1.d4 に対して勝ちたい大局観派の選手に受けている。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[65]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.a3(図99)

 図99(黒番)

 この手により最も極端な形で二重ポーンができあがる。白は黒にビショップをナイトと交換させるが、二重ポーンが自分の中原の柔軟性を増進させると考えている。

4…Bxc3+ 5.bxc3 O-O

 黒は二重ポーンに対する攻撃に集中する前にキングを中央から立ち退かせた。白の中原のポーンが突進して来るかもしれないことを考えれば、これは賢明な予防措置である。黒キングは敵ポーンの進路からはずれてより安全になっている。

6.e3

 白はぜひともc4からf4に渡る広大なポーンの帯を構築したがっている。この望みの態勢を達成するには次のように二つの方法がある。(a)e3/Bd3/e4 から f4 と突く。(b)f3/e4/Bd3 から f4 と突く。どちらの方法もeポーンまたはfポーンに2手かけている。

6…c5

 この手は非常に重要である。黒は自分の攻撃の準備として白のcポーンの先頭をせき止めた。その攻撃とは …Nc6-a5/…Ba6/…Rc8(…cxd4 で白のcポーンに利きを直射させる狙いがある)…Qd7-a4 または(黒が …d6 突きを省略しているなら)…Ne8-d6 という手順である。黒の6手目は標的(白のcポーンの前部)をその位置にしっかりと固定している。

7.Bd3

 7.dxc5? は自殺行為である。ポーン得は一時的にすぎない。7…Na6 から …Qa5 で三重ポーンの先頭はすぐに落ち、白は素通し列での孤立二重ポーンという、なんとしても避けるべき弱点の一つが残される。

7…Nc6 8.Ne2

 白はfポーンの進路をふさぎたくないのでこのナイトはf3でなくこう跳ねるところである。

8…b6

 この手は …Ba6 の準備である。

9.e4

 Bg5 から e5 突きを狙われているので、黒はそうなる前に釘付けを防ぐ。

9…Ne8!

 これはカパブランカ創案の妙手である。前述の釘付けを防ぐ別の方法は 9…h6 突きだが、黒キングの前面のポーンを弱めるので避けられるものならば避けるべきである。

 このナイト引きには別の構想もある。黒の指す手は局面を閉鎖的にする希望に駆られている。それは白ビショップの活動範囲を最小限にし、白の中原ポーンが雪崩のように前進してくるのを止めるためである。本譜の手によって黒のfポーンがf5に進む道が開け、白のキング翼ビショップの働きを止め白のfポーンの進路を邪魔することになる。黒はf5のせき止めポーンを …g6 突きから …Ng7 で支援することができる。

 このような閉鎖性の強い局面では黒のナイトは白のビショップと完全に対等である。

10.O-O(図100)

 図100(黒番)

 これは両者が最も効率的な手段でそれぞれの戦略を成し遂げた理想的な局面と言えるかもしれない。

 黒も白もこの局面から鮮やかな勝利を収めてきた。そこで二重ポーンの強さと弱さを例示するためにそれぞれの手本を本手順で示すことにする。

 最初は黒が白のfポーンの前進によってなぎ倒された試合で、黒が不注意にもこのポーンを妨害し損ねた。その次は抑制のみごとな例である。黒は決して相手に攻撃の機会をつゆほども与えず、白はついにはポーンの弱点の結果として収局で屈した。

 (a)ブロンシュテイン対ナイドルフ、ブダペスト、1950年

10…d6 11.f4 Ba6?

 11…f5 突きが必須だった。

12.f5! e5

 この手は 13.d5 Na5 14.Qa4 f6 で局面全体が封鎖されることを期待した。

13.f6!

 好手。この手に対して 13…gxf6 なら 14.Bh6 Ng7 15.Ng3 で黒がひどいし、13…Nxf6 も 14.Bg5 から Bxf6 で同様にうまくない。しかし黒は長くこの変化を避けることができない。

13…Kh8

 このポーンを無視し消えることを期待したが、そうはならない。

14.d5 Na5

 こう跳ねても白のcポーンに対する攻撃はもう意味がなくなっている。

15.Ng3 gxf6

 15…Nxf6 は 16.Bg5 から Nh5 でもっと悪くなる。

16.Nf5

 黒の二重ポーンの前はナイトにとって理想的なせき止めの地点である。ここは黒にとってかなり負担になってきた。

16…Bc8 17.Qh5 Bxf5 18.exf5 Rg8 19.Rf3

 狙いは 20.Qxh7+ Kxh7 21.Rh3+ Kg7 22.Bh6+ Kh7 23.Bf8# である。

19…Rg7 20.Bh6 Rg8 21.Rh3 1-0

 (b)ボトビニク対レシェフスキー、世界選手権競技会、1948年

10…Ba6 11.Be3 d6 12.Ng3 Na5 13.Qe2 Qd7!

 この手は展開によっては …Qa4 を狙い、f5の地点に利きを及ぼすことによって …f5 突きも支援している。

14.f4

 キング翼ビショップの筋を開ける 14.e5 突きの方が強手だった。

14…f5! 15.Rae1 g6 16.Rd1 Qf7

 16…Qa4 は 17.d5 で危険すぎる。黒はキング翼の封鎖に専念している。

17.e5 Rc8

 この手はc4ポーンの攻撃にもなっている。

18.Rfe1 dxe5 19.dxe5 Ng7 20.Nf1 Rfd8

 もしすべての大駒が交換になれば自動的に白のcポーンの先頭が落ちる。

21.Bf2 Nh5 22.Bg3 Qe8 23.Ne3 Qa4

 ようやくこの手が実現した。

24.Qa2 Nxg3 25.hxg3 h5

 白の二つ目の二重ポーンを麻痺させた。

26.Be2 Kf7 27.Kf2 Qb3 28.Qxb3 Nxb3 29.Bd3 Ke7 30.Ke2 Na5 31.Rd2 Rc7 32.g4 Rcd7

 黒は陣形ではるかに優っているので白の犠牲を無視することさえできる。

33.gxf5 gxf5 34.Red1 h4 35.Ke1 Nb3

 このあとの手順は白のあがきにすぎない。

36.Nd5+ exd5 37.Bxf5 Nxd2 38.Rxd2 dxc4 39.Bxd7 Rxd7 40.Rf2 Ke6 41.Rf3 Rd3 42.Ke2 0-1

(この章続く)

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チェス布局の指し方[66]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

黒のクイーン翼ビショップのフィアンケット

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3(図101)

 図101(黒番)

 これはニムゾインディアンの4手目としては現代のマスターの試合の約75%で選択される手である。白は黒にキング翼ビショップをナイトと交換させるのに1手(a3 突き)をかけることをはっきり拒否する。4.e3 は Bd3、Nf3、O-O で通常の古典的展開をする用意もしている。

 これに加えて白には 5.Nge2 の選択肢もある。これは駒でc3を取り返すことを可能にし、二重ポーンから生じるかもしれない不利益を回避する。

4…b6

 黒はクイーン翼ビショップをb7に展開することにより、e4の地点をめぐる理にかなった戦いを続けている。5…c5 で中央をせき止める別策は次項で解説する。また 4…O-O 5.Bd3 c5 6.Nf3 d5 7.O-O Nc6 も黒が十分戦える。

5.Bd3 Bb7 6.Nf3

 代わりに 6.f3 は黒のクイーン翼ビショップの利きを鈍らせるが、白のキング翼ナイトから好所を奪うことにもなる。

6…Ne4

 黒はe4の地点を押さえてこの手が先手になることを期待している。というのは白のクイーン翼ナイトへの当たりがもう一つ加わり、白がe4の地点を恒久的に征服しそれと同時に二重ポーンを作らせるクイーン翼ナイトへの狙いも打ち消す Qc2 を指すことができる前だからである。これに代わり得る手は 6…O-O だが、以下は例えば 7.O-O d5 または 7.O-O c5 8.Na4 となって黒は白のcポーンを二重ポーンにする戦略を放棄しなければならなくなる。

7.O-O!

 これは非常に有望なポーンの犠牲である。

7…Bxc3

 これで白に二重ポーンができる。ここで 7…Nxc3 8.bxc3 Bxc3 とポーンの犠牲を受け入れるのは 9.Rb1 で非常に危険である。

8.bxc3 f5

 これは黒のキング翼を弱め自分のeポーンからその守りを奪うが、e4の地点の支配を強めそこにいるナイトも支えている。ここで白が二重ポーンの動的な潜在力を活用する唯一の方法は、二重ポーンを大胆に突いて犠牲にしビショップの道を開くことである。

9.d5!

 ここで黒が 9…exd5 と取れば 10.cxd5 Bxd5 11.c4 Bb7 12.Nd4 または 12.Bb2 となって、白のビショップが威力を発揮する。黒の最善の方策は次の手で危険なビショップを押さえ込もう(閉じ込めよう)とすることであるが・・・

9…Nc5

 しかし次の手のあと・・・

10.Ba3 Nba6

 この手は同僚のナイトを守った。代わりに 10…Nxd3 は 11.Qxd3 で黒がキャッスリングできなくなる。

11.Bc2(図102)

 図102(黒番)

 黒のナイトは結合して働きがなく、盤の端に取り残されている。黒陣の大きな問題は駒が白のe4の地点の支配に向けられていて、中原の支配に大きな力を持つようになった白の二重ポーンの制止に向けられていないことである。これは 6…Ne4 から 7…Bxc3 と結びついた作戦が誤っていたことを示唆している。

 11.Bc2 のあと白は二重ポーンの潜在的な機動力をフルに活用し、陣地の広さと好所の駒のための素通し列とによりかなり優位に立った。この局面から1972年ティーズサイドでのグリゴリッチ対カファーティ戦は次のように進んだ。

11…O-O 12.Nd4!

 この中央集結は重要で、黒のfポーンを間接的に狙っている。

12…Rf6

 グリゴリッチ「この攻撃は不正で、黒の状況を悪くするだけである。」

13.f3 Rh6 14.Qe2 Qf6 15.Rae1

 白はポーン中原の内側に駒を集結させた。すべては原則どおりである。

15…Re8 16.Bc1

 このビショップは黒のふらふらしているルークへの一撃を目指している。

16…g5 17.g4

 ビショップのために局面を決然と開放させた。双ビショップを持っているなら従うべき役に立つ原則である。

17…exd5 18.Nxf5 Rg6 19.cxd5 Bxd5 20.c4 Bf7 21.Nd4 Nb4 22.Bb1 Rg7 23.Bb2

 これらのビショップをよく見るとよい。たかがルークのために1個を放棄するのはもったいない。

23…Qd8 24.Qd2 a5 25.Nf5 Rg6 26.Qd4 0-1

(この章続く)

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チェス布局の指し方[67]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

ヒューブナー戦法

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.e3 c5(図103)

 図103(白番)

 これは白に a3 と突かせたい手で、そうなれば黒は白のcポーンを既にせき止めた形でゼーミッシュ戦法に戻ることができる。しかしそうさせられるのを白が拒絶したらどうなるか?

5.Bd3 Nc6 6.Nf3 Bxc3+

 4…b6 を扱った前節でちょっと触れた 6…O-O から …d5 突きもある。黒は本譜の手で1手をかけて白に二重ポーンを作らせた。しかし自分だけ手をかけた(白はゼーミッシュ戦法でのように …Bxc3+ と取らせるための a3 と突く1手をかけていない)ことを考慮すると、ここで黒が白のcポーンを …Na5 で攻撃するのは危険すぎる。そこで黒はクイーン翼ナイトをキング翼に転じる別の作戦を選ぶことになった。この作戦は西ドイツ最強のグランドマスターのローベルト・ヒューブナーの大得意だった。

7.bxc3 d6

 黒は 8…e5 突きで中原を封鎖し、白の双ビショップの利きを最小限にする用意をした。相手が双ビショップを持ちこちらが2ナイト、またはビショップとナイトとを持っているときは局面を閉鎖的にしておかなければならない。逆にこちらが双ビショップを持っているときはポーンを犠牲にしてでも局面を開放的にするように努めなければならない。

8.e4 e5 9.d5

 もちろん 9.dxc5 または 9.dxe5 と取るのは陣形的に罪深い。白の孤立二重cポーンはどうしようもないほどむき出しになり、白は弱点を隠すためにナイトをd5に捌くことは絶対できない。例えば 9.dxc5 dxc5 10.Qc2 Be6! 11.Nd2 Na5 となって、白は Nf1-e3-d5 と捌く暇がない(グリゴリッチの研究)。

9…Ne7

 今や黒は …h6、…g5 から Ng6 で危険なキング翼攻撃をもくろんでいる。だから白はこれを防ぐために手段を講じなければならない。

10.Nh4! h6

 この手は …g5 突きの準備である。10…Ng6 は 11.Nf5 が良い手になるのでだめである。

11.f4

 白は黒が非常にもっともそうな企てにはまって 11…exf4 12.Bxf4 g5 で戦力得をしにくることを期待した。しかしこれには 13.e5! という強力な攻撃がある。

11…Ng6!

 このぶちかましの妙手は白のf列での活動を消し去る。さらに、白の最も攻撃的な駒も消去する。なぜなら 12.Nf5 は 12…Bxf5 13.exf5 Nxf4 で良くないからである。

12.Nxg6 fxg6(図104)

 図104(白番)

 黒は少なくとも互角の形勢である。白のビショップはあまりぱっとせず、二重ポーンは黒の二重ポーンより攻撃を受けやすい。ユーゴスラビアのグランドマスターのグリゴリッチは12手目直後の局面を次のように評価した。「局面は閉鎖的で、白の良いところはまったく何もない。黒は容易に自分の弱点を守れるが、白の弱点は数の上でもっと少ないということはない。」1972年世界選手権のスパスキー対フィッシャー戦では黒が白のポーンの弱点を非常に効果的に利用した。

13.fxe5 dxe5 14.Be3 b6 15.O-O O-O 16.a4 a5 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2 Qe7 20.Bc2 g5 21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 0-1

 28.Qxa4 Qxe4 で収拾がつかない。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[68]

dポーン布局と側面布局

第10章 ニムゾインディアン防御(続き)

白が二重ポーンを避ける

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2(図105)

 図105(黒番)

 これは二重ポーンを避ける唯一の方法で、マスターの実戦で流行している(cポーンが二重になるのを防ぐ他の手はまったくつまらない)。棋理の点で白の構想(cポーンを二重ポーンにせずに双ビショップを得ること)は非常に理にかなっている。しかし序盤で白クイーンがd1からc3に行くのに手数がかかるので黒には反撃策がたくさんある。

4…O-O

 クイーン翼キャッスリングはとても考えられそうにないのでこの手は妥当な手である。もちろん 4…c5 と 4…d5 も文句のない手である。

5.a3

 白が 5.e4 突きで中原進攻を急ぐのもありそうだが、よくある手筋の 5…c5! 6.d5(6.e5? cxd4)6…exd5 7.cxd5 Nxe4! 8.Qxe4 Re8 で負けてしまう。途中 7.exd5 でも 7…Re8+ で黒が優勢である。

5…Bxc3+

 もし 5…Be7 ならそれこそ本当に白は 6.e4 と突き、黒は白の中原によって押しつぶされるだろう。

6.Qxc3 b6

 ニムゾインディアン防御ではよくあることだが、黒は白のe4の地点に駒の利きを重ねて白の強力なポーン中原の形成を防ぐ。

7.Bg5

 白はナイトを釘付けにしてe4の地点に対する黒駒の影響力を減らした。

7…Bb7 8.e3

 これは展開を完了するための通常の手である。

8…d6 9.f3

 白はe4の地点の支配を主張するためには、キング翼ナイトを最良の地点に展開するのを犠牲にする覚悟である。しかしこれにより黒に動員を完了する手数をさらに与えた。

9…Nbd7

 クイーンが動けるようにキング翼ナイトを守った。黒はどうしてもfポーンを二重ポーンにさせたくなかった。

10.Bd3 c5

 白がまだ駒を出撃させている間に黒はもう白のポーン中原を攻撃する態勢になった。

11.Ne2 Rc8(図106)

 図106(白番)

 黒は白のcポーンに砲火を集中させている。それに展開が楽で、白の双ビショップに対する補償として出来合いの作戦もある。1971年英国選手権戦で指された最上位のイギリス選手同士の試合は次のように進んだ。

12.O-O h6 13.Bh4 Ba6

 cポーンに黒駒の利きがまた加わった。白は何とかしなければならない。

14.d5 Ne5 15.e4 Nxd3 16.Qxd3 e5

 完全に互角の形勢である。局面は閉鎖的で、白はもう双ビショップ態勢でなくなっている。すぐに引き分けが合意された(ホワイトリー対カファーティー、ブラックプール、1971年)。白は途中で 14.b3 と指すこともできた。しかし 14…cxd4 15.Qxd4(15.exd4? は 15…b5! でc4に当たる)15…d5 となって、カスパロフの分析によれば互角の局面である。

(この章終わり)

2011年07月04日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[69]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7(図107)

 図107(白番)

 この防御はニムゾインディアン防御よりもさらに一歩先を行っていて、白に念願のポーン中原をいともやすやすと構築させる。黒はこの中原は実際は黒にとってそれほど恐ろしくないと信じている。

 19世紀の終わり頃と20世紀の初め頃のマスター選手は序盤の段階でc4、d4およびe4に何の妨害も受けずにポーンを並べることができれば勝ったも同然と考えていた。しかし1920年代から1930年代になるとそのような考え方はいわゆる「超現代派」マスターたち(ニムゾビッチ、レーティ、ブレイェル)によってくつがえされた。彼らは広壮なポーン中原は相手がわざと控えておいたポーンを突いてくる反撃にさらされるので敗北の種ともなりうることがあることを示した。キング翼インディアン防御はこの手の防御法に属し、ついには1940年代から1950年代にソ連のグランドマスター、とりわけボレスラフスキーとブロンシュテインによって詳細が完成された。それ以来この防御はすべての一流グランドマスターの得意戦法の中で確固とした地位を占めている。

 キング翼インディアン防御は激しい戦法で、多くの戦術の可能性や思いがけない強襲が両陣営に生まれる。クイーン翼ギャンビット拒否やニムゾインディアン防御よりかなり危険なので、どちら側のキングにも攻撃が及ぶ可能性のある激しい戦術の局面を好み、勝っても負けても面白さに異存のない選手に受けている。世界チャンピオンのガリー・カスパロフと元世界チャンピオンのボビー・フィッシャーは大得意にしている。フィッシャーは1992年のボリス・スパスキーとの復帰戦でこれを何度も用いた。

 黒の戦略は白の中原にあとから …c5 突きによって攻撃を仕掛けることに基づいている。そして d5 突きを誘って白の中原を …e6 突きと …b5 突きによって崩していく。あるいは(…c5 突きの代わりに)…e5 と突くこともあり、白が d5 突きで陣地を広げれば黒はキング翼ナイトをe8またはh5に動かして …f5 突きによるキング翼攻撃を始めることができる。このような攻撃はもし白がキング翼にキャッスリングしていれば …f5-f4 突きから …g5 突きで自動的に勝てることがよくある。

 4ポーン攻撃の節ではもし白がc4からd4とe4を通ってf4にまで及ぶポーンで誇大妄想者並みに中原を占めれば災難に見舞われることがあり得ることを目撃する。以降の節では白が既に征服した中原の陣地を固めることに専念するシステムを分析する。

(この章続く)

2011年07月11日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[70]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

古典型戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7

 代わりに 3…d5 と指せばグリューンフェルト戦法になり、白は 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 でポーン中原を築くことができ、黒はやがては切り崩すことを期待する。

4.e4 d6 5.Be2(図108)

 図108(黒番)

 これが古典型システムの真骨頂である。白は駒を迅速に中央部の好所に展開した。5.Be2 でできるだけ早くキャッスリングすることを意図し、そのあとはクイーン翼のポーンを突いていく。5.Bd3 はあまり良くない。キング翼ビショップがd3にいてもキング翼攻撃の機会がなく、黒のクイーン翼ナイトがc5の地点に来れば攻撃にさらされる。

5…O-O 6.Nf3 e5

 この手はここではほとんど例外なく指される。黒は白がd5と突いて中原を安定させることを期待している。そのとき黒はキング翼ナイトをどけてfポーンを突き、言わずと知れたキング翼ポーン雪崩を始動させる。6…Nc6 と展開するのは的外れである。7.d5 と突かれるとクイーン翼ナイトの良い逃げ場所がない。しかし 6…c5 はある手である。例えば 7.d5 e6 となって一種のべノニの局面になる。

7.O-O

 差し出された黒のポーンを取っても何にもならない。7.dxe5 dxe5 8.Qxd8 Rxd8 9.Nxe5 Nxe4! で白の飛び出したナイトに当たりが直射する。代わりに 7.Be3 なら可能で、この自然な展開の手が米国のグランドマスターのレシェフスキーの得意な手だった。普通このような手は 7…Ng4 が見えているのであまり良くない手なのだが、ここでは黒のクイーンに当てて先手でビショップを動かすことができる。例えば8.Bg5 f6 9.Bh4 で互角である。

7…Nbd7

 この手はeポーンを支えると共に、8…exd4 9.Nxd4 Nc5 で白のeポーンに圧力をかける用意もある。だから白はこの狙いを武装解除する。代わりにカスパロフのよく指す 7…Nc6 は良い手だが非常に難解である。

8.d5 Nc5

 ナイトが先手で中央の好所に来た。白は次のようにeポーンを守らなければならない。

9.Qc2

 これで黒にクイーン翼ナイトの位置を安泰にする手が与えられる。

9…a5(図109)

 図109(白番)

 黒がこの手を指さなければ白は b4 と突いて黒ナイトを追い払いクイーン翼で陣地を広げる。そうなれば白が c5 突きを準備するのは容易になる。例えばクイーン翼ビショップをa3に置きルークをc1に回すという具合である。そして c4-c5xd6 に続いて Nb5 から Qc7 によって黒のクイーン翼に侵入する手はずが整う。黒の守られていないdポーンは白駒の攻撃目標になる。図の局面で黒にはキング翼ナイトを動かして …f5 と突く用意ができていて、それは白にとって面白くない。白はマスターの実戦に数多く現われた次のような捌きに突き進むしかない。

10.Bg5

 まずキング翼ナイトを釘付けにする。

10…h6

 黒は釘付けをはずさなければならない。

11.Be3 Ng4

 白のクイーン翼ビショップを当たりにして先手でfポーンの障害をなくした。

12.Bxc5!

 普通キング翼インディアン防御でこのようにビショップをナイトと換えるのは非常に良くない。なぜなら白は黒枡を守るのにクイーン翼ビショップが必要だからである。しかしここでは例外的な戦術の核心がある。

12…dxc5 13.h3! Nf6

 他に指しようがない。黒は10手目で釘付けをはずしたときナイトの可能な引き場所の一つを奪ってしまっている。

14.Nxe5 Nxd5

 白のナイトに直射攻撃をかけた。ポーンを取り返すにはこう指すしかない。

15.cxd5!

 中央に向かって取り返した。

15…Bxe5 16.f4 Bd4+ 17.Kh2

 黒に双ビショップを与えた代償に白には非常に強大な中原がある。この中原は Bc4 と Rae1 とによって支援することができる。白の方が少し有望と考えられるが、逆の立場の強力な議論はフィッシャーがこのような局面を黒で指して好成績をあげているということである。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[71]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

4ポーン攻撃

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f4(図110)

 図110(黒番)

 白は黒の布局の手に乗じて最も極端な方法で中央をポーンで占拠した。キング翼インディアン防御の黎明期には白によるこのような陣地の征服はほとんど勝負がついたものとみなされていた。しかし今日では白の広大なポーン中原には弱点が存在すると認められている。特に f4 突きは白キングの周りの枡を弱めている。黒は白の伸び広がった中原を …c5 突きで襲撃することができ、dポーンを進ませて …e6 突きと …b5 突きで揺さぶっていく。4ポーン攻撃はもうマスターの実戦ではあまり人気がなくなっている。しかしこのような広大な中原は黒が正確な防御によって無害にできることを示すためにここで分析する。

5…O-O 6.Be2

 6.Nf3 だと黒が 6…Bg4 から …Nc6 で白のd4の地点に圧力をかけることができるので、白はナイトよりも先にビショップを展開した。この着眼点は現代防御の章のオーストリア攻撃の節でもっと詳細に解説する。

6…c5!

 白のdポーンに対する突っ掛けは折り紙付きの手段である。白が 7.dxc5 と取れば …Nxe4 を狙いに 7…Qa5 と出て展開に優る黒が有利な態勢になる。白の最も安全な針路は次の手のように中原で陣地を広げることである。

7.d5 e6

 切り崩し作戦が始まった。白が相手に弱い出遅れdポーンを作らせることを期待して 8.dxe6 と取れば、黒は …Bxe6 から …Nc6 と応じて展開が速まり半素通しe列での白のeポーンに対する攻撃の可能性が生まれる。白は展開で後れをとっている間は局面を閉鎖的に保つよう努めた方がよい。

8.Nf3

 白が展開を完了しようとしているのは賢明である。

8…exd5 9.cxd5(図111)

 図111(黒番)

 白はこの手で中原に可動多数派ポーンを維持しようとしている。この局面で黒には非常に効果的な戦術の手段がある。それは伸張した白のポーン中原に対して、このような局面につきものの指し方である。

 黒はまず 9…b5 と突き …b4 で白のクイーン翼ナイトを当たりにして白のeポーンをただ取りにすることを狙う。9…b5 はこのポーンが二重に当たりになっているのでばかげた手に見える。しかし白はほとんどこのポーンを取ることができない。10.Nxb5 と取ると黒は単純に白のeポーンを取る。また 10.Bxb5 と取ると次のようにきれいな手筋が決まる。10…Nxe4 11.Nxe4 Qa5+ 12.Kf2(12.Nc3 は 12…Bxc3+ 13.bxc3 Qxb5 で白陣ががたがたになる)12…Qxb5 13.Nxd6 Qa6 14.Nxc8 Rxc8 白のぼろぼろの陣形と露出したキングに照らすと、黒はポーン損でも十分反撃が可能である。

 白は10手目でポーンの犠牲を拒否し、中原で自分の多数派ポーンで押しまくった方がよい。だから 10.e5 dxe5 11.fxe5 と指すべきだが、11…Ng4 で白のeポーンに対する黒の反撃は均衡を保って余りある。

 これは難解な局面で多くの研究が行なわれ、秘密を解明するには一般原則の専門書よりも具体的な分析の本が必要である。12.Bg5 Qb6 からは難解な手順が始まる。しかし黒には 12…f6 13.exf6 Bxf6 14.Bxf6 Qxf6 という手もあり-こちらを推奨する-まともな局面で黒枡で強く指せる。特に白のe3の地点は非常に弱くなっている。この手順は大局的に理にかなっていて、こんなところで難解な「定跡手順」に煩わされる必要などさらさらない。

(この章続く)

2011年07月25日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[72]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

フィアンケット戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nf3 Bg7 4.g3(図112)

 図112(黒番)

 これは高度に大局的な戦型で、白が慎重に事を構えるつもりであることを示唆している。白は全速力でキング翼キャッスリングの用意をし、ポーン中原をすぐ構築するのは控えている。駒の展開を済ませてから初めてポーンで中原一帯を支配するつもりである。

4…O-O 5.Bg2 d6 6.O-O Nbd7

 黒は …e5 突きで中原に突っ掛ける用意をした。6…c5 と 6…Nc6 も非常によく指される手である。

7.Nc3

 この展開の手はe4の地点を支配しeポーンを突く準備をしている。

7…e5

 黒は …Re8 から …c6 のような捌きを意図している。そうなれば中原でポーンを突ける態勢になり、…e4 突きで貴重な陣地をいくらか広げることができる。白はそれを許すことはできない。

8.e4 c6

 ここでの黒の戦略は白のdポーンを攻撃してd5に進ませ中原を安定させることである。そのあとはいつものようにキング翼ナイトをどけてfポーンを突き、お決まりのキング翼攻撃を仕掛けていく。もちろん黒はできるなら …exd4 と取るのを避けたい。なぜなら白に駒で中原を支配させることになるからである。

9.h3

 白の希望はe3の地点にビショップを展開させることである。しかし今この手を指すと黒は …Ng4 と当ててくる。これはよくある筋で、この場合白にとって非常にやっかいである。

9…Qb6

 黒は白のdポーンにさらに圧力を加えた。白はここで次のようにこの圧力をかわした。

10.d5(図113)

 図113(黒番)

 10.dxe5 dxe5 と指すのは誤りである。なぜなら自分のd4の地点に空所ができるのに、黒のd5の地点はc6のポーンによって守られているからである。代わりの難解な手は1992年ドルトムントでのヒューブナー対カスパロフ戦の 10.c5!? dxc5 11.dxe5 Ne8 で、どちら側も指せる。

 10.d5 突きのあと黒の最善は 10…c5 で中原を閉鎖することで、そのあと …f5 突きによる側面からの襲撃を準備できる。一方白は a3、Rb1 から b4 で攻勢をとろうとする。この局面での形勢は互角である。

 あまり良くないのは

10…Nc5

である。というのは

11.Re1

(eポーンを守った)

11…Bd7

次の手があるからである。

12.Rb1

 中原はまだ流動的で、そのため黒が安全に …f5 突きを用意するのは難しい。おまけにc5の地点にあるのがポーンでなくナイトなので、白はほとんど邪魔されずに b4 と突ける可能性がある。形勢は白が少し優勢である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[73]

dポーン布局と側面布局

第11章 キング翼インディアン防御(続き)

ゼーミッシュ戦法

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.f3(図114)

 図114(黒番)

 これがゼーミッシュ戦法の骨子となる手で、1920年代にドイツのマスターのフリッツ・ゼーミッシュによって作り上げられた。5.f3 は白の展開のために何もしていないしキング翼ナイトからf3の地点を奪っているので非常におかしな手に思えるかもしれない。しかし 5.f3 には多くの利点があり、6人の世界チャンピオン-アリョーヒン、ボトビニク、ペトロシアン、タリ、スパスキー、カルポフ-によって愛用された。この手は白の中原を強化し、Be3 から Qd2 のような手を準備している。白の作戦はクイーン翼にキャッスリングして黒キングの方面をキング翼のポーンの進攻と Bh6 の加勢の可能性とで襲撃することである。5.f3 は自分のeポーンを反撃に対して強化するだけでなく、g4 突きの準備にもなっている。このgポーン突きはhポーンをh5に突くのを助ける。白がh列を素通しにし黒のキング翼ビショップを交換でなくすことに成功すれば、黒キングに対する攻撃が決定的なものになるのはほとんど確実である。白がこの厳しい戦略をみごとに成功させた多くの例は本譜の解説中に見られる。

5…O-O

 黒キングをキング翼にキャッスリングするのを遅らせる利点はほとんどない。黒がクイーン翼にキャッスリングする手はずを整えることは非常に難しい。

6.Be3

 ここはビショップの最適の展開場所である。白は Qd2 から O-O-O の用意をしている。f3のポーンは黒が …Ng4 でe3のビショップをいじめるのを防いでいることに注意されたい。このクイーン翼ビショップがg5に行けば黒から …h6 突きで追われるし、6手目でf4の地点に出れば黒に …Nc6 で …Nxd4 から …e5 突きの両当たりを狙われる。

6…e5

 これはキング翼インディアン防御において黒が中原で行動を起こす際の常用の手段であるが、代わりに 6…Nc6 も非常に良い手である。例えば1992年ベオグラードでのスパスキー対フィッシャー戦では 7.Nge2 a6 8.h4 h5! 9.Nc1 Nd7! 10.Nb3!? a5! 11.a4 Nb4 12.Be2 b6 から …c5 突きを狙う進行になった。

7.d5

 この手は中原で陣地をいくらか広げるだけでなく、中原を閉鎖して意図する黒キングへの側面攻撃に対する黒の反撃を最小限に抑える。側面攻撃を予定している時は中原を閉鎖するのはいつでも良い考えとなる。

7…Nh5

 黒は …f5-f4 から …g5 突きによる典型的なキング翼のポーンの暴風を準備している。しかしカスパロフは自分の試合で 7…c6 から …cxd5 としてから初めて …Nh5 とする手順をとっている。これはc列を素通しにして白がクイーン翼にキャッスリングするのを思いとどまらせるためである。

8.Qd2 f5 9.O-O-O

 白は作戦の前半を実行した。

9…Nd7 10.Bd3

 ビショップが中央の好所に出て戦いに加わり、黒キングの方面もにらんでいる。

10…Ndf6

 黒の作戦は白のeポーンに圧力をかけることで、白が exf5 で中原を放棄し黒に可動多数派ポーンを形成させてくれるかもしれないことを期待している。しかしこれは黒にとってかなり危険な作戦である。なぜなら多数派ポーンはgポーンの支援がなく、特に白枡にかなりすきが出ることもあるからである。キング翼インディアン防御では黒は常に白による白枡への侵入に非常に注意していなければならない。黒の最も用心深いやり方は 10…f4 と突いてキング翼の封鎖に努め、そちらでの白の攻撃の可能性を最小限にすることだった。しかしキング翼が完全に封鎖されれば、白はキングをb1に寄せ Rc1 から c5 と突くことによりクイーン翼での進攻を図ることができただろう。

11.exf5 gxf5

 もちろん黒が駒でf5を取り返すのは大きな戦略上の誤りである。例えば 11…Bxf5? なら白は 12.Nge2 と応じ、いつかはe4の地点に駒を据え、それで黒のキング翼ビショップの利きが永久に無効になる。白がe4の地点に駒を据えればその駒は黒のfポーンによってどかすことができず黒のeポーンをせき止めることにもなる。そして黒のキング翼ビショップが閉じ込められて、通常白が陣形の上で戦略的に勝ったとみなされる。

12.Nh3!(図115)

 図115(黒番)

 ここで白には前述した黒陣の白枡の弱点につけ込む Ng5-e6 という強力な狙いがある。さらにはルークをg列に回して g4 とポーンを突いて黒キングに通じる列を素通しにする可能性もある。これらの可能性を考慮すると白がかなり優勢であると結論づけなければならない。1970年ジーゲンでの世界チーム選手権戦のポルティッシュ対グリゴリッチ戦はこの局面から次のように進んだ。

12…c6

 黒は 12…f4 13.Bf2 Bxh3 で白に孤立二重ポーンを作らせることもできた。しかし 14.gxh3 のあと黒には白のキング翼ビショップに立ち向かえる白枡ビショップがなく、白が例えば Bf5-e6+ によって白枡を完全に支配することになる。さらに白にはg列でも危険な狙いができる可能性がある。

13.Rhg1 cxd5 14.cxd5 Kh8 15.Kb1 Bd7 16.Ng5 Qe7 17.Bb5 Bc8

 もちろん黒は白枡ビショップを交換させるわけにはいかない。なぜなら白のナイトが自由にe6の地点に行けるようになるからである。6段目に居座った無敵のナイトは勝利を保障したも同然であることがよく知られている。

18.Bc4

 どのみち白のキング翼ナイトはe6の地点にやって来て、黒はそれと自分のビショップを交換しなければならず、そこに白の危険なパスポーンができる。白は陣形の上で既に戦略的に勝利を収めている。

(この章終わり)

2011年08月08日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[74]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御

1.d4 f5(図116)

 図116(白番)

 オランダ防御は黒番で攻撃的に指したい選手に非常に人気がある。この戦法の主要な目標は敵キングへの攻撃である。黒の初手は早くもキング翼で陣地を広げている。そして黒は通常はこの広さを生かして …e6/…Nf6-e4/…Be7 または …d6/…O-O から …h6 と …Qe8-h5 のような捌きを実現する。黒はそれからgポーンを突いていって白のh2の地点を叩き壊すことをもくろむことができる。この作戦の採用により黒は圧倒的な勝利を数多く収めてきた。しかし黒の初手はいくつかの原則に背いている。(a)…f5 突きはどの駒も展開していないばかりか、展開の助けにもなっていない。(b)fポーンを突くと黒キングの囲いを弱める。白は正しく指せば、ちょうどよい時機にe4にポーンを突き中原を開放し黒の弱点をすべてさらけ出させることにより優勢を勝ち取ることができるはずである。

 白はすぐにe4の地点をめがけて素早い展開のためにギャンビットをすることもできるし、穏やかに駒を展開して後日e4へポーンを突いていくことを目指すこともできる。後者のやり方がより効果的であると考えられる。オランダ防御は黒陣を弱めているのでポーンを犠牲にして有利さを求める必要はない。

 これまで分析してきた多くの戦型はチェスの思想の発展で一定の歴史的な段階を経てきた。だからキング翼ギャンビットやジュオッコピアノは現代の大会ではたまにしか見られないし、もっと洗練されたルイロペスに取って代わられている。クイーン翼でもニムゾインディアン防御やキング翼インディアン防御が通常のクイーン翼ギャンビット拒否よりもあとの歴史の舞台で発展してきた。しかしオランダ防御にはそのような誇るべき知的な伝統がない。というのはチェスの思想の具体的な段階を表現していないからである。この防御は自陣に弱点を抱えることを恐れない攻撃的な選手にいつも好まれてきた。

 まず白のギャンビットの戦型から分析する。

(この章続く)

2011年08月15日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[75]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

スタントンギャンビット

1.d4 f5 2.e4(図117)

 図117(黒番)

 スタントンギャンビットは19世紀中頃に活躍したイギリスの偉大なマスターのハワード・スタントンにちなんで名づけられた。これはオランダ防御に対する最も攻撃的な応手である。黒の初手は展開に何も寄与していないので、白は自分の展開の効率を最高にするためにポーンを犠牲にしてもかまわないと考えている。しかしこのギャンビットはせいぜい互角の形勢しかもたらさない。2.Nf3 の方が良い手で、以降の3節で考察する。

2…fxe4

 黒は受諾することによってのみ白のギャンビットを検証することができる。(黒の4手目の解説も参照)

3.Nc3

 この手は展開しながら黒の前の方のeポーンを当たりにしている。

3…Nf6

 同様に黒も展開しながら得したポーンを守った。

4.f3

 これで本当のギャンビットになる。白はポーンを取り返す望みをすべて放棄し、迅速に展開して黒キングを素早く攻撃することにかけた。4.Bg5 と指すこともでき、4…Nc6 5.d5 Ne5 6.Qd4 Nf7 が最善の応接である。

4…exf3

 黒は 4…e3 か 4…Nc6 で自発的にポーンを返すこともできた。しかしそのような手は白のギャンビットの正しさを検証することにはならない。

5.Nxf3

 5.Qxf3 も可能だが自分のキング翼ナイトからf3の地点を奪ってしまう。f3の地点はこのナイトの最も自然な展開先である。

5…g6

 この手はキングの囲いを強化している。そして …Bg7 からすぐに …O-O でキングを隅にしまい込む準備にもなっている。そうなれば素通しのe列とf列での白の圧力からずっと遠ざかることになる。

6.Bf4

 この展開は良い手で、Qd2 から O-O-O の準備にもなっている。

6…Bg7 7.Qd2 O-O

 両者とも作戦どおりに指し進めている。

8.O-O-O

 反対翼キャッスリングはいつでも非常に激しい戦いになる。白は Bh6 から h4-h5 のように指し、たぶんもっとポーンを犠牲にして黒キングに肉薄する。一方黒は …d5、…c5 そして …Qa5 と指すことにより自分の可能性を温存し、g7のビショップで白キングの砦に圧力をかけつつルークのためにc列を素通しにすることに努める。

 この局面での間違った作戦はすぐに 8.Bh6 と指すことで、1953/54年ヘースティングズでのブロンシュテイン対アレグザンダー戦では 8…d5 9.Bxg7 Kxg7 10.O-O-O Bf5 11.Bd3 Bxd3 12.Qxd3 Nc6 と進んだ。白は戦力損なのに多くの駒を交換しすぎる誤りを犯した。12…Nc6 のあと黒はポーン得で陣形もしっかりしていて、試合に勝ちを収めた。本譜の 8.O-O-O は駒の早すぎる交換を避けているのでもっと強手になっている。

8…d5

 黒は中原に足場を築いた。これは絶対必要だが自分のe5の地点を弱めていて、白は次の手ですぐにそこを占拠した。

9.Ne5 Nbd7(図118)

 図118(白番)

 黒はe5の拠点にいる白ナイトに挑んだ。この局面では白は陣地が広く駒の働きも活発である。おまけに Bd3 から h4 突きで攻撃することもできる。しかし代わりに黒は中央にポーンが1個多くあるので展望はほぼ互角である。だがこのことは試合が引き分けに終わりそうであることを意味していない。意味しているのは局面が非常に不均衡なのでどちらにも同等の勝つ機会があるということである。9手目までの局面はブロンシュテイン対アレグザンダー戦を改良しようというロシアの研究手順である。

 スタントンギャンビットは黒が間違えれば白が攻撃で圧倒することができるが、黒が正確に受ければ白にはあまり優勢が約束されないと結論づけなければならないだろう。しかしこのあと分析する大局観に基づいた指し方よりも、心理面で大きな有利さがある。オランダ防御を指す者は白キングを攻撃したがっている。犠牲にしたポーンの代償として相手が攻撃側になれて、自分が難しい受けに回らなければならないならば、明らかに心理的に面白くないだろう。だからこちらを攻撃したがっている誰かを動揺させるためにはスタントンギャンビットを試してみるとよい。

(この章続く)

2011年08月22日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[76]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

石垣戦法

1.d4 f5 2.Nf3(図119)

 図119(黒番)

 この手によって永続的な陣形上の主導権が約束され、それゆえに 2.e4 よりも信頼できる。

2…Nf6 3.g3

 この手は白のキング翼ビショップを展開する最良の方法である。キング翼方面への黒の予想される攻撃に対する予防措置として白キングの囲いを強化するだけでなく、キング翼ビショップを好所につけて後日の e4 突きの支援にもなる。

3…e6

 別の展開の 3…g6 は後の節で解説する。

4.Bg2 Be7 5.O-O

 この手を遅らせても意味がない。白はクイーン翼にキャッスリングする態勢にない。

5…O-O 6.c4

 白はキングが安全なので中央でさらに陣地を広げた。

6…d5

 この手が石垣という名前の由来である。黒は中央一帯をd5/e6/f5というポーンの三角形(石垣)でせき止め、白のe4の地点を支配している。黒の論理は中央を固定しているので安心して白キングに対して側面での行動を開始することができるというものである。しかしこの黒の論理には以下のように不合理なところがある。

 (a)中央は完全に落ち着いているわけでもなければ、黒が本当に白のe4の地点を支配しているわけでもない。白が適当な時機に f3 突きから e4 突きを行なうことができれば、黒は退却を強いられe6の出遅れポーンも大きな弱点になるかもしれない。

 (b)白がクイーン翼ビショップを黒のキング翼ビショップと交換することができれば、黒は黒枡が悲惨なほど弱くなり、白駒はこれらの黒枡を利用して黒陣にやすやすと侵入できる。たとえこの交換がなくても黒は黒枡が非常に弱い。特にe5とf4の地点がそうで、白駒の安住の地となりかねない。

 (c)黒のポーンは白枡を支配しているように見えるが、自分のクイーン翼ビショップの利きをひどく妨げてもいる。もし収局になればこれは大きな問題になるかもしれない(次の節では 6…d6 を詳しく調べる)。

7.b3

 7.Nbd2 のあと Ne5-d3 および N2f3 と指すのも非常に良い作戦である。白はそのようにしてもうポーンによって守ることのできない黒のe5の地点を支配する。

7…c6

 白枡の石垣陣が完成した。

8.Nc3 Qe8

 黒は白キングの攻撃のために自軍を増強する用意をした。…Qe8-h5 はこの攻撃の鎖におけるよくあるつなぎ手である。

9.Ne5 Nbd7 10.Nd3!(図120)

 図120(黒番)

 これは妙手とも言うべき手である。黒駒は展開に支障をきたしているので、白はどんな駒の交換も避けている(例えば 10.Nxd7? Bxd7)。駒を交換すると黒の窮屈な陣形が楽になるかもしれない。さらにこのナイトは中央のd3の絶好点ですべての重要な黒枡(c5/e5/f4)に目を光らせている。

 もう白の優勢は明らかであると言ってもさしつかえない。そして1970年ソンボルでのヒューブナー対マリオッティ戦では白がこの上ない正確さで優勢を生かしていった。

10…Ne4

 これが黒の作戦である。

11.Bb2 Bd6 12.e3 g5

 黒の「攻撃」が続いている。実際はこの擬似攻勢の手は黒枡における黒の麻痺を悪化させている。

13.f3

 黒が白のe4の地点を支配しているのが幻想だったことを如実に示した。

13…Nxc3 14.Bxc3 Nf6 15.Qe2 Qh5

 黒はできる限りの攻撃をしている。

16.Bb4!

 きわめて重要な黒枡ビショップ同士の交換が達成できた。これで黒は陣形的に負けた!

16…Bxb4 17.Nxb4 a5 18.Nd3 b6 19.Ne5

 ナイトが黒枡に侵入した。

19…Qe8 20.Qd2 h6 21.e4!

 この遅れたポーン突きはその分威力を増している。白は簡単にポーンを取り戻せる。

21…fxe4 22.fxe4 dxe4 23.Qe2 Bb7 24.Bxe4 Rd8 25.Bg2 Rd6 26.Rf2 Qd8 27.Qd3

 黒陣は弱点だらけのがたがたにされた。ここで 27…Rxd4 ならば 28.Qg6+ が必殺の手になる。もし黒が 27…Qe8 で白クイーンの侵入を防げば 28.Raf1 Kg7(28…Nd7 なら 29.Rf7!)29.Ng4 Nd7 30.Rxf8 Nxf8 31.Qe3(e5での決め手のチェックを狙う)31…Ng6 32.Nf6 Qe7 33.Nh5+ Kh7 34.Be4 で、黒は収拾がつかない。実際黒は形勢を悲観して白の27手目のあと戦うことなく勝負をあきらめた。

 米国の偉大なマスターのピルズベリーは19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて活躍したが、あるとき熱狂的なチェス好きの医者と話に及んだ。医者はピルズベリーがポーン構造の長所と短所を見分ける速さにびっくりしていた。

 そこでピルズベリーは医者にポーン構造はすべての陣形の骨格であると言った。そしてちょうど医者が一目で病気の骨格の欠陥を認識することができるように、チェスマスターは弱点まみれの黒陣を見ればすぐに負けであると片付けるものだと説明した。ここでの状況は次のように細かく分析することができる

 (a)黒のgポーン突きは白に攻撃目標を提供する(例えば h4 突きによって)。さらに黒のgポーンの背後の枡(f6/g6)はすべてポーンで守られず、白駒が吸い寄せられる真空地帯になる。既に白のクイーンとナイトは黒のg6の地点をにらんでいる。

 (b)黒の出遅れ孤立eポーンの前にしっかりと根を下ろした白のナイトの不可侵性をよく見ることである。白の唯一の弱点は素通し列上のdポーンだが、黒は自分の弱点の守りに汲々としているので白の弱点につけ入っている暇がない。もし黒のgポーンがg7に、そしてhポーンがh7にあったら、黒の唯一の陣形の欠陥はeポーンで、引き分けにできる可能性があるだろう。

(この章続く)

2011年08月29日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[77]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

6…d6 突きの流動中原

1.d4 f5 2.Nf3 Nf6 3.g3 e6 4.Bg2 Be7 5.O-O O-O 6.c4 d6(図121)

 図121(白番)

 この手でも黒はまだ …Qe8-h5 の手段によるキング翼襲撃を予定している。しかし 6…d6 突きは前節で考察した 6…d5 突きよりもかなり柔軟性がある。黒は 6…d6 突きのあと自分のポーンを剛直な形にはしない。そして特に石垣戦法のようにe5の地点を弱めるようなことはしない。…d6 突きのあといくつかの戦型では黒は …e5 突きをもくろむことさえできる。

 しかしそれでも白は自分から e4 突きを目指すことにより優勢を得ることができる。このポーン突きは黒の出遅れeポーンを攻撃する筋を開放する。

7.Nc3

 この手は明らかに最善である。ナイトを重要なe4の地点に利かせている。

7…Qe8

 もうこの手はおなじみである。

8.Re1

 これもまた e4 突きの準備である。

8…Qg6

 黒は白のもくろむ e4 突きに対する圧力を増すために作戦を変更した。e4の地点を駒で占拠してそのポーン突きを止めることもできたが、8…Ne4 9.Nxe4 fxe4 10.Nd2 d5 11.f3 e3 12.Nb1 となって黒の中原が崩壊し始める。白はすぐに中原で強力な多数派ポーンができるので、このようにナイトを安全に反展開することができる。途中で黒が 11…exf3 と取れば、12.Nxf3 で白が出遅れeポーンの前のe5の地点を支配することになる。

9.e4

 この手は気が狂ったように見えるがそうではない。うまい戦術の裏付けがあるので、白はこの戦略的に重要なポーン突きを実行することができる。しかし実際はあとで実行した方がもっと効果的だったかもしれない。

9…fxe4 10.Nxe4 Nxe4 11.Rxe4(図122)

 図122(黒番)

 黒の弱いeポーンが素通しe列で白の圧力にさらされている。そしてたぶん白のキング翼ビショップもh3の地点から圧力をかけてくる。しかし黒は駒の働きが良くて、自分から …e5 と突いて反撃し弱点をすべて消し去ることにより互角の形勢にできる。

 11…Qxe4? は成立せず 12.Nh4! で驚いたことに黒クイーンが盤の中央で捕獲されてしまう。だから黒は次のようにできるだけ迅速に展開しなければならない。

11…Nc6

 そして次の手で

12.Qe2

 白が圧力を強める。

12…Bf6 13.Bd2 e5! 14.dxe5 Nxe5 15.Nxe5 Bxe5

 形勢は互角である。

(この章続く)

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チェス布局の指し方[78]

dポーン布局と側面布局

第12章 オランダ防御(続き)

レニングラード戦法

1.d4 f5 2.Nf3 Nf6 3.g3 g6(図123)

 図123(白番)

 これがレニングラード戦法の特徴となる手である。この戦法は1950年代のレニングラード(今では伝統的な名前のサンクトペテルブルグに戻っている)出身の一群のマスターたちによって完成された。彼らはオランダ防御の普通の戦型では黒側に戦略の複雑さが不足していることに不満を感じていた。ここでの黒の作戦は既に …f5 と突いてある変型版キング翼インディアン防御に移行することである。しかしレニングラード戦法の欠点は次のように重大である。

 (a)当然ながら黒の早い …f5 突きは自身のキングの囲いの弱体化になる。

 (b)白は黒が …e5 突きの用意ができる前に d5 と突くことができる。これは黒が自分のe6の地点に空所を抱えることを意味する。また黒が …e5 突きに固執すれば白は dxe6e.p. で黒のポーン集団を分裂させ黒陣にもっと弱点を作らせることができる。

 (c)黒のポーンの形からするとクイーン翼ビショップは自身のポーンによって閉じ込められたあまり価値のない駒になることがよくある。

4.Bg2 Bg7 5.O-O O-O 6.c4

 この手は d5 突きを支援する準備である。

6…d6

 これは 7…Nc6 から 8…e5 と突く意図である。そうなれば黒はポーンが非常に動きやすくて満足以上の態勢になる。だから・・・

7.d5!

 重要な陣地の征服を達成した。

7…c5

 黒は作戦を全面的に変えなければならない。本譜の手で黒はクイーン翼でのポーンの進攻を図り駒の動ける余地を作ることにした。もし黒が 7…e5 と突いて、自分をひどく窮屈にさせている白のdポーンの迂回を図れば、次のように身の毛のよだつような状況に陥る。8.dxe6e.p.! Bxe6 9.Nd4(Bxb7 と Nxe6 の狙い)9…Bc8 10.Nc3 これで白が展開で大きくリードする。黒のクイーン翼ビショップは2回動くことを余儀なくされ、元の位置に戻るしかなかった。一方白のキング翼ナイトはこの機会を利用して強力な中央の地点に進出している。

8.Nc3 Na6

 意外にも今ではここがナイトの最良の地点になった。そしてc7の地点で中央に戻ることになり、…b5 突きの強行に役立つ。しかしそれでも黒陣は3手目で列挙した陣形上の欠点を考えれば満足のいくものとはほど遠い。

9.Rb1

 これは非常に良い手である。白のやりたいことはクイーン翼ビショップを黒枡の対角斜筋(a1-h8)に展開することで、このビショップと黒のキング翼ビショップとの交換を期待している。この捌きの要点は黒キングを守る駒の数量を減らすことである。白がいつかは e4 突きで中央を開放することになれば、黒の取り残されているeポーンは障害物となり、黒がキングの助けのために守り駒を移動させるのを妨げてしまう。

 しかしすぐに 9.b3? と突くのは …Ne4! でうまくいかない。そこで白はまずルークを黒のキング翼ビショップの利き筋からはずした。

9…Nc7 10.b3 a6 11.Bb2 b5 12.e3

 クイーン翼ナイトのためにe2の地点を空けた。そしてこのナイトはいつかf4の地点に行ってe6の空所を弱めるかもしれない。白はこのような状況では決して cxb5 と取ってはいけない。なぜならdポーンの大切な支えを失くして自分の連鎖ポーンを台無しにしてしまうからである。

12…Rb8 13.Ne2 Bd7(図124)

 図124(白番)

 白陣は非常に良い態勢になっている。黒の唯一の反撃場所はb列である。黒は …bxc4 でb列を素通しにできるが、黒のルークやクイーンの使える侵入口を白が守ることは簡単である。さらに、もし黒が …e5 と突いてくれば dxe6e.p. と応じて黒のd6の地点が素通し列上の弱い出遅れポーンという大きな傷となる。

 キーン対リー戦(1970年ペイントンでのイングランド対オランダ対抗戦の主将戦)ではこのあと白の戦略が完全な成功を収めるさまがまざまざと見られた。その白の作戦とはクイーン翼で黒の機会を封じ込めながら、中原でおよび黒キングに対して仕掛けていくというものである。

14.Bc3 Na8

 ここはナイトにとって最悪の地点の一つだが、黒は建設的な指し手がなくなってきている。

15.Ng5

 黒のe6の弱点を見据えている。

15…Bh6 16.h4 bxc4 17.bxc4 Rxb1 18.Qxb1 Qb6 19.Qc2

 白は黒キングへの攻撃のためにクイーンを残しておく必要がある。

19…Rb8

 ルークは所定の位置についたがそこからどこにも行き場所がない。

20.Nf4

 これでナイトが二つともe6の地点を目指している。

20…Nc7 21.e4!

 黒駒のうち四つが出遅れeポーンの不適切な側にいる今が白の打って出る好機である。

21…Bg7 22.e5 Ng4 23.exd6 exd6 24.Bxg7 Kxg7 25.Re1 Ne5 26.Nd3 Re8 27.Qc3

 またあの黒枡である。これは 9.Rb1! で始めた捌きが正しかったことを示している。

27…Kg8 28.Nxe5 dxe5 29.Rxe5 Rxe5 30.Qxe5 h6 31.d6! 1-0

(この章終わり)

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チェス布局の指し方[79]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御

1.e4 g6 2.d4 Bg7(図125)

 図125(白番)

 この防御手順は1960年代の初めから最強者たちの間でようやく人気が出た。元ソ連のグランドマスターのコルチノイが世界選手権挑戦者決定競技会でこれを用いて黒番でフィッシャーを破った。この頃からボトビニクのような積極的な防御システムの専門家たちによって頻繁に用いられてきた(現代防御は共著者の一人であるレイモンド・キーンの大得意戦法であり、グランドマスターのグリゴリッチとドナーを負かしたこともある)。それが現代防御と呼ばれる理由である。世界中でこの防御は異なった名前で知られている。ユーゴスラビアではピルツ、ロシアではウフィンツェフ、オーストリアではロバーチュと呼ばれている。我々としては「現代防御」と呼ぶのが簡明だと思う。

 昔はこの防御はひんしゅくを買った。ロシア生まれでフランス国籍の偉大な世界チャンピオンのアレクサンドル・アリョーヒンは1930年代に 1…g6 について次のように書いている。「この手は二流の手と考えるのが適当である。なぜなら白に中原の地点の支配を完全に明け渡しているからだ。」

 今は一流のマスターの誰もがこの防御は完全に指せると認めている。そしてフィッシャーまでもが1972年スパスキーとの世界選手権戦で用いた。

 これは非常に洗練されたシステムで、白にポーンの厚みを築くよう誘っているが、…c5 のような突き崩しの手段によってポーン構造を最終的に粉砕することを目指している。黒は特にd4の地点に圧力をかけ、全体的にはa1-h8の対角斜筋に沿って白を弱めていく作戦をとる。

 現代防御の具体的な詳細は白が普通の素朴な駒の展開(例えば両当たりトリックの戦型)で戦う戦型を分析するときに明らかになるだろう。

 これは指しこなすのが非常に難しい防御であることは強調しておかなければならない。しかしこの防御の反撃の結果は秘訣をマスターすれば非常に満足できるものとなる。その秘訣とは盤の側面から圧力をかけることにより白の出来上がった中央のポーン陣を破壊することである。現代防御に関連した一つの顕著な問題は、黒が正しく指し回すには本書の以前の章で教えようとしてきたまさにその原則にしばしば背くことが要求されるということである。しかし一般的な原則を放棄する正しい瞬間を見分けられれば、チェスを魅力的で多様性にあふれたものにする喜びの一つとなる。

 表面的には現代防御の戦略はキング翼インディアン防御の戦略に似ているかもしれない。しかし重要な違いが一つある。キング翼インディアン防御は 1.d4 に対する応手だが、現代防御は 1.e4 に対する応手である。白は 1.e4 g6 2.d4 Bg7 のあと 3.c4(キング翼インディアン防御もどきに移行する)と指すことができるが(実際しばしばそう指すが)、通常は 3.Nc3 と駒を展開する方を好む。従って現代防御では(キング翼インディアン防御でのように)黒は白の巨大なポーン中原に対処しなければならないだけでなく、迅速に展開できる白の可能性から生じる危険性にも対処しなければならない。

 黒がこの課題に立ち向かえると考えることは、チェス盤の64枡には無限の手段が秘められていることを示唆している。

 注意 黒は 1.e4 d6 2.d4 Nf6 としてから初めて …g6 と突く手順でこの防御を始めることもできるし、1…g6 のあと …d6 と突いて始めることもできる。

(この章続く)

2011年09月19日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[80]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

両当たりトリック戦法

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nf3(図126)

 図126(黒番)

 白はこの手で、3.Nc3 から 4.f4 でポーン雪崩をもくろむよりも、普通に駒を好所に展開することで満足することを宣言している。

3…d6 4.Nc3

 もう一つのナイトも最良の地点で戦闘配置についた。

4…Nf6 5.Bc4

 これも単純な展開の手で、これまで取り上げてきたほとんどのeポーン布局で完全に好所に当たる地点である(例えばシチリア防御やキング翼ギャンビット)。白は短手数ですべての駒を中央の好所に配置できるので(例えば O-O のあと Bf4、Qd2、Rad1 などで理想的な展開になる)、ここでは白が優位に立っていると考えられるかもしれない。しかし黒の戦力の展開は巧妙で、強力な反撃を行なうことができる。白のもっと用心深い展開は 5.Be2 O-O 6.O-O だった。

5…O-O

 これで黒は …Bg4 から …Nc6 で白のdポーンに対するうるさい攻撃を狙っている。例えば白が 6.O-O と指せば、6…Bg4 7.h3 Bxf3 8.Qxf3 Nc6 9.Be3 Nd7 となる。このあと白が 10.Rad1 と指せば 10…e5 11.d5 Nd4 で黒が好調である。また 10.Ne2 ならば 10…Nde5! 11.dxe5 Nxe5 で黒が駒を取り返し優勢になる。だから白は・・・

6.h3

 釘付けを防いだ。しかし今度は両当たりのトリックが来る。これは白の中原を壊滅させるための現代防御でのよくある策略である。

6…Nxe4! 7.Nxe4

 代わりに 7.Bxf7+ は 7…Rxf7 8.Nxe4 となって、黒が次のような点で有利になる。(a)中原の多数派ポーン(b)双ビショップ(c)半素通しf列を利用しての白キングへの攻撃

7…d5

 これで黒が駒を取り返す。

8.Bd3

 8.Bxd5 と取るのは 8…Qxd5 でもっと悪い。なぜなら黒のクイーンを中原の強力な地点に展開させ、黒に双ビショップを譲り、白のdポーンに対する攻撃の可能性を黒に与えるからである。

8…dxe4 9.Bxe4

 白の非常に自然な展開の手の 5.Bc4 の結果を総括すると、白の中原が縮小したことが見てとれる。それに白のキング翼ビショップが3度も動くことを強いられ、c4よりも劣った地点に落ち着くことになった。

9…Nd7

 黒は 9…c5 10.dxc5 Qa5+ と指すこともできた。しかし 11.c3 Qxc5 12.Be3 となれば白が展開のリードを保っている。10.dxc5 に対して 10…Qc7 は黒が悪い。白はクイーンの早まった展開に関する原則をあざけって 11.Qd5 と指すことができ、黒はポーンを取り返すことが難しくなる。例えば 11…Na6 なら 12.c6! である。

10.O-O c5!

 白のdポーンをめがけてのこのポーン突き(黒枡の対角斜筋をつらぬく黒のキング翼ビショップの協力に注意されたい)は現代防御における黒の専売特許ともいうべき手である。白の中原がついに清算され、少なくとも黒にとって互角の形勢になる。

11.dxc5

 11.d5? は 11…Nf6 で白がポーンを損する。

11…Qc7

 これで黒がポーンを取り返せる。もちろん 11…Nxc5 と取ることもできる。

12.c6(図127)

 図127(黒番)

 白はポーン得を維持できないので、ポーンを返して相手に二つの孤立ポーンを作らせようとしている。しかしこれで黒の中原支配が強化され、黒の駒の動きの自由さおよびキング翼での可動多数派ポーンと相まって黒が好調になる。この局面から1972年グラースでのギズダブ対ボッテリル戦は次のように進んだ。

12…bxc6 13.Nd4 Bb7 14.c3 Nc5 15.Bc2 e5 16.Nb3

 白は黒のポーンの進攻によって押し返された。

16…Ne6 17.Qe2 Rfe8 18.Re1 f5

 主導権は黒にある。黒のキング翼ポーンの進攻はすぐに黒のクイーン翼ビショップによって支援される。このビショップは黒が …c5 と突けば働き出す。

(この章続く)

2011年09月26日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[81]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

白が黒キングを急襲する

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3 d6 4.Be3(図128)

 図128(黒番)

 これは白の最も攻撃的な手の一つである。白は既に Qd2、O-O-O から h4 と指して黒キングを「捕らえる」ことに関心を持っていることを宣言している。

4…Nf6

 これは …Ng4 で白のクイーン翼ビショップに嫌がらせをする準備で、白はそれを防ぐ。

5.f3

 これはeポーンをさらに守る手にもなっている。それに加えて白はもくろんでいる攻撃を g4 突きで強化する用意もしている。この局面はキング翼インディアン防御のゼーミッシュ戦法と比較することができる。その戦法でも白は黒のキャッスリングしたキングに対して殲滅の強襲をたくらんでいた。

5…O-O?

 ここでは本譜にわざと劣った手を選ぶことにした。この手は、中央でまたは相手キングに対して反撃できないならば攻撃されるところにキャッスリングしてはいけないという重要な原則を逆なでするようなことをしている。ここでは黒にそのような反撃が見当たらず、そのため黒は自分の過失に手ひどい罰を受けることになる。黒は代わりに 5…c6 と突いて …b5 と突く反撃を用意すべきだった。

6.Qd2

 この手は Bh6 で黒の防御に役立っているビショップと交換する準備である。

6…c6

 黒も白キングに対するポーン突きを準備しているが、いかんせん遅すぎる。ここでは駒を展開した方がもっと防御に役立っただろう。例えば 6…Nc6 のあと …e5 と突くことになれば中央に影響を及ぼすことができる。

7.O-O-O b5 8.Bh6

 これは作戦どおりである。h列をこじ開ける h4-h5 突きとあいまって、この手はフィアンケットしたビショップによって守られているキャッスリングしたキングを襲撃する典型的な手段である。

8…b4 9.Nce2 a5 10.h4!

 ここでは黒の態勢はたぶん絶望的である。白の自動的な詰みへの攻撃に受ける手段がない。このような攻撃の技法を習得すれば誰にとってもクラブや大会で得点をあげる原動力となる。

10…Qc7 11.h5!

 このポーン突きは無理で白はまず g4 と突いておかなければならないように思われる。しかし実はそうではない。11…Nxh5 と取ってくればルークを犠牲に 12.Rxh5! gxh5 13.Qg5 で詰ませてしまう。

11…e5

 黒は中央で反撃を狙ってきたがしょせん遅すぎた。

12.Bxg7

 防御の一角を崩した。

12…Kxg7 13.hxg6 fxg6

 13…hxg6 は 14.Qh6+ Kg8 15.Qh8# で終わってしまう。

14.Qh6+ Kg8

 こう逃げるしかない。14…Kf7 は 15.Qxh7+ Nxh7 16.Rxh7+ Ke8 17.Rxc7 でたちまち白の勝ちになる。この狙い筋は本譜にも現れる。

15.dxe5

 クイーン翼ルークのためにd列を開けた。

15…dxe5 16.Nf4!!

 白は鮮やかな手でキング翼ビショップの介入を宣言した。黒は Bc4+ を防ぐには 16…Ba6 しかないが、しかし狙い筋の 17.Qxf8+! Kxf8 18.Ne6+ で完全に殺戮される。

16…exf4 17.Bc4+ Rf7

 17…Nd5 なら 18.exd5、17…Kh8 なら 18.Qxf8+ でやはり望みがない。

18.Bxf7+ Kxf7

 18…Qxf7 には 19.Rd8+ がある。

19.Qxh7+(図129)

 図129(黒番)

 19…Nxh7 と取るしかないが 20.Rxh7+ Ke8 21.Rxc7 となって、白が交換得のうえにポーン得で圧倒的な態勢になる。本局は1969年にドレスデンで開催された世界学生選手権戦のマラチ対ビョルンソン戦である。

(この章続く)

2011年10月03日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[82]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

オーストリア攻撃

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3(図130)

 図130(黒番)

 これはこの局面で断然多く指される手である。白は駒を展開して、攻撃的な f4 突きで堂々たるポーン中原を築く選択肢を残している。

3…d6 4.f4 Nf6

 白の中央での活動の脅威を見てとった黒はできるだけ早くキャッスリングする意図でキング翼ナイトを展開した。

5.Nf3

 これはオーストリア攻撃における白の典型的な展開である。白は中央の最も攻撃的な地点に駒を集中させている。

5…O-O 6.Bd3

 6.Bc4 の方が的を射ているように見えるが、6…Nxe4 から …d5 の両取りトリックにはまる。

6…Nc6

 黒の戦略は白の広大なポーン中原を侵食することである。だからこのcポーンを邪魔する手は棋理に反するように思われるかもしれない。しかしすぐに 6…c5 と突くのは 7.dxc5! dxc5 8.e5 で失敗に終る。白が中原に強力なくさびを打ち込み、黒のcポーンは何もすることがなくてかなり無用に見える。6…Nc6 は白のdポーンに圧力をかけるもっと巧妙な手段である。黒の作戦は …Bg4 から …e5 突きで先手を取って展開を完了することである。

7.e5

 黒のキング翼ビショップの対角斜筋を遮断するために白の中原が進撃を始めた。

7…dxe5 8.fxe5

 最も積極的な 8.dxe5 は 8…Nd5 9.Nxd5 Qxd5 となって互角の形勢にしかならない。この局面は表面的には 6…c5 と突いたあとの局面に似ているかもしれないが、この場合黒は役に立たないポーンがc5にある代わりに駒を有効に展開(Nc6)していてこの違いが黒の有利に働いている。

8…Nh5!

 もちろんこれはナイトを盤の端に置く手である。しかしここは別の最優先される代償の要因があるために規則を破らなければならない状況の一つである。ナイトの他の動きはすべてこれより劣っている。大事なことは、黒は …f6 突きで白の中原を侵食したいので、白の中央のポーンへの圧力を強めるためにg4の地点をクイーン翼ビショップのために空けておくべきであるということである。だから 8…Ng4 は劣った手で、8…Ne8 もそうで黒自身の駒の動きを邪魔するだけである。最後に 8…Nd5 は 8…Nh5! なら白のdポーン当たりになる攻撃を自分で妨げてしまう。

9.Be3

 白は駒を展開してポーンを守った。

9…Bg4

 また白のdポーンを狙っている。

10.Be4

 これでクイーンがdポーンを守っている。それに圧力が強くなって耐えられなくなれば白は Bxc6 で敵の攻撃駒を消すことができる。

10…f6

 これは白の突出した中原に対する主眼のポーン突きである。黒からの圧力が頂点に達しているので白は交換に応じなければならない。

11.exf6 Nxf6!

 黒は盤央にナイトを引き戻し、12…Nxe4 13.Nxe4 Bxf3 から …Nxd4 の狙いで白のビショップへの当たりが先手になっている。

12.Bxc6 bxc6 13.O-O(図131)

 図131(黒番)

 白は手遅れになる前にキャッスリングしなければならない。この局面で黒のポーンはばらばら(白の2ポーン島に対し黒は4ポーン島)だが、黒には駒のための多くの素通しの筋、展開の良さ、それに双ビショップがある。特にこれからの指し手の可能性を考えれば形勢は互角と判定しなければならない。

13…Nd5 14.Nxd5

 他に指しようがない。

14…cxd5 15.h3 Bxf3 16.Rxf3 Rxf3 17.Qxf3 Qd6

 そして黒はこのあと …e5 と突いて弱点をすべて解消する。17…Qd6 のあとはどちらも優勢を主張することはできない。

(この章続く)

2011年10月10日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[83]

dポーン布局と側面布局

第13章 現代防御(続き)

擬似キング翼インディアン戦法

1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.c4(図132)

 図132(黒番)

 既に見たように白は3手目でナイトを展開するのが普通である。しかし本譜の手も珍しい手ではなく、黒にキング翼インディアン防御に移行するよう誘っている。しかし黒はキング翼ナイトの展開を拒否し、代わりにキング翼ビショップとクイーン翼ナイトとによって白のdポーンに対する圧力を強めることにより、現代防御の輪郭を保つことができる。

3…d6 4.Nc3

 ここではクイーン翼ナイトを展開するのが最善である。4.Nf3 は …Bg4 とかかられて、白のdポーンに対する圧力が強まってくる。

4…Nc6

 このナイトの展開で白のdポーンが当たりになっている。これは上述した黒の作戦行動の概要と密接に関連している。4…Nf6 はキング翼インディアン防御に直接移行することになる。それでも本譜で黒が直面することになる困難を考えれば、これが推奨する針路である。

5.d5

 ナイトを当たりにするのは自然な反応である。もっとも 5.Be3 もまったく当然の手である。

5…Nd4

 ぶざまな退却の 5…Nb8 はほとんど考慮に値しない。黒は本譜の手で目標を達成し白のd4の地点を駒で占拠した(「相手の手に乗る」ことはしばしば良い指針になる)。しかしこのナイトを前進基地に維持することはひどく困難な戦いになる。

6.Be3

 ナイトへの攻撃に出た。

6…c5

 6…e5 のようにキング翼ビショップの利きを止めることなしにナイトを支えた。

7.Nge2

 白はナイト同士を交換することを希望している。7…Nxe2 8.Bxe2 となれば白駒(キング翼ビショップ)を展開させてやるために黒が3手損(…Nc6 – d4 x e2)したことになる。白は 7.dxc6e.p. Nxc6 と指すこともできたが、黒はそれ以上問題を抱えることなく展開を完了できただろう。

7…Qb6

 この場合はクイーンを早く展開させる必要がある。さもないと黒はナイトを支えることができなくなる。

8.Qd2

 白の作戦は Rd1 でナイトに対する圧力を一段と強めることである。

8…Bg4

 黒はナイトを脅かしている駒の一つを当たりにした。8…e5 突きによってナイトを支えようとしても次のようにひどい失敗に終わる。9.dxe6e.p. fxe6 10.Rd1 e5 11.Nd5 Qd8 12.Nxd4 cxd4 13.Bg5 これで白は駒がよく働いているが、黒はd4の地点に駒がいる代わりに「死点」ができてしまっている。

9.f3!(図133)

 図133(黒番)

 1973/74年ヘースティングズでのティマン対サトルズ戦はここから次のように進んだ。

9…Bxf3 10.Na4 Qa6 11.Nxd4 cxd4 12.Bxd4 Bxd4 13.Qxd4 Nf6 14.c5!! Qa5+ 15.Nc3 dxc5 16.Qe5 Bg4 17.d6

 以下は白が一本道で勝った。上図で黒の唯一のチャンスは 9…Bd7 だっただろう。しかし 10.Rd1 が黒の戦略を打ち破る手で、強制的にd4のナイトを交換させる。

(この章終わり)

2011年10月17日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[84]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4

 これまでの章では白が先着の利を用いて 1.e4 または 1.d4 でポーン中原の構築を始めるのを目撃してきた。実際これらの自然で直接的で攻撃的な手はすべての棋力で最もよく指される手である。

 しかしこのやり方に代わって非常に巧妙で間接的な布局が存在することも事実である。これらのシステムでは白はポーンで中原の占拠にまっすぐ突き進むことはしない。それよりも側面から通常は片方のまたは両方のビショップをフィアンケットすることにより中原を監視している。さらには中原のポーン突きを控えることによって、ついには中央一帯をこの遅延によりはるかに強力に征服することを期待している。これらのシステムでは黒はポーンで中原を占拠するよう明白に誘われている。そして白は側面のポーン(特にbポーンとcポーン)をてことして用いて黒のポーンを盤の中央からそらそうとする。

 白が側面布局を用いるとき中原を無視していないことは見れば分かる。そのあたりへの注意を隠しているだけである。最後には側面から中原をにらむビショップによって支援された中原の多数派ポーンを形成することを望んでいる。可動多数派中原ポーンの望ましさに関する「第2章 ポーンの重要性」での解説と比べてみて欲しい。

 側面布局における白の戦略はキング翼インディアン防御と現代防御で黒によって用いられた戦略といくらか似ていることに気づくだろう。そしてこれらの3章を一緒に詳細に調べれば、この種の布局の白と黒の立場からの読者の理解が深まることは確かである。

 次に示すのは側面布局の先駆者の一人であるリカルド・レーティの指した試合の序盤の手である。その試合ではポーン突きを遅らせる白の戦略は完全に成功を収めた(レーティ対ルビンシュテインイン、カールスバート、1923年)。1.Nf3 d5 2.g3 これは黒の古典的直接法とは対照的な白の超現代「間接法」である。2…Nf6 3.Bg2 g6 4.c4 d4 5.d3 Bg7 6.b4 ゴロンベクはレーティについての自著で次にように書いている。「黒のdポーンはc5のポーンによる自然な支援を奪われ、ついには交換される。そのとき白は遅れたがゆえになおさら強力な力で中原を征服する。」6…O-O 7.Nbd2 c5 8.Nb3 cxb4 9.Bb2 急ぐことはない!黒のdポーンはいつかは必ず白の手中に落ちる。9…Nc6 10.Nbxd4 Nxd4 11.Bxd4 b6 12.a3 Bb7 13.Bb2 bxa3 14.Rxa3 Qc7 15.Qa1 Ne8 16.Bxg7 黒キングのそばの守り駒の一つが交換された。16…Nxg7 17.O-O Ne6 18.Rb1 Bc6 19.d4(図134)

 図134(黒番)

 白は中原で黒が手を出せない多数派ポーンを達成した。中原を雪崩のように前進させることにより黒陣を粉砕したあと白が50手目で勝った。

 側面布局はあまりにたくさんあるので余すところなく分析することはできない。ここでは次の4点に分析を限ることにする。

 1.b3 – ニムゾビッチ/ラルセン攻撃

 1.Nf3 から c4 – カタロニア/レーティ・システム

 1.Nf3 から g3 および d3 – キング翼インディアン攻撃

 1.c4 – イギリス布局

 1.Nf3 と 1.c4 の重要な利点はお互い相手に移行できるということである。だからニムゾインディアン防御の専門家にその得意の防御を指させずにクイーン翼ギャンビットを指したいならば、1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3! と指してみるとよい。3…Bb4 とかかってきても 4.d4 と指す必要はなく、3…d5 と指してくれば落ち着いて 4.d4 と指すことができる。

(この章続く)

2011年10月24日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

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チェス布局の指し方[85]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

ニムゾビッチ=ラルセン攻撃

1.b3(図135)

 図135(黒番)

 この手はチェスの偉大な著述家でマスターのアーロン・ニムゾビッチによって散発的に用いられた。そして現代の大会で最も好成績を収めている選手の一人のベント・ラルセンが採用したことにより急激に人気が出た。

1…e5

 これが試練の応手である。この手のあと白は相手が …d5 突きで広大なポーン中原を形成するのを防ぐのが非常に困難になる。1…d5 なら 2.Bb2 で 2…e5 突きを防げる。

2.Bb2

 白は黒のeポーン当たりの先手でクイーン翼ビショップを展開した。実際黒の挑発的なeポーンに対する襲撃は白の将来の戦略における多くの主題の一つとなっている。

2…Nc6

 駒を展開することによりポーンを守るこの手が最善である。2…e4 で白のクイーン翼ビショップの利きからポーンをはずすのはつまらない。白のクイーン翼ビショップの利きへの妨害がなくなり、e4のポーンが攻撃にさらされることになる(例えば d3 や Nc3)。

3.c4

 これは黒に …d5 と突くのを思いとどまらせる手段の一つである。

3…Nf6

 黒はナイトで取り返せるのでまた …d5 突きを狙っている。

4.Nf3

 白はまだ …d5 突きを抑えると共に黒のeポーンを当たりにしている。しかしこれは黒の次の手で展開に後れをとるので非常に危険な手である。

4…e4!

 この手はここでは白のナイト当たりになっているので好手になっている。

5.Nd4

 5.Nh4 はナイトが盤端で孤立してしまう。

5…Bc5

 ビショップが展開してきたが、白は黒に二重ポーンを作らせることができる。

6.Nxc6 dxc6!!

 黒はいつ原則に背いたらよいかを知っている。黒はまず二重ポーンを誘い、そして中央から遠ざかる方に取り返した。通常はこういうやり方はばかげている。しかしここでは次のように黒に十分な代償がある。(a)自分の駒のための素通し列。(b)展開ではるかに優っている。(c)白の出遅れdポーンに対する圧力。6…bxc6 と取り …d5 と突いて中央を強化する方が普通に思われる。しかし黒は最も重要なことはクイーン翼ビショップを最高速度で出すことであることを見通している。

7.e3 Bf5 8.Qc2 Qe7 9.Be2 O-O-O(図136)

 図136(白番)

 これで白は決してdポーン突きによって自陣を解放することができなくなって黒が優位に立っている。この局面は1970年の全世界対ソ連対抗戦の第2回戦第1席の試合に現れた。ラルセンが白を持ちスパスキーが黒だった。試合は次のように続いた。

10.f4?

 この手は自分のキングの周りのポーン形を弱めた。まだキャッスリングしていないか既にキング翼にキャッスリングしている場合は自分のfポーン、gポーンまたはhポーンを2枡進めるのは非常に気をつけなければならない。10.Nc3! と展開する手が必須だった。

10…Ng4

 黒はクイーンがh4の地点に行く斜筋を開けるためにすぐにこの弱点につけ込んだ。

11.g3

 白は黒クイーンによるチェックを防いだ。

11…h5

 これはg3のポーンを強襲するいつもの手段である。ここでは防御に役立つg2の白ビショップがないので特に効果的になっている。

12.h3 h4!

 黒は2駒を犠牲にする華麗な攻撃を始めた。しかしそれが成功するのは白キングが中央に立ち往生しクイーン翼の駒が展開していないからである。

13.hxg4 hxg3 14.Rg1

 14.Rxh8 Rxh8 15.Kf1 Qh4 は明らかに白に望みがない。

14…Rh1!!

 これは天才の手である。どんな一般原則もこのような手を見つける方法を教えることはできない。この手は見えなければならない!しかし一般原則は強力な陣形を築く方法を教えることはできる。そして目の覚めるような捨て駒で勝ち試合を勝ちきるための手筋が見えるようになるのは才能と経験である。本局は終わりも素晴しかった。

15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 0-1

 途中白が 16.Rg1 と指したら黒は 16…Qh4+ 17.Kd1 Qh1 18.Qc3 Qxg1+ 19.Kc2 Qf2 20.gxf5 g1=Q で勝つ。

(この章続く)

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カテゴリ: チェス布局の指し方

チェス布局の指し方[86]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

カタロニア布局

1.Nf3 d5(図137)

 図137(白番)

 白の初手のあと黒がポーンで中原を占拠するのは自然な応手である。1…e5 は 2.Nxe5 で駄目なので 1…d5 が次の最善手になる。

2.c4

 この手は黒のdポーンを当たりにして、中央の位置からそらすことに期待をかけている。2…dxc4 3.e3 のあと白は(Bxc4 から d4 で)クイーン翼ギャンビット受諾の有利な型に移行できる。

2…e6

 黒は中央で地歩を譲ることを断固拒否した。

3.g3

 白はもう2、3手後に d4 と突いて一種のクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御にするつもりである。ただしキング翼ビショップはg2に展開させる。白の期待はg2のビショップが黒のdポーンに対する圧力を増すのに役立つことである。

3…Nf6

 3…dxc4 なら 4.Qa4+ から Qxc4 で白クイーンが素通しc列の好所に位置することになる。黒は自陣の要衝であるdポーンの防御に集中する方を選んだ。これで黒の駒はすべてこの地点と何らかの接点を持つように展開される。布局はこの地点の支配をめぐる熾烈な戦いになってきた。

4.Bg2 Be7

 ここでのよくある間違いは 4…Bc5 である。ここはビショップにとって好所に見えるが、実際は次の二つの理由により大きな誤りである。

 (a)このビショップはここにいると、前進して自陣を解放すべきcポーンの邪魔になる。

 (b)白はすぐに d4 と突いてビショップを当たりにして先手で展開できる。

5.O-O O-O 6.d4

 これでクイーン翼ギャンビットの局面になった。もし黒が方針を曲げて 6…dxc4 で中原の支配を放棄すれば、白は 7.Ne5 か 7.Qc2 でポーンを取り返す。あとの 7.Qc2 の場合 7…b5 は 8.a4 c6 9.axb5 cxb5 10.Ng5! でルークが落ちるので無理である。この罠にはまらないように注意しなければならない。

6…Nbd7 7.Qc2 b6

 黒のクイーン翼ビショップが通常の道筋で展開できないので、黒はb7の地点に出そうとしている。b7のビショップは黒のd5の地点にも利いている。

8.cxd5

 白クイーンのためにc列を素通しにした。

8…Nxd5!

 8…exd5 には欠点がいくつかある。

 (a)黒ビショップのa8-h1の斜筋を恒久的に閉ざす。

 (b)9.Bf4 でも 9.Ne5 でも白が主導権を握る。

 (c)最悪なのは 8…exd5 のあと白が 9.Qc6! でc6の空所につけ込んで例えば 9…Rb8 10.Bf4! で黒を困らせることができることである。本譜の 8…Nxd5 のあとの 9.Qc6 Rb8 10.Bf4 はもう狙いになっていないので黒は …Nb4 または …Bb7 で白クイーンを追い払う余裕がある。本譜の手のあと白は中央のポーンの数で優っているが、黒はよく展開ができていて互角の形勢になる可能性がある。

9.Nc3 Bb7

 もちろん 9…Nxc3 は 10.bxc3 で白の中央を強化させるので駄目である。

10.Nxd5

 これは黒のクイーン翼ビショップを当たりにすることにより中央でのポーン突きが先手になるようにするためである。なぜなら黒が 10…exd5 と取るのはやはりクイーン翼ビショップの斜筋をふさぐからである。

10…Bxd5 11.e4 Bb7 12.Bf4(図138)

 図138(黒番)

 白はcポーンを当たりにすることにより先手で駒を展開した。布局の段階が終了し白がやや有利である。本譜の手順は1971年マドリードでの西ヨーロッパ団体戦イングランド対オーストリア戦での主将戦のキーン対ロバーチュ戦をなぞっている。

12…c5

 黒は白がルークを中央列のd1とe1に配置する前に白の中原に挑む必要がある。

13.d5 exd5 14.exd5 Bf6

 黒は 14…Bxd5 とは取れない。なぜなら 15.Rad1 Nf6 16.Ng5 で Rxd5 の狙いがあり、16…g6 と守ると 17.Be5 で白の戦力得になるからである。途中 15…Bc6 は 16.Ng5 Bxg5 17.Bxc6 でやはり白が優勢になる。これらのことにより白が中原で強力なポーンを維持することができる。

15.h4

 白は Ng5 による黒キングへの攻撃を支援した。この手に対して 15…Bxd5 は 16.Rad1 でやはり白が良い。

15…Re8 16.Ng5 Nf8 17.Rad1 Bd4

 黒はパスポーンへの白の支援を断ち切った。

18.Be3! h6

 18…Bxe3 は 19.fxe3 でf7の地点に白ルークの利きが通る。

19.Ne4

 ナイトが中央の好所に陣取った。

19…Bxe3 20.fxe3 Ng6

 黒のナイトもe5の地点を目指している。そこからは決してどかされることがない。そうなれば白の強力なパスdポーンの十分な代償になる。しかしそうなることはない。まず 20…Qe7 と指すことが肝要だった。ここで白には一撃の機会がある。それは黒が既に 18…h6 突きで弱体化させた黒キングの囲いを破壊するものである。

21.Rxf7!! Kxf7 22.Rf1+ Ke7

 22…Kg8 なら 23.Nf6+! gxf6 24.Qxg6+ Kh8 25.Qxh6+ Kg8 26.Rxf6 で白の勝ちになる。

23.d6+

 パスポーンが存在感を発揮し始めた。

23…Kd7 24.Rf7+ Ne7

 24…Kc8 なら 25.Rc7+ Kb8 26.Rxb7+ Kxb7 27.Nxc5+ で白が勝つ。

25.Qa4+ Kc8

 25…Bc6 は 26.Bh3# の一手詰みである。

26.d7+!

 パスポーンが最後の一撃を見舞った。

26…Qxd7 27.Bh3 1-0

 27…Qxh3 と取っても 28.Qxe8+ ですぐに詰む。

(この章続く)

チェス布局の指し方[87]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

キング翼インディアン攻撃

1.Nf3

 これはカタロニア布局と同じ初手だが、キング翼インディアン攻撃では白は c4 と突かずに d3 から e4 と突いていく作戦をとる。

1…d5 2.g3 Nf6 3.Bg2 c5

 黒は従来のやり方で中央をポーンで占拠した。

4.O-O Nc6 5.d3(図139)

 図139(黒番)

 白はキング翼インディアン攻撃の陣形を宣言した。白の布局の手は非常に融通性があり、ここで 5.c4 または 5.d4 と突いて黒のポーン中原にすぐに圧力をかけていくこともできた。

5…e6

 黒は黒番での反カタロニア指法のようにdポーンを安泰にした。

6.Nbd2

 この手はe4のポーンを支えるためである。6.Nc3 でもそうすることができるが、黒は必要なときに …dxe4 と取ってクイーン交換に持ち込むことができる。白は攻撃のためには盤上にクイーンを残しておく必要がある。

6…Be7

 ここはビショップにとって最良の地点である。6…Bd6 は白が e4 と突いたあと両当たりの危険にさらされる。

7.e4 O-O 8.Re1 b5

 これで駒組みが整った。白は e5 突きの手段で黒のキング翼ナイトを追い払ってから h4-h5-h6 と突いていくことにより攻撃を図る。黒は白のこの戦略を白のクイーン翼めがけて自分のポーンを突いていくことにより迎撃する。

9.e5 Ne8

 もちろん 9…Nd7 と引くこともできる。

10.Nf1

 この手は少し奇異な手に見えるがしっかりした根拠がある。白には Nf1-e3-g4 または Nf1-h2-g4 という二つの着想がある。白のクイーン翼ナイトはg4の地点でhポーンの進攻を助け、黒キングに対する攻撃全般に役立つ。

10…a5 11.h4 a4 12.Bf4

 e5の急所を押さえ込んでいるポーンに利いている白駒の数に注意されたい。これは白駒の連携の証である。キング翼がばらければ非常に大きい意味を持つようになる。

12…a3

 このポーン突きで白のクイーン翼のポーン陣形に黒枡の空所が作り出された。白は bxa3 と取ると孤立aポーンがむき出しになるので明らかにそう指せない。

13.b3 Bb7(図140)

 図140(白番)

 両者ともできる限り最も効率的な方法で攻撃を実行してきた。この分かりにくい側面布局によくあるように、この局面は客観的に言ってどちら側にも有利でない。この段階で白と黒のどちらを持ちたいかは純粋に好みの問題である。例えば著名なドイツのグランドマスターのウールマンはこのよくある局面で黒が有望であると強く主張している。一方ルーマニアのグランドマスターのゲオルギュはまったく反対の立場をとっている。

 たぶん次の理由により白の攻撃の方がもっと危険であるとみなすべきだろう。白がhポーンを突けるところまで突いたあと、Bg5 で黒のキング翼ビショップを強制的になくすことができる。そうすれば白のナイトは重要な黒枡のg5とf6を占拠できる。それらのナイトはそこから黒キングをいじめることができる。黒の反対翼での襲撃は危険ではあっても白キングに対する襲撃ほどではない。

(この章続く)

2011年11月14日 | コメントは受け付けていません。 | トラックバックURL |

カテゴリ: チェス布局の指し方

チェス布局の指し方[88]

dポーン布局と側面布局

第14章 側面布局 1.b3、1.Nf3、1.c4(続き)

イギリス布局

1.c4 c5(図141)

 図141(白番)

 イギリス布局の 1.c4 はd5の地点を側面から叩いている。白はあとからこの地点を駒で支配し席巻することを望んでいる。側面布局を扱ったこれまでの節では白の間接的な横からの圧力に黒が中原に連鎖ポーンを構築して断固対抗する戦型を見てきた。この節では黒の異なった型の応手を分析する。即ち白の手の真似である。代わりに 1…e5 も非常にありふれていて逆シチリアの型の局面になる。

2.Nc3

 白はd5への圧力を増した。

2…Nc6

 一方黒は白のd4の地点を同じやり方で扱った。

3.g3

 白のキング翼ビショップもd5の地点をにらむように展開される。d5の要所をめぐるこの指し方は白の布局の捌きの最も大事な目的と主題になっている。この目的が達成されれば中盤戦の作戦は、白駒の定められた戦略配置からまるでひとりでのように自然に生じてくる。

3…g6 4.Bg2 Bg7 5.Nf3

 キング翼ナイトのf3への自然な展開は、Nge2 を意図するもっとおとなしい 5.e3 よりも優っている。その場合黒は単に白の手をまねすることにより完全な互角を達成できる。例えば 5.e3 e6 6.Nge2 Nge7 7.O-O O-O 8.d4 cxd4 9.Nxd4 Nxd4 10.exd4 d5 11.cxd5 Nxd5 12.Nxd5 exd5 で引き分け模様の局面になる。

5…Nf6 6.O-O O-O 7.d4!

 この中原でのポーン突きにより白はいくらか優勢が約束される。なぜなら白クイーンもd5の地点と接触するからである。さらに 7.d4 突きは白が展開を完了するための筋を開けている。ビショップをすべて対角斜筋に展開する意図のもっとゆっくりした 7.b3 突きはここでは次のように悪手である。7…Ne4! 8.Bb2 Nxc3 9.Bxc3 Bxc3 10.dxc3 これで白は目に見える代償もなく二重ポーンを作らされている。

7…cxd4

 これ以上まねを続けるのは危険である。7…d5 8.dxc5 dxc4 9.Qa4 となって黒のcポーンが困った事態に陥る。例えば 9…Be6 なら 10.Ng5! でe6のビショップがよくある手段でいじめられる。黒が Nxe6 を許せば双ビショップをなくしポーンの形が乱れる。一方このビショップがe6の地点から立ち退けばcポーンが落ちる。

8.Nxd4

 これで黒は展開の完了に問題を抱えることになる。というのは 8…d6 9.Nxc6 bxc6 10.Bxc6 で白にポーンをただでくれてやることになるからである。そこで黒は次のように指さなければならない。

8…Nxd4 9.Qxd4 d6

 この手はクイーン翼ビショップを展開するためである。

10.Bg5(図142)

 図142(黒番)

 ここまでの手順は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキー戦第8局で指された。展開の自由さとd5の地点の強固な支配で白(フィッシャー)が少し有利である。以下の進行例は要所の支配という抽象的な優勢がもっと現実的で具体的なものを得るのにどのように活用できるかを示している。

10…Be6

 これはスパスキーの指した手だが、すぐに …h6 と突いて白のクイーン翼ビショップを追う方がもっと理にかなっていた。

11.Qf4

 黒は 11…Nd5 でキング翼ビショップの利き筋を通して白クイーンに当て、そのあと …Nxc3 で白にとても弱い二重ポーンを作らせることを狙っていた。

11…Qa5 12.Rac1 Rab8 13.b3 Rfc8 14.Qd2 a6 15.Be3 Rc7

 スパスキーは 15…b5 と突き 16.Ba7! で交換損になった。

16.Nd5!

 Qxa5 の狙いがある。

16…Qxd2 17.Bxd2 Nxd5 18.cxd5 Rxc1

 黒はルークが当たりになっているので先にクイーン翼ビショップを動かすことはできない。

19.Rxc1 Bd7 20.Rc7

 局面は白が優勢である。

(完)