チェスの玉手箱

「ヒカルのチェス」(472)

「Chess」2017年2月号(4/4)

******************************

次の一手

中級向け

第15問 H.ナカムラ – V.クラムニク
ロンドン・チェスクラシック、2016年
 黒番で引き分け

解答 1…Nf7!(1…Ke8? は 2.Ke5 Nb7 3.f6 Kf8 4.Kf5 Ke8 5.e7 Kf7 6.Ke5 で黒がどうしようもない手詰まりになり失敗)2.Kg6(白は黒をステイルメイトにするしかない。2.e7+ は 2…Ke8 3.Ke6 Nh6 のあと 4.f6 Nf7 でせき止められるか 4.Kd6 Nxf5+ 5.Kxc6 Nxd4+ で全面的な清算になる)2…Nd8 3.Kf6 Nf7! 4.exf7 ½ – ½

*****************************

(この号終わり)

2017年04月28日 コメント(0)

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(238)

「Chess Life」1999年4月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49]

 黒番では意欲的に指したくないなら相手の指す手をただまねしてみてはどうか。閉鎖的な布局では急戦よりもゆっくりした駒組みが普通なので魅力的な作戦になることがよくある。しかしこのやり方は 1.e4 に対しては実行が難しい。

 そもそも黒は対称になるように 1…e5 と応じなければならない。さらにその後は比較的開放的な局面になるので白は速攻する機会に恵まれる。これは黒が「自分のこと」をすれば良いというのでなく白の狙いをたえず警戒しなければならないということを意味する。過去100年以上の間黒が比較的長い間白のまねをすることができたまともな布局が一つだけあった。それが4ナイト試合である。本稿では次の手順を用いて最新の定跡の進展を紹介する。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6

 両者とも周知の「ビショップよりナイトを先に」という原則に従っていて、ナイトを最もよく働く地点に置いた。定跡および実戦におけるこの局面の重要性は、ぺトロフ防御(2…Nf6)がしばしば現れることによって高まっている。白が主手順(3.Nxe5 と 3.d4)を避けて 3.Nc3 と指した時黒は対称形の 3…Nc6 と指すしかない。

4.Bb5

 本譜の手で4ナイト試合が確定する。この布局は「慎重派のルイロペス」ともみなすことができる。白のeポーンを 3.Nc3 と守ってから初めて白枡ビショップをb5に出してe5の地点を間接的に攻撃した。これは白の圧力の強さがルイロペスよりも劣るということを意味するが、黒もある種の反撃の機会がなくなる。

 4ナイト試合の初期には黒の通常の応手は 4…Bb4 で、白が少しの優勢を保持した。しかし第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインの 4…Nd4 が白から4ナイト試合の楽しみのほとんどを奪い去った。一流選手たちは白枡ビショップをa4やc4に引くのは好結果をもたらすことができないと即断した。だから白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 と指すよりなく、ほとんど互角になった。

******************************

2017年04月26日 コメント(0)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(471)

「Chess」2017年2月号(3/4)

******************************

ロンドン・チェスクラシック(続き)

 初戦に続き第6回戦の負けはナカムラにとって二度目の打撃だったに違いないが、立ち直りも早く翌日には同じ戦型で雪辱した。

H.ナカムラ – M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 Bb7

 バシエ=ラグラーブは自分もナカムラもこれまで得意としていた 13…g5?! を避けた。

14.Bg2

 盤上でも通信戦でも色々な手が試されてきた。しかしこの手以外で白が対角斜筋を争うことができるとは信じがたい。

14…Rc8

 誰が黒かを考えればこの手は研究手に違いない。しかしほかの作戦も探求されてきた。

 a)2013ロードスでの欧州クラブ杯のアゴポフ対パリサー戦で私は 14…g5!? と指し、15.f5(15.h4!? は2012年フランス団体選手権戦のナイディッチュ対グリイェフ戦で指されたが、15…gxf4 16.g5 Ne5 17.Qxf4 Nh5 18.Qd2 と進み、ここで黒が 18…Nc4 からナイトを働かせたら優勢だっただろう)15…e5 16.Nb3 Rc8 17.Qe2 h5! 18.h3 Nb6 となり好調だった。

 b)14…d5!? はナイドルフ戦法の狙い筋で、アゴポフ戦の解説で書いたように時間を使って読んだ。ナカムラが指させようとしたのにラグラーブが避けたのは白の研究を警戒したのだろう。しかし2013年通信戦でのシュプレーマン対ロシェ戦では 15.e5(15.exd5 Nxd5 16.Nf5 が必殺のように見えるが実際は 16…Rc8! 17.Nxe7 Kxe7 で黒は大して悪くない)15…Ne4 16.Nxe4 dxe4 17.Qe2 Nc5 18.Kb1 Na4! 19.Be1(19.Bxe4? には 19…Bxa3!)19…O-O 20.h4 Rfd8 で黒がクイーン翼で白に対抗できた。

15.Kb1

 15.h4!? には 15…e5! と突かれ 16.Nf5?! に 16…Bxe4! と来られる。しかし本譜はキングが少し安全になったので今度こそhポーン突きがある。

15…g5

 急所の反発で、2手前よりもはるかに良いタイミングと思われる。

16.Qh3!?

 2016年テプリツェでのカンマザルプ対ソロドブニチェンコ戦では 16.f5? e5 17.Nb3 Nxe4! 18.Nxe4 Qxc2+ 19.Ka2 Bxe4 20.Qxe4 Qxf2 21.Rhf1 Qb6 となって白は2ポーンの代償が十分でなかった。一方 16.h4 はほとんど通信戦の世界でだけ試されてきた。本筋と思われるのは 16…Rg8(16…gxf4 17.g5 Ne5 18.Qxf4 Nfd7 19.Bf3 は盤面を支配している白が少なくとも少し優勢のはずである)17.hxg5(17.fxg5 Ne5 18.Qf4 hxg5 19.hxg5 Nfxg4 20.Bh4 Qd8 21.Nf3 Qb6 22.Nxe5 Nxe5 23.Bf2!? も指されていて、gポーンをくれてやって代わりに黒キングに対し長期に圧力をかける)17…hxg5 18.f5 e5 19.Nb3 で黒が戦術的にうまくいかなくなっていた。2014年通信戦でのモロゾフ対V.ポポフ戦は以下 19…Nxe4? 20.Nxe4 Qxc2+ 21.Ka2 Bxe4 22.Qxe4 Qxf2 23.Rc1 Rxc1 24.Qa8+ Bd8 25.Rxc1 Ke7 26.Rc8 と進み、白の大駒と白枡での攻撃が強力すぎる。しかし 19…a5! 20.Qe2 Bc6 がいくらか改良手順でこれまでのところ黒がだいぶ健闘している。

16…Nc5?

 これはバシエ=ラグラーブが愛用のナイドルフ戦法で研究負けした本大会2度目の不運な新手だった。

 16…Rg8? 17.e5! dxe5 18.fxe5 Nxe5 19.Bg3 Bxg2 20.Qxg2 は黒にとって非常に怖い(E.モスカレンコ対V.ポポフ、通信戦、2013年)。しかし退却気味の 16…Nh7! が通信戦で選ばれた手で、これまでのところ4局全部で引き分けになっている。黒は単にh列から圧力を抜き去り、17.f5(17.e5!? Bxg2 18.Qxg2 gxf4 19.exd6 Bxd6 20.Rhe1 Be5! は列を比較的閉鎖的なままにして黒にとって問題なさそうだし、17.Qxh6?! Bf6 18.Nxe6? fxe6 19.Qg6+ Kd8 20.Bd4 gxf4 は何も恐れるところがない)17…e5 18.Nb3 Nhf6 19.Rhe1 a5 は黒の反撃がちょうどいい時に始まる。

17.Rhe1

 この手はe4のポーンを守り、e4-e5 突きと Nf5 を準備し、17…gxf4 18.g5! Nfd7 19.g6 となることを期待している。

17…h5

18.Nf5!

 ナカムラはやらずにいられなかった。だが 18.fxg5!? Nxg4 19.Bg3 Ne5 20.Rf1 で白駒の陣容を良くする方がはるかに強力だったかもしれない。

18…Ncxe4

 明らかにこれが黒の当てにしていた手だった。黒が危機を脱するわけではないがほかに何があるだろうか。例えば 18…exf5 は 19.exf5 Bxg2(19…Nxg4 20.Bd4 f6 21.fxg5)20.Qxg2 gxf4 21.g5 Rg8 22.Bd4 Kd8 23.Bxc5 Qxc5 24.Qe2 となって、駒の見返りに白の主導権がとてつもなく大きくなり始める。

19.Bxe4 Nxe4 20.Bd4 Rg8 21.Nxe7

 急所の守り駒を取り払い黒の困難さを際立たせた。

21…Kxe7

 黒は 21…hxg4 22.Qxg4 Nxc3+ 23.Bxc3 Qxe7 といきたいところだが 24.Bb4! で具合が悪く 24…Rc6 には 25.h4 と来られる。

23.gxh5 gxf4 24.Qh4+ Kf8 25.Ka1 b4

25.Nxe4

 これでも十分だが 25.h6! の方がはるかに強烈だっただろう。25…bxc3 26.h7 e5 27.hxg8=Q+ Kxg8 28.Qh6 で黒キングの裸が命取りになる。

25…Bxe4 26.Rxe4 Qxc2 27.Ree1

 27.Rde1! bxa3(27…Rg2 28.Rxe6!)28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 なら完全に黒を粉砕していたというのがシリコンのご託宣である。しかしやはりナカムラが全部台無しにしたということではない。

27…bxa3

 27…Rg2 28.Qxf4 e5 という変化は白の駒得が最終的に物を言い 29.Qh6+ Kg8 30.Rc1 Qf5 31.Rxc8+ Qxc8 32.Rc1 Qd7 33.Bf2 bxa3 34.bxa3 となる。

28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 Rg5!

 バシエ=ラグラーブは手の見えるのが何よりも取り柄である。白がルークを取れば千日手になる。

30.Qxd6+! Kg8 31.Rg1 Qa4+ 32.Ba3

 32.Kb1!? Qc2+ 33.Ka2 Qa4+ 34.Qa3 Qxa3+ 35.Kxa3(白がクイーンをa3に引き戻す前にキングを移動させたのはこのためだった)が強手だった。

32…Rxg1?

 白を勝たせてしまった、それも格好良く。32…Kh7! 33.Rxg5 Rd8 ならまだ戦いが続いただろう。またしても黒クイーンはタブーで、代わりに 34.Rg7+! Kh6 35.Rd4 Qxd4+ 36.Qxd4 Rxd4 37.Rxf7 Kxh5 38.Bb2 なら白の勝勢のはずだが、技術的に難しい課題が少し残っていることも明らかである。

33.Rxg1+ Kh7 34.Qd3+ Kh6 35.Rg6+! Kxh5 36.Rg1 f5 37.Qf3+ 1-0

*****************************

(この号続く)

2017年04月21日 コメント(0)

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(237)

「Chess Life」1999年2月号(3/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

アリョーヒン防御 4…g6 戦法 [B04]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第13局、1972年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 この番勝負までフィッシャーはアリョーヒン防御を5回(1970年パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナルでの3回を含む)採用していたが、相手はいつも世界級の棋力よりずっと下だった。スパスキーにとってこの防御のために特に準備する特別な理由はなかった。

 4ポーン攻撃(4.c4 Nb6 5.f4)はアリョーヒン防御を「咎め」ようとする昔からの手法だったが、特段の成果がなかった。だから1972年当時はすでに本譜の手が現代式の手法になっていた。白は少し陣地が広いので指しやすくなり、黒にはこれといった反撃の糸口を与えない。

4…g6

 フィッシャーは既にこの二流の戦型をブラウン対フィッシャー戦(ロビニ/ザグレブ)で用いていて、大激戦の末98手で引き分けに持ち込んだ。本局でも意図した効果がいかんなく発揮された。スパスキーは対策を用意しておらず意表を突かれた。次のアリョーヒン防御(第19局)ではフィッシャーは通常の 4…Bg4 に戻った。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7 7.Nbd2?!

 黒の6手目の局面は1972年当時はそれほど分析されていなかった。それでも実戦のぎこちない手はスパスキーも気にいっていないはずだった。現代の布局定跡によると白の最も効果的な手法は、まず 7.a4 a5 と突き合ってから 8.Qe2 で作戦の用意をするか 8.Ng5 ですぐに作戦を始めるかである。

7…O-O 8.h3?!

 白の前手の唯一理にかなった点は、黒の …Bg4 に白が h2-h3 と突きf3で切ってきた時にナイトで取り返すことである。だから本譜の手は 7.Nbd2 の意図を否定している。通常の 8.O-O が適切だった。

8…a5! 9.a4?!

 黒はキング翼の展開を完了したあと、白のキング翼ビショップの位置につけ込もうとしてクイーン翼で動き出した。スパスキーの「手拍子」の応手でaポーンが弱点になった。代わりに 9.c3、9.a3 あるいはたぶん 9.Nc4 でもまだましだった。

9…dxe5 10.dxe5 Na6! 11.O-O Nc5 12.Qe2 Qe8

 この手に 13.Qb5? は 13…Qxb5 14.axb5 Bf5 から 15…a4 で受けにならないので、白はaポーンを取られるのを避けられない。

13.Ne4 Nbxa4 14.Bxa4 Nxa4 15.Re1 Nb6 16.Bd2 a4 17.Bg5 h6 18.Bh4

 白は完全に1ポーン損になっている。白の希望は黒陣に食い込んでいるeポーンのせいで中央が少し広い優位が将来のキング翼攻撃の根幹を成すことである。黒が断固とした指し方を続けていけば、白のチャンスはほんのわずかだと思う。18…Bd7 や 18…Be6 が良さそうである。残念ながら第7局のようにフィッシャーの指し方は真剣さが足りなかった。その結果としてこの番勝負の最長手数となり波乱万丈の内容となった。スパスキーが69手目でポカを出したので黒がようやく勝った。完全な解説は『チェス新報』第14巻第165局か数ある対局集のどれかを読んで欲しい。残りの指し手を解説記号付きで掲げる。

18…Bf5?! 19.g4!? Be6?! 20.Nd4 Bc4 21.Qd2 Qd7 22.Rad1 Rfe8 23.f4 Bd5 24.Nc5 Qc8 25.Qc3? e6 26.Kh2 Nd7 27.Nd3 c5 28.Nb5 Qc6 29.Nd6 Qxd6 30.exd6 Bxc3 31.bxc3 f6 32.g5 hxg5?! 33.fxg5 f5 34.Bg3 Kf7?! 35.Ne5+ Nxe5 36.Bxe5 b5 37.Rf1 Rh8?! 38.Bf6! a3 39.Rf4 a2 40.c4 Bxc4 41.d7 Bd5 42.Kg3 Ra3+ 43.c3 Rha8 44.Rh4 e5! 45.Rh7+ Ke6 46.Re7+ Kd6 47.Rxe5 Rxc3+ 48.Kf2 Rc2+ 49.Ke1 Kxd7 50.Rexd5+ Kc6 51.Rd6+ Kb7 52.Rd7+ Ka6 53.R7d2 Rxd2 54.Kxd2 b4 55.h4! Kb5 56.h5 c4 57.Ra1 gxh5 58.g6 h4 59.g7 h3 60.Be7! Rg8 61.Bf8 h2 62.Kc2 Kc6 63.Rd1! b3+ 64.Kc3 h1=Q! 65.Rxh1 Kd5 66.Kb2 f4 67.Rd1+ Ke4 68.Rc1 Kd3 69.Rd1+?? Ke2 70.Rc1 f3 71.Bc5 Rxg7 72.Rxc4 Rd7! 73.Re4+ Kf1 74.Bd4 f2 白投了

 結論 アリョーヒン防御の 4…g6 戦法は今でも通用する。

******************************

2017年04月19日 コメント(0)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(470)

「Chess」2017年2月号(2/4)

******************************

ロンドン・チェスクラシック(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第6回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6

 遅延毒入りポーン戦法は相変わらず 6.Bg5 の試金石となっている。b2を間接的に守るカルアナの応手は最高峰のレベルでは普通の選択である[訳注 9.a3 Qxb2?? 10.Na4]。

9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4

13…g5?!

 このような局面ではよくある着想で、白のキング翼のポーンの形を破壊しe5の地点の支配をもくろんでいる。しかしここでの黒陣には荷が重すぎたかもしれない。代わりの手は 13…Bb7 だが、次の回戦のナカムラ対バシエ=ラグラーブ戦で分かるようにそれでも黒にとってほとんど安泰とはいかない。

14.h4 gxf4 15.Be2 b4!?

 新手だが、互角にするのに十分というわけではない。代わりに 15…Rg8 は2016年スタバンゲルでのギリ対バシエ=ラグラーブ戦の手で、本誌2016年6月号の12ページに出ているように 16.g5! hxg5 17.hxg5 Rxg5 18.Rh8+ Rg8 19.Rxg8+ Nxg8 20.Qg2 Ngf6 21.e5! が 21…Bb7 22.Nxe6! の一発に基づいたきわめて危険な手だった。

16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5

 これが黒の読み筋だった。しかしカルアナは次の手をかなり速く指した。彼はあとで 21.Nf5 から先の局面は見えていたが、これまで見た黒の「最も惨めな局面」の一つなのであまり読んでいなかったと明かした。

19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5

 オーレ!チェスエンジンはこの手の強力さが分かるのにしばらく時間がかかるかもしれないが、クイーンの犠牲はこの上ない強手だった。白のナイトが盤の中央を支配し、黒キングはどこへ隠れるのだろうか。

21…Rb8?

 黒は白ナイトの一つを消しておかなければならなかった。21…Bxf5 22.Bxf5 Rb8 で黒は陣形が悪くてもまだまだ戦える。

22.Nxf6+ Qxf6 23.Rxd6

 悪い手ではないが白はここできれいな勝ちを逃していた。23.Nxd6+ Kf8 24.Bf5!! この軽妙手でf列が長く閉鎖されたままになるので、白がf列を支配し黒を完全に受け無しにする。例えば 24…Rg8(24…Bxf5 なら 25.Nxf5 Rd8 26.Rxd8+ Qxd8 27.Bc5+ Ke8 28.Ng7+ Kd7 29.Rd1+

と単純化して白勝ちの收局になる)25.Bc5 Be6 26.Rhf1 Kg7 27.Bxe6 Qxe6 28.Nf5+ Kh7 29.Rd6

でh6へのX線が決め手になる。

23…Be6 24.Rhd1

 カルアナは中央志向の方針を信頼した。しかし 24.Be3!? で 24…h5 25.Bg5 Qg6 26.Rhd1 から詰みを狙った方がずっと強力だったかもしれない。

24…O-O 25.h5!

 黒キングはg8にいてさえ安全とはほど遠い。白のこの手は誰が黒枡の支配者かを黒に思い起こさせている。

25…Qg5+?

 黒はg4のビショップを取るわけにいかないのでこの手はやけくその感じがする。しかしそうは言ってもマシンのように 25…Rfe8! 26.Bh4 Qh5 と卑屈に指すことのできる人間がどれだけいるだろうか。

26.Be3 Qf6 27.Nxh6+ Kh8 28.Bf5

 ここで初めてビショップがf列を閉鎖した。28.Nxf7+ Rxf7 29.Rxe6 も相当強力だっただろう。

28…Qe7? 29.b5?!

 カルアナはこの手に 29…axb5 と取ってくればその時こそf7に切り込むつもりだったに違いない。しかしすぐに 29.Nxf7+! Qxf7 30.Rxe6 Qxh5 31.Rh6+ Qxh6 32.Bxh6 とやっていけば2ビショップがとてつもなく強いので、なぜこう指さなかったのか不可解である。

29…Qe8?!

30.Nxf7+!

 ついにやった。30…Bxf7 と取ると 31.Rh6+ Kg8 32.Rg1+ で黒キングがたちまち処刑される。

30…Rxf7 31.Rxe6 Qxb5 32.Rh6+ 1-0

 32…Kg8 33.Rg1+ Rg7 34.Be6+ Kf8 35.Rh8+ Ke7 36.Rxg7 Kxe6 37.Rh6# で一巻の終わりである。

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2017年04月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(236)

「Chess Life」1999年2月号(2/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第11局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Nb3 Qa3 10.Bxf6! gxf6 11.Be2!

 白の10手目と11手目は局面に対する主眼の正しい手段である。fポーンを二重にさせることにより黒のキング翼に根本的な弱点を生じさせ、キング翼ビショップはh5に行ってf7の地点に狙いをつける用意をしている。これらの要素に白の展開の優位(展開している小駒が白の3個に対し黒は無し)が加わって白には犠牲にしたポーンの代償が楽々とある。

11…h5

 すぐに白のキング翼ビショップをh5の地点に来させないようにするのは要を得ている。しかし 11…Nc6 と展開するのも同じくらい良い手である。重要な実戦例はショート対カスパロフ戦(世界選手権戦第4局、1993年)で、12.O-O Bd7 13.Kh1 h5 14.Nd1 Rc8 15.Ne3 Qb4 16.c3 Qxe4 17.Bd3 Qa4 18.Nc4 Rc7 19.Nb6 Qa3 と進み、ここでカスパロフは実戦の 20.Rae1?! の代わりに 20.Qe3 Ne7 21.Nc4 Nd5 22.Qa7 の方が良く「代償があった」と指摘した。もちろん白は 20.Nc4 Qa4 21.Nb6 と指せば引き分けにもできる。

12.O-O Nc6

 黒はショート対カスパロフ戦(リガ、1995年)のように 12…Nd7 と指してもよく、13.Kh1 h4 14.h3 Be7 15.Rad1 b6 16.Qe3 Bb7 17.f5 Rc8 18.fxe6 fxe6 19.Bg4 Qb2! 20.Rd3 f5! 21.Rb1 Qxb1+ 22.Nxb1 fxg4 23.hxg4 と進んで混戦ながらいい勝負だろう。

13.Kh1 Bd7 14.Nb1!

14…Qb4?!

 後に 14…Qb2! が良く白は 15.Nc3 と手を戻すよりないと結論づけられた。それなら黒は 15…Qa3! と引き白にまた態度を決めさせる。勝つために最も有望なのは 16.Qe3 である。タリ対ブラウン戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)で白はすぐに 14.Qe3 と指した。このねじり合いの局面はいい勝負である。紆余曲折を経てその試合は43手目で引き分けに終わった。

15.Qe3 d5?

 黒はクイーンが困難に陥っていると認識していた。しかし実戦の手はうまくいかず黒は盤上至る所で弱点を抱えてそれに対する見返りがなかった。ここでは 15…Ne7 と指さなければならなかった。

16.exd5 Ne7 17.c4 Nf5 18.Qd3 h4 19.Bg4!

 これで見え見えの …Ng3+ が防がれ、黒陣は風前の灯火である。試合は次のように終わった。

19…Nd6 20.N1d2 f5?! 21.a3 Qb6? 22.c5 Qb5 23.Qc3 fxg4?! 24.a4 h3?! 25.axb5 hxg2+ 26.Kxg2 Rh3 27.Qf6 Nf5 28.c6 Bc8 29.dxe6 fxe6 30.Rfe1 Be7 31.Rxe6 黒投了

 結論 野心的なフィッシャー毒入りポーン戦法は現在でも通用し、9.Nb3 の変化に対する彼の手法も同様である。

******************************

2017年04月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(469)

「Chess」2017年2月号(1/4)

******************************

ロンドン・チェスクラシック

H.ナカムラ – W.ソー
第1回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3

 グリューンフェルト防御はナカムラにとって意外だったかもしれない。しかし黒が引き分けでも大満足な時にわざわざクイーン翼ギャンビット拒否を指さなければならない理由は何もない。おまけにグリューンフェルト防御は昔からソーの得意戦法の一つだった。そしてベイクアーンゼーではエリヤノフ相手に、「究極の手」コンテストでは当のナカムラ相手に連採していた。2016年セントルイスでのナカムラ対ソー戦(ブリッツ)でははるかに激しい戦型になり 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.Nb5 Qd7 11.Kb1 Rd8 12.d5 a6 13.Nc3 Qe8 14.Qc1 Na5 15.h4 と進んで、既に白が突撃ラッパを吹き鳴らし勝ちきった。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3 c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2

 アナトリー・カルポフは白番で中央を完全に支配したままにするこのようなシステムを好んでいた。ここで黒の一番よく指される手は 9…Qa5 で、クイーン同士の交換になるかもしれない。しかしソーの好んだはるかに一般的でない手は、時にアーナンド、スビドレル、それにバシエ=ラグラーブによって用いられた変化でもあった。

9…e5!? 10.d5

 ここは勝負所のような感じだが、ナカムラは結構早く指した。2016年ビールでのスビドレル対バシエ=ラグラーブ戦(快速)では 10.dxe5 Qxd2+ 11.Kxd2 Rd8+ 12.Kc2 Bd7 13.f4 Bc6 と進み 14.Bd3?? には 14…Ba4+! があるので黒がポーンを取り返すことができた。

10…Nd7 11.c4!?

 この手は新手だが、生中継の観戦者たちはまだ両者の研究範囲なのかと疑っていた。以前は 11.Bd3 f5 12.Bg5 Nf6 13.c4 が指されていたが、ストゥパク対ライロ戦(スービック湾、2016年)では 13…fxe4 14.Bc2 Bf5 15.Ne2 h6 16.Be3 Ng4! 17.h3 Nxe3 18.Qxe3 Bf6 と進んで黒には何の問題もなかった。

11…f5 12.Bg5 Nf6

 黒の直前の2手は筋道立った手で、白は 13.Bd3 と指してストゥパク対ライロ戦に戻るしかないように思われる。しかしナカムラはまだ早指しを続けていて、早すぎるほどだった。

13.Ne2?? Nxe4!

 これは初歩的な手筋で、ナカムラはいったい何を見損じたのだろうか。明らかなことは彼の研究に穴があったに違いないということだけである。

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1 b6 18.Bb4 Ba6

 白はなんとかポーンを取り返した。しかし朗報はここまでである。黒は双ビショップを保持し、陣形的に優り、それにキングがはるかに安全である。最高峰のチェスでは試合はもうほとんど終わっていて、あとはナカムラの味わったに違いない苦悩を想像することができるだけである。

19.f4 Rc8

 白の最大の弱点であるc4に目をつけているが、20.c5 と突いてくれば 20…Rd7 21.d6 bxc5 22.Rxc5 Re8 と強引にe列に転じる用意がある。

20.fxe5 Bxe5 21.Rf3 Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4

 白は突破口を見出そうとしているが、自陣が撃破された。

23…Rd7 24.a4 Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8! 29.Bb4 Re8 0-1

 確かに異色ビショップなのだが、長くは続かない。だから早すぎる投了でなかったのは確かだ。30.Rxe8+ Kxe8 のあと 31.Bd2 でビショップ交換の3ポーン損の收局になるのを避けることができる。しかし 31…Re4+ 32.Kf2 Re2+ で結局ビショップ同士がなくなる。


ヒカル・ナカムラは同国の2選手に手痛い敗北を喫したが、それでも立派な’+1’で終えた

*****************************

(この号続く)

2017年04月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(235)

「Chess Life」1999年2月号(1/3)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 本誌1998年4月号では1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の布局を回顧する手始めとして、1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局を取り上げた。今回は 1.e4 に対するフィッシャーの黒番の最初の3局を取り上げることにする。

 本稿の私の目的は二つある。一つは世界チャンピオン25周年のフィッシャーを祝福することで、もう一つはあの時以来布局に起こった重要な進展を示すことである。あの番勝負の布局すべてについて随時取上げていくようにしたい。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第7局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 この戦法はポーンが毒入りでもないのにどういうわけか「毒入りポーン」戦法と名付けられている。黒の最も野心的で危険な選択肢で、2、3手もの手数をかけてbポーンを取りに行く。この手を世に知らしめたのはフィッシャーなので、少なくとも「フィッシャーの毒入りポーン」戦法と呼んでしかるべきである。

8.Qd2

 スパスキーは白番の第3局と第5局で負けたので早く雪辱したかった。彼がシチリア防御ナイドルフ戦法全般と特にこの戦法を研究してきたに違いないことは疑いない。危険性の少ない応手を望む者は 8.Nb3 と指すことができ、本誌1996年6月号の本稿で解説した。

8…Qxb2 9.Nb3

 本局以前でも現在でも主手順の戦型は 9.Rb1 から始まる。全般的な構想は白駒に包囲されている黒クイーンの位置につけ込むことである。すぐの狙いとしては 10.a3 から 11.Ra2 がある。

9…Qa3! 10.Bd3

 このビショップにとってはうれしい地点でなく、ここからはほとんどすることがないしd列での見通しもなくなっている。スパスキーは第11局で正しい手段を見つけた。それについては次局で取り上げる。

10…Be7!

 以前の 10…Nbd7 と比べてこの新手は重要である。ビショップが展開したので黒キングの安全性が増している。

11.O-O h6! 12.Bh4?!

 フィッシャーはこの型にはまったビショップ引きについてよく研究していた。後にタリ対ザイド戦(ソ連、1973年)で攻撃の巨匠は 12.Bxf6 Bxf6 13.e5! dxe5 14.Ne4 Nd7 15.f5! exf5 16.Rxf5 Be7! 17.Bc4 Nf6 18.Rxe5 と指して十分な代償を得た(しかしそれを超えることはなかった!)。

12…Nxe4 13.Nxe4 Bxh4 14.f5

 この手と少し先の手までは変化の余地がある。しかしグランドマスターたちは本局以降それらの変化を使わなかったので、あまり有望でないと判断されているのだろう。

14…exf5! 15.Bb5+?! axb5 16.Nxd6+ Kf8!

 16…Ke7?? は 17.Nxb5 Qa6 18.Qb4+ で敗勢になる[訳注 18…Kf6 で互角のようです]。

17.Nxc8 Nc6 18.Nd6

 18.Qd7 も白にとって満足できない。18…g6! 19.Qxb7 Qa6! 20.Qxa6 Rxa6 から 21…Kg7 で黒勝勢の收局になる。

18…Rd8

 黒は戦力得を固める用意をした。しかし不均衡な局面では細心の注意を払わなければ勝ちに持っていけない。フィッシャーの指し手は安易に流れて、スパスキーはかろうじて引き分けに逃れることができた。詳しい解説は『チェス新報』第14巻第502局やこの世界選手権戦についての多くの良書を参照して欲しい。

19.Nxb5 Qe7 20.Qf4 g6 21.a4 Bg5?! 22.Qc4 Be3+ 23.Kh1 f4 24.g3 g5 25.Rae1 Qb4 26.Qxb4+ Nxb4 27.Re2 Kg7 28.Na5 b6 29.Nc4 Nd5 30.Ncd6 Bc5?! 31.Nb7 Rc8? 32.c4! Ne3 33.Rf3 Nxc4 34.gxf4 g4 35.Rd3 h5 36.h3! Na5 37.N7d6 Bxd6 38.Nxd6 Rc1+ 39.Kg2 Nc4 40.Ne8+ Kg6 41.h4! f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5?! 44.Ng7+ Kxf4 45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4 Rc1+ 48.Kh2 Rc2+ 49.Kg1 引き分け

******************************

2017年04月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(468)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

******************************

ロンドン・チェスクラシック

ヒカル・ナカムラ – ウェズリー・ソー
第8回ロンドン・チェスクラシック、第1回戦、2016年

 大会初戦でナカムラはグランドチェストーナメント総合優勝を争うソーとの重要な対局に臨んだ。しかし自分の研究手順を忘れてなすところなく負けた。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3

 グリューンフェルト防御は最高峰レベルでは人気がある。

7…c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2 e5 10.d5 Nd7 11.c4 f5 12.Bg5 Nf6

 最高峰レベルでは研究は奥深くまで行われている。この局面は前例がないにもかかわらず両対局者の研究範囲だった。

13.Ne2??

 13.Bd3 がナカムラの意図だったはずで、形勢は白がわずかに良いだろう。

13…Nxe4

 簡単な手筋だ!

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1

 戦力的には互角だが形勢は黒の方がずっと良い。黒には双ビショップがあり白キングは中央列で立ち往生している。さらには白の中央ポーンは弱い。

17…b6 18.Bb4 Ba6 19.f4 Rc8 20.fxe5 Bxe5

 ソーは単純に指しているだけで、白のc4ポーンが困ったことになっている。

21.Rf3

 代わりに 21.c5 は白キングが危うすぎる。白の問題は次の想定手順に表れる。21…bxc5 22.Rxc5 Re8 23.Rc2 Rc7 白は駒の連係がとれず黒が完全に勝勢である 24.Rd2(24.Rxc7 Bxc7 25.Rf2 Bb6)24…Rc4 25.a3 Bxh2 26.Kd1 Bb5 27.Rf3 Bf4

28.Rxf4(28.Rb2 Rxe2 29.Kxe2[29.Rxe2 Rc1#]29…Rc2+ 30.Ke1 Rc1+ Kf2 Rf1#)28…Ba4+ 29.Ke1 Rxf4

黒が交換得のうえに1ポーン得である。

21…Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4 Rd7

 ソーはdポーンに狙いをつけた。

24.a4

 24.d6 Bd4 25.Re7(25.Re2 Kf7 26.Nd5 Bxe2 27.Rxc8 Ba6 28.Rc7 Rxc7 29.dxc7 Be5

cポーンがいずれからめ取られるので同じ運命になりそうである)25…Rxe7+ 26.dxe7 Kf7 27.Rd1 Bf6

黒はeポーンをゆっくりからめ取ることができる。

24…Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8 29.Bb4 Re8 0-1

 2ポーン損でナカムラは投げ時だと判断した。ソーは才能あふれる相手に一方的に勝った。

*****************************

(この号終わり)

2017年03月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(234)

「Chess Life」1998年12月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

B)2…c6 D10~D19

 スラブ防御はこの手から始まるが、定跡として大いに理にかなっている。つまりクイーン翼ビショップを閉じ込めることなくd5の地点を守っている。残念ながらこの状況は主手順に見られるように一時的である。

3.Nf3 Nf6 4.Nc3 D15-D19

 この手に対して 4…Bf5?! は 5.cxd5! cxd5 6.Qb3! と応じられて、bポーンを守る正しい手段は 6…Bc8 しかなく、白が 7.Bf4 でかなり優勢の展開になる。もちろん 4…e6 なら定跡で何の問題もないが、2…c6 の意図(クイーン翼ビショップの斜筋をふさがない)はなくなる。キング翼ビショップを展開する必要があるので黒は 4…g6 から 5…Bg7 を選択してもよく、いくらか活気のないグリューンフェルト型の局面になる。だから「純正」スラブを保つためには黒は中央を放棄しなければならない。

4…dxc4 5.a4

 これが楽にポーンを取り返す唯一の手段で、主手順の戦型になる。これに対して黒が普通に展開するなら 5…Bf5?! だが白は 6.e3 または 6.Ne5 と指しどちらも少し優勢の布局になる。

 これらのどの戦型でも白のクイーン翼ビショップの迅速な展開は重要でないので、白は早く e2-e3 と突くことにより何か得することができるのだろか?二つの重要な状況を考えてみよう。

3.Nc3 Nf6 4.e3! D10

 これに対して 4…Bf5?! はやはりまずい。というのは 5.cxd5! と取られると 5…cxd5(もちろん 5…Nxd5 と取ることもできるが 2…c6 の意図を無視している)6.Qb3 となって黒は 6…Bc8 と引かなければならず 7.Nf3 で白が好調である。

 だから白は本譜の手で黒がスラブの手を指すのを妨害したことになる。そして黒は 4…e6 または 4…g6 の戦型で満足しなければならない。代わりに黒は途中で 3…Nf6 を延期して 3…e5、3…e6 それに 3…dxc4 のようなそれほど探求されていないシステムを選択することができる。しかし私にはそれらが100%本筋かについてためらいがある。

3.Nf3 Nf6 4.e3 D12

 この戦型はキング翼ナイトを1手目または2手目で展開してもよいので実戦的に重要である。しかしf3のナイトはd5の地点に何も圧力をかけていないので、黒はスラブの作戦を完遂することができる。

4…Bf5! 5.cxd5 cxd5 6.Qb3

 これが眼目の局面である。黒は 5.Nc3 e6 でも 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 でもほとんど苦労なく互角になる。

 ここからはドレエフ対バレエフ戦(ベイクアーンゼー、1995年、番勝負第2局)の手順を追う。

6…Qc7! 7.Bd2 Nc6 8.Bb5 e6 9.Bb4 Bd6 10.Qa3 Ke7! 11.Bxc6 bxc6 12.Nc3 Rhb8 13.Bxd6+ Qxd6 14.Qxd6+ Kxd6

 收局はほぼ互角のいい勝負である。両対局者はやる気満々で、戦いを続けた。バレエフは本局を『チェス新報』第62巻第407局でで詳しく解説している。

15.Na4 Nd7 16.b3 f6 17.Kd2 a5 18.Rhc1 Nb6 19.Nc5 e5 20.Ne1 Nd7 21.Ned3 Bxd3 22.Kxd3 Nxc5+ 23.Rxc5 a4 24.Rac1 Ra6 25.bxa4 Rb2 26.R1c2 Rxc2 27.Rxc2 Rxa4 28.Kc3 exd4+ 29.exd4 Ra3+ 30.Kd2 g5 31.Kc1 g4 32.Rd2 f5 33.Kb2 Ra6 34.Rd3 Ra7 35.Ra3 Re7 36.Re3 Re4 37.Kc3 c5 38.dxc5+ Kxc5 39.Kd2 Rd4+ 40.Rd3 Ra4 41.Rc3+ Kd4 引き分け

 白がクイーン翼ビショップを閉じ込めるのが意味を成すのはどんな時か?黒の通常どおりクイーン翼ビショップを早く展開するのを妨げることができるなら、白の早い e2-e3 突きは有効な手となる。

******************************

2017年03月29日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(467)

「Chess」2016年12月号(2/2)

******************************

グランドマスター・ブリッツ勝ち抜き選手権戦

H.ナカムラ – M.カールセン
ブリッツ(5分+3秒)第3局、クイーン翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.Qc2 Bb7 6.Bg2 Bb4+ 7.Bd2 a5 8.O-O O-O 9.a3 Bxd2 10.Nbxd2 d5 11.cxd5 exd5 12.Ne5 Na6 13.Nd3 Qe7 14.e3 c5 15.dxc5 Nxc5 16.Nxc5 bxc5 17.Rac1 Rfc8 18.Rfd1 h6 19.Qf5 a4 20.Rc2 Bc6 21.Rdc1 Bd7

 ここで 22.Qd3 なら何事もなかっただろう。しかし本局が最後ではなかったがクイーンがポカで失われた。

22.Qf4?? g5 0-1

*****************************

(この号終わり)

2017年03月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(233)

「Chess Life」1998年12月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6 5.e3 Nbd7

6.Qc2 D46

 1990年代初めからアナトリー・カルポフが駆使したおかげでこの手が白の最もよく指される戦型になった。その着想はいたって簡単である。6…dxc4 からの難解な手順はここでは 7.Bxc4 が手損にならないので防がれている。その一方白クイーンの展開は役に立っている。結果として白はやや優勢の危険性のない状況で始動している。

 ここからはクラムニク対ピケット戦(ベイクアーンゼー、1998年)を追う。

6…Bd6 7.Bd3 O-O 8.O-O dxc4

 黒は中央で何らかの決まりをつける必要がある。さもないと白が適時の e3-e4 突きで好き勝手にふるまえる。一流の選手は 8…e5 9.cxd5 の黒の局面を信頼していない。

9.Bxc4 a6

 このaポーン突きはここ2年でほかの作戦をすべてかげらせた。黒はクイーン翼で陣地を拡張する用意をしながら、中央での最終的な仕掛け(…e6-e5 または …c6-c5)を白には秘密にしている。

10.Rd1 b5 11.Be2 Qc7 12.Ne4

 カルポフ対クラムニクの快速戦(モナコ、1998年)で白は中央に目を向けて 12.e4 と突き、12…e5 13.g3 Re8 14.a3 Bb7 15.dxe5 Nxe5 16.Bg5 Nxf3+ 17.Bxf3 Be5 18.Bxf6! で少し優勢になった。クラムニクはここで 18…Bxf6 に 19.Nd5! があるので 18…gxf6 と取ったがそれでも 19.Bg4! で白がわずかな優勢を保持した。

12…Nxe4 13.Qxe4 e5 14.Qh4 h6?!

 ピケットは 14…Re8 に新手を指されるのを恐れたようだった(カルポフ対アーナンド、FIDE世界選手権戦第5局、ローザンヌ、1998年)。しかし 15.Bd3 h6 16.Bc2 に 16…Be7! 17.Qg3 Bd6! で黒が簡単に互角にできる。

15.Bd2! Re8?

 黒は 15…exd4 と取らなければいけなかった。

16.dxe5 Nxe5 17.Ba5!

 前局とちょうど同じように展開に優る白がかなり優勢になった。クラムニクは決してその優勢を手放さなかった。『チェス新報』第71巻第466局のクラムニクの詳細な解説からいくつか形勢記号を拾うことにする。

17…Qb8 18.Rac1 Be6 19.Nxe5 Bxe5 20.Rxc6 Bxb2 21.Bc7! Qb7 22.Bf3 Rac8 23.Qb4 Be5 24.Rcc1 Qxc7 25.Rxc7 Rxc7 26.Qa5 Rc2 27.Qxa6 Rb8 28.Be4 Rc4! 29.Bd3 Ra4?! 30.Qc6 g6?! 31.f4 Bf6 32.f5! gxf5 33.Bxf5 Bxf5 34.Qxf6 Bg6 35.Rd2 Re4 36.h3 Rbe8 37.Qb6 b4 38.Rd4 Rxe3 39.Qxb4 h5 40.a4 Re1+ 41.Kh2 Ra1 42.Qb2 Rb1 43.Qa3 Kh7 44.a5 Ree1 45.Qf8 Rh1+ 46.Kg3 Rb5 47.Rd8 Rg5+ 48.Kf2 黒投了

******************************

2017年03月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(466)

「Chess」2016年12月号(1/2)

******************************

マン島国際チェス大会

解説 ベンジャミン・ボク

H.ナカムラ – B.ボク
第5回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 この f3 システムをナカムラは誰あろうカスパロフに対してさえ指している!

3…e6 4.e4 c5 5.d5 d6 6.Ne2 Bg7 7.Nec3

 白は Nb1-c3 と指していなかったのでこんな手で変化することもできる。

7…a6 8.a4

8…Nh5

 8…exd5?! は手順が悪く、9.cxd5 Nh5 に 10.g4! と突く手があり 10…Qh4+ 11.Kd2 Ng3 12.hxg3 Qxh1 13.Bb5+ で白の勝ちになる。実戦はポーンがまだc4にいるので成立しない。

9.Be3

 9.g4? にはもう見たように 9…Qh4+ 10.Kd2 Ng3 の強手がある。

9…exd5 10.cxd5 f5 11.exf5 gxf5

12.Qd2

 ここでちょっと奇妙なことが起こった。私が考えている間にナカムラが戻ってきて棋譜に 12…O-O と書き自分のビショップをつかみe2に動かしたとたんにまだ私の手番であることに気づいた!私は審判のところに行ってことを大げさにするようなことはしないことにした。しかし少なくとも 12…O-O のあとの彼の意図は分かった。

 本譜の手の代わりに 12.Be2 は 12…O-O 13.O-O のあと 13…Re8 14.Bf2(14.Qd2?? は 14…Rxe3 で黒の勝ち)14…Qg5 に対処する適当な手段が白にない。

12…O-O 13.Be2

 予想どおり。

13…Nd7

 私は単に駒を展開することにした。

14.O-O f4

 14…Ne5 は 15.Bg5 がちょっと煩わしい。15…Qe8 に 16.f4 があってクイーンをg列に持っていくのがより困難になるからである。

15.Bf2

15…Qg5

 こう指すと g4 と突かれるのは分かっていたが、白キングがまったく弱くなりきわめて危なっかしいと考えていた。

 15…Ne5 と指すこともできたが、やはり 16.Ne4 で私のクイーンがg6に行けず 16…Bf5 17.Nbc3 で白が少し優勢かもしれない。

16.g4

 16.Ne4 は 16…Qg6 17.Nbc3(17.Bh4 には 17…Ne5 18.Be7 Bh3)17…Ne5 18.Kh1 Bf5 と進む公算が大きい。黒は好調で …Rae8 または …Bh6 で圧力を強めるかもしれず …Ng3+ の狙いも出てくる。

16…Ne5 17.Kh1 Nf6 18.Rg1

18…Qg6!

 この手が指せてまったくほっとした。いろいろな捨て駒が視野に入っている。

 最初は 18…h5 と指すつもりで、19.h4 Qg6 20.g5 Qf5 21.Rg2 Nfg4! 22.fxg4 hxg4 を想定していた。白は押しつぶされてしまうだろう。しかし 19.gxh5 と取られると 19…Qxh5 20.Qxf4 Ne8 21.Qh4 Qxh4 22.Bxh4 Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Nd2 となって黒は問題ないのだが白の主導権は厄介ものである。

19.Bh4!

 黒の捨て駒に備えて 19.Qd1 と指すと予想していたが、それでも黒は 19…Nfxg4! と切り込むことができるようで 20.fxg4 f3 21.Bf1 Nxg4 で勝勢である。例えば 22.Bg3 なら 22…f2 23.Rg2 Ne3 でよい。

 また、19.Na3 なら 19…Bxg4! が黒の読み筋で、20.fxg4 Ne4 21.Qe1 Nxc3 22.bxc3 Qe4+ 23.Rg2 f3 で黒の勝ちになる。

19…h5

 最初は 19…Bxg4 と取りたくてたまらなかった。20.Qd1(20.Bxf6 なら 20…Bxf3+ 21.Bxf3 Qxg1+ 22.Kxg1 Nxf3+ 23.Kf2 Nxd2 24.Bxg7 Nxb1 25.Bxf8 Nxc3 26.bxc3 Kxf8 27.Kf3 となるが、これでも白はたぶん持ちこたえることができるだろう)20…Qh5 21.Bxf6 Nxf3 22.Rg2 Rxf6 と進んで黒が勝ちそうに見えるが、残念ながら 23.Nd2 という手があり形勢が逆転する。

20.g5

 20.gxh5 も白はあまり気乗りしなかった。20…Qxh5 21.Qxf4 Nfg4 22.Qg3(22.fxg4 は 22…Rxf4 23.gxh5 Rxh4 で黒に立派な代償がある)22…Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Qxf3 Qxh4 25.Qg3 Qh6 となって交換損の代わりに黒の攻撃が強力で、26…Be5 の狙いがある。

20…Nfg4!

 このような局面では引き下がることはできない。

21.Ne4

 21.fxg4 は 21…hxg4 で白には指す手がなく、黒は容易に駒を攻撃に投入し続けることができる。例えば 22.Na3 Qh7 23.Qe1 Bf5 のあと黒は望むなら 24…Rae8 と指せる。

21…Bf5

 最初は 21…Nxh2 を読んでいた。しかし 22.Kxh2 Qf5 23.Nf2(チェスエンジンは 23.Rg2 の方がずっと強力だとしている。23…Qh3+ 24.Kg1 Qxh4 25.Rh2 Bh3 26.Nbc3 でh列での釘付けのために黒が問題を抱える)23…Ng6 24.Bd3 Nxh4 25.Bxf5 Nxf3+ 26.Kh1 Nxd2 27.Bxc8 となって、27…Nxb1 には 28.Be6+ があるので白が駒得のままである。

22.Nf6+?

 この手のあとはどうやっても白の負けである。たぶんナカムラは私の応手を見落としたのだろう。白は何があっても 22.Nbc3 と指さなければならなかった。黒はまだ少し優勢かもしれないが局面はまだ難解なままである。

22…Rxf6! 23.gxf6 Bxf6

 白はビショップを助けようがない。

24.Nc3

 白はもう負けを認めている。24.Qe1 は 24…Re8 で黒の狙いが多すぎる(24…Nxf3 でもよいが 24…Re8 の方が簡単)。24.Be1 は 24…Bxb1 であれれ、ということになる。

24…Bxh4

 ここでは黒の勝勢は明らかである。私のしなければならないことは冷静さを保ち最後まで正確に指すことだけだったが、うれしいことにとてもうまくやり遂げることができた。

25.Raf1 Bg5 26.h4

 26.fxg4 と取っても 26…Be4+ 27.Nxe4 Qxe4+ 28.Rg2 Qxg2+ 29.Kxg2 f3+ でやはり終わっている。

26…Bh6 27.fxg4 hxg4 28.Rxf4 Qh5! 29.Rg2 Qxh4+ 30.Kg1

 30.Rh2 も 30…Qg5 で見込みがない。

30…Ng6

 ほかの手もあるが、これが最もはっきりしている。

31.Rxf5 Bxd2 32.Rxg4 Bxc3

 このような局面では勝ち方がいくつもあるが、その中の一つを追求することにした。

33.bxc3

 33.Rxh4 なら 33…Nxh4 34.Rg5+ Bg7 で黒の勝ちである。

33…Qe1+ 34.Bf1 Kg7 35.Rfg5 Qb1 0-1

*****************************

(この号続く)

2017年03月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(232)

「Chess Life」1998年12月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6

 5.e3 Nbd7 からの布局はメラン戦法と呼ばれている。最も重要な2戦型の 6.Bd3 と 6.Qc2 からの白の指し方を実戦例から取り上げる。

6.Bd3 D46

 これは白の最も積極的な手である。その作戦は単刀直入で、e2-e4 と突いてさらに黒のdポーンに挑みながらクイーン翼ビショップを開放する。これに対して黒はほぞを固めて自分から 6…dxc4 7.Bxc4 b5 と難解さに踏み込まなければならない。定跡に精通している必要があるが、最終的に互角になる見込みはきわめて大きい。しかし黒を持って指す多くの選手はより安全と感じる局面の方を好み、「同形」の展開を選ぶ。このあとはシェルバコフ対シャバノフ戦(ロシア選手権戦、1996年)の手順を追う。

6…Bd6 7.O-O O-O 8.e4! dxe4

 重要な中央のポーンを交換するのが普通の取り方である。8…dxc4 と取るのは 9.Bxc4 e5 10.Bg5 h6 11.Bh4 Qe7 12.Re1 Rd8 13.d5 Nb6 14.Bb3(サブチェンコ対シップマン、フィラデルフィア、1991年)となって白が優勢になる。

9.Nxe4 Nxe4 10.Bxe4 h6

 10…Nf6 は 11.Bc2 c5 12.Bg5 h6 13.Bh4 で釘付けが煩わしく、13…Be7 には 14.Qd3! がある。

11.Bc2 e5 12.Re1! Bb4

 一組のビショップを交換しておくのが理にかなっている。単に 12…exd4?! は不十分で、13.Qxd4 Bc5 14.Qf4 で白が展開で大きく優り陣形にも欠陥がない。

13.Bd2 Bxd2 14.Qxd2 exd4 15.Qxd4 Qb6 16.Qc3 a5 17.Rad1

 黒は展開で大きく立ち遅れている。これに対し白は絵に描いたように完璧である。展開は完了し、両方のルークは中央の素通し列に位置し、盤上の制圧はほぼ全体に渡っている。キング翼で猛攻を仕掛ける可能性が高く、自陣に弱点は一つもない。『チェス新報』第68巻第393局の解説でシェルバコフは 17…Qb4 が黒の最善手だと考えている。それでも 18.Qd3 Nf6 19.a3 Qc5 20.Re5 Qb6 21.c5 Qc7 22.Rde1 Rd8 23.Nd4 で状況は芳しくない。実戦は黒がたちまちつぶされた。

17…Nf6?! 18.Rd6! Qb4 19.Qe5! Qxc4 20.Bd3 Qg4?! 21.h3 Qh5 22.Qg3 Nd5 23.Re5 f5 24.Rg6 Rf7 25.Re8+ Kh7 26.Ne5 Rc7 27.f4! 黒投了

 白の 28.Be2! Qxe2 29.Rxh6+! Kxh6(29…gxh6 30.Qg8#)30.Rh8# の狙いに成すすべがない。

 最終盤は展開の優位の威力をみごとに示していた。黒は投了した時クイーン翼のルークもビショップもまだ戦いに加わっていなかった。

******************************

2017年03月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(465)

「Chess Life」2016年11月号(1/1)

******************************

シンクフィールド杯

開放カタロニア(E05)
GMウェズリー・ソー(FIDE2771、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2791、米国)
2016年シンクフィールド杯第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2016年8月5日

 2015年のシンクフィールド杯でヒカル・ナカムラはキング翼インディアン防御でウェズリー・ソーをつぶした。1年で変わったことが多く、ナカムラが同僚に対して選択した布局もそうである。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5

 主手順は 7.Qa4 a6 8.Qxc4 b5 9.Qc2 Bb7 で、数え切れないほど指されている。

7…Nc6

8.Nxc6

 8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7+ Qxe7 11.Qa4 e5 12.dxe5 Qxe5 が通常の手順で、よく知られている。チェスエンジンは白の方を少し優勢としているが、異色ビショップと白のすき間のあるキング翼のために黒が互角にできる可能性が非常に高い。

8…bxc6 9.Na3 Bxa3 10.bxa3

 奇妙なポーン陣形ができあがった。黒はc列に孤立三重ポーン、a列に孤立ポーンがあり、白は1ポーン損でa列に孤立二重ポーンがある。身の毛もよだつような局面である。

10…Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8

14.Ba3

 この手はポーンをもう1個犠牲にして主導権を強める。d4のポーンはまったく気にしない。確かにあればいいポーンだが、白は犠牲にした戦力を正当化するためには活発に動く必要がある。

 14.Rd1 は以下 14…c3(14…e5 15.Qxe5 Nd5 はねじり合いになる。白は双ビショップで中央列のポーンも多いが、展開が遅れている。黒は非常に積極的に動いているが、長期的には陣形が白の有利に働くのは確かなのでそうすることが必要である)15.Qxc3 Bxe2 16.Re1 Qa6 17.Bg5 Qc4 で互角の形勢である。(ポーンが取られないように17…Rd6 と指すのは手間をかける価値がないかもしれない。どうして白に 18.Rab1 でb列を支配させるのか?)

14…Rxd4 15.Rfb1

 ここで初めて前例と別れた。抜け目のない手である。交換得になった場合白のもう一つのルークはf1よりa1にいた方が良い。これは典型的なチェスの論理に反するようだが、そのわけは白が a4-a5 から a2-a4 と突こうとしているからである。

 前例は2010年ブルニャチカ・バニャでのザハル・エフィメンコ(2689)対コンスタンチン・サカエフ(2607)戦で、15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(19…d4 も指したくなる手で、対角斜筋を開けナイトのためにd5の地点を空ける)20.a5 b5 21.Qe7 c5 22.f4 d4 23.f5 e5 24.f6 gxf6 25.g4 h6 26. Rf5 と進んで合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 私が見たかった手は 16…Rd5 だった。2ルークに対し2小駒と2ポーンの駒割は滅多に見られない。もっとも 17.Bxd5 cxd5(17…Rxb1+ 18.Rxb1 cxd5 19.Qxa6 は最下段が無防備なので黒にとって問題が大きい)18.Bxb6 cxb6 19.Qc3 は白が良すぎる。クイーン翼をのみで削るようにやっていけば、結局はルークが小駒より強くなる。

17.Rd1 h6

 これは辛抱のいい手だが、たぶん補強が必要だった。

 17…Nd5 18.e4 Nf6 は互角だが、白にポーンを突かせたのは黒のためになっている。黒のナイトがいつかはd3の地点に行ける。

18.Rxd7 Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

20…c5

 20…Nc5 21.Qd6 は白が優勢の実戦の進行にやや似ている。21…Nxa4 22.Qxc6 Qxc6 23.Bxc6 Nc5 となった時の大きな違いはそれぞれの二重ポーンが交換で解消していることである。これは黒にとって重要で、ナイトがc5に行ける。

21.Rd1 Nf6 22.Kf1 Kh7 23.Qc2+

23…Kg8

 対局後ナカムラは 23…g6 と突いてクイーンを盤上に残さなかったのを後悔しているようである。24.Qc3 Kg7 で白がどのように進展を図るか判然としない。どうやっても譲歩することになるだろう。もちろん白が優勢であるけれども 25.h4 Qc7 26.Kg1 e5 で戦いは続く。

24.Qd2 Kh7 25.Qd8

 クイーンが盤上から消えるのでソーは勝ち負けだけを目指して指すことになる。a7のポーンはすぐ目立つ弱点で、ほぼ互角の駒割にもかかわらず白がはっきり優勢である。收局ではルークが小駒を圧倒することがよくある。

25…Qxd8

 25…e5 26.Qxc8 Bxc8 27.Rd8 Be6 28.Ra8 c3 29.Ke1 は、…e6-e5 突きで白枡の支配がゆるんだので黒が実戦よりもずっと悪い。

26.Rxd8 c3 27.Ke1

27…Bc4

 27…c2 は 28.Kd2 Bxe2 29.Kxc2 Kg6 30.Rb8(黒はポーン狩りをしている暇がない)30…Ng4 31.Rb7 Nxf2 32.Rxa7 で次にb6のポーンが落ちるので良くない。

28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3 a6

32.Ra8

 たぶん 32.a5 の方が正確である。32…Bd5 33.Bxd5 Nxd5+ のとき勝つ唯一の手は 34.Kb3 である(34.Kd2 は 34…c4 35.Rd6 Nb4 となってこのナイトが奇跡的にa6ポーンの守りから追い払われない。白キングがc3に行けばナイトはa2からチェックするし、a3に行けばc2からチェックする。驚異的な要塞である)。

32…Nd5+ 33.Bxd5 exd5

 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 で白の勝ちになる。白キングが黒枡をぶらつくので黒キングは戦闘に間に合わない。

34.a5

 34.Rc8 bxa4 35.Rxc5 でも勝ちだがもっとてこずる。白は正確さを要求されるが、実戦の方はaポーンのおかげで早く終わった。代わりに 34.axb5?! axb5 35.Rc8 は 35…d4+ 36.exd4 cxd4+ 37.Kxd4 で引き分けに終わる可能性が非常に高い。

34…b4+ 35.Kd2 Bf1

 35…Bb5 36.Rc8 c4 はすべて守っているようだが、37.Rb8 から Rxb5 の狙いだけ抜けている。これはビショップが動かなければならないということで、bポーンが落ち勝負がつく。

36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 黒投了

 ナカムラは白のaポーンに対処できないと読んであきらめた。

*****************************

(この号終わり)

2017年03月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(231)

「Chess Life」1998年12月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

 本譜の手の利点はキング翼ビショップの斜筋が通ることで、欠点はクイーン翼ビショップが閉じ込められることである。白はcポーンが4段目にありd5に圧力をかけているので、明らかに中央で少し優位に立っている。だから黒としては次のような目標を設定することができる。つまり何も不利をこうむらずに1手で …c7-c5 と突くことができるなら、ほぼ互角になれる。

3.Nc3

 白はd5に圧力をかけることにより、黒がただで …c5 と仕掛けるのを難しくさせる。黒が 3…c5 と突くとタラッシュ防御になり、4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 で孤立dポーンに対する白の圧力が強くなる。

 代わりに 3.Nf3 は欠点がなく別手順の 1.Nf3 または 2.Nf3、それに 3.e3 とからも生じるので重要だが、3番目の手順は指せる手ではあってもつまらない。どうして白は黒がしなければならなかったようにクイーン翼ビショップを閉じ込めなければならないのか。3…Nf6 4.Nc3 c5 5.Nf3 Nc6 が想定され、準タラッシュ防御の無害な戦型になる。

3…Nf6

 普通の手。しかしGMたちの間では先に 3…Be7 と指し、4.Nf3 のあとで初めて 4…Nf6 と指すのが普通である。本譜の手のあと白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法のより優る型にできる。しかしこれには白にとって大きな危険性もある。ポーン交換で中央における白の優位は消滅し、黒のクイーン翼ビショップは自由になる。私の考えでは少なくともレイティング2100の選手でないと微妙な差異を白のために生かせない。

 交換戦法のほかに白の重要な選択肢は 4.e3、4.Bg5 そして 4.Nf3 の三つである。

 4.e3 は指せる手だが、それでも上述の 3.e3 で説明したのと同じ欠点がある。4…c5! 5.Nf3 Nc6 となって白が優勢になる可能性は乏しい。4.Bg5 は 3.Nc3 の 最も主眼とされる継続手である。白はd5に間接的に圧力をかけることにより、黒が …c7-c5 と打って出るのを難しくしている。黒の最も人気のある手法はタルタコワ戦法(4…Be7 5.Nf3 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 b6)である。黒陣は欠陥がないが完全に互角というわけではない。

4.Nf3

 この手は白が1~3手目で Ng1-f3 と指してもよく同じ局面になるので非常に重要である。黒はもちろんいつものように 4…Be7 と応じることができるし、4…c5 5.cxd5 Nxd5(5…exd5 はタラッシュ防御に移行する)で中央での影響力の減少をこうむっても孤立dポーンを避ける準タラッシュ防御を選択することもできる。

 しかし重要な選択肢は次の手である。

4…c6

 この局面が実戦で特に重要なわけは、約半数がスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 e6 という手順から生じるからである。

 4…c6 は見かけは消極的だが狡猾なパンチ力を秘めている。もし白が何も疑わずにいつもの 5.Bg5 を指すと、5…dxc4 6.e4 b5! に驚かされることになる。4…c6 の主眼点は白が犠牲にしたポーンを容易に取り戻せなくすることだったことが分かる。このあとの指し手はとてつもなく激しくなることがある。黒の潜在的な可能性を初めて見せつけた世界級の選手はミハイル・ボトビニクで、その戦型には当然彼の名前がつけられている。閉鎖試合の「定跡書」の中では最も複雑で攻撃的で厳しい布局となっている。

 本手順としてアセーエフ対セルゲイ・イワノフ戦(サンクトペテルブルク、1997年)を追う。7.e5 h6 8.Bh4 g5 9.Nxg5 hxg5 10.Bxg5 Nbd7 11.exf6 Bb7 12.g3 c5 13.d5 Qb6 14.Bg2 b4 15.O-O O-O-O 16.Na4 Qb5 17.a3 exd5 18.axb4 d4 19.Bxb7+ Kxb7 20.Nc3 dxc3 21.Qd5+ Kb6 22.Bf4 Rh5 23.Qxh5 cxb2 24.Rad1 cxb4 形勢互角。試合は38手で引き分けに終わった。イワノフの詳細な解説は『チェス新報』第69巻第394局を参照されたい。

 上記の試合と解説をどう判断すべきか?そう、5.Bg5 は本筋で危険があり研究を要する。ガリー・カスパロフやガータ・カームスキーのような攻撃に秀でて深く研究している者が白を持って好成績を収めてきた。とはいえ控えめに言っても万人向けの戦型ではない。

 だから黒の反撃の可能性が十分に評価されるようになって以来というもの、明らかに白を持って指すものの大部分が 5.e3 に転向した。『チェス新報』第72巻(1998年の2巻目)の主要試合の数が現在の状況をよく物語っている。5.Bg5 が3局で 5.e3 が9局となっている。ここでクイーン翼ビショップの早い閉じ込めが有効な時について次の関連した考察をつけ加えることができる。黒がc4のポーンを取ったらそのポーンを取り返すのに大変苦労する時は、早く e2-e3 と突くのが有効な変化となる。

 5.e3 が高級な選択肢である理由には別の重要な要因がある。黒にとって …c5 は主眼の突きであることが知られているので、黒はそう突くために丸々1手費やさなければならなくなる。というのはもう …c7-c6 と突いているからである。布局の早い段階の指し手ではこのような無駄はたとえ閉鎖布局であっても許されない。アナトリー・カルポフの示唆に富む明察がこの本質をよくとらえている。「閉鎖布局では手損は大したことがないとよく言われてきた。開放布局ではもっと高くつくことはもちろんだが、閉鎖布局でも手損はすべきでない。」

******************************

2017年03月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(464)

「Chess Life」2016年10月号(1/1)

******************************

次の一手 米国選手権戦より

第1問
GMヒカル・ナカムラ対GMジェフリー・ショーン

 白の手番

第4問
GMヒカル・ナカムラ対GMサム・シャンクランド

 白の手番

第1問解答 32.Nf5! クイーン当たりと Nh6+ の両狙い(32…Qd7 33.Nh6#)。

第4問解答 37.Re7 でも長い目で見れば勝ちになるが 37.Qd2! Qxd2 38.Rxd2 なら 39.Ree2 から 40.Rxf2 でナイトが取れる(37…Nxd1 なら 38.Qxh6+ Kg8 39.Bd5+ R6f7 40.Bxf7+ で白の勝勢)。

*****************************

(この号終わり)

2017年03月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(230)

「Chess Life」1998年12月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め

 ビショップは長射程の駒で、普通は元々の斜筋に沿って展開すべきで利きがよく通る。1.e4 布局では白にとってはかなり達成しやすい。これはキング翼ビショップの斜筋がすぐに通り、普通は d2-d4 突きも早く続いてもう一つのビショップも自由になるからである。一般によどみなく迅速な展開がeポーン布局の持ち味である。

 しかしdポーン布局では小駒の展開の速さは目的を持った本格的な中央の構築の次になるのが普通である。そして小駒はその中央の内側で良い位置を探り始めることになる。これはビショップの片方の展開が遅れることを意味することがよくある。今回は白が早く e2-e3 と突くことにより黒枡ビショップの展開を自ら遅らせるクイーン翼ギャンビット拒否戦法の重要な状況について説明する。本稿はシカゴのデイビド・グルーゼンマイヤー氏からの示唆に触発されたものである。

 起点となる局面は次の手順からできる。

1.d4 d5 2.c4

 黒は初手で白と同じ中央への影響力を目指し、白はすぐにその地点を切り崩しにかかる。実際のところ黒は 2…dxc4 と取ることにより中央の地点を「放棄」することも可能である。この戦型はクイーン翼ギャンビット受諾と呼ばれ、評価の高い布局となっている。白は容易にポーンを取り返すことができるけれども、黒は白が取り返しに手をかけることによりクイーン翼で積極的に反撃を開始することができることに期待をかけている。それでもはるかに人気のあるのは 2…e6 または 2…c6 でd5の拠点を安泰にすることである。順にこの2手を見ていくことにする。

******************************

2017年03月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(463)

「Chess」2016年10月号(3/3)

******************************

次の一手

初級向け第4問 M.バシエ=ラグラーブ対H.ナカムラ
インターネット(ブレット)、2016年

 白の手番

解答 1.Be5+ 1-0 1.Bg5! も正解。1.Be5+ のあとは 1…Nf6(1…dxe5? 2.Rf7#)2.Rxf6 Qxf6 3.Bxf6 Kxf6 4.Qxh6+ Kf7 5.Nd5 で黒は戦力損の上にキングがむき出しになっている。

*****************************

(この号終わり)

2017年02月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(229)

「Chess Life」1998年10月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ニシペアヌ対デゥミトラケ、ルーマニア選手権戦、1996年

17.Bb3!?

 この新手は筋の通った着想である。すぐにgポーンを突いていくのは白のためになるのかそれほどはっきりしないので、白はまず白枡ビショップの安全を図って戦いに引き戻すことにした。

 ストイカとニシペアヌが本局を『チェス新報』第68巻第302局で詳細に解説しているので、読んでみることを勧める。以下では要点だけを示すことにする。

17…Kf7?!

 この手は手損になる。正着は 17…Bxb3 で、以下 18.axb3 Ke6 19.g4 fxg4! 20.Ra4! h5 21.Rxe4+ Kf7 22.Nd5 Rae8 23.Rb4 b5 24.Nxc7 Rc8 が両者の最善の手順でいい勝負である。

18.g4

 18.Nd5 Rac8 19.c4! の方が強い指し方だった。

18…g6?!

 黒陣を活気づかせるためには動的な反撃が唯一の手段だった。そのためには 18…fxg4! と取ることが必要で、19.Nxe4 Bxb3 20.axb3 b6 21.Ra4 h5 22.Rc4 c5 23.b4 cxb4 24.Bxb6 a5 25.Rc7+ Ke6! が想定される(ストイカとニシペアヌ)。

19.g5! Rad8 20.Ne2 Rd7?!

 ベルリン対リガ戦の戦型の中で白優勢の1局となった。黒は堅実に 20…Bxb3 21.axb3 Rd7 で不利を最小限にとどめるべきだった。

21.c4! b5?! 22.Rc1!

 黒のキング翼の多数派ポーンが動きづらいのに対し、白のルークと小駒は黒の弱点のクイーン翼に侵入する。白の勝ちに終わるまでの手順は次のとおりである。

22…Rhd8 23.Nf4! Bxc4 24.Bxc4+ bxc4 25.Rxc4 Rb8 26.b3 Rb7 27.Ne2! Ke8 28.Nc3! Kd8 29.Kg2 Rb8 30.Bf4 Kc8 31.Na4 Rf7 32.Rc6 Rb5 33.Rxa6 Kd7 34.a3 黒投了

総括

 私にはリガ戦法を完全に信頼できると言えない。しかしまだ調査しなければならない所が多い。8.Nxd4 からの主手順では白の優勢は従来からの少し/通常の優勢を超えないということに自信がある。

******************************

2017年02月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(462)

「Chess」2016年10月号(2/3)

******************************

2016年シンクフィールド杯(続き)

H.ナカムラ – ディン・リーレン
第9回戦、準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.Bh5 h6 6.Bh4 dxc4 7.e4 g5 8.Bg3 b5 9.Be2 Bb7 10.h4

 この反モスクワ・ギャンビットの厳しい手法は近年は現代的な 10.Qc2 にほぼ取って代わられた。しかしナカムラはまだ一定のかみつく力があることを見せつけた。

10…g4 11.Ne5 Nbd7 12.Nxd7 Qxd7 13.Be5 Qe7

14.b3!

 要着。14.Bxg4 は 14…Rg8 15.Bf3 Nd7 で陣形がほぐれて黒が好調になる。

14…cxb3 15.axb3 a6

 黒は 15…Bg7 で展開の完了を優先させることもできる。そして 16.O-O O-O 17.Bxg4(ベルレ対ファン・ベリー、ロンドン、2008年)17…Rfd8!? 18.Bf3 Nxe4 19.Bxg7 Nxc3 20.Qd2 Kxg7 21.Qxc3 Kg8 と進めば、黒は乱れた陣形がポーン得で相殺される。

16.Qc1!?

 巧妙な新手。もっとも2007年クラスノヤルスクでのトレグボフ対モティレフ戦の 16.O-O h5 17.Re1 Bg7 18.d5 でも大して悪そうには見えなかった。

16…Rg8 17.O-O Nh5

 この手は白クイーンがf4に来るのを防ぎh4のポーンを当たりにしている。しかしここからナカムラの新手の主眼点を目(ま)の当たりに見ることになる。

18.d5!!

 そらきた!

18…Qxh4?

 重要な変化は 18…exd5?! 19.exd5 Qxe5 20.Re1 で、白は1駒と1ポーンを損しているがかなりうまくいくようである。例えば 20…Be7(20…Qf4 21.Bxb5+ Kd8 22.dxc6 Qxc1 23.Rexc1 Bc8 24.Nd5 は白の攻撃がうまくいっていて非常に強力である)21.Bxb5 Qc7 22.dxc6 axb5(22…Bxc6? なら 23.Nd5!)23.Rxa8+ Bxa8 24.Nd5 Qxc6 25.Qxc6+ Bxc6 26.Nxe7 Kf8 27.Nxc6 Rg6 28.Nd4

のあとの收局は白がやや優勢である。

 もっとも本譜の手もうまくいかないので、黒は 18…f6 19.Bh2 cxd5 20.exd5 Rc8 とやってみなければならないということになり、まったくの形勢不明だろう。

19.g3 Qg5 20.dxc6! Qxe5

 白ポーンをb7に進ませるのはほとんど誰も望まないが、20…Bxc6 では 21.Nxb5 できれいに一掃されてしまう。

21.cxb7 Rb8 22.Nd5!

 さらなる一撃を見舞った。ナカムラは本局では炎と燃えていて、試合はすでに終わっているようである。

22…exd5 23.Qc8+ Ke7 24.Rxa6

 両者の大駒の働きの違いを比べてみるとよい。白の狙いは 25.Rc1 である。

24…Nxg3 25.Bxb5 Ne2+

 どうにでもしてくれという手。黒は反モスクワがうまくいかない時は滅茶苦茶になることがある。

26.Bxe2 f6 27.Re6+! Qxe6 28.Qxb8 1-0


ヒカル・ナカムラにとってはかなり期待外れの状況が続いていたが、少なくともオリンピアードではよく準備ができていたし、シンクフィールド杯ではディン・リーレンを準スラブで完璧に粉砕して上々の気分で締めくくった。

*****************************

(この号続く)

2017年02月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(228)

「Chess Life」1998年10月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ホセ・ラウル・カパブランカ対エドワード・ラスカー博士、ニューヨーク、1915年

17.g4 g6 18.Kg3!?

 キングが「活動」しだしたが、たぶん時期尚早である。ストイカとニシペアヌはすぐに 18.gxf5!? gxf5 19.Ne2 と指すのが白の小駒をより速く動員する手段であると指摘している。

18…h5!

 黒はキング翼で反撃する必要がある。

19.gxf5 h4+

 ストイカとニシペアヌは 19…gxf5 の変化を詳しく分析している。その主手順は 20.Kh4 Rag8 21.Bg5+ Kf7 22.Ne2 c5 23.c3 Rg7! 24.Nf4 Rxg5! 25.Kxg5 Rg8+ 26.Kh6(26.Kxh5? は 26…Kf6! で負ける)26…Rh8+! 27.Kg5 Rg8+ で引き分けになる。19..gxf5 後のほかの変化は『チェス新報』第68巻第302局を参照されたい。

20.Kh2 gxf5 21.Ne2 b5?

 黒にとって不運だったのはここでこのポーンを突いたことだった。1手費やして自分のクイーン翼を弱め、白の白枡ビショップをもっと良い地点に追いやることになった。ストイカとニシペアヌはすぐに 21…Rag8! と指すのが正着で形勢不明の局面と指摘している。

22.Bb3 Bxb3 23.axb3 Rhg8 24.Rd1! Rad8

 白の狙いは 25.Rd5 だった。代わりに 24…c6 は 25.Nd4 にしてやられる。

25.Rxd8 Kxd8 26.Nd4 以下略、白勝ち

 ここまでの手順はラスカーが『チェスの戦略』で取り上げていて、「f5のポーンが落ちる」と言って締めくくっている。実際 27.Nxf5 で黒には望みがない。

******************************

2017年02月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(461)

「Chess」2016年10月号(1/3)

******************************

2016年シンクフィールド杯

W.ソー – H.ナカムラ
第1回戦、カタロニア布局

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5 Nc6 8.Nxc6 bxc6 9.Na3

 c6のポーンを取るのは昔から白に何ももたらさないと知られている(8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7 Qxe7 でも同じ)。しかしc4に目標を定めるのは最近かなり流行している。ナカムラは強く応じた。

9…Bxa3 10.bxa3 Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8 14.Ba3!

 この手が必然というわけでは決してないが、ポーンを犠牲にするのは良さそうな手に見える。白はクイーンを強力で締めつける地点に転回させておいて、黒枡ビショップと同じことをさせるつもりである。

14…Rxd4

 この手も勝負手に違いない。2015年レイキャビクでの欧州チーム選手権でメルクミアン対フリートマン戦は 14…Rb6 15.Bc5 Rb2 16.e3 Nd7 17.Be7 Re8 18.Ba3 Rb6 19.Bc5 Rb2 20.Qc3 Qb7 21.Ba3 Rb6 22.Rad1 Nf6 23.e4 と指し回され黒が苦戦に陥った。

15.Rfb1!?

 この手は新手だった。本局とよく似ているのは2010年ブルニャチカ・バニャでのエフィメンコ対サカエフ戦の 15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5! 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(単に 19…d4!? もありそう)20.a5 b5 21.Qe7 c5 で、すぐに合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 代わりに 16…Rd5 ならソーは 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qd2 Ne4 20.Qe3 で当面黒ポーンを止め(続いて f2-f3 と突くかもしれない)、a4-a5 と一時的にポーンを犠牲にしてルークのために素通し列を作るつもりだったかもしれない。

17.Rd1

 白は争点を維持した。17.Bxb6? と取るのは 17…cxb6(17…axb6 18.Qe5 Qd8 19.Bxc6 Rd6)18.Qe5 Nd5 となって黒が交換損の代わりに非常に指しやすくなる。

17…h6?

 この手はおかしかった。しかしナカムラは陣形をゆっくり立て直す余裕が十分あると思っていたのだろう。17…Nd5!? の方がずっと積極性があり、18.e4 Nf6 となれば白はd5の地点を永久に譲るか、e4の守りに縛りつけられるか、あるいは 19.Bf1!? Nxe4 20.Rxd7! Nxc5 21.Rxf7!? Kxf7 22.Qxc5 とでもやってみなければならない。しかしa7のポーンは落ちず 22…Qd7 23.a5 Rb7 24.Qh5+ Kg8 25.Rd1 Qe7 26.Qf3 ということになれば白に2ポーンの十分な代償がないことは明らかである。

18.Rxd7!

 やっと時機到来である。

18…Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

 ソーの指し手の意味が明らかになった。黒がポーンでなだれ込むことができるようになる前にd列から攻め込もうというのである。ここで 20…Qc7 ならd6の地点に利くが、21.Rd1 Nc5 22.Qd8+ Qxd8 23.Rxd8+ Kh7 24.Bxc6 c3 25.Rd1 となってcポーンが落ち白の勝つ可能性が高くなる。

20…c5 21.Rd1 Nf6 22.Kf1!

 非常に冷静な手で、黒の 17…h6 よりはるかに役に立っている。白はキングがcポーンに十分近いのでクイーンを交換することができる。

22…Kh7 23.Qc2+ Kg8 24.Qd2 Kh7 25.Qd8! Qxd8 26.Rxd8 c3

 黒はビショップを働かせなければならない。しかしこれでも負けを免れるには十分でない。ソーは想定局面を何の問題もないと判断した。

27.Ke1 Bc4 28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3

 黒は交換損の代わりにまだ2ポーンを得ている。しかし白のキングだけが働いていて、ナカムラは引き分けにできるだけのポーン清算をすることができない。

31…a6 32.Ra8 Nd5+ 33.Bxd5

33…exd5

 この手は見事な読みのためにあっさり負けになる。しかし 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 となって負けのようである。お互いキング翼に4ポーンがあり、黒になおcポーンがあっても白の勝勢である。35…f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 Kg6 なら 38.g4!? と突けて黒のcポーンが落ちる。

34.a5! b4+ 35.Kd2

 黒のポーンは怖そうだがソーは何も恐れていない。

35…Bf1 36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 1-0

 キングの働きが勝利をもたらした。38…Bd3 39.Rb6 f5 40.Rd6 で白の簡単な勝ちである。ただし 40.Rxa6?? には 40…b2 がある。

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2017年02月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(227)

「Chess Life」1998年10月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1

 これが主手順である。

10…Qh4

 これで白の手は自殺手だったように見える。しかし白には非常手段のしのぎの手筋がある。

11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2

 駒の取り合いが終わり棚卸しの時機である。黒は小駒2個の代わりにルーク1個とポーン2個を取って、戦力的にはポーン半個分ほど得している。しかしほかの点では白が有利である。1)黒のルークが白陣に弱点を見つけるよりも、白の小駒が黒陣に弱点を見つける方が容易である。2)黒はキング翼の多数派ポーンを動員しようとしても黒枡の差し迫った弱点のために困難を抱える。3)黒キングは素通しのd列で不安を抱えていて、すぐには安全な避難所が見つかりそうにない(14…f5?? 15.Bg5#)。

 黒はキング翼の多数派ポーンを動員するのとeポーンを守るために …f7-f5 と突く必要があるので、まずビショップを展開する必要がある。

14…Be6 15.Be3!

 白は白枡ビショップのことに注意しなければならないが、…c5 を防ぐことによりその安全を確保した。15.Nc3?! は劣った手で、黒は 15…c5! でたぶん少し優勢になる。

15…f5 16.Nc3 Ke7

 ここが洗練された收局の出発点である。重要な実戦例3局を年代順に簡潔に紹介する。

 ジークベルト・タラッシュはここで 18.Nd5+ を狙いとする 17.Rd1 を推奨した。それは90年くらい前のことで、17…c6?! なら 18.Bb6! で黒のルークがd列で活動するのを防ぐ。しかしIMのストイカとニシペアヌ(今はGM)は『チェス新報』第68巻第302局で 17…Kf7! のあと 18…Rad8 で黒が問題ないと指摘している。

ベルリン対リガ、通信戦、1906~1907年?

17.g4 g6 18.g5

 無理矢理の黒枡戦略はうまくいかない。もっとも白の本当の問題は次の手で起こる。

18…Rag8!

 黒はこれで 19…h6 でキング翼の締め付けを突破する用意ができた。エドワード・ラスカー博士は『チェスの戦略』改訂第2版(1915年)で白は 19.Rg1! で黒の意図を妨げるべきだと指摘している。

19.Bd4?! h6 20.Bf6+ Kf7 21.Bxh8 Rxh8 22.Rd1

 ここで黒の作戦の深遠な意図が明らかになった。22.gxh6 Rxh6+ 23.Kg2 は 23…c5! から 24…b5 で白のビショップが捕獲される。本譜の手でビショップは助かるが、黒にはキング翼で4対1の圧倒的な多数派ポーンができる。

22…hxg5+ 23.Kg2 Kf6! 24.Bb3

 この手で 24.Nd5+? は 24…Ke5! 25.Nxc7 Bc4 から 26…Be2 で黒キングが詰み狙いの攻撃にさらされる。そこで白はビショップの交換を急いだ。その結果生じる收局は黒チームが少し有利である。白は29手目で防御態勢を達成できたが、白チームは40手目と41手目で指し過ぎて、黒がきれいに順当勝ちを収めた。残りの手順には形勢記号をいくつか付けておくだけにする。

24…Bxb3 25.axb3 Ke6 26.b4 Rh7 27.Ne2 Rd7 28.Nd4+ Kf6 29.c3 c6?! 30.Rh1! g4 31.Rh8 Re7 32.Ne2 Rd7 33.Nd4 Re7 34.Rf8+ Kg7 35.Rd8 f4 36.Rd6 Kf7 37.Nc2 Re6 38.Rd7+! Re7 39.Rd6 Re6 40.Rd1?! Kf6 41.c4?! Re7 42.Rd4 Kg5 43.Rd6 e3!! 44.f3 e2 45.Ne1 g3 46.b5 Rh7! 47.bxc6 bxc6 48.Re6 Rh2+ 49.Kg1 Rf2 50.Nc2 Rxf3 51.Rxe2 Rd3 52.Ne1 Rb3 53.Rd2 f3 54.Nd3 a5! 白投了

******************************

2017年02月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

開放試合の指し方(164)

第10章 そのほかの布局 ジャック・ピーターズ(続き)

ビショップ布局(続き)

 この手は f2-f4 と突く作戦の失敗を認めたものである。ここで 4.f4? と突くのは 4…exf4 5.Bxf4 d5! 6.exd5 Nxd5! となって、黒キングよりも白キングの方が薄い。

 しかし 4.Nf3! は局面に合った現実的な判断を表わしている。白は実行できない作戦を放棄し、黒の …d7-d5 と突く構想の欠陥に目を向けようとしている。黒のd5とe5のポーンが弱くなることを見越して、Nc3、Bg5 から(O-O のあと)Re1 のような手でそれらに圧力をかけるつもりである。

 別の賢明なやり方は 4.Qe2!? で、eポーンに対する狙いにより黒が …d7-d5 と突くのを思いとどまることに期待することである。しかし黒はそれでも 4…d5! と突くのが良いのは、5.exd5 cxd5 6.Qxe5+ Be7 で展開が迅速に進むからである。たぶん白がポーンをかすめ取るのは危険すぎる。黒は …Nc6 または(…O-O のあと)…Re8 でクイーンを当たりにすることによりもっと手得する。

4…d5 5.Bb3

 白は 5.exd5? cxd5 6.Bb5+ でポーン得することができない。なぜなら 6…Bd7! 7.Bxd7+ Nbxd7 でe5のポーンが守られるからである。

5…Bd6

(この章続く)

2017年02月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 開放試合の指し方

「ヒカルのチェス」(460)

「British Chess Magazine」2016年9月号(2/2)

******************************

バクー・オリンピアード(続き)

ヒカル・ナカムラ 2789
ロベルト・マルクス 2662

第5回戦、米国対セルビア

 この均衡のとれた局面でマルクスは 21…Qd8? とポカを指し、 22.Nxg6! でもう終わりになってしまった。22…Nxg6 は 23.Qg3 Nde5 24.Bxe5 で白が利子付きで戦力を取り返し、途中 23…Kf7 なら 24.Rf1+、23…Kh7 なら 24.e5! で決まっている。


優勝した米国チーム(左から右へ)ヒカル・ナカムラ、ジョン・ドナルドソン(団長)、サム・シャンクランド、レイ・ロブソン、ウェズリー・ソー、ファビアノ・カルアナ

*****************************

(この号終わり)

2017年02月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(226)

「Chess Life」1998年10月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4

 ベルリン対リガ対抗戦以来これが断然の主手順となっている。その論理には非の打ち所がない。白は犠牲にしたポーンの1個を取り返し、9.Nxc6 と 9.f3 の両方を狙っている。黒は窮地に陥っているように見える。しかしリガの選手たちが独創的な戦術を用意していたのはまさにこの手に対してである。

8…Bd6! 9.Nxc6

 もう引き返すには遅すぎる。クプチク対スタイナー戦(米国、1947年[1927年?])では白は 9.Qh5?! と指した。そして 9…O-O 10.Nxc6(10.Qxd5?? Bxh2+)10…bxc6 11.Bxc6 Rb8 12.Nc3(12.Bxd5? Nf6 13.Qd1 Nxd5)12…Nf6 13.Qf3 Bxh2+ 14.Kxh2 Qd6+ から 15…Qxc6 でもっと悪い結果になった。

9…Bxh2+!

 白には選択肢が三つある。

A)10.Kxh2

 これは単純かつ明快である。黒は 10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ ですぐにチェックの千日手による引き分けにできる。

B)10.Kf1?!

 これは安全そうに見えるが、その実黒に 10…Qh4 でチャンスを与える。

 1)11.Be3?! O-O 12.Nd4 Bg4 13.Nf3 Qh5 14.Nc3(14.c3 b5 15.Bc2 Rfe8 16.Bd3 Re6 17.Be2 Rf6 も黒の攻撃が決まった[プルーン対ケレス、通信戦、1932年])14…Rad8 15.Qd3 Bxf3 16.gxf3 Qxf3 17.Nxe4 dxe4 18.Qc3 Qh3+ 19.Ke2 Qg4+ 20.Kf1 Rd5 21.Bb3 Rh5 22.f3 exf3 白投了(マローツィ対ベルガー、ウィーン、1908年)

 2)11.Nd4+ b5 12.Be3 O-O! 13.Nf3 Qh5 14.Bb3 Bg4(14…c6 も有望[レオンハルト])15.Qxd5 Bxf3 16.Qxh5 Bxh5 17.Bd5 Rae8 18.Bxe4 Rxe4 19.g3 f5 20.Nd2 Rg4 ここで 21.Kg2? f4! で黒が優勢(二ホルム対レオンハルト、コペンハーゲン、1907年)の代わりに正着の 21.Nf3 Bxg3 22.fxg3 Rxg3 でほぼ互角

******************************

2017年02月01日 コメント(2)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(459)

「British Chess Magazine」2016年9月号(1/2)

******************************

バクー・オリンピアード

セオ・スレード

ヒカル・ナカムラ 2789
ジョン・ショー 2454

第2回戦、米国対スコットランド

 ナカムラは既に優勢だったが、相手の 20…Qd6?? のおかげで 21.Bd5! でたちまち勝ちになった。

 黒が4駒で当たりになっているビショップを 21…Bd7 と引いてe8のルークにも十分な守りを利かせれば、白はもちろん 22.Bxf7+ と指す。だから黒はe6のビショップをこれ以上守れないので投了した。GMを21手で負かすとは大したものである。

1-0


ナカムラは相手のひどいポカに乗じて短手数で2局勝った

*****************************

(この号続く)

2017年01月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(225)

「Chess Life」1998年10月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅰ)8.Ne5

 白はc6のナイトに脅威を与え、e4のナイトを攻撃するためにfポーンを自由にした。だが黒にはこれぞという戦術の一発がある。

8…Bd6!

 ぴったりの受けである。8…Qf6? は 9.Nxc6 Qxf2+ 10.Kh1 Bd7 11.Nd2! bxc6 12.Nxe4 dxe4 13.Rxe4+ Kd8 14.Rxd4 Bd6 15.Bf4 c5 16.Rxd6! で黒の負けになる。

9.Nxc6

 白はチェックの千日手にしぶしぶ同意するしかない。9.Qxd4?! と取るのは 9…O-O 10.Nxc6 bxc6 11.Bxc6 Bc5 で黒が優勢になる。

9…Bxh2+! 10.Kxh2

 8.Nxd4 の場合と異なり(後述)d列がふさがったままなので 10.Kh1? は負けになる。

10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ 引き分け

Ⅱ)8.c4

 この手はe4のナイトの守りをたたくことによりそのナイトを切り崩す理にかなった着想である。『MCO(Modern Chess Openings)第12版』(1982年発行)では主手順とされていたが、ほとんど探求されていないままである。

8…dxc3e.p.

 ここからはヤネーチェク対シェフラー戦(ウィーン、1961年)の手順を追う。『ECO(Encyclopaedia of Chess Openings)』(第3版)は 8…Bb4 を改良手の候補として指摘し、9.cxd5 Bxe1 10.Qxe1 O-O 11.dxc6 Nc5 12.Qb4 という手順を示して「白が少し優勢」としている。私にはかなり形勢不明の局面に見える。

9.Nxc3 Be6 10.Nd4 Qd7 11.Nxc6 Nxc3

 11…bxc6? は 12.Nxe4 dxe4 13.Qc2 Bd5 14.Rxe4+! で白の攻撃が本当に必殺になりそうである。

12.bxc3 bxc6 13.c4

 MCO第12版はここで終わっていて「白の攻撃が強烈」としている。一方ECOのC巻(第2版)は「白に犠牲にした戦力の代償と主導権がある」としている。どちらも正しいが、13…Kd8 で究極の形勢判断はそれほど明白でない。

Ⅲ)8.Bg5

 白は黒クイーンを当たりにすることにより別の駒を先手で攻撃に繰り出した。この手はヨハン・ベルガーがリガ戦法を咎める手の追究で1909年に初めて指摘した。

8…Be7

 理にかなっているのはこの手だけである。黒は展開を進め、攻撃駒との交換は歓迎する。ほかの手はかなり劣る。

A)8…f6? は 9.Nxd4! Bc5 10.Nxc6 Bxf2+ 11.Kf1 Qd7 12.Nc3! O-O 13.Nxd5 bxc6 14.Bxc6 fxg5 15.Bxd7 となって白が大きな戦力得で決定的な形勢である(ECO C巻[第2版])。

B)8…Qd6?! は 9.c4! dxc3e.p.(9…Be6 は 10.cxd5 Bxd5 11.Nxd4 f6 12.Nxc6 bxc6 13.Nc3 O-O-O 14.Nxe4 Bxe4 15.Qg4+ f5 16.Qe2 Bd3 17.Qe3 で黒陣は滅茶苦茶である)10.Nxc3 Be6 11.Nxe4 dxe4 12.Nd4! Qd5(12…b5 なら 13.Rxe4! bxa4 14.Qxa4 Qd5 15.Re5!、12…Be7 なら 13.Bxe7 Kxe7 14.Bxc6 bxc6 15.Rxe4 でどちらもはっきり白が優勢)13.Qc2 Bd6 14.Bh4! b5 15.Nxe6 fxe6 16.Bb3 Qc5 17.Qxc5 Bxc5 18.Rac1 となって白が勝勢の收局に近い。以上の変化はどれもJ.ベルガーによる。

9.Bxe7 Kxe7

 こう取る必要があるがそんなに悪くない。c6のナイトは釘付けからはずれ、キャッスリングしないキングには適度に安全な居場所が見つかる。「自然」な 9…Qxe7?! は 10.Nxd4 O-O 11.Bxc6 bxc6 12.f3 c5 13.Nc6(13.Nb3 c4 14.Nd4 c5)13…Qd6 14.Qxd5! Nf6! 15.Qxd6 cxd6 16.Rd1! で不利な收局になる。

10.c4

 10.Bxc6 bxc6 11.Nxd4 Kf8! 12.f3 Nf6 13.Nxc6 Qd6 の局面は1921年のクラウセの分析によるとほぼ互角のいい勝負となっている。これは正しそうである。

 本譜の手で白はまた主眼のd5とe4の切り崩しを目指している。ここからはGMビクトル・コルチノイの分析手順を追う。

10…dxc3e.p. 11.Nxc3 Be6 12.Bxc6 bxc6 13.Nd4 Nxc3 14.bxc3 Qd7 15.Qg4 c5 16.Nf5+ Kd8 17.Qxg7 Re8 18.Qxh7

 コルチノイはこの局面を白が少し優勢と判断している。戦術の要点は 18…Bxf5 に 19.Rxe8+ の切り返しがあることである。

******************************

2017年01月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(458)

「Chess」2016年9月号(1/1)

******************************

ビルバオ・マスターズ
ビルバオでヒカル・ナカムラがついにマグヌス・カールセンから初勝利

M.カールセン – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Ne2 d6 3.Nbc3 a6 4.g3 g6 5.Bg2 Bg7 6.d4

 閉鎖シチリアからフィアンケット・ドラゴンまでカールセンは本当にほとんどどんな種類の局面でも指しこなす。

6…cxd4 7.Nxd4 Nf6 8.O-O O-O 9.b3

9…Nc6

 9…Bg4!? の方がもう少し厳しい感じがする。その意図は …Qc8 から …Bh3 で、10.f3 Bd7 11.Bb2 Nc6 となれば白は有利なようにc6での陣形を変えることができない。

10.Nxc6!

 普通はこのような交換は良くないとされる。しかしここでは黒が …a6 に1手かけていて、白には Bb2、Na4 そして c4 で締めつける単純で効果的な作戦がある。

10…bxc6 11.Bb2 Qa5 12.Na4 Bg4 13.Qe1!

 これに対して 13…Qxe1 なら 14.Raxe1 Nd7(e4-e5 突きが当たりにならないようにする)15.f4 Bxb2 16.Nxb2 f6 17.c4 で白が優勢になる。しかしナカムラはすぐに次の果敢な手を悔やむことになる。

13…Qh5?! 14.f3 Bh3 15.g4!? Qh6 16.Rd1 g5

 愚形になるが黒はキング翼で動く余地がなくなりかけていた。

17.Bc1 Bxg2 18.Kxg2 Qg6

19.h4?!

 カールセンにしては珍しく頭にかっと血がのぼった。彼は大会の出だしは必ずしも良くない。19.c4 なら本筋だったし、19.Nb6 から Nc4 なら局面を支配している。

19…gxh4! 20.Qxh4 d5!

 ナカムラは好機をとらえた。黒はこれで持ち直したが、カールセンはまだ現実に気づいていなかったようである。

21.g5? dxe4! 22.f4 e6!

 これで簡単に受かっている。白は世界チャンピオンかもしれないが、指し過ぎでポーン損になる。

23.c4 Rfd8 24.Rde1 Ne8 25.Nc5 Nd6 26.Qf2

 カールセンはまだ盤上の一部を抑えているが、ナカムラはゆっくりと白の切り札をそいでいくことに満足する。

26…f5 27.Bb2 Nf7 28.Bxg7 Kxg7 29.Qg3 Rd6 30.Rd1 Rad8 31.Rxd6 Rxd6 32.Qc3+ Kg8 33.Rf2 Qh5!

 白のナイトはc5の好所に居座り続けているが、キングの守りからは離れている。

34.Qh3 Qd1 35.Qe3 e5!

 必殺の反撃第二波の始まり。

36.Qg3 Rg6 37.Kh2 exf4 38.Qxf4 Qh5+ 39.Kg1 Qd1+ 40.Kh2 Qh5+ 41.Kg1 Nxg5 42.Qb8+ Kg7 43.Qe5+ Kh6 44.Qf4 Qd1+ 45.Kh2 Qd4 46.b4 Kg7 47.Qc7+ Kh8 48.Qc8+ Rg8 49.Qxf5 Nf3+ 50.Kh3 Qd6 0-1


ナカムラは黒でカールセンに勝ったあと何も危険を冒さないようになった。

*****************************

(この号終わり)

2017年01月20日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(224)

「Chess Life」1998年10月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀

 以前の本稿である局面をより深く理解することがどのように白にとっても黒にとっても布局戦法の復活につながってきたかを話題にした。今回は戦術と洗練された戦略の機会を与えてくれる戦法を取り上げる。この戦法は現代のチェスの舞台ではほぼ完全に忘れ去られている。

 私の考えではこの戦法は「見かけより優秀」で、言い換えれば定跡での評判より優秀である。以下の事実は人気のなさを示している。『チェス新報C巻』の初版(1974年)では2行と8脚注が割り当てられていた。第2版(1981年)ではまだ同じ2行と8脚注だった。それが第3版(1997年)ではたった1行だけになった。

 これ以上気をもたせないように言ってしまうと、それはルイロペスのリガ戦法(C80)である。この名前は1906~1907年(資料によっては1907年だったり1908~1909年だったりする)に行われたベルリン対リガの通信戦からきている。通常の手順は次のとおりである。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

 この局面は黒にとってこの上なく危険そうに見え、実際そのとおりである。黒は展開が遅れ、キングが元の位置で動かないままで、両方のナイトとも釘付けにされている。(実際同時指導対局で何回かこのような局面から簡単に勝ったことがある。)しかしリガの選手たちは黒の創造的な戦術の可能性を発見し、そのことでこの戦法が(定跡で)生き延びることになった。

 白の順当な手はⅠ)8.Ne5、Ⅱ)8.c4、Ⅲ)8.Bg5、Ⅳ)8.Nxd4 の4とおりある。最後の2手がより重要で、それらに重点をおき、残りの2手は簡単に手順を示すだけにする。

******************************

2017年01月18日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(457)

「Chess Life」2016年8月号(1/1)

******************************

お楽しみチェス
究極のブリッツ決戦大会 次の一手

第2問
GMウェズリー・ソー
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第4問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第5問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 白の手番

解答

第2問 39…Bd4! のあと 40…a2 で黒にクイーンができる(すぐに 39…a2?? は 40.Be5)。

第4問 60…h5?? は 61.Kc5! から 62.a5! で駄目である。実戦は 60…Ke5! 61.Bh1(61.Bxh7 なら 61…g3!)61…Kd6! 62.a5 Kc7! 63.Kc5 g3 で黒が勝った。

第5問 白は 34.Nxg5 Qxd3 35.Nxd3 で勝った。しかし 34.Nh4! Qxd3 35.Ng6+! の方がはるかに速い(35…Kh7 なら 36.Nxf8+、35…Kg8 なら 36.Nxe7+)。

*****************************

(この号終わり)

2017年01月13日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(223)

「Chess Life」1998年9月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4 Bd7 10.O-O-O

B.10…Qa5 [B79]
ナン対ウォード(ヘイスティングズ、1997~98年)

11.h4 Rfc8 12.Bb3 Ne5

 『チェス新報 』の初版が出版された1975年でも黒はこう指すのが良いと考えられていた。しかし一番の否定面はc列での黒の反撃開始が1手遅いということである。二番目は黒のキング翼ルークがキング翼からいなくなっているということである。

13.h5! Nxh5 14.Nd5!

 黒にとって意外で不快な事態の変転である。クイーン無し中盤戦を強いられ、白にだけ攻撃の可能性があり、白は好きな時に犠牲にしたポーンを取り返すことができる。

 白のもっと野心的な作戦は黒にとって楽である。つまり 14.Bh6? Bxh6(14…Nd3+! も良い手である)15.Qxh6 Rxc3! 16.bxc3 Nf6! は黒が好条件で主眼の …Rxc3 の交換損をやってのける(既に黒が少し優勢)。代わりに 14.g4 Nf6 15.Bh6 は 15…Rxc3! 16.bxc3 Bxh6 17.Rxh6 Rc8 でほぼ互角だが、黒の選手が望んでやまないたぐいの動的な局面である。

14…Qxd2+ 15.Rxd2 Kf8 16.g4 Nf6 17.Rdh2!

 白はキング翼での圧力を強め、これからの難儀を最小限にする最良の方策について黒を五里霧中にさせた。

17…Nxd5 18.Bxd5 Nc6

 18…Rc7 に対してナンは 19.Rxh7 Rac8 20.c3 を示している。白の攻撃は危険を「伴わない」し、戦力も互角である。本譜の手は駒交換によって白の攻撃力をそぐ理にかなった目的だが、黒の攻撃の可能性を完全に殺す欠点もある。

19.Nxc6 bxc6 20.Bc4 h6

 この手は黒枡ビショップ同士の交換を実現させるが、局面を白ルークのためにさらに開放することになる。しかし 20…Be6 21.Bxe6 fxe6 では 22.Bh6 で白の優勢は変わらない(ナン)。

21.Bxh6 Bxh6+ 22.Rxh6 e6

 22…e5 は 23.Rh7 Be8 24.g5 Rd8 25.Rh8+ Ke7 26.R1h7 で良くない。そして 26…d5?! と突くと 27.exd5 cxd5 28.Rxe8+! Rxe8(28…Kxe8 でも 29.Bxd5!)29.Bxd5 で白がはっきり優勢になる(ナン)。

23.f4! Ke7 24.e5

 24.f5 も良い手である。本譜の手で白は攻撃を継続する前にさらに締めつけようとしている。

24…dxe5?!

 黒は 24…d5 で局面を閉鎖的に保った方がもっと抵抗の見込みがあったと思う。

25.fxe5 a5?!

 この手と次の手を指している余裕はない。ナンは守勢の防御の 25…Rg8 26.Rh7 Be8 27.Rf1 Rb8 の方が黒が持ちこたえる可能性があったと指摘している。しかし 28.b3 から白キングが出てくるので黒にとって嫌な局面である。

26.Rh7 a4?! 27.Rf1 Be8 28.Rf6! Ra5

 これではなすところなく負ける。しかし意図していた 28…Kd8 と逃げる手は 29.Bxe6! fxe6 30.Rxe6 Rcb8 31.Rd6+ Kc8 32.Re7 でひどいことになる。

29.Rxe6+ Kd8 30.Rd6+ Ke7 31.Re6+ Kd8 32.Rf6! Rxe5 33.Bxf7 Ke7

 33…Rc7 には最も単純な 34.Bxg6 で良い。

34.g5! Rxg5 35.Re6+ Kf8 36.Bxe8 黒投了

 最後に以下のコメントを付け加えたい。GMジョン・ナンはここ20年間で最も偉大な攻撃的選手の一人である。彼は複雑さを避けることもなければ捨て駒を避けることもしない。それでも最大の得点をあげる重要なやり方は、何の危険もなく危険な攻撃ができるならばどうして紛糾させるのか、ということである。

******************************

2017年01月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(456)

「Chess」2016年8月号(4/4)

******************************

2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – M.カールセン
ルーベン大会、快速戦、2016年
ラゴージン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Bb4 5.Qa4+ Nc6 6.e3 O-O 7.Qc2 Re8 8.Bd2

8…e5

 黒の前手の意志をついだと思われる手だが、先回りして 8…Bf8 と受けた方が良かったかもしれない。

9.dxe5 Nxe5 10.cxd5 Nxf3+ 11.gxf3

 ここで黒が 11…Bxc3 と取れば 12.Bxc3 Qxd5 13.Rg1!? Qxf3 14.Rg3 Qc6 15.O-O-O で白がポーンの代償に主導権を握る。しかしカールセンの指した手よりははるかに良い。カールセンの指したポカが分かるかな?

11…Nxd5?? 12.Nxd5 Qxd5

 これではb4のビショップをただ取られるが、12…Bxd2+ でも 13.Qxd2 で白の駒得である。

13.Bxb4 Qxf3 14.Rg1 Bf5 15.Qe2 Qe4 16.Bc3 Bg6 17.Qc4 1-0

(クリックすると全体が表示されます)


チェスがルーペンの15世紀の市庁舎のような立派な舞台でもっと行えたらいいのだが。ここはカールセンでさえ当初その荘厳さに圧倒されているようだった。

*****************************

(この号終わり)

2017年01月06日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(222)

「Chess Life」1998年9月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4

 白は 9.O-O-O の戦型で 9…d5!? のために多大の困難を抱えていたので、本譜の手が 9…d5 を防ぎf7の地点をにらむ「一石二鳥」の手として1956年に登場した。黒は白枡ビショップを展開してからc列での反撃のためにルークをc8に回すのが良い。c4のビショップが浮いているので黒は貴重な先手がとれる。

9…Bd7 10.O-O-O

A.10…Rc8 [B78]
アーナンド対カスパロフ(1995年GMA(グランドマスター協会)世界選手権戦第11局)

11.Bb3 Ne5 12.h4 h5

 ドラゴン通は1手をかけキング翼を弱めてでも白のhポーン突きを防がなければならないと断定してきた。代わりに 12…Nc4 は 13.Bxc4 Rxc4 14.h5! Nxh5 15.g4 となって攻撃の可能性があるのは白の方だけで、典型的なドラゴン選手にとっては絶対面白くない状況である。

13.Kb1!?

 カスパロフが公式戦でドラゴンを採用したのはこの試合が初めてだったので、アーナンドは当然のことながらとてつもなく複雑な戦型の 13.Bg5 Rc5 に進むのを警戒した。

 いずれにしても私の考えでは「気持ちよく」攻撃する局面にしたい者にとって本譜の手と15手目に関連した構想は大いに有効である。黒は1手損をし自分のキング翼を 12…h5 で恒久的に弱めた。一方白はキングを安全にする余裕が少しあったし攻撃も続けている。

13…Nc4 14.Bxc4 Rxc4 15.Nde2!

 この退却には目的がいくつもある。白は黒からの早い …Rxc3 の交換損を防ぎ、16.Bh6 で黒枡ビショップ同士の交換を狙っている(すぐの 15.Bh6? には 15…Rxd4! があるので駄目である)。

15…b5 16.Bh6 Qa5 17.Bxg7 Kxg7 18.Nf4

 過激な 18.g4!? は 18…hxg4 19.h5 gxf3 20.hxg6 fxg6 で形勢不明である。本譜の手は少し危険があっても主導権を発揮するという白のこれまでの指し方の精神により合致している。

18…Rfc8 19.Ncd5! Qxd2

 カスパロフはここで引き分けを提案した。アーナンドは4分考えて受諾しなかった。カスパロフは勝てそうにはとても思えずこれからの收局にいくらか不安を感じていたと言って間違いない。実際そのとおりである。e4のポーンのおかげで白は中央が広く、e7のポーンにはいくらか圧力がかかっていて、白にはあとでクイーン翼の多数派ポーンを発展させる見通しがある。

 あとでカスパロフは次のような鋭い変化を指摘した。19…b4!? 20.Nxe7 Rxc2 21.Qxd6 b3! 22.axb3 Rxb2+ 23.Kxb2 Qc3+ 24.Ka2 Rc5 25.Qxc5 Qxc5 26.Ned5 そしてこの局面を「形勢不明」と判断した。しかし実戦で彼がこの危険を冒したくなかったのは注目に値する。

20.Rxd2 Nxd5 21.Nxd5 Kf8 22.Re1 Rb8

 黒は反撃を探し続けて何も見つけられないでいる。

23.b3 Rc5 24.Nf4 Rbc8 25.Kb2 a5 26.a3 Kg7?!

 黒キングは中央に近い所にいるべきだった。26…Ke8 なら筋が通っている。もっとも 27.Re3 に黒は b3-b4 の可能性に用心しなければならず、何も見落としをしないよう注意しなければならない。

27.Nd5 Be6?

 カスパロフは反撃のきかない守勢の局面が嫌いである。これが異筋の本譜の手に打って出た説明になる。黒は控え目で注意深い 27…Kf8 と指す必要があった。

28.b4?

 ここからアーナンドの自滅が始まった。明らかに 28.Nxe7 が強手で、カスパロフの読み筋の 28…Re8 29.Nd5 Bxd5 30.b4 axb4 31.axb4 Rc4 32.Rxd5 Rxb4+ には 33.Kc3!! Rc4+ 34.Kb3 Rec8 35.Re2 Rc3+ 36.Kb2 で 37.Rxb5 または 37.Rxd6 で重要なポーンが取れる。

28…axb4 29.axb4? Rc4 30.Nb6?? Rxb4+ 31.Ka3 Rxc2!! 白投了

 32.Rxc2 Rb3+ 33.Ka2 Re3+ で黒がルークを取り返し完全に2ポーン得になる。

******************************

2017年01月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(455)

「Chess」2016年8月号(3/4)

******************************

2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – V.トパロフ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 危険なポーンと双ビショップのある黒が優位に立っている。だから白はe8のルークを取るよりもっと何かをしたいところである。

26.Rxg7+!?

 客観的には負けになる手であるが、白は攻撃するしか助かる道は望めない。ここで黒の選択は重大である。

26…Kh8?

 逃げ方を間違えた。26…Kf8 が正解で、27.f6 Bxe2 28.Rxh7 なら冷静に 28…Kg8 29.Rg7+ Kh8 でよい。

27.Rxf7 Bxe2

 白の狙いを見逃した。しかし機械の示す唯一の助かる希望(27…Bc4 28.Rxb7 Ba6)を見つけることはブリッツ戦では不可能に近いだろう。

28.Nf6

 詰みの狙いがあるので白が交換得になる。

28…Rc7 29.Rxc7 Bxc7 30.Nxe8 Bg3

 この局面でもまだ難しそうである。しかしナカムラは一連の強手とすごい幸運のおかげで勝った。

31.e5!

 強手その1。31…Bxe5 なら 32.Re1 で危険な敵ポーンを取り除ける。

31…Bb5 32.Nd6 Bd3 33.Nxb7?

 ここでは 33.f6! が正着だった。e5のポーンはタブーだし[訳注 33…Bxe5 34.Nf7+]、33…e2 なら 34.e6! Bxd6 35.e7 Bg6 のとき白は冷静に白のeポーンを取り除けるし 36.Rc1! とさえ指せる。

33…e2 34.e6 Bxf5 35.e7 Bg6 35.b5!?

 強手その2。状況は思わしくないしこの手さえ最も正確とは言えないが、ナカムラはクイーン翼の多数派ポーンを最大限に利用しなければと認識している。

36…Kg8

 トパーロフはこの機会にキングを働かせてすぐに優位に立ち始める。

37.a4 Kf7 38.a5 Bc2 39.Nc5!

 強手その3。白は …Bd1 の狙いに対処する手段を見つけた。しかしいずれにしてもまだ負けている。

39…Kxe7 40.b6 axb6 41.axb6 Kd6 42.Rc1 1-0

 そしてここで強手その4だ。白は強手のような手にもかかわらず全面的に圧倒されてきたようだが、トパロフがポーンを8段目に進めたまま時計を押した時、ナカムラは冷静に勝ちを主張することができた(ポーンを昇格駒で置き換えないのはブリッツでは不正着手になる)。


パリ大会での紫色を基調にしたプロの戦士たちに非常にふさわしい対局場。左下のヒカル・ナカムラはレボン・アロニアン戦の対局開始を待っているところで、パリ大会で危なげなく優勝した。

*****************************

(この号続く)

2016年12月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(221)

「Chess Life」1998年9月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅰ.9.O-O-O [B76]
GMファン・デル・ビール対GMティビアコフ(ベイクアーンゼー、1994年)

 この明快な手が最も初期の手だった。白はキングを比較的安全な所に移し、10.h4 からh列を素通しにするように努める。これは黒がキング翼ビショップをフィアンケットするのにgポーンを突かなければならず白の h4-h5 突きにさらされるということにも助けられている。

 私の考えでは黒は白の狙いに精力的に反応する必要がある。黒を持つ選手の中にたとえ 9…Nxd4 10.Bxd4 Be6 や 9…Bd7 で指せるということを示そうという者がいても、私の評価ではそれらの手は「得るものより失うものの方が多い」。

9…d5!?

 黒を死地から引っ張り上げたのはこのポーン捨てで、1955年頃のことだった。

10.exd5

 当時も今もこの手が普通である。それでもここ2、3年は白側の選手が 10.Qe1 や 10.Kb1(10…dxe4?? は 11.Nxc6 で黒の負け)を試している。

10…Nxd5 11.Nxc6 bxc6 12.Bd4

 欲張ってはいけない。つまり 12.Nxd5 cxd5 13.Qxc5 Qc7! 14.Qxa8?(14.Qc5 Qb7 は黒に完全にポーンの代償がある)は、14…Bf5 15.Qxf8+ Kxf8 16.Rd2 h5! となって、クイーンと双ビショップが白のクイーン翼をにらんでいるので黒が優勢である。

12…e5!

 ドラゴンを指すなら初志貫徹すべきである。12…Nxc3 13.Qxc3 Bh6+ 14.Be3 や 12…Bxd4 では引き分けを目指してはいつくばることになる。

13.Bc5 Be6!

 黒枡ビショップの斜筋がふさがっているのでここで 13…Re8?! は 14.Nxd5 cxd5 15.Qxd5 で白が比較的安全にポーン得になる。これに対して本譜の手のあと 14.Bxf8?! と取るのは 14…Qxf8 と取り返されて黒に交換損の代償がいっぱいある。それらは急所の黒枡の支配、b列での有望な作戦、そして目下の 15…Bh6 の狙いである。

14.Ne4! Re8! 15.h4

 白は黒の中央での反撃を無効にし 16.h5 でh列を素通しにする用意をした。黒は次の3手のどれかでそれを防がなければならない。

 (1)15…h5 は恒久的にg5の地点を弱める。ティビアコフは 16.Kb1、16.g4 そして 16.Ng5 を白が優勢を目指すための本筋の手段としてあげている。

 (2)15…h6 はキング翼全体を恒久的に弱める。それにつけ込んだお手本がエールベスト対マリン戦である(カルカッタ、1997年)。16.g4 Qc7 17.g5! h5 18.Bc4 Red8 19.Qf2 a5 20.a4! Qb7 21.Rhe1! Rab8 22.b3 Nf4 23.Bxe6 Nxe6 24.Nf6+ Bxf6 25.gxf6 Rd5 26.Bd6 Rd8 27.Bxe5 Qb4 28.Rxd5 cxd5 29.Bb2 d4?! 30.Rxe6! fxe6 31.Qg3 Kf8 32.Kb1 Qb7 33.Qxg6 Qf7 34.Ba3+ Ke8 35.Qh6 e5 36.Qg5 Rd5 37.Qf5 Kd8 38.f4 d3 39.cxd3 Rd4 40.Be7+ Kc7 41.Qxe5+ 黒投了。『チェス新報』第69巻第213局にGMエールベストの詳細な分析が載っている。

 (3)15…Nf4 が実戦の手である。

15…Nf4

 この応手が良いとされている。黒は少し劣勢の收局を甘受してでも白の攻撃の機会を削減する気である。白が拒否する理由はない。

16.g3 Qxd2+ 17.Rxd2 Nh5 18.g4 Nf4 19.h5 Bd5 20.hxg6 fxg6!

 黒はf3の地点に対してf列で反撃策を作り出しながらh列を閉鎖したままにできることを望んでいる。20…hxg6?! は劣っていて、21.Be3! Ne6 22.Bd3! で白の攻撃が危険なものとなる(ファン・デル・ビール)。

21.Rdh2 h6 22.Rf2 Ne6 23.Be3 Rf8! 24.Nd2 Nf4 25.Bc4 Rf7 26.Rd1 Rb8 27.Bb3 a5 28.Ne4 Rbf8?!

 28…Bxb3 29.axb3 Nd5 30.Bc5 ならファン・デル・ビールによれば白の優勢はほんのわずかだった。

29.c4! Bxe4 30.fxe4 Kh7

 30…Nd3+ は 31.Rxd3 Rxf2 32.c5+ Kh7 33.Bxf2 Rxf2 34.Rd6 となって明らかに白の方が優勢である。

31.c5 Rb7?! 32.Rd6 Rc8 33.Rfd2! Rcc7 34.Ba4 Bf8! 35.Rxc6?! 引き分け

 白は残り時間が少なくて引き分けに同意した。ファン・デル・ビールは『チェス新報』第59巻第251局にGMジョン・ナンによるものとして次の決定版の分析を載せている。35.Kd1!! Bxd6 36.cxd6 Rc8 37.d7 Rd8 38.Bxc6 Rbb8 39.Bc5 これで白はほぼ勝勢である。

******************************

2016年12月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(454)

「Chess」2016年8月号(2/4)

******************************

2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

V.クラムニク – H.ナカムラ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 局面はナカムラがクイーンをe4からちょっと進めたところである。確かに黒はポーン損だが異色ビショップは攻撃側に有利に働くことを決して忘れてはいけない。

33.Bg3?

 Qf4 とは指せない。しかしいずれにしても時間に追われてこの局面に対処するのはたいていの者にとって至難である。それはそれとして、黒からの狙いはどうせまだないのだから白は足踏みをしてもよかった。33.Qb8+ Kh7 34.Qe5 としておけば 34…Bd5 には 35.Qf5+ Kg8 36.Qc8+ で棚ぼたの引き分けになる。33.b4 も同様の趣旨で、33…Bg6(33…Bd5?? 34.Qe8+ Kh7 35.g6# という白のわなを避けた手)には 34.Qe3 と指せる。

33…Bd5 34.Qe8+ Kh7 35.g6+ Kh6 36.Qh8+ Kxg6 37.Qe8+ Kh7 0-1

 白はチェックが尽きてg2が守れない。

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年12月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(220)

「Chess Life」1998年9月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く

 攻撃は好きだが明快な戦略に基づいていたいなら、1.e4 に対する黒としてシチリア防御ドラゴン戦法をお勧めする。フィアンケットされたキング翼ビショップには中央で戦術の題材がいろいろとあり(特に白のd4のナイトに関するもの)、白がクイーン翼にキャッスリングすれば(人気断トツの作戦)キング翼ビショップの利きがずっと白のクイーン翼まで届く。

 しかし本稿の目的は白にも両方いい手法を示すことである。その意味するところは白が活気のある局面を保持し黒の猛襲を最小限にできるということである。40年以上に渡る最も重要な戦型はユーゴスラビア攻撃で、今日でも流行している。

 次の手順がユーゴスラビア攻撃の出発点である。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6

 両者の作戦概要ははっきりしている。

 はクイーン翼にキャッスリングし、hポーンを突き進めてh列を素通しにし、黒枡ビショップ同士を交換することにより黒のキング翼を弱体化させる。

 は自分が詰まされないうちに白キングを攻撃する必要がある。その攻撃は通常は半素通しc列を利用して行われる。

******************************

2016年12月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(453)

「Chess」2016年8月号(1/4)

******************************

2016年グランドチェスツアー第1・2戦

F.カルアナ – H.ナカムラ
パリ大会、快速戦、2016年

 両者とも快速戦の最終対局で勝とうとして全力を傾けてきた。ここで 45.Rc7! Bd8 46.Rc8 Ra2+ 47.Kg3 Bb6 はブリッツ戦だけにカルアナとしても非常に怖く見えたに違いない。しかし驚いたことにここでは白の勝勢だった。48.Ng5! Bf2+ 49.Kg2 Be3+ 50.Kh1 Ra1+ 51.Bf1!(妙手)

51…Rxf1+ 52.Kh2 Bxf4+(52…Bb6? 53.Rb8)53.Kg2 Bxg5 54.Kxf1 Kf7 55.d8=Q Bxd8 56.Rxd8

45.Re1 Kf7 46.Ng5+ Bxg5 47.fxg5 Rd6

 危険なパスポーンを手中に収めた。ここではもう勢いは明らかに黒の方に振れていた。しかし解説者たちはまだ引き分けに終わるだろうと予想していた。

48.Re5 Rxd7 49.Rxb5 Rxd3 50.Rb6 Bf3+ 51.Kh2 Be4

 黒は少し駒の働きに優り、自分から米国ナンバーワンの地位を奪った男を負かそうとするナカムラの決意にも助けられていたことは確かである。しかしもちろんまだ引き分けに終わるはずだった。

52.Bf1 Rd1! 53.Bc4+ Kg7

54.b5??

 カルアナはナカムラが巧妙に張ったクモの巣に気がつかなかった。ここは 53.Kg3 と指さなければならなかった。

54…f4

 あらま。突然白は詰みを避けられなくなった。

55.Kh3 Bf3 0-1

*****************************

(この号続く)

2016年12月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(219)

「Chess Life」1998年7月号(6/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 5)2…h6! 3.Bh4 c6!

 私はこのやり方こそホッジソン攻撃を指す楽しさのほとんどを取り去ると考えている。黒は全然代価を払うことなく白のビショップをg5より劣る地点(このビショップにとってはe1-h4の斜筋よりもc1-h6の斜筋の方が有用である)に追いやり、本譜の手のあと 4…Qb6 で白のbポーンを脅かす用意をしている。4…Qb6 は先手になりeポーンを釘付けからはずして黒枡ビショップを本来の斜筋に沿って展開できるようにする。黒の作戦には戦略上も戦術上も欠点がない。

 グランドマスターの中には 2…c6 から 3…h6 という手順の方を好む者がいる。私には本譜の方がわずかに正確に感じられる。ビショップをf4に置く機会を白に与えないからで、すぐに 3.Bf4 は明らかに無害である。

 5A)4.Nf3 Qb6 ホッジソン対アディアント(アムステルダム、1996年)

5.b3

 こう突くとクイーン翼がいくらか弱体化する。しかし 5.Qc1 だと 5…g5!? 6.Bg3 g4 7.Ne5 Qxd4 というようにdポーンを取られる恐れがある。デュールース対ボルゲ戦(レイキャビク、1996年)では黒は中央での優位と働きに優る駒で次のようにはっきり優勢になった。8.Nd2 Nd7!? 9.c3 Qb6 10.Nxg4 h5 11.Ne5 Nxe5 12.Bxe5 f6 13.Bf4 e5 14.Be3 c5 15.f3 Be6 16.Bf2 O-O-O 17.Qc2 Kb8 18.O-O-O Ne7 19.Kb1 Bh6

 もちろん 5.Qc1 に対して 5…Bf5 と堅実に展開を図れば、まったく理にかなっていて完全に互角を目指す満足できる手段となる。特に明快な局面の方を好む者にとってはうってつけである。

5…Bf5 6.e3 e6 7.Bd3 Bxd3 8.Qxd3 Nd7 9.O-O Be7 10.Bxe7 Nxe7 11.c4 O-O 12.Nc3 Qa6

 ここを手始めにアディアントはクイーンとナイトの配置を誤った。12…Rfd8 から 13…Rac8 ならほぼ互角である。

13.Rfd1 Nb6?!

 ホッジソンは 13…Rfd8 には 14.Rac1 で互角の形勢としている。本譜で白は巧みな捌きで優勢な收局を築き見事な勝ちを収めた(『チェス新報』第67巻第449局にホッジソンの解説が載っている)。

14.Rdc1! dxc4 15.Qf1 Nd7 16.bxc4 c5 17.d5 Rad8 18.Rab1! exd5 19.cxd5 Qxf1+ 20.Kxf1 b6 21.a4 f5 22.a5 Nc8 23.Nb5! bxa5?! 24.Nc7! Rf7 25.Rb5 Ncb6 26.Rxa5 Nf6 27.Rcxc5 Rdd7 28.Rxa7 Nfxd5 29.Nxd5 Rxd5 30.Rcc7 Rxc7 31.Rxc7 Nd7 32.Nd4 Nf6 33.Ra7 g6 34.h4 f4? 35.Nc6! Rd7 36.Rxd7 Nxd7 37.exf4 Nc5 38.Ke2 Kg7 39.Nd4 Nb7 40.g4 Nd6 41.Kf3 h5 42.g5 Kf7 43.f5! gxf5 44.Kf4 Kg6 45.f3 Nb7 46.Nxf5 Nc5 47.Nd4 Nd3+ 48.Kg3 黒投了

 5B)4.e3 Qb6 アダムズ対ピケット(ベイクアーンゼー、1996年)

5.Qc1

 白のdポーンは安全だが、別の戦術の可能性が頭をもたげている。それは守られていない状態のh4のビショップである。だから黒はすぐに 5…e5!? と突くことができる[訳注 6.dxe5 なら 6…Qb4+]。5.Qc1 でなく 5.b3 なら黒にはやはり意欲的な 5…e5!? と堅実な 5…Bf5 の選択肢がある。これらのどの場合でも黒がいずれ正当な互角を期待する理由が十分にある。

 この試合はどこかでほんのわずかの進展を白が図るのも防ぐ黒のやり方を絵に描いたように完璧に見せつけてくれる。

5…Bf5 6.Nf3 e6 7.Be2 Nd7 8.Nbd2 Be7 9.Bxe7 Nxe7 10.c4 O-O 11.O-O a5!

 白がクイーン翼で陣地を広げるのを防いだ。

12.b3 Rfc8! 13.Qa3 Qd8! 14.Rfc1 Bg6 15.Qb2 c5!

 黒は中央での対等な関係を達成した。

16.cxd5 Nxd5 17.dxc5 Rxc5 18.Rxc5 Nxc5 19.Qd4 Qf6! 20.Rc1 引き分け

******************************

2016年12月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(452)

「Chess Life」2016年7月号(1/1)

******************************

米国選手権戦

自戦解説 GMファビアノ・カルアナ

シチリア防御スヘフェニンゲン戦法 (B80)
GMファビアノ・カルアナ(2870)
GMヒカル・ナカムラ(2861)
米国選手権戦第4回戦、ミズーリ州セントルイス市、2016年4月17日

 大会優勝は明らかに第4回戦でのナカムラ戦の勝利に負うところが大きかった。激戦になると覚悟していたが、あとでナカムラが背水の陣でこの試合に勝たなければならないと考えていたことを知った時には驚いた。大会のこんな早くにそんなことはあるはずもなかった。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5!?

 ナイドルフ戦法は長年ナカムラの常用戦法の主柱を成してきたので大して驚かなかったが、この 7…h5 というまれな戦型は予想していなかった。黒は g2-g4 突きを防いで白の攻撃を一筋縄ではいかないようにする。その一方で黒のキング翼は弱体化してキングはたぶん長い間中央に居続けるだろう。だからこの戦略にはある程度の危険性がある。

8.a4

 これは大した手ではないが私としてはなにか新機軸を打出してみたかった。主流手順は 8.Qd2 と 8.Bc4 である。

8…Nc6 9.Bc4

 9.Be2 でスヘフェニンゲン模様を目指すのもあるが、私はもっと攻撃的に指してみたかった。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5 12.Bb3 Bd7

 ここで私は長考に入った。黒は続いて …Rc8 から …Nc4 と指してくる。そして私にはどちらのビショップを交換するかの選択肢がある。b3のビショップの方がずっと大切に思えたので交換することにしたのは…

13.f4 Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3

 黒は双ビショップになったが、こちらには f4-f5 から黒の白枡の弱体化を目指す反撃策が豊富にある。

15…Qc5?!

 対局後ナカムラはこの手を反省した。対局中私には自然で強い手に感じられたが、貴重な手を損したという彼がたぶん正しいのだろう。

 黒はすぐにキャッスリングすることができた。15…O-O-O に 16.f5 と突いてくれば 16…d5 と突き返してc7のクイーンの利きがh2に通る。

16.Rad1

16…g6?!

 この手こそ本当に手損のように思われる。結局のところこちらが f4-f5 と突くのを防いでいないからである。

 私は 16…h4!? の方を気にしていた。適切な状況で …Nh5-g3(+) と指す狙いである。

17.Qe2

 この手がうまい手で、クイーンを釘付けからはずし、…Ng4 がクイーン当たりにならないようにし、e4-e5 突きと f4-f5 突きの両方を見ている。

17…O-O-O

 黒は 17…h4!? と指すべきところだろう。想定される手順は 18.e5 dxe5 19.fxe5 Nh5 20.Qf3 O-O 21.Qxb7 Ra7 22.Qe4 Ng7 で、黒にはポーンの代償がある。

18.f5

 18.e5 の方が強力だと推奨されたが、対局中はそれほどはっきりしないように思われたし、対局後でもそうである。18…dxe5 19.fxe5 Ng4 20.Rxf7 Kb8 となって白が優勢なのは疑いないけれども避けるべき落とし穴が多い。

18…e5

 18…gxf5 19.exf5 e5 は完全に成立していた。20.Bxf7 exd4 21.Qxe7 となったとき私が見落とし、たぶんナカムラも見落とした手は 21…Qe5! 22.Qxe5 dxe5 23.Nd5 Nxd5 24.Bxd5 Bxa4 で、收局は互角に近いはずである。

19.Nf3 gxf5

20.Ng5!

 ナカムラはこの手を見落としたのかもしれない。このナイトがf7に行けば効果は絶大である。

 20.exf5 は 20…h4 のあと …Nh5 から …Bc6 を狙われてわけが分からなくなる。

20…f4

 この手は大局的にみて正しいようである。f4のポーンは白を締めつける効果を発揮している。

 20…fxe4 と取るのは面白い局面になる。21.Rxf6!? これが唯一の手というわけではないが、対局中はこう指すつもりだった(21.Nd5 もある。21…Nxd5[21…Bg4 は悪手で、22.Nxe7+ Kb8 23.Qf2 Qxf2 24.Rxf2 Nh7 25.Nxh7 Bxd1 26.Nf6 e3 27.Rf1 e2 28.Re1 で白のナイトが黒のルークを圧倒している]22.Rxd5 Qb4 23.Nxf7 Rhf8 24.Nxd8 Rxf1+ 25.Qxf1 Kxd8 白が優勢かもしれないが局面はねじり合いが続く)21…Bg4 22.Qe1 Bxf6 23.Ngxe4 Qb4 24.Nxf6 Bxd1 25.Qxd1 小駒が盤上を支配しているようなのでこのような局面は白が優勢だと思っていたが、黒が戦力得なので客観的には形勢不明である。

21.Rd3

 感触の良い手である。ルークが …Bg4 の利きから逃れ、将来c3またはb3に転回する狙いがある。21.Nxf7 Bg4 22.Rf3 Bxf3 23.gxf3 も魅力的だったが少し考えてそれ以上を目指せると判断した。23…Kb8 24.Nxh8 Rxh8 はたぶん黒が問題ない。

21…Kb8

 自然な手で、実戦的には最善手だろう。

 コンピュータの勧める手は 21…Rdf8 で私は 22.Nd5(22.Nxf7 Rh7 23.Ng5 Rg7 24.Ne6 Bxe6 25.Bxe6+ Kb8 26.b4! の方がはるかに強力で黒は長くもたないと思う)22…Nxd5 23.Bxd5 で読みを打ち切っていたが、23…Qa7! で受かっているようである。もっともこのように指すには破格の勇気が必要だと思う。とりあえずの 24.Nf3!? でさえ黒にとってはいずれかなり厄介になるかもしれない。21…Bg4 は 22.Qd2 で全然黒の大義に役立たない。21…h4 は対局後解説者達が指摘していた。22.Nd5 Nxd5 23.Bxd5 Bxg5 24.Rc3 Kb8 25.Rxc5 dxc5 と進んだとき私の好みは単純な 26.h3 で、黒キングは安全とは程遠い。

22.Nxf7 h4!

 この手が要点で好手だった。急に …Nh5 から …Ng3(+) が視野に入ってきた。やはり黒枡ビショップのないことが痛切にひびいている。

23.Nxh8

 この手は正確さを欠いていた。直感どおりに争点を維持すべきだった(もっと直感に従う必要がある)。

 …d6-d5 突きを避ける 23.Qf2! の方が良かった。それでも 23…d5 なら 24.Qxc5 Bxc5 25.Nxd8 Rxd8 26.Bxd5 となって …Nh5-g3! を狙うには黒ルークはh8にいる必要がある。

23…Rxh8 24.Qf2 Qb4??

 この決定的な大悪手にはまったく驚いた。黒としてはナイト同士を交換して白ビショップをd5の拠点に残すのはどんなことがあっても許すべきでないのは明らかだからである。

 ナカムラは 24…Qa5 を指摘した。成立するが形勢は黒の方が悪い。しかし 24…d5!! と突くのが反撃の絶好の機会だった。25.Bxd5(25.Qxc5? は 25…Bxc5 26.Bxd5 Nh5! がモーリス・アシュリーのよく言うところの不意打ちの一発になる)25…Qxf2(25…Qc7!? のような手さえ注目に値するが、たぶん互角には十分でない)26.Rxf2 Bc5 27.Rff3 Bg4(ここで狙い筋の 27…Nh5 は 28.h3 Ng3+ 29.Kh2 で何ももたらさない)28.h3 Bxf3 29.gxf3 白がポーン得だが黒は引き分けるのにそう多くの問題がないはずである。

25.Nd5 Nxd5

 25…Qxe4 には素朴な 26.Nxe7 でなく 26.Nxf6! Bxf6 27.Rxd6 と来られてビショップを取られる。

26.Bxd5 Bxa4?

 黒はビショップを取られるこのポカがなかったらもっと長く指せたかもしれないが結果には変わりない。白は交換得でおまけに主導権もあるのだから。

27.Ra3!

 ナカムラの見落とした手がこれだった。ビショップは動けず、白は c2-c3 から b2-b3 でビショップが取れる。

27…h3

 27…Bb5 には 28.Qb6! が妙手となる。

28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 黒投了

 31…Bxg3 には単純な 32.Qf3! Qd2 33.Ra2 があるので投了はやむを得ない。


9回の選手権優勝者が一堂に。閉会式での3人の米国チャンピオンたち(左から右へ)GMアレクサンドル・オニシュク(2006年)、FMスニル・ウィーラマントリ(ナカムラの義父)、ヒカル・ナカムラ(2005、2009、2012、2015年)、GMアレクサンドル・シャバロフ(1993、2000、2003、2007年)

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号終わり)

2016年12月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(218)

「Chess Life」1998年7月号(5/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 4)2…Nf6 3.Bxf6

 この戦型の実戦的な重要性は、この局面が 1.d4 Nf6 2.Bg5 d5 3.Bxf6 という手順からも生じるので増している。自発的に二重ポーンを受け入れるのは私の棋風と相容れないが、気にしない人にとっては問題ない。

 4A)3…exf6 GMジュリアン・ホッジソン対GMセルゲイ・ティビアコフ(フローニンゲン、1994年)

 黒はこう取り返して自分のビショップのために格好の斜筋を確保する。もっとも中央での影響力が減少するという代価を払っている(3…gxf6 と比較して)。私はこれを「快適展開」戦型と呼んでいる。

4.e3 Be6 5.g3!

 黒にはeポーンが欠けているので、白の戦略目標はc4またはe4にポーンを突いて黒のd5の中央拠点に挑むことである。黒はこれらのポーン突きを無効にするか阻止しようとする。

5…f5! 6.Bg2 c6 7.Nd2 Nd7 8.Ne2 Bd6 9.b3

 9.O-O は 9…O-O 10.c3 Nf6 11.Qc2 Ne4 12.Nf4 Bxf4 13.exf4 b6 14.Nf3 f6 となって黒が大変堅固で大したことがなかった。このアダムズ対ティビアコフ戦(番勝負第10局、ニューヨーク、1994年)は23手目で合意の引き分けに終わった。

9…Nf6 10.c4 Bb4!? 11.O-O!? Bxd2

 黒は挑戦に応じた。考えを変えて 11…dxc4 と指すこともできたが、12.Nxc4 でそれまでの指し手が無駄になり白にわずかな有利が約束される。

12.Qxd2! dxc4 13.Nf4! cxb3 14.Nxe6 fxe6 15.Rfb1 O-O 16.Rxb3

 クイーン翼の素通し列、いくらか不安定なe6-f5ポーン、白のキズのないポーン陣形、それに白駒の連係の良さは白にポーンの代償があることを意味している。残りの指し手と形勢記号でこの項を締めくくる。ティビアコフは『チェス新報』第62巻第394局で本局を詳細に解説している。

16…Qd7 17.Qb4 Rfb8! 18.Rab1 Nd5 19.Qa4 b5!? 20.Qa5 Rb6 21.Rc1 Qb7 22.a3 Ra6 23.Qe1 Qd7 24.Rc5 Rb8 25.h4! Rab6 26.h5 Qf7 27.Bf3 Rd8 28.Rb2 Rd6 29.Kg2 Nf6 30.Qb4 Nd5 31.Qe1 Nf6 32.Qb4 Nd5 33.Qa5!? Qb7 34.Qe1 Nf6 35.Rbc2 Qd7 36.Qh1!? a5?! 37.Qh4?! h6 38.Qf4 a4 39.Qe5 Ra6 40.Rc1 Rb6 41.R5c2 Nd5 42.Rc5 Nf6 43.R1c2 Nd5 引き分け

 4B)3…gxf6

 中央に向かって取り返すことにより黒はそこでの可能性を高めた。それでも展開の遅れと黒キングのいくらかの不安定という二律背反は避けられない。白はそれにつけ込むために局面の開放に努めるべきである。「微温的」態度では何にもならない。4.e3 c5 5.c3 Qb6 6.Qb3 e6 7.Nd2 Nc6 8.Ngf3 Bd7 9.Be2 Na5 10.Qc2 cxd4 11.exd4 Bb5 12.Bxb5+ Qxb5 13.a4 Qc6 14.O-O Bd6 は互角である(フェルナンデス対タタイ、バルセロナ、1985年)。

 今のところ実戦例は数少ない。4.c4 dxc4 のあとの典型的な実戦例を年代順に3局示す。

 4B1)5.e3 c5 6.Bxc4 cxd4 7.exd4 Bg7 8.Ne2 O-O 9.Nbc3 Nc6 10.Qd3! Nb4?!(ひどい手損。10…f5 11.Rd1 e5! と指すことが必要)11.Qd2 Bf5 12.O-O Rc8 13.Bb3 e6 14.Rfd1 Qe7 15.a3 Nc6 16.d5 白が優勢(ロメロ・オルメス対スンイェ・ネト、ベナスケ、1985年)

 4B2)5.Nc3 c6 6.a4 e5! 7.Nf3 Bg7 8.e4 Bg4 9.Bxc4 exd4! 10.Qxd4 Nd7 ここから 11.Qe3?! Qb6! 12.Qxb6 と進んだとき黒は 12…axb6 と取っていればわずかに優勢な收局にできた(ホッジソン対ブル、アマンテーア、1995年)。IMアルカディ・ブル は白の改善策として 11.Nh4 と 11.Be2 を示した。これならほとんどいい勝負だろう。

 4B3)5.e3 Rg8!? 6.Nc3 c6 7.Qc2 f5 8.Bxc4 Rxg2 9.Nf3 e6 10.O-O-O(メドゥナ対ブル、プラハ、1996年)ブルは黒の正着として 10…Nd7 をあげ、11.e4 や 11.Rhg1 で白に完全に代償があると考えている。

******************************

2016年12月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(451)

「Chess Life」2016年6月号(3/3)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ルイロペス・ベルリン防御 (C65)
GMファビアノ・カルアナ(FIDE2794、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年3月20日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4

 局面は攻め合いの様相を呈している。白はクイーン翼にキャッスリングして速攻に期待している。黒は反対翼ですぐ攻撃できそうだがそれは幻想である。

15…Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1!

 黒の狙いをまったく無視している。ここでは変化が多いが実戦の手順だけに的をしぼる。

18…bxa2+ 19.Ka1

19…Bxf5

 白のナイトを消すのは状況を考えれば非常に自然に思われる。19…a3 は 20.b3 g6 21.Nh6+ Kh8 22.d4 となって白の主導権がとてつもなく大きくなる。

20.exf5 a3 21.b3

 黒の問題はここで良い攻撃パターンが一つもないことである。その一方でキング翼は明らかにいつまでも持ちそうにない。

21…Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2!

 この手は私の好みである。もっともコンピュータはもっとほかの方がいいと言っている。ナイトをe4に組み替えるのは自然で強力である。

23…fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

25…e4

 25…Qxd3 は 26.Qxd3 Nxd3 27.Ne4(d3のナイトが浮いていてf6での狙いもあり黒は交換損になる)27…Nf4(27…Red8 でも 28.Bg5 で白が勝つ)28.Nf6+ である。

26.Bxc5 Bxc5 27.Nxe4

 このナイトはまるでタコだ。

27…Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 黒投了

*****************************

(この号終わり)

2016年12月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(217)

「Chess Life」1998年7月号(4/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 3)2…g6 GMイゴール・ミラディノビッチ対GMスピリドン・スケンブリス(アノ・リオシア、1997年)

 この手は正当な作戦に見える。白が黒の黒枡ビショップの正常な展開を邪魔しているので、黒はそのビショップをフィアンケットする。しかし本局は私がこれまで見たことのある唯一の重要な試合で、確かな評価は不可能である。ここから至ることのできる既知の戦型は黒のフィアンケットに対するトーレ攻撃で、1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.Bg5 Bg7 4.Nbd2 d5 5.e3 となる。しかし本局はまったく違った方向へ進む。

3.e3 Bg7 4.c3

 代わりに 4.Nf3 ならトーレの局面になるだろう。積極的な 4.c4 には黒は 4…c5 と反撃するとスケンブリスが指摘している。

4…Nd7 5.Bd3 Ngf6 6.Nd2 c5 7.f4?!

 本譜の手は積極的すぎて展開で手損をし中央の白枡を弱めているとのスケンブリスの説に同感である。7.Ngf3 なら通常の手である。

7…Qb6! 8.Rb1 Qe6! 9.Qf3 cxd4 10.cxd4 h6 11.f5

 この手で局面がかなり急迫した。11.Bxf6 Nxf6 12.Bb5+ なら普通である。

11…gxf5 12.Bxf5 Qa6 13.Bh4 Nb6 14.Ne2 Bxf5 15.Qxf5 Rc8 16.Nc3 O-O

 局面は混戦模様である。実戦でミラディノビッチは 17.Bxf6 と指したが、あまりうまくいかなかった。代わりにスケンブリスは 17.Rf1!? や 17.Qf1!? の方が優るかもしれないと指摘している。この局面が再び出現する可能性はほとんどないので、ここで止めておく。この熱戦は60手で引き分けに終わった。『チェス新報』第68巻第327局でスケンブリスが詳細に解説している。

******************************

2016年11月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(450)

「Chess Life」2016年6月号(2/3)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの悲劇
GMレボン・アロニアン(FIDE2786、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第6回戦、モスクワ、2016年3月17日

 74.Rd7

 黒は1ポーン損だがかつてある達人はルーク收局はすべて引き分けであると喝破した。マキシム・バシエ=ラグラーブが「chess.com」で徹底した詳細な分析をとおして証明したようにこの局面も例外でない。その詳細で読者をうんざりさせることはしないで何が起こったかだけを書く。ナカムラはルークを動かせば受かっていた。e2でもa5でも良さそうで、たぶんa6でも大丈夫だろう。キングを動かすのは致命傷になる。時間に追われたナカムラは明らかに動かすつもりでキングをつまんだ。「ジャドゥーブ(直します)」と言おうとしたが、アロニアンに審判を呼ばれてしまった。審判はナカムラにキングを動かさせた。そして絶望的な局面になった。

74…Kf8 75.Kf6 Ra6+ 76.Rd6 Ra8 77.h5 Kg8 78.f5 Rb8 79.Rd7 Rb6+

80.Ke7

 ここは 80.e6 fxe6 81.Rd8+ Kh7 82.fxe6 でも構わない。

80…Rb5 81.Rd8+ Kh7 82.Kf6 Rb6+ 83.Rd6

 83.Kxf7 Rf6+! 84.Ke7! Rxf5 でも白の勝ちだがそんなことをする必要はない。

83…Rb7 黒投了

 ナカムラにとっては悲劇と言うしかない。大会前半でナカムラの精神力はなえた。

*****************************

(この号続く)

2016年11月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(216)

「Chess Life」1998年7月号(3/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 2)2…c5 GMジュリアン・ホッジソン対GMイワン・ソコロフ(フローニンゲン、1996年)

 黒のこの手も威勢がいい。もっとも少なくともキングからは遠い所でやっている。それでも黒がこんなことをやる余裕があるのかは疑問に思う。

3.dxc5! f6 4.Bh4 e5 5.e4! Be6

 これがホッジソン対ファン・ベリー戦(ホルゲンB組、1995年)の 5…dxe4 を改良しようとしたソコロフの手だった。その試合は 6.Qxd8+ Kxd8 7.Nc3 Bxc5 8.O-O-O+ Nd7 9.Nxe4 Be7 10.f4! exf4 11.Nf3 Kc7 12.Nc3! Nb6 13.a4 Bb4 14.a5! Bxa5 15.Nb5+ Kb8 16.Rd4! と進んで白が展開で大差をつけ勝勢になった。『チェス新報』第65巻第350局のホッジソンの解説をぜひ読んで欲しい(79手で白の勝ち)。

6.exd5 Qxd5 7.Qxd5 Bxd5 8.Nc3 Be6 9.Nb5!

 白は駒の働きに優り、黒の陣形上の弱点と相まって、クイーンが交換されたことにより明らかな優勢が保証されている。

9…Na6 10.f4!

 白のこの手は力強い。10…exf4 なら 11.Ne2! で白の両方のナイトが重要なd4の地点に行ける。それほど厳しくない者なら 10.Nd6+ で満足するだろう。

10…Bxc5 11.fxe5 fxe5 12.O-O-O Nf6 13.Nf3 O-O 14.Nxe5 Ne4 15.Nd4! Bxa2 16.Bxa6 bxa6 17.Rhe1!

 白はポーンの形が良く(cポーンはパスポーン!)、5個の駒は黒の散らばった駒と弱点につけ込むようによく協調している。読者は『チェス新報』第68巻第325局のホッジソンの解説を読んでみて欲しい。白は次のように勝ちを決めた。

17…Nf6 18.Bxf6! Rxf6 19.Nd7 Bxd4 20.Rxd4 Rc6 21.Ne5 Rc5 22.b4 Rc7 23.Kb2 Be6 24.c4! Rf8 25.Kc3 Bc8 26.Red1! Re7 27.Nc6 Rc7 28.Na5! Rf2 29.R1d2 Rf1 30.c5 h6 31.c6 Kf7 32.Kb2 Ke7 33.Re2+ Kf7 34.Nc4! Bf5 35.Ne3 Re7 36.Rdd2! Rb1+ 37.Ka2 Bg6 38.Rd7! Rxd7 39.cxd7 黒投了

******************************

2016年11月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(449)

「Chess Life」2016年6月号(1/3)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの見損じ?
GMセルゲイ・カリャーキン(FIDE2760、ロシア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年3月12日

 29.h4

 局面は黒の非勢である。白はd4でのせき止めがうまくいっていて、d5にもいくらか圧力をかけている。黒がd4の地点で局面を単純化すれば、b7に働きの悪いビショップが残される。そして白がナイトをc5に据えることにでもなれば、白に大局上の大きな優位を与えずに黒がそのナイトを取り除くのは不可能になる。例えば 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 33.Nc5 となれば、黒陣は私がこれまで出会った中で一番かっこいいというものではないが、持ちこたえる可能性はある。しかしナカムラの選んだ手は…

29…Nxg3??

 この手は即負けになる。ナカムラはカリャーキンがこの手を見逃したと思ったのだろうか。ナカムラが見損じたのだろうか。真相はまったく闇の中である。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+

 黒がこの一発に期待していたのは明らかだった。キングとナイトの両当たりになっていて、白がナイトをf2に引けばc1のルークが落ちる。しかし事はそれほど簡単でない。

33.Qf2! Qxd3 34.Rc7

 突然終わってしまった。手順の終わりで両当たりをかけているのは白の方である。そしてただで駒得になる。勝負がついた。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年11月18日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(215)

「Chess Life」1998年7月号(2/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 1)2…f6 GMドラガン・コシッチ対GMムラーデン・パラツ(アンツィオ、1994年)

 このビショップを追い払う欠点のない方法があるので、キング翼を弱めg8のナイトから自然なf6の地点を取り上げることはまったく必要ない。私はこの手を信用していない。

3.Bh4

 このビショップをh4-d8の斜筋に置いておくのは一貫性のある指し方だと思う。ホッジソン対ラリッチ戦(ガーンジー、1994年)では白は 3.Bf4 と指した。そして 3…Nc6 4.Nf3 Bf5 5.e3 Qd7?! 6.a3 g5 7.Bg3 h5 8.h3 e6 9.c4 Nge7 10.Nc3 Bg6 11.Bh2! Bh7 と進んだとき、白は手損の 12.Nb5?! の代わりに 12.Rc1 と指していたら明白な優勢を保持していただろう(GMボグダン・ラリッチ)。

3…Nh6 4.e3 c5

 黒はポーンを手当たり次第に突けると思っている。3手目と関連した継続手は 4…Nf5 である。もっとも 5.Bd3! Nxh4 6.Qh5+ g6 7.Qxh4 となるとキング翼の弱点の代償がどこにあるのか私には分からない。

5.dxc5 e5?!

 どうして普通に 5…e6 と突いてdポーンを安全にしないのだろうか。

6.Nc3 Be6 7.Bb5+ Kf7?!

 普通の 7…Nc6 でも 8.Qd3 から 9.O-O-O または 8.Nf3 Nf5 9.Nxe5!?(コシッチ)で白の主導権が強力になる。

8.Nf3 Be7 9.Ba4! Qa5?

 白は 10.Bb3 でdポーンを取る手を狙っていた。黒は 10.Bb3 に 10…Rd8 でクイーン翼ナイトを釘付けにすることにより対処できると期待していた。しかし入り乱れた局面ではしばしば戦術に最終決定権がある。黒は 9…Nc6 と指す必要があったが、10.Bb3 でポーン損の見返りがないままである。

10.Nxe5+! fxe5 11.Qh5+ g6

 11…Kf8 は 12.Qe8# で詰みになる。

12.Qxh6 Bxh4 13.Qxh4 Qxc5 14.O-O-O Nc6 15.Nxd5! Bxd5 16.Rxd5 黒投了

******************************

2016年11月16日 コメント(2)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(448)

「Chess」2016年6月号(5/5)

******************************

戦略の一口講座 双ビショップ

GMダニー・ゴーマリー

M.カールセン – H.ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック、2015年

24…Nc3

 ナイトはここでは根なし草で簡単に追い払われる。黒は自陣に重大な弱点がないけれども、じっくり圧力を強めるという白の作戦に積極的に対抗していく作戦がない。

 24…Rfe8!? と指すことはできる。その意図は …Nc5 のあと …Nd4 から …b6 で黒枡「封鎖」のようなものをこしらえることだろう。しかし問題はひどく遅くて、双ビショップの機動性のためにそんなぜいたくな手を指せないことが多いことである。25.Be3! が典型的な応手で、c6のナイトを取ってa7のポーンを取るのが狙いで(25.Rxd8 Rxd8 26.Rb1 Rd7 27.Be3 も白がわずかに優勢)、25…Nc3 26.Rxd8 Rxd8 27.a3 で実戦とほとんど同じく白がわずかな有利を維持している。

 注意すべきは 24…Nc5? で、25.Bd6 のためにポカになる。

25.Rd2! Rxd2 26.Bxd2 Ne2+

 双ビショップの強さと支配の広さの好例は、26…Nxa2?? 27.Bxc6! bxc6 28.Ra1 でa2のナイトが捕まる手順で確認できる。

27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4! Rd7

32.Bc5!

 なんとしても双ビショップは維持しなければならない。32.Bxc6 bxc6 33.Bxa7 Rxa7 34.Rxd1 Rxa3 は互角にしかならない。

32…Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 これで純粋な2ビショップ対2ナイトの局面になった。局面が開放的であることを考えれば明らかに白の方が有利である。しかしこのような局面では少しずつゆっくりと圧力を強めていく忍耐力と能力とが要求される。カールセンはそのような資質を豊富に持っている。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5!

 この手には目的が二つある。一つは黒の …Ke6 と指す可能性を防ぐことで、そのあと …Nd5 とやってくれば白にとって厄介なことになるかもしれない。そしてもう一つはg7ポーンを「凍結」することである。もっともこのポーンはずっと後で標的になる。

41…gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5

44…Ke7

 すでに防御は極度に難しくなっていて、どの手も精密機械のように予測通りでやる気満々のカールセンと対する心理的圧迫は神経をすり減らす。

 代わりに 44…f6+ なら 45.Kf4 Nc7 46.a4 で、白が敵陣突破できるかは明白でないけれどもカールセンは弱点を探していろいろ策をめぐらしただろう。

45.Bf4 a6 46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5 Nf6 53.h6! Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+ 56.Kh4! gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4 60.Be4 Nf2 61.Bb1 Ng4 62.Bf4

62…f6?

 62…Ne2 の方が見込みがあった。もっともここでも互角への「明快な」手段はない。人間選手がこのような局面を守るのは非常に難しい。防御の観点から目指すべきものがないということが分かっているので抵抗する力が必然的に萎えるからである。これに対し攻撃側の選手はずっと探索し続けることができる。62…Ne2 なら

 a)63.Bd2 Ng3! 64.Bc2 Nh5+ 65.Kh8!(キングが隅に行くのはおかしく見えるが、圧力は強まり続ける)65…Ngf6 66.Ba4+ Nd7 67.c6 bxc6 68.Bxc6 白は新たに黒のaポーンという標的を得た。その一方でこの変化では戦力がさらに減っていて、理論的には黒の引き分けの可能性が増すはずである。一つの可能性は2ビショップ対1ナイトの收局で、理論的には勝ちだが実際に勝つのは不可能に近い。

 b)63.Bc7 Nc3 64.Bc2 Ne3 65.Bd3 Ncd5 66.Be5 やはり黒は当面持ちこたえているが、盤上の防御は極度に難しいままである。

63.Be4!

 これで黒は支えきれない。

63…Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7! Nd3 67.Kxf6 Nxf4 68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+ Kf8 72.Ke4 Nc2 73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3 Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 1-0

*****************************

(この号終わり)

2016年11月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(214)

「Chess Life」1998年7月号(1/6)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5

 チェスの世界は科学と創造の時代に入っている。布局では新しい道が探検され、以前から知られていた道は疑問に付されたり拡張されたりしている。熱心な探検者の中には強くて創造的で恐れを知らぬイギリスのグランドマスターのジュリアン・ホッジソンがいる。彼は1980年代後半に白が黒枡ビショップを早々とg5に展開するのを大前提とする得意戦法を作り上げ始めた。具体的には 1.d4 d5 2.Bg5 と 1.d4 Nf6 2.Bg5 がその布局である。

 1989/90年のスタバンゲル(ノルウェー)国際大会で彼と黒で対戦することになった時、初手にどう応じるか決めるために自分の研究ノートに当たってみた。1.d4 d5 2.Bg5 について得られた情報はほんのわずかで、自信が持てなかったので 1…Nf6 と指すことにした。

 今ではかなりの信頼できるデータがあり、白と黒の着想を簡潔に紹介することは読者の興味を引くはずだと判断した。探検の確固とした主導者は戦法にその名前を付けられてしかるべきである。それがこのホッジソン攻撃という名前である。布局コードはD00である。

 出発点となる局面は 1.d4 d5 2.Bg5 から始まる。

 歴史的に白の2手目の出撃が無害で素人っぽいとみなされてきたことはほとんど驚くにあたらない。その理由は次のとおりである。

1.白は手番を利用してd5に圧力をかけることをしていない。

2.白は「ビショップより先にナイトを展開すべし」という経験則に違反している。

3.このビショップは何も狙っていないし弱点となる可能性のある個所を攻撃してもいない。

4.このビショップは黒陣側にいていくらか不安定で、簡単に押し戻される。

 それでも多くの強豪GMたちは今ではホッジソン攻撃を用いている。どうしてだろうか?それには二つの大きな理由があると考えられる。

1.このビショップは黒のeポーンを釘付けにして黒の黒枡ビショップが自然な斜筋につくのを妨害しているので目障りである。

2.黒はこのビショップを追い返すのにやりすぎて、自陣をひどく弱めるかもしれない。

 現在のところ黒のよく指す手は5手あり、個人的な好みと評価に基づいて「最悪から最善」の順で考察していく。

******************************

2016年11月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(447)

「Chess」2016年6月号(4/5)

******************************

次の一手 上級向け

第18問 H.ナカムラ – V.トパロフ
モスクワ、2016年
 白の手番

第19問 P.スビドレル – H.ナカムラ
モスクワ、2016年
 黒の手番で引き分け

解答

第18問 1.Qxb8!(白は差し出された駒を取ってさらに絶対手を2回見つけなければならない。さもないと戦力損するだけである。つまり 1.Qc2? は 1…Rxd1! で 2.Rxb8 なら 2…Qh3+! で詰まされてしまう)1…Rxd1 2.Rb1!(h列での詰みを防ぐ)2…Qd7 3.Rg5(そしてこの手でg4での決定的なチェックに対処する。黒は成すすべがない)3…Ne4 4.Rxd1 Qxd1 5.Qf4 1-0

第19問 1…Rae8(絶対手。黒は全ての駒を助けることはできず、永久チェックの態勢を作らなければならない)2.Qxb6(2.Bc3 なら試合はまだまだ続くことになるが、2…axb4 3.axb4[3.Bxb4 は 3…R8e6 で白にとって黒のキング翼の態勢が危険である。続いて 4.Qd5 なら 4…h5]3…R8e6 4.Qd5 Kh7!? 5.Rad1 f5 で黒の反撃はばかにできない。実際エンジンはお好みの「0.00」を表示する)2…Rh4! 3.gxh4(e列が黒の支配下なので白は引き分けを甘受しなければならない)3…Qg4+ 4.Kh1 Qf3+ 5.Kg1 Qg4+ 6.Kh1 Qf3+ 7.Kg1 Qg4+ ½-½

*****************************

(この号続く)

2016年11月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(213)

「Chess Life」1998年4月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

クイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御 [D41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第9局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c5 5.cxd5 Nxd5

 代わりに 5…exd5 はタラッシュ防御になり、黒は中央の影響力が増すが孤立dポーンという代価を払う。本譜の手でフィッシャーは陣形にどんな根本的な弱点ができるのも避けるというこの番勝負における主眼の方針を継続している。準タラッシュ防御では黒陣は健全だが、白の中央での優位は通常より大きくなる。

6.e4

 スパスキーは自分に忠実に「大中央」を作り上げる。もっと控えめな 6.e3 が主手順とみなされている。

6…Nxc3 7.bxc3 cxd4 8.cxd4 Nc6

 フィッシャーは新手を胸に秘めていた。従来の手順は 8…Bb4+ 9.Bd2 Bxd2+ 10.Qxd2 O-O 11.Bc4 Nc6 12.O-O b6 13.Rad1 で、中央の優位のために白が通常の布局の優勢を得ている。

9.Bc4 b5!?

 これがその新手である。明らかにこのポーンは毒入りだが、まったくの1手得というわけではない。黒は多数派ポーンの動員を開始しているけれども、その影響は当分クイーン翼の弱体化となって現れる。白が狙い筋の d5 突きで中央を開放することによりこれにつけ込むことができる危険性が相当にある。ここでの白の大問題はビショップをどこに引くかである。

10.Bd3

 この手は見かけほど良くない。このビショップはe4を守りキング翼攻撃のためにh7方面をにらんでいるが、欠点の方が多い。d4のポーンは守りにくく、d5 突きはもっと困難である。以後の大会での数多くの経験により 10.Be2! なら白が本譜よりももう少し優勢を保持できることが明らかになった。一例は 10…Bb4+ 11.Bd2 Qa5 12.d5! exd5 13.exd5 Ne7 14.O-O Bxd2 15.Nxd2 O-O 16.Nb3 Qd8 17.Bf3 Nf5 18.Rc1 Nd6 19.Qd4(ユスーポフ対リブリ、モンペリエ挑戦者決定大会、1985年)である。

10…Bb4+ 11.Bd2 Bxd2+

 交換を急がずにまず 11…a6 でクイーン翼を安定させる方がわずかに良いかもしれない。

12.Qxd2 a6 13.a4

 指し過ぎの本譜の手のあと黒には十分動的な反撃がある。13.O-O ならどんな可能性にせよ白がわずかに優勢である。以下の手順には記号を少し付けておく。

13…O-O! 14.Qc3 Bb7! 15.axb5 axb5 16.O-O Qb6 17.Rab1 b4 18.Qd2 Nxd4 19.Nxd4 Qxd4 20.Rxb4 Qd7 21.Qe3 Rfd8 22.Rfb1 Qxd3 23.Qxd3 Rxd3 24.Rxb7 g5 25.Rb8+ Rxb8 26.Rxb8+ Kg7 27.f3 Rd2 28.h4 h6 29.hxg5 hxg5 引き分け

結論 準タラッシュ防御は健在である。フィッシャーの 8…Nc6 から 9…b5 は意表を突く武器として使える。

不使用 この番勝負以前のフィッシャーの主力武器はキング翼インディアン防御で、二次武器はグリューンフェルト防御だった。どちらも現れなかった。キング翼インディアン防御が現れなかった理由は三つあったと思う。(1)スパスキーは十分研究していたはずだった。(2)スパスキーはがっぷり組み合ったゼーミッシュ戦法の使い方が非常にうまかった。(3)キング翼インディアン防御には広さとクイーン翼のポーン陣形に根本的な問題がある。フィッシャーはキング翼インディアン防御を使わなくて正解だった。このことは1992年の番勝負でフィッシャーの7局のキング翼インディアン防御のうち5局が不満足な局面だったことから確認できる。

 フィッシャーはそれまでスパスキーとの2局のグリューンフェルト防御で負けており(1966年と1970年)、また白の優勢な中央と対したくなかった。1992年ではグリューンフェルト防御は現れなかった。

結論 フィッシャーの布局の基本的な選択は時の試練に耐えた。いくつかにおいて少し改良があっただけだった。

******************************

2016年11月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(446)

「Chess」2016年6月号(3/5)

******************************

米国選手権戦(続き)

ジョン・ヘンダーソン

H.ナカムラ – V.アコビアン
第7回戦、ぺトロフ防御

1.e4 e5

 アコビアンは得意のフランス防御を回避した。おそらくナカムラの十分研究した手順にはまるのを恐れたのだろう。しかし地雷原にはまり込むことになるとは知るよしもなかった。

2.Nf3 Nf6

 2000年ロンドンでのクラムニク対カスパロフの世界選手権戦でベルリンの「壁」防御が復活するまでは、ぺトロフ防御が攻撃的な相手の出鼻をくじくために黒番の選手の採用していた恐るべき引き分け手段だった。そしてそれはベルリン防御以前の1990年代後半に私がベイクアーンゼーとリナレスでの多くの最高峰大会の記者室で耐えていたように、ペンキが乾くのを眺めている退屈さのチェス版だった。今日ではぺトロフ防御はベルリン防御と比べるとシチリア防御ナイドルフ戦法の方にずっと近い。

3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Be7 7.O-O Nc6 8.c4 Nb4 9.Be2 O-O 10.Nc3 Bf5 11.a3 Nxc3 12.bxc3 Nc6 13.Re1 Re8

 ここでは1990年代後半に戻ったも同然だった。この手まではぺトロフ防御の良く知られ実戦で指されてきた手順である。

14.Ra2!?

 実はこの珍しい手はナカムラとサム・シャンクランドが2014年トロムセ・オリンピアードの期間に深く研究していたものだった。そして実際シャンクランドは嬉しくてたまらずナカムラの後を追って対局場の「告白部屋」に行った。ナカムラの告白によるとシャンクランドと研究した「爆弾」にアコビアンがやって来たということだが、シャンクランドによると自分の分析をナカムラが全部盗んだとウインクして主張した。

14…Na5 15.cxd5 Qxd5 16.Rb2 c6

 これがここでの最善の応手のようである。2014年米国選手権戦でのシャンクランド対ロブソン戦でロブソンは 16…a6 と指したが、17.Ne5 Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Nc6 21.Qb2 Nxe5 22.Rxe5 Rxe5 23.Rxe5

と進んで白が優勢だった。もっとも試合は30手で引き分けに終わった。しかし 19.Rbe2 の代わりに 19.Ra2!? なら白がもっと有望かもしれないとの指摘がある。

17.Ne5!

 ナイトがe5を占拠するのはこの焦点のはっきりしない局面で黒にとって最も厄介な手である。代わりに 17.Qa4 は 17…Qd8 18.c4 Bf6 19.Be3 b6 となって黒が好調で、2007年エリスタでのカシムジャーノフ対ゲルファント戦では黒が52手で勝った。

17…Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Be6

 すぐに 20…f6? は 21.Nc4! の一発で負ける。だからアコビアンはまず 20…Be6 と指した。

21.Be4

21…Rad8?!

 ここが勝負所だったかもしれない。アコビアンはルークを中央に配置する手を選んだ。たぶん 21…f6 はナカムラの強烈な攻撃にしてやられるかもしれないと恐れたのだろう。しかしe5のナイトは圧倒的な拠点で途方もない駒になるので、21…f6 は最善の選択肢かもしれない。だから問題は 21…f6 に対して白にはどんな手があるのかということである。

 22.Qb1(22.Nf3 と引き下がれば 22…Bf7 でe列でルークの総交換が余儀なく、黒がポーン得の收局になる)22…fxe5 23.Bxh7+ Kf8(黒が戦力得にしがみつきたいならこれが最善の手のようである。23…Kh8 は 24.Bg6 Nc4 25.Bxe8 Rxe8 26.Qxb7 Bd5 27.dxe5 Qe6 28.f4 a5 29.Rf2!

となって、白がポーンをf5に突いてキング翼を広げる手を狙う。しかし長期的には黒のパスaポーンへの対処が悩みの種になるだろう)24.dxe5 Qc5 25.Bg6 Kg8

となれば、私には引き分けのために戦う以外白にどんな手があるか分からない。

22.Qb1!

 これで黒は圧倒的なナイトを絶好のe5の拠点から決してどかせることができなくなった。そしてこれがアコビアンにとって多くの頭痛の種となる。

22…g6 23.f4 c5

 アコビアンは圧倒的なe5のナイトの土台をなんとかして揺さぶろうとしなければならない。

24.f5 cxd4?

 アコビアンのこの手には批判的な者が多かった。しかし彼はナカムラのナイトをe5からすぐに追い払う適切な応手を指さなかったあとはたぶんもう引き返せなくなっていたのだろう。そしてほかの手もどれもあまり良くないことにも気づいていたのだろう。例えば 24…Bb3 ならナカムラにはキング翼の急襲の見込みが出てくる。25.Bd3! Qc7(受けづらい Nc4! を避けようとする 25…Rf8? は 26.fxg6 hxg6 27.Re3! から Rg3 が来れば黒キングに対する攻撃が決まる)26.Qc1! からクイーンがh6に行って攻撃が決まる。ふむふむ…アコビアンが突然ナカムラの狙い筋に気づいた時の彼の胸中をたぶん想像できるだろう。

25.fxe6 Rxe6 26.Nxf7!

 黒陣は壊滅した。アコビアンはたぶん以前に勇気を出してこのナイトをe5の拠点から 21…f6 で追い払わなかったことで自分を叱責していたことだろう。

26…Kxf7 27.Bd5

 もっと辛辣な手は 27.Qa2! だったがナカムラの手も同様に速く勝つ。

27…Qxd5 28.Rxe6 dxc3 29.R6e5 Qd4+ 30.Kh1 b6

 もちろんアコビアンのキングがf7の荒地でうろうろしている危険な状態でなければ、收局で勝つのに十分な戦力がある。しかしここでは收局の見通しはただのとっぴな夢想にすぎない。

31.Qa2+ Kg7 32.Re7+ Kh6 33.Qf7

33…Nc4

 黒にはもう受けがない。33…Rh8 なら 34.Rd7 で黒クイーンが要のg7の守りから追い払われ、34…Qc4 35.Qg7+ Kg5 36.Re5+ Kg4 37.Qf6 ですぐに詰む。

34.Qxh7+ Kg5 35.R7e6 Qd3 36.h4+ Kf4 37.Qh6+ 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年10月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(212)

「Chess Life」1998年4月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御ヒューブナー戦法 [E41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第5局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.e3

 白がルビンシュタイン戦法を指したいなら正確な手順は 4.e3 が先である。黒は本譜のような手順を選ぶかもしれず、それなら白はキング翼ナイトをe2に展開したいかもしれない。

5…Nc6 6.Bd3 Bxc3+ 7.bxc3 d6

 ここがドイツのGMロベルト・ヒューブナーにちなんで名付けられたヒューブナー戦法の出発点である。この局面を戦略的に正しく扱う手法を最初に明らかにしたのは彼である。黒は 4.a3 と突かれないのに自分からビショップをc3で交換したので、まるまる一手遅れでゼーミッシュ戦法を指しているように見える。しかし戦略の重大な違いは、白はキング翼ナイトを早くf3に展開させたために、キング翼で活発に活動を始める際にfポーンを迅速に動員してeポーンを支援することができなくなっているということである。

 スパスキーは白の中央が完璧な局面を指すことにひいでていて、それをもたらしてくれる変化を選ぶ。それほどきびしくないやり方は 8.Nd2 と 8.O-O である。

8.e4 e5 9.d5 Ne7!

 ここでもゼーミッシュ戦法とヒューブナー戦法の決定的な違いがある。前者ではクイーン翼ナイトがa5に行ってc4ポーンに圧力をかけるのに対し、後者では中央とキング翼での作戦のためにそのナイトが必要である。

10.Nh4 h6! 11.f4 Ng6!!

 この手は白のキング翼での動きを完全に止めてしまう。黒は二重gポーンを受け入れ、白に保護パスdポーンを作らせるが、白のビショップ、特に白枡ビショップがほとんど働かないポーン陣形を作り上げる。その結果できる局面は定跡ではほとんど互角だが、黒の方が駒を活動させる機会が多いので指しやすい。

 スパスキーは明らかに素通し列ができるのを期待していた。11…exf4?! なら 12.Bxf4 g5? 13.e5! Ng4 14.e6 Nf6 15.O-O! で白の攻撃がすぐに止まらなくなる。

12.Nxg6 fxg6 13.fxe5?!

 この取りは遅らせて後日スパスキー対ホルト戦(ティルブルフ、1979年)で指されたようにルークを使う方が良かった。13.O-O O-O 14.Rb1 b6 15.Rb2 Qe7 16.h3 Bd7 17.f5! gxf5 18.exf5 e4 でいい勝負である。フィッシャーの素晴らしい構想に直面してスパスキーは時間を浪費しさらにポーンの弱点を作った。

13…dxe5 14.Be3?! b6 15.O-O O-O 16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5!

 フィッシャーは弱点のa4とe4のポーンに対する作戦をf列での動きと絡ませ、白が一瞬のすきを見せた時に敵陣を突破した。

21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 白投了

結論 ヒューブナー戦法は今でもそのまま通用する。フィッシャーの変化の指し方は最新である。

******************************

2016年10月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(445)

「Chess」2016年6月号(2/5)

******************************

米国選手権戦

ジョン・ヘンダーソン

F.カルアナ – H.ナカムラ
第4回戦、シチリア防御・ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5 8.a4 Nc6 9.Bc4

 シチリア防御の本手順の9手目でもう未知の海に入った。a4 と …h5 の突き合いがあるソージンもどきになっている。しかしどちらがその余分の1手を有効に生かせるだろうか。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5

 11…Na5 とこちらに跳ねる手もあったが、ナカムラはたぶんカルアナが単純に 12.Bd3 と引いてから Nb3 と指してくるのを恐れたのだろう。このナイトは少なくともe5から中央の拠点を占拠し白が Bd3 でビショップを温存する考えを否定している。

12.Bb3 Bd7 13.f4

 布局でfポーンを2回突くのはカルアナの非常手段のように見える。しかし事実はナカムラに …Rc8 から …Nc4 で楽に互角にさせるわけにはいかなかったので、これが最善の選択だった。そのために思い切った手段が必要で、カルアナがすぐに正しい戦略変更をしたことは褒められる。

13…Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3 Qc5!

 これはシチリア防御らしい好手である。クイーンを黒枡で働かせて白のクイーンとナイトを釘付けにしている。

16.Rad1 g6?!

 この手は疑問手に見えるだけでなくはっきり疑問手である。もしシチリア防御の権威のフィッシャーとカスパロフが我々に教えたことがあったとすれば、シチリア防御では黒は精力的に指す必要があるということだった。だから切ったはったをやる必要がある。代わりにエンジンは 16…O-O-O でキングを保護しルークを結合しd7のビショップを守る(白の狙い筋の e5 突きからd列で空き攻撃の可能性があった)ことを要求していた。

 しかし人間の側も激しくいくらか一本道の 16…Ng4!? 17.Qd3 Bf6(安全策は 17…Rd8 18.h3 Nf6 19.Rfe1 O-O 20.Qf3! で、陣地の広い白が少し優勢である)18.e5! dxe5 19.Nxe6! Bxe6 20.Bxe6 を要求していた。局面は難解でどちらに転ぶか分からないが、シチリア防御のこんな激しい戦型に典型的なように、駒の大量交換になり緊張が緩和されることがよくある。20…Rd8 21.Bd7+ Kf8 22.Qf3 Qc7 23.Bf5(23.Bxg4 は 23…hxg4 24.Rxd8+ Bxd8! 25.Qxg4 Rh4! で良くなく、やはり局面が落ち着くと引き分けに向かう)23…exf4 24.Nd5 Qe5! 25.Nxf6 Rxd1 26.Rxd1 Nxf6 27.Qxb7 Qxf5 28.Rd8+ Ne8 29.Qb4+ Kg8 30.Rxe8+ Kh7 31.Qe4 Qxe4 32.Rxe4 Rd8 33.Kg1 Rd2 34.Rc4

ですぐに引き分けになる。

17.Qe2 O-O-O 18.f5!

 これでソージンビショップもどきはb3-f7の斜筋の開通を得て活気づく。

18…e5 19.Nf3 gxf5 20.Ng5 f4

 ナカムラが試合を続けるにはこれしかない。急に白の小駒がすべて生気を得たので一手でも間違えれば終わってしまう。

21.Rd3

 この手はルークを …Bg4 の釘付けの狙いから外しただけでなく、Nd5 から Rc3 も狙っている。

21…Kb8

 その通り、Rc3 の狙いにナカムラもびびった。しかしナカムラは戦力損の十分な代償を得られるだろうか?

22.Nxf7 h4 23.Nxh8 Rxh8 24.Qf2

24…Qb4?

 24…Qa5! なら黒がもっと抵抗できただろう。実戦と同じく 25.Nd5 なら 25…Nxe4! 26.Qb6(26.Qe2?? は Ng3+! 27.hxg3 hxg3+ 28.Kg1 Qd8! で白が詰まされる)26…Bd8! で黒の勝ちになる。代わりに白は 25.Qe1 と指さなければならず、黒はしのげるだけの十分な代償があるようである。クイーンがb4に行った間違いはすぐにナカムラにはね返る。

25.Nd5 Nxd5 26.Bxd5 Bxa4

 良くない手だが、少なくとも当座は Rb3 という大きな狙いを防いでいる。

27.Ra3!

 しかし今度はカルアナはこれを見つけた。単に c3 から b3 でビショップを取る手を狙っている。

27…h3 28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 1-0

 ここでは白はルークの丸得になっているので、ナカムラは投了した。そしてそれと共にタイトル連覇ができなくなったことを認めた彼のボディーランゲージも見られた。


レッド・ブルのCMに出ている男がファビアノ・カルアナ戦で投了しそれと共に米国選手権防衛の希望がほとんどついえたことをボディーランゲージは余すところなく物語っていた。

*****************************

(この号続く)

2016年10月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(211)

「Chess Life」1998年4月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

現代ベノニ防御 [A77]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第3局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3

 2-0とリードのスパスキーは 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否または 3…Bb4+ のボゴ・インディアン防御の比較的静穏な戦型を期待した。代わりにフィッシャーは挑戦状をたたきつけた。

3…c5 4.d5

 挑戦受諾!試合はここからベノニの荒海に入っていく。4.Nc3(4…cxd4 でイギリス布局)または 4.e3(4…d5 でクイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御)なら静海になる。

4…exd5 5.cxd5 d6 6.Nc3 g6

 ここで既にベノニの特徴的な輪郭が見られる。つまり黒のeポーンと白のcポーンが交換されているので白は中央で優位に立つ可能性がある。だから白の通常の活動領域はキング翼になり、黒はクイーン翼になる。ここで 7.e4 なら普通の手である。

7.Nd2

 このナイトの絶好の地点は一般にd2で、そこからe4ににらみを利かしc4に跳ぶこともできる。しかしこんなに早くd2にナイトを置く利点は特にない。黒が正確に応じるという逆説的な結果をもたらし、白は11目で軽率な手を指した。

7…Nbd7

 黒はクイーン翼ナイトをどこに置くかという決定を遅らせ普通に 7…Bg7 と指すべきだった。

8.e4 Bg7 9.Be2 O-O 10.O-O Re8

 この局面は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.e4 g6 7.Nf3 Bg7 8.Be2 O-O 9.O-O Re8 10.Nd2 Nbd7 からできることが最も多い。しかし現在の常識(そして1972年でもそうだった)では、クイーン翼ナイトの最良の経路はクライドマン対フィッシャー戦(ネタニヤ、1968年)やナイドルフ対フィッシャー戦(ハバナ・オリンピアード、1966年)のように 10…Na6 から 11…Nc7 である。グリゴリッチ対フィッシャー戦(パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナル、1970年)でフィッシャーは 10…Nbd7 と手を変えていて、スパスキーは図の局面を研究しているはずだった。

 ここでの正確な作戦は 11.a4! で、クイーン翼の陣地を広げ、早い …b5 突きを防いでキング翼ナイトがc4に安定した居場所を確保できるようにする。

11.Qc2 Nh5!?

 我々は結果的にこの手が勝着になったことを知っている。この大胆な手に対してスパスキーは長考したが(30分!)、局面に対応した正しい対策を見つけられなかった。のちに実戦でもっと単純な 11…Ne5! で黒がもっと容易に理論的な互角になれることが明らかにされた。

12.Bxh5 gxh5 13.Nc4 Ne5 14.Ne3 Qh4 15.Bd2

 その後正しい手順と作戦は 15.Ne2! Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Ng3! Be5 18.Bd2 であることが発見された。白キングは安全で、黒がgポーンをg6からg4へ行進させたことによりf5とh5に弱点ができている。

15…Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Bf4 Qf6 18.g3?

 本譜の手により白のキング翼の白枡に本質的な弱点が生じ、フィッシャーはダイナミックに完璧につけ込んでいく。白は 18.Bg3 と指す必要があり(18…h5?! 19.Nb5!)、形勢不明だった。たぶんいい勝負だろう。残りの手順は記号をいくつか付けて示す。

18…Bd7! 19.a4 b6 20.Rfe1 a6 21.Re2 b5! 22.Rae1 Qg6 23.b3 Re7! 24.Qd3 Rb8 25.axb5 axb5 26.b4 c4 27.Qd2 Rbe8 28.Re3 h5! 29.R3e2 Kh7 30.Re3 Kg8 31.R3e2 Bxc3 32.Qxc3 Rxe4 33.Rxe4 Rxe4 34.Rxe4 Qxe4 35.Bh6 Qg6 36.Bc1 Qb1! 37.Kf1 Bf5 38.Ke2 Qe4+ 39.Qe3 Qc2+ 40.Qd2 Qb3! 41.Qd4?! Bd3+ 白投了

結論 ベノニは生きている。黒の指し方の改良には微調整が必要なだけである。

******************************

2016年10月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(444)

「Chess」2016年6月号(1/5)

******************************

究極のブリッツ決戦

IMマルコム・ペイン

 セントルイスでの二日間の試合の模様は素晴らしい実況生中継で放映され、カスパロフは直感が全然鈍っていないことを見せつけた。ポカをしたのは実戦からちょっと遠ざかっていたためだった。全18試合で3個のナイトをポカで失ったが、それでもウェズリー・ソーに続いて3位だった。

成績 ナカムラ 11/18、ソー 10、カスパロフ 9½、 カルアナ 5½

H.ナカムラ – G.カスパロフ
究極のブリッツ決戦、セントルイス、2016年、現代ベノニ防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 これはグリューンフェルト防御を避けるための流行の手順で、カスパロフはその戦いを避けベノニに持って行く。

3…c5 4.d5 d6 5.Nc3 e6 6.e4 Bg7 7.Nge2 exd5 8.cxd5 a6 9.a4 Nbd7 10.Ng3 h5 11.Be2 h4 12.Nf1

12…Nh5

 これはいかにもカスパロフらしい手である。何よりもまず駒を働かせることが最優先で、キャッスリングさえも後回しである。12…O-O 13.Bg5 h3 と指すこともできた。

13.Be3 f5 14.exf5 gxf5 15.Nd2

 15.f4!? と 15.g4!? もある手である。

15…Ne5

 15…O-O 16.f4 Re8! 17.Bxh5(17.Nc4 なら 17…Nb6 18.Nxb6 Rxe3!?)17…Rxe3+ の方がずっと良かったかもしれない。

16.f4 Ng4 17.Nc4 O-O 18.O-O

18…Ng3!?

 黒は 18…Nxe3 19.Nxe3 Re8(19…Qe7 20.Bxh5 Qxe3+ 21.Kh1 Bd7 も黒が良さそうである)20.Nxf5 Bxf5 21.Bxh5 Bd4+ で手がいろいろあり優勢である。しかしカスパロフは捨て駒の誘惑に抗しきれなかった。

19.hxg3 hxg3 20.Bxg4 fxg4 21.Ne4!

 この手はナイトを犠牲にしてg3のポーンを取る用意である。代わりに 21.Re1 は 21…Qh4 22.Ne2 Qh2+ 23.Kf1 Qh1+ 24.Bg1 Bd4 となって、たとえコンピュータが好んでもかなりひどそうである。ブリッツではこれはほとんど自殺行為に等しい。

21…Qh4 22.Nxg3 Qxg3 23.Qe1!

 クイーンは交換しなければならない。23.Nxd6?? は 23…Qxe3+ 24.Kh2 Rf6 で負けてしまう。

23…Qxe1 24.Raxe1 Bd7?!

 24…Rf6 が最善手だった。25.Nb6 なら 25…Rb8 で黒が良い。

25.Nxd6 Bxa4 26.Bxc5 b6 27.Ba3

 白は 27.Bxb6 Rfb8 28.Bc5 Rxb2 を避けた。

27…Bb3

28.Kh2

 28.f5!? Bxd5 29.Rf4! と指すのも強い手だった。ここでカスパロフは反撃に転じる。

28…Bxd5 29.Kg3 b5 30.Rd1 Ba2!? 31.Kxg4 Rab8

 クイーン翼ポーンを突き進める黒の作戦はブリッツでは指しやすい。それと比べると白ポーンは動きにくそうだが形勢はまだナカムラの方が良い。

32.Bc5 b4 33.Rd2 a5 34.Ra1 b3

35.Re1?

 35.Rad1 なら黒はa2で生き埋めのビショップを嘆くところだった。

35…Rxf4+!

 何年ものブランクにもかかわらずカスパロフは相変わらず鋭い。

36.Kxf4 Bh6+ 37.Kg4 Bxd2 38.Re7 Bb4 39.Bxb4 Rxb4+ 40.Kg5 Bb1 41.Ra7 a4 42.Ne8 Kf8 43.Nf6 Rd4 44.g4 Rd2 45.Rxa4 Rxb2 46.Rb4 Kf7 47.Nd5 Rd2 48.Rb7+ Kf8 49.Rb8+ Kf7 ½-½

*****************************

(この号続く)

2016年10月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(210)

「Chess Life」1998年4月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御 [E56]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第1局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5

 この時点では布局はクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法である。

4.Nc3 Bb4

 4…Be7 なら普通である。黒は本譜の手でクイーン翼ギャンビット拒否のラゴージン戦法にもっていった。フィッシャーは1950年代からクイーン翼ギャンビット拒否をひいきにしていたが、結果はまあまあにすぎなかった。ここで白の最強の手順は 5.cxd5 exd5 6.Bg5 である。代わりにスパスキーは二ムゾインディアン防御と対する方を好んだ。

5.e3 O-O 6.Bd3 c5 7.O-O Nc6 8.a3

 1950年代から1960年代にかけてこの手がルビンシュタイン戦法の中で最も人気があった。両者とも展開が棋理にかない中央に地歩を占めている。キング翼ビショップの位置を除いてまったく対称で、黒のビショップは白陣の側に入っていていくらか不安定である。先手の利に加えてこの要素が白の通常の有利さの基礎になっている。

8…Ba5

 これは傍流手順で、主流手順は 8…Bxc3 と 8…dxc4 9.Bxc4 cxd4 である。本譜の手のあと白は 9.cxd5 exd5 10.dxc5 で通常よりも優勢の度合いを少し大きくすることができる。しかし指し分けでもタイトル防衛の有利さと避けられない「第1局目のプレッシャー」とから、スパスキーは以前に用いてうまくいった穏やかな手順を選択した。

9.Ne2 dxc4 10.Bxc4 Bb6?!

 これは気まぐれすぎる手である。10…cxd4 ならほぼ互角になる。11.exd4 には 11…h6 でe2のナイトが守勢の位置にいるために、白には孤立dポーンのもたらす陣地の広さの優位を生かす見通しがない。

11.dxc5! Qxd1 12.Rxd1 Bxc5 13.b4 Be7 14.Bb2 Bd7

 フィッシャーの選んだ手は最善手だった。以前の対局のスパスキー対クロギウス戦(ソ連選手権戦、1958年)では黒は 14…b6?! 15.Nf4 Bb7 16.Ng5 Nd8 17.Rac1 h6 18.Ngxe6! でたちまち大苦戦に陥った。

 白は上図から展開の優位を生かして(ボトビニクの指摘のように)15.e4! と指すことができ、15…Rfd8 16.e5 Ne8 17.Ng3 Nc7 18.Ne4 で広さで大きく優位に立ち楽に危なげのない優勢になるところだった。白がこの好機を逃して收局は対称かつ互角になった。

15.Rac1?! Rfd8 16.Ned4 Nxd4 17.Nxd4 Ba4 18.Bb3 Bxb3 19.Nxb3 Rxd1+ 20.Rxd1 Rc8 21.Kf1 Kf8 22.Ke2 Ne4 23.Rc1 Rxc1 24.Bxc1 f6 25.Na5 Nd6 26.Kd3 Bd8 27.Nc4 Bc7 28.Nxd6 Bxd6 29.b5 Bxh2??

 試合がこの手まで引き分けと宣告されなかった理由はただ一つ、両者とも引き分けを提案する側になりたくなかったからである。本譜の手はフィッシャーの大見損じで、ビショップが逃げることができると考えていた。すぐに生じた收局は1972年に徹底的に分析された。黒は超完璧に指せば引き分けにできるようである。しかしフィッシャーは気落ちし、受けを間違い負けてしまった。残りの手順には記号を少し付けるにとどめる。

30.g3 h5 31.Ke2 h4 32.Kf3 Ke7 33.Kg2 hxg3 34.fxg3 Bxg3 35.Kxg3 Kd6 36.a4 Kd5 37.Ba3 Ke4? 38.Bc5! a6 39.b6 f5 40.Kh4! f4?? 41.exf4 Kxf4 42.Kh5! Kf5 43.Be3! Ke4 44.Bf2 Kf5 45.Bh4! e5 46.Bg5 e4 47.Be3 Kf6 48.Kg4 Ke5 49.Kg5 Kd5 50.Kf5 a5 51.Bf2! g5 52.Kxg5 Kc4 53.Kf5 Kb4 54.Kxe4! Kxa4 55.Kd5 Kb5 56.Kd6 黒投了

結論 主流手順はまだ変わらない。第一級の 8…Bxc3 と 8…dxc4 が 8…Ba5 よりも好まれている。

******************************

2016年10月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(443)

「British Chess Magazine」2016年5月号(4/4)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年

1.Rg3! e4

 黒は誘いのすきに引っかからなかった。1…Qxd3 2.Qxd3 Nxd3 3.Ne4 で 4.Rxd3 と交換得の 4.Nf6+ の両狙いがある。

2.Bxc5 Bxc5

 2…exd3 には 3.Qg4! でビショップ同士の交換からg7のポーンを取る狙いがある。

3.Nxe4

 3.Rdg1 Bf8 4.dxe4 でも良い。

3…Bd6 4.Rh3 Be5 5.d4 Bf6 6.Rg1 Rb8 7.Kxa2 Bh4 8.Rg4

8…Qd5

 8…Be7 には 9.Rxg7+ の強手があり 9…Kxg7 10.Qg4+ Kh8 11.Qh5 Bh4 12.Rxh4 Qe7 13.f6 で勝勢になる。

9.c4 1-0

 b3ポーンに対する狙いを消す一方 9…Qxf5 には単に 10.Rgxh4 で勝ちになる。

*****************************

(この号終わり)

2016年10月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(209)

「Chess Life」1998年4月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 1950年代後半から1972年ボリス・スパスキーとの世界選手権戦までの指し盛りにボビー・フィッシャーは布局に関して世界でも一流の大家と認められていた。彼の偉大な勝利の25周年に当たり、彼の得意だった布局/戦法が時の試練に耐えたかを検証することは意味のあることに思われる。この25年間に情報が大膨張したことは疑いない。これが達人の布局遺産にどれほどの影響を与えたのだろうか?かつての世界選手権戦の様相をGMフィッシャーの側から検証しよう。まずは…

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番

 スパスキーが初手に 1.d4 を指したのは第1、3、5、9局の4局である。成績は 1½ – 2½ で、その中には第1局の幸運な勝利もある。第10局まで 3½ – 6½ と負け越したので、あとは 1.e4 に転じた。

 上記の4局でフィッシャーは二ムゾインディアン防御を2局(うち1局は別手順からの転移)、ベノニ防御を1局、クイーン翼ギャンビット拒否の準タラッシュ戦法を1局指した。それらを指された順に紹介する。

******************************

2016年10月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(442)

「British Chess Magazine」2016年5月号(3/4)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ヒカル・ナカムラ – べセリン・トパロフ
世界選手権挑戦者決定大会第7回戦、モスクワ、2016年

1.Rg5!

 もちろん 1.Rxd1? は駄目で、1…Ng4+ 2.Kh3 Nxf2+ 3.Kh2 Qh3+ 4.Kg1 Qg2# までとなる。1.Re4 も(なんとしても …Ng4+ を止めるため)1…Nxe4 2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 Nf6 4.h5 Nxh5 5.Qxf7 Nf6 -/+ で悪い。

1…Ne4

 もちろんここでの 1…Ng4+ は 2.Rxg4 で負けになる。

2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 1-0

 これで 3…Qf1 は 4.Qxf3 で詰みの狙いにならない。

*****************************

(この号続く)

2016年09月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(208)

「Chess Life」1998年2月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る(続き)

(2)4…dxc6

 この手は指せる手だが、人気では 4…bxc6 に遠く及ばない。理由はもっともである。(1)白はどちらにキャッスリングすることもできる。クイーン翼にキャッスリングすれば黒のいくらかぜい弱なキング翼を攻撃する見通しが開ける。(2)局面は閉鎖的なままになるのでキャッスリングを急ぐ理由はなく、白はまず小駒の展開を完了することができる。(3)白はキング翼にキャッスリングすることになっても、役に立たない Re1 を指さないのでA2よりも1手早くなっている。だからA2と比べると黒が動けない2重ポーンの陣形の十分な代償を得るのははるかに難しい。これらの点は次の試合によく表れている。

ユダシン対ピグソフ(ケメロボ、1995年)
5.d3!

 白は小駒の効率的な展開を始めた。5…Bg4 を恐れない理由は、6.h3 Bxf3 7.Qxf3 となり黒が二重ポーンの代償となる効果的な双ビショップを得ることが期待できなくなるからである。

5…Bg7 6.Nc3 Nf6

 中央に十分な影響力を保持するためには将来 …e5 と突くことが避けられない。この時点で黒は白がキング翼キャッスリングに甘んじて黒キングに対する危険性を減らすことをまだ期待できる。

7.Be3 Nd7 8.Qd2 h6

 ビショップ同士の交換はキング翼の黒枡を弱めることになるので、それを防ぐことは役に立つ。それでもすぐに黒はf5にできる新たな弱点を心配しなければならない。

9.O-O-O! e5 10.h4 Qe7 11.h5! g5 12.Ne2 b6 13.Ng3 Nf6 14.Nh2 Be6 15.Qc3 Qd7! 16.f3 O-O 17.Nhf1! Ne8 18.Bf2 Nc7?!

 白は直前の手で Ne3 と Ngf5 でf5の地点を占拠する意図を示していた。だから黒のナイトはd6に行くべきだった。

19.Kb1 Nb5 20.Qe1 Rfd8 21.Ne3 Nd4?!

 依然として 21…Nd6 が適切である。

22.c3 Nb5 23.Ngf5 f6

 ここが勝負所だった。GMユダシンが指摘したように、正しい手順は 24.Nxg7! Kxg7 25.g3 で、f4 突きからの攻撃が強力になる。実戦は黒が黒枡ビショップを保持できる。そうすればいつか双ビショップが防御では障壁となり攻撃では敵を悩ませる。GMユダシンはこの熱戦を『チェス新報』第65巻第164局で詳細に解説している。残りの手順は要点を記号で示すだけにする。

24.g3?! Qf7! 25.a3 Bf8! 26.Qe2 Nd6 27.f4 exf4 28.gxf4 Nxf5 29.exf5 Bd7 30.Qf3 Re8 31.Bg3 Rad8 32.fxg5 fxg5?! 33.Rhf1 Kh8 34.Ng4 Qd5! 35.Qxd5 cxd5 36.Nf6?! Re7 37.Nxd5 Rf7 38.Be5+ Bg7 39.f6 Bf8 40.Ne3 Ba4 41.Rd2 Kg8 42.d4 Be8! 43.Kc2 Ba4+ 44.b3 Be8 45.d5 b5 46.c4 bxc4 47.bxc4 Rb7! 48.Rh2 Kf7 49.Rhh1 Ba4+ 50.Kd2 Re8 51.Bc3 Bd7 52.Rhg1 Bd6! 53.Ng4 Bxg4 54.Rxg4 Be5 55.Bxe5 引き分け

******************************

2016年09月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(441)

「British Chess Magazine」2016年5月号(2/4)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMアンドルー・マーティン

ヒカル・ナカムラ – ビシー・アーナンド
世界選手権挑戦者決定大会第12回戦、モスクワ、2016年

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5

5…e4

 アーナンドはすぐに局面を険しくした。ここではポーンをくれてやることもできる。5…O-O!? 6.Nxb4 Nxb4 7.Nxe5(7.d3 の方が慎重な手で双ビショップに期待する)7…Qe7 8.d4 d6 9.Nf3(9.Nd3 d5 10.cxd5 Qe4 11.f3 Nxd3+ 12.Qxd3 Qxd3 13.exd3 Nxd5)9…Bf5 黒は十分な代償を得ている。

6.Nh4

 ナイトが挑発的に端に跳ねた。白は適時に f2-f3 または d2-d3 と突いて戦いに引き戻すつもりである。…g7-g5 と突かれてこのナイトが簡単に取られるのにも注意しなければならない。既に非常に奇妙な局面になっている。

6…O-O 7.Bg2 d6

 7…Re8 8.O-O d6 9.d3 exd3 10.Qxd3 Nxd5 11.cxd5 Ne5 なら黒がしっかりしていてやれそうである。

8.a3

 8.Nxf6+ Qxf6 9.Bxe4 Re8 はナカムラの事前研究では危険すぎるようだったに違いない。確かに黒駒の動きが非常に良い。
(a)10.Bg2 Bg4
(b)10.Bf3 Bh3
(c)10.Bxc6 bxc6 11.O-O Bg4 12.f3 Bh3 13.Rf2 Qd4! 14.Ng2(14.Qc2 Rxe2;14.d3 Bc5)14…Bxg2 15.Kxg2 Bc5 16.Rf1 Qxc4

8…Bc5 9.O-O Re8 10.e3!?

 これは新手で、明らかにコンピュータによる研究の成果だった。白は黒に …g7-g5 と突く手を与え、黒はそう突く。

10…g5

 これはアーナンドの自信たっぷりの手で、どちらが支配者なのかを見せつけようとしている。10…Be6 でも良さそうである。11.Nxf6+ Qxf6 12.Bxe4 Bxc4(12…g5 13.Ng2(13.Qf3 Qxf3 14.Nxf3 Bxc4 15.d3 Rxe4 16.dxc4 Rxc4 17.Nxg5 Ne5)13…Bxc4)13.Bxh7+ Kxh7 14.Qc2+ Kg8 15.Qxc4 g5∞ どちらでも黒は布局の課題を解決しているようである。

11.b4 Bb6

 11…gxh4 と取る手もありそうで、その意味は 12.bxc5(12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Ne5 14.bxc5 Bg4)12…dxc5 でd5のナイトが当たりになっているということである。13.Bb2 Nxd5 14.cxd5 Qxd5 15.d3 h3! 16.Bxe4 Rxe4 17.dxe4 Qxe4 18.f3 Qxe3+ 19.Kh1 Bf5 20.Qe1 Qxe1 21.Raxe1 c4 -/+

12.Bb2 Nxd5

 12…Ne5 は 13.Nxf6+ Qxf6 14.f4! で急に白の方がうんと良くなる。14…exf3e.p. 15.Nxf3 Nxf3+ 16.Qxf3 Qxf3 17.Bxf3 c6 18.a4 a5(18…a6)19.b5

13.cxd5

13…Nd4!?

 明らかにアーナンドは白の強硬策と正面から渡り合うために長考していた。13…Nd4 もやはり好戦的な手法だった。黒は強制的に対角斜筋をふさごうとしている。ナカムラは 13…Ne5 が事前研究の焦点で、14.f4! を考えていたと語った。怖そうな手だが、14…Nc4! 15.Bc3 gxh4 16.Qe2 Nxe3 17.dxe3 Qe7= となりそうである。だから結局 13…Ne5 の方が良かったいうことになるだろう。

14.d3!

 14.Bxd4 Bxd4 15.exd4 gxh4 16.Qc2 f5 17.Rac1 Qf6 18.Qxc7 f4 は主導権が入れ替わるので、とても白の望むところではない。

14…gxh4 15.dxe4 Ne6 16.dxe6 Rxe6 17.e5!

 これは非常にいい手である。黒キングは周りが薄いので防御が心もとない。

17…hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 +/-

 局面が一段落して白の優勢が明白となった。そしてナカムラがそのまま勝った。

20…h5

 20…Bg4 は単純に 21.Bxb7! と応じられる。ポーンを取らないという手はない。21…Rad8(21…Re8 22.Qc3 f6 23.Bg2)22.Qc3 f6 23.Rac1 +/-

21.Rad1 Rh6

 21…Be6 22.Qc3 Kh7 23.Rxd6 cxd6 24.Bxb7 Rg8 25.Qd3+ Bf5(25…Kh6 26.Qxd6 h4 27.Kg2)26.Be4 +/- も 21…Kf8 22.Rxd6 cxd6 23.Qd3 Qg6 24.Be4 f5 25.Bg2 a5 26.Rd1 axb4 27.axb4 Ke7 +/- もアーナンドとしては指しきれなかったようである。しかしルークをそっぽへ行かせるのは負けを早めた。

22.Rd5! Qe7 23.Qc4

23…Bg4

 23…Be6 24.Qf4 Rg6 25.Rxh5。23…c6 24.Re5 Be6 25.Qf4 Rg6 26.Be4。

24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0


ナカムラはアーナンドの世界選手権再々挑戦の望みををくじいた

*****************************

(この号続く)

2016年09月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(207)

「Chess Life」1998年2月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る

 この約5年もの間すぐ取るのが白の一番の選択肢だった。きっかけは疑いなくフィッシャーが1992年にボリス・スパスキーとの番勝負でその手を用いて好結果をあげたからである(第11局は見事な勝利で、第13局は引き分け)。チェス自体の理由も明快である。白は確実に黒に二重ポーンを作らせ、すぐに黒の取り方を知ることにより自分の最良と考える陣形を選ぶことができる。しかし同様の融通性のある考え方は黒の選択にも当てはまる。c6で取り返した後白がどうくるかが分かる。全体的には研究と創造性の余地が大いにある。黒の取り返し方を(A)と同じ順で考える。

(1)4…bxc6

 GMスパスキーは2局ともこう取り返した。私はこの手が黒の最も好結果をもたらす手法だと思う。eポーンが元々の位置にいるので黒にはd6とf6の地点に弱点を抱えていない。さらには中央に向かっての主眼の取り返しで黒の中央が強化され、白が中央を開放するように指してきた場合には双ビショップを活用する見込みができる。

 ここからは実戦の手を見ていく。

シュルスキス対スビドレル(ヨーロッパ団体選手権戦、プーラ、1997年)
5.O-O Bg7 6.Re1 Nh6!

 このナイトの展開は …f6 と相まってGMスパスキーによって第13局で初めて指された。その意図はポーン陣形を堅くしまったものにして、白がポーンを突いてきても何もとっかかりを与えず無効にできることである。

7.c3 O-O 8.d4

 白は自分で中央を広げるために黒の二重ポーンと「交換」する。今ではこの局面にかなりの定跡がある。

8…cxd4 9.cxd4 d6 10.Nc3 f6

 ここまでの手はとりたてて言うこともなかった。どちらも望んだポーン/小駒の配置に達した。黒の陣形はハリネズミ陣形を模したようなものである。三段目より先には何も突きでていないが、黒陣のすべての地点は目が行き届いている。さらに黒の双ビショップは紛れもなく将来性が潜在的にある。白には妥当な作戦が多いが、以下はそのうちの二つである。

(a)11.Qa4 Qb6 12.Nd2 Nf7 13.Nc4 Qa6 14.Be3 Qxa4 15.Nxa4 f5 16.exf5(16.f3! の方が良く白が少し優勢-GMマツロビッチ)16…Bxf5 17.Rac1 Rfc8 18.Na5 Bd7 19.b3 Rab8 黒は楽に互角になっていて45手で引き分けた(フィッシャー対スパスキー、1992年、番勝負第13局)。

(b)11.b3 Bd7 12.Bb2 Nf7 13.Qc2 Rc8 14.h3 Qc7 15.Rad1 Rfe8 16.Qd2 Qa5 17.d5 cxd5 18.exd5 Bh6 19.Qd4(ルブレフスキー対スビドレル、ロシア、1996年)この試合は36手で引き分けになったが、白は陣地が広いので少し有利のはずである。

11.Be3

 白は 11.h3 と1手かけることなく白枡ビショップを中央の最良の地点に展開できれば望ましい。黒は反発し局勢は険しくなった。GMスルスキスは黒が 11…d5 や 11…f5 と中央で動くと 12.h3 と応じられ、黒が自陣側に弱点を作り出しているので白が楽に少し優勢になると指摘している。

11…Ng4!? 12.Bd2 Bd7 13.Qc2 Qb6 14.Rad1 Rac8 15.Bc1 Qb7 16.e5! fxe5 17.h3! Nh6 18.dxe5 Bxh3

 代わりに 18…Bf5 は 19.Qe2 d5 20.Be3 Kh8 のあと 21.Na4 でも 21.Bc5 でも白が危なげなく優勢になる(GMスルスキス)。

19.Bxh6 Bxh6 20.gxh3 Rxf3 21.exd6 exd6 22.Rxd6 Bf8

 22…Rxh3?! とポーンをかすめ取るのは危険すぎる。23.Ne4! とこられ 23…c5? には 24.Rd7! がある(GMスルスキス)。

23.Rd3 Rxd3 24.Qxd3 Qf7 引き分け

 両対局者とも持ち時間が少なくなっていて、半点で満足した。GMスルスキスは両者の最善の手順を 25.Ne4! Kh8! 26.b3 と示して白が少し優勢とした。本局は『チェス新報』第69巻第137局でGMスルスキスが全手順を詳細に解説している。

******************************

2016年09月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(440)

「British Chess Magazine」2016年5月号(1/4)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会

GMニック・パート

セルゲイ・カリャーキン – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2 d5 8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3

10…Nbd7

 カリャーキン自身はこの挑戦者決定大会で黒でカルアナ、ギリそして当のナカムラ相手に3局とも 10…Re8 と指してすべて引き分けに終わった。

11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8

 ここでは …Rc8 から …c5 と突く方が自然な作戦に思われる。

13.Ne5 Bb7 14.Bc1

 カリャーキンがビショップをb2に振り向け直したのはこの局面の優れた理解の表れだった。

14…Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3

 16.Nb5 もあり、16…Bf8 17.Rac1 c5 18.dxc5 bxc5 19.e3 となれば少し優勢である。

16…a6 17.Ne2

17…c5?!

 大局観の争いの局面で攻撃型の選手の直面する問題はしばしば早まって打って出るということで、それがここで起こった。挑戦者決定大会がすべてに優先するのだから、キング翼インディアン防御やオランダ防御のような切るか切られるかがナカムラにもっとふさわしかったのではと思う。客観的には 17…c6 が望ましく、黒は少し劣勢であっても堅実だった。

18.dxc5

 18.Nc4!? は魅力的に見える。そのあと 18…Bf8 19.dxc5 Nxc5 20.Nf4 Rc8 21.Qf5 Nce4 22.Bxf6 Nxf6 23.Nxd5 Bxd5 24.Bxd5 と進めば白はポーン得になる。それでも勝ちにつなげるのはそれほど容易でない。

18…Nxc5

 代わりに 18…bxc5 と取るのは 19.Nc4! Be7 20.Rd2 で黒の中央が圧力で崩壊しそうだから良くない。しかし本譜では黒には孤立dポーンが残された。この局面では一般的に白の希望は二組の小駒を交換して黒の動きを押さえdポーンの弱点を際立たせることである。これに対して孤立dポーンの側は駒をすべて盤上に残すことを目指すべきである。

19.Nd3 Nce4

 カリャーキンはゆっくり自陣を整備してしだいに駒の働きを良くしながら、陣形の優位で優勢になれることを期待している。

20.Rac1 Rc8 21.Qb1 Qe7 22.Bd4 Rxc1

 この交換は白を利するはずだが、白からc8で交換することができるので黒としては避けることが難しいだろう。ここで私が黒ならもちろん自分からこのような交換はしたくない。

23.Rxc1 b5 24.b4

 たぶん黒は …b6-b5 でなく …Nd7 と指すべきだったろうが、どのみちdポーンがd5で立ち往生しているので白枡ビショップは働かない。

24…Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1

 カリャーキンは当たり障りのない指し方をしていて、一本道の手順に入らずに圧力を強めて相手の悪手を待とうとしている。

26…Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

29…Nxg3??

 これはとんでもないなポカだったが、どのみちナカムラは重圧を受けていた。代わりに 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 なら黒はまだ苦戦だが少なくとも致命傷は負っていなかった。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

34.Rc7!

 f7とc7の両当たりになっている。ナカムラほどの実力者がこんな手を見落とすことがあるとは驚くしかない。しかしやはり彼はゆっくりした受けに大局観を発揮するような選手ではなく、着眼は攻撃に向きがちである。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1

 38…Rxf2 と取っても 39.Bxd3 Rf3 40.Bc2 と白に強硬にこられて、黒はポーンを多く取り返すのが困難である。例えば 40…Rxg3+ 41.Kf2 Rxa3 42.Bxf5+ Kg8 43.Bg6 Kf8 44.Rf7+ Kg8 45.Re7

となって Re8 での詰みが避けられない。全体的にカリャーキンが大局観で危なげなく勝った。


カリャーキンはナカムラに勝って好調な出だしとなった。

*****************************

(この号続く)

2016年09月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(206)

「Chess Life」1998年2月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(2)6…dxc6

 本譜の手のあとの局面は黒にとって 6…bxc6 のあとの局面よりかなり指しやすい。その理由は次のとおりである。(1)黒のクイーンもd4に利いているので白が d2-d4 と突くのはもっと困難になっている。(2)たとえ白が d2-d4 と突けても黒のクイーン翼のポーン陣形は …c5xd4 のあと a7-b7-c6 となって欠陥がなくなる。(3)黒の白枡ビショップの正常な斜筋はすでに開通している。(4)黒は例えばナイトをd4に据えることにより重要なd4の地点を支配する可能性が高い。

 黒はc5のポーンが弱体化しないように気をつけるべきである。特に気をつけるべきことは …b6 と突いて守っても十分でないかもしれないことで、白は狙い筋の a2-a4-a5 突きでその地点を弱めることができる。ここからは次の試合の手順を追う。

デグラーブ対メドニス(メス、1989年)
7.d3 Qe7!

 この手には目的が二つあり(1)すぐの要点はc5とe5で起こるどんな戦術もそれらの地点を守る、または過剰に守る、ことにより防ぐことであり(2)もっと長期的にはd8の地点をナイトまたはキング翼ルークのために空けることである。

8.Nbd2 Nh6!

 半閉鎖的な局面ではナイトのために好所を見つけることが大切である。黒のナイトにとってそれはe6の地点にあたり、f7からd8を通って到達できる。

9.a4

 中央で何かが起こる見通しはないので白は局面を閉鎖的に保ってc5の地点の確保に期待することもできるし、クイーン翼で列を素通しにさせることもできる。典型的な例はヤンサ対シュナイダー戦(スカーラ、1980年)である。9.a3 f6 10.b4 cxb4! 11.axb4 O-O 12.Bb2 Rd8 13.Bc3 Nf7 14.Nc4 Be6 15.Qe2 Nd6! 16.Nxd6 Qxd6 17.Qe3 a6 18.Rab1 Rd7 19.Nd2 ここで黒は 19…Bf8?! で黒枡ビショップを遊ばせてしまう代わりに、普通に 19…Rc8 と指していたら問題なかった。

9…O-O 10.Nc4 f6 11.a5 Nf7 12.Be3 Nd8! 13.Nfd2 Ne6 14.Nb3 Rd8 15.Ra4 Bd7

 c5の地点が安全でキング翼ルークが最良の地点にいるので白枡ビショップを展開する時機である。

16.Qd2 Be8 17.Qc3 Bf7 18.Nbd2

 私はこの手の狙いが b4 突きで動く余地を作ることだと気がつかなかった。それを 18…Bf8! で防いでおくべきで、黒は陣地が広く(二重ポーンのおかげで!)好調だった。白が解放を成し遂げれば形勢が動的に均衡がとれる可能性がある。持ち時間が少なくなって両対局者は手を繰り返して引き分けにした。

18…Qc7 19.b4! cxb4 20.Rxb4 Bf8 21.Rb2 Nd4 22.Na3 Qe7 23.Nac4 Qc7 24.Kh1 Rab8 25.Ra1 Nb5 26.Qb3 Nd4 27.Qc3 Nb5 28.Qb3 Nd4 引き分け

******************************

2016年09月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(439)

「Chess Life」2016年5月号(3/3)

******************************

ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

ルイロペス・ベルリン防御(C65)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMレボン・アロニアン(FIDE2746、アルメニア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第5回戦、2016年2月15日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 Be6 7.O-O Bd6 8.d4 Nd7 9.dxe5 Nxe5 10.Nxe5 Bxe5 11.f4 Qd4+ 12.Kh1 Bd6 13.Qe2 O-O-O 14.f5 Bd7 15.Nf3 Qa4 16.b3 Qa5 17.Bd2 Bb4 18.Bxb4 Qxb4 19.Qf2 b6 20.Ng5 Qe7 21.f6 gxf6 22.Qxf6 Qxf6 23.Rxf6 Be8 24.Nxf7 Bxf7 25.Rxf7 Rd2 26.Rc1 Rg8 27.Rg1 Rxc2 28.Rxh7

 形勢はナカムラの優勢だったが、ここでは正確に指せば時間で少し負けていてもアロニアンが反撃で十分引き分けにできたはずだった。しかしギリはブリッツでナカムラと対戦することの問題を次のように説明した。「厄介な相手だ。たぶん彼のポカのせいでこちらの勝勢になっているのに認めようとしない。まるで何事もなかったように指してくる。そして彼は1手ごとに3秒増す。彼は1秒で指すのにこちらは4秒か5秒で指す。」

28…Rxa2?

 28…Rg4!! なら白のgポーンを十分長く押しとどめて形勢を持ちこたえさせる。白が h3 と突いてこのルークをどかそうとすれば …Rxe4 から …Re2 で厄介なことになる。

29.g4! Ra5

 これでは白ポーンが止まらないが、29…Rf8 30.g5 Rff2 ではhポーンがh2に居続ければ何の狙いもなく、白はgポーンを突き進め続けることができる。

30.h4 Re5 31.g5 Rxe4 32.g6 Ree8 33.h5 a5 34.g7 Kb7 35.Rh6 Re5 36.Rh8 Rxg7 37.Rxg7 b5 38.Rg3 c5 39.h6 Rh5+ 40.Kg2 c4 41.bxc4 b4 42.Rh3 Rg5+ 43.Kf3 b3 44.Kf4 a4 45.Kxg5 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

左から右へ(括弧内は最終得点)GMヒカル・ナカムラ(10½)、GMアニシュ・ギリ(5½)、GMアレクセイ・シロフ(3½)、GMビスワーナターン・アーナンド(10½)、GMウラジーミル・クラムニク(9½)、GMレボン・アロニアン(5½)

*****************************

(この号終わり)

2016年09月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(205)

「Chess Life」1998年2月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(A)白が取るのを後にする(続き)

(1)6…bxc6

 中央に向かって取り返すのが昔からの鉄則である。しかし私の考えではここでは意欲的すぎる。黒はeポーンを突いてしまっているのでf6とd6が潜在的な弱点になっているし、aポーンは孤立していて弱点になるかもしれず、白枡ビショップの展開は遅れている。実戦例として次の試合を取り上げる。

スミスロフ対Zsu.ポルガー(モナコ、1994年)
7.c3!

 白は展開でだいぶ先行しているので、中央を開放したい。二重ポーンの弱点に長期的な戦略でつけ込もうとするよりもGMスミスロフは動的に対処することを目指す。

7…Ne7 8.d4 cxd4 9.cxd4 exd4 10.Nxd4 O-O 11.Nc3 Bb7

 黒は …d5 と突く用意をした。確かに理にかなったやり方である。明らかにマカリチェフ対クラセンコフ戦(モスクワ、1992年)は黒にとって不満足だった。11…Rb8?! 12.Nb3! d5?! 13.Be3! dxe4 14.Bc5 Rb7 15.Nxe4 Bxb2 16.Nd4! 肉弾戦の詳細については『チェス新報』第55巻第177局を参照されたい。

12.Bg5 h6 13.Bh4 g5 14.Bg3 d5 15.exd5 Nxd5 16.Ne4! Re8 17.Nf5! Bc8 18.Nxg7 Kxg7 19.Qd4+ f6 20.Nd6 Rxe1+ 21.Rxe1

 黒の努力の結果はd5の好所のナイトとa7、c6、f5それにキング翼という具合に盤上全体に渡る恒久的な弱点である。黒陣はもちろん敗勢でないが、非常に指しにくい。実戦ではこのような局面はほとんどの場合負けになる。残りの手順は若干の形勢記号をつけて示す。GMスミスロフはこの試合を『チェス新報』第61巻第174局で詳細に解説している。

21…Bd7 22.h4! Qg8! 23.Ne4 Qe6 24.f3 Qf5 25.b4! a6 26.a3 g4 27.Nd6 Qg6 28.f4 h5 29.Rc1 Kh7 30.f5 Qg8 31.Qc5 Qb8 32.Qd4 Kg7 33.Kh2 Qb6 34.Rc5! Qd8 35.a4 Qe7 36.Rc1 Qe3 37.Qxe3 Nxe3 38.Bf2 Nd5? 39.Bc5 Rb8 40.Re1! Kg8 41.Re4 Kg7 42.Kg3 Rh8 43.Kf2 Rb8 44.g3 Kg8 45.Ke1 Kg7 46.Kd2 Kg8 47.Kd3 Kg7 48.Kc4! Ra8 49.Bf2 Kf8 50.Bc5 Kg7 51.Be3 Rb8 52.Kc5! Kg8 53.Bh6 Ra8 54.Bd2! Ra7 55.Re2! Ra8 56.b5! axb5 57.axb5 cxb5 58.Kxd5 Ra2 59.Kc5 Rb2 60.Re7 Rc2+ 61.Kb4 Bxf5 62.Bh6 黒投了

******************************

2016年09月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(438)

「Chess Life」2016年5月号(2/3)

******************************

ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇(続き)

GMイアン・ロジャーズ

欠陥のため引き分けへ
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2801、ロシア)
チューリヒ・チェスチャレンジ第3回戦、2016年2月14日

 ナカムラは窮地に立たされていたが、クラムニクの圧力を強める手段には思わぬ欠陥があった。

35…f5?!

 ここは 35…Rg2+! 36.Kh3 Ra2! 37.Nc4 Ng2! と指す方が良く少なくとも1ポーンが取れる。

36.Nc4! f4+ 37.Kh3 Rf2 38.Nxe5 Nf1

 これがクラムニクの読み筋だったが、ナカムラは黒の交換得のあと全くの形勢不明であることまで見通していた。

39.Rxf1! Rxf1 40.Kg2 Ra1 41.Ng6 Ra2+ 42.Kg1 Ra1+ 43.Kg2 Ra2+ 44.Kg1

44…Kf7?

 勝利への細い道筋は考えにくい 44…Ra7! 45.Nxf4 Rf7 46.Nxh5 g6! 47.Ng3 Rxf3 48.Kg2 Rf4 49.Kh3 Kh7 という手順にあった。

ここで白には適当な手がなく1ポーンをあきらめなければならない。そのあと手数はかかるが黒の勝ちは確実である。

45.Nxf4 g6 46.Ng2! Kf6 47.Kh2 Ke5 48.Kg3

 これで白には何も問題がないが、クラムニクはなかなかあきらめきれない。

48…Ra1 49.Nf4 Kd4 50.Kg2 Ra2+ 51.Kg3 Ra1 52.Kg2 Ra8 53.Kf2 Ra6 54.Ne2+ Ke5 55.Kg3 Rf6 56.Kf2 Rf8 57.Kg3 Rf7 58.Kf2 Ra7 59.Kg3 Ra8 60.Nf4 Rg8 61.Ne2 g5 62.hxg5 Rxg5+ 63.Kh4 Rg2 64.Ng3 Rh2+ 65.Kg5 h4 66.f4+ Ke6 67.Nf5 h3 68.Kg4 Rh1 69.Ng3 Rh2 70.e5 Rf2 71.Ne4 Rg2+ 72.Kxh3 合意の引き分け

*****************************

(この号続く)

2016年09月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(204)

「Chess Life」1998年2月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン

 前2回では二重ポーンができるのを許容できるかどうかの判断基準、または逆に相手に二重ポーンを作らせるかどうかを決める際に使う判断基準を示した。最優先の判断基準は二重ポーンにどうしても付きまとう弱点をしのぐ十分な代償を得なければならないということである。特に黒はこのことにこだわる必要がある。

 二重ポーンのあれこれを論じるための手段として、シチリア防御の人気があり定跡で重要な戦法を選んだ。

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5

 表面的にはこの手はシチリア防御に対する積極的な攻撃の開始のように見える。もっともこれがうまくいくのは 3…Qb6 や 3…Qa5 のような弱い受けに対して、または黒が例えば 3…e6 4.O-O Nge7 で単刀直入の展開をわざと避ける場合だけである。

 黒の最も普通の応手について説明する。

3…g6

 黒はキング翼の小駒を展開し、陣形に対する狙いの Bxc6 を無視している。白の方はすぐにc6での取りを決めることもできるし後にすることもできる。

(A)白が取るのを後にする
4.O-O Bg7 5.Re1

 これがかねてからの手法である。白はキング翼の戦力の展開を完了し、先へ進む前に黒がどんなやり方で来るかを見極めようとしている。黒の高級な応手は 5…Nf6 と 5…e5 の二つである。後者は二重ポーンができるので(私が指したい方の手である!)、それを取り上げる。

5…e5

 黒は近い将来の白の中央でのいかなる動きも未然に防ぎ、キング翼ナイトをe7に支障なく展開する用意をしている。白がどんな有利でも期待するならここで取らなければならない。

6.Bxc6

 黒はどちらのポーンでも容易に取り返すことができるが、どちらもいくらか不如意な二重ポーンになる。どちらで取り返した方が良いのだろうか。

******************************

2016年08月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(437)

「Chess Life」2016年5月号(1/3)

******************************

ナカムラがチューリヒ・チェスチャレンジを連覇

GMイアン・ロジャーズ

フランス防御突き越し戦法 (C02)
GMアレクセイ・シロフ(FIDE2682、ラトビア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2842、米国)
チューリヒ・チェスチャレンジ第2回戦、2016年2月13日

1.e4 e6 2.d4 d5 3.e5 c5 4.c3 Nc6 5.Nf3 Qb6 6.a3 Nh6 7.b4 cxd4 8.Bxh6 gxh6 9.cxd4 Bd7 10.Ra2 Rg8 11.h3 h5 12.g3 h4 13.g4 Be7 14.Be2 f6 15.b5 Nd8 16.Qd3 Rg7 17.Nc3 Nf7 18.O-O h5 19.Na4 Qd8 20.exf6 Bxf6 21.Nc5 hxg4 22.hxg4 b6 23.Nxd7 Qxd7 24.Kh1 Rc8 25.Rc2 Rxc2 26.Qxc2 Nd6 27.Ne5 Bxe5 28.dxe5 Ne4 29.Kg2 Nc5 30.Rh1 Qe7 31.Qc1 Rh7 32.Qe3 Qg7 33.Rc1 Qf8 34.a4 Rf7

 シロフはもう残り2、3分しか残っていなかったのに対し、ナカムラは20分くらい残っていた。

35.f3?!

 この手は慎重すぎた。白は 35.a5! で 36.axb6 から 37.Ra1 を狙うのが良かった。シロフは 35…h3+!? を恐れたに違いないが、36.Kg1! h2+ 37.Kg2! で、すぐにh2のポーンを Rh1 でからめ取ることができる。

35…Rf4! 36.Rxc5?

 白はパニックに陥った。36.Rh1 Qh6 37.Qf2 なら均衡を保っていたはずだった。

36…bxc5 37.a5 h3+!

38.Kg3?

 38.Kxh3? と取れないことは 38…Qh6+ 39.Kg2 Rxg4+ 40.Kf2 Rg2+ から明らかだったが、シロフにとっては 38.Kh2! でも事態はもっと厳しかった。38…Rb4 39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって白ポーンが何かできるよりも前に黒の攻撃がやってくる。

38…h2! 白投了

*****************************

(この号続く)

2016年08月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(203)

「Chess Life」1997年12月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局(続き)

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(2)1.d4 d5 2.Nc3 Nf6 3.Bg5 (D01)

 この手は無害そうに見えるが白が本質を知っていればそれほど無害ではない戦法の一つである。基本的に白は黒のdポーンに従来の c4 突きで挑むのではなく、駒中心の戦いとポーン陣形を重視する。白が 4.Bxf6 で黒に二重ポーンを作らせるのを狙っているので、黒はこれにどう対処するのかを決めなければならない。注意すべきは白が 3…e6 に 4.e4 と応じてフランス防御に移行できることである。3.Nc3 に 3…Nf6 と指すフランス防御の使い手のみが 3…e6 と指すことができる。以下では三つの戦型を簡潔に解説する。

 (a)3…c6 4.Bxf6 exf6

 代わりに 4…gxf6?! は白に 5.e4! で有利に局面を開放される。本譜の手のあとはバーガー対ヘンリー戦(ニューヨーク、1983年)の手順を追う。

5.e3 f5 6.Bd3 g6 7.Nce2! Nd7 8.Nf3 Bd6 9.c4 dxc4 10.Bxc4 Qe7 11.O-O Nb6 12.Bb3 Be6 13.Nc3 Rd8 14.Qc2 O-O

 『チェス布局大成D』(1987年改訂版)はこの局面を互角と判断している。黒が二重ポーンの代償に何を得ているか私には不明である。

 (b)3…Bf5 4.Bxf6 exf6 5.e3 c6 6.Bd3 Bxd3 7.Qxd3 Bb4 8.Nge2 O-O 9.O-O Nd7 10.e4 dxe4 11.Nxe4 Re8 12.a3 Bf8 13.b4 f5 14.Nd2 a5 15.c3 g6

 この局面(レンジェル対コラーロフ、ケチケメート、1962年)も同大成で互角と判定されている。しかし白はポーン陣形(クイーン翼の無傷の多数派ポーン)の優位で少なくともいくらか優勢ではないだろうか。

 (c)3…Nbd7!

 この10年でこの完璧な手がGMたちの唯一の選択肢になってきた。その理由は簡単である。二重ポーンを受け入れる必要性がまったくない時にどうして受け入れるのかということである。実戦例としてスミスロフ対グフェルト戦(ニューヨーク・オープン、1989年)を取り上げる。

4.Nf3 g6 5.Qd3 Bg7 6.e4 dxe4 7.Nxe4 O-O 8.Nxf6+ Nxf6 9.Be2 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5 12.O-O Be6 13.Qd4 Qa5 14.a3 h6! 15.Bxf6

 GMエドワルド・グフェルトの考えではこれが白にとって最善手である。というのは 15.Bh4 なら 15…Nd5! で、15.Bf4 なら 15…Nd5! 16.Be5 f6! 17.Bg3 Bf7 から 18…e5 で、黒が中央の優位のために優勢になるからである。

15…Bxf6 16.Qe3 Bg7 17.Nd4 Bd5

 黒は双ビショップとキズのない陣形のためにわずかに展望に優る。もちろんeポーンは毒入りである。18.Qxe7?? Rfe8 19.Qd7 Bxd4 20.cxd4 Rxe2 21.b4 Qd8! で黒の駒得になる。ここでGMワシリー・スミスロフは 18.Rfd1?! と指してはっきり形勢を損じ、48手目でなんとか引き分けにした。GMグフェルトは代わりに 18.Rad1 で白の不利を最小限にとどめることを推奨している。『チェス新報』第47巻第448局にGMグフェルトの詳細な解説が載っている。

******************************

2016年08月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(436)

「Chess」2016年5月号(5/5)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

H.ナカムラ – V.アーナンド
第12回戦、イギリス布局

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5 e4 6.Nh4 O-O 7.Bg2 d6 8.a3 Bc5 9.O-O Re8 10.e3 g5!?

 この手は客観的には成立するが、相手が早指しできて明らかにまだ研究範囲なので危うい方針だった。

11.b4 Bb6 12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Nd4?

 盤上での閃きで指したようだが、単なる悪手だった。コンピュータの 13…Ne5 でかなり形勢不明である。もっともナカムラは後でこの局面を詳細に研究済みだと認めた。

11.d3 gxh4 12.dxe4 Ne6 13.dxe6 Rxe6

 黒陣はガタガタである。そしてナカムラは簡単にかたをつけた。

17.e5 hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 h5 21.Rad1 Rh6 22.Rd5 Qe7 23.Qc4 Bg4 24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号終わり)

2016年08月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(202)

「Chess Life」1997年12月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

閉鎖布局

 矛盾しているように聞こえるかもしれないが閉鎖布局では黒には二重ポーンを受け入れることによって自分のポーン陣形を乱す必要性も潜在力もいっそう少ない。初期の段階で白は 1.e4 布局よりも迫ってこないので、どうして黒が二重ポーンを受け入れるべき必要があるのだろうか。答えはそんな必要などあるはずがないである。これを二つの実戦例で説明する。

クイーン翼ギャンビット・オーソドックス交換戦法
(1)1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 (D35)

 g1のナイトの展開を遅らせたおかげで白は 7.Bd3 で白枡ビショップを働かせる用意ができている。黒は 7…Be7 と展開してこれを甘受するしかない。しかしときどきそれに飽き足らない黒は

6…Bf5?!

と指し

7.Qf3! Bg6 8.Bxf6

とやり込められる。

 黒が中盤戦に踏みとどまろうと收局にしようと愚形の孤立二重ポーンの代償はない。

(a)8…gxf6 9.Qd1! Qb6 10.Qd2 Na6 11.Nf3 O-O-O 12.a3 Nc7 13.b4 Ne8 14.Be2 Nd6 15.Qa2!(ぺトロシアン対バルツァ、ブダペスト、1955年)黒の反撃の試みはすべてGMぺトロシアンによって防がれ、黒の見通しは暗いままである。

(b)8…Qxf6 9.Qxf6 gxf6 10.Kd2!(收局でのキングの中央志向!)10…Nd7 11.Bd3 Bd6 12.h4 h5 13.Nge2 これはゲレル対デ・グレイフ戦(ハバナ、1963年)で、白は弱点が何もなく黒の弱点につけ込む楽しみがある。

******************************

2016年08月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(435)

「Chess」2016年5月号(4/5)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第8回戦、ルイロペス

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4 Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1 bxa2+ 19.Ka1

 敵ポーンを自分のキングの前に置いておく手段は周知の防御手段である。そしてここではうまくいった。黒は敵キングに対する筋を素通しにすることができない。その一方で反対翼ではf6ポーンが敵ポーンとぶつかっているので白がg列を素通しにすることができる。

19…Bxf5 20.exf5 a3 21.b3 Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2 fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

 好手。ルークを単にg5の当たりの位置からはずし、Bxc5 から Ne4 を狙っている。

25…e4

 あきらめの心境。

26.Bxc5 Bxc5

 26…exd3 は 27.Qg4 で白が勝つ。

27.Nxe4 Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 1-0

*****************************

(この号続く)

2016年08月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(201)

「Chess Life」1997年12月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

カロカン防御 (B10-B19)

1.e4 c6 2.d4 d5 3.Nc3 dxe4 4.Nxe4 Nf6!? 5.Nxf6+

 私の考えでは「典型的な」カロカン選手は安全で堅実な 4…Bf5 か 4…Nd7 の方を好むはずである。GMカルポフは若い頃は 4…Bf5 が好きだったが、現在は 4…Nd7 に傾倒している。本譜の手は-何の理由もなく-二通りの二重ポーンを受け入れる。それぞれの黒の可能性について簡潔に説明する。

(1)5…exf6 (B15)

 黒はキング翼で静的な二重ポーンを作ることにより、クイーン翼で健全な4ポーン対3ポーンの優位を自発的に白に与えた。代償として両方のビショップの容易な展開とf6ポーンのe5への利きに期待を寄せている。これは根本的な不利益の割には取るに足りないように思われる。私の思い出せる限りではFIDE世界チャンピオンのカルポフは白番のすべてで勝っている。白がどのように好局を危なげのない指し方で達成できるかの好例は西村裕之対ミルコビッチ戦(ケチケメート、1996年)で、IMスロボダン・ミルコビッチが『チェス新報』第66巻第100局で解説している。

6.Nf3 Bd6 7.Be3 O-O 8.Qd2 Be6 9.Be2 Nd7 10.c4 Re8 11.O-O Nf8 12.Rfd1 Ng6

 ここで白は 13.d5 cxd5 14.Nd4 と早まって黒に 14…Qb8! と十分な反撃を許した。IMミルコビッチは代わりに戦端を開く前に 13.Rac1! で最後の駒を戦闘に投入して d5 突きのタイミングを見計らうのが良いと言った。そうすれば白は楽に優位に立ち、黒は劣ったポーン陣形の代償がどこにも見当たらない。

(2)5…gxf6 (B16)

 これは非常に大胆な手である。黒は乱戦に持ち込む目的で自分のキング翼を根本的に弱めた。gポーンがfポーンになって中央がわずかに強化されたこととg列(そしてたぶんh列)が白キングに脅威を与える見込みとに代償を求めなければならない。黒の暗黙の考えは、クイーン翼にキャッスリングして、白が黒を捕まえる前に黒が白を捕まえようとすることにある。GMダビド・ブロンシュテインやGMベント・ラルセンのような恐れ知らずの闘士はこの戦型の信奉者に属していた。gポーンで取り返す方が 5…exf6 よりもずっと現実的に理にかなっていると思う。そう、黒ははるかに多くの危険を背負うが、潜在力もある。最近の典型的な実戦例はニールセン対ツェイトリン戦(ヘースティングズ/オープン、1994/95年)である。

6.c3 Bf5 7.Nf3 Qc7 8.g3 e6 9.Bg2 Nd7 10.Qe2 O-O-O 11.Nh4 Bg6 12.O-O Bd6 13.Rd1 Rhe8 14.a4 f5 15.b4 e5 16.d5!

 両者は見込みのある個所で攻撃している。黒はここで 16…cxd5?! でやらずもがなの危険を冒した。これに対しては 17.Bxd5 でも実戦のように 17.Rxd5 でも白の狙いが危険になってくる。後にGMミハイル・ツェイトリンは 16…c5! でクイーン翼をできるだけ閉鎖しておくように努めるのが良かったと言った。そうすれば白は非常に不均衡な局面でわずかに優勢にすぎない。

******************************

2016年08月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(434)

「Chess」2016年5月号(3/5)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

 第6回戦のアロニアン対ナカムラ戦は7時間以上かかった。アロニアンがさえた指し回しでナカムラを下したが、終局はスキャンダルとは言わないまでもだいぶ物議をかもした。

 アロニアンはずっと優勢で、とっくに勝っていたかもしれない。しかしとうとうこの局面に到達し客観的には 74…Ra4 で引き分けである。この場面の生中継は一見の価値がある(ユーチューブで簡単に見つけることができる)。ナカムラはしばらく考えてから手を伸ばし、動かすつもりであるかのようにはっきりと自分のキングをつかんだが、すぐにそれを離した。

 それから両対局者の間で聞き取れない言葉のやり取りがあり、アロニアンの憤慨した身振り手振りのいくつかが続いた。アロニアンの態度は明らかに「おい、それはないだろ」というようなことを言っていることを示していた。そして管理者が二人に近づいてきてナカムラに話しかけ、敗着となる 74…Kf8 を指した。

 ナカムラは先にキングに触ったかどうか聞きキングを動かす手を回避しようとしているようだった。アロニアンはビデオからもっともなことに、ナカムラがキングを動かすように主張し審判も同意した。ナカムラの反応は少し指して投了した時握手を拒否してさっさと立ち去り、義務の対局後の記者会見にも出ないことだった。このことのために後日賞金の10%を没収された。

 アロニアンはこの出来事を話題にすることを拒んだ。しかし次の第7回戦後の奇妙なインタビューでナカムラはこともあろうに「あれは大したことじゃない…たぶんキングに1秒か2秒触ったんだろう」と言った。そしてキングに触ったのは故意か偶然かと聞かれて何とでもとれる「たぶんその中間だろう」と答えた。そして困惑したのは「レボンはチェスのことを問題にするのじゃなくてあの時彼のちょっと言ったことからすると個人間の問題にしようとしているように感じられたことだ」とも言った。

 なにはともあれ残念な出来事で、ナカムラは「マイナス2」になり優勝の望みはもうほとんどなくなった。

役者ナカムラ

 上図の局面で黒は引き分けるためにはルークをa4に動かす必要があったが

ナカムラは明らかに 74…Kf8 と引くつもりで自分のキングに触った。

 アロニアンは駒の位置を直したというナカムラの言い訳に、そんな風には受け取れないというそぶりをした。

 ナカムラのオスカー賞級のとぼけた顔つき。審判が呼ばれて、ナカムラは結局自分のキングを動かさざるを得なかった。

 ナカムラは即刻投了し、相手と握手をせず対局後のインタビューにも出席せずに対局場を立ち去った。この行為で賞金の10%に相当する約2千ポンドの罰金を科せられた。

*****************************

(この号続く)

2016年08月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(200)

「Chess Life」1997年12月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!(続き)

シチリア防御リヒター=ラウゼル攻撃 (B60-B69)

 主流手順の出発局面に至る手順は次のとおりである。

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6 6.Bg5 e6 7.Qd2

 ここから三通りの手順/変化を考える。最初の二つでは黒に代償がないが、三番目では代償がある。

(1)7…h6?! (B63)

 この黒枡ビショップに対するすぐの応手打診は1950年代後半にGMボトビニクによって推奨された。結果は芳しくなかった。最近の改良の試みでも駄目だった。そのわけはすぐに分かる。

8.Bf6 gxf6

 黒は二重ポーンを受け入れなければならない。8…Qxf6? と取るのは 9.Ndb5 Qd8 10.O-O-O でdポーンが落ちるので駄目である。しかし本譜は黒が丸々1手費やして二重ポーンを受け入れたという結果になっている。その上 7…h6 には二つの二次的欠点もある。黒のキング翼はポーンがh7でなくh6にあることにより弱体化している。それによりキング翼にキャッスリングするのは非常に考えづらく、…Bh6 による潜在的な戦術の可能性もなくなっている。これらすべてが黒にとっては重荷で、開放局面では耐えられない。典型的な手順は次のようである。

9.O-O-O a6 10.f4 Bd7 11.Kb1 Qb6 12.Nb3! O-O-O 13.Be2 Kb8

 代わりに 13…h5 はケレス対ボトビニク戦(モスクワ、1956年)で初めて指されたが改良になっていなかった。14.Rhf1 Na5 15.Rf3! Nxb3 16.axb3 Kb8 17.Na4 Qa7 18.f5! で白が断然良かった。

13.Bh5 Rh7 14.Rhf1 Bc8 15.Qe2

 白の優勢は明らかである。

 黒は縮こまっていて弱点の見返りが何もない。ここまでの手順はアルマーシ対ダムリャノビッチ戦(チャチャク、1996年)で、GMゾルターン・アルマーシは『チェス新報』第68巻第175局で本局を詳解している。

(2)7…a6 8.O-O-O h6 (B66)

 ここ数年の間この戦型は国際棋戦で盛んに指されるようになった。その理由は白のg5のビショップが下がらなければならないからである。9.Bxf6?! は 9…Qxf6 が安全で好形だし、9.Bh4 は 9…Nxe4! でポーンが犠牲になり疑問手とされる。初期の頃(40年くらい前)は 9.Bf4 が当然だと考えられていたが、今では次の手が当たり前になってきた。

9.Be3

 このビショップはここがきわめて安全である。

9…Ng4?!

 これは良さそうな手に見えるが、白には次のような戦術があった。

10.Nxc6! bxc6 11.Bc5! Qg5

 黒はこの手でやや不利な收局に入るのが最善である。11…Bb7 でも收局になるが 12.h3 dxc5 13.Qxd8+ Rxd8 14.Rxd8+ Kxd8 15.hxg4 で良くない(スミスロフ対ボトビニク、世界選手権戦、1957年)。黒は乱れたクイーン翼のポーンの代償がなかった。

12.Qxg5 hxg5 13.Be2! e5 14.h3 dxc5 15.Bxg4 c4 16.Na4! Bxg4 17.hxg4 Rxh1 18.Rxh1 Rb8

 黒はここでも二つの二重ポーンの代償がない。参考になるビートリンシュ対ブドフスキー戦(ソ連、1975年)で白は黒にクイーン翼の二重ポーンを解消させたが、そこに恒久的に分裂した弱いポーンが残る犠牲を払わせた。その試合は『チェス新報』第20巻第432局でGMアイバルス・ギプスリスが詳細に解説している。白は次のように勝った。19.c3! Rb5 20.Kc2 f6 21.f3 Be7 22.b4! cxb3+e.p. 23.axb3 Kf7 24.Nb2 Ra5 25.Na4 Rb5 26.Ra1! Rb8 27.Nb2 Rh8 28.Rxa6 Rh2 29.b4! Rxg2+ 30.Kb3 Ke8 31.Rxc6 Kd7 32.b5 Rf2 33.Nc3 Rxf3 34.Nb6+ Ke8 35.Nd5 Rf1 36.Re6 黒投了

(3)7…a6 8.O-O-O Bd7 9.f4 b5 10.Bxf6 (B67)

 本譜の手は黒の攻撃的な戦型に対する白の対策として人気が出てきた。白はこれにより目的を二つも達成する。

 (1)白のeポーンに対する圧力がなくなった。そして(2)黒に二重ポーンができた。というのは 10…Qxf6?! は 11.e5! dxe5 12.Ndxb5! で白が明らかに優勢であることが分かっているからである。

10…gxf6

 これが 9…b5 戦型の最も普通の出発点である。白が通常の布局の優位を保っていないと考える理由は何もない。しかし黒の二重ポーンの代償は適切である。中央の地点に対する支配が増し、双ビショップは局面が開ければ潜在的な威力となり、黒枡ビショップはf8からe7、g7またはh6のいずれへでも行けるので最も融通性のある地点にいる。もちろん悪い知らせは黒の中央が本質的に不安定であるということで、ずっとe5および/またはf5突きを警戒しなければならない。状況はシチリア防御のほとんどとちょうど同じである。つまり危険も機会もある。ぴったりの例はウェイツキン対メドニス戦(リノ、1996年)である。私はその試合を『Inside Chess』誌1997年第3号4ページ(詳解)と『チェス新報』第68巻第190局で解説した。ここでは解説記号をいくつか付けるにとどめる。11.Kb1 Qb6 12.Nxc6 Bxc6 13.Bd3 b4! 14.Ne2 h5! 15.Rhf1 a5 16.c3! Rb8! 17.Nd4 Bd7 18.Bc4 Rc8 19.Qd3 bxc3 20.b3 a4 21.Qxc3 axb3 22.axb3 h4!? 23.f5! Bg7 24.Qd3 Ke7 25.fxe6 fxe6 26.e5!! Rxc4!! 27.exd6+ Kf7 28.Qxc4 Rc8! 29.Qd3 Ra8! 30.Rxf6+!? Bxf6 31.Qh7+ Kf8 32.Qxd7 Bxd4 33.Rf1+ Kg8 34.Qxe6+ Kh8 35.Qh6+ Kg8 36.Qg5+ Bg7 37.Qd5+ Kh7 38.Qe4+ Kh6! 39.Qxh4+ Kg6 40.Qe4+ Kh6 引き分け。白は千日手にするしかない。

******************************

2016年08月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(433)

「Chess」2016年5月号(2/5)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会(続き)

H.ナカムラ – P.スビドレル
第3回戦、スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4 5.a4 e6 6.e3 c5 7.Bxc4 Nc6 8.O-O cxd4 9.exd4 Be7 10.Qe2 O-O 11.Rd1 Nb4 12.Bg5 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Ne4 b6 15.Ne5 Bh4 16.g3 Be7 17.Nc3 Bf6 18.d5 Qc7 19.d6 Qc5 20.Ng4 Bxc3 21.bxc3 Nc6 22.Rab1 a6 23.d7 Bb7 24.Bd3 Rfd8 25.Qe4 Kf8

 この局面はかなり滅茶苦茶のように見える。しかしびっくり仰天したことはスビドレルがここまでほとんど時間を使わず、明らかにまだ研究手順の範囲内だったことである。前世代のほとんどのGMは途方もないd7ポーンと風通しのよい黒キングとを考慮して、黒陣に一瞥もしなかっただろう。しかしコンピュータ時代ではすべてが具体的で、シリコン獣はここで黒に何の問題もないことを示していた。

26.Qh7?! h5 27.Ne3 Ne5!

 突然白はかなりの困難に陥った。クイーンがそっぽに行っていてキングは熱にさらされている。進退窮まり「-2」に陥る見通しが目前に迫ってナカムラは獅子奮迅の奮闘を始めた。それでも…

28.Be4 Bxe4 29.Qxe4 Ra7 30.Nd5 Ng4 31.Ne3 Nf6 32.Qb4 Qxb4 33.Rxb4 Nxd7 34.Rxb6 Nxb6 35.Rxd8+ Ke7 36.Rd4 a5 37.Nc4 Nd5 38.Rd3 Rc7 39.Nxa5 Nxc3 40.Kg2 Nxa4

 收局に到達したが、筆者を含めたほとんどの観戦者は黒が勝つはずと考えていた。この局面でナカムラが 41.h4 と突かなかったとき私はさらに確信を強めた。なぜなら白がこの手を指せればポーンが4対3の純粋なルーク收局は通常は引き分けに終わることが知られているからである(もっとも純粋なナイト收局は多かれ少なかれ勝ちになると考えられている)。しかし実戦は次のように進んだ。

41.Ra3 Nc3 42.Nb3 g5!

 ルーク同士かナイト同士の交換で勝ちの知られている局面になるので、この局面は黒の勝ちになるのは確かだと私は思った。しかしナカムラは戦い続ける面白い手段を見つけた。

43.Nd2 f5 44.h3 Kf6 45.g4!?

 これは面白い決断だった。f4の地点を弱めh3に弱いポーンを残すのはかなりの危険を伴う。しかしその一方でたぶんナカムラは普通に指したのではどのみち負けてしまうので、ポーンを少し捨てるのはやってみる価値があると感じていたのだろう。最善手を指せば引き分けるとは信じにくいが、スビドレルは進展を図る手段が分からなかった。

45…Nd5 46.gxf5 Kxf5 47.Nf1 Nf4+ 48.Kg3 Rc1 49.Ne3+ Kg6 50.Kh2 Rb1 51.Ng2 Rb2?!

 この手は勝つ可能性をほとんどなくしてしまう。黒はナイトを残しておかなければならなかったが、本当に勝てるかどうかははっきりしない。

52.Nxf4+ gxf4 53.Kg1 e5 54.Ra5 Re2 55.h4 f3 56.Kh2 Rxf2 57.Kg3 Re2 58.Kxf3 Re1 59.Ra8 Rh1 60.Ke4 Rxh4+ 61.Kxe5 Rb4 62.Rg8+ Kh7 63.Rg1 Kh6 64.Kf5 ½-½

*****************************

(この号続く)

2016年07月29日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(199)

「Chess Life」1997年12月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

黒に二重ポーンができた!

 前回(1997年11月号)では布局での二重ポーンに関連する問題について論じ、白に二重ポーンができる例を紹介した。今回は黒の二重ポーンを主題として取り上げて本稿を終わることにする。

 覚えておくべき主要な考え方は二重ポーンの代償を得なければならないということである。さもないと「ただで」弱点を抱え込むことになる。代償の最も普通の形は中央の強化と展開の手得である。いつものことながら黒はどんなに劣ったことを受け入れることにも強情でなければならない。なぜなら黒だからであり、いつも相手より1手遅れている時には早々と何かを達成するのは難しいからである。だから自分の代償についてあまりに楽観的になってはいけない。一般に期待できることは、二重ポーンがない場合よりもあることによってこれまでより悪い態勢にならないことだけである。

 次の実戦例を参考にどのような時に黒に代償があり、代償が不十分な時にはなぜなのかを説明する。

******************************

2016年07月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(432)

「Chess」2016年5月号(1/5)

******************************

世界選手権挑戦者決定大会

S.カリャーキン – H.ナカムラ
第2回戦、クイーン翼インディアン防御

1.d4

 カリャーキンは昔からの 1.e4 派だが、「自分はベルリン市民だ」と主張できるのがJFKだけではない今日では、もっぱらその初手だけに頼ることのできる一流選手はいない。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2

7…d5

 主流手順は 7…c6 で、私の知る限り手堅くて立派な手であるが、本譜の手も最近人気が出ているようである。

8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3 Nbd7 11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8 13.Ne5 Bb7 14.Bc1 Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3 a6 17.Ne2 c5?!

 これは確かに黒がずっと指したくてたまらなかった手だが、ここではうまくいかない。

18.dxc5 Nxc5

 18…bxc5 は 19.Nc4 で、このような局面での典型的なはまり手である。

19.Nd3 Nce4 20.Rac1 Rc8 21.Qb1

 黒駒は表向きはよく働いているように見える。しかしそれは当てにならない。白は長い目で見れば孤立dポーンにつけ込むのにうってつけの態勢で、ここでは大局的に黒は非勢である。

21…Qe7 22.Bd4 Rxc1 23.Rxc1 b5 24.b4 Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1 Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

 ここは勝負所である。黒は苦戦していて局面の流れを変える手段を見つけようと懸命だった。ここでナカムラはその手段を見つけたと思った。棋力を向上させたい読者はこの局面を読みの力のテストとして用いるのが良いかもしれない。ここで黒はg3のポーンを取ることができるだろうか?本誌の常連の寄稿家がよく言うように、答えは次の行にある。

29…Nxg3??

 この手はポカだが、それが分かるには少し先まで読まなければならない。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

 ここまでは黒の読み筋だった。駒を取り返しポーンも得した。残念ながらここで典型的なしっぺ返しがくる。

34.Rc7

 痛っ!b7とf7が両当たりで、黒は駒損になる。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年07月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(198)

「Chess Life」1997年11月号(5/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

カロカン防御パノーフ攻撃(B13)
1.e4 c6 2.d4 d5 3.exd5 cxd5 4.c4 Nf6 5.Nc3 Nc6

 これは次の 6…Bg4 と相まって非常に激しい戦型になる。黒は 5…e6 でd5を堅実に守る代わりに白のdポーンに目をつけた。

6.Nf3 Bg4 7.cxd5 Nxd5 8.Qb3!

 白はどんな優勢でも望むなら黒ビショップがクイーン翼から不在になっていることにつけ込まなくてはならない。ほかの手はすべて無害である。

8…Bxf3 9.gxf3

 白は積極的な展開を生かすために二重fポーンを受け入れた。クイーンがd5とb7に当たりになっていて、両方のビショップは既に斜筋が開けている。ここでも黒には中盤戦に行くか收局を急ぐかの選択肢がある。私としては黒が中盤戦に行くのは自信が持てない。9…Nb6 10.Be3 e6 11.O-O-O で白の主導権は非常に危険である。黒がキング翼にキャッスリングすれば素通しg列は攻撃にうってつけになる。

 だから黒は收局を目指すべきだと思う。その場合以下の手順が今ではほぼ必然だと考えられている。

9…e6 10.Qxb7 Nxd4 11.Bb5+ Nxb5 12.Qc6+! Ke7 13.Qxb5 Qd7! 14.Nxd5+ Qxd5! 15.Qxd5 exd5

 すごい不均衡な局面である。白には醜い二重fポーンがあるが、代償としてクイーン翼の多数派ポーンとルークの早い展開に期待している。黒は白の展開の優位を無効にし、孤立dポーンを保護し、白の弱いキング翼ポーンにつけ込むことに期待をかける。そして定跡の研究に優っている方が実戦では優勢になる。両者が最善の手を指せば動的に互角になる可能性が最も高い。しかし私の考えでは白の陣形の問題の方が重大なので完璧に指すのがもっと難しい。多くの強豪GMが白側をもって負けた。上図の局面でうまく指すには白はとりわけよく研究しておかなければならないことを強調してもしすぎることはない。

 白にはキングをクイーン翼、中央、それにキング翼のどこに置くかの選択肢がある。それらのどれもが大いに注目された。現在のところGMの大部分はキャッスリングしてキングがポーンの助けになれるようにするのを好んでいる。

 実戦例としてA.イワノフ対セイラワン戦(米国選手権戦、1992年)を取り上げる。GMイワノフは『チェス新報』第57巻第145局で詳しく解説している。重要な手についてだけ記号を付けておく。

16.O-O Ke6 17.Re1+ Kf5! 18.Be3 Be7 19.Rad1 Rhd8 20.Rd4 g5! 21.Red1 Ke6 22.Re1 Kf5 23.Red1 Ke6 24.Re1 Bc5!? 25.Bxg5+ Kf5 26.Bxd8 Bxd4 27.Rd1! Rxd8 28.Rxd4 Ke5 29.Ra4! d4 30.Kf1 Rd7 31.Ke2 Kf4 32.Kd3! Kxf3 33.Rxd4 Re7 34.Rd5 Kxf2 35.Rh5 f6 36.b4! Kg2? 37.a4 f5 38.Rxf5 Kxh2 39.a5 Kg3 40.a6! Kg4 41.Rf8! h5 42.Rb8 Re6 43.b5 Rd6+ 44.Ke4 Re6+ 45.Kd4 Rd6+ 46.Ke5 Rg6 47.b6 Kh3 48.bxa7 黒投了

******************************

2016年07月20日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(431)

「British Chess Magazine」2016年3月号(3/3)

******************************

次の一手

8)H.ナカムラ – M.ムジチュク
トレードワイズ・ジブラルタル・オープン

 白の手番

解答
白はまだポーンが全部残っている。黒はナイト得だがポーンが3個少ない。1.d6! Bxd6 2.Qxg6+! 2.cxd6 は 2…Qxc4 で黒の勝勢になる。2…Kh8 3.Qxh6+ Nh7 3…Kg8 は 4.g5 Bg3(4…Nh7 5.g6 Ndf6 6.gxh7+ Kh8 7.Qg7#)5.gxf6 Nxf6 6.Qg6+ Kh8 7.Qxf6+ で白が勝つ。4.Ng5 Ndf6 5.Rdf1 1-0

 黒は大きな戦力損でしか詰みを防げない。

*****************************

(この号終わり)

2016年07月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(197)

「Chess Life」1997年11月号(4/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

ピルツ防御オーストリア攻撃(B09)
1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6 4.f4 Bg7 5.Nf3 O-O 6.Bd3 Nc6

 この戦型はオーストリア攻撃(4.f4)に対する黒の最も堅実な手法である。黒にはもっと激しいやり方が二つもある。一つはすぐに 5…c5 と突く手で、本誌の1996年7月号で取り上げた。もう一つは 6…Na6 である。本譜の手はd4の地点に対する主眼の反撃をもくろんでいる。

7.O-O Bg4 8.e5 dxe5 9.dxe5 Nd5

 黒の小駒は十分に展開していて、白のcポーンを二重にする 10…Nxc3 とf3のナイトに圧力をかける 10…Nd4 を狙っている。定跡では白にはこれらの狙いを防ぐと共に布局の有利を保つ満足な手段はないことが明らかになっている。ありきたりの作戦は二つあるが(1)10.Bd2 Nd4! 11.Be4 c6! は動的に互角で、(2)10.Nxd5 Qxd5 11.h3 Be6 12.Qe2 Rfd8 13.Be4 Nd4! は引き分けになりそうでマークランド対ポルティッシュ戦(ヘースティングズ、1970-71年)で指された。

 白は自陣の広さの優位(e5のポーン!)を生かし黒の現在働いていないビショップにつけ込む手段を見つけなければならない。逆説的になるがこれは白に孤立二重ポーンを作らせることを黒に「強いる」ことを意味している。

10.h3! Nxc3 11.bxc3

 フェルナンデス対メドニス戦(バルセロナ、1980年)ではスペインのGMはここで引き分けを提案したが、それは私には渡りに船だった。さもないと黒の互角への道は容易でない。二重ポーンの代償として白はf3での釘付けをなくしd4の地点の支配を確実にした。さらには黒はビショップの好所がなく(11…Be6 なら 12.Be3! のあと 13.Nd4 が来るし、11…Bxf3?! なら 12.Qxf3 で白が双ビショップになるだけでなく陣地が広くなる)、あとで自身も二重ポーンを受け入れなくてはならない。

11…Bf5 12.Bxf5 gxf5 13.Qe2 Qd5 14.Rd1 Qc5+ 15.Qe3

 白は通常の布局の優勢のまま中盤戦か收局に行き着く。(1)15…Qa5 16.Bd2 Rad8 17.c4 Qa6 18.Qc3 e6?! 19.Be1(トラプル対バダース、トルナバ、1979年)(2)15…Qxe3+ 16.Bxe3 Rad8 17.Nd4! Nxd4 18.cxd4 e6 19.Rab1 b6 20.Rd3(マルヤノビッチ対フランコ、ブルニャチカ・バーニャ、1983年)

******************************

2016年07月13日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(430)

「British Chess Magazine」2016年3月号(2/3)

******************************

ジブラルタル・マスターズ

ヒカル・ナカムラ – アブヒジェート・グプタ
第9回戦

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Be3 Bg7 7.Nc3 O-O 8.Qd2 e5 9.d5 c6 10.h4 cxd5 11.exd5 N8d7 12.h5 Nf6 13.hxg6 fxg6 14.O-O-O Qd6

 この局面では 13…Bd7 が通常主手順とされている。

15.Kb1 Bf5+ 16.Ka1

16…Rac8

 この手で前例を離れた。黒は2015年ハイデラバードでのサシキラン対ウェイ・イー戦でのように白の g2-g4 突きを止めるために1手をかけたくなかった。

17.g4 Rxc3

 これは黒の研究手だと言っても差支えないだろう。黒の構想は最終的に黒枡ビショップの斜筋上の邪魔ものをすべて取り除き、いつかa1の敵キングまで利きが届くようにすることである。

18.Qxc3

 交換損に応じるのは最も自然な応手に見える。結果論になるが、客観的には白は 18.gxf5 と取った方が良かったのかもしれないが、もちろんこんな重大な試合でひるむようなヒカルではなく、挑戦を敢然と受けて立った。18.gxf5 に対して想定される手順は 18…Rc7(実戦的には私なら 18…Rxe3!? 19.Qxe3 gxf5 と指したい。そうすればg7の強力なビショップには対抗する相手がなく、敵のキング翼に長期的に攻撃の可能性が見込める)19.fxg6(19.Bd3 も可能)19…hxg6 20.Bh6 Nh5(私の考えでは黒は 20…Nfxd5 21.Bxg7 Rxg7 22.Nh3 と局面を開放すべきでなく、代わりにただ白のdポーンを盤上に残しておくべきである)21.Bxg7 Kxg7 で、黒はうまくやっているかもしれないが押し気味なのはまだ白の方である。

18…Rc8 19.Qe1

 19.Qa5 Bc2 20.Rc1 Nfxd5 21.Bh6 Bxh6 22.Rxh6 Nb4 は白が大変危険そうである。19.Qd2 も実戦の 19…Bc2 でなく 19…Rc2 20.Qe1 Bd7 21.Bd3 Rxb2 22.Kxb2 Ba4 で駄目そうである。

19…Bc2 20.Rc1

20…e4?

 この手はd4への利きをなくし、もっと重要なことはa1-h8の斜筋への利きをなくす。実際この斜筋の支配がこの局面の急所で、黒が戦力を犠牲にした後では特にそうである。代わりに 20…Nfxd5! なら黒はどの変化でも反撃できそうで、試合は難解な戦いが続き三通りの結果のどれになっても不思議でない。以下に少し変化をあげるが、もちろんこれですべてというわけではない。

a)21.Bh6
 a1)21…Bh8!? 22.Rh2(22.Qd2 Qc5 23.Rh2 Nb4 24.a3 N6d5 は黒が良い)22…Nb4 23.a3 e4
 a2)21…Bxh6!? 22.Rxh6 Nb4 は白キングがちょっと不安になり始める。例えば 23.a3 a5! 24.Rh2 Qd5 25.axb4 axb4 はきれいな詰みになる。

b)21.Qd2 e4!

c)21.Rh2 Nb4 22.a3 e4! 23.Qxb4 Qxh2 は黒が好調である。

21.Bd4!

 白は急所の斜筋を支配し、黒が抱いたかもしれない攻撃の可能性に終止符を打った。そして戦力得を勝ちに結び付けた。

21…Qxd5 22.Bc3

22…Bd3

 22…exf3 なら 23.Nxf3 Be4(23…Qxf3 24.Rxc2)24.Rd1 Qc6 25.Nd4 で受かり白が戦力得を維持している。

23.Nh3 Na4 24.Nf4 Qd6 25.Nxd3 exd3 26.Bxd3 Qb6 27.Bc2 1-0

*****************************

(この号続く)

2016年07月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(196)

「Chess Life」1997年11月号(3/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

スラブ防御交換戦法(D13)
1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.cxd5 cxd5 5.Nc3 Nc6 6.Bf4 e6 7.e3 Bd6

 黒は 6…e6 で自らビショップを閉じ込めることにより比較的守勢の戦型を採用しているが、黒枡ビショップを効率的に交換することによりその埋め合わせになることを期待している。ここで白の本筋の手は 8.Bxd6、8.Bg3 そして 8.Bd3 の三つである。

(1)8.Bxd6

 この「反射的な」手は無害である。黒クイーンはd6に出てきて、そこからいつか …e5 と突いて仕掛けるのを支援することができ、その間に白は盤上のどの個所でも主導権を発揮する手段がない。典型的な例はパッハマン対ぺトロシアン戦(テルアビブ・オリンピアード、1964年)である。8…Qxd6 9.Bd3 O-O 10.O-O Bd7! 11.Rc1 Rac8 12.Qe2 e5(まず 12…a6 と突いてから 13…e5 と突く方が簡明である)13.Nb5 Qe7 14.Nxe5 Nxe5 15.dxe5 Qxe5 16.Nd4 g6 17.Rfd1 Bg4 黒の孤立ポーンは安泰で駒は好位置にいて完全に互角になっている。

 互角より上を目指すためには白は二重ポーンの危険を冒さなければならない。

(2)8.Bg3 O-O

 8…Bxg3?! は 9.hxg3 と取られるので劣る。こうなると白はh列での攻撃の可能性が開けてくる。だから黒は白がキング翼にキャッスリングしたのを見届けるまでこの交換を保留したい。

9.Bd3 b6! 10.Rc1 Bb7 11.O-O

 白に有効な展開の手が残っていないのに対し、黒はまだ有効な手の …Rc8 を指すことができる。

11…Bxg3! 12.hxg3 Qe7 13.Bb5 Rfc8! 14.Qa4 a6 15.Bxc6 Bxc6 16.Qb3 Qb7 17.Ne5 Rc7 18.Rc2

 局面は全くの互角で、ポルティッシュ対ウールマン戦(ハレ、1967年)では両対局者が引き分けに合意した。

(3)8.Bd3! ボトビニク対コトナウワー(モスクワ、1947年)

 これはGMボトビニクの素晴らしい戦略構想である。白は展開を続け、f4で駒を交換してみろと黒に挑んでいる。8…Bxf4 9.exf4 のあと白には孤立dポーンとかなり静的な二重fポーンが残される。白は気が狂ったのか?白の見込んでいる代償は何なのか?その答えはこうである。白は重要なe5の地点を完全に支配して …e5 の解放の考えを防ぎ、黒に残りのビショップを遊ばせることをずっと余儀なくさせる。白の代償が二重ポーンをはるかに上回ると認識したIMコトナウワーはビショップを取るのを12手目まで遅らせたが、何の好結果ももたらさなかった。

 ここで読者に注意しておきたいが、生じる局面のプラス面を活用するにはレイティング2000以上の棋力が必要である。さもないと弱そうに見える二重ポーンが本当に弱くなってしまう。

8…O-O 9.O-O b6 10.Rc1 Bb7 11.a3 Rc8 12.Qe2 Bxf4 13.exf4 Na5 14.Rc2 Nc4 15.Rfc1 a6 16.Nb1! b5 17.b3 Nd6 18.Rxc8 Bxc8 19.Ne5

 白は黒枡の支配を続け60手で勝った。

******************************

2016年07月06日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(429)

「British Chess Magazine」2016年3月号(1/3)

******************************

ジブラルタル・マスターズ

ヒカル・ナカムラ – ロベルト・べリン
第1回戦

 黒がちょうど目の上のたん瘤のc5ポーンを取ったところだが、次の手が待っていた。

26.e6! Nxe6 27.Bxg7+! Kxg7 28.Qb2+ Kg8 29.Rxc5 Nxc5 30.Qb6 Bh5 31.Rd4 Nd7 32.Qxb7 Ne5

33.Rb4 Nf3+ 34.Kh1 Ne1 35.Qxc6 Bf3+ 36.Kg1 Be4 37.Be2 Nf3+ 38.Bxf3 Bxf3 39.Rb7 1-0

*****************************

(この号続く)

2016年07月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(195)

「Chess Life」1997年11月号(2/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?(続き)

二ムゾインディアン防御(E20-59)
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

(A)ゼーミッシュ戦法
4.a3 Bxc3+ 5.bxc3(E24-29)

 ゼーミッシュ戦法は最も首尾一貫した作戦である。白は丸々1手損してのポーン陣形を黒に「破壊」させる。

 白の期待する代償は自分の中央が強化された(bポーンがcポーンになった)ことと、中盤戦の戦いに向けて自分の駒とポーンの最適な配置についてかなり自由が利くことである。

 それでも「ただで」1手損したことは軽々しく考えるべきでない。GMアナトリー・カルポフは1978年出版の名著『My Best Games』の自戦解説の中でこの問題を申し分なく論じていた。「閉鎖局面では1手損は大したことがないと言われてきた。もちろん開放局面ではもっと高くつく。しかしこのような局面でさえ手は損すべきでない」(82ページ)。GMたちも同じ考え方だし、アルトゥール・ユスーポフを別にしてゼーミッシュ戦法を信奉するGMはほとんどいない。

 しかしこの戦法は白が1手損をする「余裕」があることにより成立している。面白い実戦例はユスーポフ対カルポフ戦(ロンドン、1989年、番勝負第3局)である。5…c5 6.e3 O-O 7.Bd3 Nc6(E29 に転移)8.Ne2 b6 9.e4 Ne8 10.O-O Ba6 11.f4 f5 12.Ng3 g6 13.Be3 Nd6! 14.exf5 Nxc4 15.Bxc4 Bxc4 16.fxg6!? Bxf1 17.Qh5 Qe7 18.Rxf1

 たぶん白には交換損の代償があるが、それでもカルポフは61手で勝ちきった。『チェス新報』第48巻第713局にGMザイツェフの詳細な解説がある。

(B)ルビンステイン戦法
4.e3(E40-59)

 この戦法は1920年代に登場して以来ずっと「最新」である。白は二ムゾインディアン防御が退治できないことを認め、自分のキング翼を効果的に展開することに専心する。ここからは代表的な三通りの変化を分析する。

(1)4…Bxc3+ 5.bxc3(E40)
クリスチャンセン対アナスタシアン(エレバン・オリンピアード、1996年)

 ここでアナスタシアン(本対局時点でFIDE2550)は丸々1手損して白に二重ポーンを作らせた。黒はそんなことをしていることはできないはずである。クリスチャンセンは「擬似ゼーミッシュ」戦法では1手得がことのほか役に立つことを実証した。

 c3での「自発的」交換が白を利する理由にはポーン陣形もある。aポーンがa3にあればb3の地点は白ポーンによって守られていない。局面によっては、例えば黒がナイトをa5に進めたとすれば、このことは重要性を帯びることがある。

5…c5 6.Bd3 Nc6 7.Ne2 d6 8.O-O e5 9.e4 O-O 10.f3 b6 11.d5 Ne7 12.Ng3

 ゼーミッシュ型の局面で重要なことはキング翼ナイトをe2に展開することで、それによりg3から攻撃に参加できfポーンも行く手を遮ぎられない。白は陣地が広く黒に反撃策が欠けているので通常よりも布局の優勢の度合いが大きい。GMクリスチャンセンによれば黒の最善の受けは 12…Kh8 から 13…g6 と構えることだった。

12…Ng6?! 13.Nf5! Nf4

 13…Bxf5?! は良くなく、14.exf5 Ne7 15.g4 で白の先頭のfポーンが黒のキング翼を押さえつけ白のキング翼ビショップの筋が通る。これらすべてが来たるべきキング翼攻撃をはるかに危険なものにする。

14.Bc2 g6 15.Nh6+ Kg7 16.g3! Kxh6 17.gxf4 Kg7?! 18.fxe5 dxe5 19.f4!

 キング翼攻撃開始の用意ができ、黒は防御の踏ん張りが足りずあっけなく負けた。変化の詳細については『チェス新報』第67巻第622局のGMクリスチャンセンの解説を参照されたい。

19…exf4?! 20.Bxf4 Bh3?! 21.Bg5! Bxf1?! 22.e5! Nxd5 23.Bxd8 Bxc4 24.Bh4 Rae8 25.Qg4 b5 26.Re1 Bxa2 27.Qd7 Re6 28.Qxa7 Bc4 29.Qxc5 Nxc3 30.Bf5! Ra6 31.Bc8 黒投了

(2)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.Bd3 Bxc3+(E41)

 白がキング翼ナイトを早くf3に展開したので、黒はこれにつけ込んで白ナイトが場違いとなるようなゼーミッシュ型の局面を目指す。数多くの実戦によりこのような状況では黒は1手損しても構わないことが分かってきた。この戦型はドイツのGMロベルト・ヒューブナーが研究・開発したので彼の名前が付けられているのは当然である。主眼の本手順は次のとおりである。

7.bxc3 d6 8.e4 e5 9.d5 Ne7 10.Nh4 h6 11.f4 Ng6! 12.Nxg6 fxg6 13.fxe5 dxe5 14.Be3 b6 15.O-O O-O

(スパスキー対フィッシャー、レイキャビク、1972年、世界選手権戦第5局)この不均衡な局面はいい勝負である。それでもGMフィッシャーは27手で勝った。

16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5! 21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5! 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4! 27.Qc2? Bxa4! 白投了

(3)4…c5 5.Nf3 Nc6 6.a3?!(E26)

 これまでの分析からこの時点での本譜の手は非常に不適切であることが明らかなはずである。6…Bxc3+ 7.bxc3 の局面は白が1手損のヒューブナー戦法か、白ナイトが場違いのゼーミッシュ戦法と考えることができる。強化された中央の代償は不十分なのでこのような状況で 6.a3 と突いてはいけない!

******************************

2016年06月29日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(428)

「Chess」2016年4月号(4/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

V.アーナンド – H.ナカムラ
第9回戦(ブリッツ)

 黒は強引にキング翼攻撃を仕掛けようとしたせいでかなり苦戦に陥っている。実際白の次の手からは一つの結果しか想像できない。しかしこれはブリッツ戦であることをやはり思い起こすべきである。

22.f6! gxf6 23.Nxg4 Qxg4 24.Qxf6?!

 この手は一発を食らう。だから 24.Bh6 と指す方が良かった。

24…Bxg3! 25.Kh1

25…Bh4!?

 この手は危険だが、ナカムラは 25…Qh4 26.Qxh4 Bxh4 27.Bh6 Ng6 28.Bxf8 Rxf8 で交換損の局面を引き分けにしようとするよりも、局面を活気あるままにしておきたかった。

26.Bxh7+! Kxh7 27.Qh6+ Kg8 28.Rg1

 これで黒はクイーンを失うが、代わりにルークとナイトを得て戦いを続行することができる。少なくとも当面は。

28…Qxg1+ 29.Kxg1 Ng6

30.Bf4

 30.Bg5! の方が簡明で強力だった。30…Bxg5 なら 31.Qxg5 Rae8 32.h4 でよい。

30…Bf6 31.Be5?!

 これは黒に要塞のようなものを作らせるお手伝いだった。代わりに 31.Rf1 なら白にまだ勝ちがあったはずだった。31…Bg7 なら 32.Qg5 Nxf4 33.Qxf4 Rae8 34.Qc7 でよい。

31…Bxe5 32.dxe5 Rae8

33.Kh1?!

 ここで白は 33.h4! を見つけ出す必要があり、勝利を収めていただろう。例えば 33…Nxe5 なら 34.Kh1 Re6 35.Qg5+ Kh7 36.Rg1 Ng6 37.h5 Rh8 38.Qf5! Kg7 39.Rg2! で結局黒ナイトは助からない。

33…Rxe5 34.Rg1 Rfe8 35.Rxg6+

 はるかに危険な 35.h4!? も可能だったが、アーナンドは何度も勝ちを逃してきたことを悟って引き分けでけりをつけた。

35…fxg6 36.Qxg6+ Kh8 ½-½

*****************************

(この号終わり)

2016年06月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(194)

「Chess Life」1997年11月号(1/5)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

二重ポーンは弱いか?

 二重ポーンは評判が悪い。弱いというのがもっぱらのうわさだ。これにはかなりの真実がある。実際二重ポーンはポーン陣形の慢性的な弱点の表れである。ポーン構造がますます重要な役割を果たす段階に試合が進むにつれて、二重ポーンがあることはいよいよ重大な負債になる。これは二重ポーンの弱みが收局でさらに顕著になり、キングとポーンの收局では死の前兆となり得ることを意味している。

 しかし通常は布局の始めと收局との間にはかなりの隔たりがある。だから布局で相手がこちらのポーンを二重にする可能性について偏執狂になる必要はないし、相手陣に二重ポーンをこしらえる目的に躍起となる必要もない。正しい方針は次のとおりである。

 二重ポーンは代償がないなら受け入れるな。最も普通に得られる代償は中央の強化と展開の手得である。

 布局で一般に言えることだが白は黒よりも二重ポーンを受け入れる余裕がある。本稿では白が二重ポーンとなる 1.d4 布局を2局および 1.e4 布局を2局取り上げる。次回は黒の場合を取り上げる。

******************************

2016年06月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(427)

「Chess」2016年4月号(3/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.ギリ – H.ナカムラ
第6回戦(ブリッツ)

40.Nf3

 これでは釘付けされて動きにくくなる。40.Bxf5 Nxf5 41.Qe2 の方がはるかに強手で、41…Nxd4 と取ってくるなら(41…Qxd4 なら 42.Qxe6)42.Qh5 Nf5 43.Nf3 で黒ビショップを取ることができる。

40…Be4 41.Rg2

 これで黒は単にf4のポーンを取るか(そうすべき)、それ以上を求めて指すことさえできる。白は 41.Rf1 Ng6 42.Kg1 で釘付けをはずした方が良かったかもしれない。

41…Ng6!? 42.Kg1?

 これは完全につぶれる。ギリは 42.f5 exf5 43.Bh5 を見つけなければいけなかった。それなら白の方がまだ好調だった。

42…Nxf4 43.Rd2? Nxh3+ 0-1

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年06月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(193)

「Chess Life」1997年9月号(4/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.Nf3、2.g3 と指す
レーティ・システム (A11)

1.Nf3 d5

 黒がクイーン翼ギャンビット拒否で対処できる限り、本譜の手は完全無欠である。2.d4 には 2…Nf6、2.c4 には 2…e6 で自分の主力戦法に移行できる。

2.g3 c6!

 もちろん黒はここで 2…e6 の戦型を選ぶこともできる。しかし私はまずクイーン翼ビショップを連鎖ポーンの外に出しそれから …e6 と突くことにより黒がもっとうまくやることができると考えている。白が黒に最初から圧力をかけるのを避ける戦型を選択しているので、黒にはこれといった危険なしにもっと意欲的な陣形にする余裕がある。

3.Bg2 Bg4! 4.b3 Nd7 5.Bb2 Ngf6 6.O-O e6 7.d3 Bd6 8.Nbd2 O-O 9.c4

 両者とも小駒がよく連係を保って展開され、ポーン陣形にも弱点がない。白は中央でもっと影響力を強める必要がある。これはcポーンを2枡進めることにより成し遂げることができる。9.Qe1 から 10.e4 もあるが本譜の手の方が普通である。ここからの指し手はヒクル対M.グレビッチ戦(ジャカルタ、1996年)を追う。

9…Re8 10.Qc2 e5! 11.e4

 これは判断の分かれる手である。この手は将来の …e5-e4 をやらせないが、キング翼ビショップを殺しd4の地点を恒久的に弱めるという代価を払っている。GMグレビッチはここからその両方の要素に巧妙につけ込んだ。私ならもっと融通性のある 11.Re1 を選ぶ。

11…dxe4 12.dxe4 a5 13.Nh4 Bc5! 14.h3 Bh5

 h3 で応手を聞かれたらh5に引くかf3で交換するかのどちらかであるというのがこの戦型の大ざっばな指針である。代わりに 14…Be6?! と引くと、15.Ndf3! とされてeポーンを守る問題がすぐに起こる。もちろん白の13手目はf3での交換を防いでいる。しかし黒のクイーン翼ビショップの利きが増すという犠牲を払っている。

15.Nf5 Qb6 16.Rae1 Rad8 17.Nb1?!

 この手は 18.Nc3 から 19.Na4 と指す意図だが、その余裕はない。17.a3 と予防する方が良かった。

17…Bb4!

 ここで白は 18.Nc3 と指すべきだが、18…Nc5! で黒駒の方が働きがよくいくらか優勢である。残りの手順は記号を付けるだけにとどめる。グレビッチは『チェス新報』第68巻第6局で本局を詳しく解説している。

18.Re3?! Nf8 19.Rd3 Rxd3 20.Qxd3 N6d7 21.Na3?! Rd8 22.Bc1 Ne6 23.g4 Bg6 24.Nc2 Bc5 25.Qg3 Qc7 26.a3 Nf4 27.Re1 Nf6 28.Bf1 Qb6 29.Qf3 Ne6 30.Kg2 Nd7 31.Rd1 Ndf8! 32.Rxd8 Qxd8 33.b4 axb4 34.axb4 Be7 35.Qd3 Qc7 36.Nxe7+ Qxe7 37.c5 Nf4+ 38.Bxf4 exf4 39.f3 Qh4 40.Kg1 h5! 41.Qd2 Ne6 42.Qf2 Qf6 43.Ne1 Qc3 44.Nd3 Nd4 45.Kh1 hxg4 46.hxg4 f6! 47.Nxf4 Bf7 48.Kg2 Nc2! 49.Nh3 Ne3+ 50.Kh2 g5 51.Be2 Be6! 52.Qg3 Qxb4 53.Qd6 Kf7 54.Qc7+ Kg6 55.e5?! Qb2! 56.Ng1 Qxe5+ 57.Qxe5 fxe5 58.Kg3 Kf6 59.Kf2 Nd5 60.Bd1 Nf4 白投了

******************************

2016年06月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(426)

「Chess」2016年4月号(2/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ(続き)

A.シロフ – H.ナカムラ
第2回戦

 黒は不均衡な局面のフランス防御突き越し戦法に対しわずかな優勢を保ってきた。しかし 36.Rh1 なら大方の見るところ引き分けだろう。例えば 36…d4 37.Qf2 Qg7 38.Rxh4 Qxe5 35.Rh5 である。代わりにシロフはクイーン翼の早くからの制圧を生かす手段を見つけた。しかし反対翼での黒の手段を過小評価していた。

36.Rxc5? bxc5 37.a5 h3+ 38.Kg3?

 白は黒ポーンを突き進ませるわけにはいかない。しかし 38.Kh2 Rb4 はなおさら悪い。39.Kxh3 c4 40.Qxa7 Qh8+ 41.Kg2 Qxe5 となって黒の攻撃が白のクイーン翼での切り札をはるかに上回る。

38…h2! 0-1

 39.Kxh2(39.Qc1 Qh8 40.Qh1 Qxe5 も同じく見込みがない)39…Qh6+ で次に空きチェックで白クイーンを素抜かれるので投了はやむを得ない。

(クリックすると全体が表示されます)

*****************************

(この号続く)

2016年06月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(192)

「Chess Life」1997年9月号(3/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.c4 と指す
イギリス布局に対する 1…e6(A13)

 黒はクイーン翼ギャンビット拒否で文句のない限り、1…e6 は申し分がなく最大の融通性がある。この手に対し 2.d4 なら 2…d5 だし、2.Nc3 でも 2…d5 で白は 3.d4 と突くしかない。2.e4 なら黒はフランス防御交換戦法の楽な局面に到達する(2…d5 3.exd5 exd5 4.d4)。その局面についてはサント=ロマン対シャケード戦(カンヌ、1997年)で解説した(本誌1997年6月号52ページ)。

2.Nf3 d5 3.b3

 cポーンを守ることにより …dxc4 でカタロニア布局が排除され、局面はイギリス布局の様相が濃くなる。黒は …Nf6 を遅らせているので、ここからの指し手には良い選択肢が二つある。それほど研究されていない方が好きなら次のように指してよい。

(A)3…Be7 4.Bb2 Bf6

 ここで 5.Bxf6 Nxf6 は黒が楽にキング翼の小駒の展開を完了してしまうので感心しない。マカロフ対ギオルガゼ戦(ポドリスク、1992年)で白は 5.d4 で黒のキング翼ビショップを押さえこむことにした。5…Ne7 6.Nbd2 O-O 7.e4 g6 で局面は形勢判断が難しく、55手で引き分けに終わった。この試合はマカロフが『チェス新報』第57巻第7局で解説している。その後GMギオルガゼは積極的な 5…dxc4 6.bxc4 c5! に着目した。意欲的な 7.e4?! cxd4 8.e5? は 8…Bxe5 9.Nxe5 Qa5+ でうまくいかない。

5.Qc2 Bxb2 6.Qxb2 Nf6 7.e3 O-O 8.d4 Nbd7 9.Nc3 Qe7

 黒は中央で 10…dxc4 から 11…e5 で仕掛けていく用意ができた。白はおそらく中央の争点を解消するしかなく、中央での影響力はほぼ互角になる。

10.cxd5 exd5 11.g3 c6 12.Bg2 Ne4 13.O-O Ndf6 14.b4 Bf5

 本譜の手順はプサーヒス対セルペル戦(ノボシビルスク、1993年)である。白は少数派攻撃を始めたが、黒は中央がしっかりしたまま展開が完了し、どんな危険性も最小限に抑えている。

15.Rfc1 a6 16.a4 Nxc3 17.Rxc3 Ne4 18.Rcc1 Nd6

 いい勝負になっている。

(B)3…Nf6 4.Bb2 Bd6!?

 黒の3手目はまともだが、次の手はe5の地点を争う意欲的な手段である。ここの手順はグリコ対スベシュニコフ戦(ビール・インターゾーナル、1993年)を追っている。

5.g3 O-O 6.Bg2 b6 7.O-O Bb7 8.Nc3 a6

 黒はキング翼ビショップをd6に置いたままクイーンがe7の好所に行ってもよいようにした。

9.d4 Nbd7 10.Qc2 Qe7 11.Rad1 Ne4 12.e3

 ここでスベシュニコフはe5の地点とキング翼を弱める 12…f5?! の代わりに、単純に 12…Nxc3 と取る方が良かったと言っている。確かに 13.Bxc3 Nf6 または 13…c5 でいい勝負のようである。

******************************

2016年06月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(425)

「Chess」2016年4月号(1/4)

******************************

チューリヒ・チェスチャレンジ

H.ナカムラ – L.アロニアン
仮順位付けブリッツ

18.Bxh6!

 時に水爆とあだ名される男はけっして一発を逃さない。

18…Nxc3

 黒はこれにより戦力損を避けられる。18…gxh6? と取ると 19.Bxd5 Qxd5? 20.Nf6+ で大損になる。

19.Nxc3 gxh6 20.Ne4

 アロニアンにとっては不運なことにこのナイトは戻ってくることができ、ぼろぼろのキング翼の防御は白の攻撃的な次の手で一層ぼろぼろに見える。

20…Be7 21.Nh2!

21…Nd4?

 黒にも拠点があるが、ここから自陣が崩壊する。最後のチャンスは 21…Qf5 22.Ng4 Qg6 23.Re3 Kf8 で頑強に守ることだった。

22.Ng4

 気づいてみれば両方の浮いているポーンをうまく守ることができなくなっている。終わりは近い。

22…Kg7 23.Nxe5 Qf5 24.Ng3 Qg5 25.Nxf7 Qg6 26.Nxd8 Bxd8 27.Rxe8 1-0

*****************************

(この号続く)

2016年06月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(191)

「Chess Life」1997年9月号(2/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法(続き)

白が 1.d4 と指す(続き)
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

クイーン翼ギャンビット拒否 [D58]
オーソドックス、タルタコーベル戦法
白 GMレオニド・ユルタイェフ
黒 GMアレクサンドル・ベリャーフスキー
エレバン、1996年

1.d4 d5 2.c4 e6

 この手には二つの着想がかかわっている。理解しやすいのはd5の地点を守ることで、それほど理解されていないのは非対称を確立することである。スラブ防御(1.d4 d5 2.c4 c6)と異なり白は 3.cxd5 で対称形にできないので、これにより黒の勝つ見通しが増す。

3.Nc3 Be7!

 「手順の妙」(本誌1996年9月号)でなぜ普通に見える 3…Nf6 よりもこの手の方が正しい手順なのかについてかなり詳しく説明した。3…Nf6 なら白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法の有望版に行ける。しかし本譜の手ではそれが不可能で、白は 4.cxd5 exd5 5.Bf4 で満足するか、通常の小駒の展開を続けなければならない。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6

 黒がタルタコーベル戦法を目指しているなら、すぐにクイーン翼ビショップに挑戦するのが最も正確な手法である。その意味は 6.Bxf6 Bxf6 10.e4 が無害であることである。ウラジミロフ対ホルモフ戦(レニングラード、1967年)では 7…dxe4 8.Nxe4 Nc6 9.Nxf6+ Qxf6 10.Qd2 Bd7 11.Qe3 O-O-O! 12.Be2 Rhe8 13.O-O Kb8 と進み、黒は無理のない展開で互角の形勢だった。そして白がビショップを切らなければクイーン翼ビショップは働きの劣る斜筋に追いやられ、黒のhポーンは Qc2 と Bd3 のバッテリーに脅かされない。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6

 ここがタルタコーベル戦法の出発点で、過去70年にわたって黒の最も人気のある手法だった。黒に唯一ある真の戦略上の問題はクイーン翼ビショップの利きが乏しいことなので、中央に向けて理にかなった 8…Bb7 でその問題を解決することを策している。白がありきたりに手を進めれば、黒には何の問題もない。例えば 8.Bd3 Bb7 9.O-O Nbd7 10.Qe2 c5 11.Rfd1 Ne4 ならほぼ互角である。

 だから白は 7…b6 によって生じた黒のクイーン翼のわずかな弱体化につけ込むよう努めなければならない。

8.Be2

 20年以上に渡って本譜の落ち着いた手が最も人気のある手になっていて、主手順は 8…Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5 exd5 11.b4 である。中央を固定するのは二つの着想による。すなわち(1)黒のビショップの利きを減らし、(2)黒のdポーンに圧力をかけて例えば …c7-c6 のような新たなポーンの弱点を生じさせる。黒の通常の応手は 11…c5 だが、完全な互角は期待薄である。最近の実戦例のエピシン対ルゴボイ戦(サンクトペテルブルク、1996年)は 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qd2 Rfd8 17.Rfc1 Rab8 18.a4 と進んで白の圧力が続いた。

 歴史的には白の主流手順は 8.cxd5 Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Be2 だったが、数多くの研究により 14…Qb7 15.dxc5 bxc5 16.O-O Qb6 でも 14…a5 15.O-O Qa7 でも黒が捌けることが示された。どちらの場合もいい勝負である。

 本局に見られるベリャーフスキーの作戦成功により、このあと同年に世界チャンピオンのカルポフは 8.Qb3 Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 と指した。そして 11…c6 12.Bd3 Bc8 13.O-O Bg4 14.Ne2 と進んで白がわずかに優勢だった(カルポフ対ベリャーフスキー、ユーゴスラビア、1996年、1-0、62手)。カルポフは本局を『チェス新報』第68巻第403局で解説している。黒がもっと堅実に指すなら 12…Na6 13.O-O Nc7 である(ドゥルギー対オウラフソン、モスクワ、1989年)。

8…dxc4!?

 中央の形を決めることにより黒はクイーン翼ビショップに絶好の中央斜筋が得られることを保証した。もっとも白の広さの優位は少し増した。それでも黒陣はクイーン翼ビショップが 8…Bb7 9.Bxf6 から 10.cxd5 で閉じ込められるよりは指しやすいはずである。もちろん本譜の手は 8.Bd3 に対しても同じく指すことができる。どちらの場合も白は最初にキング翼ビショップを動かしてからc4ポーンを取り返すことにより手損をさせられる。

9.Bxc4

 ベリャーフスキーは 9.Ne5 Bb7 10.Bf3 なら 10…Nd5 で黒がうまく反撃できると指摘している。

9…Bb7 10.O-O Ne4 11.Bxe7

 白は 11.Bg3 でもっと難解な戦いに持ち込むことができ、それなら黒の最も正確な応手はたぶん 11…Bd6 である。

11…Qxe7 12.Nxe4 Bxe4 13.Rc1 Rd8 14.Bd3

 白はクイーン翼ルークのためにc列を素通しにし、黒の働いているビショップと交換することにより黒のクイーン翼のわずかな白枡の弱点にすぐにつけ込むことができることを期待している。ほかに有力な手としては

(1)14.Ne5 Nd7 15.Bd3 Bxd3 16.Nc6 Qe8 17.Qxd3 Nc5! 互角の形勢(ベリャーフスキー)

(2)14.Be2 c5 15.Nd2 Bd5 16.dxc5 bxc5 17.Qc2 Nd7 黒のb列での活動が孤立cポーンの代償となるはずである(ポルティッシュ対スパスキー、メキシコ、1980年、第10局)。

14…Bxd3 15.Qxd3 c5 16.Ne5

 16.Qa3 でも黒は 16…Nd7 17.Rfd1 Kf8 で圧力をはねつける。

16…Qb7 17.b4!?

 落ち着いた局面のもとでキルギスタンのGMは攻撃に打って出ることにした。その意図は 17…cxb4 18.f4 で白は中央が安定し、邪魔されずに黒のキング翼を目指すことができるというものである。しかしベリャーフスキーは注意深い指し方で白を寄せつけない。

17…cxd4! 18.exd4!?

 堅実策は 18.Rc4 Rd5 19.Rxd4 Rxd4 20.Qxd4 で、ここでベリャーフスキーは 20…Nc6 21.Qe4 Rc8 22.Rd1(22.Rc1?? は 22…Nxe5! で負ける)22…Nd8! 23.Qxb7 Nxb7 24.h4 Rc7 で互角になるとしている。

18…Nd7 19.Nc6 Re8 20.f4 Nf6

 白のナイトは確かにc6の好所を占めている。しかし全体的に黒陣はすきがなく堅固である。白はここで 21.b5 と突くべきで、私は動的に互角と判断する。

21.f5?! Qd7 22.fxe6 Rxe6 23.b5 Rae8

 急に黒駒の働きが目立ち始めた。注意深く指さなければならないのは白の方である。

24.Qf5 Qd6 25.Rcd1

 ベリャーフスキーによると白は 25.a4 Re2 26.Rf2 でほぼ互角を保持できた。

25…Re2 26.a4 a6 27.d5?

 ここが 27.Rf2 の最後の機会だった。ここから黒が優勢になった。

27…axb5 28.axb5 Rb2 29.Rde1 Rxe1 30.Rxe1 g6 31.Qf3 Kg7! 32.Ne7?! Qc5+ 白投了

 33.Kh1 なら 33…Qxe7 34.Rxe7 Rb1+ で最下段がまずいし、33.Qe3 なら 33…Qxe3+ 34.Rxe3 Rb1+ 35.Kf2 Ng4+ でナイトによる両当たりにはまる。

******************************

2016年06月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(424)

「Chess Life」2016年3月号(2/2)

******************************

実戦的收局

GMダニエル・ナローディツキー

第2問 レイティング2000レベル
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2786)
GMウラジーミル・クラムニク(FIDE2793)
世界チーム選手権戦、2013年

 白の手番

解答

 3.Nxb6 は悲劇的必然とつい決めてかかりやすいが、真実のかけらもない。39.axb5! a4 40.Nc5!! ナイトとパスポーンの関係はどうなんだ?40…a3 40…bxc5 は 41.b6 a3 42.b7 a2 43.b8=Q+ でクイーン昇格がチェックになる 41.Nb3 ポーンがしっかり止められ勝負がついた 41…a2 42.Ke3 Kf7 43.Kd4 Ke7 44.e4 e5+ 45.fxe5 Ke6 46.Na1 fxe5+ 47.Kc3 g5 48.Kb2 gxh4 49.gxh4 Kd6 50.Nb3 黒投了

*****************************

(この号終わり)

2016年05月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(190)

「Chess Life」1997年9月号(1/4)

******************************

布局の探究

GMエドマー・メドニス

閉鎖型布局での黒の堅実な戦法

 前回は黒のための堅実な布局の特徴について論じ、1.e4 に対する私の選択肢を紹介した。繰り返すと、堅実な布局は中央での影響の強さ、小駒の自由な展開、安全なキング、それに陣形の弱点はあっても最小限という特徴を備えていなければならない。今回は閉鎖型布局の 1.d4、1.c4 それに 1.Nf3 に対する私の推奨を紹介する。さらに、同じような中央の陣形をもつ防御をあえて提唱する。プロでない選手にとっては布局定跡の研究にかけられる時間は限られている。だからそのような得意戦法は研究時間を節約するとともに、関連する戦略要素をより深く理解することにつながっていく。

白が 1.d4 と指す
クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス戦法(D31、D53-59)

 百年ほど前の布局定跡では 1.d4 に対する最善の応手はクイーン翼ギャンビット拒否であると考えられていて、具体的な戦型は黒がd5の地点を適切に保持する戦法だった。オーソドックス戦法の絶頂期は1927年カパブランカ対アリョーヒンの世界選手権戦だった。カパブランカが黒番の17局のすべてでそれを採用したのも驚くにはあたらなかっただろう。しかし攻撃の天才のアリョーヒンは 1.d4 に対処しなければならなかった16局のうち15局で採用した。

 現在の一流GMのうち一貫して信奉してきたのはウクライナのGMアレクサンドル・ベリヤフスキーだった。ドイツの代表的なチェス雑誌『Schach』の1997年4月号でベリヤフスキーは盤上で「GMの中で最も妥協を潔しとしない」と評されている。そのとおりであるが 1.d4 に対しては堅実な布局を好んでいる。そこで実戦例として次の試合を選んだ。

******************************

2016年05月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求2

「ヒカルのチェス」(423)

「Chess Life」2016年3月号(1/2)

******************************

ロンドン・チェスクラシック

ジョン・ソーンダース

スラブ防御 [D11]
GMマグヌス・カールセン(FIDE2834、ノルウェー)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2793、米国)
ロンドン・チェスクラシック第7回戦、ロンドン、2015年12月11日

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.e3 Bg4 5.h3 Bh5 6.cxd5

 「交換スラブだって?」我々のほとんどはこの手を見た時そう思っていたに違いない。しかしそれと同時にカールセンが好調な時に無味乾燥な局面でどうすることができるのか皆で目撃することになった。彼はこれまで長い間本調子でなかったからだ。

6…cxd5 7.Nc3 e6 8.g4 Bg6 9.Ne5 Nfd7 10.Nxg6 hxg6 11.Bg2 Nc6 12.e4 dxe4 13.Nxe4 Bb4+ 14.Nc3 Nb6 15.O-O

15…O-O

 黒は 15…Nxd4!? 16.Bxb7 Rxh3 と指すこともできるが、たぶん少し危険だろう。

16.d5 exd5 17.Nxd5 Bc5 18.Nc3 Bd4 19.Qf3 Qf6 20.Qxf6 Bxf6

 多くの人が引き分けになると思い始めていたことだろう。

21.Bf4 Rad8 22.Rad1 Bxc3

 残りのビショップをナイトと交換するのは危うい。しかしそれは対局後だから言えることであって、その時は良さそうな手に見えた。

23.bxc3 Na4 24.c4 Nc3 25.Rd2 Rxd2 26.Bxd2 Ne2+ 27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4 Rd7 32.Bc5 Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 というわけで收局の基本的な構図ができ上がった。2ナイトに対し2ビショップは黒の防御陣に何らかの弱点がある場合に限り有利である。たとえ弱点があっても我々弱者には見えない。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5 gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5 Ke7 45.Bf4 a6

 「不要な手」(カールセン)

46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5

 これでカールセンの作戦の輪郭が明らかになってきた。hポーンを黒のgポーンと交換し、キングをg7に行かせてf7のポーンに圧力をかけるのがそれである。しかしそれなら黒ナイトがお互いを守り、しかも狙いを少し作り出すことができるのではないか?まだ勝てる作戦には見えない。

52…Nf6 53.h6 Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+

 ん・・・繰り返しで引き分けか?

56.Kh4

 いや、まだまだ。

56…gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4

60.Be4

 60.Bxb7? と取ると 60…Nxf5+ 61.Kh7 Nxd6 62.cxd6 Kd7 63.Bxa6 Kxd6 で簡単に引き分けになる。

60…Nf2 61.Bb1

 進展を図るにはこの手しかない。もちろんfポーンは保持しなければならない。

61…Ng4 62.Bf4 f6

 たぶん悪手だろう。いずれにせよカールセンはそう思った。しかしナカムラは受けを見つけるのに苦労していて、正着を見つけるのは非常に難しくなり苦悶はナカムラの顔にありありと出ていた。

63.Be4 Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7!

66…Nd3!

 ナカムラは最善の受けを見つけた。代わりに 66…Nxf5+ と取る手は 67.Kxf6 Nd4 68.c6 Nxc6 69.Bxc6+ Kd8 70.Ke6 Nd3 71.Bd6 で見込みがない。

67.Kxf6!

 カールセンは残りたった2分の考慮時間(と30秒の毎手加算)で再燃焼した。駒を捨ててfポーンの進路を空け、黒の2ナイトも麻痺させている。しかし無数の変化も読んでおく必要があった。

67…Nxf4

 67…Nxc5 は 68.Bd5! で黒は応手に窮する。

68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+

71…Kf8?

 ナカムラが悪手の方を選んだので解説室では観戦していたノルウェー人の一団から歓声が上がった。71…Kg6! ならカールセンが勝てるかどうかはまったく予断を許さなかった。ここまでうまく守ってきたのにナカムラにとっては悲劇だった。チェスエンジンはカールセンが勝つ手段は一つしかないとのご託宣だった。はたして彼は見つけることができるだろうか。

72.Ke4!!

 やった!72.Kd6? はハズレで、e2のナイトを守りから解放してやることになる。72…Nc3! 73.c6 Nxc6+ 74.Bxc6 Kf7 75.Bd5+ Ke8 となって白は勝てない。

72…Nc2

 72…Ke8 は 73.Ke3 でナイトが完全に麻痺してしまう。73…Kf8 74.Bc4 Ke8 75.Bxe2 Ne6 76.Bh5+ Kd8 77.c6 で白の勝ちになる。

73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3!

 駒を取り返す非常に気持ちのよい手である。

75…Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 黒投了

*****************************

(この号続く)

2016年05月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6