チェスの玉手箱

布局の探究(258)

「Chess Life」1999年12月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

A.シチリア防御 B45(続き)
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6 6.Nxc6 bxc6 7.e5 Nd5 8.Ne4
(再掲)

(3)8…Bb7!
カスパロフ対レーコー(リナレス、1999年)

 この手はペーテル・レーコーのトレーナーでハンガリー人のGMアンドラース・アドルヤーンが創案し発展させた優秀な新手である。その着想は本筋の見事さにある。黒は働いていないビショップを重要な中央の斜筋に沿って配置につける用意をしている。もちろん作戦を成功させるためには具体的な手順も必要である。以下の解説では『チェス新報』第75巻第167局のレーコーの解説のいくつかを参考にさせてもらった。

9.Be2 c5 10.O-O Qc7 11.Nd6+

 ここに 8…Bb7! の第一の真価が表れている。黒にe5のポーン取りを狙われていたが、11.c4 では 11…Ne3! 12.Bxe3 Bxe4 で互角の形勢になる。

11…Bxd6 12.exd6 Qc6 13.f3!

 白はg2での詰みに対処しなければならなかった(13.c4? Nc3!)。13.Bf3 には 13…c4! で白の白枡ビショップはほとんど働かない。本譜の手に対して黒は白の c2-c4 突きを防ぐことによりd5の強力なナイトを維持しなければならない。

13…c4! 14.Qd4 O-O! 15.Bxc4 Qxd6 16.Bb3

 2か月ほどしてスビドレル対イリェスカス戦(ドス・エルマーナス、1999年)ではいくつかの工夫があった。16.Rd1 Rfc8 17.Bd3 Qb6 18.Qxb6 Nxb6 19.a4 a5! 20.Be3 Nd5 21.Bd2 Nb6 22.b3 d5 23.Bb5 d4! 24.Bf4 Nd5 25.Be5 Rxc2 26.Bxd4 引き分け

16…Qb6 17.Rd1 Rfc8 18.Qxb6 Nxb6 19.a4

 ここでは双ビショップとクイーン翼の多数派ポーンのために白がわずかに優勢であるとみなされるに違いない。黒は中央列での優勢と半素通しc列が役に立ってくる。後知恵になるが黒の正着は白のaポーンに侵攻されるのを防ぐ 19…a5! だった。

19…d5?! 20.a5 Nc4 21.a6! Bc6 22.Bxc4 dxc4 23.Be3 Bd5 24.Ra5 Rc6

 異色ビショップはここでは白の方にだけ味方している。というのは白のビショップが黒のルークをaポーンの守りに縛りつけているのに対し、黒のビショップは何も白の脅威になっていないからである。実戦の手の代わりにレーコーは反撃を1手早める 24…f6 を指摘した。

25.Rda1 f6 26.h4 Kf7 27.Kf2 Rc7 28.Rb5 Rd8 29.Raa5 Ke7 30.Kg3 h5 31.b4! cxb3e.p. 32.cxb3 Rg8!

 局面はかなり激化した。白はクイーン翼でパスポーンを作る態勢ができている。19歳のハンガリーのGMはキング翼での反撃を見据えている。両選手とも残り時間が少なかった。レーコーは『チェス新報』第75巻第167局で以降の指し手を詳細に解説している。終局までのみごとな手順は以下のとおりである(形勢記号を少し付けておいた)。

33.Rc5 Rd7 34.b4! g5! 35.Rc2 g4 36.Kf2 g3+! 37.Ke1 e5! 38.Rd2 Rgd8 39.Rc5 Ke6 40.b5 Rb8 41.Rd3 Rbd8 42.Rd2 Rb8 43.Rd3 Rbd8 44.b6 axb6 45.Rb5 Bc4 46.Rxb6+ Kf5 47.Rxd7 Rxd7 48.a7 引き分け

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2017年08月23日 コメント(0)

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布局の探究(257)

「Chess Life」1999年12月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手

 前回は白の「理にかなった」布局の新手を二つ紹介した。今回は黒の場合を取り上げる。

 黒は不利を背負って指し始めるので、好手の新着想を考えだすことを含めすべてがより困難である。特に 1.e4 の布局では黒は「新構想」が早々と失敗に終わらないようにことのほか注意を払わなければならない。世界級の選手による非常に理にかなった二つの重要な新手を選んでみた。

A.シチリア防御 B45
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6

 黒は無理のない融通性のある陣形を採用している。ナイトはそれぞれ最良の地点に展開し、1枡だけ進んだeポーンはd5の地点を過剰に守るとともにキング翼ビショップが展開できるようにしている。それと同時にこれからの作戦で不必要な危険を冒すのを避けるようにしている。白の最も普通の応手の 6.Ndb5 のあと黒は 6…Bb4 と指してもよいし、6…d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 でスベシュニコフ戦法に移行してもよい。

 しかし黒の展開には潜在的な欠陥がある。それは重要なe5の地点を守る配慮が足りないということである。このため白は次のような積極策をとることができる。

6.Nxc6 bxc6

 代わりに 6…dxc6?! と取るのは 7.Qxd8+ Kxd8 8.e5!(8…Nd5 には 9.Ne4、8…Nd7 には 9.f4)で展望のない收局になる。

8.e5 Nd5 9.Ne4

 白の作戦は次の3点を骨子にしている。(1)e5のポーンは黒陣を圧迫しd6の地点の潜在的な弱点を際立たせている。(2)c2-c4 突きは中央にいる黒のナイトをそっぽに追いやる。(3)黒の白枡ビショップは戦いに加わるのが難しい。まず黒の最も普通の2手を取り上げ、そのあと面白い新手を紹介する。

 (1)8…f5 は無理矢理締めつけを破るやり方だが、黒枡の弱体化と双ビショップの放棄という代価も払う。白が少しだがはっきりした優勢になるのは確かである。ツェイトリン対S.ドルマートフ戦(ソ連、1977年)は 9.exf6e.p. Nxf6 10.Nd6+ Bxd6 11.Qxd6 Qb6 12.Bd3 c5 13.Bf4! Bb7 14.O-O Rc8 15.Rfe1 と進んだ。

 (2)8…Qc7 は従来の手法である。黒は白のキング翼のポーン陣形をゆるめさせてから反撃をさぐる。主眼の実戦例にはシロフ対クラセンコフ戦(ポラニツァ・ズドルイ、1998年)がある。9.f4 Qb6 10.c4!? Bb4+ 11.Ke2 f5 12.Nf2 Ba6 13.Kf3 Ne7 14.Be3 Bc5 15.Bxc5 Qxc5 16.Qd6! Qb6 17.b3 c5 18.Be2 Rc8 19.Rhd1 Rc7 20.Ke3! 陣地の広さと黒枡の支配で白に通常の有利さがある。シロフが56手で勝った。『チェス新報』第73巻第221局にシロフの解説がある。

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2017年08月18日 コメント(0)

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(256)

「Chess Life」1999年10月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

イギリス布局 [A17]
白 GMブランコ・ダムリャノビッチ
黒 GMアンドレイ・ソコロフ
ユーゴスラビア、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!? h6

 f6のナイトが第一級の中央の地点を保持できるようにするのはもちろん完全に筋が通っている。しかし負の面も明らかである。キング翼のポーン陣形の弱体化は、g4-g5 突きでg列を素通しにされる危険性のためにキング翼キャッスリングが排除されることを意味する。

5.Rg1 d5

 やはりまた大いに理にかなっている。有力な変化は

 1)5…c5 6.h4 Nc6 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng8 9.g6 f5 10.a3 Ba5(シャバロフ対カークリンス、フィラデルフィア、1998年)グリコによれば白はここで 11.b4! cxb4 12.Nb5 でわずかな有利を保持できる。

 2)5…b6 6.h4 Bb7 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ne4 9.Qc2 Nxc3 10.dxc3 Bd6 11.Be3 Nc6 実戦はここで不注意な 12.Nd2?! Bh2! のために黒が少し優勢になったが(ファン・ベリー対ティマン、ベイクアーンゼー、1999年、29手で黒の勝ち)、普通に 12.O-O-O なら形勢不明かたぶん互角の局面だった。

 3)5…d6 6.h4 e5 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng4 9.Nd5 Bc5 10.d4 Bb6 11.Nxb6 axb6(ズビャーギンセフ対ベンジャミン、フローニンゲン、1997年)クラセンコフは形勢不明の局面と判断している。

6.a3 Be7 7.d4 Nbd7

 7…Ne4 も本筋で、8.Qc2 Nxc3 9.Qxc3 Nd7 10.Bg2 となった時トゥクマコフ対シュナイダー戦(ドネツク、1998年)では疑問手の 10…O-O?! のために 11.g5! と突かれる手が生じたが(実戦では白が 11.Bh1 と引いても優勢だった)、黒は冷徹に 10…c6 と指すべきだった(トゥクマコフ)。

8.cxd5 Nxd5

 8…exd5 でも 9.h4 c6 10.Qc2 Nf8 11.g5 hxg5 12.hxg5 Ng4 13.e4 dxe4 14.Qxe4 f5 15.gxf6e.p. Nxf6 16.Qe2! で白がわずかに優勢である(トゥクマコフ)。

9.e4 Nxc3 10.bxc3 c5 11.Bd3 cxd4 12.cxd4 b5!

 黒はどこかを支配する必要がある。白が中央とキング翼で広いので、唯一の領域はクイーン翼である。

13.g5 hxg5 14.Bxg5 Bxg5 15.Rxg5 Rxh2! 16.Ke2! Rh7 17.Qg1 g6 18.Bxb5 Rb8 19.a4 a6 20.Bd3 Rb2+ 21.Ke3

 白はキングが十分安全で、中央で優位に立っているためにわずかな優勢が続く。しかし局面は極端に不均衡で、どちらにとっても最善の手順を見つけるのがとてつもなく難しくなっている。詳細については『チェス新報』第73巻第15局のダムリャノビッチの分析を参照されたい。

21…Qf6 22.Rc1 Bb7 23.Rb1

 黒はここでルークを全部交換して白の中央の重要性を減殺することができる。ダムリャノビッチは 23.Qg3 からナイトをc4に捌いていく方が強い指し方だったと考えている。

23…Rxb1 24.Qxb1 Rh3! 25.Rg3 Rxg3 26.fxg3 Bc8 27.Qf1

 この手は黒を自由にさせる。 27.Qc2! Qd8 28.Qc6 a5 29.Bb5 ならまだなんとか圧力を保持できた。

27…e5! 28.Qa1 Qb6 29.Qc3 exd4+ 20.Qxd4 引き分け

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2017年08月16日 コメント(0)

カテゴリ: 布局の探求3

頓馬

第194回チェスネット競技会 8月号

正解はこちら。

(8月21日にこっそり修正されました。何のお詫びも断り書きもありません。人間としての常識を疑います。)

2017年08月12日 コメント(0)

カテゴリ: 我楽多

「ヒカルのチェス」(485)

「British Chess Magazine」2017年8月号(1/1)

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2017年グランドチェスツアー・パリ大会


2017年グランドチェスツアー・パリ大会、ブリッツ第16回戦

75.Rf5

 ここでは黒の勝勢である。しかしチェスエンジンの示す「-15」ほど簡単明瞭なわけではない。

75…Kg2?

 これでは引き分けになる。

 75…f2+ 76.Kd2 Rh2!(次に …Kg1 と指し白ルークによるチェックには …Rg2 とする狙い)77.Rg5 Rh1!(手詰まりにさせた)78.Kd1 Rg1 79.Rf5 Kg2+ これで黒の勝ち。

76.Ke3 f2+ 77.Ke2

 ここであり得ないようなことが起こった。

77…f1=N??

 「ビショップはナイトより強し」だからビショップに昇格させる方が良かった。

 77…f1=B+ 78.Rxf1 Rxh5 両者とも望むならもう少し気のすむだけ指すことができる。

78.Rf2+!

 黒は完全にこの手を見落としていた。しかしそもそもナイトに昇格させて勝てると考えていたのだろうか。それともユーモアのセンスを見せたかったのだろうか。はたまた誤って別の駒をf1に置いたのだろうか。

78…Kg1 79.Rxf1+ Kg2 80.Rf2+ Kg1 81.Rf5

 何という変わりようか。敗勢の局面からこの局面だ。それでもまだ引き分けで、比較的容易である。しかし前局のカールセンの試合のように流れは明らかに白の方にある。

81…Ra3

 どうしてhポーンを進ませるのだろう。この手は全然意味がない。

 白キングが3段目を渡れなくする 81…Kg2 が最も簡明だった。

82.h6 Rh3 83.Rf6 Kh2 84.Kf2 Rh4

 前と同様に 84…Kh1 なら引き分けである。本譜は白キングが1段前に進むがそれでも引き分けである。

85.Kf3 Kh3 86.Rg6

86…Ra4?

 この手は負けになる。しかしマメデャロフは最初の機会を生かせなかった。ここからは黒が白のポーンを進ませた81手目からの繰り返しである。

 86…Kh2 なら白が何も進展を図れなかった。

87.h7?

 マメデャロフは繰り返しによりポーンを進めるが、勝ちを逃している。

 87.Rg1! Kh2 88..Rg4 で白の勝ちだった。

87…Rh4 88.Rg7

88…Rh6??

 ナカムラは白キングを進ませないことの重要性をまったく理解していなかった。

 88…Kh2 なら白が進展したにもかかわらず依然として引き分けだった。

89.Kf4 Kh4 90.Kf5 Rh5+ 91.Kg6 Kg4 92.Kf7+ 1-0

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(この号終わり)

2017年08月11日 コメント(0)

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(255)

「Chess Life」1999年10月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!?(再掲)

イギリス布局 [A17]
白 GMバジム・ズビャーギンセフ
黒 GMイェルン・ビケット
ティルブルフ、1998年

4…d5

 すぐに反撃を目指すのがどの点からも主眼の指し方である。4…Bxc3 と取るのは 5.dxc3 d6 6.g5 Nfd7 7.Bg2 e5 8.Be3 Qe7 9.Nd2 f5 10.gxf6e.p. Nxf6 11.Ne4 Nxe4 12.Bxe4 Nd7 13.Qd3 Nf6 14.Bg5 Qf7 15.Bxf6(クラセンコフ対ロブロン、スービック湾、1998年)で白がはっきり優勢になった(15…gxf6? 16.c5! のあと白が36手で勝った)。クラセンコフは黒の改良手として 15…Qxf6 16.Bxh7 Be6 を指摘しポーンの相応な代償があるとしている。クラセンコフ対ボグダノフスキー戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)では 4…d6 5.g5 Nfd7 6.Qc2 Nc6 7.a3 Bxc3 8.Qxc3 e5 9.b4 Qe7 10.Bb2 Nb6 11.b5 Nd8 12.a4 Bg4 13.Bg2 Rc8?!(ボグダノフスキーは改良手として 13…a5! を指摘している)14.d4 と進み、白が展開の優位と陣地の広さで通常の布局の優勢を得た。

 そのほかにも自然な手として 4…O-O がある。この手についてロシアのGMセルゲイ・イオノフは 5.g5 Ne8 から 6…d5 に注意を喚起している。実戦による検証が必要なことは明らだが、まずキングを比較的安全な状態にしてから中央での反撃を始める着想は理にかなっている。

5.g5 Ne4 6.h4!

 ズビャーギンセフは以前に指された 6.Qa4+ Nc6 7.Nxe4 dxe4 8.Ne5 e3! 9.fxe3 Qxg5 10.Nf3 よりこの新手の方が優ると考えている。クラセンコフ対ガルシア戦(フローニンゲン、1997年)では黒が 10…Qe7? と重大な無駄手を指した(白が30手で勝った)。クラセンコフは改良手として積極的な 10…Qf6 や 10…Qh6 をあげている。

6…Nc6 7.Qc2 f5 8.gxf6e.p.

 後日の研究では 8.d3! Nxc3 9.bxc3 Bd6 10.cxd5 exd5 11.Bg2 で引き締まったポーン陣形を保つことにより通常の有利さを保持することができた。

8…Nxf6 9.a3 Bxc3 10.dxc3 Qe7 11.Bg5 Bd7 12.O-O-O

 白はまず 12.cxd5! exd5 を決めてから初めて 13.O-O-O と指すべきだった。実戦は黒のポーン取りが有効な手になった。

12…dxc4 13.h5 O-O-O 14.h6 Rhg8 15.Bh3 gxh6 16.Bh4! Rdf8 17.Nd2 Qf7 18.Nxc4 e5! 19.Bxd7+ Nxd7 20.Ne3

 この不均衡な局面はいい勝負で、黒が正着の 20…Rg6! を指せばそれが続く(ズビャーギンセフ)。しかし黒はすぐに乱れ始めた。詳細な分析は『チェス新報』第74巻第15局のズビャーギンセフの解説を参照されたい。

20…Nc5?! 21.Nd5 Nd7 22.Qd3 Qf5? 23.e4 Qe6 24.b4! Rf7?? 25.Qc4 a6 26.Nb6+ 黒投了

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2017年08月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(484)

「Chess」2017年8月号(1/1)

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次の一手

第13問 中級向け
W.ソー – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 白の手番

第18問 上級向け
S.マメジャロフ – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 黒の手番で引き分け

解答

第13問 1.Nf6!(これでも良いが、クイーン同士の対峙を生かす 1.Nxg7! の方がはるかに強力だった。1…Rxa1 なら 2.Nxe8 Rxc1 3.Nf6 で必殺の両狙いがある) 1…Qd8 2.Qf5!? g6?(白は捨て駒の必要がなくなった。しかし 2…gxf6 でも 3.Bxf6+ Ng7 4.Qg5 Qd7 5.Rg1 でやはり交換得になる。5…Rxf2+ 6.Kg3 Qe6 7.Kxf2 Qxe3+ 8.Kg2 Qe2+ 9.Kh1 Qf3+ 10.Qg2) 3.Nxe8+ Rxa1 4.Qxf7 1-0

第18問 1…Kh2!(これは方向違いのように感じられるかもしれないが、黒のルークは理想的な位置にいて白ポーンの背後から白キングを抑止している。ナカムラは 1…Ra4?? と指したが、2.Rg1! Kh2 3.Rg4 とこられたら白キングが自由になり勝負がついていた) 2.Kf2(白ルークが横に動けば黒キングがh3に戻ってくるだけ) 2…Rh3!(ただし 2…Kh3? には 3.Kg1!) 3.Kf1(3.Ra6 は 3…Rh4 4.Kf3 Kh3 5.Ra1 Kh2 で白キングが酩酊状態) 3…Rf3+ 4.Ke2 Rf8 黒はキングをh列で上下させていれば引き分けにできる

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(この号終わり)

2017年08月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(254)

「Chess Life」1999年10月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

 この局面は国際大会で大流行している。白はdポーンとeポーンを突くのを遅らせることにより黒が白の意図を推測するのを難しくさせながら自分の選択肢を広げたままにしている。その一方で黒はキング翼の小駒を最も働きのある地点に展開することに努めて勝つ見込みを高めている。

 上記の手順は最も一般的なものである。1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 Bb4 と 1.c4 e6 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Bb4 もよく見かける。1997年12月まで白の十分信頼できると考えられる応手は 4.Qc2 と 4.Qb3 だけだった。どちらの場合も要点は白がクイーンで取り返すことによりc3に二重ポーンができるのを避けることである。

 しかしFIDE勝ち抜き世界選手権(フローニンゲン、1997年)でチェス界は次の驚くべき新手に遭遇した。

4.g4!?

 どんな普通のチェス選手でも最初の反応は「これがチェスだって?」のはずである。正直に言うとこんな手は考えたこともなかった。ついでに言えば弱い選手が指したのなら私はたぶん「明らかに彼はまともなチェスが分かっていないな!」とでもつぶやいただろう。

 しかしレイティング2600超のGMたちがこのように指し始めると、この手には何かあるに違いなく、それが何であるかを理解するのは我々しだいである。この手の論理は次のようなものではないかと思う。3…Bb4 と指された時の白陣は中央のポーン陣形の融通性が最大になっている。だから白はdポーンにもeポーンにもあまり早く手をつけたくない。黒がすぐにキング翼にキャッスリングすることもはっきりしている。それはそうとしてまず中央を支配することなく黒キングに迫るにはどうしたらよいか?

 その答えはg列での銃剣攻撃である。白の中央は(控え目に言えば)全然開かれていないので、そこで黒の反撃が成功する危険性は最小限である(側面攻撃には中央での反撃が最善という原則を思い起こすこと)。だから白はすぐに中央で滅茶苦茶にされる心配なく側面攻撃に出ることができる。

 実のところ 4.g4!? を試す予定は私には今のところない。私の棋風には滅茶苦茶すぎる。それでも時の試練に耐える可能性は十分あると思う。

 知られている黒の応手は少なくとも5手である。主眼の2手の 4…d5 と 4…h6 は実戦の棋譜を完全に示し、ほかの3手は簡単に触れることにする。

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2017年08月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(483)

「British Chess Magazine」2017年7月号(1/1)

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第5回ノルウェーチェス大会

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
第5回ノルウェーチェス大会、2017年、スタバンゲル、第9回戦

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 カルアナはナイドルフ戦法の白番で多くの問題を抱えていた。2013年から2016年の間に正規の持ち時間の試合で一流どころを相手に9敗(!)していた。興味深いことにそれらのいずれもイギリス攻撃だった。6,Bg5 に転向するとたちまち結果が良くなった。昨年はロンドンの大会でナカムラを負かし、今度はスタバンゲルでも負かした。

6.Bg5 e6 7.f4

7…Qb6

 ロンドン大会の有名な試合は次のように進んだ。7…h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 g5 14.h4 gxf4 15.Be2 b4 16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5 19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5! … 1-0(32手)F.カルアナ(2823)対H.ナカムラ(2779)、ロンドン、2016年

8.Qd3

 この手は今日では滅多に指されない。しかしカルアナにはある構想があった。

8…Qxb2 9.Rb1 Qa3 10.f5 Be7 11.fxe6 fxe6 12.Be2 Qa5 13.Bd2 Qc7 14.g4 h6

15.Rg1

 これがカルアナの新手だった。ここからナカムラの連続長考が始まった。

 ここでは 15.Qh3 が最もよく指される手だが、黒は何の問題もない。

15…Bd7

 20分の長考。

16.g5 hxg5 17.Rxg5

17…Nc6

 30分超の長考。カルアナはこの手に驚いた。というのは黒は負けないようにするためには22手目で非常に難解な手順を見つけなければならないことを知っていたからで、ナカムラが研究済みだったか対局中に読んでいたか確信はなかった。

 カルアナは 17…Rh7 を中心に研究していた。以下は想定手順の一端である。18.Bg4 Nxg4 19.e5! Rx2(19…Bxg5? 20.Qxh7)20.Qg6+ Kd8 21.Rxg4 Nc6 22.Qxg7 これは大乱戦である。17…Kf8? は 18.e5! で黒の危険が露呈する。18…dxe5 19.Qg6 Rh7 20.Ne4 白の攻撃が止まらず、チェスエンジンは次のような例をあげている。20…Nxe4 21.Qxh7 Nxg5 22.Qh8+ Kf7 23.Bh5+ g6 24.Bxg5 Qc3+ 25.Kf1 Bxg5 26.Qh7+ Ke8 27.Qxg6+ Ke7 28.Qxg5+ Kd6 29.Ne2 Qh3+ 30.Ke1 Qf5 31.Qd8 さらに 17…Rg8? は黒にg7のポーンを守る選択の余地がないことを示している。18.e5! dxe5 19.Ne4! exd4(19…Nxe4 20.Bh5+ g6 21.Rxg6 Bh4+ 22.Rg3+ Ke7 23.Qxe4 Bxg3+ 24.hxg3 白の攻め合い勝ち)20.Nxf6+ Bxf6 21.Bh5+ Kd8 22.Ba5 Nc6 23.Bxc7+ Kxc7 24.Rc5 まだ混沌としているが白が勝つはずである。

18.Rxg7 O-O-O

 18…Rxh2? でも 18…Ne5? でも 19.Qg3

19.Ncb5 axb5 20.Nxb5 Ne5 21.Nxc7 Nxd3+ 22.cxd3

22…Ng8?

 さらに21分使ってこの手が指された。だからナカムラはこの手順を研究していたわけではなく、読みで正解手順を見つけていたわけでもなかった。黒にはほかに有力な手が一つ(とてつもなく見つけるのが難しい)と実戦の手よりはましな手が一つあった。

 22…Rh7 は人間らしい手だった。23.Rxh7 Nxh7 24.Na8 Bh4+ 25.Kd1 Ba4+ 26.Kc1 Bc6 27.Nb6+ Kc7 28.Ba5 Rg8 黒にいくらか代償がある。22…Rxh2! が最善手だが 23.Rxe7 Rh1+ 24.Bf1 Rf8! を見つけるのが難しい。白は駒得を維持できない。25.Nxe6 Bxe6 26.Rc1+ Kb8 27.Bh6(27.Rxe6?! は 27…Ng4 で白が困っている)27…Rxh6 28.Rxe6 Rh1 29.Kd2 Nxe4+ 30.dxe4 Rfxf1 これは引き分けである。

23.Na8

 23.Ba5 Rxh2 24.Kd2 の方が直接的だが、カルアナの指した手でも十分である。このあとは 24…Rf8 25.Rc1 Bc6 26.Nxe6 Rff2 27.Nd4 となる。

23…Kb8

 23…Rxh2 は 24.Nb6+ Kc7 25.Nxd7 Kxd7 26.Be3 Kc8 27.Kd2 で黒は四方八方からの白の攻撃を受け切れない。27…Re8 28.Bf4 Rh8 29.Bg4 という具合。

24.Nb6 Bc6 25.Bf4

 26.Nc4 を狙っている。

25…e5

 25…Bf6 は 26.Rg2 Bc3+ 27.Kd1 で白がはっきりポーン得。

26.Bg3

 白は得しているhポーンをしっかり守った。黒には代償が全然ない。白が陣容をまとめれば黒の負けが確定する。

26…Bf6 27.Rf7 Be8 28.Rf8 Bg7 29.Rf2 Ne7 30.Bg4

 この手の狙いは Rfb2 で、そうなれば白の駒がすべて配置が良くなる。

30…Nc6 31.Rfb2 Nd4 32.Nd5 b5 33.a4 Bh6 34.axb5 Rg8 35.h3 Kb7 36.Ne7 Rf8 37.Nc6 Bxc6 38.bxc6+ Kxc6 39.Bf2

 白には詰みの狙いがあるので黒はf2のビショップを取らざるを得ない。しかしそれは必然を先延ばししただけである。

39…Rxf2 40.Kxf2 Rf8+ 41.Kg2 Be3 42.Rb8 Rxb8 43.Rxb8

 ナカムラはこの敗勢の局面で59手まで指し続けた…

1-0

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(この号終わり)

2017年07月28日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(253)

「Chess Life」1999年10月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

A)イギリス布局 A28(続き)

 しかし次の試合においては白は単純ながら強力な新手を繰り出した。

イギリス布局 [A28]
白 GMマイケル・ロード
黒 GMアレクサンドル・イワノフ
首都ワシントン、1998年

1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4 5.d3! Nxf3+

 実戦の手は白クイーンを好所に来させるが、ほかにeポーンを守る適当な方法がない。例えば 5…d6 6.Nxd4 exd4 7.Ne2 c5 では白が中央で優位に立っているのに対し黒は中央のポーン陣形のために黒枡ビショップが働かない。

6.Qxf3 d6 7.h3! Be7 8.Be3 O-O

 黒は 8…c5 と突いて白の次の手を防ぐべきだと思う。たとえ白があとでd5の地点を制する機会とクイーンが働く可能性で通常の布局の有利を保持するとしてもである。

9.d4! c6 10.Be2 Qb6

 10…Be6 で小駒の展開を完了する方が理にかなっている。黒は本譜の手で白キングがクイーン翼に不安を抱えることを期待しているようである。しかし実際はそうはならない。

11.O-O-O Qa5 12.Qg3 Re8 13.f4 Bf8?!

 黒は危険を覚悟で展開を無視し続けている。13…exd4 14.Bxd4 Be6 と指さなければいけなかった。

14.fxe5 dxe5 15.Rhf1 exd4?

 黒は反撃を夢見ているが、白の十分に展開した駒のために筋を開けるのは自殺行為である。15…Nd7 か 15…Kh8 なら受かる見込みがある。

16.Bxd4 Nxe4 17.Nxe4 Rxe4

18.Bc3!

 この軽妙手がうまい手だった。18…Qxa2 と取ってくれば 19.Rxf7! Kxf7 20.Qf3+ Kg8 21.Qxe4 で黒は次の 22.Bd3(21…g6 22.Qe5)にどうしようもない。

18…Qb6 19.c5! Qxc5 20.Rd8 g6

 20…Qe3+ はクイーン翼が展開できていないので 21.Qxe3 Rxe3 22.Bb4 で負けてしまう。

21.Bd3 Re6 22.Qc7 Re7 23.Rxf8+ Kxf8 24.Qd8+ Re8 25.Rxf7+! Kxf7 26.Qf6+ 黒投了

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2017年07月26日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(252)

「Chess Life」1999年10月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手

 世界中で大会の開催が爆発的に増える中チェスの科学的研究全体が急速に進んでいるに違いないと考えられる。ほとんどの場合これは布局での新発見である。今回は白による新手を取り上げる。そして次回は黒による新手を取り上げる。

 『チェス新報』の発行者たちは同誌に初めて掲載された実戦の手を新手とみなしている。これは妥当な定義と思われる。

 しかし私の議論では意味のある新手に限ることにする。すなわち好手に違いないか悪手ではあり得ない手、または後日の研究のおかげで見かけよりは良い手のことである。ここではそれぞれの群から一例を取り上げる。

A)イギリス布局 A28
1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4

 4.e4 の意図は黒枡をいくらか弱める犠牲をこうむっても中央でのポーンの力を強めることである。黒の最も安全な応手は 4…Bb4 と考えられていて、かなり閉鎖的な局面になってくる。4…Nd4 の意図は白が 4.g3 と突く戦型でよく知られている。その戦型ではこことちょうど同じように黒が一組のナイトを交換することにより局面を単純化することを目指す。

 シェル対ソコロフ戦(ヘルシンキ、1992年)では黒は(4.e4 Nd4)5.Nxe5 Nxe4 6.Nxe4 Qe7 7.Bd3 Qxe5 8.O-O Ne6 9.Re1 d5 10.cxd5 Qxd5 11.Bc2 Be7 12.d3 O-O 13.Be3 c5 14.Bb3 Qf5 で互角の形勢を達成した。

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2017年07月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(251)

「Chess Life」1999年8月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅳ)1.g4?(グロープ攻撃)

 どうしてスイスのIMアンリ・グロープが自分の名前を明らかに劣った布局に結びつけて欲しかったのか私にはよく分からない。この手の良い面はポーンが中央に隣接したf5の地点に利いていて、g5に進めばf6の黒ナイトを追い払うことができることである。しかし悪い面は計り知れない。キング翼の極度の弱体化は未来永劫に続く。

 もちろんこれは 1.g4 をすぐに咎められるということを意味しない。実際1980年代の短い期間ながらイギリスのIMマイケル・バズマンはイギリスの一流どころを相手にこれで好成績をあげた。それは相手が彼を断固「とっちめ」なければならないと思い込んでいたためだった。棋理に合った展開と中央の態勢とに沿って指すようになって初めて、キング翼の弱点(h4、f4)が中盤戦で表面化し白は指す楽しさがなくなった。

 上等の手なら 1…c6、1…c5、1…d6、1…e6、1…e5 および 1…g6 のどれでも良い。白からの唯一のはめ手がこれである。

1…d5 2.Bg2 Bxg4?

 2…c6、2…e5、2…e6 それに 2…g6 のどれでも良い。

3.c4! c6 4.cxd5

 黒は中央のポーンが1個少なくなりその代償も不十分になる。前例が2局ある。

A)4…Nf6 5.Nc3 e5 6.dxe6e.p. Bxe6 7.d4 Nbd7 8.e4 Nb6 9.Nge2

 ケレス対ニーマン(通信戦、1934~35年)。白の優勢は明らか。

B)4…cxd5 5.Qb3 Nc6?!

 5…Qc7?! 6.Nc3! e6?? は 7.Qa4+ でビショップが取られる。まだましなのは 5…Nf6 である。

6.Bxd5 e6 7.Qxb7 exd5 8.Qxc6+ Bd7 9.Qxd5 Nf6 10.Qe5+ Be7 11.Nc3 O-O 12.d3 Bc6 13.f3 Bd6 14.Qg5 h6 15.Qh4

 フリッツ対ボゴリュボフ(ドイツ、1932年)。黒は2ポーン損の代償が十分でない。

 私は 1.g4? にどう指すか。実はまだこの手を指されたことがない。大会でも、非公式戦でも、ブリッツ戦でも、快速戦(10秒)でも。お手軽版としては「Modern Chess Openings 第12版」(1982年)に載っている次の手順が良さそうである。1…d5 2.Bg2 c6 3.h3 e6 4.d3 Bd6 5.Nf3 Ne7 6.e4 Na6 形勢は互角である。

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2017年07月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(250)

「Chess Life」1999年8月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)(続き)

B)キング翼インディアン防御の優位型を目指す

ポーランド布局 [A01]
白 シドニー・バーンスタイン
黒 エドマー・メドニス
米国選手権戦、1959年

1.b4 a5!? 2.b5 e5 3.Bb2 d6 4.e4?

 高等な戦略からはこれは敗着である。そのわけは黒がいずれ重要なc5の地点を完全に支配するからである。加えてc4の地点が恒久的な穴になる。正着は 4.e3 Nf6 5.Nf3 g6 6.Be2 Bg7 7.O-O Nbd7 8.d4 O-O でいい勝負だろう。

4…Nf6 5.Nc3 g6 6.d4 Nbd7 7.Nf3 exd4 8.Nxd4 Bg7 9.g3 O-O 10.Bg2 Re8 11.O-O Nb6! 12.Rb1 Ng4 13.a4 Qg5 14.h3 Ne5

 たとえ白がうまく展開しているように見えても、c4とc5の恒久的な弱点には何も代償がない。本譜の意欲的な手の代わりに安全で本手の 14…Nf6 にはすきがない。たぶん今ならそう指すだろうが40年前はそれ以上を望んだ。しかし客観的には本譜の手には何も危険性がない。

15.Bc1

 白は 14.f4?! で駒を取れるが、15…Qxg3 16.fxe5 Bxh3! 17.Qf3 Qxg2+ 18.Qxg2 Bxg2 19.Kxg2 Bxe5 で黒が3ポーンを得て十分に代償がとれているのに対し白には弱点が残ったままである。総合すると黒がはっきり優勢である。だから白は防御態勢を整えなければならないが、長い目で見ればそれでも不十分である。

15…Qf6 16.Rb3 Ned7! 17.Nde2 Nc5 18.Ra3 Nc4 19.Ra2 Be6 20.Nd5 Bxd5 21.exd5 Re7!

 黒は唯一の素通し列を奪い取る用意ができていて、それゆえに理論的に勝ちの局面になっている。私の技量ではそれで十分だった。

22.h4 h6 23.Bd2 Nxd2 24.Qxd2 Rae8 25.Nf4 b6 26.c4 h5 27.Nh3 Qc3! 28.Qxd3 Bxc3 29.Bf3 Ne4 30.Bxe4 Rxe4 31.Rc2 Bg7 32.Nf4 Rd4 33.Rb1 Ree4 34.f3 Rxc4 35.Rbc1 Rxc2 36.Rxc2 Rxa4 37.Rxc7 Rb4 38.Rc8+ Bf8 39.Nh3 Kg7 40.Ng5 Be7 41.Ne4 f5 42.Nd2 Rxb5 43.Rc7 Kf6 44.g4 Rxd5 45.g5+ Ke6 46.Nf1 a4 47.Ne3 Rc5 48.Ra7 Ra5 49.Rb7 a3 50.Rxb6 a2 51.Nc2 Rc5 52.Nd4+ Kd5 53.Nb3 Rc3 白投了

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2017年07月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(249)

「Chess Life」1999年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)

 これは中途半端な手のように思われる。確かに黒枡ビショップは絶好の斜筋につくし、このポーンは副次的に中央のc5の地点に利いている。白の期待は黒がぼやぼやしてただでクイーン翼に立派なポーン陣形を築かせてくれることである。しかし残念ながらbポーンが守られていない状態なので、黒には積極策に出られる二通りの可能性がある。

A)迅速な展開を目指す
1…e5 2.Bb2 Bxb4! 3.Bxe5 Nf6 4.c4 O-O

5.Nf3

 白はできるだけ急いでキング翼の展開を目指すべきである。5.e3?! は劣っていて、5…d5 6.cxd5 Nxd5 7.Nf3 Re8 8.Be2?(8.Bb2 の方が良いが 8…Nf4! 9.Qc2 Nc6 でやはり黒が良い)8…Rxe5! 9.Nxe5 Qf6 10.f4 Nxe3(リンクビスト対ソレンフォルス、通信戦、1975年)のあと10手で黒の勝ちになった。

5…Nc6 6.Bb2 d5 7.cxd5 Nxd5 8.g3

 このあとは 9.Bg2 から 10.O-O でほぼ互角になる(『チェス布局大成A』、1966年)。

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2017年07月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(482)

「British Chess Magazine」2017年6月号(2/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

ヒカル・ナカムラ – ピョートル・スビドレル
2017年モスクワFIDEグランプリ第9回戦

35.Re4 ½-½

 ここで引き分けを提案するとはナカムラも勇気があるものだ。「栄光は勇者に微笑む」を地でいった。実際スビドレルが受諾した時は「してやったり」という気持ちだったに違いない。

 35.Re4 Rh1 のあと白は実際は困っている。スビドレルがこれに気づかなかったとは驚くしかない。35…Rh1 はそれほどたいした手ではない。黒はこの局面からずっといつまでも指し続けることができ、もし勝てばスビドレルは同点2位になってもっとグランプリ得点が増えるので、本戦進出の可能性がずっと高まっただろう。36.Qd2(36.Kd2 は 36…a4 37.Kc2 Rh3 から38…Qf6)36…a4 37.Qc3+ Qf6! 白はb2が弱いのでクイーン交換に応じられない。しかし黒は単にキングがよけても(37…Kh7)よい。38.Re7 b5!

白は風前の灯である。

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(この号終わり)

2017年07月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(248)

「Chess Life」1999年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅱ)1.b3(ラーセン布局)

 これは 1.g3 のクイーン翼版である。2.Bb2 のあと白からd4とe5の地点に十分に圧力がかかる。1960年代後半と1970年代前半にベント・ラーセンは 1.b3 で好成績をあげて、その結果彼の名がつけられた。しかし定跡がとことん研究されて 1.b3 は 1.g3 よりも次の二つの理由により少し劣ることが分かってきた。

 1)キング翼キャッスリングを準備することによってキングを安全にするということに寄与しない(この布局ではクイーン翼キャッスリングは気乗りしない)。

 2)f4 突きはキングの状態が弱くなるので、e5にさらに圧力をかけることが難しい。白は何も狙っていないので、黒には 1…c5、1…d5 それに 1…Nf6 など理にかなった応手がいろいろある。最も本筋でよく指されるのは白の黒枡ビショップの潜在力を減殺させる 1…e5 で、実戦例にはこれを取り上げる。

ラーセン布局 [A01]
白 GMベント・ラーセン
黒 GMボリス・スパスキー
ソ連対全世界戦、1970年

1.b3 e5 2.Bb2 Nc6 3.c4

 クイーン翼を展開し続けるのは以前は主手順だったが、現在の定跡では白もキング翼の展開をする方が良いと考えられている。3.e3 Nf6 4.Bb5 のあとの最近の重要な実戦例を2局紹介する。

 1)4…d6 5.Ne2 g6 6.d4 Bg7 7.dxe5 Nd7 8.Bxc6 bxc6 9.f4! dxe5 10.O-O O-O 11.Ng3 f5 12.Nd2 Qe7 13.Qe2 Nb6 14.Nf3 exf4 15.Bxg7 Kxg7 16.exf4 Qxe2 17.Nxe2(スロボドヤン対ファン・デル・シュテレン、ドイツ、1998年)白はポーン陣形に優っているので、收局で楽に少し優勢になる。

 2)4…Bd6 5.Nf3 e4 6.Nh4 O-O 7.O-O Be5 8.Bxe5 Nxe5 9.f4! exf3e.p. 10.Nxf3 Qe7 11.Nc3 d5 12.Qe1 c5 13.Qh4 Ng6 14.Qg3 c4 15.Nd4!!(ミハレフスキー対アブルーフ、ラマット・アビブ、1998年)白はf列で攻撃の可能性があるので少し有望である。この熱戦については『チェス新報』第72巻第1局のミハレフスキーの解説を参照されたい。

3…Nf6 4.Nf3

 より安全で本筋の手には 4.g3、4.Nc3 それに 4.e3 がある。ラーセンはいつものように恐れることなくもっと上を望んでいる。

4…e4 5.Nd4 Bc5 6.Nxc6 dxc6 7.e3 Bf5 8.Qc2

 この手の目的は私には分からない。展開の 8.Nc3 なら何の問題もない。

8…Qe7 9.Be2 O-O-O

 ここが勝負の分かれ目だった。黒は駒を効率的、積極的、そして好所に展開してきた。それでも白がここで普通に 10.Nc3 と指していたら、私には特に悪いところは見当たらない。たぶん黒はほんのわずか優勢だろう。たぶんいい勝負だろう。代わりにラルセンは展開を無視してキング翼を弱める過ちを犯した。そしてスパスキーに鮮やかに咎められた。

10.f4?? Ng4! 11.g3? h5 12.h3 h4! 13.hxg4 hxg3! 14.Rg1 Rh1!! 15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 白投了

 18.Bxf1 と取っても 18…Bxg4+ 19.Kc1 Qe1+ 20.Qd1 Qxd1# で詰まされる。黒の一連の決定的な手筋が決まったのは、白がクイーン翼の駒の展開を怠ったからである。

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2017年07月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(481)

「British Chess Magazine」2017年6月号(1/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

アレクサンドル・グリシュク – ヒカル・ナカムラ
2017年モスクワFIDEグランプリ第8回戦

18…Nf6

 白のc列での圧迫と黒のc7の出遅れポーンのために白には申し分のない代償がある。グリシュクの次の手は黒にこれらの問題をたった1手で解消させるので説明がつかない。

19.Ra6??

 19.Rac1 なら黒は長いこと苦しんだ。

19…c5

 この手は見つけにくい手だったのだろうか?

20.dxc5 Qc8

 チェスエンジンによれば 20…Rc7 の方が良かったが、実戦の手でも十分である。

21.Rc6 Rc7 22.Rxc7 Qxc7 23.c6 a5 24.Rc1 h6 ½-½

 黒にはパスbポーンができ、白は進展を図ることができない。

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(この号続く)

2017年06月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(247)

「Chess Life」1999年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局

 急に初手にナイト・ポーンを突いてみたくなったらどうなるだろうか。可能性としては4手考えられるが、一番良い手から一番悪い手の順でそれぞれざっと見てみることにする。

Ⅰ)1.g3

 良い布局の指し方は中央の支配を目指し、中央に向かって駒を展開し、キャッスリングによってキングを安全にすることから成る。1.g3 はこれらの目標すべてを助長し欠陥がないので、布局の完璧な5手の一つに入ることは確かである(ほかの4手は 1.e4、1.d4、1.c4 それに 1.Nf3)。

 1.g3 は消極的に見えるけれども次に 2.Bg2 と指せば白は中央の重要なe4とd5の地点を支配し、3.Nf3 のあとはキャッスリングの用意が整う。3.Nf3 の代わりに 3.c4 から 4.Nc3 と指せば中央への影響力をもっと増すことができる。1…Nf6 または 1…d5 に対し白がすぐに 2.Nf3 と指せば、レーティ布局か逆キング翼インディアンに移行する公算が大きい。したがって理論的に 1.g3 は融通性がありかつ欠点がないことが分かる。

 実戦例として独立した戦型を参考に供する。黒はすぐに …e7-e5 と …d7-d5 を突き、白はそう指させる。約80年前なら叱られた指し方だったろうが、今はより良く知られている。さらには時の流れでこれらの手順の理解が深まっている。『チェス布局大成A』の初版(1979年)では4行と16脚注だったが、1996年版では4行と24脚注になった。世界級の戦略家のGMローマン・ジンジハシビリは 1.g3 の第一級の実践者である。

キング翼フィアンケット布局 [A00]
白 GMラリー・クリスチャンセン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ローンパイン、1981年

1.g3 e5 2.Bg2 d5 3.d3 c6

 互角を目指す観点からは本筋の展開の 3…Nf6 が最善手である。コルチノイは本譜の手でそれ以上を得ようとしている。つまり中央で優位に立ちたいのである。それはともかくリバス対イリェスカス戦(スペイン、1993年)で指されたような 3…c5?! は指しすぎである。4.e4! Nf6 5.Nc3! d4 6.Nce2 Nc6 7.f4! Bd6 8.Nf3 O-O 9.O-O Bd7 10.Kh1 Rc8 11.c3! dxc3 12.bxc3 Bg4 と進んだとき、時機尚早の 13.d4? でなく普通に 13.Rb1 または 13.h3 と指していたら白が楽に優勢になっていた。

4.Nf3 Nd7 5.O-O Bd6 6.Nc3

 もちろん 6.c4 と黒の中央に挑むのも主眼の手である。代わりにクリスチャンセンは上述の仕掛ける方を選んだ。

6…Ne7 7.e4 d4 8.Ne2 h6 9.Nd2 Nb6 10.f4!

 d4の土台を切り崩す。

10…f6 11.fxe5 fxe5 12.c3! dxc3

 戦略的には気の進まない手だが、12…c5?! では 13.a4! と突かれて黒が白枡で弱くなる(13…a5 14.Qb3)。

13.bxc3 Be6 14.Nf3 O-O 15.Be3 Rf6 16.a4

 白の優勢は大きくはないが明らかである。中央での影響力に優り、クイーン翼で圧力をかけ、孤立eポーンを標的にしている。

16…Qc7 17.a5 Nd7 18.d4 Rd8 19.Qa4 Qb8 20.dxe5?!

 この正当な理由のない圧力解消で黒が互角にすることができた。終局までの手順は次のとおりである。

20…Nxe5 21.Nxe5 Bxe5 22.Nd4 Bf7 23.Qb4 Bd6 24.Qb2 Rxf1+ 25.Rxf1 Bc5 26.Kh1 b6 27.axb6 axb6 28.Bf4 Qc8 29.Nb3 Bd6 30.Bxd6 Rxd6 31.Nd4 Rg6 32.Nf5 Nxf5 33.exf5 Rf6 34.Qxb6 Rxf5 35.Rxf5 引き分け

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2017年06月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(480)

「Chess Life」2017年6月号(1/1)

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米国選手権戦

GMヒカル・ナカムラ(2867)
GMアレクサンドル・オニシュク(2747)
2017年米国選手権戦第9回戦、ミズーリ州セントルイス、2017年4月7日

 27.Nd2 の局面

27…Qf4

 オニシュクは複雑なクイーン翼ギャンビットで優位に立っているように見える。h列の支配、働きの良いクイーン、それに堅固な陣形のおかげで白の潜在的に強力な中央のポーンを十分に相殺している。しかしナカムラが証明するように事は全然明白でない。

28.e6! gxf5

 28…fxe6 と取るのは 29.fxg6 と取られてgポーン突きにどう守るのか非常に悩ましい。

29.exf7 Be6! 30.Rf1 Qxg4 31.Nf3

 白は駒の働きがポーンの代償になっている。

31…Rg2 32.d5 cxd5

33.Nxd5?

 これはナカムラらしからぬ失着だった。33.Qe5! Qg7 34.Rg1! は見つけづらい手だが、防御の難しい手でもある。白はfポーンの威力を生かしている。想定される手順は 34…Rxg1 35.Rxg1 Qxe5 36.Nxe5 Rf8 37.Nxd5!!

で、次の手順で分かるように白の代償はたんまりある。37…Bxd5(37…Nxd5 38.Nd7+! Bxd7?[38…Kc8 39.Nxf8 Bxf7]39.Rg8)38.Nd7+

33…Qg7! 34.Nc3 Qxf7

 黒はこの手で白の最後の望みを消し去り、2ポーン得である。以下はまだ難解だがオニシュクは優れた技術を見せつけた。

35.Qe5 Re8 36.Qd6 Qf8 37.Nb5 Qxd6 38.Nxd6 Rh8 39.Rh1 Rxh1 40.Rxh1 Rg8 41.Nd4 f4 42.Rh6 Bc8 43.Nxc4 Nd5 44.Kc2 Rd8 45.Rd6 Rxd6 46.Nxd6 Bh3 47.a3 Kc7 48.Ne4 a5 49.Nd2 b6 50.Kd3 Bg2 51.Nc2 Ne7 52.b4 a4 53.Nd4 Kd7 54.Ke2 Bd5 55.Nb5 Kc6 56.Nc3 b5 57.Kd3 Nf5 58.Nd1 Kd6 59.Nc3 Bc6 60.Nce4+ Ke7 61.Ng5 Kf6 62.Nge4+ Ke7 63.Ng5 Bg2 64.Nge4 Ke6 65.Nf2 Kd5 66.Nd1 Nd6 67.Nf2 Nc4 68.Nxc4 Bf1+ 69.Kc3 Bxc4 70.Nh3 Ke4 71.Kd2 Be6 72.Ng5+ Kd5 73.Nf3 Bg4 74.Nh4 Ke4 75.Ke1 Ke3 白投了


米国選手権4回優勝のGMヒカル・ナカムラはカルアナと共に決定戦進出にわずか半点及ばなかった

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2017年06月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(246)

「Chess Life」1999年6月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)(再掲)

 B2)ハイェス対カパブランカ(ニューヨーク、1916年)

5.e5

 この手から始まる手順はマカッチョン戦法に疑問を付す唯一の手段である。ハイェスの指し方は非常に現代風である。

 しかしカパブランカの考え方は違う。「私は 5.exd5 が最善だと思うが、本譜の手に賛成する考えは多い。しかし白が採用した戦型そのものには賛成が多いわけではない。」

 カパブランカはどちらの手順を批判しているのだろうか。実際のところハイェスは15手目まで完璧に指している。

5…h6 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3! Ne4 8.Qg4

 白の戦略は黒陣の黒枡の弱点と黒キングの不安定な位置とにつけ込むことに基づいている。現代の定跡では 8…g6 が黒の最善の受けと考えられている。カパブランカはキングの位置が悪くなっても黒枡をもっとよく支配できる別の手を選んだ。

8…Kf8 9.Bc1!?

 白は黒枡戦略を続けている。しかし現代の定跡ではすぐに 9.h4! c5 10.Rh3 と動いていくことによってしか明らかな優勢は得られないとしている。

9…c5

 カパブランカの解説「…Qa5 を見せて白の Ba3 を防いだ。白の直前の手がまったくの手損で、単に自陣を弱めただけであることが明らかになった。」

 彼の言っていることは誤りもいいところである。黒は互角にしたいならていねいに指さなければならない。

10.Bd3 Qa5?!

 ゲーザ・マローツィは 10…Nxc3 11.dxc5 Qa5 12.Bd2 Qa4 によってのみ黒が互角になることを望めるとやっとのことで見つけた。

11.Ne2 cxd4 12.O-O dxc3 13.Bxe4 dxe4 14.Qxe4 Nc6

 カパブランカはここでは非常に楽観視していた。「・・・黒の勝ち試合とはまだ言えない。しかし局面が優位に立っていることは確かで、その理由としてポーン得に加えて、白のeポーンが当たりになっている・・・」

 実際は白の展開の優位と黒キングの位置の悪さという動的な要因のために白がはっきり優勢である。

15.Rd1!

 この好手には目的がいくつもある。黒のクイーン翼の展開を妨げ、唯一の素通し列を占拠し、キング翼に転回する位置にいる。

 それなのにカパブランカは何もほめていない。「この手は戦略的には正しくない。というのは駒をクイーン翼に片寄らせることにより、黒の防御が完全に整う前に白が黒のキング翼に決然と攻撃を仕掛けることのできるかもしれない機会を失うからである。」しかし注意すべきはカパブランカが白の指し手の改良に何も触れていないことである。

15…g6

16.f4?

 白の手がおかしくなり始めたのはここからである。1907年(!)のドゥラス対オラント戦(カルロビバリ)で既に動的な指し方が現れていた。16.Bf4! Ne7(16…Kg7 は 17.Rd3 Nb4 18.Rxc3 Bd7 19.Rb3! Na6 20.Be3 Bc6 21.Qf4[黒枡戦略!]21…Qd8 22.Rd3 Qe7 23.c4![クロバンス対グリゴリアン、ソ連、1972年]で良くない。白が何の犠牲も払わずに陣地が広く駒がよく働いているのに対し、黒はf6とh6に弱点を抱えている。棋譜と解説は『チェス新報』第14巻第232局に載っている)17.Rd6! Nd5 18.Be3 Kg7 19.Qh4! Qc7 20.Rd1 b6 21.R1xd5! exd5 22.Qf6+ 白の攻撃が強力で、決まっているかもしれない。

 本譜の手の問題は白が展開のために1手損しているだけでなく、キング翼へのビショップの利きを損なっていることである。

16…Kg7 17.Be3?!

 カパブランカが白は 17.a4! から 18.Ba3 でビショップをよく利く斜筋につけるべきであると指摘しているのはどんぴしゃりである。

17…Ne7! 18.Bf2 Nd5 19.Rd3 Bd7 20.Nd4 Rac8 21.Rg3 Kh7 22.h4 Rhg8 23.h5

 この局面は判断が難しい。カパブランカは「白の攻撃は無いに等しい」と断言しているが、私には黒の指し手が難しいように思われる。しかしカパブランカは相手の以降の指し手に寛容で「25手目からはハイェスの快勝だった」と言っている。

 收局までの指し手を主にカパブランカの解説に基づいて記号を付けて挙げておく。

23…Qb4?! 24.Rh3 f5?! 25.exf6e.p. Nxf6 26.hxg6+ Rxg6 27.Rxh6+ Kxh6 28.Nf5+ exf5 29.Qxb4 Rcg8?! 30.g3 Bc6 31.Rd1 Kh5? 32.Rd6 Be4? 33.Qxc3 Nd5 34.Rxg6 Kxg6 35.Qe5 Kf7 36.c4 Re8 37.Qb2 Nf6 38.Bd4 Rh8 39.Qb5 Rh1+ 40.Kf2 a6 41.Qb6 Rh2+ 42.Ke1 Nd7 43.Qd6 Bc6 44.g4! fxg4 45.f5 Rh1+ 46.Kd2 Ke8 47.f6 Rh7 48.Qe6+ Kf8 49.Be3 Rf7 50.Bh6+ Kg8 51.Bg7! g3 52.Ke2 g2 53.Kf2 Nf8 54.Qg4 Nd7 55.Kg1 a5 56.a4! Bxa4 57.Qh3 Rxf6 58.Bxf6 Nxf6 59.Qxg2+ Kf8 60.Qxb7 Be8 61.Qb6 Ke7 62.Qxa5 Nd7 63.Kf2 Bf7 64.Ke3 Kd6 65.Kd4 Kc6 66.Qf5 黒投了

 最後に今回のちょっとした寄り道を拙著の『How to be a Complete Tournament Player』からのアドバイスを引用して締めくくりたい。「グランドマスターが口先だけでしたり言ったりすることを額面どおりに受け取ってはいけない。必ずチェスの棋理に合っていることを確認すること!

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2017年06月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(479)

「British Chess Magazine」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

ナカムラの不覚

 ナカムラは大会が始まってからずっとやや集中力を欠いていたようだった。しかしついに覚醒して本来のチェスを指し始めて対オニシュク戦では勝勢の局面になった。だが彼らしくもなく読み損じをして重大な結果を招くことになった。

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・オニシュク
2017年米国選手権戦第9回戦、セントルイス

 黒の31手目の手番でこの局面だった。

31…Rg2?!

 ここでは 31…R2h7 で局面を動的に均衡させておく方が良かった。

32.d5?!

 ナカムラは最善手の機会を逃した。実戦の手は白に取って重要な手だがナカムラの読みは正確さを欠いていたようである。

 32.Qe5! Qg7(32…Rf8 33.Qd6 Rxf7 34.Ne5 Qg8 35.d5! cxd5 36.Nxf7 Qxf7 37.Nxd5

白の勝つ可能性が非常に高い)33.Rg1 Qxe5 34.Nxe5 Rxg1 35.Rxg1 Rf8 36.Na4!

黒の問題は最下段の弱さのためにf7のポーンを取ることができないことである。36…b6 37.Rg6 Rxf7(37…Bxf7 38.Rf6)38.Nxc6+! 白はいずれ交換得になるがその前にまず重要なポーンを取る。38…Kc8(38…Kb7 39.Nd8+)39.Rg8+ Kd7 40.Ne5+ Ke7 41.Nxf7 Kxf7 42.Rg1±

これで白は勝つ可能性が十分にある。

32…cxd5 33.Nxd5?

 ここでもやはり 33.Qe5! が急所の手だが、効果は前の手の時より劣る。33…Qg7 34.Rg1 Qxe5 35.Nxe5 Rxg1 36.Rxg1 Rf8

が想定され

A)37.Ne2!? は変な感じの手だが 37…a6 38.Nd4 Ka7 39.Rg6 Bxf7 40.Rf6 Ne8 41.Rxf7(41.Rxf5 Nd6 42.Rf6 Ne4 43.Rxf7 Rxf7 44.Nxf7 b5

これは 41.Rxf7 の手順と似ている)41…Rxf7 42.Nxf7 b5 43.Nxf5 Kb6

チェスエンジンの形勢判断はまったくの引き分けだが、私には意外だった。しかしたぶん正しいのだろう。

B)37.Nxd5 Nxd5 38.Nd7+ Kc8 39.Nxf8 Bxf7 40.Rg7 Be8 41.Ne6

白は安全勝ちを目指して長いこと指すことができる。

33…Qg7!

 ナカムラの見落としたのはこの手だった。そして非常に高くついた。黒がすぐに負けないための手はこれしかないのだからなおさら意外である。さらに悪いことにはまったく形勢が逆転して勝ちにいくのは黒の方である。

 代わりに 33…Bxd5? なら 34.Rxd5 Nxd5 35.Qe5+、33…Nxd5? なら 34.Qe5+、33…Bxf7? なら 34.Nxc7 である。

34.Nc3 Qxf7 35.Qe5 Re8

 黒は2ポーン得で、優勢から最後には勝ちきった。もっとも白には負けを逃れる機会があった。まったくナカムラらしからぬ試合だった。


7局連続引き分けのナカムラ

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(この号終わり)

2017年06月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(245)

「Chess Life」1999年6月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)

 マカッチョン戦法はクラシカルの 3…Nf6 とビナベルの 3…Bb4 とを組み合わせたものである。私の考えではそのような交配がうまくいくことは滅多にない。それでもこの戦法は危険であり、白は布局定跡をよく知っていなければならない。カパブランカは著書の中で2局取り上げていて、1局は白で、もう一局は黒で指している。

 B1)カパブランカ対ズノスコ=ボロフスキー(サンクトペテルブルク、1913年)

5.exd5

 カパブランカ「この試合の当時は 5.e5 が主流だった。しかし私は本譜の手の方が強力だと考えていたし今でもそうである。」

 しかしなぜより強力なのだろうか。d5で交換することにより白は中央での優位を放棄し黒の白枡ビショップを自由にしてやっている。すなわち明らかな 5…exd5! のあと局面は交換戦法(3.exd5 exd5 4.Nc3 Nf6 5.Bg5 Bb4)に移行して、白の優位はほんのわずかである。終局までの手順は次のとおりである(形勢記号はカパブランカの解説を基にしている)。

5…Qxd5?! 6.Bxf6 Bxc3+ 7.bxc3 gxf6 8.Nf3 b6 9.Qd2 Bb7 10.Be2 Nd7 11.c4 Qf5 12.O-O-O! O-O-O 13.Qe3 Rhg8 14.g3 Qa5? 15.Rd3! Kb8 16.Rhd1 Qf5 17.Nh4 Qg5 18.f4 Qg7 19.Bf3 Rge8 20.Bxb7 Kxb7 21.c5! c6 22.Nf3 Qf8 23.Nd2? bxc5 24.Nc4 Nb6 25.Na5+ Ka8 26.dxc5 Nd5 27.Qd4 Rc8 28.c4?! e5! 29.Qg1 e4 30.cxd5 exd3 31.d6 Re2 32.d7 Rc2+ 33.Kb1 Rb8+ 34.Nb3 Qe7 35.Rxd3? Re2 36.Qd4 Rd8 37.Qa4 Qe4 38.Qa6 Kb8! 39.Kc1 Rxd7 40.Nd4 Re1+ 白投了

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2017年06月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(478)

「Chess」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

G.カームスキー – H.ナカムラ
ロンドンシステム、2017年米国選手権戦、セントルイス

1.d4 Nf6 2.Nf3

 カームスキーは旧来の手順に忠実である。今日では白はすぐに 2.Bf4 と指すことが多い。最近サイモン・ウィリアムズがチェスベース社から出した自分のDVDで扱ったのがこれである。

2…e6 3.Bf4 d5 4.e3 c5 5.c3 Nc6 6.Nbd2

6…cxd4

 この手は時機尚早でない。それは黒が次に関連した手を用意しているからである。しかし主流手順は 6…Bd6 7.Bg3 O-O であって、ここで 8.Bd3 なら普通だが最近は 8.Bb5!? が大流行で、黒がフィアンケットして速やかに展開を完了するのを防いでいる。

7.exd4 Nh5!?

 これはロンドン・チェスクラシックでのウェズリー・ソーの着想である。

8.Be3 Bd6 9.Ne5 g6 10.g4!?

 大胆な新手が出た。

10…Ng7 11.h4!

 黒のフィアンケットされたナイトとキング翼に対処するためにポーンを犠牲にする。

11…Nxe5 12.dxe5 Bxe5 13.Nf3 Bf6 14.h5

 既に白の狙いは重大になっていて、ナカムラは攻撃を受ける可能性のある方面にキャッスリングを余儀なくされた。

14…O-O 15.Qd2

15…d4!

 この判断は素晴らしかった。15…b6 だと 16.O-O-O Bb7 17.Bd4 となって黒キングの居心地があまり良くない。そこでナカムラは得したポーンを返して最後の駒を動けるようにしいくらか働くようにした。

16.cxd4

 16.Bxd4 e5! 17.Bc5 という変化もあるが、17…Bxg4 18.Bxf8 Bxf3! 19.Qxd8 Bxd8 20.Rh3 Nxh5 となって黒には交換損の代償が十分ある。

16…b6 17.hxg6 fxg6 18.Ne5 Bb7 19.Rh3 Rc8 20.Be2 Bg2 21.Rg3 Bd5 22.Rh3 Bg2 23.Rg3 Be4

 黒がキング翼で最悪の事態を乗り切ったのが明らかになった。しかし千日手を避けることはできても形勢は良いわけではない。

24.Rc1 Qd6 25.a3 Rxc1+ 26.Qxc1 Bxe5 27.dxe5 Qxe5 28.Qd2 Bd5 29.Bd4

 カームスキーがポーンを犠牲にした核心が明確になってきた。g7に逼塞(ひっそく)したナイトと比べて白の黒枡ビショップはモンスターになっていて、黒には全然有利さがない。

29…Qe4 30.f3 Qf4 ½-½

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(この号終わり)

2017年06月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(244)

「Chess Life」1999年6月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法

 時の流れで多くの評価が変わってきたことはほとんど驚くに当たらない。しかし特に印象深いのはわざわざ何の説明や証明もせずに戦法や手順について強く意見を言うことだった。何の証明も与えられていない技術的なことについての強い言明を受け入れることは誰にとっても非常に危険である。1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 という手順で始まるフランス防御の重要定跡から実戦例を3局紹介する。

 A)3…dxe4 4.Nxe4 Nd7 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6(C10)

 ルビンシュタイン戦法(3…dxe4)は黒が劣った中央を押しつけられる一方で白は小駒を働きの良い地点に展開できるので現在では人気がない。ここからはカパブランカ対ブランコ戦(ハバナ、1913年)の手順を追う。カパブランカはこの試合を「大局観に基づいた指し方の好例」と呼んでいる(彼の本の83ページ目)。

7.Ne5

 カパブランカはこの手を次のように解説している。「この手は才能のあるベネズエラのアマ選手のM.アヤラに初めて教えられた。目的はこの戦型で黒の通常の展開となる …b6 のあとクイーン翼ビショップをb7に展開するのを防ぐことである。

 しかしそれが唯一展開された駒をまた動かす理由になるのだろうか。答えは明らかに「いいえ」である。黒がほぼ互角に達するのに必要なことは普通に単刀直入に展開することだけである。布局大成(Encyclopedia of Chess Openings)C(1981年)では次の手順を載せて互角としている。7…Be7 8.Bg5 O-O 9.Bd3 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5

 最善手は意外でもなんでもなく展開する 7.Bd3! で、主手順は次のとおりである。7…c5 8.dxc5 Bxc5 9.O-O O-O 10.Bg5 h6 11.Bh4 Be7 12.Qe2 Qc7 13.Rad1 Rd8 14.Ne5(白は展開が完了してここで初めてこの手を指す)14…b6 15.Rfe1 Bb7 16.c4 中央がより広いのと黒のキング翼に対する圧力とで白が楽に優勢になっている(GMフォークトの1994年の解説による)。

 しかし実戦はカパブランカが次のように快勝した。

7…Bd6?! 8.Qf3 c6?! 9.c3 O-O 10.Bg5 Be7 11.Bd3 Ne8?! 12.Qh3 f5 13.Bxe7 Qxe7 14.O-O Rf6 15.Rfe1 Nd6 16.Re2 Bd7 17.Rae1 Re8 18.c4 Nf7 19.d5! Nxe5 20.Rxe5 g6 21.Qh4 Kg7 22.Qd4 c5 23.Qc3 b6?! 24.dxe6 Bc8 25.Be2! Bxe6 26.Bf3 Kf7 27.Bd5 Qd6 28.Qe3 Re7 29.Qh6 Kg8 30.h4! a6 31.h5 f4 32.hxg6 hxg6 33.Rxe6 黒投了

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2017年06月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(477)

「Chess Life」2017年4月号(1/1)

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トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMロバート・ヘス

二ムゾ・インディアン防御 (E21)
GMロマン・エドワール(FIDE2613、フランス)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2785、米国)
マスターズ、第10回戦、ジブラルタル、イングランド、2017年1月28日

1.d4

 この初手は全然驚くに当たらない。1.e4 も 1.c4 も指すエドワールは第9回戦で伝説のナイジェル・ショートにやや変わった二ムゾ・インディアン防御で快勝していた。しかしこの試合における彼の布局選択は郷愁に触発されたというよりも慎重さによるもののようだった。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 O-O 5.Bg5

 代わりに 5.e3 は意欲で劣っても堅実である。

5…c5!

 ナカムラは戦闘意欲満々だった。もちろん 5…d5(5…h6 も同様)は自然な手であるが、白は簡明に 6.cxd5 exd5 7.e3 と指すことができ、ここで 7…c5 は複雑化するが黒の好むたぐいの戦いではない。

6.Rc1

 エドワールはポーン戦よりも駒戦の方を選んだ。

6…h6 7.Bh4

 ビショップを切るのは何の得にもならない。7.Bxf6 Qxf6 で黒は悪くない。展開で先行しているので陣地が少し狭いのを適切に補っている。

7…cxd4 8.Nxd4 d5 9.e3?

 この悪手は即座にナカムラに咎められ黒の主導権が強大になった。代わりに 9.cxd5 は 9…exd5 で黒に孤立ポーンを生じさせる目的だが、黒は 9…g5!? 10.Bg3 Qxd5 ですきの多いキング翼を犠牲に駒の動きが良くなる。この手順が指されることは非常にまれなので、一定の評価が得られる前にはさらに実戦による検証が必要である。11.e3 は本筋の手だが黒にa2のポーンをかすめ取られる。このポーン取りの決断は白が展開を完了するのですぐに恐ろしいことになるかもしれない。自分のキングの周りが薄い時には駒をキングの近くに置いておきたいのが普通で、aポーンを取るのはこの過程をさらに遅らせることになる。戦力の不均衡は実戦的には下位者に有利に働く。白の作戦は黒の作戦よりもはるかに自然になる。もし黒がかっさらわなければたとえクイーン同士が交換になっても白陣の方が伸びすぎていない分優っている。徹底的な分析が必要であるが、この種の局面はナカムラならどちらを持っても指せると想像される。

9…e5 10.Nf3

 10.Nb3 とこちらに引くのは 10…g5 11.Bg3 Nc6 で良くない。アニシュ・ギリは2016年のタリ記念大会でリー・チャオを黒でこてんぱんにした。

10…d4!

 たった1ポーンの代価にナカムラは中央を打ち破った。世界最強の一人に白で立ち向かってたった10手で自分のキングに避難所が全然ないという事態を想像してみるとよい。

11.exd4 exd4 12.Nxd4?!

 戦力得だがキングが危険にさらされている時は、多くの場合クイーン交換を誘うのが賢明である。黒は交換を避けようとすると手数がかかることがある。12.Qxd4 Qe7+ 13.Be2 g5 なら戦いが続く。途中白があくまで 13.Qe3 と交換を迫ると、黒は 13…Qxe3+ 14.fxe3 Nxe4 と白のポーン陣形を乱して大満足である。c3で駒を取ることになれば白には3個の孤立ポーンが残される。15.Be7 をおとりにすれば話は別だが、それでも黒は駒の動きが非常に良く、白は互角を維持できれば幸運である。(ルークでチェックするのは第一感だが、黒は …g7-g5 と突くのに苦労することになる。例えば 12…Re8+ 13.Be2 Qe7 14.Qd2 g5[ほかの 14…Bg4 のような手はゆっくりしすぎている。白は 15.a3 と突き黒の攻撃は頓挫する。]なら 15.Bxg5 と取ることができ、白は千日手で引き分けにできるし、駒の代わりに3ポーンを得るのみならず永続する圧力をかけることもできる。いろいろな可能性を考え合わせれば 15…hxg5 16.Qxg5 Kh8 17.O-O のような手順は白として確かに不満でない。)

12…Qb6

 これはルークのためにd8の地点を空け、白駒をさらに不調和にさせる。既に思わしい手がないエドワールは一貫性のある方の手を選んだ。

13.Nf3

 13.Nb3 とこちらに引くのは良くない。それは駒は中央にある方が良いからではなく、クイーンがd1-a4の斜筋を通って逃げるのが制約を受けるからである。さらにはこのナイトは黒が …a7-a5-a4 と突いていってナイトを仮住居から追い払うのを助長するかもしれない。一方で 13.a3 突きは黒に有利な一連の交換を招く。というのは 13…Rd8 14.Bxf6 Qxf6 15.axb4 Rxd4 16.Qf3 Qxf3 17.gxf3 Nc6 となって白はポーン得を維持できないからである。

13…Rd8 14.Qc2

 エドワールのこの手も正着である。14.Qb3 ならナカムラには巧妙な応手があった。14…g5 15.Bg3 Ne4 16.Be2 Bf5 17.O-O で少なくとも読んでいる最中には白キングがうまく逃げたように見える。キングは確かにより安全な場所を見つけたが、クイーンはそうでない。17…Nc5! でクイーンの逃げ場がなく、白は女王を助けるために戦力損をしなければならない。

14…g5 15.Bg3 Nc6 16.Bd3

 残念ながら 16.Be2 は見え見えの 16…g4 でまずいことになり白がつぶれる。今度は …Nd4 という跳び込みがある。

16…g4

17.Nh4!

 この決断は賞賛に値する。というのは大多数はナイトを端に置くのを恐れるだろうからである。しかし 17.Nd2 だと 17…Qd4 を招きd列にとてつもない圧力がかかる。たとえ白が 18.Nde4 のような手で大きな戦力損を免れたとしても困難は残る。盤に駒を配置して分析してみるとよい。

17…Bf8

 このビショップはb4に長居しすぎた。f8に引っ込んでh6のポーンを守ったが釘付けを続けることはできた。考え方は正しかったがやり方が間違っていた。17…Ba5! がやはり …Nb4 を狙い、同時に黒ナイトがe4に行けるままである。想定される 18.Qb1 Qd4 19.Be2 Ne4 20.O-O は 20…Nd2 でクイーンとルークの両当たりになる。17…Ba5 には 18.a3 が必要かもしれないが、b3の地点がゆるんで黒ナイトがそこに行けるようになる。

18.Qb1 Re8+

 白は釘付けに耐えきれないのでキングをよろけさせる。

19.Kf1 Be6 20.h3?

 あんなに強防を続けてきたエドワールに失着が出たのは残念だった。この手が無能なルークのためにh列を開けようとしているのは分かるが、反動が厳しすぎた。白には 20.Nf5 という強手があった。次はe3に戻る。最良の防御は(一時的な)攻撃であることが時たまある。

20…Nh5 21.Ne4

 ここでの 21.Nf5 は前手のせいで白に回復不可能な害をもたらす。各所に地雷があり、面白い例を一つだけあげてみる。21…Nxg3+ 22.Nxg3 Ne5 23.Nd5 Bxd5 24.cxd5 Bc5 25.Ne4 Bxf2! 26.Nxf2 g3 27.Ne4 Nc4!!

これで白陣が壊滅する。

21…Nxg3+

 21…f5?! は勝利を目前にしてころりと負けるたぐいの余計な手である。そんな必要は全然ない。

22.Nxg3 Rad8 23.hxg4 Ne5 24.Be2

24…Bxg4?!

 24…Nxg4 なら白はビショップを切らなければならない。25.Bxg4 Bxg4 は黒の得点だが、それよりもずっと良い戦術があった。白の最下段につけ込む 24…Bxc4! 25.Rxc4(25.Bxc4 は 25…Nxc4 26.Rxc4 Rd2 27.Rf4 Qxb2

で最下段での詰みのために白クイーンが取られる)25…Nxc4 26.Bxc4 Qxb2!

がそれで、白は試合を長引かせるためだけにビショップをf7で切らなければならない。黒の戦力得がものを言うはずである。

25.Bxg4??

 この手は黒を勝たせたので大悪手記号を付けなければならない。25.f3 がはるかに頑強な手で、黒が勝ちへの明快な道筋を見つけるのは難しい。そもそもあるのだろうか。

25…Nxg4 26.Qc2

 26.Qf5 は必然を遅らせるだけである。例えば 26…Qd4 27.Qf3 Nxf2! 28.Qxf2 Qd1+! 29.Rxd1 Rxd1+ で簡単に黒の勝ちになる。

26…Bb4 27.c5

 27.Nf3 は受けになっておらず、27…Rd2 で白クイーンのf2への利きを遮断される。

27…Qa6+ 28.Kg1

28…Be1

 28…Re1+ の方が白の最下段を守る最後の駒を除去するのではるかに強力だった。しかしこの時点ではもう大した問題ではなかった。

29.Rh3

 29.Ne4 は 29…Rxe4 30.Qxe4 Bxf2# で詰みになる。

29…Bxf2+ 30.Kh1 Re1+ 31.Rxe1 Bxe1 32.Nf3 Nf2+ 33.Kh2 Nxh3 34.Nxe1 Ng5 35.Qc3 Qg6 0-1

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(この号終わり)

2017年06月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(243)

「Chess Life」1999年6月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略

 チェスの古典と見なされている本の一つはJ.R.カパブランカの『チェスの基本(Chess Fundamentals)』である。布局、中盤それに收局への貴重な洞察が豊富なのでまさしくそのとおりである。1921年に初版が出版され、1934年の再版ではカパブランカの序文が新しくなった(私の持っているのは1976年版である)。

 まぎれもなく名著である。カパブランカも気に入っていた。新しい序文では「・・・『チェスの基本』は今も13年前と同じく通用する。今から100年後も通用するだろう。・・・」と書かれていた。しかしチェスがいろいろある特徴の中でなかんずく科学であることを考慮すると、そのような主張はとても真実たり得ない。実際科学的な部分はこの13年間で既に大きく進歩していた。

 カパブランカの布局段階の扱いの中で二つの側面である基本原則と具体的な戦法を見てみることにする。

基本原則

 カパブランカは五つの原則について説明している。それらを書き連ねながら現代の知識に基づいて解説する。

 1.最も重要なことは駒を迅速に展開することである。

 これはかなり限られる。なぜなら白も黒も攻撃の速さが目標の布局定跡を選ばなければならないことを仮定しているからである。実際は布局の段階の全般的な目標は中盤戦のための用意をすることである。例えば閉鎖的な布局では駒の働きとポーンの配置が速度よりもはるかに重要である。

 2.戦力得するか動きの自由さを確保することが必須でなければ、展開が完了する前にどの駒も二度以上動かすべきでない。

 前半の部分は役に立つ原則である。問題は後半で、何が「必須」かは判断するのが難しい。このあと分かるようにカパブランカはこの原則を破ることをためらわなかった。

 3.1.e4 と 1.d4 以外の初手は大したことは達成しないので理論的にはこの2手のうち一つが最善のはずである。

 これはそのとおりではない。既に1934年までにレーティ布局(1.Nf3)が高級な初手としてしっかり確立していた。拙著の『良い布局の指し方(How to Play Good Opening Moves)』で論じたように、白の完璧な初手は 1.e4、1.d4、1.c4、1.Nf3 および 1.g3 の5手である。

 4.中央の支配は何よりも重要である。

 まったくもって正しい。

 5.ビショップより先にナイトを出せ。

 単純で役に立つ原則で、当てはまることは意外なほど多い。迷ったら従うことである。

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2017年05月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(476)

「British Chess Magazine」2017年3月号(2/2)

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シャールジャFIDEグランプリ(続き)

ディン・リーレン – ヒカル・ナカムラ
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Be7 5.Bf4

 后翼ギャンビットで問題を引き起こすことを試みるならこれが白にとって一番である。

 5.Bg5 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 だと黒にはタルタコーベル戦法の 7…b6 をはじめ楽しい選択肢がある(7…Ne4 ならラスカー戦法で、クラムニクは最古の 7…Nbd7 を最近採用した)。

5…O-O 6.e3

6…c5

 ナカムラはこれまでは 6…Nbd7 と指していた。しかしたぶん 7.c5 のあとの局面がまったく気にいってなかったのだろう。だから以前の主手順の 6…c5 を研究して後ろは振り返らなかった。

7.dxc5 Bxc5 8.a3 Nc6 9.Qc2 Qa5 10.Rd1

10…Re8

 旧手順の 6…c5 の復活に結びついたのがカルポフのこの着想である。

11.Nd2 e5 12.Bg5 Nd4 13.Qb1 Bf5 14.Bd3 Bxd3!

 カルポフは 14…e4? と指したが白は 15.Bf1! と指せばほとんど勝勢だった。

15.Qxd3 Ne4

 この手は良さそうである。黒はポーンを犠牲に代償を得ることになる。

16.Ncxe4 dxe4 17.Qxe4 Qb6

18.Rb1

 18.b4 なら 18…Bf8 と引いておけばよい。18.O-O なら 18…Ne2+ 19.Kh1 Qxb2 でナイトはc3を経由して逃げる。

18…h6!

 これはナカムラの新手だった。前例は 18…f6 で、黒は問題なかった。しかしナカムラの手は問題をもっと簡単に解決する。

19.Bh4 g5 20.b4

 20.Bg3 なら 20…Rad8! で …f5 突きを狙う。白クイーンはd5でチェックできず、空きチェックがあるのでd3へ下がれない。

20…Bf8 21.Bg3 Rad8

 やはり …f5 と突く狙いがある。

22.exd4 exd4 23.Be5 Bg7

 これで黒は犠牲にしたポーンを取り戻して互角になる。

24.O-O

 24.Nf3 Bxe5 25.Nxe5 Qc7 26.O-O Rxe5

24…Rxe5 25.Qd3 Qg6 26.Rb3 g4 27.c5 b6 28.cxb6 ½ – ½

 ナカムラの研究が素晴らしかった。

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(この号終わり)

2017年05月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(242)

「Chess Life」1999年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

スミスロフ対シー・ユン(コペンハーゲン、1997年)
8…Qe7

 これは黒の断トツの手で、まずナイトで白の黒枡ビショップを追い払うための中間駅としてd8を空け、そのあとはf8のルークの好所として用いる。

9.Re1 Nd8 10.d4 Ne6 11.Bc1 c5 12.a4 Rd8

 すぐに 12…Nc7 13.Bf1 Bg4 と指してもよいが、14.h3 には本筋でない 14…Bxf3?(スパスキー対シー・ユン、コペンハーゲン、1997年)でなく 14…Bd7 と指すべきところで、白がわずかに優勢だった。

13.Bf1 Nc7 14.h3 Bd7 15.g3 b5 16.Nh4! bxa4 17.Nf5 Bxf5 18.exf5 Ncd5 19.Ra3 Qc7 20.dxe5 dxe5 21.Qe2 Rab8 22.Bg5 h6 23.Bxf6 Nxf6

 23…gxf6? は 24.Qh5 で危険すぎる。しかし本譜の手のあと白のルークは非常に強力になる。

24.Qxe5 Qxe5 25.Rxe5 Rd2 26.Rxa4 Rxc2 27.Rxc5

 ここは勝負所である。黒は 27…Rb1! 28.Kg2 Rbb2 と指してf2の地点でチェックする手を狙わなければならず(スミスロフ)、十分引き分けにできる可能性があった。実戦は白が詰み狙いの攻撃にでることができる。

27…Rbb2? 28.Rc8+ Kh7 29.Rxa7 Rxf2 30.Rxf7 h5 31.Rff8 Kh6 32.h4 Rxf5 33.Bd3 黒投了

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2017年05月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(475)

「British Chess Magazine」2017年3月号(1/2)

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シャールジャFIDEグランプリ

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・グリシュク
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.Nf3 c5 2.e4

 ルイロペスのベルリン防御を避けるための工夫した手順。

2…d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 不滅のシチリア防御ナイドルフ戦法。今日では 1.e4 に対する黒の防御の二大支柱一つ(もう一つは言わずと知れたベルリン防御)。

6.Be3 Ng4

 これは依然として黒の有効な選択肢である。もっとも近年では 6…e5 の方がよく指されている。

7.Bg5 h6 8.Bh4 g5 9.Bg3 Bg7 10.h3

 10.Be2 と 10.Qd2 も重要な変化である。

10…Ne5

11.Nf5

 グリシュクは最近の対局で 11.h4 と指されたが 11…Nbc6 12.Nb3 g4 13.h5 Rb8 14.Be2 b5 とうまく応接し34手で勝った(M.バシエ=ラグラーブ(2804)対A.グリシュク(2737)、ドーハ、カタール、2016年)。11.Nf5 のあと白の手段が尽きてからは 11.f3 が主流手順になった。

11…Bxf5 12.exf5 Nbc6 13.Nd5 e6 14.fxe6 fxe6 15.Ne3

15…Qa5+

 この手は勝負手である。研究手順にとらわれずに迷宮に飛び込むグリシュクの勇気と自信には感服せざるをえない。変化としてはもっと穏やかな 15…O-O がある。

16.c3 Nf3+ 17.Qxf3 Bxc3+ 18.Kd1 Qa4+ 19.Nc2

 19.Kc1 は引き分けになるがその手順は長い。19…Bxb2+ 20.Kxb2 Qb4+ 21.Kc1 Nd4 22.Qh5+ Ke7 23.Bc4 Qc3+ 24.Kb1 Rhc8 25.Qxh6(25.Qd1 Rxc4 26.Nxc4 Qxc4 27.a3 Qb5+ 28.Ka2 Qc4+ 29.Kb2 Rc8 30.Ra2 Qb5+ 31.Ka1 Nb3+ 32.Kb2 Nd4+ 千日手)25…Rxc4 26.Qh7+ Kd8 27.Bxd6 Rb4+ 28.Bxb4 Qxb4+ これで千日手。

19…Bxb2 20.Rc1 Rc8 21.Bd3 Rf8 22.Qh5+

22…Ke7

 22…Kd7 と逃げる変化もある。

23.Qxh6 Bxc1 24.Re1

 この手は引き分けになるはずなので勝とうとした手とは言いにくい。しかしグリシュクが研究手順を思い出せないでいるのでどうでもいい。 24.Kxc1 なら 24…Nb4 25.Qxg5+ Rf6 26.Qg7+ Ke8 27.Qg8+ Kd7 28.Qg7+ Ke8 で引き分けになる。

24…Ne5 25.Rxe5

 25.Bxe5? はf2の地点が守られていないので良くない。25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+ 27.Kd2 Rxf2+ 28.Re2 Qc3+ 29.Ke3 Rf5 で黒が勝つ。

25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+

 26…Kd6 と 26…Rc5 も指されたことがありどちらも引き分けになるはずである。

27.Kd2 Rxc2+ 28.Bxc2

 興味深いことに通信戦ではここで合意の引き分けになった。彼らにとってはたやすいことで、チェスエンジンとデータベースに相談できるしエンジンが0.00を示すことがすぐに分かる。しかしグリシュクはすでに累加時間で指しており、一方ナカムラはここまで彼本来の速さで指していたのでほぼ100分(!)も多く時間が残っていた。グリシュクのブリッツでの手腕は伝説的だが、彼でさえ本局に見られるようにプレッシャーでつぶれることがある。黒の問題は白が千日手を避けてそれ以上のものを目指して指そうとすることができることにある。なにしろ白はキングがより安全だし、望めばほとんどいつでも強制的に千日手にできるので何も危険を冒さないで済む。

28…Qb4+ 29.Ke2 Qb5+ 30.Ke1 Qb4+ 31.Kf1

 これが要点で、白はキングを安全にするためにc2のビショップを犠牲にしてキング翼での進攻を開始する。

31…Qc4+ 32.Kg1 Qxc2 33.Qxg5+ Kf7 34.Qxe5

 一本道の手順がやっと終わった。そしてたとえチェスエンジンが0.00を表示しても、黒はまだその道筋を見つける必要がある。白のキング翼ポーンの進攻という単刀直入の作戦に対して時間に追われている中では容易なことではない。

34…Qd1+

 黒はポーンを取ることができた。34…Qxa2 35.Qh5+ Ke7 36.Qh7+ Rf7 37.Bd6+(37.Bh4+ は 37…Ke8 38.Qg8+ Rf8 39.Qg6+ Rf7 で千日手になる)37…Kxd6 38.Qxf7 Qb1+ 39.Kh2 Qe4! クイーンを中央に据えれば引き分けが確実なはずである。

35.Kh2 Qd5

 チェスエンジンは実戦の 36.Qc7+ を防ぐ 35…Qd7 の方が好みである。

36.Qc7+! Kg8 37.Be5 Rf7 38.Qc3

 39.Qg3+ を狙っている。

38…Kf8?!

 チェスエンジンにとってはわずかに不正確な手だが、人間にとっては大分不正確である。

 38…Rd7 の方が黒駒の連係がとれていて良かった。39.Qg3+ Kf8 40.Qg5 Qxa2! やはり白には千日手しかない。しかし黒がクイーンを中央の自キングの近くに置いたままにしたかったのは理解できる。

39.Qc8+ Ke7 40.f4

 黒は駒の連係の悪さで苦労している。f7のルークとe7のキングが邪魔し合っている。

40…Qc6 41.Qg8 Qe8?!

 41…Qd5 何もしないことがチェスエンジンのしたいことで、喜んで0.00と表示する。実戦の手の問題は黒駒の連係をさらに悪くすることである。

42.Qg3

 42.Qg5+! Kd7 43.h4 なら白が大いに優勢である。黒駒はまだぎこちなく白はgポーンとhポーンを突いていくだけである。

42…Kd8?!

 明らかに 42…Qd8 43.h4 b5 なら0.00だった。これを指摘するのはただ単に黒がコンピュータなら決して負けないのに人間ならほとんど確実に負けるということを示すためである。駒の連係の悪さと明快な作戦のないことが人間の指し方に深刻な影響を与え誤りなく指すのを不可能にさせる。

43.h4

 ポーンが進攻を開始した。

43…Rh7

 ルークは一度もキング翼の束縛から逃れることができなかった。今は白ポーンがh5に進むのを止めているが、それも長くは続かない。

44.Qg5+ Kd7 45.g4 Qc8

46.Qg6?

 勝利までもう一歩というところでナカムラは彼らしくもなくつまづいた。対局後に認めたところによると 46.h5 だと黒が千日手にできると読み違いをしていた。

 46.h5! Qc2+ 47.Kg3 Qd3+ 48.Kh4 Qf1 46.Qg6 でg5が空いて白の勝ちになる。

46…Rxh4+ 47.Kg3 Rh1!

 これでグリシュクは時間切迫でも引き分けを見つけることができる。

48.f5 Rg1+ 49.Kh2 Qc2+! 50.Kxg1 Qc5+ 51.Kg2 Qxe5 52.Qf7+ Kd6

53.Qf8+

 53.Qxe6+ Qxe6 54.fxe6 Kxe6 は引き分けのポーン收局である。

53…Kd5 54.f6 Qe4+

 白キングは周りが殺風景すぎて千日手が避けられない。

55.Kh2 Qxg4 56.Qg7 Qf4+ 57.Kh3 Qf5+ 58.Kh4 Kd6 59.Qg3+

 59.f7 は 59…Qf4+ 60.Kh5 Qf3+ で白キングが逃げきることができない。

59…Kd7 60.Qg7+ Kd6 61.Qg3+ Kd7 62.Qg7+ ½ – ½

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(この号続く)

2017年05月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(241)

「Chess Life」1999年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

ヤルタルソン対ラウシス(アイスランド、1996年)
8…Ne7

 クイーン翼ナイトは 9…Ng6 から 10…h6 で釘付けをはずすためにキング翼に向かう。白の応手はこれを妨げる。

D)9.Nh4! Ng6 10.Nxg6 fxg6 11.Bc4+ Kh8 12.f3!

 これは新構想である。白はeポーンとキング翼とを安全にしてから中央とクイーン翼で動くつもりである。もっと分かりやすい 12.f4 もいい手である。アダムズ対コルチノイ戦(マドリード、1996年)では 12…Qe8 13.fxe5 でわずかな優勢を保持した。

12…Qe7 13.Rb1 b6 14.d4 Be6 15.Qd3 h6 16.Bd2 c5?!

 この手はちょっとした不注意で、黒はb6の地点を永久に弱めた。白はすぐにこの機会に飛びついた。ヤルタルソンはキング翼をふさいで事の成り行きを見守る 16…g5 を勧めている。

17.Bxe6 Qxe6 18.a4! Rac8 19.d5! Qe8 20.Qa6 Rc7 21.a5

21…Qa4?

 この手が敗着になった。白に決定的なクイーン交換を許してしまう。21…Nd7! 22.c4 g5 23.g4! と慎重に守っておくところだった(ヤルタルソン)。

22.Qb5!

 22…Qxc2?? は 23.Rb2 で負けてしまうので黒は交換に応じなければならない。

22…Qxa5 23.Qxa5 bxa5 24.Rb5 Nd7 25.c4! a4 26.Ba5 Nb6 27.Ra1 Rb7 28.Rxa4 Rfb8 29.Bxb6 axb6

 本譜の手のあと黒は完全に動きを封じられて、白キングがb5に来るやいなや絶望の形勢になる。代わりに 29…Rxb6 ならヤルタルソンは 30.Rxa7 Rxb5 31.cxb5 Rxb5 32.Ra6 Rb2 33.Rxd6 Rxc2 34.Re6 c4 35.Rxe5 c3 36.Re8+ Kh7 37.Rc8 という確実な手順で白の勝勢になるとしている。詳しい変化は『チェス新報』第68巻第287局のヤルタルソンの解説を参照されたい。終局までの手順を以下に示す。

30.Kf2 g5 31.Ra6 Kg8 32.Ke3 Kf7 33.Kd2 Ke7 34.Kc3 Kd7 35.Kb3 Kc7 36.Ka4! Rf8 37.Rb3 g4 38.Kb5 h5 39.Rba3! h4 40.Ra8 Rf7 41.fxg4 Rf1 42.Rg8 Rb1+ 43.Ka6! Rb8 44.Rxg7+ Kd8 45.Ka7 Rc8 46.Kb7 b5 47.Rb3 黒投了

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2017年05月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(474)

「Chess Life」2017年3月号(1/1)

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マン島 次の一手

第4問
GMヒカル・ナカムラ
GMサビーノ・ブルネッロ

 白の手番

解答 51.Kd6 Nxd8 52.Kxd7 Ne6 53.Bb3 または 51…Ndc5 52.Bxb6! axb6 53.a7

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(この号終わり)

2017年05月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(240)

「Chess Life」1999年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5(再掲)

C)7…Be6

 この手は凡手ではないが、白のc3のナイトは黒のb4のビショップより価値があることを学んだところである。

8.Ne2! Ne7 9.c3 Ba5 10.Ng3 c6 11.Ba4 Ne8 12.d4

 白は中央で少し優位に立っているのと小駒の働きに優るので、通常の布局どおりの優勢である(ドゥラス対クプチク、ニューヨーク、1913年)。

D)7…Ne7

 d5の地点を過剰に守りナイトをキング翼に近づけることにより黒は 8.Nd5 の狙いから毒気を抜いた。この手は 7…Bxc3 8.bxc3 の交換と共に指されるのがほとんどである。バッハマン対マロン戦(ストックホルム、1930年)は別個の一例である。

8.Nh4 c6 9.Bc4 Ng6 10.Nxg6 hxg6 11.f4 Bc5+ 12.Kh1 Be3 13.Qf3 Bxf4 14.Bxf4 exf4 15.Qxf4 Qe7 16.Qg3

 中盤戦の始まりで白は中央での優位、半素通しf列での展望、それに黒の二重gポーンにより典型的な布局の優勢を得ている。

E)7…Bxc3 bxc3

 現代ではc3のナイトを取る手がほかのすべての手に取って替わった。黒の「不作為」黒枡ビショップを白の危険性のあるc3のナイトと交換するのは大いに意味があることが分かっている。同時に黒はただで何かを得ているわけではないことを理解していなければならない。白は局面が開ければ双ビショップの潜在力で優勢になれるし、bポーンがc3に移って中央が少し強化されたし、半素通しb列での展望もある。だから黒は用心しなければならない。最近の大会から2局を取り上げて主要な作戦を例示する助けとしたい。

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2017年05月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(473)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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2017年トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – ダビド・アントン・ギハロ
ジブラルタル・マスターズ、2017年2月2日

 黒陣は非常に堅固で、白が進展を図るには b4 と突くしかない。

23…Rb7

 黒は強いられてもいない時に後退を始めた。このような手の唯一の説明は恐怖心である。23…Rab8 なら b4 突きを防ぎ白をb3ポーンの守りに縛りつける。

24.Rb1 Be8

 この手は白に進攻させる。単純で直接的な最初の機会(23…Rab8)を逃したあと、ここではもっと複雑な先受けが必要だった。それは 24…Qe8! でa8のルークを守っておくことである。25.b4 axb4 26.axb4 Na6! という手順でそれが分かり、白には実戦の類似の手順中の 27.Ra3 がない。

25.b4 axb4 26.axb4 Nd7

 26…Na6 27.Ra3!

27.Nc4

 白はたった4手で着実に前進した。ここから白のやりたいことは Na5 でクイーン翼を固めたあとキング翼で f5、g4 などで前進を図ることである。

27…Nf8?!

 黒はまだ同じ調子で指し続け、事態の切迫を感じていない。27…exf4! が白のキングを少し弱め、白が f5 と突くとe5の地点を明け渡すことになるのでそれを防ぐ手段になる。黒はg列を心配したのかもしれないが、方策は十分にある。例えばコンピュータは白の手段は 28.gxf4 Nf8 29.Na5 Rba7 30.f5 しかないと言ってきかない。人間なら決して軽々しく指さない手である。その意図はf8のナイトに対する押さえ込みで、動ける枡がなくなっている。30…Qe5 31.Kh1 Kh8 32.Rg3 ナイトを出すためには黒は 32…g6 と突かなければならないが 33.fxg6 Nxg6 34.Rg1 となってナイトにはまだ圧力がかかっている(彼我のルーク同士を比べてみるだけでよい)。しかしそうではあってもこの方が黒にとっては実戦よりも良い。

28.Na5

 もう黒に …exf4 の機会を与えない意味で 28.f5 の方が正確だった。

28…Rba7

 28…exf4! と取れば 27…exf4 と取ったのと同じことになり、黒が局面の様相を変える二度目の機会だった。

29.f5

 白が押さえ込みにかかっている。

29…g6

 黒はようやく目が覚め、かく乱を図って絞殺を避けようとした。しかしすでに手遅れで、小さな疑問手を積み重ねてきた結果局面は非勢になっていた。

30.g4 h5

31.Bf3!?

 この手は黒にキング翼を閉鎖させる。しかしそれは実際は巧妙に隠されたわなだった。代わりに 31.gxh5 なら 31…g5 で、たぶんナカムラはそれを避けたかったのだろう。というのは 32.Rg3 Kh8 33.Qc1 Nh7 となると黒は当面は持ちこたえているからである。少なくともh7のナイトにはやることがある。それでも白は h4 突きとクイーン翼での作戦とを絡ませれば最終的には勝つはずである。

31…Qh7

 31…h4 32.Qf2 g5 は 33.Nc6! Bxc6 34.dxc6 で黒ナイトが永久に動けなくなるということがなければ黒が良い。実際は白が例えばビショップをd5に捌いたあとクイーン翼で進攻を始めれば黒が負ける。

32.Kh1 Qh6 33.Rc3

33…Nh7?!

 ナイトをh7に置くと白にキング翼を大きく破られる。代わりに 33…hxg4 34.Bxg4 Nh7 の方が弾力があり、35.Qf2 Ng5 36.Re3 Rb8 で黒はまだまだ戦い続けられた。

34.fxg6! Bxg6 35.gxh5 Bxh5 36.Qf2

 36.Bxh5 Qxh5 37.Rg1+ Kh8 38.Qf2 の方が黒にビショップ同士の交換を避ける機会を与えないので正確だった。しかし快速戦ではそのような細かい差異まで見通すのは困難である。

36…Bxf3+

 36…Bg6 が黒の最後のチャンスだった。もっともこれでさえ 37.Bg2 Ng5 38.Re1 Kg7 から …Rh8 の狙いに 39.Kg1! で白が大きく優勢で、a7のルークが浮くために黒はa8のルークを動かすことができず、例えば 39…Be8 には 40.h4± と突く。

37.Rxf3

 これで黒のキング翼は無防備である。ナイトとポーンが黒の両ルークをいかに麻痺させているかには驚くしかない。

37…Kh8 38.Rg1 Ra6

 白クイーンの利きからはずれた。しかし…

39.Qf1!

 それもつかの間だった。白クイーンはここからh3の地点もにらんでいる。

39…R6a7 40.Rh3 Qf4

41.Qe2

 41.Qg2! Qg5 42.Rg3 ならもっと速く勝っていた。

41…Rg8

 これは鮮やかな手筋を招いた。コンピュータによれば 41…f5 が絶対手で、42.exf5 c5 43.dxc6e.p. Qxb4 44.Nb7 という手順で白が勝つというが、人間には読めないし指せない。

42.Rxh7+! Kxh7 43.Qh5+ Qh6 44.Qxh6+ Kxh6 45.Rxg8

 あとは指さずもがなだった。

45…Ra6 46.Kg2 Rb6 47.Nc6 Ra6 48.Ne7 Ra4 49.Nf5+ Kh5 50.h4 Rxb4 51.Kh3 Rc4 52.Rh8+ Kg6 53.h5+ Kg5 54.Ng3 Rc3 55.Rg8+ 1-0

 自信のある方が勝った試合だった。これはナカムラの4度目の優勝で3連覇となった。この安定性は彼の棋風が同じ米国の超一流よりもオープン大会に向いていることの表れである。

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(この号終わり)

2017年05月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(239)

「Chess Life」1999年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5(再掲)

 4ナイト試合は1990年頃まで定跡としてほとんど忘れられたままだった。それからジョン・ナンに率いられたイギリスのGMたちの情熱と創造性のおかげで、グランドマスターの関心がよみがえり現在まで続いている。4…Nd4 は 5.Ba4 でも 5.Bc4 でもそのあとの乱戦が黒にとって容易に危険なものとなることがあるので、特効薬とはなり得ないことが分かっている。だから80年以上前のように黒の主手順はやはり次の手だと考えられている。

4…Bb4

 この手は白の手とちょうど同じように申し分のない手である。黒枡ビショップがすばやく展開して最下段が空いたのでキャッスリングが可能になり、このビショップはeポーンへの攻撃に間接的に関与している。

5.O-O O-O 6.d3

 6.Bxc6 dxc6! 7.Nxe5 に飛びつくのは何にもならない。7…Bxc3 8.dxc3 Qxd1 9.Rxd1 Nxe4 10.Bf4 Bf5 11.Nc4 Rfc8 12.Ne3 Be6 13.f3 Nf6 14.c4 Nh5 15.Be5 f6 16.Bc3 Nf4 17.Re1 Re8! で互角である(マイルズ対ユスーポフ、フローニンゲン、1992年)。

6…d6 7.Bg5

 白が次に 8.Nd5 と指せばf6のナイトが釘づけにされる。黒はこの狙いにどう対処するか決めなければならない。最悪から最善の順に5種類の黒の手を考えてみよう。

A)7…h6?

 最悪の手。黒はわざわざ1手かけて自分のキング翼を破壊させる。

8.Bxf6 gxf6

 8…Qxf6? は 9.Nd5 Qd8 10.Bxc6 bxc6 11.Nxb4 a5 12.Nxc6 Qe8 13.Nxa5 または 13.Ncxe5 で少なくとも黒の2ポーン損になる。

9.Nd5 Bc5 10.Nh4! Nd4 11.Bc4 Be6 12.c3 Nc6 13.Qf3

 黒のキング翼ががたがたで白がだいぶ優勢である。

B)7…Bg4?!

 黒は対称形を続けている。この手はたぶん見かけほど悪くはないけれども、それを信用して実際に指すGMはこれまでいない。

8.Nd5

 シュレヒター対レオンハルト戦(ハンブルク、1910年)では 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5 Bc5 10.Qd2 で白がうまくいった。

8…Nd4 9.Nxb4 Nxb5 10.Nd5 Nd4 11.Bxf6 gxf6

 しかしここで 11…Bxf3? と対称形を続けるのは 12.Qd2! gxf6 13.Qh6 Ne2+ 14.Kh1 Bxg2+ 15.Kxg2 Nf4+ 16.Nxf4 exf4 17.Kh1! Kh8 18.Rg1 Rg8 19.Rxg8+ Qxg8 20.Rg1 で黒の負けとなる。同じ狙い筋は黒の13手目の解説にも出てくる。

12.Qd2 Nxf3+ 13.gxf3 Bxf3

 『チェス新報』第58巻第348局のダニルクの解説によると 13…Be6? は 14.Qh6 Bxd5 15.Kh1! Kh8 16.Rg1 Rg8 17.Rxg8+ Qxg8 18.Rg1 で黒が負ける。

14.Qe3

 ダニルクは 14.h3!? のあと 15.Kh2 から 16.Rg1 と指す方が良いと指摘している。

14…c6 15.Qxf3 cxd5

 ここまではダニルク対リビン戦(ロシア、1993年)で、ここで単に 16.exd5 と指しておけば白が少し優勢(ダニルク)だった。

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2017年05月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(472)

「Chess」2017年2月号(4/4)

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次の一手

中級向け

第15問 H.ナカムラ – V.クラムニク
ロンドン・チェスクラシック、2016年
 黒番で引き分け

解答 1…Nf7!(1…Ke8? は 2.Ke5 Nb7 3.f6 Kf8 4.Kf5 Ke8 5.e7 Kf7 6.Ke5 で黒がどうしようもない手詰まりになり失敗)2.Kg6(白は黒をステイルメイトにするしかない。2.e7+ は 2…Ke8 3.Ke6 Nh6 のあと 4.f6 Nf7 でせき止められるか 4.Kd6 Nxf5+ 5.Kxc6 Nxd4+ で全面的な清算になる)2…Nd8 3.Kf6 Nf7! 4.exf7 ½ – ½

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(この号終わり)

2017年04月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(238)

「Chess Life」1999年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49]

 黒番では意欲的に指したくないなら相手の指す手をただまねしてみてはどうか。閉鎖的な布局では急戦よりもゆっくりした駒組みが普通なので魅力的な作戦になることがよくある。しかしこのやり方は 1.e4 に対しては実行が難しい。

 そもそも黒は対称になるように 1…e5 と応じなければならない。さらにその後は比較的開放的な局面になるので白は速攻する機会に恵まれる。これは黒が「自分のこと」をすれば良いというのでなく白の狙いをたえず警戒しなければならないということを意味する。過去100年以上の間黒が比較的長い間白のまねをすることができたまともな布局が一つだけあった。それが4ナイト試合である。本稿では次の手順を用いて最新の定跡の進展を紹介する。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6

 両者とも周知の「ビショップよりナイトを先に」という原則に従っていて、ナイトを最もよく働く地点に置いた。定跡および実戦におけるこの局面の重要性は、ぺトロフ防御(2…Nf6)がしばしば現れることによって高まっている。白が主手順(3.Nxe5 と 3.d4)を避けて 3.Nc3 と指した時黒は対称形の 3…Nc6 と指すしかない。

4.Bb5

 本譜の手で4ナイト試合が確定する。この布局は「慎重派のルイロペス」ともみなすことができる。白のeポーンを 3.Nc3 と守ってから初めて白枡ビショップをb5に出してe5の地点を間接的に攻撃した。これは白の圧力の強さがルイロペスよりも劣るということを意味するが、黒もある種の反撃の機会がなくなる。

 4ナイト試合の初期には黒の通常の応手は 4…Bb4 で、白が少しの優勢を保持した。しかし第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインの 4…Nd4 が白から4ナイト試合の楽しみのほとんどを奪い去った。一流選手たちは白枡ビショップをa4やc4に引くのは好結果をもたらすことができないと即断した。だから白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 と指すよりなく、ほとんど互角になった。

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2017年04月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(471)

「Chess」2017年2月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

 初戦に続き第6回戦の負けはナカムラにとって二度目の打撃だったに違いないが、立ち直りも早く翌日には同じ戦型で雪辱した。

H.ナカムラ – M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 Bb7

 バシエ=ラグラーブは自分もナカムラもこれまで得意としていた 13…g5?! を避けた。

14.Bg2

 盤上でも通信戦でも色々な手が試されてきた。しかしこの手以外で白が対角斜筋を争うことができるとは信じがたい。

14…Rc8

 誰が黒かを考えればこの手は研究手に違いない。しかしほかの作戦も探求されてきた。

 a)2013ロードスでの欧州クラブ杯のアゴポフ対パリサー戦で私は 14…g5!? と指し、15.f5(15.h4!? は2012年フランス団体選手権戦のナイディッチュ対グリイェフ戦で指されたが、15…gxf4 16.g5 Ne5 17.Qxf4 Nh5 18.Qd2 と進み、ここで黒が 18…Nc4 からナイトを働かせたら優勢だっただろう)15…e5 16.Nb3 Rc8 17.Qe2 h5! 18.h3 Nb6 となり好調だった。

 b)14…d5!? はナイドルフ戦法の狙い筋で、アゴポフ戦の解説で書いたように時間を使って読んだ。ナカムラが指させようとしたのにラグラーブが避けたのは白の研究を警戒したのだろう。しかし2013年通信戦でのシュプレーマン対ロシェ戦では 15.e5(15.exd5 Nxd5 16.Nf5 が必殺のように見えるが実際は 16…Rc8! 17.Nxe7 Kxe7 で黒は大して悪くない)15…Ne4 16.Nxe4 dxe4 17.Qe2 Nc5 18.Kb1 Na4! 19.Be1(19.Bxe4? には 19…Bxa3!)19…O-O 20.h4 Rfd8 で黒がクイーン翼で白に対抗できた。

15.Kb1

 15.h4!? には 15…e5! と突かれ 16.Nf5?! に 16…Bxe4! と来られる。しかし本譜はキングが少し安全になったので今度こそhポーン突きがある。

15…g5

 急所の反発で、2手前よりもはるかに良いタイミングと思われる。

16.Qh3!?

 2016年テプリツェでのカンマザルプ対ソロドブニチェンコ戦では 16.f5? e5 17.Nb3 Nxe4! 18.Nxe4 Qxc2+ 19.Ka2 Bxe4 20.Qxe4 Qxf2 21.Rhf1 Qb6 となって白は2ポーンの代償が十分でなかった。一方 16.h4 はほとんど通信戦の世界でだけ試されてきた。本筋と思われるのは 16…Rg8(16…gxf4 17.g5 Ne5 18.Qxf4 Nfd7 19.Bf3 は盤面を支配している白が少なくとも少し優勢のはずである)17.hxg5(17.fxg5 Ne5 18.Qf4 hxg5 19.hxg5 Nfxg4 20.Bh4 Qd8 21.Nf3 Qb6 22.Nxe5 Nxe5 23.Bf2!? も指されていて、gポーンをくれてやって代わりに黒キングに対し長期に圧力をかける)17…hxg5 18.f5 e5 19.Nb3 で黒が戦術的にうまくいかなくなっていた。2014年通信戦でのモロゾフ対V.ポポフ戦は以下 19…Nxe4? 20.Nxe4 Qxc2+ 21.Ka2 Bxe4 22.Qxe4 Qxf2 23.Rc1 Rxc1 24.Qa8+ Bd8 25.Rxc1 Ke7 26.Rc8 と進み、白の大駒と白枡での攻撃が強力すぎる。しかし 19…a5! 20.Qe2 Bc6 がいくらか改良手順でこれまでのところ黒がだいぶ健闘している。

16…Nc5?

 これはバシエ=ラグラーブが愛用のナイドルフ戦法で研究負けした本大会2度目の不運な新手だった。

 16…Rg8? 17.e5! dxe5 18.fxe5 Nxe5 19.Bg3 Bxg2 20.Qxg2 は黒にとって非常に怖い(E.モスカレンコ対V.ポポフ、通信戦、2013年)。しかし退却気味の 16…Nh7! が通信戦で選ばれた手で、これまでのところ4局全部で引き分けになっている。黒は単にh列から圧力を抜き去り、17.f5(17.e5!? Bxg2 18.Qxg2 gxf4 19.exd6 Bxd6 20.Rhe1 Be5! は列を比較的閉鎖的なままにして黒にとって問題なさそうだし、17.Qxh6?! Bf6 18.Nxe6? fxe6 19.Qg6+ Kd8 20.Bd4 gxf4 は何も恐れるところがない)17…e5 18.Nb3 Nhf6 19.Rhe1 a5 は黒の反撃がちょうどいい時に始まる。

17.Rhe1

 この手はe4のポーンを守り、e4-e5 突きと Nf5 を準備し、17…gxf4 18.g5! Nfd7 19.g6 となることを期待している。

17…h5

18.Nf5!

 ナカムラはやらずにいられなかった。だが 18.fxg5!? Nxg4 19.Bg3 Ne5 20.Rf1 で白駒の陣容を良くする方がはるかに強力だったかもしれない。

18…Ncxe4

 明らかにこれが黒の当てにしていた手だった。黒が危機を脱するわけではないがほかに何があるだろうか。例えば 18…exf5 は 19.exf5 Bxg2(19…Nxg4 20.Bd4 f6 21.fxg5)20.Qxg2 gxf4 21.g5 Rg8 22.Bd4 Kd8 23.Bxc5 Qxc5 24.Qe2 となって、駒の見返りに白の主導権がとてつもなく大きくなり始める。

19.Bxe4 Nxe4 20.Bd4 Rg8 21.Nxe7

 急所の守り駒を取り払い黒の困難さを際立たせた。

21…Kxe7

 黒は 21…hxg4 22.Qxg4 Nxc3+ 23.Bxc3 Qxe7 といきたいところだが 24.Bb4! で具合が悪く 24…Rc6 には 25.h4 と来られる。

23.gxh5 gxf4 24.Qh4+ Kf8 25.Ka1 b4

25.Nxe4

 これでも十分だが 25.h6! の方がはるかに強烈だっただろう。25…bxc3 26.h7 e5 27.hxg8=Q+ Kxg8 28.Qh6 で黒キングの裸が命取りになる。

25…Bxe4 26.Rxe4 Qxc2 27.Ree1

 27.Rde1! bxa3(27…Rg2 28.Rxe6!)28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 なら完全に黒を粉砕していたというのがシリコンのご託宣である。しかしやはりナカムラが全部台無しにしたということではない。

27…bxa3

 27…Rg2 28.Qxf4 e5 という変化は白の駒得が最終的に物を言い 29.Qh6+ Kg8 30.Rc1 Qf5 31.Rxc8+ Qxc8 32.Rc1 Qd7 33.Bf2 bxa3 34.bxa3 となる。

28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 Rg5!

 バシエ=ラグラーブは手の見えるのが何よりも取り柄である。白がルークを取れば千日手になる。

30.Qxd6+! Kg8 31.Rg1 Qa4+ 32.Ba3

 32.Kb1!? Qc2+ 33.Ka2 Qa4+ 34.Qa3 Qxa3+ 35.Kxa3(白がクイーンをa3に引き戻す前にキングを移動させたのはこのためだった)が強手だった。

32…Rxg1?

 白を勝たせてしまった、それも格好良く。32…Kh7! 33.Rxg5 Rd8 ならまだ戦いが続いただろう。またしても黒クイーンはタブーで、代わりに 34.Rg7+! Kh6 35.Rd4 Qxd4+ 36.Qxd4 Rxd4 37.Rxf7 Kxh5 38.Bb2 なら白の勝勢のはずだが、技術的に難しい課題が少し残っていることも明らかである。

33.Rxg1+ Kh7 34.Qd3+ Kh6 35.Rg6+! Kxh5 36.Rg1 f5 37.Qf3+ 1-0

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(この号続く)

2017年04月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(237)

「Chess Life」1999年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

アリョーヒン防御 4…g6 戦法 [B04]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第13局、1972年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 この番勝負までフィッシャーはアリョーヒン防御を5回(1970年パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナルでの3回を含む)採用していたが、相手はいつも世界級の棋力よりずっと下だった。スパスキーにとってこの防御のために特に準備する特別な理由はなかった。

 4ポーン攻撃(4.c4 Nb6 5.f4)はアリョーヒン防御を「咎め」ようとする昔からの手法だったが、特段の成果がなかった。だから1972年当時はすでに本譜の手が現代式の手法になっていた。白は少し陣地が広いので指しやすくなり、黒にはこれといった反撃の糸口を与えない。

4…g6

 フィッシャーは既にこの二流の戦型をブラウン対フィッシャー戦(ロビニ/ザグレブ)で用いていて、大激戦の末98手で引き分けに持ち込んだ。本局でも意図した効果がいかんなく発揮された。スパスキーは対策を用意しておらず意表を突かれた。次のアリョーヒン防御(第19局)ではフィッシャーは通常の 4…Bg4 に戻った。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7 7.Nbd2?!

 黒の6手目の局面は1972年当時はそれほど分析されていなかった。それでも実戦のぎこちない手はスパスキーも気にいっていないはずだった。現代の布局定跡によると白の最も効果的な手法は、まず 7.a4 a5 と突き合ってから 8.Qe2 で作戦の用意をするか 8.Ng5 ですぐに作戦を始めるかである。

7…O-O 8.h3?!

 白の前手の唯一理にかなった点は、黒の …Bg4 に白が h2-h3 と突きf3で切ってきた時にナイトで取り返すことである。だから本譜の手は 7.Nbd2 の意図を否定している。通常の 8.O-O が適切だった。

8…a5! 9.a4?!

 黒はキング翼の展開を完了したあと、白のキング翼ビショップの位置につけ込もうとしてクイーン翼で動き出した。スパスキーの「手拍子」の応手でaポーンが弱点になった。代わりに 9.c3、9.a3 あるいはたぶん 9.Nc4 でもまだましだった。

9…dxe5 10.dxe5 Na6! 11.O-O Nc5 12.Qe2 Qe8

 この手に 13.Qb5? は 13…Qxb5 14.axb5 Bf5 から 15…a4 で受けにならないので、白はaポーンを取られるのを避けられない。

13.Ne4 Nbxa4 14.Bxa4 Nxa4 15.Re1 Nb6 16.Bd2 a4 17.Bg5 h6 18.Bh4

 白は完全に1ポーン損になっている。白の希望は黒陣に食い込んでいるeポーンのせいで中央が少し広い優位が将来のキング翼攻撃の根幹を成すことである。黒が断固とした指し方を続けていけば、白のチャンスはほんのわずかだと思う。18…Bd7 や 18…Be6 が良さそうである。残念ながら第7局のようにフィッシャーの指し方は真剣さが足りなかった。その結果としてこの番勝負の最長手数となり波乱万丈の内容となった。スパスキーが69手目でポカを出したので黒がようやく勝った。完全な解説は『チェス新報』第14巻第165局か数ある対局集のどれかを読んで欲しい。残りの指し手を解説記号付きで掲げる。

18…Bf5?! 19.g4!? Be6?! 20.Nd4 Bc4 21.Qd2 Qd7 22.Rad1 Rfe8 23.f4 Bd5 24.Nc5 Qc8 25.Qc3? e6 26.Kh2 Nd7 27.Nd3 c5 28.Nb5 Qc6 29.Nd6 Qxd6 30.exd6 Bxc3 31.bxc3 f6 32.g5 hxg5?! 33.fxg5 f5 34.Bg3 Kf7?! 35.Ne5+ Nxe5 36.Bxe5 b5 37.Rf1 Rh8?! 38.Bf6! a3 39.Rf4 a2 40.c4 Bxc4 41.d7 Bd5 42.Kg3 Ra3+ 43.c3 Rha8 44.Rh4 e5! 45.Rh7+ Ke6 46.Re7+ Kd6 47.Rxe5 Rxc3+ 48.Kf2 Rc2+ 49.Ke1 Kxd7 50.Rexd5+ Kc6 51.Rd6+ Kb7 52.Rd7+ Ka6 53.R7d2 Rxd2 54.Kxd2 b4 55.h4! Kb5 56.h5 c4 57.Ra1 gxh5 58.g6 h4 59.g7 h3 60.Be7! Rg8 61.Bf8 h2 62.Kc2 Kc6 63.Rd1! b3+ 64.Kc3 h1=Q! 65.Rxh1 Kd5 66.Kb2 f4 67.Rd1+ Ke4 68.Rc1 Kd3 69.Rd1+?? Ke2 70.Rc1 f3 71.Bc5 Rxg7 72.Rxc4 Rd7! 73.Re4+ Kf1 74.Bd4 f2 白投了

 結論 アリョーヒン防御の 4…g6 戦法は今でも通用する。

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2017年04月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(470)

「Chess」2017年2月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第6回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6

 遅延毒入りポーン戦法は相変わらず 6.Bg5 の試金石となっている。b2を間接的に守るカルアナの応手は最高峰のレベルでは普通の選択である[訳注 9.a3 Qxb2?? 10.Na4]。

9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4

13…g5?!

 このような局面ではよくある着想で、白のキング翼のポーンの形を破壊しe5の地点の支配をもくろんでいる。しかしここでの黒陣には荷が重すぎたかもしれない。代わりの手は 13…Bb7 だが、次の回戦のナカムラ対バシエ=ラグラーブ戦で分かるようにそれでも黒にとってほとんど安泰とはいかない。

14.h4 gxf4 15.Be2 b4!?

 新手だが、互角にするのに十分というわけではない。代わりに 15…Rg8 は2016年スタバンゲルでのギリ対バシエ=ラグラーブ戦の手で、本誌2016年6月号の12ページに出ているように 16.g5! hxg5 17.hxg5 Rxg5 18.Rh8+ Rg8 19.Rxg8+ Nxg8 20.Qg2 Ngf6 21.e5! が 21…Bb7 22.Nxe6! の一発に基づいたきわめて危険な手だった。

16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5

 これが黒の読み筋だった。しかしカルアナは次の手をかなり速く指した。彼はあとで 21.Nf5 から先の局面は見えていたが、これまで見た黒の「最も惨めな局面」の一つなのであまり読んでいなかったと明かした。

19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5

 オーレ!チェスエンジンはこの手の強力さが分かるのにしばらく時間がかかるかもしれないが、クイーンの犠牲はこの上ない強手だった。白のナイトが盤の中央を支配し、黒キングはどこへ隠れるのだろうか。

21…Rb8?

 黒は白ナイトの一つを消しておかなければならなかった。21…Bxf5 22.Bxf5 Rb8 で黒は陣形が悪くてもまだまだ戦える。

22.Nxf6+ Qxf6 23.Rxd6

 悪い手ではないが白はここできれいな勝ちを逃していた。23.Nxd6+ Kf8 24.Bf5!! この軽妙手でf列が長く閉鎖されたままになるので、白がf列を支配し黒を完全に受け無しにする。例えば 24…Rg8(24…Bxf5 なら 25.Nxf5 Rd8 26.Rxd8+ Qxd8 27.Bc5+ Ke8 28.Ng7+ Kd7 29.Rd1+

と単純化して白勝ちの收局になる)25.Bc5 Be6 26.Rhf1 Kg7 27.Bxe6 Qxe6 28.Nf5+ Kh7 29.Rd6

でh6へのX線が決め手になる。

23…Be6 24.Rhd1

 カルアナは中央志向の方針を信頼した。しかし 24.Be3!? で 24…h5 25.Bg5 Qg6 26.Rhd1 から詰みを狙った方がずっと強力だったかもしれない。

24…O-O 25.h5!

 黒キングはg8にいてさえ安全とはほど遠い。白のこの手は誰が黒枡の支配者かを黒に思い起こさせている。

25…Qg5+?

 黒はg4のビショップを取るわけにいかないのでこの手はやけくその感じがする。しかしそうは言ってもマシンのように 25…Rfe8! 26.Bh4 Qh5 と卑屈に指すことのできる人間がどれだけいるだろうか。

26.Be3 Qf6 27.Nxh6+ Kh8 28.Bf5

 ここで初めてビショップがf列を閉鎖した。28.Nxf7+ Rxf7 29.Rxe6 も相当強力だっただろう。

28…Qe7? 29.b5?!

 カルアナはこの手に 29…axb5 と取ってくればその時こそf7に切り込むつもりだったに違いない。しかしすぐに 29.Nxf7+! Qxf7 30.Rxe6 Qxh5 31.Rh6+ Qxh6 32.Bxh6 とやっていけば2ビショップがとてつもなく強いので、なぜこう指さなかったのか不可解である。

29…Qe8?!

30.Nxf7+!

 ついにやった。30…Bxf7 と取ると 31.Rh6+ Kg8 32.Rg1+ で黒キングがたちまち処刑される。

30…Rxf7 31.Rxe6 Qxb5 32.Rh6+ 1-0

 32…Kg8 33.Rg1+ Rg7 34.Be6+ Kf8 35.Rh8+ Ke7 36.Rxg7 Kxe6 37.Rh6# で一巻の終わりである。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2017年04月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(236)

「Chess Life」1999年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第11局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Nb3 Qa3 10.Bxf6! gxf6 11.Be2!

 白の10手目と11手目は局面に対する主眼の正しい手段である。fポーンを二重にさせることにより黒のキング翼に根本的な弱点を生じさせ、キング翼ビショップはh5に行ってf7の地点に狙いをつける用意をしている。これらの要素に白の展開の優位(展開している小駒が白の3個に対し黒は無し)が加わって白には犠牲にしたポーンの代償が楽々とある。

11…h5

 すぐに白のキング翼ビショップをh5の地点に来させないようにするのは要を得ている。しかし 11…Nc6 と展開するのも同じくらい良い手である。重要な実戦例はショート対カスパロフ戦(世界選手権戦第4局、1993年)で、12.O-O Bd7 13.Kh1 h5 14.Nd1 Rc8 15.Ne3 Qb4 16.c3 Qxe4 17.Bd3 Qa4 18.Nc4 Rc7 19.Nb6 Qa3 と進み、ここでカスパロフは実戦の 20.Rae1?! の代わりに 20.Qe3 Ne7 21.Nc4 Nd5 22.Qa7 の方が良く「代償があった」と指摘した。もちろん白は 20.Nc4 Qa4 21.Nb6 と指せば引き分けにもできる。

12.O-O Nc6

 黒はショート対カスパロフ戦(リガ、1995年)のように 12…Nd7 と指してもよく、13.Kh1 h4 14.h3 Be7 15.Rad1 b6 16.Qe3 Bb7 17.f5 Rc8 18.fxe6 fxe6 19.Bg4 Qb2! 20.Rd3 f5! 21.Rb1 Qxb1+ 22.Nxb1 fxg4 23.hxg4 と進んで混戦ながらいい勝負だろう。

13.Kh1 Bd7 14.Nb1!

14…Qb4?!

 後に 14…Qb2! が良く白は 15.Nc3 と手を戻すよりないと結論づけられた。それなら黒は 15…Qa3! と引き白にまた態度を決めさせる。勝つために最も有望なのは 16.Qe3 である。タリ対ブラウン戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)で白はすぐに 14.Qe3 と指した。このねじり合いの局面はいい勝負である。紆余曲折を経てその試合は43手目で引き分けに終わった。

15.Qe3 d5?

 黒はクイーンが困難に陥っていると認識していた。しかし実戦の手はうまくいかず黒は盤上至る所で弱点を抱えてそれに対する見返りがなかった。ここでは 15…Ne7 と指さなければならなかった。

16.exd5 Ne7 17.c4 Nf5 18.Qd3 h4 19.Bg4!

 これで見え見えの …Ng3+ が防がれ、黒陣は風前の灯火である。試合は次のように終わった。

19…Nd6 20.N1d2 f5?! 21.a3 Qb6? 22.c5 Qb5 23.Qc3 fxg4?! 24.a4 h3?! 25.axb5 hxg2+ 26.Kxg2 Rh3 27.Qf6 Nf5 28.c6 Bc8 29.dxe6 fxe6 30.Rfe1 Be7 31.Rxe6 黒投了

 結論 野心的なフィッシャー毒入りポーン戦法は現在でも通用し、9.Nb3 の変化に対する彼の手法も同様である。

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2017年04月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(469)

「Chess」2017年2月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック

H.ナカムラ – W.ソー
第1回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3

 グリューンフェルト防御はナカムラにとって意外だったかもしれない。しかし黒が引き分けでも大満足な時にわざわざクイーン翼ギャンビット拒否を指さなければならない理由は何もない。おまけにグリューンフェルト防御は昔からソーの得意戦法の一つだった。そしてベイクアーンゼーではエリヤノフ相手に、「究極の手」コンテストでは当のナカムラ相手に連採していた。2016年セントルイスでのナカムラ対ソー戦(ブリッツ)でははるかに激しい戦型になり 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.Nb5 Qd7 11.Kb1 Rd8 12.d5 a6 13.Nc3 Qe8 14.Qc1 Na5 15.h4 と進んで、既に白が突撃ラッパを吹き鳴らし勝ちきった。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3 c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2

 アナトリー・カルポフは白番で中央を完全に支配したままにするこのようなシステムを好んでいた。ここで黒の一番よく指される手は 9…Qa5 で、クイーン同士の交換になるかもしれない。しかしソーの好んだはるかに一般的でない手は、時にアーナンド、スビドレル、それにバシエ=ラグラーブによって用いられた変化でもあった。

9…e5!? 10.d5

 ここは勝負所のような感じだが、ナカムラは結構早く指した。2016年ビールでのスビドレル対バシエ=ラグラーブ戦(快速)では 10.dxe5 Qxd2+ 11.Kxd2 Rd8+ 12.Kc2 Bd7 13.f4 Bc6 と進み 14.Bd3?? には 14…Ba4+! があるので黒がポーンを取り返すことができた。

10…Nd7 11.c4!?

 この手は新手だが、生中継の観戦者たちはまだ両者の研究範囲なのかと疑っていた。以前は 11.Bd3 f5 12.Bg5 Nf6 13.c4 が指されていたが、ストゥパク対ライロ戦(スービック湾、2016年)では 13…fxe4 14.Bc2 Bf5 15.Ne2 h6 16.Be3 Ng4! 17.h3 Nxe3 18.Qxe3 Bf6 と進んで黒には何の問題もなかった。

11…f5 12.Bg5 Nf6

 黒の直前の2手は筋道立った手で、白は 13.Bd3 と指してストゥパク対ライロ戦に戻るしかないように思われる。しかしナカムラはまだ早指しを続けていて、早すぎるほどだった。

13.Ne2?? Nxe4!

 これは初歩的な手筋で、ナカムラはいったい何を見損じたのだろうか。明らかなことは彼の研究に穴があったに違いないということだけである。

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1 b6 18.Bb4 Ba6

 白はなんとかポーンを取り返した。しかし朗報はここまでである。黒は双ビショップを保持し、陣形的に優り、それにキングがはるかに安全である。最高峰のチェスでは試合はもうほとんど終わっていて、あとはナカムラの味わったに違いない苦悩を想像することができるだけである。

19.f4 Rc8

 白の最大の弱点であるc4に目をつけているが、20.c5 と突いてくれば 20…Rd7 21.d6 bxc5 22.Rxc5 Re8 と強引にe列に転じる用意がある。

20.fxe5 Bxe5 21.Rf3 Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4

 白は突破口を見出そうとしているが、自陣が撃破された。

23…Rd7 24.a4 Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8! 29.Bb4 Re8 0-1

 確かに異色ビショップなのだが、長くは続かない。だから早すぎる投了でなかったのは確かだ。30.Rxe8+ Kxe8 のあと 31.Bd2 でビショップ交換の3ポーン損の收局になるのを避けることができる。しかし 31…Re4+ 32.Kf2 Re2+ で結局ビショップ同士がなくなる。


ヒカル・ナカムラは同国の2選手に手痛い敗北を喫したが、それでも立派な’+1’で終えた

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(この号続く)

2017年04月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(235)

「Chess Life」1999年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 本誌1998年4月号では1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の布局を回顧する手始めとして、1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局を取り上げた。今回は 1.e4 に対するフィッシャーの黒番の最初の3局を取り上げることにする。

 本稿の私の目的は二つある。一つは世界チャンピオン25周年のフィッシャーを祝福することで、もう一つはあの時以来布局に起こった重要な進展を示すことである。あの番勝負の布局すべてについて随時取上げていくようにしたい。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第7局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 この戦法はポーンが毒入りでもないのにどういうわけか「毒入りポーン」戦法と名付けられている。黒の最も野心的で危険な選択肢で、2、3手もの手数をかけてbポーンを取りに行く。この手を世に知らしめたのはフィッシャーなので、少なくとも「フィッシャーの毒入りポーン」戦法と呼んでしかるべきである。

8.Qd2

 スパスキーは白番の第3局と第5局で負けたので早く雪辱したかった。彼がシチリア防御ナイドルフ戦法全般と特にこの戦法を研究してきたに違いないことは疑いない。危険性の少ない応手を望む者は 8.Nb3 と指すことができ、本誌1996年6月号の本稿で解説した。

8…Qxb2 9.Nb3

 本局以前でも現在でも主手順の戦型は 9.Rb1 から始まる。全般的な構想は白駒に包囲されている黒クイーンの位置につけ込むことである。すぐの狙いとしては 10.a3 から 11.Ra2 がある。

9…Qa3! 10.Bd3

 このビショップにとってはうれしい地点でなく、ここからはほとんどすることがないしd列での見通しもなくなっている。スパスキーは第11局で正しい手段を見つけた。それについては次局で取り上げる。

10…Be7!

 以前の 10…Nbd7 と比べてこの新手は重要である。ビショップが展開したので黒キングの安全性が増している。

11.O-O h6! 12.Bh4?!

 フィッシャーはこの型にはまったビショップ引きについてよく研究していた。後にタリ対ザイド戦(ソ連、1973年)で攻撃の巨匠は 12.Bxf6 Bxf6 13.e5! dxe5 14.Ne4 Nd7 15.f5! exf5 16.Rxf5 Be7! 17.Bc4 Nf6 18.Rxe5 と指して十分な代償を得た(しかしそれを超えることはなかった!)。

12…Nxe4 13.Nxe4 Bxh4 14.f5

 この手と少し先の手までは変化の余地がある。しかしグランドマスターたちは本局以降それらの変化を使わなかったので、あまり有望でないと判断されているのだろう。

14…exf5! 15.Bb5+?! axb5 16.Nxd6+ Kf8!

 16…Ke7?? は 17.Nxb5 Qa6 18.Qb4+ で敗勢になる[訳注 18…Kf6 で互角のようです]。

17.Nxc8 Nc6 18.Nd6

 18.Qd7 も白にとって満足できない。18…g6! 19.Qxb7 Qa6! 20.Qxa6 Rxa6 から 21…Kg7 で黒勝勢の收局になる。

18…Rd8

 黒は戦力得を固める用意をした。しかし不均衡な局面では細心の注意を払わなければ勝ちに持っていけない。フィッシャーの指し手は安易に流れて、スパスキーはかろうじて引き分けに逃れることができた。詳しい解説は『チェス新報』第14巻第502局やこの世界選手権戦についての多くの良書を参照して欲しい。

19.Nxb5 Qe7 20.Qf4 g6 21.a4 Bg5?! 22.Qc4 Be3+ 23.Kh1 f4 24.g3 g5 25.Rae1 Qb4 26.Qxb4+ Nxb4 27.Re2 Kg7 28.Na5 b6 29.Nc4 Nd5 30.Ncd6 Bc5?! 31.Nb7 Rc8? 32.c4! Ne3 33.Rf3 Nxc4 34.gxf4 g4 35.Rd3 h5 36.h3! Na5 37.N7d6 Bxd6 38.Nxd6 Rc1+ 39.Kg2 Nc4 40.Ne8+ Kg6 41.h4! f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5?! 44.Ng7+ Kxf4 45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4 Rc1+ 48.Kh2 Rc2+ 49.Kg1 引き分け

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2017年04月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(468)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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ロンドン・チェスクラシック

ヒカル・ナカムラ – ウェズリー・ソー
第8回ロンドン・チェスクラシック、第1回戦、2016年

 大会初戦でナカムラはグランドチェストーナメント総合優勝を争うソーとの重要な対局に臨んだ。しかし自分の研究手順を忘れてなすところなく負けた。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3

 グリューンフェルト防御は最高峰レベルでは人気がある。

7…c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2 e5 10.d5 Nd7 11.c4 f5 12.Bg5 Nf6

 最高峰レベルでは研究は奥深くまで行われている。この局面は前例がないにもかかわらず両対局者の研究範囲だった。

13.Ne2??

 13.Bd3 がナカムラの意図だったはずで、形勢は白がわずかに良いだろう。

13…Nxe4

 簡単な手筋だ!

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1

 戦力的には互角だが形勢は黒の方がずっと良い。黒には双ビショップがあり白キングは中央列で立ち往生している。さらには白の中央ポーンは弱い。

17…b6 18.Bb4 Ba6 19.f4 Rc8 20.fxe5 Bxe5

 ソーは単純に指しているだけで、白のc4ポーンが困ったことになっている。

21.Rf3

 代わりに 21.c5 は白キングが危うすぎる。白の問題は次の想定手順に表れる。21…bxc5 22.Rxc5 Re8 23.Rc2 Rc7 白は駒の連係がとれず黒が完全に勝勢である 24.Rd2(24.Rxc7 Bxc7 25.Rf2 Bb6)24…Rc4 25.a3 Bxh2 26.Kd1 Bb5 27.Rf3 Bf4

28.Rxf4(28.Rb2 Rxe2 29.Kxe2[29.Rxe2 Rc1#]29…Rc2+ 30.Ke1 Rc1+ Kf2 Rf1#)28…Ba4+ 29.Ke1 Rxf4

黒が交換得のうえに1ポーン得である。

21…Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4 Rd7

 ソーはdポーンに狙いをつけた。

24.a4

 24.d6 Bd4 25.Re7(25.Re2 Kf7 26.Nd5 Bxe2 27.Rxc8 Ba6 28.Rc7 Rxc7 29.dxc7 Be5

cポーンがいずれからめ取られるので同じ運命になりそうである)25…Rxe7+ 26.dxe7 Kf7 27.Rd1 Bf6

黒はeポーンをゆっくりからめ取ることができる。

24…Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8 29.Bb4 Re8 0-1

 2ポーン損でナカムラは投げ時だと判断した。ソーは才能あふれる相手に一方的に勝った。

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(この号終わり)

2017年03月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(234)

「Chess Life」1998年12月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

B)2…c6 D10~D19

 スラブ防御はこの手から始まるが、定跡として大いに理にかなっている。つまりクイーン翼ビショップを閉じ込めることなくd5の地点を守っている。残念ながらこの状況は主手順に見られるように一時的である。

3.Nf3 Nf6 4.Nc3 D15-D19

 この手に対して 4…Bf5?! は 5.cxd5! cxd5 6.Qb3! と応じられて、bポーンを守る正しい手段は 6…Bc8 しかなく、白が 7.Bf4 でかなり優勢の展開になる。もちろん 4…e6 なら定跡で何の問題もないが、2…c6 の意図(クイーン翼ビショップの斜筋をふさがない)はなくなる。キング翼ビショップを展開する必要があるので黒は 4…g6 から 5…Bg7 を選択してもよく、いくらか活気のないグリューンフェルト型の局面になる。だから「純正」スラブを保つためには黒は中央を放棄しなければならない。

4…dxc4 5.a4

 これが楽にポーンを取り返す唯一の手段で、主手順の戦型になる。これに対して黒が普通に展開するなら 5…Bf5?! だが白は 6.e3 または 6.Ne5 と指しどちらも少し優勢の布局になる。

 これらのどの戦型でも白のクイーン翼ビショップの迅速な展開は重要でないので、白は早く e2-e3 と突くことにより何か得することができるのだろか?二つの重要な状況を考えてみよう。

3.Nc3 Nf6 4.e3! D10

 これに対して 4…Bf5?! はやはりまずい。というのは 5.cxd5! と取られると 5…cxd5(もちろん 5…Nxd5 と取ることもできるが 2…c6 の意図を無視している)6.Qb3 となって黒は 6…Bc8 と引かなければならず 7.Nf3 で白が好調である。

 だから白は本譜の手で黒がスラブの手を指すのを妨害したことになる。そして黒は 4…e6 または 4…g6 の戦型で満足しなければならない。代わりに黒は途中で 3…Nf6 を延期して 3…e5、3…e6 それに 3…dxc4 のようなそれほど探求されていないシステムを選択することができる。しかし私にはそれらが100%本筋かについてためらいがある。

3.Nf3 Nf6 4.e3 D12

 この戦型はキング翼ナイトを1手目または2手目で展開してもよいので実戦的に重要である。しかしf3のナイトはd5の地点に何も圧力をかけていないので、黒はスラブの作戦を完遂することができる。

4…Bf5! 5.cxd5 cxd5 6.Qb3

 これが眼目の局面である。黒は 5.Nc3 e6 でも 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 でもほとんど苦労なく互角になる。

 ここからはドレエフ対バレエフ戦(ベイクアーンゼー、1995年、番勝負第2局)の手順を追う。

6…Qc7! 7.Bd2 Nc6 8.Bb5 e6 9.Bb4 Bd6 10.Qa3 Ke7! 11.Bxc6 bxc6 12.Nc3 Rhb8 13.Bxd6+ Qxd6 14.Qxd6+ Kxd6

 收局はほぼ互角のいい勝負である。両対局者はやる気満々で、戦いを続けた。バレエフは本局を『チェス新報』第62巻第407局でで詳しく解説している。

15.Na4 Nd7 16.b3 f6 17.Kd2 a5 18.Rhc1 Nb6 19.Nc5 e5 20.Ne1 Nd7 21.Ned3 Bxd3 22.Kxd3 Nxc5+ 23.Rxc5 a4 24.Rac1 Ra6 25.bxa4 Rb2 26.R1c2 Rxc2 27.Rxc2 Rxa4 28.Kc3 exd4+ 29.exd4 Ra3+ 30.Kd2 g5 31.Kc1 g4 32.Rd2 f5 33.Kb2 Ra6 34.Rd3 Ra7 35.Ra3 Re7 36.Re3 Re4 37.Kc3 c5 38.dxc5+ Kxc5 39.Kd2 Rd4+ 40.Rd3 Ra4 41.Rc3+ Kd4 引き分け

 白がクイーン翼ビショップを閉じ込めるのが意味を成すのはどんな時か?黒の通常どおりクイーン翼ビショップを早く展開するのを妨げることができるなら、白の早い e2-e3 突きは有効な手となる。

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2017年03月29日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(467)

「Chess」2016年12月号(2/2)

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グランドマスター・ブリッツ勝ち抜き選手権戦

H.ナカムラ – M.カールセン
ブリッツ(5分+3秒)第3局、クイーン翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.Qc2 Bb7 6.Bg2 Bb4+ 7.Bd2 a5 8.O-O O-O 9.a3 Bxd2 10.Nbxd2 d5 11.cxd5 exd5 12.Ne5 Na6 13.Nd3 Qe7 14.e3 c5 15.dxc5 Nxc5 16.Nxc5 bxc5 17.Rac1 Rfc8 18.Rfd1 h6 19.Qf5 a4 20.Rc2 Bc6 21.Rdc1 Bd7

 ここで 22.Qd3 なら何事もなかっただろう。しかし本局が最後ではなかったがクイーンがポカで失われた。

22.Qf4?? g5 0-1

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(この号終わり)

2017年03月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(233)

「Chess Life」1998年12月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6 5.e3 Nbd7

6.Qc2 D46

 1990年代初めからアナトリー・カルポフが駆使したおかげでこの手が白の最もよく指される戦型になった。その着想はいたって簡単である。6…dxc4 からの難解な手順はここでは 7.Bxc4 が手損にならないので防がれている。その一方白クイーンの展開は役に立っている。結果として白はやや優勢の危険性のない状況で始動している。

 ここからはクラムニク対ピケット戦(ベイクアーンゼー、1998年)を追う。

6…Bd6 7.Bd3 O-O 8.O-O dxc4

 黒は中央で何らかの決まりをつける必要がある。さもないと白が適時の e3-e4 突きで好き勝手にふるまえる。一流の選手は 8…e5 9.cxd5 の黒の局面を信頼していない。

9.Bxc4 a6

 このaポーン突きはここ2年でほかの作戦をすべてかげらせた。黒はクイーン翼で陣地を拡張する用意をしながら、中央での最終的な仕掛け(…e6-e5 または …c6-c5)を白には秘密にしている。

10.Rd1 b5 11.Be2 Qc7 12.Ne4

 カルポフ対クラムニクの快速戦(モナコ、1998年)で白は中央に目を向けて 12.e4 と突き、12…e5 13.g3 Re8 14.a3 Bb7 15.dxe5 Nxe5 16.Bg5 Nxf3+ 17.Bxf3 Be5 18.Bxf6! で少し優勢になった。クラムニクはここで 18…Bxf6 に 19.Nd5! があるので 18…gxf6 と取ったがそれでも 19.Bg4! で白がわずかな優勢を保持した。

12…Nxe4 13.Qxe4 e5 14.Qh4 h6?!

 ピケットは 14…Re8 に新手を指されるのを恐れたようだった(カルポフ対アーナンド、FIDE世界選手権戦第5局、ローザンヌ、1998年)。しかし 15.Bd3 h6 16.Bc2 に 16…Be7! 17.Qg3 Bd6! で黒が簡単に互角にできる。

15.Bd2! Re8?

 黒は 15…exd4 と取らなければいけなかった。

16.dxe5 Nxe5 17.Ba5!

 前局とちょうど同じように展開に優る白がかなり優勢になった。クラムニクは決してその優勢を手放さなかった。『チェス新報』第71巻第466局のクラムニクの詳細な解説からいくつか形勢記号を拾うことにする。

17…Qb8 18.Rac1 Be6 19.Nxe5 Bxe5 20.Rxc6 Bxb2 21.Bc7! Qb7 22.Bf3 Rac8 23.Qb4 Be5 24.Rcc1 Qxc7 25.Rxc7 Rxc7 26.Qa5 Rc2 27.Qxa6 Rb8 28.Be4 Rc4! 29.Bd3 Ra4?! 30.Qc6 g6?! 31.f4 Bf6 32.f5! gxf5 33.Bxf5 Bxf5 34.Qxf6 Bg6 35.Rd2 Re4 36.h3 Rbe8 37.Qb6 b4 38.Rd4 Rxe3 39.Qxb4 h5 40.a4 Re1+ 41.Kh2 Ra1 42.Qb2 Rb1 43.Qa3 Kh7 44.a5 Ree1 45.Qf8 Rh1+ 46.Kg3 Rb5 47.Rd8 Rg5+ 48.Kf2 黒投了

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2017年03月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(466)

「Chess」2016年12月号(1/2)

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マン島国際チェス大会

解説 ベンジャミン・ボク

H.ナカムラ – B.ボク
第5回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 この f3 システムをナカムラは誰あろうカスパロフに対してさえ指している!

3…e6 4.e4 c5 5.d5 d6 6.Ne2 Bg7 7.Nec3

 白は Nb1-c3 と指していなかったのでこんな手で変化することもできる。

7…a6 8.a4

8…Nh5

 8…exd5?! は手順が悪く、9.cxd5 Nh5 に 10.g4! と突く手があり 10…Qh4+ 11.Kd2 Ng3 12.hxg3 Qxh1 13.Bb5+ で白の勝ちになる。実戦はポーンがまだc4にいるので成立しない。

9.Be3

 9.g4? にはもう見たように 9…Qh4+ 10.Kd2 Ng3 の強手がある。

9…exd5 10.cxd5 f5 11.exf5 gxf5

12.Qd2

 ここでちょっと奇妙なことが起こった。私が考えている間にナカムラが戻ってきて棋譜に 12…O-O と書き自分のビショップをつかみe2に動かしたとたんにまだ私の手番であることに気づいた!私は審判のところに行ってことを大げさにするようなことはしないことにした。しかし少なくとも 12…O-O のあとの彼の意図は分かった。

 本譜の手の代わりに 12.Be2 は 12…O-O 13.O-O のあと 13…Re8 14.Bf2(14.Qd2?? は 14…Rxe3 で黒の勝ち)14…Qg5 に対処する適当な手段が白にない。

12…O-O 13.Be2

 予想どおり。

13…Nd7

 私は単に駒を展開することにした。

14.O-O f4

 14…Ne5 は 15.Bg5 がちょっと煩わしい。15…Qe8 に 16.f4 があってクイーンをg列に持っていくのがより困難になるからである。

15.Bf2

15…Qg5

 こう指すと g4 と突かれるのは分かっていたが、白キングがまったく弱くなりきわめて危なっかしいと考えていた。

 15…Ne5 と指すこともできたが、やはり 16.Ne4 で私のクイーンがg6に行けず 16…Bf5 17.Nbc3 で白が少し優勢かもしれない。

16.g4

 16.Ne4 は 16…Qg6 17.Nbc3(17.Bh4 には 17…Ne5 18.Be7 Bh3)17…Ne5 18.Kh1 Bf5 と進む公算が大きい。黒は好調で …Rae8 または …Bh6 で圧力を強めるかもしれず …Ng3+ の狙いも出てくる。

16…Ne5 17.Kh1 Nf6 18.Rg1

18…Qg6!

 この手が指せてまったくほっとした。いろいろな捨て駒が視野に入っている。

 最初は 18…h5 と指すつもりで、19.h4 Qg6 20.g5 Qf5 21.Rg2 Nfg4! 22.fxg4 hxg4 を想定していた。白は押しつぶされてしまうだろう。しかし 19.gxh5 と取られると 19…Qxh5 20.Qxf4 Ne8 21.Qh4 Qxh4 22.Bxh4 Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Nd2 となって黒は問題ないのだが白の主導権は厄介ものである。

19.Bh4!

 黒の捨て駒に備えて 19.Qd1 と指すと予想していたが、それでも黒は 19…Nfxg4! と切り込むことができるようで 20.fxg4 f3 21.Bf1 Nxg4 で勝勢である。例えば 22.Bg3 なら 22…f2 23.Rg2 Ne3 でよい。

 また、19.Na3 なら 19…Bxg4! が黒の読み筋で、20.fxg4 Ne4 21.Qe1 Nxc3 22.bxc3 Qe4+ 23.Rg2 f3 で黒の勝ちになる。

19…h5

 最初は 19…Bxg4 と取りたくてたまらなかった。20.Qd1(20.Bxf6 なら 20…Bxf3+ 21.Bxf3 Qxg1+ 22.Kxg1 Nxf3+ 23.Kf2 Nxd2 24.Bxg7 Nxb1 25.Bxf8 Nxc3 26.bxc3 Kxf8 27.Kf3 となるが、これでも白はたぶん持ちこたえることができるだろう)20…Qh5 21.Bxf6 Nxf3 22.Rg2 Rxf6 と進んで黒が勝ちそうに見えるが、残念ながら 23.Nd2 という手があり形勢が逆転する。

20.g5

 20.gxh5 も白はあまり気乗りしなかった。20…Qxh5 21.Qxf4 Nfg4 22.Qg3(22.fxg4 は 22…Rxf4 23.gxh5 Rxh4 で黒に立派な代償がある)22…Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Qxf3 Qxh4 25.Qg3 Qh6 となって交換損の代わりに黒の攻撃が強力で、26…Be5 の狙いがある。

20…Nfg4!

 このような局面では引き下がることはできない。

21.Ne4

 21.fxg4 は 21…hxg4 で白には指す手がなく、黒は容易に駒を攻撃に投入し続けることができる。例えば 22.Na3 Qh7 23.Qe1 Bf5 のあと黒は望むなら 24…Rae8 と指せる。

21…Bf5

 最初は 21…Nxh2 を読んでいた。しかし 22.Kxh2 Qf5 23.Nf2(チェスエンジンは 23.Rg2 の方がずっと強力だとしている。23…Qh3+ 24.Kg1 Qxh4 25.Rh2 Bh3 26.Nbc3 でh列での釘付けのために黒が問題を抱える)23…Ng6 24.Bd3 Nxh4 25.Bxf5 Nxf3+ 26.Kh1 Nxd2 27.Bxc8 となって、27…Nxb1 には 28.Be6+ があるので白が駒得のままである。

22.Nf6+?

 この手のあとはどうやっても白の負けである。たぶんナカムラは私の応手を見落としたのだろう。白は何があっても 22.Nbc3 と指さなければならなかった。黒はまだ少し優勢かもしれないが局面はまだ難解なままである。

22…Rxf6! 23.gxf6 Bxf6

 白はビショップを助けようがない。

24.Nc3

 白はもう負けを認めている。24.Qe1 は 24…Re8 で黒の狙いが多すぎる(24…Nxf3 でもよいが 24…Re8 の方が簡単)。24.Be1 は 24…Bxb1 であれれ、ということになる。

24…Bxh4

 ここでは黒の勝勢は明らかである。私のしなければならないことは冷静さを保ち最後まで正確に指すことだけだったが、うれしいことにとてもうまくやり遂げることができた。

25.Raf1 Bg5 26.h4

 26.fxg4 と取っても 26…Be4+ 27.Nxe4 Qxe4+ 28.Rg2 Qxg2+ 29.Kxg2 f3+ でやはり終わっている。

26…Bh6 27.fxg4 hxg4 28.Rxf4 Qh5! 29.Rg2 Qxh4+ 30.Kg1

 30.Rh2 も 30…Qg5 で見込みがない。

30…Ng6

 ほかの手もあるが、これが最もはっきりしている。

31.Rxf5 Bxd2 32.Rxg4 Bxc3

 このような局面では勝ち方がいくつもあるが、その中の一つを追求することにした。

33.bxc3

 33.Rxh4 なら 33…Nxh4 34.Rg5+ Bg7 で黒の勝ちである。

33…Qe1+ 34.Bf1 Kg7 35.Rfg5 Qb1 0-1

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(この号続く)

2017年03月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(232)

「Chess Life」1998年12月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6

 5.e3 Nbd7 からの布局はメラン戦法と呼ばれている。最も重要な2戦型の 6.Bd3 と 6.Qc2 からの白の指し方を実戦例から取り上げる。

6.Bd3 D46

 これは白の最も積極的な手である。その作戦は単刀直入で、e2-e4 と突いてさらに黒のdポーンに挑みながらクイーン翼ビショップを開放する。これに対して黒はほぞを固めて自分から 6…dxc4 7.Bxc4 b5 と難解さに踏み込まなければならない。定跡に精通している必要があるが、最終的に互角になる見込みはきわめて大きい。しかし黒を持って指す多くの選手はより安全と感じる局面の方を好み、「同形」の展開を選ぶ。このあとはシェルバコフ対シャバノフ戦(ロシア選手権戦、1996年)の手順を追う。

6…Bd6 7.O-O O-O 8.e4! dxe4

 重要な中央のポーンを交換するのが普通の取り方である。8…dxc4 と取るのは 9.Bxc4 e5 10.Bg5 h6 11.Bh4 Qe7 12.Re1 Rd8 13.d5 Nb6 14.Bb3(サブチェンコ対シップマン、フィラデルフィア、1991年)となって白が優勢になる。

9.Nxe4 Nxe4 10.Bxe4 h6

 10…Nf6 は 11.Bc2 c5 12.Bg5 h6 13.Bh4 で釘付けが煩わしく、13…Be7 には 14.Qd3! がある。

11.Bc2 e5 12.Re1! Bb4

 一組のビショップを交換しておくのが理にかなっている。単に 12…exd4?! は不十分で、13.Qxd4 Bc5 14.Qf4 で白が展開で大きく優り陣形にも欠陥がない。

13.Bd2 Bxd2 14.Qxd2 exd4 15.Qxd4 Qb6 16.Qc3 a5 17.Rad1

 黒は展開で大きく立ち遅れている。これに対し白は絵に描いたように完璧である。展開は完了し、両方のルークは中央の素通し列に位置し、盤上の制圧はほぼ全体に渡っている。キング翼で猛攻を仕掛ける可能性が高く、自陣に弱点は一つもない。『チェス新報』第68巻第393局の解説でシェルバコフは 17…Qb4 が黒の最善手だと考えている。それでも 18.Qd3 Nf6 19.a3 Qc5 20.Re5 Qb6 21.c5 Qc7 22.Rde1 Rd8 23.Nd4 で状況は芳しくない。実戦は黒がたちまちつぶされた。

17…Nf6?! 18.Rd6! Qb4 19.Qe5! Qxc4 20.Bd3 Qg4?! 21.h3 Qh5 22.Qg3 Nd5 23.Re5 f5 24.Rg6 Rf7 25.Re8+ Kh7 26.Ne5 Rc7 27.f4! 黒投了

 白の 28.Be2! Qxe2 29.Rxh6+! Kxh6(29…gxh6 30.Qg8#)30.Rh8# の狙いに成すすべがない。

 最終盤は展開の優位の威力をみごとに示していた。黒は投了した時クイーン翼のルークもビショップもまだ戦いに加わっていなかった。

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2017年03月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(465)

「Chess Life」2016年11月号(1/1)

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シンクフィールド杯

開放カタロニア(E05)
GMウェズリー・ソー(FIDE2771、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2791、米国)
2016年シンクフィールド杯第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2016年8月5日

 2015年のシンクフィールド杯でヒカル・ナカムラはキング翼インディアン防御でウェズリー・ソーをつぶした。1年で変わったことが多く、ナカムラが同僚に対して選択した布局もそうである。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5

 主手順は 7.Qa4 a6 8.Qxc4 b5 9.Qc2 Bb7 で、数え切れないほど指されている。

7…Nc6

8.Nxc6

 8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7+ Qxe7 11.Qa4 e5 12.dxe5 Qxe5 が通常の手順で、よく知られている。チェスエンジンは白の方を少し優勢としているが、異色ビショップと白のすき間のあるキング翼のために黒が互角にできる可能性が非常に高い。

8…bxc6 9.Na3 Bxa3 10.bxa3

 奇妙なポーン陣形ができあがった。黒はc列に孤立三重ポーン、a列に孤立ポーンがあり、白は1ポーン損でa列に孤立二重ポーンがある。身の毛もよだつような局面である。

10…Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8

14.Ba3

 この手はポーンをもう1個犠牲にして主導権を強める。d4のポーンはまったく気にしない。確かにあればいいポーンだが、白は犠牲にした戦力を正当化するためには活発に動く必要がある。

 14.Rd1 は以下 14…c3(14…e5 15.Qxe5 Nd5 はねじり合いになる。白は双ビショップで中央列のポーンも多いが、展開が遅れている。黒は非常に積極的に動いているが、長期的には陣形が白の有利に働くのは確かなのでそうすることが必要である)15.Qxc3 Bxe2 16.Re1 Qa6 17.Bg5 Qc4 で互角の形勢である。(ポーンが取られないように17…Rd6 と指すのは手間をかける価値がないかもしれない。どうして白に 18.Rab1 でb列を支配させるのか?)

14…Rxd4 15.Rfb1

 ここで初めて前例と別れた。抜け目のない手である。交換得になった場合白のもう一つのルークはf1よりa1にいた方が良い。これは典型的なチェスの論理に反するようだが、そのわけは白が a4-a5 から a2-a4 と突こうとしているからである。

 前例は2010年ブルニャチカ・バニャでのザハル・エフィメンコ(2689)対コンスタンチン・サカエフ(2607)戦で、15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(19…d4 も指したくなる手で、対角斜筋を開けナイトのためにd5の地点を空ける)20.a5 b5 21.Qe7 c5 22.f4 d4 23.f5 e5 24.f6 gxf6 25.g4 h6 26. Rf5 と進んで合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 私が見たかった手は 16…Rd5 だった。2ルークに対し2小駒と2ポーンの駒割は滅多に見られない。もっとも 17.Bxd5 cxd5(17…Rxb1+ 18.Rxb1 cxd5 19.Qxa6 は最下段が無防備なので黒にとって問題が大きい)18.Bxb6 cxb6 19.Qc3 は白が良すぎる。クイーン翼をのみで削るようにやっていけば、結局はルークが小駒より強くなる。

17.Rd1 h6

 これは辛抱のいい手だが、たぶん補強が必要だった。

 17…Nd5 18.e4 Nf6 は互角だが、白にポーンを突かせたのは黒のためになっている。黒のナイトがいつかはd3の地点に行ける。

18.Rxd7 Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

20…c5

 20…Nc5 21.Qd6 は白が優勢の実戦の進行にやや似ている。21…Nxa4 22.Qxc6 Qxc6 23.Bxc6 Nc5 となった時の大きな違いはそれぞれの二重ポーンが交換で解消していることである。これは黒にとって重要で、ナイトがc5に行ける。

21.Rd1 Nf6 22.Kf1 Kh7 23.Qc2+

23…Kg8

 対局後ナカムラは 23…g6 と突いてクイーンを盤上に残さなかったのを後悔しているようである。24.Qc3 Kg7 で白がどのように進展を図るか判然としない。どうやっても譲歩することになるだろう。もちろん白が優勢であるけれども 25.h4 Qc7 26.Kg1 e5 で戦いは続く。

24.Qd2 Kh7 25.Qd8

 クイーンが盤上から消えるのでソーは勝ち負けだけを目指して指すことになる。a7のポーンはすぐ目立つ弱点で、ほぼ互角の駒割にもかかわらず白がはっきり優勢である。收局ではルークが小駒を圧倒することがよくある。

25…Qxd8

 25…e5 26.Qxc8 Bxc8 27.Rd8 Be6 28.Ra8 c3 29.Ke1 は、…e6-e5 突きで白枡の支配がゆるんだので黒が実戦よりもずっと悪い。

26.Rxd8 c3 27.Ke1

27…Bc4

 27…c2 は 28.Kd2 Bxe2 29.Kxc2 Kg6 30.Rb8(黒はポーン狩りをしている暇がない)30…Ng4 31.Rb7 Nxf2 32.Rxa7 で次にb6のポーンが落ちるので良くない。

28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3 a6

32.Ra8

 たぶん 32.a5 の方が正確である。32…Bd5 33.Bxd5 Nxd5+ のとき勝つ唯一の手は 34.Kb3 である(34.Kd2 は 34…c4 35.Rd6 Nb4 となってこのナイトが奇跡的にa6ポーンの守りから追い払われない。白キングがc3に行けばナイトはa2からチェックするし、a3に行けばc2からチェックする。驚異的な要塞である)。

32…Nd5+ 33.Bxd5 exd5

 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 で白の勝ちになる。白キングが黒枡をぶらつくので黒キングは戦闘に間に合わない。

34.a5

 34.Rc8 bxa4 35.Rxc5 でも勝ちだがもっとてこずる。白は正確さを要求されるが、実戦の方はaポーンのおかげで早く終わった。代わりに 34.axb5?! axb5 35.Rc8 は 35…d4+ 36.exd4 cxd4+ 37.Kxd4 で引き分けに終わる可能性が非常に高い。

34…b4+ 35.Kd2 Bf1

 35…Bb5 36.Rc8 c4 はすべて守っているようだが、37.Rb8 から Rxb5 の狙いだけ抜けている。これはビショップが動かなければならないということで、bポーンが落ち勝負がつく。

36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 黒投了

 ナカムラは白のaポーンに対処できないと読んであきらめた。

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(この号終わり)

2017年03月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(231)

「Chess Life」1998年12月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

 本譜の手の利点はキング翼ビショップの斜筋が通ることで、欠点はクイーン翼ビショップが閉じ込められることである。白はcポーンが4段目にありd5に圧力をかけているので、明らかに中央で少し優位に立っている。だから黒としては次のような目標を設定することができる。つまり何も不利をこうむらずに1手で …c7-c5 と突くことができるなら、ほぼ互角になれる。

3.Nc3

 白はd5に圧力をかけることにより、黒がただで …c5 と仕掛けるのを難しくさせる。黒が 3…c5 と突くとタラッシュ防御になり、4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 で孤立dポーンに対する白の圧力が強くなる。

 代わりに 3.Nf3 は欠点がなく別手順の 1.Nf3 または 2.Nf3、それに 3.e3 とからも生じるので重要だが、3番目の手順は指せる手ではあってもつまらない。どうして白は黒がしなければならなかったようにクイーン翼ビショップを閉じ込めなければならないのか。3…Nf6 4.Nc3 c5 5.Nf3 Nc6 が想定され、準タラッシュ防御の無害な戦型になる。

3…Nf6

 普通の手。しかしGMたちの間では先に 3…Be7 と指し、4.Nf3 のあとで初めて 4…Nf6 と指すのが普通である。本譜の手のあと白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法のより優る型にできる。しかしこれには白にとって大きな危険性もある。ポーン交換で中央における白の優位は消滅し、黒のクイーン翼ビショップは自由になる。私の考えでは少なくともレイティング2100の選手でないと微妙な差異を白のために生かせない。

 交換戦法のほかに白の重要な選択肢は 4.e3、4.Bg5 そして 4.Nf3 の三つである。

 4.e3 は指せる手だが、それでも上述の 3.e3 で説明したのと同じ欠点がある。4…c5! 5.Nf3 Nc6 となって白が優勢になる可能性は乏しい。4.Bg5 は 3.Nc3 の 最も主眼とされる継続手である。白はd5に間接的に圧力をかけることにより、黒が …c7-c5 と打って出るのを難しくしている。黒の最も人気のある手法はタルタコワ戦法(4…Be7 5.Nf3 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 b6)である。黒陣は欠陥がないが完全に互角というわけではない。

4.Nf3

 この手は白が1~3手目で Ng1-f3 と指してもよく同じ局面になるので非常に重要である。黒はもちろんいつものように 4…Be7 と応じることができるし、4…c5 5.cxd5 Nxd5(5…exd5 はタラッシュ防御に移行する)で中央での影響力の減少をこうむっても孤立dポーンを避ける準タラッシュ防御を選択することもできる。

 しかし重要な選択肢は次の手である。

4…c6

 この局面が実戦で特に重要なわけは、約半数がスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 e6 という手順から生じるからである。

 4…c6 は見かけは消極的だが狡猾なパンチ力を秘めている。もし白が何も疑わずにいつもの 5.Bg5 を指すと、5…dxc4 6.e4 b5! に驚かされることになる。4…c6 の主眼点は白が犠牲にしたポーンを容易に取り戻せなくすることだったことが分かる。このあとの指し手はとてつもなく激しくなることがある。黒の潜在的な可能性を初めて見せつけた世界級の選手はミハイル・ボトビニクで、その戦型には当然彼の名前がつけられている。閉鎖試合の「定跡書」の中では最も複雑で攻撃的で厳しい布局となっている。

 本手順としてアセーエフ対セルゲイ・イワノフ戦(サンクトペテルブルク、1997年)を追う。7.e5 h6 8.Bh4 g5 9.Nxg5 hxg5 10.Bxg5 Nbd7 11.exf6 Bb7 12.g3 c5 13.d5 Qb6 14.Bg2 b4 15.O-O O-O-O 16.Na4 Qb5 17.a3 exd5 18.axb4 d4 19.Bxb7+ Kxb7 20.Nc3 dxc3 21.Qd5+ Kb6 22.Bf4 Rh5 23.Qxh5 cxb2 24.Rad1 cxb4 形勢互角。試合は38手で引き分けに終わった。イワノフの詳細な解説は『チェス新報』第69巻第394局を参照されたい。

 上記の試合と解説をどう判断すべきか?そう、5.Bg5 は本筋で危険があり研究を要する。ガリー・カスパロフやガータ・カームスキーのような攻撃に秀でて深く研究している者が白を持って好成績を収めてきた。とはいえ控えめに言っても万人向けの戦型ではない。

 だから黒の反撃の可能性が十分に評価されるようになって以来というもの、明らかに白を持って指すものの大部分が 5.e3 に転向した。『チェス新報』第72巻(1998年の2巻目)の主要試合の数が現在の状況をよく物語っている。5.Bg5 が3局で 5.e3 が9局となっている。ここでクイーン翼ビショップの早い閉じ込めが有効な時について次の関連した考察をつけ加えることができる。黒がc4のポーンを取ったらそのポーンを取り返すのに大変苦労する時は、早く e2-e3 と突くのが有効な変化となる。

 5.e3 が高級な選択肢である理由には別の重要な要因がある。黒にとって …c5 は主眼の突きであることが知られているので、黒はそう突くために丸々1手費やさなければならなくなる。というのはもう …c7-c6 と突いているからである。布局の早い段階の指し手ではこのような無駄はたとえ閉鎖布局であっても許されない。アナトリー・カルポフの示唆に富む明察がこの本質をよくとらえている。「閉鎖布局では手損は大したことがないとよく言われてきた。開放布局ではもっと高くつくことはもちろんだが、閉鎖布局でも手損はすべきでない。」

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2017年03月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(464)

「Chess Life」2016年10月号(1/1)

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次の一手 米国選手権戦より

第1問
GMヒカル・ナカムラ対GMジェフリー・ショーン

 白の手番

第4問
GMヒカル・ナカムラ対GMサム・シャンクランド

 白の手番

第1問解答 32.Nf5! クイーン当たりと Nh6+ の両狙い(32…Qd7 33.Nh6#)。

第4問解答 37.Re7 でも長い目で見れば勝ちになるが 37.Qd2! Qxd2 38.Rxd2 なら 39.Ree2 から 40.Rxf2 でナイトが取れる(37…Nxd1 なら 38.Qxh6+ Kg8 39.Bd5+ R6f7 40.Bxf7+ で白の勝勢)。

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(この号終わり)

2017年03月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(230)

「Chess Life」1998年12月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め

 ビショップは長射程の駒で、普通は元々の斜筋に沿って展開すべきで利きがよく通る。1.e4 布局では白にとってはかなり達成しやすい。これはキング翼ビショップの斜筋がすぐに通り、普通は d2-d4 突きも早く続いてもう一つのビショップも自由になるからである。一般によどみなく迅速な展開がeポーン布局の持ち味である。

 しかしdポーン布局では小駒の展開の速さは目的を持った本格的な中央の構築の次になるのが普通である。そして小駒はその中央の内側で良い位置を探り始めることになる。これはビショップの片方の展開が遅れることを意味することがよくある。今回は白が早く e2-e3 と突くことにより黒枡ビショップの展開を自ら遅らせるクイーン翼ギャンビット拒否戦法の重要な状況について説明する。本稿はシカゴのデイビド・グルーゼンマイヤー氏からの示唆に触発されたものである。

 起点となる局面は次の手順からできる。

1.d4 d5 2.c4

 黒は初手で白と同じ中央への影響力を目指し、白はすぐにその地点を切り崩しにかかる。実際のところ黒は 2…dxc4 と取ることにより中央の地点を「放棄」することも可能である。この戦型はクイーン翼ギャンビット受諾と呼ばれ、評価の高い布局となっている。白は容易にポーンを取り返すことができるけれども、黒は白が取り返しに手をかけることによりクイーン翼で積極的に反撃を開始することができることに期待をかけている。それでもはるかに人気のあるのは 2…e6 または 2…c6 でd5の拠点を安泰にすることである。順にこの2手を見ていくことにする。

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2017年03月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(463)

「Chess」2016年10月号(3/3)

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次の一手

初級向け第4問 M.バシエ=ラグラーブ対H.ナカムラ
インターネット(ブレット)、2016年

 白の手番

解答 1.Be5+ 1-0 1.Bg5! も正解。1.Be5+ のあとは 1…Nf6(1…dxe5? 2.Rf7#)2.Rxf6 Qxf6 3.Bxf6 Kxf6 4.Qxh6+ Kf7 5.Nd5 で黒は戦力損の上にキングがむき出しになっている。

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(この号終わり)

2017年02月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(229)

「Chess Life」1998年10月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ニシペアヌ対デゥミトラケ、ルーマニア選手権戦、1996年

17.Bb3!?

 この新手は筋の通った着想である。すぐにgポーンを突いていくのは白のためになるのかそれほどはっきりしないので、白はまず白枡ビショップの安全を図って戦いに引き戻すことにした。

 ストイカとニシペアヌが本局を『チェス新報』第68巻第302局で詳細に解説しているので、読んでみることを勧める。以下では要点だけを示すことにする。

17…Kf7?!

 この手は手損になる。正着は 17…Bxb3 で、以下 18.axb3 Ke6 19.g4 fxg4! 20.Ra4! h5 21.Rxe4+ Kf7 22.Nd5 Rae8 23.Rb4 b5 24.Nxc7 Rc8 が両者の最善の手順でいい勝負である。

18.g4

 18.Nd5 Rac8 19.c4! の方が強い指し方だった。

18…g6?!

 黒陣を活気づかせるためには動的な反撃が唯一の手段だった。そのためには 18…fxg4! と取ることが必要で、19.Nxe4 Bxb3 20.axb3 b6 21.Ra4 h5 22.Rc4 c5 23.b4 cxb4 24.Bxb6 a5 25.Rc7+ Ke6! が想定される(ストイカとニシペアヌ)。

19.g5! Rad8 20.Ne2 Rd7?!

 ベルリン対リガ戦の戦型の中で白優勢の1局となった。黒は堅実に 20…Bxb3 21.axb3 Rd7 で不利を最小限にとどめるべきだった。

21.c4! b5?! 22.Rc1!

 黒のキング翼の多数派ポーンが動きづらいのに対し、白のルークと小駒は黒の弱点のクイーン翼に侵入する。白の勝ちに終わるまでの手順は次のとおりである。

22…Rhd8 23.Nf4! Bxc4 24.Bxc4+ bxc4 25.Rxc4 Rb8 26.b3 Rb7 27.Ne2! Ke8 28.Nc3! Kd8 29.Kg2 Rb8 30.Bf4 Kc8 31.Na4 Rf7 32.Rc6 Rb5 33.Rxa6 Kd7 34.a3 黒投了

総括

 私にはリガ戦法を完全に信頼できると言えない。しかしまだ調査しなければならない所が多い。8.Nxd4 からの主手順では白の優勢は従来からの少し/通常の優勢を超えないということに自信がある。

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2017年02月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(462)

「Chess」2016年10月号(2/3)

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2016年シンクフィールド杯(続き)

H.ナカムラ – ディン・リーレン
第9回戦、準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.Bh5 h6 6.Bh4 dxc4 7.e4 g5 8.Bg3 b5 9.Be2 Bb7 10.h4

 この反モスクワ・ギャンビットの厳しい手法は近年は現代的な 10.Qc2 にほぼ取って代わられた。しかしナカムラはまだ一定のかみつく力があることを見せつけた。

10…g4 11.Ne5 Nbd7 12.Nxd7 Qxd7 13.Be5 Qe7

14.b3!

 要着。14.Bxg4 は 14…Rg8 15.Bf3 Nd7 で陣形がほぐれて黒が好調になる。

14…cxb3 15.axb3 a6

 黒は 15…Bg7 で展開の完了を優先させることもできる。そして 16.O-O O-O 17.Bxg4(ベルレ対ファン・ベリー、ロンドン、2008年)17…Rfd8!? 18.Bf3 Nxe4 19.Bxg7 Nxc3 20.Qd2 Kxg7 21.Qxc3 Kg8 と進めば、黒は乱れた陣形がポーン得で相殺される。

16.Qc1!?

 巧妙な新手。もっとも2007年クラスノヤルスクでのトレグボフ対モティレフ戦の 16.O-O h5 17.Re1 Bg7 18.d5 でも大して悪そうには見えなかった。

16…Rg8 17.O-O Nh5

 この手は白クイーンがf4に来るのを防ぎh4のポーンを当たりにしている。しかしここからナカムラの新手の主眼点を目(ま)の当たりに見ることになる。

18.d5!!

 そらきた!

18…Qxh4?

 重要な変化は 18…exd5?! 19.exd5 Qxe5 20.Re1 で、白は1駒と1ポーンを損しているがかなりうまくいくようである。例えば 20…Be7(20…Qf4 21.Bxb5+ Kd8 22.dxc6 Qxc1 23.Rexc1 Bc8 24.Nd5 は白の攻撃がうまくいっていて非常に強力である)21.Bxb5 Qc7 22.dxc6 axb5(22…Bxc6? なら 23.Nd5!)23.Rxa8+ Bxa8 24.Nd5 Qxc6 25.Qxc6+ Bxc6 26.Nxe7 Kf8 27.Nxc6 Rg6 28.Nd4

のあとの收局は白がやや優勢である。

 もっとも本譜の手もうまくいかないので、黒は 18…f6 19.Bh2 cxd5 20.exd5 Rc8 とやってみなければならないということになり、まったくの形勢不明だろう。

19.g3 Qg5 20.dxc6! Qxe5

 白ポーンをb7に進ませるのはほとんど誰も望まないが、20…Bxc6 では 21.Nxb5 できれいに一掃されてしまう。

21.cxb7 Rb8 22.Nd5!

 さらなる一撃を見舞った。ナカムラは本局では炎と燃えていて、試合はすでに終わっているようである。

22…exd5 23.Qc8+ Ke7 24.Rxa6

 両者の大駒の働きの違いを比べてみるとよい。白の狙いは 25.Rc1 である。

24…Nxg3 25.Bxb5 Ne2+

 どうにでもしてくれという手。黒は反モスクワがうまくいかない時は滅茶苦茶になることがある。

26.Bxe2 f6 27.Re6+! Qxe6 28.Qxb8 1-0


ヒカル・ナカムラにとってはかなり期待外れの状況が続いていたが、少なくともオリンピアードではよく準備ができていたし、シンクフィールド杯ではディン・リーレンを準スラブで完璧に粉砕して上々の気分で締めくくった。

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(この号続く)

2017年02月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(228)

「Chess Life」1998年10月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ホセ・ラウル・カパブランカ対エドワード・ラスカー博士、ニューヨーク、1915年

17.g4 g6 18.Kg3!?

 キングが「活動」しだしたが、たぶん時期尚早である。ストイカとニシペアヌはすぐに 18.gxf5!? gxf5 19.Ne2 と指すのが白の小駒をより速く動員する手段であると指摘している。

18…h5!

 黒はキング翼で反撃する必要がある。

19.gxf5 h4+

 ストイカとニシペアヌは 19…gxf5 の変化を詳しく分析している。その主手順は 20.Kh4 Rag8 21.Bg5+ Kf7 22.Ne2 c5 23.c3 Rg7! 24.Nf4 Rxg5! 25.Kxg5 Rg8+ 26.Kh6(26.Kxh5? は 26…Kf6! で負ける)26…Rh8+! 27.Kg5 Rg8+ で引き分けになる。19..gxf5 後のほかの変化は『チェス新報』第68巻第302局を参照されたい。

20.Kh2 gxf5 21.Ne2 b5?

 黒にとって不運だったのはここでこのポーンを突いたことだった。1手費やして自分のクイーン翼を弱め、白の白枡ビショップをもっと良い地点に追いやることになった。ストイカとニシペアヌはすぐに 21…Rag8! と指すのが正着で形勢不明の局面と指摘している。

22.Bb3 Bxb3 23.axb3 Rhg8 24.Rd1! Rad8

 白の狙いは 25.Rd5 だった。代わりに 24…c6 は 25.Nd4 にしてやられる。

25.Rxd8 Kxd8 26.Nd4 以下略、白勝ち

 ここまでの手順はラスカーが『チェスの戦略』で取り上げていて、「f5のポーンが落ちる」と言って締めくくっている。実際 27.Nxf5 で黒には望みがない。

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2017年02月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(461)

「Chess」2016年10月号(1/3)

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2016年シンクフィールド杯

W.ソー – H.ナカムラ
第1回戦、カタロニア布局

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5 Nc6 8.Nxc6 bxc6 9.Na3

 c6のポーンを取るのは昔から白に何ももたらさないと知られている(8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7 Qxe7 でも同じ)。しかしc4に目標を定めるのは最近かなり流行している。ナカムラは強く応じた。

9…Bxa3 10.bxa3 Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8 14.Ba3!

 この手が必然というわけでは決してないが、ポーンを犠牲にするのは良さそうな手に見える。白はクイーンを強力で締めつける地点に転回させておいて、黒枡ビショップと同じことをさせるつもりである。

14…Rxd4

 この手も勝負手に違いない。2015年レイキャビクでの欧州チーム選手権でメルクミアン対フリートマン戦は 14…Rb6 15.Bc5 Rb2 16.e3 Nd7 17.Be7 Re8 18.Ba3 Rb6 19.Bc5 Rb2 20.Qc3 Qb7 21.Ba3 Rb6 22.Rad1 Nf6 23.e4 と指し回され黒が苦戦に陥った。

15.Rfb1!?

 この手は新手だった。本局とよく似ているのは2010年ブルニャチカ・バニャでのエフィメンコ対サカエフ戦の 15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5! 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(単に 19…d4!? もありそう)20.a5 b5 21.Qe7 c5 で、すぐに合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 代わりに 16…Rd5 ならソーは 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qd2 Ne4 20.Qe3 で当面黒ポーンを止め(続いて f2-f3 と突くかもしれない)、a4-a5 と一時的にポーンを犠牲にしてルークのために素通し列を作るつもりだったかもしれない。

17.Rd1

 白は争点を維持した。17.Bxb6? と取るのは 17…cxb6(17…axb6 18.Qe5 Qd8 19.Bxc6 Rd6)18.Qe5 Nd5 となって黒が交換損の代わりに非常に指しやすくなる。

17…h6?

 この手はおかしかった。しかしナカムラは陣形をゆっくり立て直す余裕が十分あると思っていたのだろう。17…Nd5!? の方がずっと積極性があり、18.e4 Nf6 となれば白はd5の地点を永久に譲るか、e4の守りに縛りつけられるか、あるいは 19.Bf1!? Nxe4 20.Rxd7! Nxc5 21.Rxf7!? Kxf7 22.Qxc5 とでもやってみなければならない。しかしa7のポーンは落ちず 22…Qd7 23.a5 Rb7 24.Qh5+ Kg8 25.Rd1 Qe7 26.Qf3 ということになれば白に2ポーンの十分な代償がないことは明らかである。

18.Rxd7!

 やっと時機到来である。

18…Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

 ソーの指し手の意味が明らかになった。黒がポーンでなだれ込むことができるようになる前にd列から攻め込もうというのである。ここで 20…Qc7 ならd6の地点に利くが、21.Rd1 Nc5 22.Qd8+ Qxd8 23.Rxd8+ Kh7 24.Bxc6 c3 25.Rd1 となってcポーンが落ち白の勝つ可能性が高くなる。

20…c5 21.Rd1 Nf6 22.Kf1!

 非常に冷静な手で、黒の 17…h6 よりはるかに役に立っている。白はキングがcポーンに十分近いのでクイーンを交換することができる。

22…Kh7 23.Qc2+ Kg8 24.Qd2 Kh7 25.Qd8! Qxd8 26.Rxd8 c3

 黒はビショップを働かせなければならない。しかしこれでも負けを免れるには十分でない。ソーは想定局面を何の問題もないと判断した。

27.Ke1 Bc4 28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3

 黒は交換損の代わりにまだ2ポーンを得ている。しかし白のキングだけが働いていて、ナカムラは引き分けにできるだけのポーン清算をすることができない。

31…a6 32.Ra8 Nd5+ 33.Bxd5

33…exd5

 この手は見事な読みのためにあっさり負けになる。しかし 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 となって負けのようである。お互いキング翼に4ポーンがあり、黒になおcポーンがあっても白の勝勢である。35…f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 Kg6 なら 38.g4!? と突けて黒のcポーンが落ちる。

34.a5! b4+ 35.Kd2

 黒のポーンは怖そうだがソーは何も恐れていない。

35…Bf1 36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 1-0

 キングの働きが勝利をもたらした。38…Bd3 39.Rb6 f5 40.Rd6 で白の簡単な勝ちである。ただし 40.Rxa6?? には 40…b2 がある。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2017年02月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(227)

「Chess Life」1998年10月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1

 これが主手順である。

10…Qh4

 これで白の手は自殺手だったように見える。しかし白には非常手段のしのぎの手筋がある。

11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2

 駒の取り合いが終わり棚卸しの時機である。黒は小駒2個の代わりにルーク1個とポーン2個を取って、戦力的にはポーン半個分ほど得している。しかしほかの点では白が有利である。1)黒のルークが白陣に弱点を見つけるよりも、白の小駒が黒陣に弱点を見つける方が容易である。2)黒はキング翼の多数派ポーンを動員しようとしても黒枡の差し迫った弱点のために困難を抱える。3)黒キングは素通しのd列で不安を抱えていて、すぐには安全な避難所が見つかりそうにない(14…f5?? 15.Bg5#)。

 黒はキング翼の多数派ポーンを動員するのとeポーンを守るために …f7-f5 と突く必要があるので、まずビショップを展開する必要がある。

14…Be6 15.Be3!

 白は白枡ビショップのことに注意しなければならないが、…c5 を防ぐことによりその安全を確保した。15.Nc3?! は劣った手で、黒は 15…c5! でたぶん少し優勢になる。

15…f5 16.Nc3 Ke7

 ここが洗練された收局の出発点である。重要な実戦例3局を年代順に簡潔に紹介する。

 ジークベルト・タラッシュはここで 18.Nd5+ を狙いとする 17.Rd1 を推奨した。それは90年くらい前のことで、17…c6?! なら 18.Bb6! で黒のルークがd列で活動するのを防ぐ。しかしIMのストイカとニシペアヌ(今はGM)は『チェス新報』第68巻第302局で 17…Kf7! のあと 18…Rad8 で黒が問題ないと指摘している。

ベルリン対リガ、通信戦、1906~1907年?

17.g4 g6 18.g5

 無理矢理の黒枡戦略はうまくいかない。もっとも白の本当の問題は次の手で起こる。

18…Rag8!

 黒はこれで 19…h6 でキング翼の締め付けを突破する用意ができた。エドワード・ラスカー博士は『チェスの戦略』改訂第2版(1915年)で白は 19.Rg1! で黒の意図を妨げるべきだと指摘している。

19.Bd4?! h6 20.Bf6+ Kf7 21.Bxh8 Rxh8 22.Rd1

 ここで黒の作戦の深遠な意図が明らかになった。22.gxh6 Rxh6+ 23.Kg2 は 23…c5! から 24…b5 で白のビショップが捕獲される。本譜の手でビショップは助かるが、黒にはキング翼で4対1の圧倒的な多数派ポーンができる。

22…hxg5+ 23.Kg2 Kf6! 24.Bb3

 この手で 24.Nd5+? は 24…Ke5! 25.Nxc7 Bc4 から 26…Be2 で黒キングが詰み狙いの攻撃にさらされる。そこで白はビショップの交換を急いだ。その結果生じる收局は黒チームが少し有利である。白は29手目で防御態勢を達成できたが、白チームは40手目と41手目で指し過ぎて、黒がきれいに順当勝ちを収めた。残りの手順には形勢記号をいくつか付けておくだけにする。

24…Bxb3 25.axb3 Ke6 26.b4 Rh7 27.Ne2 Rd7 28.Nd4+ Kf6 29.c3 c6?! 30.Rh1! g4 31.Rh8 Re7 32.Ne2 Rd7 33.Nd4 Re7 34.Rf8+ Kg7 35.Rd8 f4 36.Rd6 Kf7 37.Nc2 Re6 38.Rd7+! Re7 39.Rd6 Re6 40.Rd1?! Kf6 41.c4?! Re7 42.Rd4 Kg5 43.Rd6 e3!! 44.f3 e2 45.Ne1 g3 46.b5 Rh7! 47.bxc6 bxc6 48.Re6 Rh2+ 49.Kg1 Rf2 50.Nc2 Rxf3 51.Rxe2 Rd3 52.Ne1 Rb3 53.Rd2 f3 54.Nd3 a5! 白投了

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カテゴリ: 布局の探求3

開放試合の指し方(164)

第10章 そのほかの布局 ジャック・ピーターズ(続き)

ビショップ布局(続き)

 この手は f2-f4 と突く作戦の失敗を認めたものである。ここで 4.f4? と突くのは 4…exf4 5.Bxf4 d5! 6.exd5 Nxd5! となって、黒キングよりも白キングの方が薄い。

 しかし 4.Nf3! は局面に合った現実的な判断を表わしている。白は実行できない作戦を放棄し、黒の …d7-d5 と突く構想の欠陥に目を向けようとしている。黒のd5とe5のポーンが弱くなることを見越して、Nc3、Bg5 から(O-O のあと)Re1 のような手でそれらに圧力をかけるつもりである。

 別の賢明なやり方は 4.Qe2!? で、eポーンに対する狙いにより黒が …d7-d5 と突くのを思いとどまることに期待することである。しかし黒はそれでも 4…d5! と突くのが良いのは、5.exd5 cxd5 6.Qxe5+ Be7 で展開が迅速に進むからである。たぶん白がポーンをかすめ取るのは危険すぎる。黒は …Nc6 または(…O-O のあと)…Re8 でクイーンを当たりにすることによりもっと手得する。

4…d5 5.Bb3

 白は 5.exd5? cxd5 6.Bb5+ でポーン得することができない。なぜなら 6…Bd7! 7.Bxd7+ Nbxd7 でe5のポーンが守られるからである。

5…Bd6

(この章続く)

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「ヒカルのチェス」(460)

「British Chess Magazine」2016年9月号(2/2)

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バクー・オリンピアード(続き)

ヒカル・ナカムラ 2789
ロベルト・マルクス 2662

第5回戦、米国対セルビア

 この均衡のとれた局面でマルクスは 21…Qd8? とポカを指し、 22.Nxg6! でもう終わりになってしまった。22…Nxg6 は 23.Qg3 Nde5 24.Bxe5 で白が利子付きで戦力を取り返し、途中 23…Kf7 なら 24.Rf1+、23…Kh7 なら 24.e5! で決まっている。


優勝した米国チーム(左から右へ)ヒカル・ナカムラ、ジョン・ドナルドソン(団長)、サム・シャンクランド、レイ・ロブソン、ウェズリー・ソー、ファビアノ・カルアナ

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(この号終わり)

2017年02月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(226)

「Chess Life」1998年10月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4

 ベルリン対リガ対抗戦以来これが断然の主手順となっている。その論理には非の打ち所がない。白は犠牲にしたポーンの1個を取り返し、9.Nxc6 と 9.f3 の両方を狙っている。黒は窮地に陥っているように見える。しかしリガの選手たちが独創的な戦術を用意していたのはまさにこの手に対してである。

8…Bd6! 9.Nxc6

 もう引き返すには遅すぎる。クプチク対スタイナー戦(米国、1947年[1927年?])では白は 9.Qh5?! と指した。そして 9…O-O 10.Nxc6(10.Qxd5?? Bxh2+)10…bxc6 11.Bxc6 Rb8 12.Nc3(12.Bxd5? Nf6 13.Qd1 Nxd5)12…Nf6 13.Qf3 Bxh2+ 14.Kxh2 Qd6+ から 15…Qxc6 でもっと悪い結果になった。

9…Bxh2+!

 白には選択肢が三つある。

A)10.Kxh2

 これは単純かつ明快である。黒は 10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ ですぐにチェックの千日手による引き分けにできる。

B)10.Kf1?!

 これは安全そうに見えるが、その実黒に 10…Qh4 でチャンスを与える。

 1)11.Be3?! O-O 12.Nd4 Bg4 13.Nf3 Qh5 14.Nc3(14.c3 b5 15.Bc2 Rfe8 16.Bd3 Re6 17.Be2 Rf6 も黒の攻撃が決まった[プルーン対ケレス、通信戦、1932年])14…Rad8 15.Qd3 Bxf3 16.gxf3 Qxf3 17.Nxe4 dxe4 18.Qc3 Qh3+ 19.Ke2 Qg4+ 20.Kf1 Rd5 21.Bb3 Rh5 22.f3 exf3 白投了(マローツィ対ベルガー、ウィーン、1908年)

 2)11.Nd4+ b5 12.Be3 O-O! 13.Nf3 Qh5 14.Bb3 Bg4(14…c6 も有望[レオンハルト])15.Qxd5 Bxf3 16.Qxh5 Bxh5 17.Bd5 Rae8 18.Bxe4 Rxe4 19.g3 f5 20.Nd2 Rg4 ここで 21.Kg2? f4! で黒が優勢(二ホルム対レオンハルト、コペンハーゲン、1907年)の代わりに正着の 21.Nf3 Bxg3 22.fxg3 Rxg3 でほぼ互角

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2017年02月01日 コメント(2)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(459)

「British Chess Magazine」2016年9月号(1/2)

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バクー・オリンピアード

セオ・スレード

ヒカル・ナカムラ 2789
ジョン・ショー 2454

第2回戦、米国対スコットランド

 ナカムラは既に優勢だったが、相手の 20…Qd6?? のおかげで 21.Bd5! でたちまち勝ちになった。

 黒が4駒で当たりになっているビショップを 21…Bd7 と引いてe8のルークにも十分な守りを利かせれば、白はもちろん 22.Bxf7+ と指す。だから黒はe6のビショップをこれ以上守れないので投了した。GMを21手で負かすとは大したものである。

1-0


ナカムラは相手のひどいポカに乗じて短手数で2局勝った

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(この号続く)

2017年01月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(225)

「Chess Life」1998年10月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅰ)8.Ne5

 白はc6のナイトに脅威を与え、e4のナイトを攻撃するためにfポーンを自由にした。だが黒にはこれぞという戦術の一発がある。

8…Bd6!

 ぴったりの受けである。8…Qf6? は 9.Nxc6 Qxf2+ 10.Kh1 Bd7 11.Nd2! bxc6 12.Nxe4 dxe4 13.Rxe4+ Kd8 14.Rxd4 Bd6 15.Bf4 c5 16.Rxd6! で黒の負けになる。

9.Nxc6

 白はチェックの千日手にしぶしぶ同意するしかない。9.Qxd4?! と取るのは 9…O-O 10.Nxc6 bxc6 11.Bxc6 Bc5 で黒が優勢になる。

9…Bxh2+! 10.Kxh2

 8.Nxd4 の場合と異なり(後述)d列がふさがったままなので 10.Kh1? は負けになる。

10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ 引き分け

Ⅱ)8.c4

 この手はe4のナイトの守りをたたくことによりそのナイトを切り崩す理にかなった着想である。『MCO(Modern Chess Openings)第12版』(1982年発行)では主手順とされていたが、ほとんど探求されていないままである。

8…dxc3e.p.

 ここからはヤネーチェク対シェフラー戦(ウィーン、1961年)の手順を追う。『ECO(Encyclopaedia of Chess Openings)』(第3版)は 8…Bb4 を改良手の候補として指摘し、9.cxd5 Bxe1 10.Qxe1 O-O 11.dxc6 Nc5 12.Qb4 という手順を示して「白が少し優勢」としている。私にはかなり形勢不明の局面に見える。

9.Nxc3 Be6 10.Nd4 Qd7 11.Nxc6 Nxc3

 11…bxc6? は 12.Nxe4 dxe4 13.Qc2 Bd5 14.Rxe4+! で白の攻撃が本当に必殺になりそうである。

12.bxc3 bxc6 13.c4

 MCO第12版はここで終わっていて「白の攻撃が強烈」としている。一方ECOのC巻(第2版)は「白に犠牲にした戦力の代償と主導権がある」としている。どちらも正しいが、13…Kd8 で究極の形勢判断はそれほど明白でない。

Ⅲ)8.Bg5

 白は黒クイーンを当たりにすることにより別の駒を先手で攻撃に繰り出した。この手はヨハン・ベルガーがリガ戦法を咎める手の追究で1909年に初めて指摘した。

8…Be7

 理にかなっているのはこの手だけである。黒は展開を進め、攻撃駒との交換は歓迎する。ほかの手はかなり劣る。

A)8…f6? は 9.Nxd4! Bc5 10.Nxc6 Bxf2+ 11.Kf1 Qd7 12.Nc3! O-O 13.Nxd5 bxc6 14.Bxc6 fxg5 15.Bxd7 となって白が大きな戦力得で決定的な形勢である(ECO C巻[第2版])。

B)8…Qd6?! は 9.c4! dxc3e.p.(9…Be6 は 10.cxd5 Bxd5 11.Nxd4 f6 12.Nxc6 bxc6 13.Nc3 O-O-O 14.Nxe4 Bxe4 15.Qg4+ f5 16.Qe2 Bd3 17.Qe3 で黒陣は滅茶苦茶である)10.Nxc3 Be6 11.Nxe4 dxe4 12.Nd4! Qd5(12…b5 なら 13.Rxe4! bxa4 14.Qxa4 Qd5 15.Re5!、12…Be7 なら 13.Bxe7 Kxe7 14.Bxc6 bxc6 15.Rxe4 でどちらもはっきり白が優勢)13.Qc2 Bd6 14.Bh4! b5 15.Nxe6 fxe6 16.Bb3 Qc5 17.Qxc5 Bxc5 18.Rac1 となって白が勝勢の收局に近い。以上の変化はどれもJ.ベルガーによる。

9.Bxe7 Kxe7

 こう取る必要があるがそんなに悪くない。c6のナイトは釘付けからはずれ、キャッスリングしないキングには適度に安全な居場所が見つかる。「自然」な 9…Qxe7?! は 10.Nxd4 O-O 11.Bxc6 bxc6 12.f3 c5 13.Nc6(13.Nb3 c4 14.Nd4 c5)13…Qd6 14.Qxd5! Nf6! 15.Qxd6 cxd6 16.Rd1! で不利な收局になる。

10.c4

 10.Bxc6 bxc6 11.Nxd4 Kf8! 12.f3 Nf6 13.Nxc6 Qd6 の局面は1921年のクラウセの分析によるとほぼ互角のいい勝負となっている。これは正しそうである。

 本譜の手で白はまた主眼のd5とe4の切り崩しを目指している。ここからはGMビクトル・コルチノイの分析手順を追う。

10…dxc3e.p. 11.Nxc3 Be6 12.Bxc6 bxc6 13.Nd4 Nxc3 14.bxc3 Qd7 15.Qg4 c5 16.Nf5+ Kd8 17.Qxg7 Re8 18.Qxh7

 コルチノイはこの局面を白が少し優勢と判断している。戦術の要点は 18…Bxf5 に 19.Rxe8+ の切り返しがあることである。

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2017年01月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(458)

「Chess」2016年9月号(1/1)

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ビルバオ・マスターズ
ビルバオでヒカル・ナカムラがついにマグヌス・カールセンから初勝利

M.カールセン – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Ne2 d6 3.Nbc3 a6 4.g3 g6 5.Bg2 Bg7 6.d4

 閉鎖シチリアからフィアンケット・ドラゴンまでカールセンは本当にほとんどどんな種類の局面でも指しこなす。

6…cxd4 7.Nxd4 Nf6 8.O-O O-O 9.b3

9…Nc6

 9…Bg4!? の方がもう少し厳しい感じがする。その意図は …Qc8 から …Bh3 で、10.f3 Bd7 11.Bb2 Nc6 となれば白は有利なようにc6での陣形を変えることができない。

10.Nxc6!

 普通はこのような交換は良くないとされる。しかしここでは黒が …a6 に1手かけていて、白には Bb2、Na4 そして c4 で締めつける単純で効果的な作戦がある。

10…bxc6 11.Bb2 Qa5 12.Na4 Bg4 13.Qe1!

 これに対して 13…Qxe1 なら 14.Raxe1 Nd7(e4-e5 突きが当たりにならないようにする)15.f4 Bxb2 16.Nxb2 f6 17.c4 で白が優勢になる。しかしナカムラはすぐに次の果敢な手を悔やむことになる。

13…Qh5?! 14.f3 Bh3 15.g4!? Qh6 16.Rd1 g5

 愚形になるが黒はキング翼で動く余地がなくなりかけていた。

17.Bc1 Bxg2 18.Kxg2 Qg6

19.h4?!

 カールセンにしては珍しく頭にかっと血がのぼった。彼は大会の出だしは必ずしも良くない。19.c4 なら本筋だったし、19.Nb6 から Nc4 なら局面を支配している。

19…gxh4! 20.Qxh4 d5!

 ナカムラは好機をとらえた。黒はこれで持ち直したが、カールセンはまだ現実に気づいていなかったようである。

21.g5? dxe4! 22.f4 e6!

 これで簡単に受かっている。白は世界チャンピオンかもしれないが、指し過ぎでポーン損になる。

23.c4 Rfd8 24.Rde1 Ne8 25.Nc5 Nd6 26.Qf2

 カールセンはまだ盤上の一部を抑えているが、ナカムラはゆっくりと白の切り札をそいでいくことに満足する。

26…f5 27.Bb2 Nf7 28.Bxg7 Kxg7 29.Qg3 Rd6 30.Rd1 Rad8 31.Rxd6 Rxd6 32.Qc3+ Kg8 33.Rf2 Qh5!

 白のナイトはc5の好所に居座り続けているが、キングの守りからは離れている。

34.Qh3 Qd1 35.Qe3 e5!

 必殺の反撃第二波の始まり。

36.Qg3 Rg6 37.Kh2 exf4 38.Qxf4 Qh5+ 39.Kg1 Qd1+ 40.Kh2 Qh5+ 41.Kg1 Nxg5 42.Qb8+ Kg7 43.Qe5+ Kh6 44.Qf4 Qd1+ 45.Kh2 Qd4 46.b4 Kg7 47.Qc7+ Kh8 48.Qc8+ Rg8 49.Qxf5 Nf3+ 50.Kh3 Qd6 0-1


ナカムラは黒でカールセンに勝ったあと何も危険を冒さないようになった。

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(この号終わり)

2017年01月20日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(224)

「Chess Life」1998年10月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀

 以前の本稿である局面をより深く理解することがどのように白にとっても黒にとっても布局戦法の復活につながってきたかを話題にした。今回は戦術と洗練された戦略の機会を与えてくれる戦法を取り上げる。この戦法は現代のチェスの舞台ではほぼ完全に忘れ去られている。

 私の考えではこの戦法は「見かけより優秀」で、言い換えれば定跡での評判より優秀である。以下の事実は人気のなさを示している。『チェス新報C巻』の初版(1974年)では2行と8脚注が割り当てられていた。第2版(1981年)ではまだ同じ2行と8脚注だった。それが第3版(1997年)ではたった1行だけになった。

 これ以上気をもたせないように言ってしまうと、それはルイロペスのリガ戦法(C80)である。この名前は1906~1907年(資料によっては1907年だったり1908~1909年だったりする)に行われたベルリン対リガの通信戦からきている。通常の手順は次のとおりである。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

 この局面は黒にとってこの上なく危険そうに見え、実際そのとおりである。黒は展開が遅れ、キングが元の位置で動かないままで、両方のナイトとも釘付けにされている。(実際同時指導対局で何回かこのような局面から簡単に勝ったことがある。)しかしリガの選手たちは黒の創造的な戦術の可能性を発見し、そのことでこの戦法が(定跡で)生き延びることになった。

 白の順当な手はⅠ)8.Ne5、Ⅱ)8.c4、Ⅲ)8.Bg5、Ⅳ)8.Nxd4 の4とおりある。最後の2手がより重要で、それらに重点をおき、残りの2手は簡単に手順を示すだけにする。

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2017年01月18日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(457)

「Chess Life」2016年8月号(1/1)

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お楽しみチェス
究極のブリッツ決戦大会 次の一手

第2問
GMウェズリー・ソー
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第4問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第5問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 白の手番

解答

第2問 39…Bd4! のあと 40…a2 で黒にクイーンができる(すぐに 39…a2?? は 40.Be5)。

第4問 60…h5?? は 61.Kc5! から 62.a5! で駄目である。実戦は 60…Ke5! 61.Bh1(61.Bxh7 なら 61…g3!)61…Kd6! 62.a5 Kc7! 63.Kc5 g3 で黒が勝った。

第5問 白は 34.Nxg5 Qxd3 35.Nxd3 で勝った。しかし 34.Nh4! Qxd3 35.Ng6+! の方がはるかに速い(35…Kh7 なら 36.Nxf8+、35…Kg8 なら 36.Nxe7+)。

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(この号終わり)

2017年01月13日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(223)

「Chess Life」1998年9月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4 Bd7 10.O-O-O

B.10…Qa5 [B79]
ナン対ウォード(ヘイスティングズ、1997~98年)

11.h4 Rfc8 12.Bb3 Ne5

 『チェス新報 』の初版が出版された1975年でも黒はこう指すのが良いと考えられていた。しかし一番の否定面はc列での黒の反撃開始が1手遅いということである。二番目は黒のキング翼ルークがキング翼からいなくなっているということである。

13.h5! Nxh5 14.Nd5!

 黒にとって意外で不快な事態の変転である。クイーン無し中盤戦を強いられ、白にだけ攻撃の可能性があり、白は好きな時に犠牲にしたポーンを取り返すことができる。

 白のもっと野心的な作戦は黒にとって楽である。つまり 14.Bh6? Bxh6(14…Nd3+! も良い手である)15.Qxh6 Rxc3! 16.bxc3 Nf6! は黒が好条件で主眼の …Rxc3 の交換損をやってのける(既に黒が少し優勢)。代わりに 14.g4 Nf6 15.Bh6 は 15…Rxc3! 16.bxc3 Bxh6 17.Rxh6 Rc8 でほぼ互角だが、黒の選手が望んでやまないたぐいの動的な局面である。

14…Qxd2+ 15.Rxd2 Kf8 16.g4 Nf6 17.Rdh2!

 白はキング翼での圧力を強め、これからの難儀を最小限にする最良の方策について黒を五里霧中にさせた。

17…Nxd5 18.Bxd5 Nc6

 18…Rc7 に対してナンは 19.Rxh7 Rac8 20.c3 を示している。白の攻撃は危険を「伴わない」し、戦力も互角である。本譜の手は駒交換によって白の攻撃力をそぐ理にかなった目的だが、黒の攻撃の可能性を完全に殺す欠点もある。

19.Nxc6 bxc6 20.Bc4 h6

 この手は黒枡ビショップ同士の交換を実現させるが、局面を白ルークのためにさらに開放することになる。しかし 20…Be6 21.Bxe6 fxe6 では 22.Bh6 で白の優勢は変わらない(ナン)。

21.Bxh6 Bxh6+ 22.Rxh6 e6

 22…e5 は 23.Rh7 Be8 24.g5 Rd8 25.Rh8+ Ke7 26.R1h7 で良くない。そして 26…d5?! と突くと 27.exd5 cxd5 28.Rxe8+! Rxe8(28…Kxe8 でも 29.Bxd5!)29.Bxd5 で白がはっきり優勢になる(ナン)。

23.f4! Ke7 24.e5

 24.f5 も良い手である。本譜の手で白は攻撃を継続する前にさらに締めつけようとしている。

24…dxe5?!

 黒は 24…d5 で局面を閉鎖的に保った方がもっと抵抗の見込みがあったと思う。

25.fxe5 a5?!

 この手と次の手を指している余裕はない。ナンは守勢の防御の 25…Rg8 26.Rh7 Be8 27.Rf1 Rb8 の方が黒が持ちこたえる可能性があったと指摘している。しかし 28.b3 から白キングが出てくるので黒にとって嫌な局面である。

26.Rh7 a4?! 27.Rf1 Be8 28.Rf6! Ra5

 これではなすところなく負ける。しかし意図していた 28…Kd8 と逃げる手は 29.Bxe6! fxe6 30.Rxe6 Rcb8 31.Rd6+ Kc8 32.Re7 でひどいことになる。

29.Rxe6+ Kd8 30.Rd6+ Ke7 31.Re6+ Kd8 32.Rf6! Rxe5 33.Bxf7 Ke7

 33…Rc7 には最も単純な 34.Bxg6 で良い。

34.g5! Rxg5 35.Re6+ Kf8 36.Bxe8 黒投了

 最後に以下のコメントを付け加えたい。GMジョン・ナンはここ20年間で最も偉大な攻撃的選手の一人である。彼は複雑さを避けることもなければ捨て駒を避けることもしない。それでも最大の得点をあげる重要なやり方は、何の危険もなく危険な攻撃ができるならばどうして紛糾させるのか、ということである。

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2017年01月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(456)

「Chess」2016年8月号(4/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – M.カールセン
ルーベン大会、快速戦、2016年
ラゴージン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Bb4 5.Qa4+ Nc6 6.e3 O-O 7.Qc2 Re8 8.Bd2

8…e5

 黒の前手の意志をついだと思われる手だが、先回りして 8…Bf8 と受けた方が良かったかもしれない。

9.dxe5 Nxe5 10.cxd5 Nxf3+ 11.gxf3

 ここで黒が 11…Bxc3 と取れば 12.Bxc3 Qxd5 13.Rg1!? Qxf3 14.Rg3 Qc6 15.O-O-O で白がポーンの代償に主導権を握る。しかしカールセンの指した手よりははるかに良い。カールセンの指したポカが分かるかな?

11…Nxd5?? 12.Nxd5 Qxd5

 これではb4のビショップをただ取られるが、12…Bxd2+ でも 13.Qxd2 で白の駒得である。

13.Bxb4 Qxf3 14.Rg1 Bf5 15.Qe2 Qe4 16.Bc3 Bg6 17.Qc4 1-0

(クリックすると全体が表示されます)


チェスがルーペンの15世紀の市庁舎のような立派な舞台でもっと行えたらいいのだが。ここはカールセンでさえ当初その荘厳さに圧倒されているようだった。

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(この号終わり)

2017年01月06日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(222)

「Chess Life」1998年9月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4

 白は 9.O-O-O の戦型で 9…d5!? のために多大の困難を抱えていたので、本譜の手が 9…d5 を防ぎf7の地点をにらむ「一石二鳥」の手として1956年に登場した。黒は白枡ビショップを展開してからc列での反撃のためにルークをc8に回すのが良い。c4のビショップが浮いているので黒は貴重な先手がとれる。

9…Bd7 10.O-O-O

A.10…Rc8 [B78]
アーナンド対カスパロフ(1995年GMA(グランドマスター協会)世界選手権戦第11局)

11.Bb3 Ne5 12.h4 h5

 ドラゴン通は1手をかけキング翼を弱めてでも白のhポーン突きを防がなければならないと断定してきた。代わりに 12…Nc4 は 13.Bxc4 Rxc4 14.h5! Nxh5 15.g4 となって攻撃の可能性があるのは白の方だけで、典型的なドラゴン選手にとっては絶対面白くない状況である。

13.Kb1!?

 カスパロフが公式戦でドラゴンを採用したのはこの試合が初めてだったので、アーナンドは当然のことながらとてつもなく複雑な戦型の 13.Bg5 Rc5 に進むのを警戒した。

 いずれにしても私の考えでは「気持ちよく」攻撃する局面にしたい者にとって本譜の手と15手目に関連した構想は大いに有効である。黒は1手損をし自分のキング翼を 12…h5 で恒久的に弱めた。一方白はキングを安全にする余裕が少しあったし攻撃も続けている。

13…Nc4 14.Bxc4 Rxc4 15.Nde2!

 この退却には目的がいくつもある。白は黒からの早い …Rxc3 の交換損を防ぎ、16.Bh6 で黒枡ビショップ同士の交換を狙っている(すぐの 15.Bh6? には 15…Rxd4! があるので駄目である)。

15…b5 16.Bh6 Qa5 17.Bxg7 Kxg7 18.Nf4

 過激な 18.g4!? は 18…hxg4 19.h5 gxf3 20.hxg6 fxg6 で形勢不明である。本譜の手は少し危険があっても主導権を発揮するという白のこれまでの指し方の精神により合致している。

18…Rfc8 19.Ncd5! Qxd2

 カスパロフはここで引き分けを提案した。アーナンドは4分考えて受諾しなかった。カスパロフは勝てそうにはとても思えずこれからの收局にいくらか不安を感じていたと言って間違いない。実際そのとおりである。e4のポーンのおかげで白は中央が広く、e7のポーンにはいくらか圧力がかかっていて、白にはあとでクイーン翼の多数派ポーンを発展させる見通しがある。

 あとでカスパロフは次のような鋭い変化を指摘した。19…b4!? 20.Nxe7 Rxc2 21.Qxd6 b3! 22.axb3 Rxb2+ 23.Kxb2 Qc3+ 24.Ka2 Rc5 25.Qxc5 Qxc5 26.Ned5 そしてこの局面を「形勢不明」と判断した。しかし実戦で彼がこの危険を冒したくなかったのは注目に値する。

20.Rxd2 Nxd5 21.Nxd5 Kf8 22.Re1 Rb8

 黒は反撃を探し続けて何も見つけられないでいる。

23.b3 Rc5 24.Nf4 Rbc8 25.Kb2 a5 26.a3 Kg7?!

 黒キングは中央に近い所にいるべきだった。26…Ke8 なら筋が通っている。もっとも 27.Re3 に黒は b3-b4 の可能性に用心しなければならず、何も見落としをしないよう注意しなければならない。

27.Nd5 Be6?

 カスパロフは反撃のきかない守勢の局面が嫌いである。これが異筋の本譜の手に打って出た説明になる。黒は控え目で注意深い 27…Kf8 と指す必要があった。

28.b4?

 ここからアーナンドの自滅が始まった。明らかに 28.Nxe7 が強手で、カスパロフの読み筋の 28…Re8 29.Nd5 Bxd5 30.b4 axb4 31.axb4 Rc4 32.Rxd5 Rxb4+ には 33.Kc3!! Rc4+ 34.Kb3 Rec8 35.Re2 Rc3+ 36.Kb2 で 37.Rxb5 または 37.Rxd6 で重要なポーンが取れる。

28…axb4 29.axb4? Rc4 30.Nb6?? Rxb4+ 31.Ka3 Rxc2!! 白投了

 32.Rxc2 Rb3+ 33.Ka2 Re3+ で黒がルークを取り返し完全に2ポーン得になる。

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2017年01月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(455)

「Chess」2016年8月号(3/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

H.ナカムラ – V.トパロフ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 危険なポーンと双ビショップのある黒が優位に立っている。だから白はe8のルークを取るよりもっと何かをしたいところである。

26.Rxg7+!?

 客観的には負けになる手であるが、白は攻撃するしか助かる道は望めない。ここで黒の選択は重大である。

26…Kh8?

 逃げ方を間違えた。26…Kf8 が正解で、27.f6 Bxe2 28.Rxh7 なら冷静に 28…Kg8 29.Rg7+ Kh8 でよい。

27.Rxf7 Bxe2

 白の狙いを見逃した。しかし機械の示す唯一の助かる希望(27…Bc4 28.Rxb7 Ba6)を見つけることはブリッツ戦では不可能に近いだろう。

28.Nf6

 詰みの狙いがあるので白が交換得になる。

28…Rc7 29.Rxc7 Bxc7 30.Nxe8 Bg3

 この局面でもまだ難しそうである。しかしナカムラは一連の強手とすごい幸運のおかげで勝った。

31.e5!

 強手その1。31…Bxe5 なら 32.Re1 で危険な敵ポーンを取り除ける。

31…Bb5 32.Nd6 Bd3 33.Nxb7?

 ここでは 33.f6! が正着だった。e5のポーンはタブーだし[訳注 33…Bxe5 34.Nf7+]、33…e2 なら 34.e6! Bxd6 35.e7 Bg6 のとき白は冷静に白のeポーンを取り除けるし 36.Rc1! とさえ指せる。

33…e2 34.e6 Bxf5 35.e7 Bg6 35.b5!?

 強手その2。状況は思わしくないしこの手さえ最も正確とは言えないが、ナカムラはクイーン翼の多数派ポーンを最大限に利用しなければと認識している。

36…Kg8

 トパーロフはこの機会にキングを働かせてすぐに優位に立ち始める。

37.a4 Kf7 38.a5 Bc2 39.Nc5!

 強手その3。白は …Bd1 の狙いに対処する手段を見つけた。しかしいずれにしてもまだ負けている。

39…Kxe7 40.b6 axb6 41.axb6 Kd6 42.Rc1 1-0

 そしてここで強手その4だ。白は強手のような手にもかかわらず全面的に圧倒されてきたようだが、トパロフがポーンを8段目に進めたまま時計を押した時、ナカムラは冷静に勝ちを主張することができた(ポーンを昇格駒で置き換えないのはブリッツでは不正着手になる)。


パリ大会での紫色を基調にしたプロの戦士たちに非常にふさわしい対局場。左下のヒカル・ナカムラはレボン・アロニアン戦の対局開始を待っているところで、パリ大会で危なげなく優勝した。

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(この号続く)

2016年12月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(221)

「Chess Life」1998年9月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅰ.9.O-O-O [B76]
GMファン・デル・ビール対GMティビアコフ(ベイクアーンゼー、1994年)

 この明快な手が最も初期の手だった。白はキングを比較的安全な所に移し、10.h4 からh列を素通しにするように努める。これは黒がキング翼ビショップをフィアンケットするのにgポーンを突かなければならず白の h4-h5 突きにさらされるということにも助けられている。

 私の考えでは黒は白の狙いに精力的に反応する必要がある。黒を持つ選手の中にたとえ 9…Nxd4 10.Bxd4 Be6 や 9…Bd7 で指せるということを示そうという者がいても、私の評価ではそれらの手は「得るものより失うものの方が多い」。

9…d5!?

 黒を死地から引っ張り上げたのはこのポーン捨てで、1955年頃のことだった。

10.exd5

 当時も今もこの手が普通である。それでもここ2、3年は白側の選手が 10.Qe1 や 10.Kb1(10…dxe4?? は 11.Nxc6 で黒の負け)を試している。

10…Nxd5 11.Nxc6 bxc6 12.Bd4

 欲張ってはいけない。つまり 12.Nxd5 cxd5 13.Qxc5 Qc7! 14.Qxa8?(14.Qc5 Qb7 は黒に完全にポーンの代償がある)は、14…Bf5 15.Qxf8+ Kxf8 16.Rd2 h5! となって、クイーンと双ビショップが白のクイーン翼をにらんでいるので黒が優勢である。

12…e5!

 ドラゴンを指すなら初志貫徹すべきである。12…Nxc3 13.Qxc3 Bh6+ 14.Be3 や 12…Bxd4 では引き分けを目指してはいつくばることになる。

13.Bc5 Be6!

 黒枡ビショップの斜筋がふさがっているのでここで 13…Re8?! は 14.Nxd5 cxd5 15.Qxd5 で白が比較的安全にポーン得になる。これに対して本譜の手のあと 14.Bxf8?! と取るのは 14…Qxf8 と取り返されて黒に交換損の代償がいっぱいある。それらは急所の黒枡の支配、b列での有望な作戦、そして目下の 15…Bh6 の狙いである。

14.Ne4! Re8! 15.h4

 白は黒の中央での反撃を無効にし 16.h5 でh列を素通しにする用意をした。黒は次の3手のどれかでそれを防がなければならない。

 (1)15…h5 は恒久的にg5の地点を弱める。ティビアコフは 16.Kb1、16.g4 そして 16.Ng5 を白が優勢を目指すための本筋の手段としてあげている。

 (2)15…h6 はキング翼全体を恒久的に弱める。それにつけ込んだお手本がエールベスト対マリン戦である(カルカッタ、1997年)。16.g4 Qc7 17.g5! h5 18.Bc4 Red8 19.Qf2 a5 20.a4! Qb7 21.Rhe1! Rab8 22.b3 Nf4 23.Bxe6 Nxe6 24.Nf6+ Bxf6 25.gxf6 Rd5 26.Bd6 Rd8 27.Bxe5 Qb4 28.Rxd5 cxd5 29.Bb2 d4?! 30.Rxe6! fxe6 31.Qg3 Kf8 32.Kb1 Qb7 33.Qxg6 Qf7 34.Ba3+ Ke8 35.Qh6 e5 36.Qg5 Rd5 37.Qf5 Kd8 38.f4 d3 39.cxd3 Rd4 40.Be7+ Kc7 41.Qxe5+ 黒投了。『チェス新報』第69巻第213局にGMエールベストの詳細な分析が載っている。

 (3)15…Nf4 が実戦の手である。

15…Nf4

 この応手が良いとされている。黒は少し劣勢の收局を甘受してでも白の攻撃の機会を削減する気である。白が拒否する理由はない。

16.g3 Qxd2+ 17.Rxd2 Nh5 18.g4 Nf4 19.h5 Bd5 20.hxg6 fxg6!

 黒はf3の地点に対してf列で反撃策を作り出しながらh列を閉鎖したままにできることを望んでいる。20…hxg6?! は劣っていて、21.Be3! Ne6 22.Bd3! で白の攻撃が危険なものとなる(ファン・デル・ビール)。

21.Rdh2 h6 22.Rf2 Ne6 23.Be3 Rf8! 24.Nd2 Nf4 25.Bc4 Rf7 26.Rd1 Rb8 27.Bb3 a5 28.Ne4 Rbf8?!

 28…Bxb3 29.axb3 Nd5 30.Bc5 ならファン・デル・ビールによれば白の優勢はほんのわずかだった。

29.c4! Bxe4 30.fxe4 Kh7

 30…Nd3+ は 31.Rxd3 Rxf2 32.c5+ Kh7 33.Bxf2 Rxf2 34.Rd6 となって明らかに白の方が優勢である。

31.c5 Rb7?! 32.Rd6 Rc8 33.Rfd2! Rcc7 34.Ba4 Bf8! 35.Rxc6?! 引き分け

 白は残り時間が少なくて引き分けに同意した。ファン・デル・ビールは『チェス新報』第59巻第251局にGMジョン・ナンによるものとして次の決定版の分析を載せている。35.Kd1!! Bxd6 36.cxd6 Rc8 37.d7 Rd8 38.Bxc6 Rbb8 39.Bc5 これで白はほぼ勝勢である。

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2016年12月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(454)

「Chess」2016年8月号(2/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦(続き)

V.クラムニク – H.ナカムラ
パリ大会、ブリッツ戦、2016年

 局面はナカムラがクイーンをe4からちょっと進めたところである。確かに黒はポーン損だが異色ビショップは攻撃側に有利に働くことを決して忘れてはいけない。

33.Bg3?

 Qf4 とは指せない。しかしいずれにしても時間に追われてこの局面に対処するのはたいていの者にとって至難である。それはそれとして、黒からの狙いはどうせまだないのだから白は足踏みをしてもよかった。33.Qb8+ Kh7 34.Qe5 としておけば 34…Bd5 には 35.Qf5+ Kg8 36.Qc8+ で棚ぼたの引き分けになる。33.b4 も同様の趣旨で、33…Bg6(33…Bd5?? 34.Qe8+ Kh7 35.g6# という白のわなを避けた手)には 34.Qe3 と指せる。

33…Bd5 34.Qe8+ Kh7 35.g6+ Kh6 36.Qh8+ Kxg6 37.Qe8+ Kh7 0-1

 白はチェックが尽きてg2が守れない。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2016年12月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(220)

「Chess Life」1998年9月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く

 攻撃は好きだが明快な戦略に基づいていたいなら、1.e4 に対する黒としてシチリア防御ドラゴン戦法をお勧めする。フィアンケットされたキング翼ビショップには中央で戦術の題材がいろいろとあり(特に白のd4のナイトに関するもの)、白がクイーン翼にキャッスリングすれば(人気断トツの作戦)キング翼ビショップの利きがずっと白のクイーン翼まで届く。

 しかし本稿の目的は白にも両方いい手法を示すことである。その意味するところは白が活気のある局面を保持し黒の猛襲を最小限にできるということである。40年以上に渡る最も重要な戦型はユーゴスラビア攻撃で、今日でも流行している。

 次の手順がユーゴスラビア攻撃の出発点である。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6

 両者の作戦概要ははっきりしている。

 はクイーン翼にキャッスリングし、hポーンを突き進めてh列を素通しにし、黒枡ビショップ同士を交換することにより黒のキング翼を弱体化させる。

 は自分が詰まされないうちに白キングを攻撃する必要がある。その攻撃は通常は半素通しc列を利用して行われる。

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2016年12月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(453)

「Chess」2016年8月号(1/4)

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2016年グランドチェスツアー第1・2戦

F.カルアナ – H.ナカムラ
パリ大会、快速戦、2016年

 両者とも快速戦の最終対局で勝とうとして全力を傾けてきた。ここで 45.Rc7! Bd8 46.Rc8 Ra2+ 47.Kg3 Bb6 はブリッツ戦だけにカルアナとしても非常に怖く見えたに違いない。しかし驚いたことにここでは白の勝勢だった。48.Ng5! Bf2+ 49.Kg2 Be3+ 50.Kh1 Ra1+ 51.Bf1!(妙手)

51…Rxf1+ 52.Kh2 Bxf4+(52…Bb6? 53.Rb8)53.Kg2 Bxg5 54.Kxf1 Kf7 55.d8=Q Bxd8 56.Rxd8

45.Re1 Kf7 46.Ng5+ Bxg5 47.fxg5 Rd6

 危険なパスポーンを手中に収めた。ここではもう勢いは明らかに黒の方に振れていた。しかし解説者たちはまだ引き分けに終わるだろうと予想していた。

48.Re5 Rxd7 49.Rxb5 Rxd3 50.Rb6 Bf3+ 51.Kh2 Be4

 黒は少し駒の働きに優り、自分から米国ナンバーワンの地位を奪った男を負かそうとするナカムラの決意にも助けられていたことは確かである。しかしもちろんまだ引き分けに終わるはずだった。

52.Bf1 Rd1! 53.Bc4+ Kg7

54.b5??

 カルアナはナカムラが巧妙に張ったクモの巣に気がつかなかった。ここは 53.Kg3 と指さなければならなかった。

54…f4

 あらま。突然白は詰みを避けられなくなった。

55.Kh3 Bf3 0-1

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(この号続く)

2016年12月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(219)

「Chess Life」1998年7月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 5)2…h6! 3.Bh4 c6!

 私はこのやり方こそホッジソン攻撃を指す楽しさのほとんどを取り去ると考えている。黒は全然代価を払うことなく白のビショップをg5より劣る地点(このビショップにとってはe1-h4の斜筋よりもc1-h6の斜筋の方が有用である)に追いやり、本譜の手のあと 4…Qb6 で白のbポーンを脅かす用意をしている。4…Qb6 は先手になりeポーンを釘付けからはずして黒枡ビショップを本来の斜筋に沿って展開できるようにする。黒の作戦には戦略上も戦術上も欠点がない。

 グランドマスターの中には 2…c6 から 3…h6 という手順の方を好む者がいる。私には本譜の方がわずかに正確に感じられる。ビショップをf4に置く機会を白に与えないからで、すぐに 3.Bf4 は明らかに無害である。

 5A)4.Nf3 Qb6 ホッジソン対アディアント(アムステルダム、1996年)

5.b3

 こう突くとクイーン翼がいくらか弱体化する。しかし 5.Qc1 だと 5…g5!? 6.Bg3 g4 7.Ne5 Qxd4 というようにdポーンを取られる恐れがある。デュールース対ボルゲ戦(レイキャビク、1996年)では黒は中央での優位と働きに優る駒で次のようにはっきり優勢になった。8.Nd2 Nd7!? 9.c3 Qb6 10.Nxg4 h5 11.Ne5 Nxe5 12.Bxe5 f6 13.Bf4 e5 14.Be3 c5 15.f3 Be6 16.Bf2 O-O-O 17.Qc2 Kb8 18.O-O-O Ne7 19.Kb1 Bh6

 もちろん 5.Qc1 に対して 5…Bf5 と堅実に展開を図れば、まったく理にかなっていて完全に互角を目指す満足できる手段となる。特に明快な局面の方を好む者にとってはうってつけである。

5…Bf5 6.e3 e6 7.Bd3 Bxd3 8.Qxd3 Nd7 9.O-O Be7 10.Bxe7 Nxe7 11.c4 O-O 12.Nc3 Qa6

 ここを手始めにアディアントはクイーンとナイトの配置を誤った。12…Rfd8 から 13…Rac8 ならほぼ互角である。

13.Rfd1 Nb6?!

 ホッジソンは 13…Rfd8 には 14.Rac1 で互角の形勢としている。本譜で白は巧みな捌きで優勢な收局を築き見事な勝ちを収めた(『チェス新報』第67巻第449局にホッジソンの解説が載っている)。

14.Rdc1! dxc4 15.Qf1 Nd7 16.bxc4 c5 17.d5 Rad8 18.Rab1! exd5 19.cxd5 Qxf1+ 20.Kxf1 b6 21.a4 f5 22.a5 Nc8 23.Nb5! bxa5?! 24.Nc7! Rf7 25.Rb5 Ncb6 26.Rxa5 Nf6 27.Rcxc5 Rdd7 28.Rxa7 Nfxd5 29.Nxd5 Rxd5 30.Rcc7 Rxc7 31.Rxc7 Nd7 32.Nd4 Nf6 33.Ra7 g6 34.h4 f4? 35.Nc6! Rd7 36.Rxd7 Nxd7 37.exf4 Nc5 38.Ke2 Kg7 39.Nd4 Nb7 40.g4 Nd6 41.Kf3 h5 42.g5 Kf7 43.f5! gxf5 44.Kf4 Kg6 45.f3 Nb7 46.Nxf5 Nc5 47.Nd4 Nd3+ 48.Kg3 黒投了

 5B)4.e3 Qb6 アダムズ対ピケット(ベイクアーンゼー、1996年)

5.Qc1

 白のdポーンは安全だが、別の戦術の可能性が頭をもたげている。それは守られていない状態のh4のビショップである。だから黒はすぐに 5…e5!? と突くことができる[訳注 6.dxe5 なら 6…Qb4+]。5.Qc1 でなく 5.b3 なら黒にはやはり意欲的な 5…e5!? と堅実な 5…Bf5 の選択肢がある。これらのどの場合でも黒がいずれ正当な互角を期待する理由が十分にある。

 この試合はどこかでほんのわずかの進展を白が図るのも防ぐ黒のやり方を絵に描いたように完璧に見せつけてくれる。

5…Bf5 6.Nf3 e6 7.Be2 Nd7 8.Nbd2 Be7 9.Bxe7 Nxe7 10.c4 O-O 11.O-O a5!

 白がクイーン翼で陣地を広げるのを防いだ。

12.b3 Rfc8! 13.Qa3 Qd8! 14.Rfc1 Bg6 15.Qb2 c5!

 黒は中央での対等な関係を達成した。

16.cxd5 Nxd5 17.dxc5 Rxc5 18.Rxc5 Nxc5 19.Qd4 Qf6! 20.Rc1 引き分け

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2016年12月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(452)

「Chess Life」2016年7月号(1/1)

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米国選手権戦

自戦解説 GMファビアノ・カルアナ

シチリア防御スヘフェニンゲン戦法 (B80)
GMファビアノ・カルアナ(2870)
GMヒカル・ナカムラ(2861)
米国選手権戦第4回戦、ミズーリ州セントルイス市、2016年4月17日

 大会優勝は明らかに第4回戦でのナカムラ戦の勝利に負うところが大きかった。激戦になると覚悟していたが、あとでナカムラが背水の陣でこの試合に勝たなければならないと考えていたことを知った時には驚いた。大会のこんな早くにそんなことはあるはずもなかった。

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5!?

 ナイドルフ戦法は長年ナカムラの常用戦法の主柱を成してきたので大して驚かなかったが、この 7…h5 というまれな戦型は予想していなかった。黒は g2-g4 突きを防いで白の攻撃を一筋縄ではいかないようにする。その一方で黒のキング翼は弱体化してキングはたぶん長い間中央に居続けるだろう。だからこの戦略にはある程度の危険性がある。

8.a4

 これは大した手ではないが私としてはなにか新機軸を打出してみたかった。主流手順は 8.Qd2 と 8.Bc4 である。

8…Nc6 9.Bc4

 9.Be2 でスヘフェニンゲン模様を目指すのもあるが、私はもっと攻撃的に指してみたかった。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5 12.Bb3 Bd7

 ここで私は長考に入った。黒は続いて …Rc8 から …Nc4 と指してくる。そして私にはどちらのビショップを交換するかの選択肢がある。b3のビショップの方がずっと大切に思えたので交換することにしたのは…

13.f4 Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3

 黒は双ビショップになったが、こちらには f4-f5 から黒の白枡の弱体化を目指す反撃策が豊富にある。

15…Qc5?!

 対局後ナカムラはこの手を反省した。対局中私には自然で強い手に感じられたが、貴重な手を損したという彼がたぶん正しいのだろう。

 黒はすぐにキャッスリングすることができた。15…O-O-O に 16.f5 と突いてくれば 16…d5 と突き返してc7のクイーンの利きがh2に通る。

16.Rad1

16…g6?!

 この手こそ本当に手損のように思われる。結局のところこちらが f4-f5 と突くのを防いでいないからである。

 私は 16…h4!? の方を気にしていた。適切な状況で …Nh5-g3(+) と指す狙いである。

17.Qe2

 この手がうまい手で、クイーンを釘付けからはずし、…Ng4 がクイーン当たりにならないようにし、e4-e5 突きと f4-f5 突きの両方を見ている。

17…O-O-O

 黒は 17…h4!? と指すべきところだろう。想定される手順は 18.e5 dxe5 19.fxe5 Nh5 20.Qf3 O-O 21.Qxb7 Ra7 22.Qe4 Ng7 で、黒にはポーンの代償がある。

18.f5

 18.e5 の方が強力だと推奨されたが、対局中はそれほどはっきりしないように思われたし、対局後でもそうである。18…dxe5 19.fxe5 Ng4 20.Rxf7 Kb8 となって白が優勢なのは疑いないけれども避けるべき落とし穴が多い。

18…e5

 18…gxf5 19.exf5 e5 は完全に成立していた。20.Bxf7 exd4 21.Qxe7 となったとき私が見落とし、たぶんナカムラも見落とした手は 21…Qe5! 22.Qxe5 dxe5 23.Nd5 Nxd5 24.Bxd5 Bxa4 で、收局は互角に近いはずである。

19.Nf3 gxf5

20.Ng5!

 ナカムラはこの手を見落としたのかもしれない。このナイトがf7に行けば効果は絶大である。

 20.exf5 は 20…h4 のあと …Nh5 から …Bc6 を狙われてわけが分からなくなる。

20…f4

 この手は大局的にみて正しいようである。f4のポーンは白を締めつける効果を発揮している。

 20…fxe4 と取るのは面白い局面になる。21.Rxf6!? これが唯一の手というわけではないが、対局中はこう指すつもりだった(21.Nd5 もある。21…Nxd5[21…Bg4 は悪手で、22.Nxe7+ Kb8 23.Qf2 Qxf2 24.Rxf2 Nh7 25.Nxh7 Bxd1 26.Nf6 e3 27.Rf1 e2 28.Re1 で白のナイトが黒のルークを圧倒している]22.Rxd5 Qb4 23.Nxf7 Rhf8 24.Nxd8 Rxf1+ 25.Qxf1 Kxd8 白が優勢かもしれないが局面はねじり合いが続く)21…Bg4 22.Qe1 Bxf6 23.Ngxe4 Qb4 24.Nxf6 Bxd1 25.Qxd1 小駒が盤上を支配しているようなのでこのような局面は白が優勢だと思っていたが、黒が戦力得なので客観的には形勢不明である。

21.Rd3

 感触の良い手である。ルークが …Bg4 の利きから逃れ、将来c3またはb3に転回する狙いがある。21.Nxf7 Bg4 22.Rf3 Bxf3 23.gxf3 も魅力的だったが少し考えてそれ以上を目指せると判断した。23…Kb8 24.Nxh8 Rxh8 はたぶん黒が問題ない。

21…Kb8

 自然な手で、実戦的には最善手だろう。

 コンピュータの勧める手は 21…Rdf8 で私は 22.Nd5(22.Nxf7 Rh7 23.Ng5 Rg7 24.Ne6 Bxe6 25.Bxe6+ Kb8 26.b4! の方がはるかに強力で黒は長くもたないと思う)22…Nxd5 23.Bxd5 で読みを打ち切っていたが、23…Qa7! で受かっているようである。もっともこのように指すには破格の勇気が必要だと思う。とりあえずの 24.Nf3!? でさえ黒にとってはいずれかなり厄介になるかもしれない。21…Bg4 は 22.Qd2 で全然黒の大義に役立たない。21…h4 は対局後解説者達が指摘していた。22.Nd5 Nxd5 23.Bxd5 Bxg5 24.Rc3 Kb8 25.Rxc5 dxc5 と進んだとき私の好みは単純な 26.h3 で、黒キングは安全とは程遠い。

22.Nxf7 h4!

 この手が要点で好手だった。急に …Nh5 から …Ng3(+) が視野に入ってきた。やはり黒枡ビショップのないことが痛切にひびいている。

23.Nxh8

 この手は正確さを欠いていた。直感どおりに争点を維持すべきだった(もっと直感に従う必要がある)。

 …d6-d5 突きを避ける 23.Qf2! の方が良かった。それでも 23…d5 なら 24.Qxc5 Bxc5 25.Nxd8 Rxd8 26.Bxd5 となって …Nh5-g3! を狙うには黒ルークはh8にいる必要がある。

23…Rxh8 24.Qf2 Qb4??

 この決定的な大悪手にはまったく驚いた。黒としてはナイト同士を交換して白ビショップをd5の拠点に残すのはどんなことがあっても許すべきでないのは明らかだからである。

 ナカムラは 24…Qa5 を指摘した。成立するが形勢は黒の方が悪い。しかし 24…d5!! と突くのが反撃の絶好の機会だった。25.Bxd5(25.Qxc5? は 25…Bxc5 26.Bxd5 Nh5! がモーリス・アシュリーのよく言うところの不意打ちの一発になる)25…Qxf2(25…Qc7!? のような手さえ注目に値するが、たぶん互角には十分でない)26.Rxf2 Bc5 27.Rff3 Bg4(ここで狙い筋の 27…Nh5 は 28.h3 Ng3+ 29.Kh2 で何ももたらさない)28.h3 Bxf3 29.gxf3 白がポーン得だが黒は引き分けるのにそう多くの問題がないはずである。

25.Nd5 Nxd5

 25…Qxe4 には素朴な 26.Nxe7 でなく 26.Nxf6! Bxf6 27.Rxd6 と来られてビショップを取られる。

26.Bxd5 Bxa4?

 黒はビショップを取られるこのポカがなかったらもっと長く指せたかもしれないが結果には変わりない。白は交換得でおまけに主導権もあるのだから。

27.Ra3!

 ナカムラの見落とした手がこれだった。ビショップは動けず、白は c2-c3 から b2-b3 でビショップが取れる。

27…h3

 27…Bb5 には 28.Qb6! が妙手となる。

28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 黒投了

 31…Bxg3 には単純な 32.Qf3! Qd2 33.Ra2 があるので投了はやむを得ない。


9回の選手権優勝者が一堂に。閉会式での3人の米国チャンピオンたち(左から右へ)GMアレクサンドル・オニシュク(2006年)、FMスニル・ウィーラマントリ(ナカムラの義父)、ヒカル・ナカムラ(2005、2009、2012、2015年)、GMアレクサンドル・シャバロフ(1993、2000、2003、2007年)

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(この号終わり)

2016年12月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(218)

「Chess Life」1998年7月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 4)2…Nf6 3.Bxf6

 この戦型の実戦的な重要性は、この局面が 1.d4 Nf6 2.Bg5 d5 3.Bxf6 という手順からも生じるので増している。自発的に二重ポーンを受け入れるのは私の棋風と相容れないが、気にしない人にとっては問題ない。

 4A)3…exf6 GMジュリアン・ホッジソン対GMセルゲイ・ティビアコフ(フローニンゲン、1994年)

 黒はこう取り返して自分のビショップのために格好の斜筋を確保する。もっとも中央での影響力が減少するという代価を払っている(3…gxf6 と比較して)。私はこれを「快適展開」戦型と呼んでいる。

4.e3 Be6 5.g3!

 黒にはeポーンが欠けているので、白の戦略目標はc4またはe4にポーンを突いて黒のd5の中央拠点に挑むことである。黒はこれらのポーン突きを無効にするか阻止しようとする。

5…f5! 6.Bg2 c6 7.Nd2 Nd7 8.Ne2 Bd6 9.b3

 9.O-O は 9…O-O 10.c3 Nf6 11.Qc2 Ne4 12.Nf4 Bxf4 13.exf4 b6 14.Nf3 f6 となって黒が大変堅固で大したことがなかった。このアダムズ対ティビアコフ戦(番勝負第10局、ニューヨーク、1994年)は23手目で合意の引き分けに終わった。

9…Nf6 10.c4 Bb4!? 11.O-O!? Bxd2

 黒は挑戦に応じた。考えを変えて 11…dxc4 と指すこともできたが、12.Nxc4 でそれまでの指し手が無駄になり白にわずかな有利が約束される。

12.Qxd2! dxc4 13.Nf4! cxb3 14.Nxe6 fxe6 15.Rfb1 O-O 16.Rxb3

 クイーン翼の素通し列、いくらか不安定なe6-f5ポーン、白のキズのないポーン陣形、それに白駒の連係の良さは白にポーンの代償があることを意味している。残りの指し手と形勢記号でこの項を締めくくる。ティビアコフは『チェス新報』第62巻第394局で本局を詳細に解説している。

16…Qd7 17.Qb4 Rfb8! 18.Rab1 Nd5 19.Qa4 b5!? 20.Qa5 Rb6 21.Rc1 Qb7 22.a3 Ra6 23.Qe1 Qd7 24.Rc5 Rb8 25.h4! Rab6 26.h5 Qf7 27.Bf3 Rd8 28.Rb2 Rd6 29.Kg2 Nf6 30.Qb4 Nd5 31.Qe1 Nf6 32.Qb4 Nd5 33.Qa5!? Qb7 34.Qe1 Nf6 35.Rbc2 Qd7 36.Qh1!? a5?! 37.Qh4?! h6 38.Qf4 a4 39.Qe5 Ra6 40.Rc1 Rb6 41.R5c2 Nd5 42.Rc5 Nf6 43.R1c2 Nd5 引き分け

 4B)3…gxf6

 中央に向かって取り返すことにより黒はそこでの可能性を高めた。それでも展開の遅れと黒キングのいくらかの不安定という二律背反は避けられない。白はそれにつけ込むために局面の開放に努めるべきである。「微温的」態度では何にもならない。4.e3 c5 5.c3 Qb6 6.Qb3 e6 7.Nd2 Nc6 8.Ngf3 Bd7 9.Be2 Na5 10.Qc2 cxd4 11.exd4 Bb5 12.Bxb5+ Qxb5 13.a4 Qc6 14.O-O Bd6 は互角である(フェルナンデス対タタイ、バルセロナ、1985年)。

 今のところ実戦例は数少ない。4.c4 dxc4 のあとの典型的な実戦例を年代順に3局示す。

 4B1)5.e3 c5 6.Bxc4 cxd4 7.exd4 Bg7 8.Ne2 O-O 9.Nbc3 Nc6 10.Qd3! Nb4?!(ひどい手損。10…f5 11.Rd1 e5! と指すことが必要)11.Qd2 Bf5 12.O-O Rc8 13.Bb3 e6 14.Rfd1 Qe7 15.a3 Nc6 16.d5 白が優勢(ロメロ・オルメス対スンイェ・ネト、ベナスケ、1985年)

 4B2)5.Nc3 c6 6.a4 e5! 7.Nf3 Bg7 8.e4 Bg4 9.Bxc4 exd4! 10.Qxd4 Nd7 ここから 11.Qe3?! Qb6! 12.Qxb6 と進んだとき黒は 12…axb6 と取っていればわずかに優勢な收局にできた(ホッジソン対ブル、アマンテーア、1995年)。IMアルカディ・ブル は白の改善策として 11.Nh4 と 11.Be2 を示した。これならほとんどいい勝負だろう。

 4B3)5.e3 Rg8!? 6.Nc3 c6 7.Qc2 f5 8.Bxc4 Rxg2 9.Nf3 e6 10.O-O-O(メドゥナ対ブル、プラハ、1996年)ブルは黒の正着として 10…Nd7 をあげ、11.e4 や 11.Rhg1 で白に完全に代償があると考えている。

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2016年12月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(451)

「Chess Life」2016年6月号(3/3)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ルイロペス・ベルリン防御 (C65)
GMファビアノ・カルアナ(FIDE2794、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年3月20日

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.d3 Bc5 5.Bxc6 dxc6 6.Nbd2 O-O 7.Qe2 Re8 8.Nc4 Nd7 9.Bd2 Bd6 10.O-O-O b5 11.Ne3 a5 12.Nf5 a4 13.Bg5 f6 14.Be3 Nc5 15.g4

 局面は攻め合いの様相を呈している。白はクイーン翼にキャッスリングして速攻に期待している。黒は反対翼ですぐ攻撃できそうだがそれは幻想である。

15…Be6 16.Kb1 b4 17.g5 b3 18.Rhg1!

 黒の狙いをまったく無視している。ここでは変化が多いが実戦の手順だけに的をしぼる。

18…bxa2+ 19.Ka1

19…Bxf5

 白のナイトを消すのは状況を考えれば非常に自然に思われる。19…a3 は 20.b3 g6 21.Nh6+ Kh8 22.d4 となって白の主導権がとてつもなく大きくなる。

20.exf5 a3 21.b3

 黒の問題はここで良い攻撃パターンが一つもないことである。その一方でキング翼は明らかにいつまでも持ちそうにない。

21…Na6 22.c3 Bf8 23.Nd2!

 この手は私の好みである。もっともコンピュータはもっとほかの方がいいと言っている。ナイトをe4に組み替えるのは自然で強力である。

23…fxg5 24.Rxg5 Nc5 25.Rg3!

25…e4

 25…Qxd3 は 26.Qxd3 Nxd3 27.Ne4(d3のナイトが浮いていてf6での狙いもあり黒は交換損になる)27…Nf4(27…Red8 でも 28.Bg5 で白が勝つ)28.Nf6+ である。

26.Bxc5 Bxc5 27.Nxe4

 このナイトはまるでタコだ。

27…Bd6 28.Rh3 Be5 29.d4 Bf6 30.Rg1 Rb8 31.Kxa2 Bh4 32.Rg4 Qd5 33.c4 黒投了

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(この号終わり)

2016年12月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(217)

「Chess Life」1998年7月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 3)2…g6 GMイゴール・ミラディノビッチ対GMスピリドン・スケンブリス(アノ・リオシア、1997年)

 この手は正当な作戦に見える。白が黒の黒枡ビショップの正常な展開を邪魔しているので、黒はそのビショップをフィアンケットする。しかし本局は私がこれまで見たことのある唯一の重要な試合で、確かな評価は不可能である。ここから至ることのできる既知の戦型は黒のフィアンケットに対するトーレ攻撃で、1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.Bg5 Bg7 4.Nbd2 d5 5.e3 となる。しかし本局はまったく違った方向へ進む。

3.e3 Bg7 4.c3

 代わりに 4.Nf3 ならトーレの局面になるだろう。積極的な 4.c4 には黒は 4…c5 と反撃するとスケンブリスが指摘している。

4…Nd7 5.Bd3 Ngf6 6.Nd2 c5 7.f4?!

 本譜の手は積極的すぎて展開で手損をし中央の白枡を弱めているとのスケンブリスの説に同感である。7.Ngf3 なら通常の手である。

7…Qb6! 8.Rb1 Qe6! 9.Qf3 cxd4 10.cxd4 h6 11.f5

 この手で局面がかなり急迫した。11.Bxf6 Nxf6 12.Bb5+ なら普通である。

11…gxf5 12.Bxf5 Qa6 13.Bh4 Nb6 14.Ne2 Bxf5 15.Qxf5 Rc8 16.Nc3 O-O

 局面は混戦模様である。実戦でミラディノビッチは 17.Bxf6 と指したが、あまりうまくいかなかった。代わりにスケンブリスは 17.Rf1!? や 17.Qf1!? の方が優るかもしれないと指摘している。この局面が再び出現する可能性はほとんどないので、ここで止めておく。この熱戦は60手で引き分けに終わった。『チェス新報』第68巻第327局でスケンブリスが詳細に解説している。

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2016年11月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(450)

「Chess Life」2016年6月号(2/3)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの悲劇
GMレボン・アロニアン(FIDE2786、アルメニア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第6回戦、モスクワ、2016年3月17日

 74.Rd7

 黒は1ポーン損だがかつてある達人はルーク收局はすべて引き分けであると喝破した。マキシム・バシエ=ラグラーブが「chess.com」で徹底した詳細な分析をとおして証明したようにこの局面も例外でない。その詳細で読者をうんざりさせることはしないで何が起こったかだけを書く。ナカムラはルークを動かせば受かっていた。e2でもa5でも良さそうで、たぶんa6でも大丈夫だろう。キングを動かすのは致命傷になる。時間に追われたナカムラは明らかに動かすつもりでキングをつまんだ。「ジャドゥーブ(直します)」と言おうとしたが、アロニアンに審判を呼ばれてしまった。審判はナカムラにキングを動かさせた。そして絶望的な局面になった。

74…Kf8 75.Kf6 Ra6+ 76.Rd6 Ra8 77.h5 Kg8 78.f5 Rb8 79.Rd7 Rb6+

80.Ke7

 ここは 80.e6 fxe6 81.Rd8+ Kh7 82.fxe6 でも構わない。

80…Rb5 81.Rd8+ Kh7 82.Kf6 Rb6+ 83.Rd6

 83.Kxf7 Rf6+! 84.Ke7! Rxf5 でも白の勝ちだがそんなことをする必要はない。

83…Rb7 黒投了

 ナカムラにとっては悲劇と言うしかない。大会前半でナカムラの精神力はなえた。

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(この号続く)

2016年11月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(216)

「Chess Life」1998年7月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 2)2…c5 GMジュリアン・ホッジソン対GMイワン・ソコロフ(フローニンゲン、1996年)

 黒のこの手も威勢がいい。もっとも少なくともキングからは遠い所でやっている。それでも黒がこんなことをやる余裕があるのかは疑問に思う。

3.dxc5! f6 4.Bh4 e5 5.e4! Be6

 これがホッジソン対ファン・ベリー戦(ホルゲンB組、1995年)の 5…dxe4 を改良しようとしたソコロフの手だった。その試合は 6.Qxd8+ Kxd8 7.Nc3 Bxc5 8.O-O-O+ Nd7 9.Nxe4 Be7 10.f4! exf4 11.Nf3 Kc7 12.Nc3! Nb6 13.a4 Bb4 14.a5! Bxa5 15.Nb5+ Kb8 16.Rd4! と進んで白が展開で大差をつけ勝勢になった。『チェス新報』第65巻第350局のホッジソンの解説をぜひ読んで欲しい(79手で白の勝ち)。

6.exd5 Qxd5 7.Qxd5 Bxd5 8.Nc3 Be6 9.Nb5!

 白は駒の働きに優り、黒の陣形上の弱点と相まって、クイーンが交換されたことにより明らかな優勢が保証されている。

9…Na6 10.f4!

 白のこの手は力強い。10…exf4 なら 11.Ne2! で白の両方のナイトが重要なd4の地点に行ける。それほど厳しくない者なら 10.Nd6+ で満足するだろう。

10…Bxc5 11.fxe5 fxe5 12.O-O-O Nf6 13.Nf3 O-O 14.Nxe5 Ne4 15.Nd4! Bxa2 16.Bxa6 bxa6 17.Rhe1!

 白はポーンの形が良く(cポーンはパスポーン!)、5個の駒は黒の散らばった駒と弱点につけ込むようによく協調している。読者は『チェス新報』第68巻第325局のホッジソンの解説を読んでみて欲しい。白は次のように勝ちを決めた。

17…Nf6 18.Bxf6! Rxf6 19.Nd7 Bxd4 20.Rxd4 Rc6 21.Ne5 Rc5 22.b4 Rc7 23.Kb2 Be6 24.c4! Rf8 25.Kc3 Bc8 26.Red1! Re7 27.Nc6 Rc7 28.Na5! Rf2 29.R1d2 Rf1 30.c5 h6 31.c6 Kf7 32.Kb2 Ke7 33.Re2+ Kf7 34.Nc4! Bf5 35.Ne3 Re7 36.Rdd2! Rb1+ 37.Ka2 Bg6 38.Rd7! Rxd7 39.cxd7 黒投了

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2016年11月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(449)

「Chess Life」2016年6月号(1/3)

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世界選手権挑戦者決定大会

GMアレハンドロ・ラミレス

ナカムラの見損じ?
GMセルゲイ・カリャーキン(FIDE2760、ロシア)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2790、米国)
FIDE挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年3月12日

 29.h4

 局面は黒の非勢である。白はd4でのせき止めがうまくいっていて、d5にもいくらか圧力をかけている。黒がd4の地点で局面を単純化すれば、b7に働きの悪いビショップが残される。そして白がナイトをc5に据えることにでもなれば、白に大局上の大きな優位を与えずに黒がそのナイトを取り除くのは不可能になる。例えば 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 33.Nc5 となれば、黒陣は私がこれまで出会った中で一番かっこいいというものではないが、持ちこたえる可能性はある。しかしナカムラの選んだ手は…

29…Nxg3??

 この手は即負けになる。ナカムラはカリャーキンがこの手を見逃したと思ったのだろうか。ナカムラが見損じたのだろうか。真相はまったく闇の中である。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+

 黒がこの一発に期待していたのは明らかだった。キングとナイトの両当たりになっていて、白がナイトをf2に引けばc1のルークが落ちる。しかし事はそれほど簡単でない。

33.Qf2! Qxd3 34.Rc7

 突然終わってしまった。手順の終わりで両当たりをかけているのは白の方である。そしてただで駒得になる。勝負がついた。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1 黒投了

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2016年11月18日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(215)

「Chess Life」1998年7月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5(続き)

 1)2…f6 GMドラガン・コシッチ対GMムラーデン・パラツ(アンツィオ、1994年)

 このビショップを追い払う欠点のない方法があるので、キング翼を弱めg8のナイトから自然なf6の地点を取り上げることはまったく必要ない。私はこの手を信用していない。

3.Bh4

 このビショップをh4-d8の斜筋に置いておくのは一貫性のある指し方だと思う。ホッジソン対ラリッチ戦(ガーンジー、1994年)では白は 3.Bf4 と指した。そして 3…Nc6 4.Nf3 Bf5 5.e3 Qd7?! 6.a3 g5 7.Bg3 h5 8.h3 e6 9.c4 Nge7 10.Nc3 Bg6 11.Bh2! Bh7 と進んだとき、白は手損の 12.Nb5?! の代わりに 12.Rc1 と指していたら明白な優勢を保持していただろう(GMボグダン・ラリッチ)。

3…Nh6 4.e3 c5

 黒はポーンを手当たり次第に突けると思っている。3手目と関連した継続手は 4…Nf5 である。もっとも 5.Bd3! Nxh4 6.Qh5+ g6 7.Qxh4 となるとキング翼の弱点の代償がどこにあるのか私には分からない。

5.dxc5 e5?!

 どうして普通に 5…e6 と突いてdポーンを安全にしないのだろうか。

6.Nc3 Be6 7.Bb5+ Kf7?!

 普通の 7…Nc6 でも 8.Qd3 から 9.O-O-O または 8.Nf3 Nf5 9.Nxe5!?(コシッチ)で白の主導権が強力になる。

8.Nf3 Be7 9.Ba4! Qa5?

 白は 10.Bb3 でdポーンを取る手を狙っていた。黒は 10.Bb3 に 10…Rd8 でクイーン翼ナイトを釘付けにすることにより対処できると期待していた。しかし入り乱れた局面ではしばしば戦術に最終決定権がある。黒は 9…Nc6 と指す必要があったが、10.Bb3 でポーン損の見返りがないままである。

10.Nxe5+! fxe5 11.Qh5+ g6

 11…Kf8 は 12.Qe8# で詰みになる。

12.Qxh6 Bxh4 13.Qxh4 Qxc5 14.O-O-O Nc6 15.Nxd5! Bxd5 16.Rxd5 黒投了

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2016年11月16日 コメント(2)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(448)

「Chess」2016年6月号(5/5)

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戦略の一口講座 双ビショップ

GMダニー・ゴーマリー

M.カールセン – H.ナカムラ
ロンドン・チェスクラシック、2015年

24…Nc3

 ナイトはここでは根なし草で簡単に追い払われる。黒は自陣に重大な弱点がないけれども、じっくり圧力を強めるという白の作戦に積極的に対抗していく作戦がない。

 24…Rfe8!? と指すことはできる。その意図は …Nc5 のあと …Nd4 から …b6 で黒枡「封鎖」のようなものをこしらえることだろう。しかし問題はひどく遅くて、双ビショップの機動性のためにそんなぜいたくな手を指せないことが多いことである。25.Be3! が典型的な応手で、c6のナイトを取ってa7のポーンを取るのが狙いで(25.Rxd8 Rxd8 26.Rb1 Rd7 27.Be3 も白がわずかに優勢)、25…Nc3 26.Rxd8 Rxd8 27.a3 で実戦とほとんど同じく白がわずかな有利を維持している。

 注意すべきは 24…Nc5? で、25.Bd6 のためにポカになる。

25.Rd2! Rxd2 26.Bxd2 Ne2+

 双ビショップの強さと支配の広さの好例は、26…Nxa2?? 27.Bxc6! bxc6 28.Ra1 でa2のナイトが捕まる手順で確認できる。

27.Kh2 Rd8 28.Be3 Nc3 29.a3 Rd3 30.Rc1 Nd1 31.Be4! Rd7

32.Bc5!

 なんとしても双ビショップは維持しなければならない。32.Bxc6 bxc6 33.Bxa7 Rxa7 34.Rxd1 Rxa3 は互角にしかならない。

32…Nb2 33.Rc2 Na4 34.Be3 Nb6 35.c5 Nd5 36.Rd2 Nf6 37.Rxd7 Nxd7

 これで純粋な2ビショップ対2ナイトの局面になった。局面が開放的であることを考えれば明らかに白の方が有利である。しかしこのような局面では少しずつゆっくりと圧力を強めていく忍耐力と能力とが要求される。カールセンはそのような資質を豊富に持っている。

38.Kg3 Kf8 39.f4 Nf6 40.Bf3 Ke7 41.f5!

 この手には目的が二つある。一つは黒の …Ke6 と指す可能性を防ぐことで、そのあと …Nd5 とやってくれば白にとって厄介なことになるかもしれない。そしてもう一つはg7ポーンを「凍結」することである。もっともこのポーンはずっと後で標的になる。

41…gxf5 42.gxf5 Kd7 43.Kf4 Ne8 44.Kg5

44…Ke7

 すでに防御は極度に難しくなっていて、どの手も精密機械のように予測通りでやる気満々のカールセンと対する心理的圧迫は神経をすり減らす。

 代わりに 44…f6+ なら 45.Kf4 Nc7 46.a4 で、白が敵陣突破できるかは明白でないけれどもカールセンは弱点を探していろいろ策をめぐらしただろう。

45.Bf4 a6 46.h4 Kf8 47.Bg3 Nf6 48.Bd6+ Ke8 49.Kf4 Nd7 50.Bg2 Kd8 51.Kg5 Ke8 52.h5 Nf6 53.h6! Nh7+ 54.Kh5 Nf6+ 55.Kg5 Nh7+ 56.Kh4! gxh6 57.Kh5 Nf6+ 58.Kxh6 Ng4+ 59.Kg7 Nd4 60.Be4 Nf2 61.Bb1 Ng4 62.Bf4

62…f6?

 62…Ne2 の方が見込みがあった。もっともここでも互角への「明快な」手段はない。人間選手がこのような局面を守るのは非常に難しい。防御の観点から目指すべきものがないということが分かっているので抵抗する力が必然的に萎えるからである。これに対し攻撃側の選手はずっと探索し続けることができる。62…Ne2 なら

 a)63.Bd2 Ng3! 64.Bc2 Nh5+ 65.Kh8!(キングが隅に行くのはおかしく見えるが、圧力は強まり続ける)65…Ngf6 66.Ba4+ Nd7 67.c6 bxc6 68.Bxc6 白は新たに黒のaポーンという標的を得た。その一方でこの変化では戦力がさらに減っていて、理論的には黒の引き分けの可能性が増すはずである。一つの可能性は2ビショップ対1ナイトの收局で、理論的には勝ちだが実際に勝つのは不可能に近い。

 b)63.Bc7 Nc3 64.Bc2 Ne3 65.Bd3 Ncd5 66.Be5 やはり黒は当面持ちこたえているが、盤上の防御は極度に難しいままである。

63.Be4!

 これで黒は支えきれない。

63…Nf2 64.Bb1 Ng4 65.Be4 Nf2 66.Bxb7! Nd3 67.Kxf6 Nxf4 68.Ke5 Nfe2 69.f6 a5 70.a4 Kf7 71.Bd5+ Kf8 72.Ke4 Nc2 73.c6 Nc3+ 74.Ke5 Nxa4 75.Bb3 Nb6 76.Bxc2 a4 77.c7 Kf7 78.Bxa4 1-0

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(この号終わり)

2016年11月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(214)

「Chess Life」1998年7月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ホッジソン攻撃 1.d4 d5 2.Bg5

 チェスの世界は科学と創造の時代に入っている。布局では新しい道が探検され、以前から知られていた道は疑問に付されたり拡張されたりしている。熱心な探検者の中には強くて創造的で恐れを知らぬイギリスのグランドマスターのジュリアン・ホッジソンがいる。彼は1980年代後半に白が黒枡ビショップを早々とg5に展開するのを大前提とする得意戦法を作り上げ始めた。具体的には 1.d4 d5 2.Bg5 と 1.d4 Nf6 2.Bg5 がその布局である。

 1989/90年のスタバンゲル(ノルウェー)国際大会で彼と黒で対戦することになった時、初手にどう応じるか決めるために自分の研究ノートに当たってみた。1.d4 d5 2.Bg5 について得られた情報はほんのわずかで、自信が持てなかったので 1…Nf6 と指すことにした。

 今ではかなりの信頼できるデータがあり、白と黒の着想を簡潔に紹介することは読者の興味を引くはずだと判断した。探検の確固とした主導者は戦法にその名前を付けられてしかるべきである。それがこのホッジソン攻撃という名前である。布局コードはD00である。

 出発点となる局面は 1.d4 d5 2.Bg5 から始まる。

 歴史的に白の2手目の出撃が無害で素人っぽいとみなされてきたことはほとんど驚くにあたらない。その理由は次のとおりである。

1.白は手番を利用してd5に圧力をかけることをしていない。

2.白は「ビショップより先にナイトを展開すべし」という経験則に違反している。

3.このビショップは何も狙っていないし弱点となる可能性のある個所を攻撃してもいない。

4.このビショップは黒陣側にいていくらか不安定で、簡単に押し戻される。

 それでも多くの強豪GMたちは今ではホッジソン攻撃を用いている。どうしてだろうか?それには二つの大きな理由があると考えられる。

1.このビショップは黒のeポーンを釘付けにして黒の黒枡ビショップが自然な斜筋につくのを妨害しているので目障りである。

2.黒はこのビショップを追い返すのにやりすぎて、自陣をひどく弱めるかもしれない。

 現在のところ黒のよく指す手は5手あり、個人的な好みと評価に基づいて「最悪から最善」の順で考察していく。

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2016年11月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(447)

「Chess」2016年6月号(4/5)

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次の一手 上級向け

第18問 H.ナカムラ – V.トパロフ
モスクワ、2016年
 白の手番

第19問 P.スビドレル – H.ナカムラ
モスクワ、2016年
 黒の手番で引き分け

解答

第18問 1.Qxb8!(白は差し出された駒を取ってさらに絶対手を2回見つけなければならない。さもないと戦力損するだけである。つまり 1.Qc2? は 1…Rxd1! で 2.Rxb8 なら 2…Qh3+! で詰まされてしまう)1…Rxd1 2.Rb1!(h列での詰みを防ぐ)2…Qd7 3.Rg5(そしてこの手でg4での決定的なチェックに対処する。黒は成すすべがない)3…Ne4 4.Rxd1 Qxd1 5.Qf4 1-0

第19問 1…Rae8(絶対手。黒は全ての駒を助けることはできず、永久チェックの態勢を作らなければならない)2.Qxb6(2.Bc3 なら試合はまだまだ続くことになるが、2…axb4 3.axb4[3.Bxb4 は 3…R8e6 で白にとって黒のキング翼の態勢が危険である。続いて 4.Qd5 なら 4…h5]3…R8e6 4.Qd5 Kh7!? 5.Rad1 f5 で黒の反撃はばかにできない。実際エンジンはお好みの「0.00」を表示する)2…Rh4! 3.gxh4(e列が黒の支配下なので白は引き分けを甘受しなければならない)3…Qg4+ 4.Kh1 Qf3+ 5.Kg1 Qg4+ 6.Kh1 Qf3+ 7.Kg1 Qg4+ ½-½

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(この号続く)

2016年11月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(213)

「Chess Life」1998年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

クイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御 [D41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第9局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 c5 5.cxd5 Nxd5

 代わりに 5…exd5 はタラッシュ防御になり、黒は中央の影響力が増すが孤立dポーンという代価を払う。本譜の手でフィッシャーは陣形にどんな根本的な弱点ができるのも避けるというこの番勝負における主眼の方針を継続している。準タラッシュ防御では黒陣は健全だが、白の中央での優位は通常より大きくなる。

6.e4

 スパスキーは自分に忠実に「大中央」を作り上げる。もっと控えめな 6.e3 が主手順とみなされている。

6…Nxc3 7.bxc3 cxd4 8.cxd4 Nc6

 フィッシャーは新手を胸に秘めていた。従来の手順は 8…Bb4+ 9.Bd2 Bxd2+ 10.Qxd2 O-O 11.Bc4 Nc6 12.O-O b6 13.Rad1 で、中央の優位のために白が通常の布局の優勢を得ている。

9.Bc4 b5!?

 これがその新手である。明らかにこのポーンは毒入りだが、まったくの1手得というわけではない。黒は多数派ポーンの動員を開始しているけれども、その影響は当分クイーン翼の弱体化となって現れる。白が狙い筋の d5 突きで中央を開放することによりこれにつけ込むことができる危険性が相当にある。ここでの白の大問題はビショップをどこに引くかである。

10.Bd3

 この手は見かけほど良くない。このビショップはe4を守りキング翼攻撃のためにh7方面をにらんでいるが、欠点の方が多い。d4のポーンは守りにくく、d5 突きはもっと困難である。以後の大会での数多くの経験により 10.Be2! なら白が本譜よりももう少し優勢を保持できることが明らかになった。一例は 10…Bb4+ 11.Bd2 Qa5 12.d5! exd5 13.exd5 Ne7 14.O-O Bxd2 15.Nxd2 O-O 16.Nb3 Qd8 17.Bf3 Nf5 18.Rc1 Nd6 19.Qd4(ユスーポフ対リブリ、モンペリエ挑戦者決定大会、1985年)である。

10…Bb4+ 11.Bd2 Bxd2+

 交換を急がずにまず 11…a6 でクイーン翼を安定させる方がわずかに良いかもしれない。

12.Qxd2 a6 13.a4

 指し過ぎの本譜の手のあと黒には十分動的な反撃がある。13.O-O ならどんな可能性にせよ白がわずかに優勢である。以下の手順には記号を少し付けておく。

13…O-O! 14.Qc3 Bb7! 15.axb5 axb5 16.O-O Qb6 17.Rab1 b4 18.Qd2 Nxd4 19.Nxd4 Qxd4 20.Rxb4 Qd7 21.Qe3 Rfd8 22.Rfb1 Qxd3 23.Qxd3 Rxd3 24.Rxb7 g5 25.Rb8+ Rxb8 26.Rxb8+ Kg7 27.f3 Rd2 28.h4 h6 29.hxg5 hxg5 引き分け

結論 準タラッシュ防御は健在である。フィッシャーの 8…Nc6 から 9…b5 は意表を突く武器として使える。

不使用 この番勝負以前のフィッシャーの主力武器はキング翼インディアン防御で、二次武器はグリューンフェルト防御だった。どちらも現れなかった。キング翼インディアン防御が現れなかった理由は三つあったと思う。(1)スパスキーは十分研究していたはずだった。(2)スパスキーはがっぷり組み合ったゼーミッシュ戦法の使い方が非常にうまかった。(3)キング翼インディアン防御には広さとクイーン翼のポーン陣形に根本的な問題がある。フィッシャーはキング翼インディアン防御を使わなくて正解だった。このことは1992年の番勝負でフィッシャーの7局のキング翼インディアン防御のうち5局が不満足な局面だったことから確認できる。

 フィッシャーはそれまでスパスキーとの2局のグリューンフェルト防御で負けており(1966年と1970年)、また白の優勢な中央と対したくなかった。1992年ではグリューンフェルト防御は現れなかった。

結論 フィッシャーの布局の基本的な選択は時の試練に耐えた。いくつかにおいて少し改良があっただけだった。

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2016年11月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(446)

「Chess」2016年6月号(3/5)

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米国選手権戦(続き)

ジョン・ヘンダーソン

H.ナカムラ – V.アコビアン
第7回戦、ぺトロフ防御

1.e4 e5

 アコビアンは得意のフランス防御を回避した。おそらくナカムラの十分研究した手順にはまるのを恐れたのだろう。しかし地雷原にはまり込むことになるとは知るよしもなかった。

2.Nf3 Nf6

 2000年ロンドンでのクラムニク対カスパロフの世界選手権戦でベルリンの「壁」防御が復活するまでは、ぺトロフ防御が攻撃的な相手の出鼻をくじくために黒番の選手の採用していた恐るべき引き分け手段だった。そしてそれはベルリン防御以前の1990年代後半に私がベイクアーンゼーとリナレスでの多くの最高峰大会の記者室で耐えていたように、ペンキが乾くのを眺めている退屈さのチェス版だった。今日ではぺトロフ防御はベルリン防御と比べるとシチリア防御ナイドルフ戦法の方にずっと近い。

3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Be7 7.O-O Nc6 8.c4 Nb4 9.Be2 O-O 10.Nc3 Bf5 11.a3 Nxc3 12.bxc3 Nc6 13.Re1 Re8

 ここでは1990年代後半に戻ったも同然だった。この手まではぺトロフ防御の良く知られ実戦で指されてきた手順である。

14.Ra2!?

 実はこの珍しい手はナカムラとサム・シャンクランドが2014年トロムセ・オリンピアードの期間に深く研究していたものだった。そして実際シャンクランドは嬉しくてたまらずナカムラの後を追って対局場の「告白部屋」に行った。ナカムラの告白によるとシャンクランドと研究した「爆弾」にアコビアンがやって来たということだが、シャンクランドによると自分の分析をナカムラが全部盗んだとウインクして主張した。

14…Na5 15.cxd5 Qxd5 16.Rb2 c6

 これがここでの最善の応手のようである。2014年米国選手権戦でのシャンクランド対ロブソン戦でロブソンは 16…a6 と指したが、17.Ne5 Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Nc6 21.Qb2 Nxe5 22.Rxe5 Rxe5 23.Rxe5

と進んで白が優勢だった。もっとも試合は30手で引き分けに終わった。しかし 19.Rbe2 の代わりに 19.Ra2!? なら白がもっと有望かもしれないとの指摘がある。

17.Ne5!

 ナイトがe5を占拠するのはこの焦点のはっきりしない局面で黒にとって最も厄介な手である。代わりに 17.Qa4 は 17…Qd8 18.c4 Bf6 19.Be3 b6 となって黒が好調で、2007年エリスタでのカシムジャーノフ対ゲルファント戦では黒が52手で勝った。

17…Bxa3 18.Bf3 Qd6 19.Rbe2 Bxc1 20.Qxc1 Be6

 すぐに 20…f6? は 21.Nc4! の一発で負ける。だからアコビアンはまず 20…Be6 と指した。

21.Be4

21…Rad8?!

 ここが勝負所だったかもしれない。アコビアンはルークを中央に配置する手を選んだ。たぶん 21…f6 はナカムラの強烈な攻撃にしてやられるかもしれないと恐れたのだろう。しかしe5のナイトは圧倒的な拠点で途方もない駒になるので、21…f6 は最善の選択肢かもしれない。だから問題は 21…f6 に対して白にはどんな手があるのかということである。

 22.Qb1(22.Nf3 と引き下がれば 22…Bf7 でe列でルークの総交換が余儀なく、黒がポーン得の收局になる)22…fxe5 23.Bxh7+ Kf8(黒が戦力得にしがみつきたいならこれが最善の手のようである。23…Kh8 は 24.Bg6 Nc4 25.Bxe8 Rxe8 26.Qxb7 Bd5 27.dxe5 Qe6 28.f4 a5 29.Rf2!

となって、白がポーンをf5に突いてキング翼を広げる手を狙う。しかし長期的には黒のパスaポーンへの対処が悩みの種になるだろう)24.dxe5 Qc5 25.Bg6 Kg8

となれば、私には引き分けのために戦う以外白にどんな手があるか分からない。

22.Qb1!

 これで黒は圧倒的なナイトを絶好のe5の拠点から決してどかせることができなくなった。そしてこれがアコビアンにとって多くの頭痛の種となる。

22…g6 23.f4 c5

 アコビアンは圧倒的なe5のナイトの土台をなんとかして揺さぶろうとしなければならない。

24.f5 cxd4?

 アコビアンのこの手には批判的な者が多かった。しかし彼はナカムラのナイトをe5からすぐに追い払う適切な応手を指さなかったあとはたぶんもう引き返せなくなっていたのだろう。そしてほかの手もどれもあまり良くないことにも気づいていたのだろう。例えば 24…Bb3 ならナカムラにはキング翼の急襲の見込みが出てくる。25.Bd3! Qc7(受けづらい Nc4! を避けようとする 25…Rf8? は 26.fxg6 hxg6 27.Re3! から Rg3 が来れば黒キングに対する攻撃が決まる)26.Qc1! からクイーンがh6に行って攻撃が決まる。ふむふむ…アコビアンが突然ナカムラの狙い筋に気づいた時の彼の胸中をたぶん想像できるだろう。

25.fxe6 Rxe6 26.Nxf7!

 黒陣は壊滅した。アコビアンはたぶん以前に勇気を出してこのナイトをe5の拠点から 21…f6 で追い払わなかったことで自分を叱責していたことだろう。

26…Kxf7 27.Bd5

 もっと辛辣な手は 27.Qa2! だったがナカムラの手も同様に速く勝つ。

27…Qxd5 28.Rxe6 dxc3 29.R6e5 Qd4+ 30.Kh1 b6

 もちろんアコビアンのキングがf7の荒地でうろうろしている危険な状態でなければ、收局で勝つのに十分な戦力がある。しかしここでは收局の見通しはただのとっぴな夢想にすぎない。

31.Qa2+ Kg7 32.Re7+ Kh6 33.Qf7

33…Nc4

 黒にはもう受けがない。33…Rh8 なら 34.Rd7 で黒クイーンが要のg7の守りから追い払われ、34…Qc4 35.Qg7+ Kg5 36.Re5+ Kg4 37.Qf6 ですぐに詰む。

34.Qxh7+ Kg5 35.R7e6 Qd3 36.h4+ Kf4 37.Qh6+ 1-0

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2016年10月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(212)

「Chess Life」1998年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御ヒューブナー戦法 [E41]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第5局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.e3

 白がルビンシュタイン戦法を指したいなら正確な手順は 4.e3 が先である。黒は本譜のような手順を選ぶかもしれず、それなら白はキング翼ナイトをe2に展開したいかもしれない。

5…Nc6 6.Bd3 Bxc3+ 7.bxc3 d6

 ここがドイツのGMロベルト・ヒューブナーにちなんで名付けられたヒューブナー戦法の出発点である。この局面を戦略的に正しく扱う手法を最初に明らかにしたのは彼である。黒は 4.a3 と突かれないのに自分からビショップをc3で交換したので、まるまる一手遅れでゼーミッシュ戦法を指しているように見える。しかし戦略の重大な違いは、白はキング翼ナイトを早くf3に展開させたために、キング翼で活発に活動を始める際にfポーンを迅速に動員してeポーンを支援することができなくなっているということである。

 スパスキーは白の中央が完璧な局面を指すことにひいでていて、それをもたらしてくれる変化を選ぶ。それほどきびしくないやり方は 8.Nd2 と 8.O-O である。

8.e4 e5 9.d5 Ne7!

 ここでもゼーミッシュ戦法とヒューブナー戦法の決定的な違いがある。前者ではクイーン翼ナイトがa5に行ってc4ポーンに圧力をかけるのに対し、後者では中央とキング翼での作戦のためにそのナイトが必要である。

10.Nh4 h6! 11.f4 Ng6!!

 この手は白のキング翼での動きを完全に止めてしまう。黒は二重gポーンを受け入れ、白に保護パスdポーンを作らせるが、白のビショップ、特に白枡ビショップがほとんど働かないポーン陣形を作り上げる。その結果できる局面は定跡ではほとんど互角だが、黒の方が駒を活動させる機会が多いので指しやすい。

 スパスキーは明らかに素通し列ができるのを期待していた。11…exf4?! なら 12.Bxf4 g5? 13.e5! Ng4 14.e6 Nf6 15.O-O! で白の攻撃がすぐに止まらなくなる。

12.Nxg6 fxg6 13.fxe5?!

 この取りは遅らせて後日スパスキー対ホルト戦(ティルブルフ、1979年)で指されたようにルークを使う方が良かった。13.O-O O-O 14.Rb1 b6 15.Rb2 Qe7 16.h3 Bd7 17.f5! gxf5 18.exf5 e4 でいい勝負である。フィッシャーの素晴らしい構想に直面してスパスキーは時間を浪費しさらにポーンの弱点を作った。

13…dxe5 14.Be3?! b6 15.O-O O-O 16.a4? a5! 17.Rb1 Bd7 18.Rb2 Rb8 19.Rbf2?! Qe7 20.Bc2 g5!

 フィッシャーは弱点のa4とe4のポーンに対する作戦をf列での動きと絡ませ、白が一瞬のすきを見せた時に敵陣を突破した。

21.Bd2 Qe8 22.Be1 Qg6 23.Qd3 Nh5 24.Rxf8+ Rxf8 25.Rxf8+ Kxf8 26.Bd1 Nf4 27.Qc2? Bxa4! 白投了

結論 ヒューブナー戦法は今でもそのまま通用する。フィッシャーの変化の指し方は最新である。

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2016年10月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(445)

「Chess」2016年6月号(2/5)

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米国選手権戦

ジョン・ヘンダーソン

F.カルアナ – H.ナカムラ
第4回戦、シチリア防御・ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.f3 e6 7.Be3 h5 8.a4 Nc6 9.Bc4

 シチリア防御の本手順の9手目でもう未知の海に入った。a4 と …h5 の突き合いがあるソージンもどきになっている。しかしどちらがその余分の1手を有効に生かせるだろうか。

9…Qc7 10.Qe2 Be7 11.O-O Ne5

 11…Na5 とこちらに跳ねる手もあったが、ナカムラはたぶんカルアナが単純に 12.Bd3 と引いてから Nb3 と指してくるのを恐れたのだろう。このナイトは少なくともe5から中央の拠点を占拠し白が Bd3 でビショップを温存する考えを否定している。

12.Bb3 Bd7 13.f4

 布局でfポーンを2回突くのはカルアナの非常手段のように見える。しかし事実はナカムラに …Rc8 から …Nc4 で楽に互角にさせるわけにはいかなかったので、これが最善の選択だった。そのために思い切った手段が必要で、カルアナがすぐに正しい戦略変更をしたことは褒められる。

13…Neg4 14.Kh1 Nxe3 15.Qxe3 Qc5!

 これはシチリア防御らしい好手である。クイーンを黒枡で働かせて白のクイーンとナイトを釘付けにしている。

16.Rad1 g6?!

 この手は疑問手に見えるだけでなくはっきり疑問手である。もしシチリア防御の権威のフィッシャーとカスパロフが我々に教えたことがあったとすれば、シチリア防御では黒は精力的に指す必要があるということだった。だから切ったはったをやる必要がある。代わりにエンジンは 16…O-O-O でキングを保護しルークを結合しd7のビショップを守る(白の狙い筋の e5 突きからd列で空き攻撃の可能性があった)ことを要求していた。

 しかし人間の側も激しくいくらか一本道の 16…Ng4!? 17.Qd3 Bf6(安全策は 17…Rd8 18.h3 Nf6 19.Rfe1 O-O 20.Qf3! で、陣地の広い白が少し優勢である)18.e5! dxe5 19.Nxe6! Bxe6 20.Bxe6 を要求していた。局面は難解でどちらに転ぶか分からないが、シチリア防御のこんな激しい戦型に典型的なように、駒の大量交換になり緊張が緩和されることがよくある。20…Rd8 21.Bd7+ Kf8 22.Qf3 Qc7 23.Bf5(23.Bxg4 は 23…hxg4 24.Rxd8+ Bxd8! 25.Qxg4 Rh4! で良くなく、やはり局面が落ち着くと引き分けに向かう)23…exf4 24.Nd5 Qe5! 25.Nxf6 Rxd1 26.Rxd1 Nxf6 27.Qxb7 Qxf5 28.Rd8+ Ne8 29.Qb4+ Kg8 30.Rxe8+ Kh7 31.Qe4 Qxe4 32.Rxe4 Rd8 33.Kg1 Rd2 34.Rc4

ですぐに引き分けになる。

17.Qe2 O-O-O 18.f5!

 これでソージンビショップもどきはb3-f7の斜筋の開通を得て活気づく。

18…e5 19.Nf3 gxf5 20.Ng5 f4

 ナカムラが試合を続けるにはこれしかない。急に白の小駒がすべて生気を得たので一手でも間違えれば終わってしまう。

21.Rd3

 この手はルークを …Bg4 の釘付けの狙いから外しただけでなく、Nd5 から Rc3 も狙っている。

21…Kb8

 その通り、Rc3 の狙いにナカムラもびびった。しかしナカムラは戦力損の十分な代償を得られるだろうか?

22.Nxf7 h4 23.Nxh8 Rxh8 24.Qf2

24…Qb4?

 24…Qa5! なら黒がもっと抵抗できただろう。実戦と同じく 25.Nd5 なら 25…Nxe4! 26.Qb6(26.Qe2?? は Ng3+! 27.hxg3 hxg3+ 28.Kg1 Qd8! で白が詰まされる)26…Bd8! で黒の勝ちになる。代わりに白は 25.Qe1 と指さなければならず、黒はしのげるだけの十分な代償があるようである。クイーンがb4に行った間違いはすぐにナカムラにはね返る。

25.Nd5 Nxd5 26.Bxd5 Bxa4

 良くない手だが、少なくとも当座は Rb3 という大きな狙いを防いでいる。

27.Ra3!

 しかし今度はカルアナはこれを見つけた。単に c3 から b3 でビショップを取る手を狙っている。

27…h3 28.c3 Qb5 29.b3 Bh4 30.bxa4 Qd3 31.g3 1-0

 ここでは白はルークの丸得になっているので、ナカムラは投了した。そしてそれと共にタイトル連覇ができなくなったことを認めた彼のボディーランゲージも見られた。


レッド・ブルのCMに出ている男がファビアノ・カルアナ戦で投了しそれと共に米国選手権防衛の希望がほとんどついえたことをボディーランゲージは余すところなく物語っていた。

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(この号続く)

2016年10月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(211)

「Chess Life」1998年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

現代ベノニ防御 [A77]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第3局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3

 2-0とリードのスパスキーは 3…d5 のクイーン翼ギャンビット拒否または 3…Bb4+ のボゴ・インディアン防御の比較的静穏な戦型を期待した。代わりにフィッシャーは挑戦状をたたきつけた。

3…c5 4.d5

 挑戦受諾!試合はここからベノニの荒海に入っていく。4.Nc3(4…cxd4 でイギリス布局)または 4.e3(4…d5 でクイーン翼ギャンビット拒否準タラッシュ防御)なら静海になる。

4…exd5 5.cxd5 d6 6.Nc3 g6

 ここで既にベノニの特徴的な輪郭が見られる。つまり黒のeポーンと白のcポーンが交換されているので白は中央で優位に立つ可能性がある。だから白の通常の活動領域はキング翼になり、黒はクイーン翼になる。ここで 7.e4 なら普通の手である。

7.Nd2

 このナイトの絶好の地点は一般にd2で、そこからe4ににらみを利かしc4に跳ぶこともできる。しかしこんなに早くd2にナイトを置く利点は特にない。黒が正確に応じるという逆説的な結果をもたらし、白は11目で軽率な手を指した。

7…Nbd7

 黒はクイーン翼ナイトをどこに置くかという決定を遅らせ普通に 7…Bg7 と指すべきだった。

8.e4 Bg7 9.Be2 O-O 10.O-O Re8

 この局面は 1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.e4 g6 7.Nf3 Bg7 8.Be2 O-O 9.O-O Re8 10.Nd2 Nbd7 からできることが最も多い。しかし現在の常識(そして1972年でもそうだった)では、クイーン翼ナイトの最良の経路はクライドマン対フィッシャー戦(ネタニヤ、1968年)やナイドルフ対フィッシャー戦(ハバナ・オリンピアード、1966年)のように 10…Na6 から 11…Nc7 である。グリゴリッチ対フィッシャー戦(パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナル、1970年)でフィッシャーは 10…Nbd7 と手を変えていて、スパスキーは図の局面を研究しているはずだった。

 ここでの正確な作戦は 11.a4! で、クイーン翼の陣地を広げ、早い …b5 突きを防いでキング翼ナイトがc4に安定した居場所を確保できるようにする。

11.Qc2 Nh5!?

 我々は結果的にこの手が勝着になったことを知っている。この大胆な手に対してスパスキーは長考したが(30分!)、局面に対応した正しい対策を見つけられなかった。のちに実戦でもっと単純な 11…Ne5! で黒がもっと容易に理論的な互角になれることが明らかにされた。

12.Bxh5 gxh5 13.Nc4 Ne5 14.Ne3 Qh4 15.Bd2

 その後正しい手順と作戦は 15.Ne2! Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Ng3! Be5 18.Bd2 であることが発見された。白キングは安全で、黒がgポーンをg6からg4へ行進させたことによりf5とh5に弱点ができている。

15…Ng4 16.Nxg4 hxg4 17.Bf4 Qf6 18.g3?

 本譜の手により白のキング翼の白枡に本質的な弱点が生じ、フィッシャーはダイナミックに完璧につけ込んでいく。白は 18.Bg3 と指す必要があり(18…h5?! 19.Nb5!)、形勢不明だった。たぶんいい勝負だろう。残りの手順は記号をいくつか付けて示す。

18…Bd7! 19.a4 b6 20.Rfe1 a6 21.Re2 b5! 22.Rae1 Qg6 23.b3 Re7! 24.Qd3 Rb8 25.axb5 axb5 26.b4 c4 27.Qd2 Rbe8 28.Re3 h5! 29.R3e2 Kh7 30.Re3 Kg8 31.R3e2 Bxc3 32.Qxc3 Rxe4 33.Rxe4 Rxe4 34.Rxe4 Qxe4 35.Bh6 Qg6 36.Bc1 Qb1! 37.Kf1 Bf5 38.Ke2 Qe4+ 39.Qe3 Qc2+ 40.Qd2 Qb3! 41.Qd4?! Bd3+ 白投了

結論 ベノニは生きている。黒の指し方の改良には微調整が必要なだけである。

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2016年10月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(444)

「Chess」2016年6月号(1/5)

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究極のブリッツ決戦

IMマルコム・ペイン

 セントルイスでの二日間の試合の模様は素晴らしい実況生中継で放映され、カスパロフは直感が全然鈍っていないことを見せつけた。ポカをしたのは実戦からちょっと遠ざかっていたためだった。全18試合で3個のナイトをポカで失ったが、それでもウェズリー・ソーに続いて3位だった。

成績 ナカムラ 11/18、ソー 10、カスパロフ 9½、 カルアナ 5½

H.ナカムラ – G.カスパロフ
究極のブリッツ決戦、セントルイス、2016年、現代ベノニ防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 これはグリューンフェルト防御を避けるための流行の手順で、カスパロフはその戦いを避けベノニに持って行く。

3…c5 4.d5 d6 5.Nc3 e6 6.e4 Bg7 7.Nge2 exd5 8.cxd5 a6 9.a4 Nbd7 10.Ng3 h5 11.Be2 h4 12.Nf1

12…Nh5

 これはいかにもカスパロフらしい手である。何よりもまず駒を働かせることが最優先で、キャッスリングさえも後回しである。12…O-O 13.Bg5 h3 と指すこともできた。

13.Be3 f5 14.exf5 gxf5 15.Nd2

 15.f4!? と 15.g4!? もある手である。

15…Ne5

 15…O-O 16.f4 Re8! 17.Bxh5(17.Nc4 なら 17…Nb6 18.Nxb6 Rxe3!?)17…Rxe3+ の方がずっと良かったかもしれない。

16.f4 Ng4 17.Nc4 O-O 18.O-O

18…Ng3!?

 黒は 18…Nxe3 19.Nxe3 Re8(19…Qe7 20.Bxh5 Qxe3+ 21.Kh1 Bd7 も黒が良さそうである)20.Nxf5 Bxf5 21.Bxh5 Bd4+ で手がいろいろあり優勢である。しかしカスパロフは捨て駒の誘惑に抗しきれなかった。

19.hxg3 hxg3 20.Bxg4 fxg4 21.Ne4!

 この手はナイトを犠牲にしてg3のポーンを取る用意である。代わりに 21.Re1 は 21…Qh4 22.Ne2 Qh2+ 23.Kf1 Qh1+ 24.Bg1 Bd4 となって、たとえコンピュータが好んでもかなりひどそうである。ブリッツではこれはほとんど自殺行為に等しい。

21…Qh4 22.Nxg3 Qxg3 23.Qe1!

 クイーンは交換しなければならない。23.Nxd6?? は 23…Qxe3+ 24.Kh2 Rf6 で負けてしまう。

23…Qxe1 24.Raxe1 Bd7?!

 24…Rf6 が最善手だった。25.Nb6 なら 25…Rb8 で黒が良い。

25.Nxd6 Bxa4 26.Bxc5 b6 27.Ba3

 白は 27.Bxb6 Rfb8 28.Bc5 Rxb2 を避けた。

27…Bb3

28.Kh2

 28.f5!? Bxd5 29.Rf4! と指すのも強い手だった。ここでカスパロフは反撃に転じる。

28…Bxd5 29.Kg3 b5 30.Rd1 Ba2!? 31.Kxg4 Rab8

 クイーン翼ポーンを突き進める黒の作戦はブリッツでは指しやすい。それと比べると白ポーンは動きにくそうだが形勢はまだナカムラの方が良い。

32.Bc5 b4 33.Rd2 a5 34.Ra1 b3

35.Re1?

 35.Rad1 なら黒はa2で生き埋めのビショップを嘆くところだった。

35…Rxf4+!

 何年ものブランクにもかかわらずカスパロフは相変わらず鋭い。

36.Kxf4 Bh6+ 37.Kg4 Bxd2 38.Re7 Bb4 39.Bxb4 Rxb4+ 40.Kg5 Bb1 41.Ra7 a4 42.Ne8 Kf8 43.Nf6 Rd4 44.g4 Rd2 45.Rxa4 Rxb2 46.Rb4 Kf7 47.Nd5 Rd2 48.Rb7+ Kf8 49.Rb8+ Kf7 ½-½

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(この号続く)

2016年10月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(210)

「Chess Life」1998年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番(続き)

二ムゾインディアン防御 [E56]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
世界選手権戦第1局、レイキャビク、1972年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5

 この時点では布局はクイーン翼ギャンビット拒否のオーソドックス戦法である。

4.Nc3 Bb4

 4…Be7 なら普通である。黒は本譜の手でクイーン翼ギャンビット拒否のラゴージン戦法にもっていった。フィッシャーは1950年代からクイーン翼ギャンビット拒否をひいきにしていたが、結果はまあまあにすぎなかった。ここで白の最強の手順は 5.cxd5 exd5 6.Bg5 である。代わりにスパスキーは二ムゾインディアン防御と対する方を好んだ。

5.e3 O-O 6.Bd3 c5 7.O-O Nc6 8.a3

 1950年代から1960年代にかけてこの手がルビンシュタイン戦法の中で最も人気があった。両者とも展開が棋理にかない中央に地歩を占めている。キング翼ビショップの位置を除いてまったく対称で、黒のビショップは白陣の側に入っていていくらか不安定である。先手の利に加えてこの要素が白の通常の有利さの基礎になっている。

8…Ba5

 これは傍流手順で、主流手順は 8…Bxc3 と 8…dxc4 9.Bxc4 cxd4 である。本譜の手のあと白は 9.cxd5 exd5 10.dxc5 で通常よりも優勢の度合いを少し大きくすることができる。しかし指し分けでもタイトル防衛の有利さと避けられない「第1局目のプレッシャー」とから、スパスキーは以前に用いてうまくいった穏やかな手順を選択した。

9.Ne2 dxc4 10.Bxc4 Bb6?!

 これは気まぐれすぎる手である。10…cxd4 ならほぼ互角になる。11.exd4 には 11…h6 でe2のナイトが守勢の位置にいるために、白には孤立dポーンのもたらす陣地の広さの優位を生かす見通しがない。

11.dxc5! Qxd1 12.Rxd1 Bxc5 13.b4 Be7 14.Bb2 Bd7

 フィッシャーの選んだ手は最善手だった。以前の対局のスパスキー対クロギウス戦(ソ連選手権戦、1958年)では黒は 14…b6?! 15.Nf4 Bb7 16.Ng5 Nd8 17.Rac1 h6 18.Ngxe6! でたちまち大苦戦に陥った。

 白は上図から展開の優位を生かして(ボトビニクの指摘のように)15.e4! と指すことができ、15…Rfd8 16.e5 Ne8 17.Ng3 Nc7 18.Ne4 で広さで大きく優位に立ち楽に危なげのない優勢になるところだった。白がこの好機を逃して收局は対称かつ互角になった。

15.Rac1?! Rfd8 16.Ned4 Nxd4 17.Nxd4 Ba4 18.Bb3 Bxb3 19.Nxb3 Rxd1+ 20.Rxd1 Rc8 21.Kf1 Kf8 22.Ke2 Ne4 23.Rc1 Rxc1 24.Bxc1 f6 25.Na5 Nd6 26.Kd3 Bd8 27.Nc4 Bc7 28.Nxd6 Bxd6 29.b5 Bxh2??

 試合がこの手まで引き分けと宣告されなかった理由はただ一つ、両者とも引き分けを提案する側になりたくなかったからである。本譜の手はフィッシャーの大見損じで、ビショップが逃げることができると考えていた。すぐに生じた收局は1972年に徹底的に分析された。黒は超完璧に指せば引き分けにできるようである。しかしフィッシャーは気落ちし、受けを間違い負けてしまった。残りの手順には記号を少し付けるにとどめる。

30.g3 h5 31.Ke2 h4 32.Kf3 Ke7 33.Kg2 hxg3 34.fxg3 Bxg3 35.Kxg3 Kd6 36.a4 Kd5 37.Ba3 Ke4? 38.Bc5! a6 39.b6 f5 40.Kh4! f4?? 41.exf4 Kxf4 42.Kh5! Kf5 43.Be3! Ke4 44.Bf2 Kf5 45.Bh4! e5 46.Bg5 e4 47.Be3 Kf6 48.Kg4 Ke5 49.Kg5 Kd5 50.Kf5 a5 51.Bf2! g5 52.Kxg5 Kc4 53.Kf5 Kb4 54.Kxe4! Kxa4 55.Kd5 Kb5 56.Kd6 黒投了

結論 主流手順はまだ変わらない。第一級の 8…Bxc3 と 8…dxc4 が 8…Ba5 よりも好まれている。

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2016年10月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(443)

「British Chess Magazine」2016年5月号(4/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第8回戦、モスクワ、2016年

1.Rg3! e4

 黒は誘いのすきに引っかからなかった。1…Qxd3 2.Qxd3 Nxd3 3.Ne4 で 4.Rxd3 と交換得の 4.Nf6+ の両狙いがある。

2.Bxc5 Bxc5

 2…exd3 には 3.Qg4! でビショップ同士の交換からg7のポーンを取る狙いがある。

3.Nxe4

 3.Rdg1 Bf8 4.dxe4 でも良い。

3…Bd6 4.Rh3 Be5 5.d4 Bf6 6.Rg1 Rb8 7.Kxa2 Bh4 8.Rg4

8…Qd5

 8…Be7 には 9.Rxg7+ の強手があり 9…Kxg7 10.Qg4+ Kh8 11.Qh5 Bh4 12.Rxh4 Qe7 13.f6 で勝勢になる。

9.c4 1-0

 b3ポーンに対する狙いを消す一方 9…Qxf5 には単に 10.Rgxh4 で勝ちになる。

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(この号終わり)

2016年10月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(209)

「Chess Life」1998年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 1950年代後半から1972年ボリス・スパスキーとの世界選手権戦までの指し盛りにボビー・フィッシャーは布局に関して世界でも一流の大家と認められていた。彼の偉大な勝利の25周年に当たり、彼の得意だった布局/戦法が時の試練に耐えたかを検証することは意味のあることに思われる。この25年間に情報が大膨張したことは疑いない。これが達人の布局遺産にどれほどの影響を与えたのだろうか?かつての世界選手権戦の様相をGMフィッシャーの側から検証しよう。まずは…

閉鎖布局でのフィッシャーの黒番

 スパスキーが初手に 1.d4 を指したのは第1、3、5、9局の4局である。成績は 1½ – 2½ で、その中には第1局の幸運な勝利もある。第10局まで 3½ – 6½ と負け越したので、あとは 1.e4 に転じた。

 上記の4局でフィッシャーは二ムゾインディアン防御を2局(うち1局は別手順からの転移)、ベノニ防御を1局、クイーン翼ギャンビット拒否の準タラッシュ戦法を1局指した。それらを指された順に紹介する。

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2016年10月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(442)

「British Chess Magazine」2016年5月号(3/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMゴラン・アルソビッチ

ヒカル・ナカムラ – べセリン・トパロフ
世界選手権挑戦者決定大会第7回戦、モスクワ、2016年

1.Rg5!

 もちろん 1.Rxd1? は駄目で、1…Ng4+ 2.Kh3 Nxf2+ 3.Kh2 Qh3+ 4.Kg1 Qg2# までとなる。1.Re4 も(なんとしても …Ng4+ を止めるため)1…Nxe4 2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 Nf6 4.h5 Nxh5 5.Qxf7 Nf6 -/+ で悪い。

1…Ne4

 もちろんここでの 1…Ng4+ は 2.Rxg4 で負けになる。

2.Rxd1 Qxd1 3.Qf4 1-0

 これで 3…Qf1 は 4.Qxf3 で詰みの狙いにならない。

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(この号続く)

2016年09月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(208)

「Chess Life」1998年2月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る(続き)

(2)4…dxc6

 この手は指せる手だが、人気では 4…bxc6 に遠く及ばない。理由はもっともである。(1)白はどちらにキャッスリングすることもできる。クイーン翼にキャッスリングすれば黒のいくらかぜい弱なキング翼を攻撃する見通しが開ける。(2)局面は閉鎖的なままになるのでキャッスリングを急ぐ理由はなく、白はまず小駒の展開を完了することができる。(3)白はキング翼にキャッスリングすることになっても、役に立たない Re1 を指さないのでA2よりも1手早くなっている。だからA2と比べると黒が動けない2重ポーンの陣形の十分な代償を得るのははるかに難しい。これらの点は次の試合によく表れている。

ユダシン対ピグソフ(ケメロボ、1995年)
5.d3!

 白は小駒の効率的な展開を始めた。5…Bg4 を恐れない理由は、6.h3 Bxf3 7.Qxf3 となり黒が二重ポーンの代償となる効果的な双ビショップを得ることが期待できなくなるからである。

5…Bg7 6.Nc3 Nf6

 中央に十分な影響力を保持するためには将来 …e5 と突くことが避けられない。この時点で黒は白がキング翼キャッスリングに甘んじて黒キングに対する危険性を減らすことをまだ期待できる。

7.Be3 Nd7 8.Qd2 h6

 ビショップ同士の交換はキング翼の黒枡を弱めることになるので、それを防ぐことは役に立つ。それでもすぐに黒はf5にできる新たな弱点を心配しなければならない。

9.O-O-O! e5 10.h4 Qe7 11.h5! g5 12.Ne2 b6 13.Ng3 Nf6 14.Nh2 Be6 15.Qc3 Qd7! 16.f3 O-O 17.Nhf1! Ne8 18.Bf2 Nc7?!

 白は直前の手で Ne3 と Ngf5 でf5の地点を占拠する意図を示していた。だから黒のナイトはd6に行くべきだった。

19.Kb1 Nb5 20.Qe1 Rfd8 21.Ne3 Nd4?!

 依然として 21…Nd6 が適切である。

22.c3 Nb5 23.Ngf5 f6

 ここが勝負所だった。GMユダシンが指摘したように、正しい手順は 24.Nxg7! Kxg7 25.g3 で、f4 突きからの攻撃が強力になる。実戦は黒が黒枡ビショップを保持できる。そうすればいつか双ビショップが防御では障壁となり攻撃では敵を悩ませる。GMユダシンはこの熱戦を『チェス新報』第65巻第164局で詳細に解説している。残りの手順は要点を記号で示すだけにする。

24.g3?! Qf7! 25.a3 Bf8! 26.Qe2 Nd6 27.f4 exf4 28.gxf4 Nxf5 29.exf5 Bd7 30.Qf3 Re8 31.Bg3 Rad8 32.fxg5 fxg5?! 33.Rhf1 Kh8 34.Ng4 Qd5! 35.Qxd5 cxd5 36.Nf6?! Re7 37.Nxd5 Rf7 38.Be5+ Bg7 39.f6 Bf8 40.Ne3 Ba4 41.Rd2 Kg8 42.d4 Be8! 43.Kc2 Ba4+ 44.b3 Be8 45.d5 b5 46.c4 bxc4 47.bxc4 Rb7! 48.Rh2 Kf7 49.Rhh1 Ba4+ 50.Kd2 Re8 51.Bc3 Bd7 52.Rhg1 Bd6! 53.Ng4 Bxg4 54.Rxg4 Be5 55.Bxe5 引き分け

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2016年09月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(441)

「British Chess Magazine」2016年5月号(2/4)

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世界選手権挑戦者決定大会(続き)

IMアンドルー・マーティン

ヒカル・ナカムラ – ビシー・アーナンド
世界選手権挑戦者決定大会第12回戦、モスクワ、2016年

1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.g3 Bb4 5.Nd5

5…e4

 アーナンドはすぐに局面を険しくした。ここではポーンをくれてやることもできる。5…O-O!? 6.Nxb4 Nxb4 7.Nxe5(7.d3 の方が慎重な手で双ビショップに期待する)7…Qe7 8.d4 d6 9.Nf3(9.Nd3 d5 10.cxd5 Qe4 11.f3 Nxd3+ 12.Qxd3 Qxd3 13.exd3 Nxd5)9…Bf5 黒は十分な代償を得ている。

6.Nh4

 ナイトが挑発的に端に跳ねた。白は適時に f2-f3 または d2-d3 と突いて戦いに引き戻すつもりである。…g7-g5 と突かれてこのナイトが簡単に取られるのにも注意しなければならない。既に非常に奇妙な局面になっている。

6…O-O 7.Bg2 d6

 7…Re8 8.O-O d6 9.d3 exd3 10.Qxd3 Nxd5 11.cxd5 Ne5 なら黒がしっかりしていてやれそうである。

8.a3

 8.Nxf6+ Qxf6 9.Bxe4 Re8 はナカムラの事前研究では危険すぎるようだったに違いない。確かに黒駒の動きが非常に良い。
(a)10.Bg2 Bg4
(b)10.Bf3 Bh3
(c)10.Bxc6 bxc6 11.O-O Bg4 12.f3 Bh3 13.Rf2 Qd4! 14.Ng2(14.Qc2 Rxe2;14.d3 Bc5)14…Bxg2 15.Kxg2 Bc5 16.Rf1 Qxc4

8…Bc5 9.O-O Re8 10.e3!?

 これは新手で、明らかにコンピュータによる研究の成果だった。白は黒に …g7-g5 と突く手を与え、黒はそう突く。

10…g5

 これはアーナンドの自信たっぷりの手で、どちらが支配者なのかを見せつけようとしている。10…Be6 でも良さそうである。11.Nxf6+ Qxf6 12.Bxe4 Bxc4(12…g5 13.Ng2(13.Qf3 Qxf3 14.Nxf3 Bxc4 15.d3 Rxe4 16.dxc4 Rxc4 17.Nxg5 Ne5)13…Bxc4)13.Bxh7+ Kxh7 14.Qc2+ Kg8 15.Qxc4 g5∞ どちらでも黒は布局の課題を解決しているようである。

11.b4 Bb6

 11…gxh4 と取る手もありそうで、その意味は 12.bxc5(12.Bb2 Nxd5 13.cxd5 Ne5 14.bxc5 Bg4)12…dxc5 でd5のナイトが当たりになっているということである。13.Bb2 Nxd5 14.cxd5 Qxd5 15.d3 h3! 16.Bxe4 Rxe4 17.dxe4 Qxe4 18.f3 Qxe3+ 19.Kh1 Bf5 20.Qe1 Qxe1 21.Raxe1 c4 -/+

12.Bb2 Nxd5

 12…Ne5 は 13.Nxf6+ Qxf6 14.f4! で急に白の方がうんと良くなる。14…exf3e.p. 15.Nxf3 Nxf3+ 16.Qxf3 Qxf3 17.Bxf3 c6 18.a4 a5(18…a6)19.b5

13.cxd5

13…Nd4!?

 明らかにアーナンドは白の強硬策と正面から渡り合うために長考していた。13…Nd4 もやはり好戦的な手法だった。黒は強制的に対角斜筋をふさごうとしている。ナカムラは 13…Ne5 が事前研究の焦点で、14.f4! を考えていたと語った。怖そうな手だが、14…Nc4! 15.Bc3 gxh4 16.Qe2 Nxe3 17.dxe3 Qe7= となりそうである。だから結局 13…Ne5 の方が良かったいうことになるだろう。

14.d3!

 14.Bxd4 Bxd4 15.exd4 gxh4 16.Qc2 f5 17.Rac1 Qf6 18.Qxc7 f4 は主導権が入れ替わるので、とても白の望むところではない。

14…gxh4 15.dxe4 Ne6 16.dxe6 Rxe6 17.e5!

 これは非常にいい手である。黒キングは周りが薄いので防御が心もとない。

17…hxg3 18.hxg3 Qg5 19.exd6 Rxd6 20.Qb3 +/-

 局面が一段落して白の優勢が明白となった。そしてナカムラがそのまま勝った。

20…h5

 20…Bg4 は単純に 21.Bxb7! と応じられる。ポーンを取らないという手はない。21…Rad8(21…Re8 22.Qc3 f6 23.Bg2)22.Qc3 f6 23.Rac1 +/-

21.Rad1 Rh6

 21…Be6 22.Qc3 Kh7 23.Rxd6 cxd6 24.Bxb7 Rg8 25.Qd3+ Bf5(25…Kh6 26.Qxd6 h4 27.Kg2)26.Be4 +/- も 21…Kf8 22.Rxd6 cxd6 23.Qd3 Qg6 24.Be4 f5 25.Bg2 a5 26.Rd1 axb4 27.axb4 Ke7 +/- もアーナンドとしては指しきれなかったようである。しかしルークをそっぽへ行かせるのは負けを早めた。

22.Rd5! Qe7 23.Qc4

23…Bg4

 23…Be6 24.Qf4 Rg6 25.Rxh5。23…c6 24.Re5 Be6 25.Qf4 Rg6 26.Be4。

24.Qf4 Rg6 25.Re5 Qd6 26.Be4 1-0


ナカムラはアーナンドの世界選手権再々挑戦の望みををくじいた

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(この号続く)

2016年09月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6

布局の探究(207)

「Chess Life」1998年2月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

役に立つ二重ポーン(続き)

シチリア防御ロッソリーモ戦法 B31(続き)

(B)白がすぐに 4.Bxc6 と取る

 この約5年もの間すぐ取るのが白の一番の選択肢だった。きっかけは疑いなくフィッシャーが1992年にボリス・スパスキーとの番勝負でその手を用いて好結果をあげたからである(第11局は見事な勝利で、第13局は引き分け)。チェス自体の理由も明快である。白は確実に黒に二重ポーンを作らせ、すぐに黒の取り方を知ることにより自分の最良と考える陣形を選ぶことができる。しかし同様の融通性のある考え方は黒の選択にも当てはまる。c6で取り返した後白がどうくるかが分かる。全体的には研究と創造性の余地が大いにある。黒の取り返し方を(A)と同じ順で考える。

(1)4…bxc6

 GMスパスキーは2局ともこう取り返した。私はこの手が黒の最も好結果をもたらす手法だと思う。eポーンが元々の位置にいるので黒にはd6とf6の地点に弱点を抱えていない。さらには中央に向かっての主眼の取り返しで黒の中央が強化され、白が中央を開放するように指してきた場合には双ビショップを活用する見込みができる。

 ここからは実戦の手を見ていく。

シュルスキス対スビドレル(ヨーロッパ団体選手権戦、プーラ、1997年)
5.O-O Bg7 6.Re1 Nh6!

 このナイトの展開は …f6 と相まってGMスパスキーによって第13局で初めて指された。その意図はポーン陣形を堅くしまったものにして、白がポーンを突いてきても何もとっかかりを与えず無効にできることである。

7.c3 O-O 8.d4

 白は自分で中央を広げるために黒の二重ポーンと「交換」する。今ではこの局面にかなりの定跡がある。

8…cxd4 9.cxd4 d6 10.Nc3 f6

 ここまでの手はとりたてて言うこともなかった。どちらも望んだポーン/小駒の配置に達した。黒の陣形はハリネズミ陣形を模したようなものである。三段目より先には何も突きでていないが、黒陣のすべての地点は目が行き届いている。さらに黒の双ビショップは紛れもなく将来性が潜在的にある。白には妥当な作戦が多いが、以下はそのうちの二つである。

(a)11.Qa4 Qb6 12.Nd2 Nf7 13.Nc4 Qa6 14.Be3 Qxa4 15.Nxa4 f5 16.exf5(16.f3! の方が良く白が少し優勢-GMマツロビッチ)16…Bxf5 17.Rac1 Rfc8 18.Na5 Bd7 19.b3 Rab8 黒は楽に互角になっていて45手で引き分けた(フィッシャー対スパスキー、1992年、番勝負第13局)。

(b)11.b3 Bd7 12.Bb2 Nf7 13.Qc2 Rc8 14.h3 Qc7 15.Rad1 Rfe8 16.Qd2 Qa5 17.d5 cxd5 18.exd5 Bh6 19.Qd4(ルブレフスキー対スビドレル、ロシア、1996年)この試合は36手で引き分けになったが、白は陣地が広いので少し有利のはずである。

11.Be3

 白は 11.h3 と1手かけることなく白枡ビショップを中央の最良の地点に展開できれば望ましい。黒は反発し局勢は険しくなった。GMスルスキスは黒が 11…d5 や 11…f5 と中央で動くと 12.h3 と応じられ、黒が自陣側に弱点を作り出しているので白が楽に少し優勢になると指摘している。

11…Ng4!? 12.Bd2 Bd7 13.Qc2 Qb6 14.Rad1 Rac8 15.Bc1 Qb7 16.e5! fxe5 17.h3! Nh6 18.dxe5 Bxh3

 代わりに 18…Bf5 は 19.Qe2 d5 20.Be3 Kh8 のあと 21.Na4 でも 21.Bc5 でも白が危なげなく優勢になる(GMスルスキス)。

19.Bxh6 Bxh6 20.gxh3 Rxf3 21.exd6 exd6 22.Rxd6 Bf8

 22…Rxh3?! とポーンをかすめ取るのは危険すぎる。23.Ne4! とこられ 23…c5? には 24.Rd7! がある(GMスルスキス)。

23.Rd3 Rxd3 24.Qxd3 Qf7 引き分け

 両対局者とも持ち時間が少なくなっていて、半点で満足した。GMスルスキスは両者の最善の手順を 25.Ne4! Kh8! 26.b3 と示して白が少し優勢とした。本局は『チェス新報』第69巻第137局でGMスルスキスが全手順を詳細に解説している。

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2016年09月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(440)

「British Chess Magazine」2016年5月号(1/4)

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世界選手権挑戦者決定大会

GMニック・パート

セルゲイ・カリャーキン – ヒカル・ナカムラ
世界選手権挑戦者決定大会第2回戦、モスクワ、2016年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.b3 Bb4+ 6.Bd2 Be7 7.Bg2 d5 8.cxd5 exd5 9.O-O O-O 10.Nc3

10…Nbd7

 カリャーキン自身はこの挑戦者決定大会で黒でカルアナ、ギリそして当のナカムラ相手に3局とも 10…Re8 と指してすべて引き分けに終わった。

11.Qc2 Re8 12.Rfd1 Nf8

 ここでは …Rc8 から …c5 と突く方が自然な作戦に思われる。

13.Ne5 Bb7 14.Bc1

 カリャーキンがビショップをb2に振り向け直したのはこの局面の優れた理解の表れだった。

14…Ne6 15.Bb2 Bd6 16.e3

 16.Nb5 もあり、16…Bf8 17.Rac1 c5 18.dxc5 bxc5 19.e3 となれば少し優勢である。

16…a6 17.Ne2

17…c5?!

 大局観の争いの局面で攻撃型の選手の直面する問題はしばしば早まって打って出るということで、それがここで起こった。挑戦者決定大会がすべてに優先するのだから、キング翼インディアン防御やオランダ防御のような切るか切られるかがナカムラにもっとふさわしかったのではと思う。客観的には 17…c6 が望ましく、黒は少し劣勢であっても堅実だった。

18.dxc5

 18.Nc4!? は魅力的に見える。そのあと 18…Bf8 19.dxc5 Nxc5 20.Nf4 Rc8 21.Qf5 Nce4 22.Bxf6 Nxf6 23.Nxd5 Bxd5 24.Bxd5 と進めば白はポーン得になる。それでも勝ちにつなげるのはそれほど容易でない。

18…Nxc5

 代わりに 18…bxc5 と取るのは 19.Nc4! Be7 20.Rd2 で黒の中央が圧力で崩壊しそうだから良くない。しかし本譜では黒には孤立dポーンが残された。この局面では一般的に白の希望は二組の小駒を交換して黒の動きを押さえdポーンの弱点を際立たせることである。これに対して孤立dポーンの側は駒をすべて盤上に残すことを目指すべきである。

19.Nd3 Nce4

 カリャーキンはゆっくり自陣を整備してしだいに駒の働きを良くしながら、陣形の優位で優勢になれることを期待している。

20.Rac1 Rc8 21.Qb1 Qe7 22.Bd4 Rxc1

 この交換は白を利するはずだが、白からc8で交換することができるので黒としては避けることが難しいだろう。ここで私が黒ならもちろん自分からこのような交換はしたくない。

23.Rxc1 b5 24.b4

 たぶん黒は …b6-b5 でなく …Nd7 と指すべきだったろうが、どのみちdポーンがd5で立ち往生しているので白枡ビショップは働かない。

24…Nd7 25.a3 Nf8 26.Ba1

 カリャーキンは当たり障りのない指し方をしていて、一本道の手順に入らずに圧力を強めて相手の悪手を待とうとしている。

26…Ne6 27.Qa2 Bc7 28.Nd4 Bb6 29.h4

29…Nxg3??

 これはとんでもないなポカだったが、どのみちナカムラは重圧を受けていた。代わりに 29…Nxd4 30.Bxd4 Bxd4 31.exd4 Qf6 32.Qb2 h6 なら黒はまだ苦戦だが少なくとも致命傷は負っていなかった。

30.fxg3 Nxd4 31.Bxd4 Bxd4 32.exd4 Qe3+ 33.Qf2 Qxd3

34.Rc7!

 f7とc7の両当たりになっている。ナカムラほどの実力者がこんな手を見落とすことがあるとは驚くしかない。しかしやはり彼はゆっくりした受けに大局観を発揮するような選手ではなく、着眼は攻撃に向きがちである。

34…f5 35.Rxb7 h6 36.Bxd5+ Kh7 37.Bg2 Re2 38.Bf1

 38…Rxf2 と取っても 39.Bxd3 Rf3 40.Bc2 と白に強硬にこられて、黒はポーンを多く取り返すのが困難である。例えば 40…Rxg3+ 41.Kf2 Rxa3 42.Bxf5+ Kg8 43.Bg6 Kf8 44.Rf7+ Kg8 45.Re7

となって Re8 での詰みが避けられない。全体的にカリャーキンが大局観で危なげなく勝った。


カリャーキンはナカムラに勝って好調な出だしとなった。

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(この号続く)

2016年09月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス6