チェスの玉手箱

布局の探究(291)

「Chess Life」2002年5月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.bxa6 Bxa6 6.Nc3 g6 7.g3 Bg7 8.Bg2 d6 9.Nf3 Nbd7 10.Rb1!?(再掲)

1b)10…O-O

マラハトコ対ラフマングロフ(アルシタ、2001年)

 この手の方が黒のルークを効率的に展開できるので良い手順のはずである。

11.O-O Qa5 12.Bd2 Rfb8!

 12…Nb6 は 13.b3! Qa3 14.Ne1 Bb7 15.Nc2 Qa6 16.e4(クルッパ対クリボシェイ、キエフ、2001年)で黒のクイーン翼の駒がごちゃごちゃしているので本譜の手の方が優っている。

13.Qc2

13…Qd8!

 クイーンがa列とb列でほかの駒の邪魔にならないように引っ込んだのはまったく当を得ている。13…Nb6?1 は劣っていて、14.b3 Qa3 15.Bc1 Qa5 16.Rd1 Ne8 17.Bb2 Nc7 18.e4 Bc8 19.h3 Bd7 20.Qc1! Qa6 21.Ra1 Qc8 22.Kh2 で白駒の配置のために黒が何かをするのが難しかった(クルッパ対マラハトコ、キエフ、2001年)。

14.Rfd1

 新手。しかし先受けの 14.b3 で急所のc4の地点を支配する方が的確だったようだ。

14…Nb6 15.e4

 これよりほかにdポーンを守る適当な手段がない。しかしこれでクイーン翼の黒駒が非常に活動的になった。

15…Nc4 16.Bc1 Qa5 17.b3 Ng4! 18.Na4 Bb5! 19.Bf1

 このビショップは黒の白枡ビショップと相殺にするために必要である。しかし白のキング翼が弱体化した。

19…Nce5! 20.Nxe5 Nxe5 21.Bxb5 Qxb5 22.Bb2 Nf3+ 23.Kg2 Bxb2 24.Kxf3

 黒のビショップに中央の斜筋を支配させるのは黒の利益だが、黒のナイトをd4の地点に来させない方が重要である。

24…Bf6 25.Kg2 Qa6!

 黒にはポーンの代償が完全にあり、いい勝負になっている。このあとは 26…Rb4 でクイーン翼での圧力が白の戦力得にものを言わせる望みを打ち砕くことになる。本局はベンコー・ギャンビットの威力の完璧な実戦例となった。

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2017年12月15日 コメント(0)

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布局の探究(290)

「Chess Life」2002年5月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6 5.bxa6 Bxa6 6.Nc3 g6 7.g3 Bg7 8.Bg2 d6 9.Nf3 Nbd7 10.Rb1!?(再掲)

1a)10…Nb6

エピシン対コピロフ(ベールター、2001年)

11.b3 O-O 12.Bb2 Ra7 13.O-O

 白は直前の3手で黒の「フィアンケット」から毒牙を抜き、この手で展開を完了した。黒はポーンの代償を明らかにしなければならない。

13…Qa8 14.Nh4 Rb8 15.Re1!

 これは重要な新手だった。白は都合の良い時に e2-e4 と突く用意ができた。それまで指されていた 15.Ba1?! Nbd7! 16.Qc2 Rab7 17.Nf3 Rb4 はツェバロ対セルメク戦(セント・ビンセント、2001年)では黒の圧力が効果的だった。

15…Bc8 16.h3

 この手でも良いが、GMウラジーミル・エピシンによればすぐに 16.e4! と突く方が強力だった。

16…g5?!

 これはベンコー・ギャンビットでは異筋の手である。ベンコー・ギャンビットの重要な長所の一つは欠陥のないこじんまりしたポーン陣形で、もっともな理由がなければ損なうべきでない。エピシンは 16…Ne8! 17.Qd2 Bxc3 18.Qxc3 f6 19.e4 Rxa2 20.Ra1 Nd7 21.f4 を指摘し、陣地の広さと双ビショップで白が少し優勢としている。

17.Nf3 Nbxd5 18.Nxg5 Nxc3 19.Bxc3 Bb7 20.Bxb7 Rbxb7

 a2の地点に圧力をかけるにはこう取り返すしかない。しかし今や黒のキング翼が根本的に弱体化したのは明白である。

21.Qd3! h6 22.Bxf6 hxg5 23.Bxg5 Rxa2 24.h4

 黒の問題は明らかである。まだギャンビットしたポーン損のままで、キング翼は隙だらけである。エピシンは力強くていねいに締めくくった。

24…Qc8 25.Qf3 Raa7 26.Rbd1!

 このルークはd3に上がれば働きが増し、bポーン、中央、それにキング翼を見張ることになる。より詳しい解説は『チェス新報』第81巻第46局のIMコピロフの解説を読んで欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

26…Rb4 27.Rd3 Qb7 28.e4! Qd7 29.e5! Qe6 30.Bd2 Rd4 31.Rxd4 cxd4 32.exd6 Qxd6 33.h5 Ra2 34.Qd3 e5 35.b4 Qc6 36.h6! e4 37.Qxe4 Qxe4 38.Rxe4 Rxd2 39.Rg4 d3 40.Kg2 Rd1 41.Rxg7+ Kf8 42.Rg5 d2 43.h7 Rg1+ 44.Kxg1 d1=Q+ 45.Kg2 黒投了

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2017年12月13日 コメント(0)

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布局の探究(289)

「Chess Life」2002年5月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順(続き)

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5 4.cxb5 a6(再掲)

1)白は欲張りだが注意深い

5.bxa6

 白はこの手でポーンが欲しいことを明かにした。重要な疑問は「黒は代わりに何を得るのか」ということである。その答えは簡単で、「a列とb列で白のクイーン翼に圧力をかけることができるようになる」である。しかし予想される指し方はおのずから分かるというものではなく、黒は大量の知識が必要である。

5…Bxa6

 この当たり前の取り返しが歴史的に見ると最もよく指されてきた。しかし最近 5…g6 が同等の地歩を占めるようになってきた。それは取り返しを急ぐ必要はないのだから「フィアンケット」を始める方が黒に取って融通性があるということである。

6.Nc3 g6 7.g3

 この本手の「フィアンケット」で白は黒に即席の反撃の可能性を与えることなくキング翼の展開を完了する準備に取り掛かる。7.e4 Bxf1 8.Kxf1 の方がかなり野心的で、諸刃の剣の状況になる。白は中央が強化されるが、黒は白枡ビショップの交換でa列での展開が促進される。「布局大成A」はこれを最も重要な戦型と考えていてA59を付与している。

7…Bg7 8.Bg2 d6

 黒の直前の3手はどの順序で指しても良い。

9.Nf3

 9.Nh3 も理にかなった手で、「フィアンケット」されたビショップの白枡対角斜筋を通したままナイトがf4に跳べるようにする。しかし白は安全で本筋の展開をするつもりなので、最善はこのナイトを通常の中央の地点に置くことであることが分かっている。

9…Nbd7 10.Rb1!?

 本譜の手は比較的新しい着想である。黒は直前の手で …Nb6-c4 でb列に圧力をかける用意をしたことを告げた。そこで白はb2の地点を過剰に守った。ほとんどの場合この手と 10.O-O は同じことになる。

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2017年12月08日 コメント(0)

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布局の探究(288)

「Chess Life」2002年5月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ベンコー・ギャンビット主手順

 閉鎖布局の中で戦略上の最も重要な発見/新手はベンコー・ギャンビットである。

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5

 生みの親は要求される戦略的な深みを与えたハンガリー系米国人のGMパル・ベンコーがふさわしいと考えられる。一見何もないように見える閉鎖局面の初めで黒がポーンをまるごと犠牲にできるのは極めてまれである。それでも時の試練に耐えてきたし、これからもそうであると思われる。それと同時に、ベンコー・ギャンビットをうまく指しこなすことは大変難しいと読者に警告しておいた方が良いだろう。これは駒がすぐに直接的に動くのではなく、戦略的な機微に基礎を置いているからである。ベンコー・ギャンビットは人気があるゆえに戦型が豊富である。最も重要なのをあげると 4.Nd2、4.a4、4.Qc2、4.Nf3、それに 4.cxb5 a6 5.bxa6、5.Nc3、5.f3、5.b6、5.e3 である。そのうちもっとも本筋と思われる2戦型を考察する。

4.cxb5 a6

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2017年12月06日 コメント(0)

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布局の探究(287)

「Chess Life」2002年1月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局(続き)

3)1.e4 e5 2.Bc4 Nf6! 3.d3 c6 4.Nf3 Be7

フョードロフ対クラムニク
ベイクアーンゼー、2001年

 この手からの作戦は現在黒の最も適切な方針とみなされている。白陣からはまだ脅威を受けていないので、黒は自身の落ち着いた展開を推し進める。黒が避けたいのは潜在的に攻撃の対象となるポーンの弱点である。(もちろん 5.Nxe5?? は 5…Qa5+ で白の負けになる。)

5.O-O d6

 これはe5の地点を守る最も手っ取り早い方法である。しかしマインカ対ミハルチシン戦(ドルトムントⅡ、1998年)のように 5…Qc7 6.Bb3 O-O 7.Re1 d6 8.c3 Nbd7 9.d4 b5 10.Nbd2 a5 11.Nf1 a4 12.Bc2 Re8 13.Ng3 Nb6 14.h3 g6 も理にかなっている。この局面は閉鎖ルイロペス定跡の主流手順によく似ていて、白が少し有利のはずである。

6.Bb3 Nbd7

 ここからしばらくの間クラムニクは戦力を注意深く捌くことに満足している。ゲリファント対ユスーポフ戦(ミュンヘン、1994年)ではもっと攻撃的な展開だった。6…O-O 7.c3 Bg4 8.Nbd2 Nbd7 9.h3 Bh5 10.Re1 Nc5 11.Bc2 Ne6 12.Nf1 Nd7! 13.Ng3 Bxf3 14.Qxf3 g6 全体的には黒はよくやっている。しかしこの閉鎖ルイロペス型の局面ではそれでもどうしたら完全に互角になるかを示さなければならない。

7.c3 Nf8 8.Re1 Ng6 9.Nbd2 O-O 10.d4

 黒はどんな攻撃を受けるか分からないキング翼を要塞化した。白は本譜の手で黒の中央に圧力をかけ始めた。盤上の局面はやはり閉鎖ルイロペスの様相を呈している。黒はいくらか展開で先行しているが、駒は白の方が活動的である。いずれは白のわずかな優勢が続くことになるはずである。

10…h6!?

 フョードロフによればこれは通常の 10…Qc7 に代わる新手である。その意図は白の Ng5 に煩わされないで …Re8 と指すことである。

11.Nf1 Re8 12.Ng3 Bf8 13.h3 Qc7 14.Be3

 白が滞りなく小駒の展開を完了したのに対し、黒はまだクイーン翼ビショップの処置を決めなければならない。普通に 14…Be6 15.Bxe6 Rxe6 と指すのは重要なf5の地点を白に明け渡す。だからクラムニクは短斜筋に目を向けた。

14…b6 15.Bc2

 ここは面白い瞬間である。白は黒の …Bb7 または …Ba6 に Nf5 と指せるようにe4の地点を過剰に守った。あとでフョードロフは 15.c4!? か 15.Qc2!? の方が有効だったように感じた。

15…Ba6?!

 クイーン翼ビショップは確かにここからの斜筋が素晴らしい。しかし「遊び駒」である。戦略的には 15…Bb7 の方が役に立つ。クラムニクは17手目にこのビショップをb7に戻した。

16.b3 Rad8 17.Qb1 Bb7! 18.a4

 白のクイーン翼ルークがa1に閉じ込められているので本譜の手は 19.a5 でa列を素通しにすることを期待している。しかし黒は中央で戦う用意をしている。フョードロフによれば白は 18.c4 で通常の有利を保持できた。

18…d5! 19.exd5 exd4 20.Bxd4 Rxe1+ 21.Nxe1 Nxd5 22.Bxg6 fxg6 23.Qxg6

 先の解説から局面は激変した。黒はポーンを犠牲にし、代償として戦力の連係に優っている。フョードロフは 23…Nf4! で黒に十分な代償があると考えている。例えば 24.Qg4 c5 25.Be3 Nd5 26.Rd1 Nxc3 27.Rxd8 Qxd8 28.Bxh6 Qd1! となる。

23…c5?! 24.Qe6+ Qf7 25.Qxf7+ Kxf7 26.Be5 Ne7 27.c4 Nc6 28.Bc3 Bc8

 クラムニクは白がポーン得にもかかわらず進展を図るのが困難な陣形を構築した。白はここで 29.Kf1 から 30.Nf3 で駒の動きを良くするよう努めるべきだった。代わりに白は当初の作戦を急いで黒に思う存分反撃された。

29.a5?! bxa5! 30.Bxa5 Rd7 31.Bc3 Rb7

 ここでの問題は明らかで、b3の地点が慢性的な弱点になっていて黒の双ビショップは重要な斜筋に利いている。いい勝負である。

32.Rb1 Be6 33.Rb2 Nd4

 33…a5 も良い手だが、黒は双ビショップの動ける余地を最大限広げる方を選択した。

34.Bxd4 cxd4 35.Nf3 Ba3 36.Ra2 Rxb3 37.Nxd4 Rd3 38.Nxe6 Kxe6 39.Ne4 a5 40.f3 Bb4 41.Kf2 引き分け

 aポーン、働きの良いビショップ・ルーク・キングの威力が白のポーン得を完全に相殺している。

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2017年12月01日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(286)

「Chess Life」2002年1月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局(続き)

3)1.e4 e5 2.Bc4 Nf6! 3.d3 c6 4.Nf3 d5 5.Bb3(再掲)

A.5…Nbd7

 黒はeポーンをしっかり守ったが、クイーン翼ビショップの利きをふさぎdポーンの守りを邪魔している。コンケスト対シフエンテス戦(オロト、1994年)で白はこれに次のようにつけ込んだ。6.O-O Bd6 7.exd5! Nxd5(7…cxd5?! は 8.Nc3 で黒がd5の地点に問題を抱える)8.Nbd2 O-O 9.Re1 Re8 10.Ne4 Bf8 11.Bd2 b6?(シフエンテスによれば 11…h6 と守らなければいけなかった)12.d4! Bb7 13.c4 N5f6 14.Nxf6+ Qxf6 15.dxe5 Nxe5 16.Rxe5! Rxe5 17.Bc3 Bd6 18.c5! bxc5 19.Nxe5 Bxe5 20.Qd7 白の勝ちに終わった。

B.5…dxe4

 これはホンフィ対ルカーチュ戦(ハンガリー、1975年)のように 6.Ng5 Be6 7.Bxe6 fxe6 8.Nxe4! Nxe4 9.dxe4 Qxd1+ 10.Kxd1 で望んでもいない收局になる。黒は弱い孤立eポーンの代償が何もない。

C.5…a5

 カスパロフ対バレエフ戦(リナレス、1993年)で黒はこの手で白のキング翼ビショップが厄介なことになるだろうと考えたが、全然そんなことはなかった。6.Nc3! Bb4 7.a3 Bxc3+ 8.bxc3 Nbd7 9.exd5! Nxd5(カスパロフによれば 9…cxd5?! は 10.O-O O-O 11.Re1 でもっと悪い)10.O-O O-O 11.Re1 Re8 12.c4! Ne7 13.Ng5 h6 14.Ne4 a4 15.Ba2 c5 16.Nd6 Rf8 17.c3! Ng6 18.Bb1! Nf6 19.Nxc8 Qxc8 20.Qf3 双ビショップ、中央の地点の完全な支配、それに黒陣の本質的なすき間の多さのため白に通常の有利さがあった。カスパロフが34手で勝った。『チェス新報』第57巻第299局にカスパロフの詳細な解説が載っている。

D.5…Bb4+

 この手の意図は 6…d4 で 6.Nc3 を妨げることである。しかし 6.c3 でも 6.Bd2 でも白にとって役に立つ手で有効な1手である。好例はユダシン対アルテルマン戦(イスラエル、1994年)で、6.c3 Bd6 7.Bg5 Be6 8.Nbd2 Nbd7 9.d4! exd4 10.exd5! Bxd5 11.Bxd5 cxd5 12.Nxd4 と進んだ。黒の孤立ポーンのせいで白が楽に優勢になっている。GMユダシンがそのまま67手で勝った。『チェス新報』第62巻第332局にユダシンの解説が載っている。

E.5…Bd6

アダムズ対クラムニク(ティルブルフ、1998年)

 これが 4…d5 5.Bb3 の戦型で黒の人気断トツの作戦である。難なくeポーンを守りキャッスリングの用意をしている。

6.Nc3! dxe4

 気は進まないがそれでも最善手である。代わりに 6…d4?! は白のキング翼ビショップの斜筋を通し、黒のキング翼ビショップの可能性を削ぐ。6…Be6 も 7.Bg5 でd5の地点にすぐに圧力がかかるので望ましくない。

7.Ng5 O-O 8.Ncxe4 Nxe4 9.Nxe4 Bf5 10.Qf3 Bxe4

 戦略の理解が並外れているクラムニクは双ビショップをすぐに放棄してもささいな代価だと見通していた。実際ゲオルギエフ対アルテルマン戦(レックリングハウゼン、1998年)で白は 10…Bg6 11.h4! Bxe4 12.dxe4 Nd7 13.c3 Nc5 14.Bc2 でキング翼に有益な広さを得た。

11.dxe4 Nd7 12.c3 a5!

 GMアルテルマンによると本譜の手は 12…Nc5 13.Bc2 a5 の改良で、白が少し優勢である。

13.a4

 これでは黒がクイーン翼のポーンを動員することができる。だからすぐに 13.O-O!? の方が有望で、aポーンを気にする必要はなかった。

13…Nc5 14.Bc2 b5 15.O-O Qc7 16.Rd1 Rab8 17.axb5 cxb5 18.g3 b4 19.cxb4 Rxb4 20.Bd2 Rxb2 引き分け

 21.Bxa5 で確かに互角の形勢である。しかし注目すべきは後日クラムニクが 4…d5 の作戦を避けたことである。それが次局である。

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2017年11月29日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(285)

「Chess Life」2002年1月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップ布局

 チェスの定跡はナイル川のように容赦なく進み、その跡には耕すべき畑が残される。チェスの永遠の原則に忠実である限り結果は実りあるものとなる。

 ビショップ布局(1.e4 e5 2.Bc4)は優に100年以上の歴史があるのに、この20年でやっとGMたちの高い信頼を勝ち得た。今回はこの一般に過小評価されている布局の基本原則を取り上げることにする。

1.e4 e5 2.Bc4

 初心者でさえ白の2手目の意味はすぐに理解することができる。キング翼ビショップが黒陣の最弱点であるf7の地点に狙いをつけている。

2…Nf6!

 好手記号を付けたのはまったく申し分のない手だからである。このナイトは最良の地点に位置してe4の地点に圧力をかけ、白クイーンがf3やh5の地点に来る可能性を妨害している。

 GMたちは対称形の 2…Bc5 を信頼してこなかった。というのは開放局面では相手より1手遅いということは常に危険だからである。白はアマチュアっぽい 3.Qh5 や 3.Qg4 でさえ好結果だった。

3.d3

 これが現代流の戦略である。白はキング翼ビショップとeポーンを守り、クイーン翼ビショップの斜筋を開けている。攻撃的な 3.d4!? のかなりの量の定跡が20世紀の前半から存在している。ほとんどの評価は白が捨てたポーンの代償を完全に得ることができないということである。

 本譜の手に対し布局定跡では黒の作戦として4とおり考えられている。

1)3…d5?! は開戦が早すぎる。ドルマートフ対チェーホフ戦(ソ連選手権戦、1981年)で黒は次のように報いを受けた。4.exd5 Nxd5 5.Nf3 Nc6 6.O-O Be7 7.Re1 Nb6 8.Bb3! Bg4!? 9.h3 Bh5 10.g4! Bg6 11.Nxe5 Nxe5 12.Rxe5 O-O そして実戦の 13.Nc3 でもGMチェーホフの指摘する 13.Nd2 でも黒はポーンの代償が十分でない。

2)3…Bc5 4.Nf3 d6 は対称形の穏やかな戦型で、白が通常のわずかな有利を保持している。5.c3 O-O 6.Bb3 Nbd7 7.h3 a6 8.Nbd2 Ba7 ここでボリス・ゲリファントは 9.Nf1! Nc5 10.Bc2 d5 11.Qe2 を推奨している。このあと白は g2-g4、Ng3 そして Bg5 で黒のキング翼に狙いをつける。

3)3…c6 4.Nf3 d5 5.Bb3

 表面的には黒陣はまったく順調のように見える。何といっても中央で優位に立っている。しかし別の面では中央がいくらか圧力を受け、白が展開で先行している。実際黒は極度に注意深くしなければならない。ここでは選択肢が5手ある。

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2017年11月24日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(284)

「Chess Life」2001年3月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6! 8.Be2! Bb7 9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5(再掲)

11.O-O

 古きは新しきなり!この「自然な」手は1970年代と1980年代初めには普通だった。それが変わったのは1980年代のカルポフ対カスパロフの世界選手権戦で、両者により 11.b4!? が奥深く探求された。黒はすぐに 11…c5 と突いて有効な反撃をするのがより困難になると考えられていた。それにもかかわらず主流手順は長いこと 11…c5 12.bxc5 bxc5 13.Rb1 Bc6 14.O-O Nd7 15.Bb5 Qc7 16.Qc2 だった。カルポフ対カスパロフ戦(1984/85年、第39局)では 16…Rfd8 で白がわずかに優勢だった。カスパロフ対カルポフ戦(1984/85年、第42局)では 16…Rfc8 で黒が最終的に互角にした。

 それはともかく 11.O-O に戻る。この何の変哲もない佳手は新たな探求の展望を提供し続けている。

11…Qe7

 この手はどの点からも非がない。クイーンがe列を見張り、f8のルークのためにd8の地点を空けた。しかしのちにニコリッチ対ショート戦(ベイクアーンゼー、2000年)で黒は控えめな 11…c6 でも互角にした。12.Qc2 Re8 13.Rad1 Na6 14.Rfe1 g6 15.Bxa6 Bxa6 16.e4 Bg7 17.exd5 Rxe1+ 18.Rxe1 cxd5 19.Ne5 Bb7 20.Re3 Qc7

12.Qb3 Rd8 13.Rfd1 c6 14.Bf1

 この新手はピケット対ベリャフスキー戦(ブゴイノ、1999年)に初めて現れた。白はのちに中央で …c6-c5、…d5-d4 と突かれた場合の危険に備えてビショップを引っ込め、黒がクイーン翼で展開する作戦を待っている。ニコリッチ対ベリヤフスキー戦(レイキャビク、1991年)で白は 14.a4 と突いたがほとんど成果がなかった。

14…Na6

 これはショートの改良手である。上述のピケット対ベリャフスキー戦で黒は駒を有効に連係させることが全然できなかった。14…Bc8?! 15.g3! Bg4 16.Bg2 Nd7 17.Rac1 Rac8 18.Ne2! Nf8 19.h3 Bf5 20.Nf4 g6 21.Qa4! Bg7 22.b4! 黒陣に対する圧力が続いている。

15.Rd2

 この手と次の手はちぐはぐである。ピケットは 15.g3 Nc7 16.Bg2 Rab8 17.Rac1 Ne6 18.Rd2 のように展開することを示唆している。

15…Nc7 16.a4 Ne6

 ショートは 16…c5!? 17.dxc5 bxc5 18.Qxb7 Bxc3 19.bxc3 Rdb8 20.Qc6 Rb6 21.Qxa8+ Nxa8 22.Rxd5 Nc7 という戦術を指摘して、形勢不明としている。

17.a5

 白はこう突かなかった方が良かったと思う。この手はaポーンを弱め黒のクイーン翼を固めさせている。

17…b5 18.Qa2 a6 19.Rc1?

 これが敗着になった。ほぼ互角への最後の可能性は 19.Ne2! Rac8 20.Rc1 だった(ショート)。

19…c5!

 黒駒が急に元気いっぱいになった。20.g3 c4 ならまだしもだったが、白は水門を開けた。

20.dxc5? d4! 21.Nxd4 Bxd4! 22.exd4 Nxd4 23.Kh1

 白クイーンは傍観者になっているが、黒の4駒は白キングに狙いをつけている。ショートは鮮やかに締めくくった。

23…Nf3!! 24.Rxd8+

 ショートは『チェス新報』第77巻第444局で次のためになる手順をあげている。24.Rdd1 Qg5! 25.Ne2 Qh4! 26.gxf3 Qxf2 27.Bg2 Bxf3 28.Bxf3 Qxf3+ 29.Kg1 Qxe2

24…Rxd8 25.c6 Bxc6 26.Ne2 Qh4! 27.gxf3 Qxf2 28.Nf4

 楽しい戦術の好きな人のためにショートは次の変化もあげている。28.Rxc6 Qxf1+ 29.Ng1 Rd1 30.Rg6 Qxf3+ 31.Rg2 Qe4! 32.b3 Rxg1+ 33.Kxg1 Qe1#

28…Bxf3+ 29.Bg2 Rd2 30.Rg1 Be4! 白投了

 次に 31…Qxf4 で黒の楽勝である。

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2017年11月22日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(283)

「Chess Life」2001年3月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御(続き)

1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Be7! 4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6! 6.Bh4 O-O 7.e3 b6!(再掲)

クイーン翼ギャンビット拒否タルタコーベル戦法 [D58]
白 GMミゲル・イリェスカス
黒 GMナイジェル・ショート
パンプローナ、1999/2000年

8.Be2!

 経験という名の素晴らしいトレーナーのおかげで本譜の手が白に大人気の手になった。白は黒の次の手が 8…Bb7 であることを「知っている」ので、それに備えた。

 有力な変化を以下にあげる。

 1)8.cxd5 約50年間これが主流手順だった。その意図は黒のクイーン翼にすぐに圧力をかけることである。白の潜在力はフィッシャー対スパスキー戦(レイキャビク、1972年、24番勝負第6局)に顕著に表れている。8…Nxd5 9.Bxe7 Qxe7 10.Nxd5 exd5 11.Rc1 Be6 12.Qa4 c5 13.Qa3 Rc8 14.Bb5 a6? 15.dxc5 bxc5 16.O-O Ra7 17.Be2 Nd7 18.Nd4! このあとフィッシャーが41手目で勝った。しかしその後まもなくGMゲレルが 14…Qb7! 15.dxc5 bxc5 16.Rxc5 Rxc5 17.Qxc5 Na6! で問題ないことを示した。

 2)8.Bd3 は白の展開が順調になる。しかしそれは黒も同じことである。最近の実戦例のシャバロフ対ベリャフスキー戦(ロサンゼルス、1999年)は 8…Bb7 9.O-O Nbd7 10.Bg3 c5 11.cxd5 Nxd5! 12.Rc1 N7f6! 13.Qe2 cxd4 14.exd4 Rc8 15.Ne5 Bb4! で互角だった(53手で黒の勝ち)。完全な棋譜は『チェス新報』第77巻第440局にGMベリャフスキーの解説付きで出ている。

 3)8.Qb3 はd5の地点に圧力をかけて良さそうに見える。しかしクイーンがb3に行くべきだと知っていると言うには早すぎることが分かってきた。黒は 8…Bb7 9.Bxf6 Bxf6 10.cxd5 exd5 11.Rd1 Re8 が堅実である。

 4)8.Rc1 はすぐにc列に圧力をかけることを目指している。しかし黒は好形なのでそれを十分無効にできる。例えばユスーポフ対カルポフ戦(ブゴイノ、1986年)は 8…Bb7 9.Be2 dxc4 10.Bxc4 Nbd7 11.O-O c5 12.Qe2 a6 13.a4 cxd4 14.Nxd4 Nc5 15.Rfd1 Qe8 16.Bg3 Nfe4 17.Nxe4 Nxe4 18.Be5 Bf6! と進んで互角だった。

 5)8.Bxf6 はGMビクトル・コルチノイの洗練された戦略構想で、白のナイトが黒のビショップより優位に立つ中央のポーン陣形を目指すものである。しかし1手早いということが分かっている。なぜなら 8…Bxf6 9.cxd5 exd5 10.Be2(10.Bd2 や 10.Bd3 もある)のあと黒は 10…Be6! と指すからである。定跡によればこの白枡ビショップはb7よりもe6の方がこれからよく働くことが明らかになっている。結果として黒は容易に互角にできる。

8…Bb7

 7…b6 の当然の継続手である。しかしここで白はコルチノイの構想を有利な状況で実行する。

9.Bxf6! Bxf6 10.cxd5! exd5

 GMの試合ではこのようにポーンで取り返す手しか見たことがない。実際 10…Bxd5?! と取ると白は中央で大きく優位に立ち、黒は 7…b6 と突いてしまったせいでクイーン翼に弱点が残る。

 両者の戦略目標は次のようになる。

 1)は敏捷なナイト、ビショップ、それにクイーンがよってたかってd5の地点に圧力をかける。黒が …c7-c6 と突いて守ることを余儀なくされれば、白枡ビショップが閉じ込められクイーン翼にさらに弱点ができる。さらには中央で e3-e4 と突く仕掛けが白からの危険な攻撃の始まりになるかもしれない。

 2)は白の作戦を妨げることに努め、双ビショップと連係させていつか …c7(または …c6)-c5 突きで反撃する可能性に期待をかける。

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2017年11月17日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(282)

「Chess Life」2001年3月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御

 この連載の前篇ではクイーン翼ギャンビット受諾を論じた。今回は対極にあるクイーン翼ギャンビット拒否オーソドックス防御を取り上げる。この名前は100年以上もの歴史的起源に由来する。つまり最善手と見なされていたがゆえに「オーソドックス」なのである。

1.d4 d5 2.c4 e6

 これはどの点からも本手である。すなわち重要なd5の拠点を守りキング翼の展開を可能にしている。しかし黒にはよく起こることだが残念ながら欠点もある。それは白枡ビショップが閉じ込められることである。これに代わる有力な手はスラブ防御(2…c6)で、クイーン翼ビショップの斜筋を開けたままにするがキング翼の展開は遅れる。さらには白枡ビショップが代償なしに好所に展開するのはそもそも容易でない。

 上記の手順は「標準版」である。手順の科学では両者とも指し始めに融通性がある。例えば『チェス新報』第77巻(2000年発行)ではD58という戦型記号に5局の全棋譜が掲載され、そのどれもが 1.d4 d5 2.c4 e6! という手順で始まっていない

3.Nc3

 d5の地点に圧力をかけるこの本筋の展開の手は白の最強手と考えられるに違いない。しかし白はよく 1.Nf3 や 1.c4 と指したり2手目に Nf3 と指したりするので、g1のナイトがb1のナイトより先に展開される局面になることも多い。

3…Be7!

 GM間では現在のところこれがクイーン翼ギャンビット拒否(オーソドックス)に到達する唯一の正着だとみなされている。どこが洗練されているのかというと、3…Nf6 では 4.cxd5! exd5 5.Bg5! c6 6.Qc2 Be7 7.e3 Nbd7 8.Bd3 O-O 9.Nf3 Re8 10.O-O Nf8 で白にとってクイーン翼ギャンビット拒否交換戦法の望ましい版になるからである。このあとは 11.Rab1(少数派攻撃の準備)または 11.h3(…Bg4 の防ぎ)で白からの圧力が厄介なものとなる。

 本譜の手は 4.Bg5 を防ぎ、d5の地点を楽に守る手を稼ぐので交換戦法を骨抜きにすることになる。

4.Nf3 Nf6 5.Bg5 h6!

 ここでも手順のあやがある。GMたちは 5…O-O 6.e3 h6 よりもすぐにこう指すのを学んだ。その理由は 7.Bxf6 Bxf6 のあと …h7-h6 突きで黒の陣形がゆるんでいるので、白はクイーン翼にキャッスリングし黒のキング翼を攻撃する戦型を選ぶことができるからというものである。本譜の手のあとなら 6.Bxf6 にさほどの利点はない。なぜなら黒はまだキングがどちらに行くか明示していないからである。

6.Bh4 O-O 7.e3 b6!

 容易に分かるように黒は白枡ビショップをうまく展開できれば、楽に調和のとれた防御態勢になる。それで1920年代初めにGMサベリ・タルタコーベルはこのビショップをフィアンケットする構想を思いついた。時がたちほかの戦型もいろいろ登場したが、これが現在のところGM間でゆうに90%以上を占めている。だから模範局としてこれを選んだ。

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2017年11月15日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(281)

「Chess Life」2000年12月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

D.1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6! 7.Bb3! Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1(再掲)

 だから明白な 10…O-O は必然として、当然の 11.a3 のあと黒には理にかなった手が2手ある。

 A)11…Na5 は白ビショップを追い払いa8-h1の斜筋を通そうとしている。12.Bc2 b5 13.d5! 白は黒の白枡ビショップの活動を防ぐために積極的に動く必要がある。黒がポーン捨てを受諾するのは危険である。13…exd5 14.Qd3(カスパロフ)も 13…Nxd5 14.Nxd5 exd5 15.Qd3! も白が黒のキング翼をにらみe列を制圧する。カスパロフ対イワンチュク戦(リナレス、1999年)では黒は 13…Nc4(『チェス新報』第75巻第359局を参照)と指し、クラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)では 13…Re8(同第75巻第360局を参照)と指した。どちらにしても黒は細心の注意を払って受ける必要がある。

 B.11…b5 はナイトを中央付近に置いたままにする。ツェサルスキー対ジルバーマン戦(テルアビブ、2000年)では 12.d5?! Nxd5 13.Nxd5 exd5 14.Bxd5 Bb7 と進んで黒が好調だった。ジルバーマンは代わりの 12.Qd3 Bb7 13.Bc2 g6 14.Bh6 Re8 15.Rad1 を推奨し「主導権がある」としている。

10…Na5

 次の世界チャンピオンになるクラムニクは『チェス新報』第76巻第370局でこの手に疑問手の記号を付けていた。正着でないことはそのとおりだが、次の手の方が重大な誤りだった。

11.Bc2 b5?

 いつものカルポフならこの手でキャッスリングをするところである。しかしここでは既存の定跡を信用して報いを受けた。

12.d5!

 これが誤りの証明である。先例の 12.a3 Bb7 13.Bg5 O-O と 12.a4 b4 13.Ne4 Bb7 14.Nc5 Bxc5 15.dxc5(フィリポフ対エストラーダ・ニエト、リナレス、1998年)では互角の形勢だった。

12…b4

 この手は食指が動かないが、クラムニクは 12…exd5 13.Bg5! でも 12…Nxd5 13.Nxd5 Qxd5 14.Bd2! でも白がはっきり優勢になると指摘している。

13.Ba4+ Kf8

 気が進まないのは 13…Bd7 14.dxe6 fxe6 15.Bxd7+ も同じで、黒はeポーンを失う羽目になる。本譜の手のあとクラムニクは黒キングの位置の悪さに巧妙につけ込んだ。

14.Bf4! bxc3

 14…exd5 なら 15.Ne2、14…Nh5 なら 15.Ne2! Qxd5 16.Bc7!(クラムニク)。

15.d6 Nd5

 黒はなんとか流れを変えようとしている。15…cxb2 は 16.dxe7+ Kxe7 17.Qc2 Bd7 18.Qxb2 Bxa4 19.Qa3+ で黒キングが薄すぎる(クラムニク)。

16.dxe7+ Qxe7 17.Be5 Bb7 18.bxc3 Rd8

 クラムニクによれば 18…Nc4 19.Qd4 Nxe5 20.Nxe5 Rd8 の方が黒の防御が少しだけ楽になる。

19.Nd4

 黒の負けが決まった。19…Nxc3 なら 20.Qg4! Rg8 21.Nxe6+ Qxe6 22.Qb4+ Qe7 23.Bxc3 で黒は受けなしになる(クラムニク)。

 終局までの手順は次のとおりである。

19…Nc4 20.Bxg7+! Kxg7 21.Nf5+ exf5 22.Rxe7 Nxe7 23.Qe2! Ng6 24.Qxc4 Rd2 25.Bb3 Bd5 26.Qxa6 Rd8 27.Bxd5 R8xd5 28.h3 Ne5 29.a4 f4 30.a5 f3 31.Qb7 fxg2 32.a6 黒投了

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2017年11月10日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(280)

「Chess Life」2000年12月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 Nf6 4.e3 e6 5.Bxc4 c5! 6.O-O a6!(再掲)

 A.7.dxc5 はまったく無害というわけではない。1992年のフィッシャー対スパスキーの番勝負でボリス・スパスキーは4局でこれを用いボビー・フィッシャーは互角にするのに苦労した。一例は第18局で、7…Qxd1 8.Rxd1 Bxc5 9.Nbd2 O-O 10.a3 b5 11.Be2 Bb7 12.b4 Be7 13.Bb2 Nbd7 14.Rac1 Rfc8 15.Nb3 Rxc1 16.Rxc1 Rc8 17.Rxc8+ Bxc8 18.Nfd4 Nb8 19.Bf3 Kf8 20.Na5 と進んで黒のクイーン翼の弱点のために白の優勢はわずかだが悩ましかった。

 B.7.a4 は1960年代と1970年代が絶頂期だったが、もちろん現在でも信奉者はいる。その意図は明らかで、…b5 突きを防ぐことである。もっとも代価も否定できず、1手損しクイーン翼が弱体化する。イフコフ対ゲオルギウ戦(ハンブルク、1965年)が典型的な手順で、7…Nc6 8.Qe2 cxd4 9.Rd1 Be7 10.exd4 O-O 11.Nc3 Nb4 12.Ne5 Bd7 13.Bf4 Be8 14.Bg5 Rc8 15.Bb3 Bc6 16.Nxc6 Rxc6 17.Bxf6 Bxf6 18.d5 exd5 19.Nxd5 Nxd5 20.Bxd5 Rd6 21.Bxb7 a5 で異色ビショップのため互角が確実なはずである。

 C.7.Qe2 はほんの数年前までよく指されていた。主手順は相当深く研究されている。最近のクラムニク対トパロフ戦(FIDE世界選手権戦、1999年)では新手が披露された。7…Nc6 8.Rd1 b5 9.d5!? exd5 10.Bxd5 Nxd5 11.e4 Bd6 12.exd5+ Ne7 13.a4 b4 14.Nbd2 O-O 15.Nc4 Re8 16.Bg5 a5 17.Re1 Ba6 18.Qe4 Bxc4 19.Qxc4 Qc7 20.Bxe7 Bxe7 ほぼ互角で早々と引き分けに終わった。

 D.7.Bb3! これが現在大流行していて、勝手に好手記号を付けておいた。この洗練された着想で白は黒の …b7-b5 で当たりのビショップを引く必要がない代わりにどのように応じるか決めることができる。例えばすぐに 7…b5 と突くのは 8.a4! b4 9.Nbd2 Bb7 10.e4! cxd4 11.e5 Nfd7 12.Nc4 Nc6 13.Bg5 Qc7 14.Rc1 Nc5 15.Ba2 Ne4 16.Bh4 g5 17.Bb1!(トレグボフ対ブリネル、ポーランド、1999年)でたぶん時機尚早である。黒は盤上のあちこちに弱点を抱え、展開で大きく遅れている。白が順当に31手で勝った。『チェス新報』第75巻第357局にトレグボフの分析があるので読んでみて欲しい。

 だから黒側の選手の大部分はまず展開に集中し …b7-b5 突きは遅らせるようになった。クラムニク対カルポフ戦(フランクフルト、1999年)は次のように進んだ。

7…Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1

 黒はここで注意がいる。何といっても白は展開に優り、中央で優位に立ち、e1のルークは d4-d5 突きを支援する位置にある。黒はキングがまだ中央列にいるのできわめて危険な状況である。

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2017年11月08日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(279)

「Chess Life」2000年12月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か(続き)

クイーン翼ギャンビット受諾(続き)

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3(再掲)

3…Nf6

 白にとってとまったく同様に黒にとっても言うところのない手である。ほとんどの場合 3…a6 とすぐにクイーン翼で動いていっても本手順に合流するだけである。ほかの手も大したことはない。

 しかし黒にとってしてはならないことは欲張って 3…b5?! とポーンにしがみつこうとすることである。それは 4.a4! c6 5.e3! Qb6 6.axb5! cxb5 7.Ne5!(7.b3! cxb3 8.Qxb3 でもよく、ポーンを取り返しながら中央が絶好形になる)7…Bb7 8.b3! cxb3 9.Qxb3 で成立しない。黒はbポーンを失い展開と中央で劣勢に苦しむ、とはGMタイマノフの分析である。

4.e3

 これでやすやすとポーンを取り返すことができる。攻撃好きなら 4.Nc3 でそれ以上を目指すことができ、4…a6 5.e4 b5 6.e5 Nd5 7.a4 でポーンの犠牲を策する。これはビクトル・コルチノイらが時折好んでいた。そのあとの局面はすぐに険しい乱戦になる。

 しかし 4.Nc3 をもくろむなら黒が裏をかく可能性を知っておかなければならない。つまり 4…c6 で局面はスラブ防御に変化する(1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 dxc4)。白はこれに備えておくべきである。

4…e6

 わたしはこの手からの戦型の方が黒に取って有望であるとみている。4…Bg4 と白枡ビショップの展開を図る方が魅力的に見えるかもしれないが、実際のところは黒の反撃の可能性は乏しく、中央での劣勢は長く続く。

5.Bxc4 c5!

 この手で黒の中央での反攻が始まる。これに対し白はキャッスリングでキング翼の展開を完了するのが良い。

6.O-O a6!

 クギャ拒否における黒の見通しはこの手にかかっている。好機に …b7-b5 と突いたあとはすぐに …Bb7 と構えるかもしれない。チェス布局大成D(1998年)では白の応手を8手考慮しているが、そのうちの4手は取るに足りないように思われるので無視する。残りのうち3手は簡単に取り上げ最後の1手は完全な棋譜を載せる。

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2017年11月03日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(278)

「Chess Life」2000年12月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ギャンビット 受諾か拒否か

 真の2大古典布局といえば開放試合の熱愛者のルイロペスと閉鎖的な局面の方を好む者たちのクイーン翼ギャンビットである。どちらも100年以上もの間時の試練に耐えてきた。

 今回と次回はクイーン翼ギャンビットの正反対の受諾と拒否オーソドックス防御を簡潔に見ていくことにする。「クイーン翼ギャンビット」という名称は誤称である。というのは本物のギャンビットではないからである。すなわち黒は「捨てられた」ポーンにしがみつくことはできない。

クイーン翼ギャンビット受諾

 次が通常の手順である。

1.d4 d5 2.c4 dxc4

 1…d5 で両者ともdポーンを2枡突いて強力な中央を目指しているように見える。しかし白が黒のdポーンを攻撃し始めるやいなや、黒は「ちぇっ、わざわざこれを守る気など起こらない、白のcポーンと交換してやる」ことに決める。

 黒の作戦の劇的な変更は二つの重大な結果をひき起こす。

 1.自分の第一級の中央ポーンを白の準中央ポーンと交換することにより黒は恒久的に中央が劣勢になった。布局と中盤戦初めでは盤上の最も重要な個所は中央なので、白はしばらくは通常の有利さを期待することができる。

 2.黒はクイーン翼で反撃を模索しなければならない。これにはクイーン翼のポーンを動員する必要がある。

3.Nf3

 1970年代中頃までこの自然な本手が唯一の正着とみなされていた。その論理は …e7-e5 突きによる中央での反撃を防いでいるからというものであった。それまでは 3.e4 と 3.e3 は劣った手と考えられていた。というのは 3…e5 のあと 4.dxe5 と取る手が白に何ももたらさないからである。ところが今では 3.e3 e5 4.Bxc4! でも 3.e4 e5 4.Nf3! でも白が通常の優勢を得る可能性があると分かってきた。

 それでも 3.Nf3 は実際に完全無欠の手で、最も人気のある手であり続けている。

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2017年11月01日 コメント(1)

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(277)

「Chess Life」2000年10月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

4)6…Bf5 7.e3 e6 (D13)

 歴史的にはこれが主手順だが、黒が引き分けるために大変苦労するのでほとんど人気がなくなった。しかし白が安易に考えて指せば大きな失望を味わうだろう。

4a)8.Bd3??!
スケンブリス対トーレ(ルツェルン・オリンピアード、1982年)D14

 本局の時点でスケンブリスはまだIMだった。そしてオリンピアードでギリシャチームの主将として指していた。世界級のグランドマスターと引き分けになれば大満足と言えた。しかし何が起こったと思う?

8…Bxd3 9.Qxd3 Be7 10.h3?! O-O 11.O-O Nd7!

 黒は優良ビショップを保持していて、白が 10.h3?! で手損をしたのに乗じてf6のナイトをクイーン翼で使うために移動させた。

12.Rac1 Nb6 13.Qe2?! Rc8 14.Ne5?! Nxe5 15.Bxe5 Nc4 16.Bf4 Qa5

 白はさらに手損を重ねた。そして黒はクイーン翼で明らかに主導権を握っている。

17.b3 Ba3! 18.Rc2 Nb6 19.Nb1 Rxc2 20.Qxc2 Rc8 21.Qe2 Bb4 22.Qb2 Qa6! 23.a3 Bf8 24.Rc1 Qd3! 25.Rxc8 Nxc8 26.Nd2 Nd6 27.a4?!

 黒の駒は盤上を席巻している。白にために推奨するような良い手は何もない。それでも「不良」ビショップを黒のナイトと交換するのは絶対手だった。

27…Nf5 28.Nf3 Qd1+ 29.Kh2 Bb4 30.Ng1 a6! 31.g4 Ne7 32.Ne2 Bd2! 33.Ng1 Nc6 34.Bc7 Nb4 35.Ba5 Nc2! 36.Bxd2 Qxd2 37.Kg3 Nxe3 38.Qa3 Nd1 39.Nf3 Qxf2+ 40.Kf4 g5+ 白投了

4b)8.Qb3
セイラワン対ノゲイラス(バルセロナ、1989年)D14

 この手と 8.Bb5 が黒に取って最も厄介な手である。セイラワンは本譜の手を危険だが厳密には戦略的な武器に育て上げた。私は精神的に交換戦法に最も近いと思っている。8…Qb6 は 9.Qxb6 axb6 10.a3 で黒に孤立二重bポーンの代償が何もないので黒の応手は基本的に決まっている。

8…Bb4 9.Bb5 Qe7

 すぐに 9…O-O 10.O-O Bxc3 11.Qxc3 Rc8 と指す方がわずかに良いが、それでも黒は互角とは程遠い。

10.Ne5! Rc8 11.Nxc6 bxc6 12.Ba6 Rd8 13.a3 Bd6 14.Qb7! Qxb7 15.Bxb7 Kd7 16.Ba6! Bxf4 17.exf4 Kd6 18.b4 h6 19.h4

 白は黒枡で大きく締め付け(c5とe5の地点が最も重要)、ビショップの働きに優り、c6の地点を標的にする可能性がある。セイラワンによると黒はここで 19…g5! と突いて黒枡での締め付けの一部を食い破る必要がある。もちろん白の優勢は明らかなままであるが。実戦では黒は盤上至る所で一方的に押しつぶされた。みごとな「どのように」は次のように行われた。

19…Rb8?! 20.Rc1 Rb6 21.Be2 Ra8 22.Na4 Rbb8 23.Ba6! Nd7 24.Kd2 Nb6 25.Nb2 Nd7 26.Na4 Nb6 27.Nc5 Nc4+!? 28.Bxc4 dxc4 29.Rxc4 a5 30.bxa5 Rb2+ 31.Ke3 Rxa5 32.Ra1 Kd5 33.Rc3 f6 34.a4 Rb4 35.f3! h5 36.Rac1 Kd6 37.Rg1 Ra7 38.g4 hxg4 39.fxg4 Bh7 40.h5 Rb2 41.Kf3! Rh2 42.Re3 Bg8 43.Ne4+ Kc7 44.Nf2! Rxa4 45.Kg3 Rxf2 46.Kxf2 Rxd4 47.Kg3 Kd6 48.Ra1! 黒投了

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2017年10月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(276)

「Chess Life」2000年10月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?(続き)

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5 4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4(再掲)

1)6…e6 (D13)

 重要で堅固な戦型だがとても魅力的とは言えない。黒は「何もかも」安全に守ったが、自分の白枡ビショップを死蔵し白の白枡ビショップには絶好の利き筋を与える犠牲を払っている。私の見立てでは黒は互角に到達するために非常に注意深く根気強い防御者でなければならない。

7.e3 Be7!

 中央のポーン陣形から白の優良ビショップは白枡ビショップになり黒は黒枡ビショップになる。これは中央のポーンと同じ色のビショップは良さそうに見えて実際はほとんどすることがないというように動ける可能性がひどく制限されるからである。だから通常の状況ではどちらも「優良」ビショップを残したがる。

8.Bd3 O-O 9.h3 Bd7 10.O-O Qb6 11.a3!

 この手は 11…Qxb2?? を 12.Na4 によって防ぎb4の地点に利かしている。黒の見通しは芳しくない。クリンガー対スミスロフ戦(パルマ・デ・マヨルカ、1989年)でオーストリアの若いGMは優勢から勝ちきるのに何の困難もなかった。クリンガーは『チェス新報』第48巻第498局で本局を解説しているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

11…Rfc8 12.Qe2 Be8 13.Rac1 Na5 14.Rc2 Qd8?! 15.Nd2 Nc6 16.Rfc1 h6 17.b4 a5 18.b5 Na7 19.Ndb1! b6 20.a4 Bd6 21.Qf3 Rab8 22.Nd2! Bxf4 23.Qxf4 Rb7 24.g4! Nh7 25.Nf3 Ng5 26.Nxg5 hxg5?! 27.Qe5 Bd7 28.e4! f6 29.Qd6 dxe4 30.Bxe4 Rbb8 31.d5 e5 32.Nd1 Rxc2 33.Rxc2 Rc8 34.Ne3 Rxc2 35.Bxc2 Nc8 36.Qb8 Qf8 37.Bf5 Qe8 38.Qc7! 黒投了

2)6…a6
ミロフ対M.グレビッチ(ポラニツァ・ズドルイ、1999年)D14

 理にかなった予防の手。すぐの 6.Bg5 の戦型で白の白枡ビショップはb5の地点が最良なので、黒はその可能性を閉ざしたが、1手の犠牲も大きい。

7.Rc1 Bf5 8.e3 Rc8 9.Be2!

 キング翼ビショップは展開する必要があるがc4、b5そしてa6には行けない。一方 9.Bd3 は優良ビショップを黒の不良ビショップと交換してしまう。だから控えめの本譜の手が正着となる。

9…e6 10.O-O Bd6

 6…a6 に1手かけたので黒は普通なら良い手の 10…Be7 を避けて、本手の戦略的に少し劣る局面を選んだ。

11.Bxd6 Qxd6 12.Na4

 GMミハイル・グレビッチは本局を解説した『チェス新報』第76巻第347局で次の本筋を指摘している。12.Qb3 Rc7 13.Na4 Nd7 14.Nc5 Nxc5 15.Rxc5 Bg4 16.Rfc1 O-O 17.Qb6 Bxf3 18.Bxf3 Rd7 19.Bd1! c列での圧力のために白には通常の優勢が保証されている。早い …a6 突きで黒のクイーン翼の黒枡が弱体化していることにも注意が必要である。

12…O-O 13.Nc5 Rc7 14.Qb3 Qe7

 黒は円滑にb7の地点を守り、中央での反撃の用意をした。グレビッチ(FIDE2543!)は並外れた正確さで最終的に互角にすることができた。

15.Rc3 Bg4 16.h3 Bxf3 17.Bxf3 e5! 18.Qa4 exd4 19.exd4 Na7! 20.Re3 Qd6 21.Qd1 Nc6 22.Rc3 Rfc8 23.Bg4 Nxg4 24.Qxg4 h5! 25.Qxh5 Nxd4 26.Rd1! Rxc5 27.Rxd4 Rxc3 28.bxc3 Rxc3 29.g3 g6! 30.Qxd5 Qxd5 引き分け

3)6…Ne4
ツェイトリン対ウェルズ(パッサウ、1998年)D13

 これが黒の断然野心的な手法である。黒は対称な戦型で既に1手遅れであるけれども同じ駒を二度動かすことにした。

7.e3!

 本手の展開がチェスの風船を破裂させる手段である。7.Nd2?! が気になるがブラト二―対ローティエ(オーストリア、1999年)戦では 7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.e4 dxe4 10.Nxe4 Bg7 11.Qd2 Qd5! でさっそく黒が優勢になった。

7…Nxc3 8.bxc3 g6 9.Bb5! Bg7

 黒は 9…Qa5 でも 9…Bd7 でも 10.Qb3! と応じられるのでクイーン翼のポーン陣形の弱体化はやむを得ない。

10.Ne5 Bd7 11.Bxc6! Bxc6 12.Nxc6 bxc6 13.O-O Qa5 14.Qb3 O-O 15.Rfc1 Rfe8 16.Rab1

 白駒はクイーン翼を支配している。中央で動く黒の試みはやぶへびになるが、満足な作戦は存在しない。全容にわたる分析は『チェス新報』第72巻第346局のツェイトリンの解説を参照して欲しい。形勢判断記号をいくつか付けて終局までの手順を示す。

16…e5 17.dxe5 Bxe5 18.Bxe5 Rxe5 19.Qb7 Rae8 20.Qxc6 Qxa2 21.Ra1! Qb2 22.Rd1 Qe2 23.h3 R8e6 24.Qa8+ Re8 25.Qxa7 Rg5 26.Qd7! Ree5 27.Rd4! Ref5 28.Rf4 Kg7 29.Qa7 h5 30.Qd4+ Kh7 31.Ra8 Qe1+ 32.Kh2 黒投了

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2017年10月25日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(275)

「Chess Life」2000年10月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

交換戦法に生命力はあるか?

 1994年9月号の本稿ではフランス防御の交換戦法における白の可能性を論じた。dポーン布局の選手のために同様のことをするのが公平かもしれない。選んだのはスラブ防御交換戦法 D13・D14である。

 これが始まりの局面である。

1.d4 d5 2.c4 c6 3.cxd5 cxd5

 中央でポーンが交換されて対称な局面になった結果、白の優位は手番であることだけである。スラブ防御交換戦法を指すことをもくろんでいる人のために次の忠告をつけ加えておきたい。

 (a)それを目指すなら手順をもてあそばないですぐに 3.cxd5 と指すこと。

 もし白がこの交換を遅らせ少し後で交換スラブの良型版になれることを希望または期待して 3.Nc3 や 3.Nf3 と指すと、黒はどちらの場合も 3…dxc4 でそれを挫折させることができる。これらの戦型はかなり複雑で、不用意な白は容易に困難に陥ってしまうことがある。

 (b)確実に引き分けにする目的で交換戦法を指さないこと。

 黒陣は展開の容易さとポーン陣形の良形の観点から欠点がないので、白のどんな日和見的指し方も容易に黒に主導権が渡る可能性がある。(1994年9月号の本稿で同様のことを指摘した。)

 主手順はたいてい次のように進む。

4.Nc3 Nf6 5.Nf3 Nc6 6.Bf4

 白陣には実にほれぼれとしてしまう。しっかりした中央、最良の地点の両ナイト、素通し斜筋上の黒枡ビショップ。もちろん黒にも潜在的に同じ可能性がある!

 従来黒が好んでいたのは 6…Bf5 だった。しかし互角への黒の道筋は骨の折れるものだった。そこで近年対称形を崩す試みがいろいろと模索された。最初に重要な変化を三つ考察し、そのあと 6…Bf5 を分析する。

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2017年10月20日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(274)

「Chess Life」2000年8月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性(続き)

イギリス布局 [A25]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMプレドラグ・ニコリッチ
ベイクアーンゼー、1995年

1.c4 e5 2.g3 Nc6 3.Bg2 g6 4.e3 Bg7 5.Ne2 d6 6.Nbc3

 陣形の観点からはこの布局は逆閉鎖シチリア防御とみなすことができる。しかし布局での1手の差は大きな意味を持ち、単にイギリス布局と呼ぶのが最も正確である。ここで黒には 6…Nge7 や 6…f5 などいくつかの選択肢がある。しかしよく見かけるのは大胆な 6…h5!? である。

 どうしてか。結局のところ白陣はかなり迫力に欠けるのだから、どうして黒は攻勢をかける側に立ってはいけないのか。いや、黒はそうできる。それでも白は理にかなった布局の原則に沿って指してきたので、恐れる客観的な理由は何もない。実際白は安全に 7.h4 と応じることができ、通常のわずかな布局の有利を期待することができる。しかし白は「側面攻撃には中央での反撃が最良の策」という周知の原則に従うこともできる。そして選んだ手は…

7.d4! exd4

 黒はすぐに 7…h4 と突くこともできるが、白は 8.d5 と陣地を広げて通常の有利さを確保することができる。

8.exd4

 中央に向かって取り返すのが本手だが、8.Nxd4 でも良いかもしれない。このような戦型のどれでも互角にしたことを証明しなければならないのは黒である。

8…h4 9.Be3 Kf8 10.Qd2 Bf5

 本譜の手はセイラワンが『チェス新報』第62巻第21局の自戦解説で指摘しているように黒のキング翼ナイトから通常の地点(10…Nge7 から 11…Nf5)を奪っている。白はキングが容易にクイーン翼に安全な所を見つけることができるので、明らかにキング翼での安全を気にする必要はない。

11.Nf4 Qd7 12.O-O-O Re8 13.f3! g5?!

 白は好手で有利が広がった。展開に優り、中央で有利な態勢で、決定的な 14.g4 突きの狙いさえある。セイラワンは 13…hxg3 14.hxg3 Rxh1 が黒の最善の受けだと考えている。それでももちろん 15.Bxh1 で白の優勢は明らかである。

 代わりに黒はキング翼を弱めて形勢を悪化させた。

14.Nfd5 Na5 15.b3 c6 16.Nb4 hxg3 17.hxg3 Rxh1 18.Rxh1

 黒のhポーンの単騎出撃がやぶへびだったことにはほとんど疑いがない。白は盤上至る所で大いに優勢である。それでも局面はかなり閉鎖的なままで黒に迫るのはそれほど容易でない。以降の指し手は本題と特に関係ないので、いくつかの形勢判断記号を付けるにとどめることにする。セイラワンのすぐれた分析が『チェス新報』第62巻第21局に載っているので読んでみて欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…f6 19.g4 Bg6 20.Bf1 d5! 21.c5 b6 22.Bd3 Ne7 23.Nc2 Kf7 24.Ne2! Rh8 25.Rxh8 Bxh8 26.Ng3 Bg7 27.Bxg6+ Nxg6 28.Nf5 Nb7 29.Qh2 Ne7 30.Qb8?! Nxf5 31.gxf5 Bf8 32.b4 Be7 33.Bf2 b5 34.Bg3 a5 35.Bc7 axb4? 36.Qxb7 Bd8 37.Nxb4 Bxc7 38.Kb2 Qe7 39.Qxc6 Ba5 40.Qxd5+ Kg7 41.Nc2 黒投了

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2017年10月18日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(273)

「Chess Life」2000年8月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン(続き)

戦略上の重要性

 hポーンの戦略上の重要性は閉鎖布局に最もよく現れる。目的はキングを脅かすことよりも、陣地を広げること、および/または要所を支配することである。イギリス布局は中央が中心舞台でなく本質的に側面布局なのでhポーン気違いのお気に入りである。そこで二つの重要な戦型を選んでみた。見られるとおりここでも「hポーン」は弱点となる可能性のある攻撃先が必要である。それはg6やg3の地点である。

イギリス布局 [A16]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ベイクアーンゼー、1983年

1.c4 Nf6 2.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.g3 g6 5.Bg2 Nb6

 白の5手目の後は擬似グリューンフェルト防御の状況になっていて、黒のd5のナイトはb6に後退するかc3で交換するかを選ばなければならない。どちらも主流手順と考えられる。5…Nxc3 6.bxc3 Bg7 でも白は 7.h4!? と突いていける。

6.h4!? h6

 この応手は戦略的に正しい。白は 7.h5 と突かせてくれるのなら黒のキング翼をひどく制限することになる。一方「自動的な」6…h5 はg5の地点が恒久的な弱点として残ることになる。本譜の手のあと 7.h5 は 7…g5 と軽く受け流せる。

7.d3 Bg7

 マルサレク対サボン戦(ワルシャワ、1969年)に関連してGMエドゥワルド・グフェルトは 7…Nc6 8.h5 g5 9.f4 gxf4 10.gxf4 Rg8 を指摘し「形勢不明」とした。

8.Be3 N8d7 9.a4!?

 この攻撃的なポーン突きは当時の新手だった。セイラワンはクイーン翼で盛り上がりたがっているが、代償はb4の地点の弱体化である。以前は 9.Nf3 が指された。コルチノイは 9…a5?! でクイーン翼に根本的な弱点を作るよりも中央に目を向けた。

9…Nf6! 10.a5 Nbd5 11.Bd4!?

 白はポーン陣形をいくらか犠牲にして意欲的なやり方を続け、クイーン翼で主導権を持てるような收局を選んだ。11.Bd2 なら通常の中盤戦になりたぶん白がわずかに優勢だっただろう。

11…Nf4! 12.gxf4 Qxd4 13.Qa4+ Qxa4 14.Rxa4 Rb8 15.Nf3 O-O 16.O-O Be6 17.d4 c6

 堅実が黒に取って適切である。『チェス新報』第35巻第18局で本局を解説したGMマタノビッチは、17…Rfc8 18.Ne5 c5?! で反撃に努めるのは 19.d5 Bd7 20.Rc4 で白が優勢になると指摘している。

18.e3 Rfc8

 局面は動的に均衡がとれていて、白は広さの優位が陣形の不利を補っている。特に白のhポーンは慢性的な弱点になっている。両選手とも偉大な戦士で、最後は若い方が勝った。主にマタノビッチの解説に基づいた形勢記号を付けて終局までの手順を示す。

19.b4?! Bd7?! 20.Ne5 Be8 21.Ra2 e6 22.Ne4 Nxe4 23.Bxe4 Bf8 24.Rb1 Be7 25.Nf3 Rc7 26.Kg2 a6 27.Kg3 b6 28.Ne5 Kg7 29.Nd3 Bd6 30.Kg2! f6? 31.Rba1 bxa5 32.Rxa5 Bxb4 33.Rxa6 Be7 34.Kg3 Rb3 35.Ra7 Rxa7 36.Rxa7 Kf8 37.Ra8 Kf7 38.h5 gxh5 39.Bf3 Rb5?? 40.Rxe8! 黒投了

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2017年10月13日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(272)

「Chess Life」2000年8月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

hポーン

 20年以上前デンマークのGMベント・ラーセンはシドニー・フリードのRHM出版から「hポーンの戦術的戦略的重要性」という題名の本を出版する予定だった。この本は実際には書かれることがなかったし、私もラーセンが収集したに違いない膨大な調査の情報を持ち合わせていない。それでもこの表題は重要であり、本稿で簡潔に取り上げるのにふさわしい。実戦ではhポーンはキングがキャッスリングしていようとまだ中央列に踏みとどまっていようとキングへの近さゆえにはるかに重要性を帯びている。

戦術上の重要性

 早い戦術が意味を持つにはhポーンに攻撃目標が必要で、黒が 1.e4 への防御として 1…g6 を採用した場合が重要である。

現代防御 B06

1.e4 g6 2.d4

 「血気にはやる」攻撃好きならすぐに 2.h4 と指すことができる。それに対して黒には理にかなった応手が二つある。

 1)2…h5 は 3.h5 を防いでいるがキング翼を恒久的に弱めている犠牲を払っている。リーゴ対クリスティアンセン戦(ハンガリー、1985年)では白は次の手から猛攻をかけた。3.Bc4 Nf6 4.Nc3 c6 5.e5 d5 6.exf6 dxc4 7.Qe2 Be6 8.Nh3! exf6 9.Nf4 Qd6 10.d3! cxd3 11.Nxd3 Be7 12.Ne4 Qd8 13.Nf4 O-O?! 14.Nxe6 fxe6 15.g4! そして次のように締めくくった。15…hxg4 16.Qxg4 Qa5+ 17.Bd2 Qf5 18.Qg2 Qh5 19.f3 Nd7 20.O-O-O Ne5 21.Rh3 Rad8 22.Rg1 Kg7 23.Rg3 Rxd2 24.Qxd2 Nxf3 25.Rxg6+ Kh7 26.Nxf6+! Bxf6 27.Qd7+ Kh8 28.Rxf6 黒投了 IMチェルナが『チェス新報』第40巻第144局でこの試合を詳しく解説している。

 2)2…d5! は本筋に思われる。白は展開を無視して攻撃にはやったので、中央での反撃が主眼の対処法になるからである。参考になる前例は2局ある。(a)3.h5? は的外れである。ホンフィ対バダース戦(ブダペスト、1976年)で白は何の見返りもなくポーン損のままだった。3…dxe4 4.hxg6 fxg6 5.Nc3 Nf6 6.Nh3 Nc6 7.Ng5 Bf5 8.Bb5 Bg7(b)3.exd5 Qxd5 4.Nc3 Qa5 5.h5 Bg7 6.Bc4 Nc6 ここまではデイビーズ対ズィスク戦(ブダペスト、1987年)で、『チェス新報』第43巻第141局ではここで 7.Nge2 が推奨され「形勢不明」と判断されている。そのとおりだが、実戦では白が銃剣攻撃を貫徹した。

2…Bg7

 黒が白の早い h2-h4 突きの厳しさの可能性を 2…d6 によって和らげるには(3.h4 Nf6)、「真正現代防御」の 1…g6 から 2…Bg7 という手順の最大の融通性を犠牲にすることによってのみ可能である。

3.h4!?

 私の考えではもし白が早く h2-h4 と突くつもりなら、ここがちょうど良い機会である。というのはe4とd4の並びは白にまっとうな展開を保証し、白には黒の手に対処する良い選択肢があるからである。4.h5 は本物の「狙い」で、黒の理にかなった応手は三通りある。

 1)3…c5 4.d5 h5 5.d6!?(5.Nh3 か 5.Nf3 なら普通である)5…Nf6 6.Nc3 O-O 7.Nh3 Nc6 8.Ng5 b6 9.f3 Bb7 10.Be3 Nd4! 11.Nb5 Nxb5 12.Bxb5 a6 これはムラトフ対ラズバエフ戦(ソ連、1978年)で、チェス布局大成B(1984年)では互角となっている。

 2)3…d54.e5 および 4.exd5 Qxd5 5.Be3 または 5.c3 となるが実戦での検証が必要である。

 3)3…h5 4.Bg5 d6 はホルト対キーン戦(レイキャビク、1972年)に移行する。黒はキング翼の弱さのためにずっと苦戦を強いられた。5.c3 d5 6.Nd2 dxe4 7.Nxe4 Nf6 8.Nxf6+ exf6 9.Be3 O-O 10.Bd3 Nc6 11.Ne2 Ne7 12.Qd2 Bf5 13.Bc4 Be4 14.f3 Bc6 15.Bh6 Re8 16.Kf2! Nf5 17.Bf4 GMホルトは54手で勝ちをもぎ取り、『チェス新報』第13巻第159局で詳細に解説している。

 結論 このような早いhポーン突きは私の趣味に合わないが、速攻が好きで膨大な研究をいとわない人にとっては指せる戦法である。

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2017年10月11日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(271)

「Chess Life」2000年6月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

総攻撃を見据えて
クイーン翼ギャンビット受諾 [D20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMビシュワーナターン・アーナンド
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4

 ずいぶん前は(20年!)この手は黒の応手のために布局の悪手だと考えられていた。そして正着は 3…e5 を防ぐ 3.Nf3 だけだとされていた。現在は白が長期のポーンの犠牲を覚悟している限り問題ないことが知られている。カスパロフにとっては全然問題ない。

3…e5 4.Nf3 exd4 5.Bxc4 Nc6 6.O-O Be6 7.Bb5 Bc5 8.Nbd2 Qd6!? 9.e5 Qd5 10.Ng5 O-O-O 11.Bc4 Qd7

 カスパロフは 11…Qxe5!? は 12.Nxe6 fxe6 13.Re1 Qf6 14.Ne4 Qf8 で形勢不明になると解説している。アーナンドは「安全」な本譜を選んだが、このあと分かるように黒にとっては全然安全でない。

12.Nxe6 fxe6

13.b4!!

 当然だ。黒キングはクイーン翼にいるのに、なぜそちらでまたポーンをくれてやって素通し列を作るのか?カスパロフは 13…Bxb4 なら 14.Qb3 Re8 15.Rb1 b6 16.Ne4 で黒が危険になると分析している。たぶんGMエリズバル・ウリラーバの指摘するように 13…Bb6?! 14.a4 d3! で列を閉鎖しておくのが取るべき策だった。

13…Nxb4 14.Qb3 Nd5 15.Ne4 Bb6 16.a4 a5 17.Nd6+! Kb8 18.Bxd5 exd5 19.Bd2!

 この手は 20.Bxa5 を狙っている。だから黒はナイトを取って運を天に任せた。

19…cxd6 20.Qxb6 dxe5 21.f4!!

 黒はポーン得だが、カスパロフは断固として盤面全体で黒陣の切り崩しを続ける。

21…Nf6 22.fxe5 Ne4 23.Bxa5

23…d3!

 ここは勝負所である。カスパロフは 24.Qd4! のあとの詳細極まる分析を示し、両者が最善を尽くせば白が勝つとしている。この分析やほかの参考になる多くの変化については『チェス新報』第75巻第348局を参照して欲しい。時間切迫から(ここでは無理からぬことだが)カスパロフは別の手を選びアーナンドは引き分けに逃げることができた。

24.e6?! Qd6 25.Qxd6+ Rxd6 26.e7 Rf6! 27.Rxf6 Nxf6 28.Rd1 Re8 29.Bb4 引き分け

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2017年10月06日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(270)

「Chess Life」2000年6月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

乱戦を目指す
ぺトロフ防御 [C42]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMアレクセイ・シロフ
リナレス、2000年

1.e4 e5 2.Nf3 Nf6 3.Nxe5 d6 4.Nf3 Nxe4 5.d4 d5 6.Bd3 Bd6

 このマーシャル戦法はかつては廃れていたが、主要な手順が戦略的に深く理解されたことに助長されて1980年代の中頃に復活した。今ではぺトロフ防御の主流手順の一部になっている。14手目までは比較的すらすらと進む。

7.O-O O-O 8.c4 c6 9.cxd5 cxd5 10.Nc3 Nxc3 11.bxc3 Bg4 12.Rb1 Nd7 13.h3 Bh5 14.Rb5 Nb6

15.c4!?

 15.a4 のようなお決まりの手順なら黒は 15…a6 16.Rb1 Rb8 でクイーン翼を安泰にすることができ堅陣になる。だからカスパロフは積極的な本譜の手で打って出た。乱戦にはなるがかなり深く研究されていて、シロフの応手は問題がない。黒の手は決まっている。

15…Bxf3 16.Qxf3 dxc4 17.Bc2 Qd7 18.a4 g6! 19.Bd2!

 白はキング翼とb列のポーンに対して攻撃の見通しがある。この試合は第1回戦で指された。第3回戦でアーナンドはシロフに対し 19.Be3 と変化したが、シロフは用意ができていて 19…Rac8 20.Rfb1 c3! 21.a5 Nc4 で互角にした。その試合は黒のシロフが結局41手で勝った。

19…c3!

 この手には筋が通っている。つまり自分の強みとなっているもの(cポーン!)を利用してすぐに素通しとなるc列で反撃を目指すということである。以降の手順には両GMの好調さが表れている。

20.Bxc3 Rac8 21.Be4 Rc4 22.Rbb1 Rxa4 23.Bxb7 Ra3! 24.Rfc1 Qc7 25.Ra1 Rb8 26.Be4 Rb3 27.Bd2 Bh2+ 28.Kh1 Rxf3 29.Rxc7 Rxf2 30.Kxh2 Rxd2 31.Raxa7 Nc8??

 不運にもこの手にはひどい見損じがあった。31…Rxd4! 32.Rxf7 Rxe4 33.Rg7+ なら白はチェックの千日手にするしかなかった。実戦は黒がナイトを失い負けた。

32.Rab7 Rxb7 33.Rxc8+ Kg7 34.Bxb7 Rxd4 35.g4! h5 36.g5! h4 37.Rc7 Rf4 38.Bc8 Rf2+ 39.Kg1 Rf4 40.Kg2 Kf8 41.Bg4 Kg7 42.Rc5 Kf8 43.Bf3 Kg7 44.Kf2 Ra4 45.Ke3 Ra3+ 46.Kf4 Ra4+ 47.Ke5 Ra3 48.Bd5! Re3+ 49.Kf4 Rd3 50.Bc4 Rd7 51.Rc6 Re7 52.Rf6 黒投了

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2017年10月04日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(269)

「Chess Life」2000年6月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

側面での主眼の突き捨て
二ムゾインディアン防御 [E20]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMナイジェル・ショート
サラエボ、1999年

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 c5 5.g3

 カスパロフは1985・86年カルポフとの世界選手権戦でこの戦型を採用して大成功を収め、それ以来おりおり使っている。ショートは評価の高い防御を選んだがカスパロフはいつものことながら一歩先を行っている。

5…O-O 6.Bg2 cxd4 7.Nxd4 d5 8.cxd5 Nxd5 9.Bd2 Bxc3

 双ビショップを放棄するのを避ける 9…Nxc3 10.bxc3 Be7 の方がよく指されている。しかしショートはナイトで封鎖する面白い新手を用意していた。

10.bxc3 Nb6!? 11.Be3 Nd5!? 12.Qd2 Nd7 13.Bg5! Qc7

14.Nb5!

 すべてはポーンの突き捨てでc列を素通しにすることにより主導権を握るための確固たる作戦の一環である。カスパロフは通常の方法ではうまくいかないことを明らかにしている。2例を示すと、まず 14.e4?! は 14…N5b6 で黒のクイーンとナイトが白の割れたクイーン翼ポーンに入り込んでくる。次に 14.Bxd5?! は 14…exd5 15.Nf5 f6 16.Ne7+ Kh8 17.Nxd5 Qc6 18.Be3 Ne5! 19.O-O Nc4 20.Qd4 Rd8 21.Ne7 Rxd4 22.Nxc6 Re4 となって黒がいくらか優勢である。

14…Qc5 15.c4!! Qxc4 16.Rb1 N7b6! 17.O-O

 これが白の想定していた局面である。ポーンの代償として白にはb列とc列に活動的なルーク、黒陣の各所に利くビショップ、黒陣側の好所にいるナイトがあり、すべての駒が十分に展開している。ここで黒が 17…Bd7 と展開を完了すれば、カスパロフは 18.Rfc1 Qa4 19.Nd6 h6 20.e4! hxg5 21.exd5 exd5 22.Qxg5 Qxa2 23.h4 で白の攻撃が危険なものとなると読んでいた。しょせん危険は避けられないのでショートは困難を顧みず駒得することにした。ここから数手の間両者は秘術を尽くす。

17…h6! 18.Bxh6! gxh6 19.e4! Ne7! 20.Rfc1 Qa4 21.Qxh6 Bd7!

 21…Ng6? は負けになる手だが、その証明には31行の分析「しか」要しない。カスパロフがこの試合の分析にかけた労力は並外れている。それを参考にするとよい(『チェス新報』第75巻第466局)。

22.Rc5 Ng6 23.Rg5! Qc2! 24.Na3! Qd3! 25.h4

 カスパロフはこの手を選んだことに飽き足らず、25.Rb3! に46行の分析を費やしていた。黒の防御がより一層大変になるが、両者が最善を尽くせば引き分けが妥当な結果である。このあとは双方の時間切迫で指し手が乱れた。いずれにしても両GMは内容を誇ってよい。終局までの手順をあげておく。

25…Qxa3 26.h5? Qe7 27.e5 Be8! 28.Be4 f5 29.exf6e.p. Rxf6 30.hxg6 Qg7?! 31.Qh7+! Kf8 32.Qh4 Rc8? 33.Rh5 Bxg6 34.Rh8+ Kf7 35.Rxc8 Nxc8 36.Rxb7+ Ne7 37.Bxg6+ Qxg6 38.Qb4 Qf5 39.Qxe7+ Kg6 40.Qh7+ 黒投了

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2017年09月29日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(268)

「Chess Life」2000年6月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て(続き)

中央での主眼の突き捨て
クイーン翼ギャンビット受諾 [D27]
白 GMガリー・カスパロフ
黒 GMワシリー・イワンチュク
リナレス、1999年

1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 e6 4.e3 c5 5.Bxc4 a6 6.O-O Nf6 7.Bb3 Nc6 8.Nc3 cxd4 9.exd4 Be7 10.Re1 O-O 11.a3

 局面は典型的な孤立dポーンの形になっている。白の影響力に優る中央と駒の積極的な展開はdポーンの孤立を補っている。実戦の手には二つの目的がある。それは …b5 から …b4 に備えて白ナイトが現在の位置にとどまることと、クイーンが …Nb4 に煩わされることなくd3に行けるようにすることである。カスパロフは白の可能性はキング翼にあると判断していた。

11…Na5 12.Bc2! b5

13.d5!

 これは重要な新手である。ありきたりの 13.Qd3 では黒に 13…Bb7 で陣形を整える余裕を与える。ソコロフ対ハンセン戦(マルメ、1998年)では 14.Bg5 g6 15.Ne5 Rc8 16.Rad1 Nc4 17.Nxc4 bxc4 18.Qh3 Nd5 19.Bh6 Re8 20.Ne4 Qb6 21.Bc1 f5 22.Nc3 Bf6 と進んで互角だった。

 この突き捨てが成立するのは黒のクイーン翼の展開が完了していないからで、白駒は迅速に黒キングへの攻撃に移れる。カスパロフは黒がd5のポーンを取った場合の簡潔な分析を示している。「13…exd5 14.Qd3 は代償あり。13…Nxd5 14.Nxd5 exd5(14…Qxd5?? 15.Qxd5 exd5 16.Rxe7 で白の駒得。e1のルークの働きに注目すること)15.Qd3 g6 16.Bh6 Re8 17.Qc3 f6 18.Nd4 白に代償あり」

 つけ加えるなら白の優勢は明らかである。

13…Nc4

 14.dxe6 は今のところ狙いになっていないので、イワンチュクはこの間にクイーン翼ナイトを中央方面に持ってきた。しかしカスパロフは不安定なナイトの揺さぶり方をやってみせた。後にクラムニク対アーナンド戦(ドス・エルマーナス、1999年)で黒は 13…Re8 と変化したがうまくいかなかった。クラムニクがその試合を『チェス新報』第75巻第360局で詳解しているので参照して欲しい。

14.Qd3! Re8

 14…Nb6 の余裕はない。15.Ng5! Nbxd5(15…h6 16.Nh7)16.Nxh7 Re8 17.Nxf6+ Nxf6 18.Qh3 で白が大きく優勢になる(カスパロフ)。

15.a4!

 よくあるように白は作戦を成功させるためには盤面全体を使わなければならない。カスパロフの示すところでは一本調子の 15.Ng5?! では 15…exd5! 16.Nxh7 g6 17.Nxf6+ Bxf6 18.Rxe8+ Qxe8 19.Nxd5 Qe1+ 20.Qf1 Qxf1+ 21.Kxf1 Bxb2 でうまくいかない。

15…exd5 16.axb5 a5 17.b3 Nd6 18.Nd4 Bb7 19.f3!

 局面の様相は大きく変わった。それでも有利な要素はすべて白の方にある。中央の支配、大駒と小駒の活発な働き、黒陣の枡の支配、そして黒は白陣から締め出されている。カスパロフは順当に勝ちを収め、『チェス新報』第75巻第359局に詳細な分析を載せている。終局までの手順はいくつかの形勢記号を付けて示すにとどめる。

19…Rc8 20.Na4! Bf8 21.Bg5 g6 22.Qd2 Rxe1+ 23.Rxe1 Nde8 24.Re2! Bb4 25.Qe3 Rc7 26.Bd3 Re7 27.Qc1 Rxe2 28.Bxe2 Qe7?! 29.Qe3! Qxe3+ 30.Bxe3 Nd7 31.Nc6! Bxc6 32.bxc6 Nb8 33.Bb6 Bd6 34.Nc3 Bc7 35.Bf2?! d4 36.Nd5 黒時間切れ負け

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2017年09月27日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(267)

「Chess Life」2000年6月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

主導権を得るためのポーンの突き捨て

 世界チャンピオンたちは皆棋風が異なっている。それでもアレクサンドル・アリョーヒンとガリー・カスパロフとの間には多くの類似点が見受けられる。チェスへの飽くなき情熱、布局の新手のたゆまぬ探求、自分の実戦の深い分析、dポーン布局でもeポーン布局でも同等に指す棋力、そして主導権を得るための積極的な姿勢は両チャンピオンに共通する特質である。ここではカスパロフの主導権のつかみ方に的をしぼる。

 誰でもただで何かが得られたらうれしい。カスパロフが傑出しているのは主導権を得るために進んで戦力を犠牲にするところにある。

 私はよく冗談で元世界チャンピオンのミハイル・タリは3回のチェックのためにルークを犠牲にすることをためらわず、5回のチェックならクイーンを犠牲にすることをためらわないと言った。しかしカスパロフはタリとは違う。彼ははるかに実際的だ。しかし主導権を得るためにポーンを犠牲にするのは彼が定常的に払う代価である。

 4種類のポーンの突き捨てを例示し、うまくいくために必要な条件をそれぞれ説明することにする。

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2017年09月22日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(266)

「Chess Life」2000年4月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

シチリア防御 [B62]
白 マルセル・マルティネス
黒 GMアレックス・イェルモリンスキー
シカゴ、1999年

1.e4 c5 2.Nf3 Nc6

 シチリア防御が1930年代初めに受け入れられ始めた時にはこのナイト跳ねが主流だった。理論的にはまったく申し分のない手である。cポーンが既にc5にあって重要な中央のd4の地点に利いているので、クイーン翼ナイトをこの理想的な地点に持って来ることは完全に首肯される。

 しかし時の流れはほかの手の普及ももたらした。それらは 2…d6 または 2…e6 と突くことが必要か(例えばナイドルフ戦法にするには 2…d6)、何らかの融通性のある手が必要である。

3.d4

 これが断然よく指される戦型である。白は筋を開けることにより迅速にすべての小駒を展開して黒キングに対する積極的な作戦を開始することができる。

3…cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 d6

 GMジョン・ナンはこの局面をまったく直観的に「クラシカル戦法」と名付けた。それは非常に重要で人気があり筋が通っていて、1930年代初めにさかのぼるからである。

 布局の原則の高度な観点からは両者とも成すべきことは全部やっている。4個のナイトは申し分のない地点にいて、ポーン陣形には欠陥がなく、両者ともビショップの展開の手順とやり方を決めることができる。白には高等な二通りのポーン突きもある。6.f4 はe5の地点に利き、6.g3 はキング翼ビショップをg2に展開することができる。

 しかし圧倒的に多いのはビショップをすぐに動かす手である。それぞれの特徴は次のとおりである。

A.クイーン翼ビショップの展開

 1.6.Bg5 は断然よく指される。すぐに黒のキング翼ににらみを利かしている。

 2.6.Be3 はそれに次ぐ戦型で、6…Ng4 から乱戦になる。

 3.6.Bf4?? と 6.Bd2?? は駒損になる。

B.キング翼ビショップの展開

 1.6.Be2 はさりげなく堅実な手である。二つの重要な斜筋に利きキング翼キャッスリングの準備になっている。

 2.6.Bc4 はボビー・フィッシャーによってよみがえり、黒のキング翼に対する危険な攻撃兵器になった。

 3.6.Bb5 は実際よりもはるかに危険である。当然の 6…Bd7 のあとは二組の小駒が交換になり白の攻撃の見通しが最小限になりそうである。

6.Bg5 e6 7.Bb5

 リヒター攻撃の従来の手法は 7.Qd2 から 8.O-O-O である。私の考えではこの方が本譜より強力である。

7…Qb6!? 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5?!

 これは大胆不敵な作戦だが準備不足で成功しない。イェルモリンスキーは着実に対処した。彼の解説は『チェス新報』第76巻第196局を参照して欲しい。終局までの手順をイェルモリンスキーの分析による記号をいくつか付けてあげておく。

9…exd5 10.exd5 a6 11.Bxc6+ bxc6 12.Qe2+ Be6! 13.Nxe6 fxe6 14.Qxe6+ Be7 15.O-O?! Kf8 16.Rfe1 Re8 17.Re3 Rg8! 18.Rae1 cxd5 19.Qf5? Rg7 20.Qxd5 Qxb2 白投了

 結論 「ビショップよりナイトを先に出せ」は簡単で役に立つ原則である。そして驚くほどよく当てはまる。もしどうしたらよいか迷ったときは従った方が良い。

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2017年09月20日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(265)

「Chess Life」2000年4月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

スラブ防御 [D19]
白 GMアレックス・イェルモリンスキー
黒 GMエドマー・メドニス
ナショナル・オープン、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 c6 3.d4 d5 4.Nc3

 GMの対局によくあることだがレーティ布局(1.Nf3、2.c4)から始まった試合が「通常の」dポーン布局に移行した。白は両ナイトを迅速に理想の地点に展開し、黒はキング翼ナイトだけを理想の地点に展開している。黒のクイーン翼ナイトはポーンがc6にいるのでそこへ行けない。

4…dxc4

 黒はスラブ防御の主手順を選んだ。このポーン取りは楽に取り返すために白は1手かけなければならないだけでなくクイーン翼を弱めなければならないことにより首肯される。

5.a4 Bf5 6.e3

 どの点からも申し分のない手。白は Bxc4 でスムーズにポーンを取り戻す。10年くらい前に元世界チャンピオンのアナトリー・カルポフが指すようになったおかげで「布局の原則に背く」6.Ne5 がほとんど同じくらい一般的になった。それでも白が 6.Ne5 を指しこなすにはより広く深い理解が必要であることに注意を喚起しなければならない。これが当を得ているのは 6.e3 が「申し分ない」のに対し、6.Ne5 は具体的な手順に基づいているからである。

6…e6 7.Bxc4 Bb4

 黒の5手目と7手目は重要な中央のe4の地点をめぐって戦いが行われることを示している。だからキング翼ビショップの好所はb4の地点しかない。

8.O-O O-O 9.Qe2

 両者のキングはキャッスリングによって安全な地点に移動した。白は本譜の手で e3-e4 突きを準備している。多くの分析により黒は 9…Ne4?! によってそれを防ぐことができないことが明らかになっている。というのは 10.Bd3! によって白の優勢の度合いが通常よりも大きくなるからである。一例は 10…Nxc3 11.bxc3 Bxc3 12.Rb1 である。

9…Nbd7!

 黒はこれぞという手が見当たらないので順当に小駒の展開を完了させた。クイーン翼ナイトの最適の位置は理論上はc6だが、d7は次善の位置に当たる。そこからは中央の一番重要なe5の地点と次に重要なc5の地点に利いている。

10.e4 Bg6

 黒には 11…Bxc3 からeポーンを取る狙いがある。

11.Bd3

 すぐに 11.e5 と突く手もある。本譜の手で白のdポーンとeポーンは中央の重要な地点すべてに利いていて、見るからに完璧なポーン中央になっている。黒は中央で反撃を図る必要があり、周知の手段は…

11…Bh5!

 狙いは 12…e5 で、12.Bf4 でこれを防げば 12…Re8 で狙いを復活させて 13.e5 と突かせる。

12.e5 Nd5 13.Ne4

 イェルモリンスキーはこの戦型を以前に指したことがあり好結果を出している。黒が通常どおり 13…Be7 と指せば白は普通に少し優勢である。しかし私はどういうわけか戦型を混同していて、引き分けるのに大いに苦労した。

13…c5?! 14.Bg5 Qa5 15.Bb5 Nb8! 16.Nxc5 Bxc5 17.dxc5 a6 18.Bd2 Qc7 19.Bd3 Bxf3! 20.Qxf3 Qxe5 21.b4 Nc6 22.Rab1 Qd4! 23.Qe4 Qxe4 24.Bxe4 Rfd8 25.b5 axb5 26.axb5 Ne5 27.Rfc1?! f5! 28.Bxd5 Rxd5 29.Be3 f4! 30.Bxf4 Nd3 31.Rc4 Nxf4 32.Rxf4 Rxc5 引き分け

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2017年09月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(264)

「Chess Life」2000年4月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に(続き)

イギリス布局 [A29]
白 GMヤセル・セイラワン
黒 GMボリス・グリコ
米国選手権戦準決勝、1999年

1.c4 e5 2.Nc3

 閉鎖布局では普通はcポーンを活用するのが望ましい。だからすぐに 1.Nc3 と指すのはその可能性が失われる欠点がある。(ここでのように)2手目で展開するのは非の打ち所がない。ついでに付言しておくとすぐに 1.Nf3 と指すのは欠点がない。早く 1.f4 と突くのはキング翼を弱める不利があり滅多に用いられないからである。

2…Nf6

 申し分なし。2…Nc6 も同じく良い手だが、白に 3.g3 から 4.Bg2 でd5の地点を支配する選択権を与えることになる。

3.Nf3 Nc6 4.g3

 ナイトがまったく申し分なく展開されたので白は次にビショップを展開すべきである。クイーン翼ビショップの展開のためには 4.d3 や 4.d4 が理にかなっている。現在のところキング翼ビショップを最初に展開する方が普通である。本譜の手はもっと多く見られる。「フィアンケットされた」ビショップが中央のe4とd5の地点をにらむことになる。5.d4 と突くための 4.e3 も良い手である。

4…Bb4

 黒枡ビショップが元々の利き筋に沿って展開できるようにeポーンが斜筋を通したので、こう指すべきである。ほかの手はA.4…Be7 は守勢すぎ、B.4…Bd6?! はdポーンをふさぎ、C.4…Bc5 は中央の斜筋につけて魅力的だが展望がほとんどない。おまけに 5.Nxe5! Bxf2+ 6.Kxf2 Nxe5 7.e4 c5 8.d4! で白が中央の広さで大きく優勢になる。

 だから黒枡ビショップをb4につけるのが圧倒的多数のGMのお気に入りになった。このビショップは都合の良い時に白のポーンを二重にする用意があるので厄介である。

5.Bg2 O-O 6.O-O Re8 7.Nd5!?

 もちろん布局の原則は「布局の早い段階では同じ駒を2度動かすな」と明言している。しかし白は 7…e4 という不快な狙いに直面していて、7.d3 は 7…Bxc3 8.bxc3 e4 で乱戦になる。

 このナイト跳ねには洗練された戦略の目的もある。それは黒の黒枡ビショップをb4で「遊び駒」と化すことである。

7…Bc5 8.d3 Nxd5 9.cxd5 Nd4 10.Nd2!

 等価交換の 10.Nxd4 は黒に取って痛くも痒くもない。本譜の手は 7.Nd5!? と似た考え方に基づいている。つまり黒のd4のナイトの将来性をなくすことである。

10…d6 11.e3 Nf5 12.Nc4 a6 13.b3 Ne7 14.Bb2

 小駒の展開の最終工程ははクイーン翼ビショップの面倒を見ることである。白はフィアンケットし、黒はビショップを斜筋につける前に待つことにした。

 白は駒の展開の融通性に優り、d5ポーンのおかげで陣地がわずかに広い。それゆえに少し優勢である。GMヤセル・セイラワンは『Inside Chess』(2000年1月号53~54ページ)でこの試合を徹底的に解説したので読んでみて欲しい。終局までの手順をセイラワンの分析を基にした記号を付けて示す。

14…b5 15.d4! exd4 16.exd4 Bb6! 17.Nxb6 cxb6 18.Re1 Bb7 19.Qh5 Qd7 20.Re2 f5?? 21.Rae1 g6 22.Qg5? Nxd5 23.g4 Rxe2 引き分け

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2017年09月13日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(263)

「Chess Life」2000年4月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ビショップよりナイトを先に

 初心者向けの本では布局の指し方の原則(「大ざっぱな指針」)をいくつか示すのが普通である。これらの原則の有用性は主にその本の時代と読者に対する著者の興味とによる。1999年6月号の本稿ではJ.R.カパブランカの「ビショップより先にナイトを出せ」という金言に賛意を表した。今回はこの役に立つ「大ざっぱな指針」についてもっと詳しく論じてみたい。

 明白で全般的な原則に基づく単純な事実は、布局の早い段階で4個のナイトの理想の位置(地点)は分かっているということである。これらの地点を次図に示す。

 それぞれのナイトに着目すれば以下のことが分かる。

 1.布局では中央の支配が非常に大事なので、それぞれのナイトは中央の地点を最大限支配している。すなわちc3とf6のナイトはe4とd5の地点を、c6とf3のナイトはd4とe5の地点を支配している。

 2.これらの地点からそれぞれのナイトは可能な最多の8地点を支配している。最大限の効果のために最も大切な中央の2地点が含まれている。ナイトは短射程の駒なので、できるだけ多くの働きをしなければならない。(ビショップは最高13地点に利き、ルークは14地点、クイーンは27地点に利く。)

 もちろんナイトをc3とf3、c6とf6に置くこと自体は重要でない。また、チェスでは一般的にそうなのだが、白は黒よりもナイトを理想の地点につける見通しが優っている。

 以下では閉鎖布局から2局と開放布局から1局を例として取り上げて原則と優先度について解説する。

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2017年09月09日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(262)

「Chess Life」2000年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

アリョーヒン防御 [B05]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第19局、レイキャビク

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3 Bg4

 傍流の 4…g6 はうまくいき(この第13局での貴重な勝利は本誌1999年2月号22ページを参照)、フィッシャーは主流手順に切り換えた。本譜の手はこの局面での本筋の手である。黒の目的は白の伸びすぎ気味のeポーンの土台を崩すことで、キング翼ナイトの釘付けはそのために役立つ。

5.Be2 e6 6.O-O Be7 7.h3 Bh5 8.c4 Nb6 9.Nc3 O-O 10.Be3

 白はよどみなく小駒の展開を完了し中央でかなり優位に立っている。黒は普通の手段ではうまくいかない。例えば 10…dxe5?! は 11.Nxe5 Bxe2 12.Qxe2 で白の中央が安泰で展開で優っている。一方 10…Nc6?! は 11.exd6 cxd6 12.d5! exd5 13.Nxd5 で白のポーンの形が良くしかも広い。

 黒を持って指す方は白陣の唯一弱点となる可能性はc4の地点であることを学んだ。そこで・・・

10…d5! 11.c5 Bxf3! 12.Bxf3

 白は27年以上の努力にもかかわらずフィッシャーの防御を打ち破れなかった。だから主流は 12…Nc4? を防ぐ 12.gxf3 になった。そうくれば 13.Bxc4 dxc4 14.Qa4 で貴重なポーンが取れる。12…Nc8 13.f4 Nc6 なら 14.b4 でも 14.f5 exf5 15.Bf3 でも白に通常の布局の有利さがある。

12…Nc4 13.b3!

 後には 13.Bf4 と 13.b4 が詳細に追究された。白は働いていない黒枡ビショップがなくなるのは歓迎すべきである。

13…Nxe3 14.fxe3 b6!

 フィッシャーはクイーン翼で動的な反撃を始めた。一方スパスキーは新しくできたeポーンを用いて黒の中央に挑んでいく。終局まで二人の偉大なチャンピオンの指し方は最高水準をいっている。14…Nc6 も良い手でいずれ互角になる。

15.e4! c6 16.b4 bxc5 17.bxc5 Qa5! 18.Nxd5!

 スパスキーは 18…exd5? 19.exd5 で強力なポーン横隊ができることを期待している。フィッシャーはそんなことを許す気はさらさらなく、次の手をすぐに指した。

18…Bg5! 19.Bh5!

 白のナイトは下がる所がない。そこで展開の優位を生かして黒キングに対し直接攻撃を開始した。

19…cxd5 20.Bxf7+! Rxf7 21.Rxf7 Qd2!!

 黒は反撃が必要である。21…Kxf7?? 22.Qh5+ も 21…Be3+ 22.Kh2 Kxf7 23.Qh5+ Ke7 24.Rf1 も白の勝ちになる。本譜の手のあと白はクイーンの交換を避けることができない。22.Qf3? は 22…Qxd4+ 23.Kh2 Qxe5+ 24.g3 Qb2+!(ロバート・バーン)で負けになるからである。

22.Qxd2 Bxd2 23.Raf1 Nc6

 中盤戦の乱闘が落ち着き、局面は不均衡な收局にさしかかった。両者の戦力を比較してみるにはちょうどいい頃である。黒の小駒2個に対して白にはルークと2ポーンがある。だから半ポーンほど有利である。しかし白の中央のポーン群は黒のビショップに脅かされている。

 白が最も有望なのは 24.Rc7 で、黒は注意を要する。24…Nxd4? と取ると 25.Rff7 Be3+ 26.Kh1 Bh6 27.g4 Rf8 28.Rfd7 Nf3 29.exd5 exd5 30.e6 Re8 31.Rxa7 d4 32.c6 で投了になってしまう(ファン・デル・グラフト対プリンス、通信戦、1986年)。

 黒の最も堅実な受けは 24…Nd8! 25.Re7 Nc6 で白は次のように進展が図れない。26.Rxe6 Nxd4 27.Re7 Be3+ 28.Kh1 dxe4 29.Rff7 Ne6!(バーンとネイによる)

23.exd5

 
 このあとの手もまだまだ面白いがフィッシャーは何者をも寄せつけない。詳細はバーンとネイの本か、『チェス新報』第14巻第168局を読んで欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

24…exd5 25.Rd7 Be3+ 26.Kh1 Bxd4 27.e6 Be5! 28.Rxd5 Re8 29.Re1 Rxe6 30.Rd6! Kf7! 31.Rxc6 Rxc6 32.Rxe5 Kf6 33.Rd5 Ke6 34.Rh5 h6 35.Kh2 Ra6 36.c6! Rxc6 37.Ra5 a6 38.Kg3 Kf6 39.Kf3 Rc3+ 40.Kf2 Rc2+ 引き分け

 結論 4…Bg4 は堅実な本筋の手で、12.Bxf3 のあとの黒の指し手は依然として洗練されている。

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2017年09月06日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(261)

「Chess Life」2000年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練(続き)

ピルツ防御 [B09]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第17局、レイキャビク

1.e4 d6 2.d4 g6 3.Nc3 Nf6 4.f4 Bg7 5.Nf3

 ちょっとした手順の違いはあったが(通常の 2…Nf6 でなく 2…g6)、主流手順のオーストリア攻撃(4.f4)の出発点に来た。ピルツ防御は実際のところフィッシャーの指す戦法の中では非常に珍しい。1972年の番勝負では唯一の試合で、1992年の番勝負では1局も現れなかった。

5…c5

 1972年時点で断然主流手順だったのは堅実な 5…O-O だった。しかしフィッシャーはすぐに中央で反撃することを目指しもっと動的な手を選んだ。時の経過と共にフィッシャーの手法もよく指されるようになった。

6.dxc5

 この手は本筋で堅実である。6.Bb5+ Bd7 7.e5 も同じくらい人気がありもっと乱戦になる。

6…Qa5 7.Bd3 Qxc5 8.Qe2 O-O 9.Be3 Qa5 10.O-O Bg4!

 フィッシャーは世界選手権戦のためにこの定跡に新手を用意していた。従来の 10…Nc6?! は 11.h3! と突かれて黒の白枡ビショップに好所がなくなる。それと同時に白はg4の地点を支配するのでこれまでに十分実証されているようにキング翼での展望がこの上なく良くなる。

 フィッシャーの新手は働きの劣る小駒を交換によりなくすことができるだけでなく、d4の地点に挑むことができる。金の指輪にも等しい。

11.Rad1

 スパスキーは受ける必要に迫られて完全に筋の通った手段を考え出した。それはd5の地点とd列とを支配することである。しかしこのような作戦は手がかかりすぎて、優勢に結びつくには無理がある。20年以上もの間主流手順は 11.h3 Bxf3 12.Qxf3 Nc6 13.a3 Nd7 14.Bd2 Qb6+ 15.Kh1 Nc5 16.Rab1 Nxd3 17.cxd3 f5 となっている。白はキング翼での攻撃の見通しがあるので少し優勢である。

11…Nc6 12.Bc4 Nh5 13.Bb3

 後にスパスキーは 13.Rd5 から 14.Rg5 を指摘した。本譜の手のあと黒はキング翼がいくらか弱体化するのと引き換えにクイーン翼のポーンをかすめ取る。

13…Bxc3 14.bxc3 Qxc3 15.f5

15…Nf6

 フィッシャーはナイトを中央に引き戻した。2、3か月後黒は 15…Na5 16.Bd4 Qc7 17.h3 Nxb3 18.cxb3 ですぐに白のキング翼ビショップを消去する方を選び(グリゴリッチ対ホルト、スコピエ・オリンピアード、1972年)、62手で勝った。この局面は判断が難しいままである。

16.h3 Bxf3 17.Qxf3 Na5 18.Rd3 Qc7 19.Bh6 Nxb3 20.cxb3 Qc5+ 21.Kh1 Qe5?!

 この手には異論が出た。GMロバート・バーンとIMイボ・ネイは彼等の名著の『Both Sides of the Chessboard』で 21…Rfc8 22.g4 Qe5 23.fxg6 hxg6 で黒が優勢と分析している。代わりにフィッシャーは絶好のナイトの戦略的な安全性とルークに対する好形ポーンを信頼している。終局までの手順は次のとおりである。

22.Bxf8 Rxf8 23.Re3 Rc8 24.fxg6 hxg6 25.Qf4 Qxf4 26.Rxf4 Nd7 27.Rf2 Ne5 28.Kh2 Rc1 29.Ree2 Nc6! 30.Rc2 Re1 31.Rfe2 Ra1 32.Kg3 Kg7 33.Rcd2 Rf1 34.Rf2 Re1 35.Rfe2 Rf1 36.Re3 a6 37.Rc3 Re1 38.Rc4 Rf1 39.Rdc2 Ra1 40.Rf2 Re1 41.Rfc2 g5 42.Rc1 Re2 43.R1c2 Re1 44.Rc1 Re2 45.R1c2 引き分け

 結論 5…c5 と 10…Bg4 は時の試練に耐えてきた。

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2017年09月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(260)

「Chess Life」2000年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練

 本誌1998年4月号は1972年世界選手権戦のフィッシャー対スパスキーの布局を振り返る第一歩だった。そこでは 1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局について論じた。1999年2月号では 1.e4 に対するフィッシャーの黒番を取り上げた。今回はその続きである。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B99]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
1972年世界選手権戦24番勝負第15局、レイキャビク

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Be7

 本局の開始時点でフィッシャーは3点リードしていた。だから第11局で手痛い負けを喫した過激な 7…Qb6 を避けるのはまったく賢明である。実戦的には本譜の手の後は非常に不均衡な局面で黒にも勝つ可能性が大いにある。

 戦いの戦略としてはまずある程度展開を行なっておき、そのあとで …b5 を手始めにクイーン翼で反撃に努める。

8.Qf3 Qc7 9.O-O-O Nbd7 10.Bd3

 白は小駒の展開を完了したので次にはキング翼ルークをe1に回して Nc3-d5 の狙い筋を含みに中央から作戦を始める。これは白の最も過激な作戦である。

 当時だけでなく現在でも主手順は 10.g4 b5 11.Bxf6 Nxf6 12.g5 Nd7 13.f5 で、黒は完璧に受ければ互角の形勢になる。

10…b5 11.Rhe1 Bb7 12.Qg3

 クイーンを黒の白枡ビショップの利き筋からはずすことにより白にはいつか e4-e5 と仕掛ける機会ができた。さらにはぜい弱になるかもしれないg7の地点にも「目をつけて」いる。

 すぐに 12.Nd5!? と指すこともできる。12…Nxd5(12…exd5 は 13.Nf5! があるので危なすぎる)13.exd5 Bxg5 のあとは 14.Rxe6+?!(1999年ユーゴスラビアでのミトロバノフ対ぺトロビッチ戦でうまくいかなかった)でなく、イリンチッチとぺトロビッチが『チェス新報』第75巻第247局で推奨している 14.fxg5 Ne5 15.Qh3 Bxd5 16.g6! で代償がある。

12…O-O-O

 この手はうまくいったとは言えないが、17手目と18手目には改善の可能性がある。重要な変化は 12…b4!? である。主手順は 13.Nd5! exd5! 14.exd5 Kd8 15.Qe3 Nb6 16.Nf5 Nbxd5 17.Qd4 Bf8 18.Be4 Kc8 19.Nxg7 Nxe4 20.Ne8 Qc5 21.Qxh8 Ne3 22.Re2 Nc3(コールベーヤー対トムチャク、バーデンバーデン、1987年)で、『チェス布局大成B』は「外交的に」この局面を「形勢不明」と判定している。

13.Bxf6! Nxf6

 こう取り返すしかない。13…Bxf6? と 13…gxf6? 14.Qg7(14…Rdf8 15.Nxe6!)はどちらも黒が指しように困る。

14.Qxg7 Rdf8 15.Qg3 b4 16.Na4 Rhg8 17.Qf2 Nd7

 有力な変化は 17…Qa5 18.b3 d5!? 19.e5 Ne4 20.Bxe4 dxe4 21.g3 Rd8 で、GMアイバルス・ギプスリスは形勢不明としている。

18.Kb1

 ここは勝負所である。黒はGMビクトル・コルチノイの推奨するようにすぐに 18…Nc5! 19.Nxc5 dxc5 20.Nf3 c4! と打って出なければならない。そうなれば有望な代償がある。実戦はフィッシャーが白に陣容を固めポーン得を確定させる余裕を与えた。以降の指し手は面白いが、お互い神経質になって悪手が相次いだ。詳細は『チェス新報』第14巻第507局のGMスベトザール・グリゴリッチの解説を参照して欲しい。終局までの手順は次のとおりである。

18…Kb8? 19.c3! Nc5 20.Bc2 bxc3 21.Nxc3 Bf6 22.g3 h5 23.e5 dxe5 24.fxe5 Bh8! 25.Nf3 Rd8 26.Rxd8+ Rxd8 27.Ng5 Bxe5 28.Qxf7 Rd7 29.Qxh5? Bxc3 30.bxc3 Qb6+ 31.Kc1?! Qa5 32.Qh8+ Ka7 33.a4 Nd3+ 34.Bxd3 Rxd3 35.Kc2 Rd5 36.Re4! Rd8 37.Qg7 Qf5 38.Kb3 Qd5+? 39.Ka3 Qd2 40.Rb4 Qc1+ 41.Rb2 Qa1+ 42.Ra2 Qc1+ 43.Rb2 Qa1+ 引き分け

 結論 黒の主手順は今でも立派に通用する。12…O-O-O と 12…b4 のどちらが良いのかはもっと実戦が必要である。

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2017年08月30日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(259)

「Chess Life」1999年12月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

B.4ナイト防御ルビンシュタイン戦法 C48
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Nd4

 第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインによって現代の大会に導入されたとき、この戦型は安全に引き分けるのに良いとみなされていた。白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 と指すしかないと決めてかかられたからだった。しかし時の流れと共に白は黒のd4のナイトを無視できることが明らかになってきた。(温故知新の 4…Bb4 の最新情報については1999年4月号の本稿を参照されたい)

5.Ba4!?(アダムズ対クラムニク、リナレス、1999年)

 このルイロペス式のビショップ引きは白に多くの新風を吹き込んだ。5…Nxf3+ 6.Qxf3 は黒にとって十分に満足できるものではないので、黒のeポーンに対する当たりは対処がそれほど容易でないことが分かる。例えば 6…Bb4 7.Ne2! O-O 8.c3 Ba5 9.d3! d5 10.Bg5 は白駒の方がずっと調和がとれている。

5…c6!

 最近の大会におけるかなりの実戦によって分かってきたことは、黒は白の白枡ビショップを働かせないようにしeポーンにはかかわらないようにすべきであるということである。簡単に言えば動的に反撃するのが正しいやり方である。

6.Nxe5 d6 7.Nd3

 この古い戦型がどれほど「新しい」かをちょっと言っておくと、初めて指されたのはモブセシアン対ラリッチ戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)である。それまでは 7.Nf3 が指されていて、7…Bg4 8.d3 d5 9.Be3 Nxf3+ 10.gxf3 Bh5! で黒が完全にポーンの代償を得ていた。

7…b5!

 私の見解ではこの手から始まる埋葬戦略が黒の最も効果的な作戦である。

8.Bb3 a5 9.a3

 このよくあるとは言い難い局面で黒の選択した手はよくある手とは言い難い。『チェス新報』第74巻第345局で解説のGMモブセシアンはほかに黒の考えられる2手を調べている。(1)9…Nxb3 10.cxb3 Be7 11.O-O O-O 12.Nf4(2)9…Ba6 10.Ba2! どちらの場合も黒はポーンの代償が十分でない。

9…d5!

 この重要な新手は黒の動的な手法の表れである。黒は白のキング翼を攻撃する準備をしているので、クイーン翼ビショップはc8-h3の斜筋に置いたままにすべきである。白が中央を開放するのは無謀である。クラムニクの分析によると 10.exd5?! Bd6! 11.O-O O-O 12.dxc6? Bxh2+! 13.Kxh2 Ng4+ 14.Kg3 Nf5+! 15.Kxg4 Qh4+ 16.Kf3 Nd4+ 17.Ke3 Re8+ のあとは即詰みになる。

 だから白は局面を閉鎖的にしておく必要がある。しかしそのためにキング翼ビショップが死んだ状態になる。

10.e5 Ne4 11.O-O Nc5

 これは堅実な作戦で、キング翼ビショップが効率的に展開できる。白のキング翼ビショップが働いていないので、黒にはポーンの代償が十分にある。クラムニクはもっと意欲的な手として 11…Qh4 と 11…h5 を指摘している。

12.Nxc5 Bxc5 13.Kh1 O-O 14.Ne2?!

 クラムニクはこの手を無駄手と批判し、14.d3 Re8 15.Bf4 と展開する手を推奨している。黒はそのあと 15…Nxb3 16.cxb3 Bd4 からの互角を選択することもできるし、15…f6!? 16.exf6 Qxf6 でそれ以上を目指すこともできる。

14…a4! 15.Ba2 f6 16.Nxd4

 GMアダムズはわずかに不利でも堅実な局面に甘んじた。16.exf6!? と実利に走るのはクラムニクの分析によると 16…Bg4!? 17.f3 Nxf3! 18.fxg7! Rf5 19.gxf3 Bxf3+ 20.Rxf3 Rxf3 で乱戦になり「形勢不明」と判断している。

16…Bxd4 17.c3 Bxe5 18.d4 Bb8 19.Bb1 Ra7!

 ポーン陣形と駒の展開はかなり似通っているが、例外は黒のクイーン翼ルークの活用が容易なことで、このため黒が少し優勢である。このあともまだいろいろな手があるが、本稿の目的とは離れるので形勢記号をいくつか添えて手順だけを示す。クラムニクは本局を『チェス新報』第75巻第298局で紹介しているので、読者は参照されたい。

20.Qf3?! g5! 21.Qh5 Qe8! 22.Qxe8 Rxe8 23.Bd3 Bg4 24.Bd2 Be2 25.Rfe1 Rae7 26.Bf5! Kg7 27.Kg1 h5 28.g3 Bd6 29.Be3 Bg4 30.Bd3 Bf3 31.Bd2 Be4 32.Bxe4 Rxe4?! 33.Rxe4 Rxe4 34.Re1 g4 35.Kg2 f5 36.f3 Rxe1 37.Bxe1 f4 38.Bd2 fxg3 39.hxg3 Kg6 40.fxg4 hxg4 41.Bf4! Be7 42.Kf2 c5 43.dxc5 Bxc5+ 44.Be3! Be6 45.Bf4 Bc5+ 引き分け

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2017年08月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(258)

「Chess Life」1999年12月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手(続き)

A.シチリア防御 B45(続き)
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6 6.Nxc6 bxc6 7.e5 Nd5 8.Ne4
(再掲)

(3)8…Bb7!
カスパロフ対レーコー(リナレス、1999年)

 この手はペーテル・レーコーのトレーナーでハンガリー人のGMアンドラース・アドルヤーンが創案し発展させた優秀な新手である。その着想は本筋の見事さにある。黒は働いていないビショップを重要な中央の斜筋に沿って配置につける用意をしている。もちろん作戦を成功させるためには具体的な手順も必要である。以下の解説では『チェス新報』第75巻第167局のレーコーの解説のいくつかを参考にさせてもらった。

9.Be2 c5 10.O-O Qc7 11.Nd6+

 ここに 8…Bb7! の第一の真価が表れている。黒にe5のポーン取りを狙われていたが、11.c4 では 11…Ne3! 12.Bxe3 Bxe4 で互角の形勢になる。

11…Bxd6 12.exd6 Qc6 13.f3!

 白はg2での詰みに対処しなければならなかった(13.c4? Nc3!)。13.Bf3 には 13…c4! で白の白枡ビショップはほとんど働かない。本譜の手に対して黒は白の c2-c4 突きを防ぐことによりd5の強力なナイトを維持しなければならない。

13…c4! 14.Qd4 O-O! 15.Bxc4 Qxd6 16.Bb3

 2か月ほどしてスビドレル対イリェスカス戦(ドス・エルマーナス、1999年)ではいくつかの工夫があった。16.Rd1 Rfc8 17.Bd3 Qb6 18.Qxb6 Nxb6 19.a4 a5! 20.Be3 Nd5 21.Bd2 Nb6 22.b3 d5 23.Bb5 d4! 24.Bf4 Nd5 25.Be5 Rxc2 26.Bxd4 引き分け

16…Qb6 17.Rd1 Rfc8 18.Qxb6 Nxb6 19.a4

 ここでは双ビショップとクイーン翼の多数派ポーンのために白がわずかに優勢であるとみなされるに違いない。黒は中央列での優勢と半素通しc列が役に立ってくる。後知恵になるが黒の正着は白のaポーンに侵攻されるのを防ぐ 19…a5! だった。

19…d5?! 20.a5 Nc4 21.a6! Bc6 22.Bxc4 dxc4 23.Be3 Bd5 24.Ra5 Rc6

 異色ビショップはここでは白の方にだけ味方している。というのは白のビショップが黒のルークをaポーンの守りに縛りつけているのに対し、黒のビショップは何も白の脅威になっていないからである。実戦の手の代わりにレーコーは反撃を1手早める 24…f6 を指摘した。

25.Rda1 f6 26.h4 Kf7 27.Kf2 Rc7 28.Rb5 Rd8 29.Raa5 Ke7 30.Kg3 h5 31.b4! cxb3e.p. 32.cxb3 Rg8!

 局面はかなり激化した。白はクイーン翼でパスポーンを作る態勢ができている。19歳のハンガリーのGMはキング翼での反撃を見据えている。両選手とも残り時間が少なかった。レーコーは『チェス新報』第75巻第167局で以降の指し手を詳細に解説している。終局までのみごとな手順は以下のとおりである(形勢記号を少し付けておいた)。

33.Rc5 Rd7 34.b4! g5! 35.Rc2 g4 36.Kf2 g3+! 37.Ke1 e5! 38.Rd2 Rgd8 39.Rc5 Ke6 40.b5 Rb8 41.Rd3 Rbd8 42.Rd2 Rb8 43.Rd3 Rbd8 44.b6 axb6 45.Rb5 Bc4 46.Rxb6+ Kf5 47.Rxd7 Rxd7 48.a7 引き分け

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2017年08月23日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(257)

「Chess Life」1999年12月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった黒の新手

 前回は白の「理にかなった」布局の新手を二つ紹介した。今回は黒の場合を取り上げる。

 黒は不利を背負って指し始めるので、好手の新着想を考えだすことを含めすべてがより困難である。特に 1.e4 の布局では黒は「新構想」が早々と失敗に終わらないようにことのほか注意を払わなければならない。世界級の選手による非常に理にかなった二つの重要な新手を選んでみた。

A.シチリア防御 B45
1.e4 c5 2.Nf3 e6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nc6 5.Nc3 Nf6

 黒は無理のない融通性のある陣形を採用している。ナイトはそれぞれ最良の地点に展開し、1枡だけ進んだeポーンはd5の地点を過剰に守るとともにキング翼ビショップが展開できるようにしている。それと同時にこれからの作戦で不必要な危険を冒すのを避けるようにしている。白の最も普通の応手の 6.Ndb5 のあと黒は 6…Bb4 と指してもよいし、6…d6 7.Bf4 e5 8.Bg5 a6 でスベシュニコフ戦法に移行してもよい。

 しかし黒の展開には潜在的な欠陥がある。それは重要なe5の地点を守る配慮が足りないということである。このため白は次のような積極策をとることができる。

6.Nxc6 bxc6

 代わりに 6…dxc6?! と取るのは 7.Qxd8+ Kxd8 8.e5!(8…Nd5 には 9.Ne4、8…Nd7 には 9.f4)で展望のない收局になる。

8.e5 Nd5 9.Ne4

 白の作戦は次の3点を骨子にしている。(1)e5のポーンは黒陣を圧迫しd6の地点の潜在的な弱点を際立たせている。(2)c2-c4 突きは中央にいる黒のナイトをそっぽに追いやる。(3)黒の白枡ビショップは戦いに加わるのが難しい。まず黒の最も普通の2手を取り上げ、そのあと面白い新手を紹介する。

 (1)8…f5 は無理矢理締めつけを破るやり方だが、黒枡の弱体化と双ビショップの放棄という代価も払う。白が少しだがはっきりした優勢になるのは確かである。ツェイトリン対S.ドルマートフ戦(ソ連、1977年)は 9.exf6e.p. Nxf6 10.Nd6+ Bxd6 11.Qxd6 Qb6 12.Bd3 c5 13.Bf4! Bb7 14.O-O Rc8 15.Rfe1 と進んだ。

 (2)8…Qc7 は従来の手法である。黒は白のキング翼のポーン陣形をゆるめさせてから反撃をさぐる。主眼の実戦例にはシロフ対クラセンコフ戦(ポラニツァ・ズドルイ、1998年)がある。9.f4 Qb6 10.c4!? Bb4+ 11.Ke2 f5 12.Nf2 Ba6 13.Kf3 Ne7 14.Be3 Bc5 15.Bxc5 Qxc5 16.Qd6! Qb6 17.b3 c5 18.Be2 Rc8 19.Rhd1 Rc7 20.Ke3! 陣地の広さと黒枡の支配で白に通常の有利さがある。シロフが56手で勝った。『チェス新報』第73巻第221局にシロフの解説がある。

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2017年08月18日 コメントは受け付けていません。

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布局の探究(256)

「Chess Life」1999年10月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

イギリス布局 [A17]
白 GMブランコ・ダムリャノビッチ
黒 GMアンドレイ・ソコロフ
ユーゴスラビア、1998年

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!? h6

 f6のナイトが第一級の中央の地点を保持できるようにするのはもちろん完全に筋が通っている。しかし負の面も明らかである。キング翼のポーン陣形の弱体化は、g4-g5 突きでg列を素通しにされる危険性のためにキング翼キャッスリングが排除されることを意味する。

5.Rg1 d5

 やはりまた大いに理にかなっている。有力な変化は

 1)5…c5 6.h4 Nc6 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng8 9.g6 f5 10.a3 Ba5(シャバロフ対カークリンス、フィラデルフィア、1998年)グリコによれば白はここで 11.b4! cxb4 12.Nb5 でわずかな有利を保持できる。

 2)5…b6 6.h4 Bb7 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ne4 9.Qc2 Nxc3 10.dxc3 Bd6 11.Be3 Nc6 実戦はここで不注意な 12.Nd2?! Bh2! のために黒が少し優勢になったが(ファン・ベリー対ティマン、ベイクアーンゼー、1999年、29手で黒の勝ち)、普通に 12.O-O-O なら形勢不明かたぶん互角の局面だった。

 3)5…d6 6.h4 e5 7.g5 hxg5 8.hxg5 Ng4 9.Nd5 Bc5 10.d4 Bb6 11.Nxb6 axb6(ズビャーギンセフ対ベンジャミン、フローニンゲン、1997年)クラセンコフは形勢不明の局面と判断している。

6.a3 Be7 7.d4 Nbd7

 7…Ne4 も本筋で、8.Qc2 Nxc3 9.Qxc3 Nd7 10.Bg2 となった時トゥクマコフ対シュナイダー戦(ドネツク、1998年)では疑問手の 10…O-O?! のために 11.g5! と突かれる手が生じたが(実戦では白が 11.Bh1 と引いても優勢だった)、黒は冷徹に 10…c6 と指すべきだった(トゥクマコフ)。

8.cxd5 Nxd5

 8…exd5 でも 9.h4 c6 10.Qc2 Nf8 11.g5 hxg5 12.hxg5 Ng4 13.e4 dxe4 14.Qxe4 f5 15.gxf6e.p. Nxf6 16.Qe2! で白がわずかに優勢である(トゥクマコフ)。

9.e4 Nxc3 10.bxc3 c5 11.Bd3 cxd4 12.cxd4 b5!

 黒はどこかを支配する必要がある。白が中央とキング翼で広いので、唯一の領域はクイーン翼である。

13.g5 hxg5 14.Bxg5 Bxg5 15.Rxg5 Rxh2! 16.Ke2! Rh7 17.Qg1 g6 18.Bxb5 Rb8 19.a4 a6 20.Bd3 Rb2+ 21.Ke3

 白はキングが十分安全で、中央で優位に立っているためにわずかな優勢が続く。しかし局面は極端に不均衡で、どちらにとっても最善の手順を見つけるのがとてつもなく難しくなっている。詳細については『チェス新報』第73巻第15局のダムリャノビッチの分析を参照されたい。

21…Qf6 22.Rc1 Bb7 23.Rb1

 黒はここでルークを全部交換して白の中央の重要性を減殺することができる。ダムリャノビッチは 23.Qg3 からナイトをc4に捌いていく方が強い指し方だったと考えている。

23…Rxb1 24.Qxb1 Rh3! 25.Rg3 Rxg3 26.fxg3 Bc8 27.Qf1

 この手は黒を自由にさせる。 27.Qc2! Qd8 28.Qc6 a5 29.Bb5 ならまだなんとか圧力を保持できた。

27…e5! 28.Qa1 Qb6 29.Qc3 exd4+ 20.Qxd4 引き分け

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2017年08月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

頓馬

第194回チェスネット競技会 8月号

正解はこちら。

(8月21日にこっそり修正されました。何のお詫びも断り書きもありません。人間としての常識を疑います。)

2017年08月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 我楽多

「ヒカルのチェス」(485)

「British Chess Magazine」2017年8月号(1/1)

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2017年グランドチェスツアー・パリ大会


2017年グランドチェスツアー・パリ大会、ブリッツ第16回戦

75.Rf5

 ここでは黒の勝勢である。しかしチェスエンジンの示す「-15」ほど簡単明瞭なわけではない。

75…Kg2?

 これでは引き分けになる。

 75…f2+ 76.Kd2 Rh2!(次に …Kg1 と指し白ルークによるチェックには …Rg2 とする狙い)77.Rg5 Rh1!(手詰まりにさせた)78.Kd1 Rg1 79.Rf5 Kg2+ これで黒の勝ち。

76.Ke3 f2+ 77.Ke2

 ここであり得ないようなことが起こった。

77…f1=N??

 「ビショップはナイトより強し」だからビショップに昇格させる方が良かった。

 77…f1=B+ 78.Rxf1 Rxh5 両者とも望むならもう少し気のすむだけ指すことができる。

78.Rf2+!

 黒は完全にこの手を見落としていた。しかしそもそもナイトに昇格させて勝てると考えていたのだろうか。それともユーモアのセンスを見せたかったのだろうか。はたまた誤って別の駒をf1に置いたのだろうか。

78…Kg1 79.Rxf1+ Kg2 80.Rf2+ Kg1 81.Rf5

 何という変わりようか。敗勢の局面からこの局面だ。それでもまだ引き分けで、比較的容易である。しかし前局のカールセンの試合のように流れは明らかに白の方にある。

81…Ra3

 どうしてhポーンを進ませるのだろう。この手は全然意味がない。

 白キングが3段目を渡れなくする 81…Kg2 が最も簡明だった。

82.h6 Rh3 83.Rf6 Kh2 84.Kf2 Rh4

 前と同様に 84…Kh1 なら引き分けである。本譜は白キングが1段前に進むがそれでも引き分けである。

85.Kf3 Kh3 86.Rg6

86…Ra4?

 この手は負けになる。しかしマメデャロフは最初の機会を生かせなかった。ここからは黒が白のポーンを進ませた81手目からの繰り返しである。

 86…Kh2 なら白が何も進展を図れなかった。

87.h7?

 マメデャロフは繰り返しによりポーンを進めるが、勝ちを逃している。

 87.Rg1! Kh2 88..Rg4 で白の勝ちだった。

87…Rh4 88.Rg7

88…Rh6??

 ナカムラは白キングを進ませないことの重要性をまったく理解していなかった。

 88…Kh2 なら白が進展したにもかかわらず依然として引き分けだった。

89.Kf4 Kh4 90.Kf5 Rh5+ 91.Kg6 Kg4 92.Kf7+ 1-0

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(この号終わり)

2017年08月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(255)

「Chess Life」1999年10月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17(続き)

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.g4!?(再掲)

イギリス布局 [A17]
白 GMバジム・ズビャーギンセフ
黒 GMイェルン・ビケット
ティルブルフ、1998年

4…d5

 すぐに反撃を目指すのがどの点からも主眼の指し方である。4…Bxc3 と取るのは 5.dxc3 d6 6.g5 Nfd7 7.Bg2 e5 8.Be3 Qe7 9.Nd2 f5 10.gxf6e.p. Nxf6 11.Ne4 Nxe4 12.Bxe4 Nd7 13.Qd3 Nf6 14.Bg5 Qf7 15.Bxf6(クラセンコフ対ロブロン、スービック湾、1998年)で白がはっきり優勢になった(15…gxf6? 16.c5! のあと白が36手で勝った)。クラセンコフは黒の改良手として 15…Qxf6 16.Bxh7 Be6 を指摘しポーンの相応な代償があるとしている。クラセンコフ対ボグダノフスキー戦(エリスタ・オリンピアード、1998年)では 4…d6 5.g5 Nfd7 6.Qc2 Nc6 7.a3 Bxc3 8.Qxc3 e5 9.b4 Qe7 10.Bb2 Nb6 11.b5 Nd8 12.a4 Bg4 13.Bg2 Rc8?!(ボグダノフスキーは改良手として 13…a5! を指摘している)14.d4 と進み、白が展開の優位と陣地の広さで通常の布局の優勢を得た。

 そのほかにも自然な手として 4…O-O がある。この手についてロシアのGMセルゲイ・イオノフは 5.g5 Ne8 から 6…d5 に注意を喚起している。実戦による検証が必要なことは明らだが、まずキングを比較的安全な状態にしてから中央での反撃を始める着想は理にかなっている。

5.g5 Ne4 6.h4!

 ズビャーギンセフは以前に指された 6.Qa4+ Nc6 7.Nxe4 dxe4 8.Ne5 e3! 9.fxe3 Qxg5 10.Nf3 よりこの新手の方が優ると考えている。クラセンコフ対ガルシア戦(フローニンゲン、1997年)では黒が 10…Qe7? と重大な無駄手を指した(白が30手で勝った)。クラセンコフは改良手として積極的な 10…Qf6 や 10…Qh6 をあげている。

6…Nc6 7.Qc2 f5 8.gxf6e.p.

 後日の研究では 8.d3! Nxc3 9.bxc3 Bd6 10.cxd5 exd5 11.Bg2 で引き締まったポーン陣形を保つことにより通常の有利さを保持することができた。

8…Nxf6 9.a3 Bxc3 10.dxc3 Qe7 11.Bg5 Bd7 12.O-O-O

 白はまず 12.cxd5! exd5 を決めてから初めて 13.O-O-O と指すべきだった。実戦は黒のポーン取りが有効な手になった。

12…dxc4 13.h5 O-O-O 14.h6 Rhg8 15.Bh3 gxh6 16.Bh4! Rdf8 17.Nd2 Qf7 18.Nxc4 e5! 19.Bxd7+ Nxd7 20.Ne3

 この不均衡な局面はいい勝負で、黒が正着の 20…Rg6! を指せばそれが続く(ズビャーギンセフ)。しかし黒はすぐに乱れ始めた。詳細な分析は『チェス新報』第74巻第15局のズビャーギンセフの解説を参照されたい。

20…Nc5?! 21.Nd5 Nd7 22.Qd3 Qf5? 23.e4 Qe6 24.b4! Rf7?? 25.Qc4 a6 26.Nb6+ 黒投了

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2017年08月09日 コメントは受け付けていません。

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「ヒカルのチェス」(484)

「Chess」2017年8月号(1/1)

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次の一手

第13問 中級向け
W.ソー – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 白の手番

第18問 上級向け
S.マメジャロフ – H.ナカムラ
パリ(ブリッツ)、2017年
 黒の手番で引き分け

解答

第13問 1.Nf6!(これでも良いが、クイーン同士の対峙を生かす 1.Nxg7! の方がはるかに強力だった。1…Rxa1 なら 2.Nxe8 Rxc1 3.Nf6 で必殺の両狙いがある) 1…Qd8 2.Qf5!? g6?(白は捨て駒の必要がなくなった。しかし 2…gxf6 でも 3.Bxf6+ Ng7 4.Qg5 Qd7 5.Rg1 でやはり交換得になる。5…Rxf2+ 6.Kg3 Qe6 7.Kxf2 Qxe3+ 8.Kg2 Qe2+ 9.Kh1 Qf3+ 10.Qg2) 3.Nxe8+ Rxa1 4.Qxf7 1-0

第18問 1…Kh2!(これは方向違いのように感じられるかもしれないが、黒のルークは理想的な位置にいて白ポーンの背後から白キングを抑止している。ナカムラは 1…Ra4?? と指したが、2.Rg1! Kh2 3.Rg4 とこられたら白キングが自由になり勝負がついていた) 2.Kf2(白ルークが横に動けば黒キングがh3に戻ってくるだけ) 2…Rh3!(ただし 2…Kh3? には 3.Kg1!) 3.Kf1(3.Ra6 は 3…Rh4 4.Kf3 Kh3 5.Ra1 Kh2 で白キングが酩酊状態) 3…Rf3+ 4.Ke2 Rf8 黒はキングをh列で上下させていれば引き分けにできる

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(この号終わり)

2017年08月04日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(254)

「Chess Life」1999年10月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

B)イギリス布局 A17

1.Nf3 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4

 この局面は国際大会で大流行している。白はdポーンとeポーンを突くのを遅らせることにより黒が白の意図を推測するのを難しくさせながら自分の選択肢を広げたままにしている。その一方で黒はキング翼の小駒を最も働きのある地点に展開することに努めて勝つ見込みを高めている。

 上記の手順は最も一般的なものである。1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.Nf3 Bb4 と 1.c4 e6 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Bb4 もよく見かける。1997年12月まで白の十分信頼できると考えられる応手は 4.Qc2 と 4.Qb3 だけだった。どちらの場合も要点は白がクイーンで取り返すことによりc3に二重ポーンができるのを避けることである。

 しかしFIDE勝ち抜き世界選手権(フローニンゲン、1997年)でチェス界は次の驚くべき新手に遭遇した。

4.g4!?

 どんな普通のチェス選手でも最初の反応は「これがチェスだって?」のはずである。正直に言うとこんな手は考えたこともなかった。ついでに言えば弱い選手が指したのなら私はたぶん「明らかに彼はまともなチェスが分かっていないな!」とでもつぶやいただろう。

 しかしレイティング2600超のGMたちがこのように指し始めると、この手には何かあるに違いなく、それが何であるかを理解するのは我々しだいである。この手の論理は次のようなものではないかと思う。3…Bb4 と指された時の白陣は中央のポーン陣形の融通性が最大になっている。だから白はdポーンにもeポーンにもあまり早く手をつけたくない。黒がすぐにキング翼にキャッスリングすることもはっきりしている。それはそうとしてまず中央を支配することなく黒キングに迫るにはどうしたらよいか?

 その答えはg列での銃剣攻撃である。白の中央は(控え目に言えば)全然開かれていないので、そこで黒の反撃が成功する危険性は最小限である(側面攻撃には中央での反撃が最善という原則を思い起こすこと)。だから白はすぐに中央で滅茶苦茶にされる心配なく側面攻撃に出ることができる。

 実のところ 4.g4!? を試す予定は私には今のところない。私の棋風には滅茶苦茶すぎる。それでも時の試練に耐える可能性は十分あると思う。

 知られている黒の応手は少なくとも5手である。主眼の2手の 4…d5 と 4…h6 は実戦の棋譜を完全に示し、ほかの3手は簡単に触れることにする。

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2017年08月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(483)

「British Chess Magazine」2017年7月号(1/1)

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第5回ノルウェーチェス大会

ファビアノ・カルアナ – ヒカル・ナカムラ
第5回ノルウェーチェス大会、2017年、スタバンゲル、第9回戦

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 カルアナはナイドルフ戦法の白番で多くの問題を抱えていた。2013年から2016年の間に正規の持ち時間の試合で一流どころを相手に9敗(!)していた。興味深いことにそれらのいずれもイギリス攻撃だった。6,Bg5 に転向するとたちまち結果が良くなった。昨年はロンドンの大会でナカムラを負かし、今度はスタバンゲルでも負かした。

6.Bg5 e6 7.f4

7…Qb6

 ロンドン大会の有名な試合は次のように進んだ。7…h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 g5 14.h4 gxf4 15.Be2 b4 16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5 19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5! … 1-0(32手)F.カルアナ(2823)対H.ナカムラ(2779)、ロンドン、2016年

8.Qd3

 この手は今日では滅多に指されない。しかしカルアナにはある構想があった。

8…Qxb2 9.Rb1 Qa3 10.f5 Be7 11.fxe6 fxe6 12.Be2 Qa5 13.Bd2 Qc7 14.g4 h6

15.Rg1

 これがカルアナの新手だった。ここからナカムラの連続長考が始まった。

 ここでは 15.Qh3 が最もよく指される手だが、黒は何の問題もない。

15…Bd7

 20分の長考。

16.g5 hxg5 17.Rxg5

17…Nc6

 30分超の長考。カルアナはこの手に驚いた。というのは黒は負けないようにするためには22手目で非常に難解な手順を見つけなければならないことを知っていたからで、ナカムラが研究済みだったか対局中に読んでいたか確信はなかった。

 カルアナは 17…Rh7 を中心に研究していた。以下は想定手順の一端である。18.Bg4 Nxg4 19.e5! Rx2(19…Bxg5? 20.Qxh7)20.Qg6+ Kd8 21.Rxg4 Nc6 22.Qxg7 これは大乱戦である。17…Kf8? は 18.e5! で黒の危険が露呈する。18…dxe5 19.Qg6 Rh7 20.Ne4 白の攻撃が止まらず、チェスエンジンは次のような例をあげている。20…Nxe4 21.Qxh7 Nxg5 22.Qh8+ Kf7 23.Bh5+ g6 24.Bxg5 Qc3+ 25.Kf1 Bxg5 26.Qh7+ Ke8 27.Qxg6+ Ke7 28.Qxg5+ Kd6 29.Ne2 Qh3+ 30.Ke1 Qf5 31.Qd8 さらに 17…Rg8? は黒にg7のポーンを守る選択の余地がないことを示している。18.e5! dxe5 19.Ne4! exd4(19…Nxe4 20.Bh5+ g6 21.Rxg6 Bh4+ 22.Rg3+ Ke7 23.Qxe4 Bxg3+ 24.hxg3 白の攻め合い勝ち)20.Nxf6+ Bxf6 21.Bh5+ Kd8 22.Ba5 Nc6 23.Bxc7+ Kxc7 24.Rc5 まだ混沌としているが白が勝つはずである。

18.Rxg7 O-O-O

 18…Rxh2? でも 18…Ne5? でも 19.Qg3

19.Ncb5 axb5 20.Nxb5 Ne5 21.Nxc7 Nxd3+ 22.cxd3

22…Ng8?

 さらに21分使ってこの手が指された。だからナカムラはこの手順を研究していたわけではなく、読みで正解手順を見つけていたわけでもなかった。黒にはほかに有力な手が一つ(とてつもなく見つけるのが難しい)と実戦の手よりはましな手が一つあった。

 22…Rh7 は人間らしい手だった。23.Rxh7 Nxh7 24.Na8 Bh4+ 25.Kd1 Ba4+ 26.Kc1 Bc6 27.Nb6+ Kc7 28.Ba5 Rg8 黒にいくらか代償がある。22…Rxh2! が最善手だが 23.Rxe7 Rh1+ 24.Bf1 Rf8! を見つけるのが難しい。白は駒得を維持できない。25.Nxe6 Bxe6 26.Rc1+ Kb8 27.Bh6(27.Rxe6?! は 27…Ng4 で白が困っている)27…Rxh6 28.Rxe6 Rh1 29.Kd2 Nxe4+ 30.dxe4 Rfxf1 これは引き分けである。

23.Na8

 23.Ba5 Rxh2 24.Kd2 の方が直接的だが、カルアナの指した手でも十分である。このあとは 24…Rf8 25.Rc1 Bc6 26.Nxe6 Rff2 27.Nd4 となる。

23…Kb8

 23…Rxh2 は 24.Nb6+ Kc7 25.Nxd7 Kxd7 26.Be3 Kc8 27.Kd2 で黒は四方八方からの白の攻撃を受け切れない。27…Re8 28.Bf4 Rh8 29.Bg4 という具合。

24.Nb6 Bc6 25.Bf4

 26.Nc4 を狙っている。

25…e5

 25…Bf6 は 26.Rg2 Bc3+ 27.Kd1 で白がはっきりポーン得。

26.Bg3

 白は得しているhポーンをしっかり守った。黒には代償が全然ない。白が陣容をまとめれば黒の負けが確定する。

26…Bf6 27.Rf7 Be8 28.Rf8 Bg7 29.Rf2 Ne7 30.Bg4

 この手の狙いは Rfb2 で、そうなれば白の駒がすべて配置が良くなる。

30…Nc6 31.Rfb2 Nd4 32.Nd5 b5 33.a4 Bh6 34.axb5 Rg8 35.h3 Kb7 36.Ne7 Rf8 37.Nc6 Bxc6 38.bxc6+ Kxc6 39.Bf2

 白には詰みの狙いがあるので黒はf2のビショップを取らざるを得ない。しかしそれは必然を先延ばししただけである。

39…Rxf2 40.Kxf2 Rf8+ 41.Kg2 Be3 42.Rb8 Rxb8 43.Rxb8

 ナカムラはこの敗勢の局面で59手まで指し続けた…

1-0

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(この号終わり)

2017年07月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(253)

「Chess Life」1999年10月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手(続き)

A)イギリス布局 A28(続き)

 しかし次の試合においては白は単純ながら強力な新手を繰り出した。

イギリス布局 [A28]
白 GMマイケル・ロード
黒 GMアレクサンドル・イワノフ
首都ワシントン、1998年

1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4 5.d3! Nxf3+

 実戦の手は白クイーンを好所に来させるが、ほかにeポーンを守る適当な方法がない。例えば 5…d6 6.Nxd4 exd4 7.Ne2 c5 では白が中央で優位に立っているのに対し黒は中央のポーン陣形のために黒枡ビショップが働かない。

6.Qxf3 d6 7.h3! Be7 8.Be3 O-O

 黒は 8…c5 と突いて白の次の手を防ぐべきだと思う。たとえ白があとでd5の地点を制する機会とクイーンが働く可能性で通常の布局の有利を保持するとしてもである。

9.d4! c6 10.Be2 Qb6

 10…Be6 で小駒の展開を完了する方が理にかなっている。黒は本譜の手で白キングがクイーン翼に不安を抱えることを期待しているようである。しかし実際はそうはならない。

11.O-O-O Qa5 12.Qg3 Re8 13.f4 Bf8?!

 黒は危険を覚悟で展開を無視し続けている。13…exd4 14.Bxd4 Be6 と指さなければいけなかった。

14.fxe5 dxe5 15.Rhf1 exd4?

 黒は反撃を夢見ているが、白の十分に展開した駒のために筋を開けるのは自殺行為である。15…Nd7 か 15…Kh8 なら受かる見込みがある。

16.Bxd4 Nxe4 17.Nxe4 Rxe4

18.Bc3!

 この軽妙手がうまい手だった。18…Qxa2 と取ってくれば 19.Rxf7! Kxf7 20.Qf3+ Kg8 21.Qxe4 で黒は次の 22.Bd3(21…g6 22.Qe5)にどうしようもない。

18…Qb6 19.c5! Qxc5 20.Rd8 g6

 20…Qe3+ はクイーン翼が展開できていないので 21.Qxe3 Rxe3 22.Bb4 で負けてしまう。

21.Bd3 Re6 22.Qc7 Re7 23.Rxf8+ Kxf8 24.Qd8+ Re8 25.Rxf7+! Kxf7 26.Qf6+ 黒投了

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2017年07月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(252)

「Chess Life」1999年10月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

理にかなった白の新手

 世界中で大会の開催が爆発的に増える中チェスの科学的研究全体が急速に進んでいるに違いないと考えられる。ほとんどの場合これは布局での新発見である。今回は白による新手を取り上げる。そして次回は黒による新手を取り上げる。

 『チェス新報』の発行者たちは同誌に初めて掲載された実戦の手を新手とみなしている。これは妥当な定義と思われる。

 しかし私の議論では意味のある新手に限ることにする。すなわち好手に違いないか悪手ではあり得ない手、または後日の研究のおかげで見かけよりは良い手のことである。ここではそれぞれの群から一例を取り上げる。

A)イギリス布局 A28
1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.Nf3 Nf6 4.e4 Nd4

 4.e4 の意図は黒枡をいくらか弱める犠牲をこうむっても中央でのポーンの力を強めることである。黒の最も安全な応手は 4…Bb4 と考えられていて、かなり閉鎖的な局面になってくる。4…Nd4 の意図は白が 4.g3 と突く戦型でよく知られている。その戦型ではこことちょうど同じように黒が一組のナイトを交換することにより局面を単純化することを目指す。

 シェル対ソコロフ戦(ヘルシンキ、1992年)では黒は(4.e4 Nd4)5.Nxe5 Nxe4 6.Nxe4 Qe7 7.Bd3 Qxe5 8.O-O Ne6 9.Re1 d5 10.cxd5 Qxd5 11.Bc2 Be7 12.d3 O-O 13.Be3 c5 14.Bb3 Qf5 で互角の形勢を達成した。

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2017年07月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(251)

「Chess Life」1999年8月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅳ)1.g4?(グロープ攻撃)

 どうしてスイスのIMアンリ・グロープが自分の名前を明らかに劣った布局に結びつけて欲しかったのか私にはよく分からない。この手の良い面はポーンが中央に隣接したf5の地点に利いていて、g5に進めばf6の黒ナイトを追い払うことができることである。しかし悪い面は計り知れない。キング翼の極度の弱体化は未来永劫に続く。

 もちろんこれは 1.g4 をすぐに咎められるということを意味しない。実際1980年代の短い期間ながらイギリスのIMマイケル・バズマンはイギリスの一流どころを相手にこれで好成績をあげた。それは相手が彼を断固「とっちめ」なければならないと思い込んでいたためだった。棋理に合った展開と中央の態勢とに沿って指すようになって初めて、キング翼の弱点(h4、f4)が中盤戦で表面化し白は指す楽しさがなくなった。

 上等の手なら 1…c6、1…c5、1…d6、1…e6、1…e5 および 1…g6 のどれでも良い。白からの唯一のはめ手がこれである。

1…d5 2.Bg2 Bxg4?

 2…c6、2…e5、2…e6 それに 2…g6 のどれでも良い。

3.c4! c6 4.cxd5

 黒は中央のポーンが1個少なくなりその代償も不十分になる。前例が2局ある。

A)4…Nf6 5.Nc3 e5 6.dxe6e.p. Bxe6 7.d4 Nbd7 8.e4 Nb6 9.Nge2

 ケレス対ニーマン(通信戦、1934~35年)。白の優勢は明らか。

B)4…cxd5 5.Qb3 Nc6?!

 5…Qc7?! 6.Nc3! e6?? は 7.Qa4+ でビショップが取られる。まだましなのは 5…Nf6 である。

6.Bxd5 e6 7.Qxb7 exd5 8.Qxc6+ Bd7 9.Qxd5 Nf6 10.Qe5+ Be7 11.Nc3 O-O 12.d3 Bc6 13.f3 Bd6 14.Qg5 h6 15.Qh4

 フリッツ対ボゴリュボフ(ドイツ、1932年)。黒は2ポーン損の代償が十分でない。

 私は 1.g4? にどう指すか。実はまだこの手を指されたことがない。大会でも、非公式戦でも、ブリッツ戦でも、快速戦(10秒)でも。お手軽版としては「Modern Chess Openings 第12版」(1982年)に載っている次の手順が良さそうである。1…d5 2.Bg2 c6 3.h3 e6 4.d3 Bd6 5.Nf3 Ne7 6.e4 Na6 形勢は互角である。

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2017年07月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(250)

「Chess Life」1999年8月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)(続き)

B)キング翼インディアン防御の優位型を目指す

ポーランド布局 [A01]
白 シドニー・バーンスタイン
黒 エドマー・メドニス
米国選手権戦、1959年

1.b4 a5!? 2.b5 e5 3.Bb2 d6 4.e4?

 高等な戦略からはこれは敗着である。そのわけは黒がいずれ重要なc5の地点を完全に支配するからである。加えてc4の地点が恒久的な穴になる。正着は 4.e3 Nf6 5.Nf3 g6 6.Be2 Bg7 7.O-O Nbd7 8.d4 O-O でいい勝負だろう。

4…Nf6 5.Nc3 g6 6.d4 Nbd7 7.Nf3 exd4 8.Nxd4 Bg7 9.g3 O-O 10.Bg2 Re8 11.O-O Nb6! 12.Rb1 Ng4 13.a4 Qg5 14.h3 Ne5

 たとえ白がうまく展開しているように見えても、c4とc5の恒久的な弱点には何も代償がない。本譜の意欲的な手の代わりに安全で本手の 14…Nf6 にはすきがない。たぶん今ならそう指すだろうが40年前はそれ以上を望んだ。しかし客観的には本譜の手には何も危険性がない。

15.Bc1

 白は 14.f4?! で駒を取れるが、15…Qxg3 16.fxe5 Bxh3! 17.Qf3 Qxg2+ 18.Qxg2 Bxg2 19.Kxg2 Bxe5 で黒が3ポーンを得て十分に代償がとれているのに対し白には弱点が残ったままである。総合すると黒がはっきり優勢である。だから白は防御態勢を整えなければならないが、長い目で見ればそれでも不十分である。

15…Qf6 16.Rb3 Ned7! 17.Nde2 Nc5 18.Ra3 Nc4 19.Ra2 Be6 20.Nd5 Bxd5 21.exd5 Re7!

 黒は唯一の素通し列を奪い取る用意ができていて、それゆえに理論的に勝ちの局面になっている。私の技量ではそれで十分だった。

22.h4 h6 23.Bd2 Nxd2 24.Qxd2 Rae8 25.Nf4 b6 26.c4 h5 27.Nh3 Qc3! 28.Qxd3 Bxc3 29.Bf3 Ne4 30.Bxe4 Rxe4 31.Rc2 Bg7 32.Nf4 Rd4 33.Rb1 Ree4 34.f3 Rxc4 35.Rbc1 Rxc2 36.Rxc2 Rxa4 37.Rxc7 Rb4 38.Rc8+ Bf8 39.Nh3 Kg7 40.Ng5 Be7 41.Ne4 f5 42.Nd2 Rxb5 43.Rc7 Kf6 44.g4 Rxd5 45.g5+ Ke6 46.Nf1 a4 47.Ne3 Rc5 48.Ra7 Ra5 49.Rb7 a3 50.Rxb6 a2 51.Nc2 Rc5 52.Nd4+ Kd5 53.Nb3 Rc3 白投了

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2017年07月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

布局の探究(249)

「Chess Life」1999年8月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅲ)1.b4(ポーランドまたはオランウータン)

 これは中途半端な手のように思われる。確かに黒枡ビショップは絶好の斜筋につくし、このポーンは副次的に中央のc5の地点に利いている。白の期待は黒がぼやぼやしてただでクイーン翼に立派なポーン陣形を築かせてくれることである。しかし残念ながらbポーンが守られていない状態なので、黒には積極策に出られる二通りの可能性がある。

A)迅速な展開を目指す
1…e5 2.Bb2 Bxb4! 3.Bxe5 Nf6 4.c4 O-O

5.Nf3

 白はできるだけ急いでキング翼の展開を目指すべきである。5.e3?! は劣っていて、5…d5 6.cxd5 Nxd5 7.Nf3 Re8 8.Be2?(8.Bb2 の方が良いが 8…Nf4! 9.Qc2 Nc6 でやはり黒が良い)8…Rxe5! 9.Nxe5 Qf6 10.f4 Nxe3(リンクビスト対ソレンフォルス、通信戦、1975年)のあと10手で黒の勝ちになった。

5…Nc6 6.Bb2 d5 7.cxd5 Nxd5 8.g3

 このあとは 9.Bg2 から 10.O-O でほぼ互角になる(『チェス布局大成A』、1966年)。

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2017年07月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(482)

「British Chess Magazine」2017年6月号(2/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

ヒカル・ナカムラ – ピョートル・スビドレル
2017年モスクワFIDEグランプリ第9回戦

35.Re4 ½-½

 ここで引き分けを提案するとはナカムラも勇気があるものだ。「栄光は勇者に微笑む」を地でいった。実際スビドレルが受諾した時は「してやったり」という気持ちだったに違いない。

 35.Re4 Rh1 のあと白は実際は困っている。スビドレルがこれに気づかなかったとは驚くしかない。35…Rh1 はそれほどたいした手ではない。黒はこの局面からずっといつまでも指し続けることができ、もし勝てばスビドレルは同点2位になってもっとグランプリ得点が増えるので、本戦進出の可能性がずっと高まっただろう。36.Qd2(36.Kd2 は 36…a4 37.Kc2 Rh3 から38…Qf6)36…a4 37.Qc3+ Qf6! 白はb2が弱いのでクイーン交換に応じられない。しかし黒は単にキングがよけても(37…Kh7)よい。38.Re7 b5!

白は風前の灯である。

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(この号終わり)

2017年07月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(248)

「Chess Life」1999年8月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局(続き)

Ⅱ)1.b3(ラーセン布局)

 これは 1.g3 のクイーン翼版である。2.Bb2 のあと白からd4とe5の地点に十分に圧力がかかる。1960年代後半と1970年代前半にベント・ラーセンは 1.b3 で好成績をあげて、その結果彼の名がつけられた。しかし定跡がとことん研究されて 1.b3 は 1.g3 よりも次の二つの理由により少し劣ることが分かってきた。

 1)キング翼キャッスリングを準備することによってキングを安全にするということに寄与しない(この布局ではクイーン翼キャッスリングは気乗りしない)。

 2)f4 突きはキングの状態が弱くなるので、e5にさらに圧力をかけることが難しい。白は何も狙っていないので、黒には 1…c5、1…d5 それに 1…Nf6 など理にかなった応手がいろいろある。最も本筋でよく指されるのは白の黒枡ビショップの潜在力を減殺させる 1…e5 で、実戦例にはこれを取り上げる。

ラーセン布局 [A01]
白 GMベント・ラーセン
黒 GMボリス・スパスキー
ソ連対全世界戦、1970年

1.b3 e5 2.Bb2 Nc6 3.c4

 クイーン翼を展開し続けるのは以前は主手順だったが、現在の定跡では白もキング翼の展開をする方が良いと考えられている。3.e3 Nf6 4.Bb5 のあとの最近の重要な実戦例を2局紹介する。

 1)4…d6 5.Ne2 g6 6.d4 Bg7 7.dxe5 Nd7 8.Bxc6 bxc6 9.f4! dxe5 10.O-O O-O 11.Ng3 f5 12.Nd2 Qe7 13.Qe2 Nb6 14.Nf3 exf4 15.Bxg7 Kxg7 16.exf4 Qxe2 17.Nxe2(スロボドヤン対ファン・デル・シュテレン、ドイツ、1998年)白はポーン陣形に優っているので、收局で楽に少し優勢になる。

 2)4…Bd6 5.Nf3 e4 6.Nh4 O-O 7.O-O Be5 8.Bxe5 Nxe5 9.f4! exf3e.p. 10.Nxf3 Qe7 11.Nc3 d5 12.Qe1 c5 13.Qh4 Ng6 14.Qg3 c4 15.Nd4!!(ミハレフスキー対アブルーフ、ラマット・アビブ、1998年)白はf列で攻撃の可能性があるので少し有望である。この熱戦については『チェス新報』第72巻第1局のミハレフスキーの解説を参照されたい。

3…Nf6 4.Nf3

 より安全で本筋の手には 4.g3、4.Nc3 それに 4.e3 がある。ラーセンはいつものように恐れることなくもっと上を望んでいる。

4…e4 5.Nd4 Bc5 6.Nxc6 dxc6 7.e3 Bf5 8.Qc2

 この手の目的は私には分からない。展開の 8.Nc3 なら何の問題もない。

8…Qe7 9.Be2 O-O-O

 ここが勝負の分かれ目だった。黒は駒を効率的、積極的、そして好所に展開してきた。それでも白がここで普通に 10.Nc3 と指していたら、私には特に悪いところは見当たらない。たぶん黒はほんのわずか優勢だろう。たぶんいい勝負だろう。代わりにラルセンは展開を無視してキング翼を弱める過ちを犯した。そしてスパスキーに鮮やかに咎められた。

10.f4?? Ng4! 11.g3? h5 12.h3 h4! 13.hxg4 hxg3! 14.Rg1 Rh1!! 15.Rxh1 g2 16.Rf1 Qh4+ 17.Kd1 gxf1=Q+ 白投了

 18.Bxf1 と取っても 18…Bxg4+ 19.Kc1 Qe1+ 20.Qd1 Qxd1# で詰まされる。黒の一連の決定的な手筋が決まったのは、白がクイーン翼の駒の展開を怠ったからである。

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2017年07月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(481)

「British Chess Magazine」2017年6月号(1/2)

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2017年モスクワFIDEグランプリ

アレクサンドル・グリシュク – ヒカル・ナカムラ
2017年モスクワFIDEグランプリ第8回戦

18…Nf6

 白のc列での圧迫と黒のc7の出遅れポーンのために白には申し分のない代償がある。グリシュクの次の手は黒にこれらの問題をたった1手で解消させるので説明がつかない。

19.Ra6??

 19.Rac1 なら黒は長いこと苦しんだ。

19…c5

 この手は見つけにくい手だったのだろうか?

20.dxc5 Qc8

 チェスエンジンによれば 20…Rc7 の方が良かったが、実戦の手でも十分である。

21.Rc6 Rc7 22.Rxc7 Qxc7 23.c6 a5 24.Rc1 h6 ½-½

 黒にはパスbポーンができ、白は進展を図ることができない。

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(この号続く)

2017年06月30日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(247)

「Chess Life」1999年8月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ナイト・ポーン突きで始まる布局

 急に初手にナイト・ポーンを突いてみたくなったらどうなるだろうか。可能性としては4手考えられるが、一番良い手から一番悪い手の順でそれぞれざっと見てみることにする。

Ⅰ)1.g3

 良い布局の指し方は中央の支配を目指し、中央に向かって駒を展開し、キャッスリングによってキングを安全にすることから成る。1.g3 はこれらの目標すべてを助長し欠陥がないので、布局の完璧な5手の一つに入ることは確かである(ほかの4手は 1.e4、1.d4、1.c4 それに 1.Nf3)。

 1.g3 は消極的に見えるけれども次に 2.Bg2 と指せば白は中央の重要なe4とd5の地点を支配し、3.Nf3 のあとはキャッスリングの用意が整う。3.Nf3 の代わりに 3.c4 から 4.Nc3 と指せば中央への影響力をもっと増すことができる。1…Nf6 または 1…d5 に対し白がすぐに 2.Nf3 と指せば、レーティ布局か逆キング翼インディアンに移行する公算が大きい。したがって理論的に 1.g3 は融通性がありかつ欠点がないことが分かる。

 実戦例として独立した戦型を参考に供する。黒はすぐに …e7-e5 と …d7-d5 を突き、白はそう指させる。約80年前なら叱られた指し方だったろうが、今はより良く知られている。さらには時の流れでこれらの手順の理解が深まっている。『チェス布局大成A』の初版(1979年)では4行と16脚注だったが、1996年版では4行と24脚注になった。世界級の戦略家のGMローマン・ジンジハシビリは 1.g3 の第一級の実践者である。

キング翼フィアンケット布局 [A00]
白 GMラリー・クリスチャンセン
黒 GMビクトル・コルチノイ
ローンパイン、1981年

1.g3 e5 2.Bg2 d5 3.d3 c6

 互角を目指す観点からは本筋の展開の 3…Nf6 が最善手である。コルチノイは本譜の手でそれ以上を得ようとしている。つまり中央で優位に立ちたいのである。それはともかくリバス対イリェスカス戦(スペイン、1993年)で指されたような 3…c5?! は指しすぎである。4.e4! Nf6 5.Nc3! d4 6.Nce2 Nc6 7.f4! Bd6 8.Nf3 O-O 9.O-O Bd7 10.Kh1 Rc8 11.c3! dxc3 12.bxc3 Bg4 と進んだとき、時機尚早の 13.d4? でなく普通に 13.Rb1 または 13.h3 と指していたら白が楽に優勢になっていた。

4.Nf3 Nd7 5.O-O Bd6 6.Nc3

 もちろん 6.c4 と黒の中央に挑むのも主眼の手である。代わりにクリスチャンセンは上述の仕掛ける方を選んだ。

6…Ne7 7.e4 d4 8.Ne2 h6 9.Nd2 Nb6 10.f4!

 d4の土台を切り崩す。

10…f6 11.fxe5 fxe5 12.c3! dxc3

 戦略的には気の進まない手だが、12…c5?! では 13.a4! と突かれて黒が白枡で弱くなる(13…a5 14.Qb3)。

13.bxc3 Be6 14.Nf3 O-O 15.Be3 Rf6 16.a4

 白の優勢は大きくはないが明らかである。中央での影響力に優り、クイーン翼で圧力をかけ、孤立eポーンを標的にしている。

16…Qc7 17.a5 Nd7 18.d4 Rd8 19.Qa4 Qb8 20.dxe5?!

 この正当な理由のない圧力解消で黒が互角にすることができた。終局までの手順は次のとおりである。

20…Nxe5 21.Nxe5 Bxe5 22.Nd4 Bf7 23.Qb4 Bd6 24.Qb2 Rxf1+ 25.Rxf1 Bc5 26.Kh1 b6 27.axb6 axb6 28.Bf4 Qc8 29.Nb3 Bd6 30.Bxd6 Rxd6 31.Nd4 Rg6 32.Nf5 Nxf5 33.exf5 Rf6 34.Qxb6 Rxf5 35.Rxf5 引き分け

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2017年06月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(480)

「Chess Life」2017年6月号(1/1)

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米国選手権戦

GMヒカル・ナカムラ(2867)
GMアレクサンドル・オニシュク(2747)
2017年米国選手権戦第9回戦、ミズーリ州セントルイス、2017年4月7日

 27.Nd2 の局面

27…Qf4

 オニシュクは複雑なクイーン翼ギャンビットで優位に立っているように見える。h列の支配、働きの良いクイーン、それに堅固な陣形のおかげで白の潜在的に強力な中央のポーンを十分に相殺している。しかしナカムラが証明するように事は全然明白でない。

28.e6! gxf5

 28…fxe6 と取るのは 29.fxg6 と取られてgポーン突きにどう守るのか非常に悩ましい。

29.exf7 Be6! 30.Rf1 Qxg4 31.Nf3

 白は駒の働きがポーンの代償になっている。

31…Rg2 32.d5 cxd5

33.Nxd5?

 これはナカムラらしからぬ失着だった。33.Qe5! Qg7 34.Rg1! は見つけづらい手だが、防御の難しい手でもある。白はfポーンの威力を生かしている。想定される手順は 34…Rxg1 35.Rxg1 Qxe5 36.Nxe5 Rf8 37.Nxd5!!

で、次の手順で分かるように白の代償はたんまりある。37…Bxd5(37…Nxd5 38.Nd7+! Bxd7?[38…Kc8 39.Nxf8 Bxf7]39.Rg8)38.Nd7+

33…Qg7! 34.Nc3 Qxf7

 黒はこの手で白の最後の望みを消し去り、2ポーン得である。以下はまだ難解だがオニシュクは優れた技術を見せつけた。

35.Qe5 Re8 36.Qd6 Qf8 37.Nb5 Qxd6 38.Nxd6 Rh8 39.Rh1 Rxh1 40.Rxh1 Rg8 41.Nd4 f4 42.Rh6 Bc8 43.Nxc4 Nd5 44.Kc2 Rd8 45.Rd6 Rxd6 46.Nxd6 Bh3 47.a3 Kc7 48.Ne4 a5 49.Nd2 b6 50.Kd3 Bg2 51.Nc2 Ne7 52.b4 a4 53.Nd4 Kd7 54.Ke2 Bd5 55.Nb5 Kc6 56.Nc3 b5 57.Kd3 Nf5 58.Nd1 Kd6 59.Nc3 Bc6 60.Nce4+ Ke7 61.Ng5 Kf6 62.Nge4+ Ke7 63.Ng5 Bg2 64.Nge4 Ke6 65.Nf2 Kd5 66.Nd1 Nd6 67.Nf2 Nc4 68.Nxc4 Bf1+ 69.Kc3 Bxc4 70.Nh3 Ke4 71.Kd2 Be6 72.Ng5+ Kd5 73.Nf3 Bg4 74.Nh4 Ke4 75.Ke1 Ke3 白投了


米国選手権4回優勝のGMヒカル・ナカムラはカルアナと共に決定戦進出にわずか半点及ばなかった

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2017年06月23日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(246)

「Chess Life」1999年6月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)(再掲)

 B2)ハイェス対カパブランカ(ニューヨーク、1916年)

5.e5

 この手から始まる手順はマカッチョン戦法に疑問を付す唯一の手段である。ハイェスの指し方は非常に現代風である。

 しかしカパブランカの考え方は違う。「私は 5.exd5 が最善だと思うが、本譜の手に賛成する考えは多い。しかし白が採用した戦型そのものには賛成が多いわけではない。」

 カパブランカはどちらの手順を批判しているのだろうか。実際のところハイェスは15手目まで完璧に指している。

5…h6 6.Bd2 Bxc3 7.bxc3! Ne4 8.Qg4

 白の戦略は黒陣の黒枡の弱点と黒キングの不安定な位置とにつけ込むことに基づいている。現代の定跡では 8…g6 が黒の最善の受けと考えられている。カパブランカはキングの位置が悪くなっても黒枡をもっとよく支配できる別の手を選んだ。

8…Kf8 9.Bc1!?

 白は黒枡戦略を続けている。しかし現代の定跡ではすぐに 9.h4! c5 10.Rh3 と動いていくことによってしか明らかな優勢は得られないとしている。

9…c5

 カパブランカの解説「…Qa5 を見せて白の Ba3 を防いだ。白の直前の手がまったくの手損で、単に自陣を弱めただけであることが明らかになった。」

 彼の言っていることは誤りもいいところである。黒は互角にしたいならていねいに指さなければならない。

10.Bd3 Qa5?!

 ゲーザ・マローツィは 10…Nxc3 11.dxc5 Qa5 12.Bd2 Qa4 によってのみ黒が互角になることを望めるとやっとのことで見つけた。

11.Ne2 cxd4 12.O-O dxc3 13.Bxe4 dxe4 14.Qxe4 Nc6

 カパブランカはここでは非常に楽観視していた。「・・・黒の勝ち試合とはまだ言えない。しかし局面が優位に立っていることは確かで、その理由としてポーン得に加えて、白のeポーンが当たりになっている・・・」

 実際は白の展開の優位と黒キングの位置の悪さという動的な要因のために白がはっきり優勢である。

15.Rd1!

 この好手には目的がいくつもある。黒のクイーン翼の展開を妨げ、唯一の素通し列を占拠し、キング翼に転回する位置にいる。

 それなのにカパブランカは何もほめていない。「この手は戦略的には正しくない。というのは駒をクイーン翼に片寄らせることにより、黒の防御が完全に整う前に白が黒のキング翼に決然と攻撃を仕掛けることのできるかもしれない機会を失うからである。」しかし注意すべきはカパブランカが白の指し手の改良に何も触れていないことである。

15…g6

16.f4?

 白の手がおかしくなり始めたのはここからである。1907年(!)のドゥラス対オラント戦(カルロビバリ)で既に動的な指し方が現れていた。16.Bf4! Ne7(16…Kg7 は 17.Rd3 Nb4 18.Rxc3 Bd7 19.Rb3! Na6 20.Be3 Bc6 21.Qf4[黒枡戦略!]21…Qd8 22.Rd3 Qe7 23.c4![クロバンス対グリゴリアン、ソ連、1972年]で良くない。白が何の犠牲も払わずに陣地が広く駒がよく働いているのに対し、黒はf6とh6に弱点を抱えている。棋譜と解説は『チェス新報』第14巻第232局に載っている)17.Rd6! Nd5 18.Be3 Kg7 19.Qh4! Qc7 20.Rd1 b6 21.R1xd5! exd5 22.Qf6+ 白の攻撃が強力で、決まっているかもしれない。

 本譜の手の問題は白が展開のために1手損しているだけでなく、キング翼へのビショップの利きを損なっていることである。

16…Kg7 17.Be3?!

 カパブランカが白は 17.a4! から 18.Ba3 でビショップをよく利く斜筋につけるべきであると指摘しているのはどんぴしゃりである。

17…Ne7! 18.Bf2 Nd5 19.Rd3 Bd7 20.Nd4 Rac8 21.Rg3 Kh7 22.h4 Rhg8 23.h5

 この局面は判断が難しい。カパブランカは「白の攻撃は無いに等しい」と断言しているが、私には黒の指し手が難しいように思われる。しかしカパブランカは相手の以降の指し手に寛容で「25手目からはハイェスの快勝だった」と言っている。

 收局までの指し手を主にカパブランカの解説に基づいて記号を付けて挙げておく。

23…Qb4?! 24.Rh3 f5?! 25.exf6e.p. Nxf6 26.hxg6+ Rxg6 27.Rxh6+ Kxh6 28.Nf5+ exf5 29.Qxb4 Rcg8?! 30.g3 Bc6 31.Rd1 Kh5? 32.Rd6 Be4? 33.Qxc3 Nd5 34.Rxg6 Kxg6 35.Qe5 Kf7 36.c4 Re8 37.Qb2 Nf6 38.Bd4 Rh8 39.Qb5 Rh1+ 40.Kf2 a6 41.Qb6 Rh2+ 42.Ke1 Nd7 43.Qd6 Bc6 44.g4! fxg4 45.f5 Rh1+ 46.Kd2 Ke8 47.f6 Rh7 48.Qe6+ Kf8 49.Be3 Rf7 50.Bh6+ Kg8 51.Bg7! g3 52.Ke2 g2 53.Kf2 Nf8 54.Qg4 Nd7 55.Kg1 a5 56.a4! Bxa4 57.Qh3 Rxf6 58.Bxf6 Nxf6 59.Qxg2+ Kf8 60.Qxb7 Be8 61.Qb6 Ke7 62.Qxa5 Nd7 63.Kf2 Bf7 64.Ke3 Kd6 65.Kd4 Kc6 66.Qf5 黒投了

 最後に今回のちょっとした寄り道を拙著の『How to be a Complete Tournament Player』からのアドバイスを引用して締めくくりたい。「グランドマスターが口先だけでしたり言ったりすることを額面どおりに受け取ってはいけない。必ずチェスの棋理に合っていることを確認すること!

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2017年06月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(479)

「British Chess Magazine」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

ナカムラの不覚

 ナカムラは大会が始まってからずっとやや集中力を欠いていたようだった。しかしついに覚醒して本来のチェスを指し始めて対オニシュク戦では勝勢の局面になった。だが彼らしくもなく読み損じをして重大な結果を招くことになった。

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・オニシュク
2017年米国選手権戦第9回戦、セントルイス

 黒の31手目の手番でこの局面だった。

31…Rg2?!

 ここでは 31…R2h7 で局面を動的に均衡させておく方が良かった。

32.d5?!

 ナカムラは最善手の機会を逃した。実戦の手は白に取って重要な手だがナカムラの読みは正確さを欠いていたようである。

 32.Qe5! Qg7(32…Rf8 33.Qd6 Rxf7 34.Ne5 Qg8 35.d5! cxd5 36.Nxf7 Qxf7 37.Nxd5

白の勝つ可能性が非常に高い)33.Rg1 Qxe5 34.Nxe5 Rxg1 35.Rxg1 Rf8 36.Na4!

黒の問題は最下段の弱さのためにf7のポーンを取ることができないことである。36…b6 37.Rg6 Rxf7(37…Bxf7 38.Rf6)38.Nxc6+! 白はいずれ交換得になるがその前にまず重要なポーンを取る。38…Kc8(38…Kb7 39.Nd8+)39.Rg8+ Kd7 40.Ne5+ Ke7 41.Nxf7 Kxf7 42.Rg1±

これで白は勝つ可能性が十分にある。

32…cxd5 33.Nxd5?

 ここでもやはり 33.Qe5! が急所の手だが、効果は前の手の時より劣る。33…Qg7 34.Rg1 Qxe5 35.Nxe5 Rxg1 36.Rxg1 Rf8

が想定され

A)37.Ne2!? は変な感じの手だが 37…a6 38.Nd4 Ka7 39.Rg6 Bxf7 40.Rf6 Ne8 41.Rxf7(41.Rxf5 Nd6 42.Rf6 Ne4 43.Rxf7 Rxf7 44.Nxf7 b5

これは 41.Rxf7 の手順と似ている)41…Rxf7 42.Nxf7 b5 43.Nxf5 Kb6

チェスエンジンの形勢判断はまったくの引き分けだが、私には意外だった。しかしたぶん正しいのだろう。

B)37.Nxd5 Nxd5 38.Nd7+ Kc8 39.Nxf8 Bxf7 40.Rg7 Be8 41.Ne6

白は安全勝ちを目指して長いこと指すことができる。

33…Qg7!

 ナカムラの見落としたのはこの手だった。そして非常に高くついた。黒がすぐに負けないための手はこれしかないのだからなおさら意外である。さらに悪いことにはまったく形勢が逆転して勝ちにいくのは黒の方である。

 代わりに 33…Bxd5? なら 34.Rxd5 Nxd5 35.Qe5+、33…Nxd5? なら 34.Qe5+、33…Bxf7? なら 34.Nxc7 である。

34.Nc3 Qxf7 35.Qe5 Re8

 黒は2ポーン得で、優勢から最後には勝ちきった。もっとも白には負けを逃れる機会があった。まったくナカムラらしからぬ試合だった。


7局連続引き分けのナカムラ

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(この号終わり)

2017年06月16日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(245)

「Chess Life」1999年6月号(3/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法(続き)

1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3(再掲)

 B)3…Nf6 4.Bg5 Bb4(C12)

 マカッチョン戦法はクラシカルの 3…Nf6 とビナベルの 3…Bb4 とを組み合わせたものである。私の考えではそのような交配がうまくいくことは滅多にない。それでもこの戦法は危険であり、白は布局定跡をよく知っていなければならない。カパブランカは著書の中で2局取り上げていて、1局は白で、もう一局は黒で指している。

 B1)カパブランカ対ズノスコ=ボロフスキー(サンクトペテルブルク、1913年)

5.exd5

 カパブランカ「この試合の当時は 5.e5 が主流だった。しかし私は本譜の手の方が強力だと考えていたし今でもそうである。」

 しかしなぜより強力なのだろうか。d5で交換することにより白は中央での優位を放棄し黒の白枡ビショップを自由にしてやっている。すなわち明らかな 5…exd5! のあと局面は交換戦法(3.exd5 exd5 4.Nc3 Nf6 5.Bg5 Bb4)に移行して、白の優位はほんのわずかである。終局までの手順は次のとおりである(形勢記号はカパブランカの解説を基にしている)。

5…Qxd5?! 6.Bxf6 Bxc3+ 7.bxc3 gxf6 8.Nf3 b6 9.Qd2 Bb7 10.Be2 Nd7 11.c4 Qf5 12.O-O-O! O-O-O 13.Qe3 Rhg8 14.g3 Qa5? 15.Rd3! Kb8 16.Rhd1 Qf5 17.Nh4 Qg5 18.f4 Qg7 19.Bf3 Rge8 20.Bxb7 Kxb7 21.c5! c6 22.Nf3 Qf8 23.Nd2? bxc5 24.Nc4 Nb6 25.Na5+ Ka8 26.dxc5 Nd5 27.Qd4 Rc8 28.c4?! e5! 29.Qg1 e4 30.cxd5 exd3 31.d6 Re2 32.d7 Rc2+ 33.Kb1 Rb8+ 34.Nb3 Qe7 35.Rxd3? Re2 36.Qd4 Rd8 37.Qa4 Qe4 38.Qa6 Kb8! 39.Kc1 Rxd7 40.Nd4 Re1+ 白投了

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2017年06月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(478)

「Chess」2017年5月号(1/1)

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米国選手権戦

G.カームスキー – H.ナカムラ
ロンドンシステム、2017年米国選手権戦、セントルイス

1.d4 Nf6 2.Nf3

 カームスキーは旧来の手順に忠実である。今日では白はすぐに 2.Bf4 と指すことが多い。最近サイモン・ウィリアムズがチェスベース社から出した自分のDVDで扱ったのがこれである。

2…e6 3.Bf4 d5 4.e3 c5 5.c3 Nc6 6.Nbd2

6…cxd4

 この手は時機尚早でない。それは黒が次に関連した手を用意しているからである。しかし主流手順は 6…Bd6 7.Bg3 O-O であって、ここで 8.Bd3 なら普通だが最近は 8.Bb5!? が大流行で、黒がフィアンケットして速やかに展開を完了するのを防いでいる。

7.exd4 Nh5!?

 これはロンドン・チェスクラシックでのウェズリー・ソーの着想である。

8.Be3 Bd6 9.Ne5 g6 10.g4!?

 大胆な新手が出た。

10…Ng7 11.h4!

 黒のフィアンケットされたナイトとキング翼に対処するためにポーンを犠牲にする。

11…Nxe5 12.dxe5 Bxe5 13.Nf3 Bf6 14.h5

 既に白の狙いは重大になっていて、ナカムラは攻撃を受ける可能性のある方面にキャッスリングを余儀なくされた。

14…O-O 15.Qd2

15…d4!

 この判断は素晴らしかった。15…b6 だと 16.O-O-O Bb7 17.Bd4 となって黒キングの居心地があまり良くない。そこでナカムラは得したポーンを返して最後の駒を動けるようにしいくらか働くようにした。

16.cxd4

 16.Bxd4 e5! 17.Bc5 という変化もあるが、17…Bxg4 18.Bxf8 Bxf3! 19.Qxd8 Bxd8 20.Rh3 Nxh5 となって黒には交換損の代償が十分ある。

16…b6 17.hxg6 fxg6 18.Ne5 Bb7 19.Rh3 Rc8 20.Be2 Bg2 21.Rg3 Bd5 22.Rh3 Bg2 23.Rg3 Be4

 黒がキング翼で最悪の事態を乗り切ったのが明らかになった。しかし千日手を避けることはできても形勢は良いわけではない。

24.Rc1 Qd6 25.a3 Rxc1+ 26.Qxc1 Bxe5 27.dxe5 Qxe5 28.Qd2 Bd5 29.Bd4

 カームスキーがポーンを犠牲にした核心が明確になってきた。g7に逼塞(ひっそく)したナイトと比べて白の黒枡ビショップはモンスターになっていて、黒には全然有利さがない。

29…Qe4 30.f3 Qf4 ½-½

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号終わり)

2017年06月09日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(244)

「Chess Life」1999年6月号(2/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略(続き)

具体的な戦法

 時の流れで多くの評価が変わってきたことはほとんど驚くに当たらない。しかし特に印象深いのはわざわざ何の説明や証明もせずに戦法や手順について強く意見を言うことだった。何の証明も与えられていない技術的なことについての強い言明を受け入れることは誰にとっても非常に危険である。1.e4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 という手順で始まるフランス防御の重要定跡から実戦例を3局紹介する。

 A)3…dxe4 4.Nxe4 Nd7 5.Nf3 Ngf6 6.Nxf6+ Nxf6(C10)

 ルビンシュタイン戦法(3…dxe4)は黒が劣った中央を押しつけられる一方で白は小駒を働きの良い地点に展開できるので現在では人気がない。ここからはカパブランカ対ブランコ戦(ハバナ、1913年)の手順を追う。カパブランカはこの試合を「大局観に基づいた指し方の好例」と呼んでいる(彼の本の83ページ目)。

7.Ne5

 カパブランカはこの手を次のように解説している。「この手は才能のあるベネズエラのアマ選手のM.アヤラに初めて教えられた。目的はこの戦型で黒の通常の展開となる …b6 のあとクイーン翼ビショップをb7に展開するのを防ぐことである。

 しかしそれが唯一展開された駒をまた動かす理由になるのだろうか。答えは明らかに「いいえ」である。黒がほぼ互角に達するのに必要なことは普通に単刀直入に展開することだけである。布局大成(Encyclopedia of Chess Openings)C(1981年)では次の手順を載せて互角としている。7…Be7 8.Bg5 O-O 9.Bd3 c5! 10.dxc5 Qa5+ 11.c3 Qxc5

 最善手は意外でもなんでもなく展開する 7.Bd3! で、主手順は次のとおりである。7…c5 8.dxc5 Bxc5 9.O-O O-O 10.Bg5 h6 11.Bh4 Be7 12.Qe2 Qc7 13.Rad1 Rd8 14.Ne5(白は展開が完了してここで初めてこの手を指す)14…b6 15.Rfe1 Bb7 16.c4 中央がより広いのと黒のキング翼に対する圧力とで白が楽に優勢になっている(GMフォークトの1994年の解説による)。

 しかし実戦はカパブランカが次のように快勝した。

7…Bd6?! 8.Qf3 c6?! 9.c3 O-O 10.Bg5 Be7 11.Bd3 Ne8?! 12.Qh3 f5 13.Bxe7 Qxe7 14.O-O Rf6 15.Rfe1 Nd6 16.Re2 Bd7 17.Rae1 Re8 18.c4 Nf7 19.d5! Nxe5 20.Rxe5 g6 21.Qh4 Kg7 22.Qd4 c5 23.Qc3 b6?! 24.dxe6 Bc8 25.Be2! Bxe6 26.Bf3 Kf7 27.Bd5 Qd6 28.Qe3 Re7 29.Qh6 Kg8 30.h4! a6 31.h5 f4 32.hxg6 hxg6 33.Rxe6 黒投了

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2017年06月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(477)

「Chess Life」2017年4月号(1/1)

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トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMロバート・ヘス

二ムゾ・インディアン防御 (E21)
GMロマン・エドワール(FIDE2613、フランス)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2785、米国)
マスターズ、第10回戦、ジブラルタル、イングランド、2017年1月28日

1.d4

 この初手は全然驚くに当たらない。1.e4 も 1.c4 も指すエドワールは第9回戦で伝説のナイジェル・ショートにやや変わった二ムゾ・インディアン防御で快勝していた。しかしこの試合における彼の布局選択は郷愁に触発されたというよりも慎重さによるもののようだった。

1…Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Nf3 O-O 5.Bg5

 代わりに 5.e3 は意欲で劣っても堅実である。

5…c5!

 ナカムラは戦闘意欲満々だった。もちろん 5…d5(5…h6 も同様)は自然な手であるが、白は簡明に 6.cxd5 exd5 7.e3 と指すことができ、ここで 7…c5 は複雑化するが黒の好むたぐいの戦いではない。

6.Rc1

 エドワールはポーン戦よりも駒戦の方を選んだ。

6…h6 7.Bh4

 ビショップを切るのは何の得にもならない。7.Bxf6 Qxf6 で黒は悪くない。展開で先行しているので陣地が少し狭いのを適切に補っている。

7…cxd4 8.Nxd4 d5 9.e3?

 この悪手は即座にナカムラに咎められ黒の主導権が強大になった。代わりに 9.cxd5 は 9…exd5 で黒に孤立ポーンを生じさせる目的だが、黒は 9…g5!? 10.Bg3 Qxd5 ですきの多いキング翼を犠牲に駒の動きが良くなる。この手順が指されることは非常にまれなので、一定の評価が得られる前にはさらに実戦による検証が必要である。11.e3 は本筋の手だが黒にa2のポーンをかすめ取られる。このポーン取りの決断は白が展開を完了するのですぐに恐ろしいことになるかもしれない。自分のキングの周りが薄い時には駒をキングの近くに置いておきたいのが普通で、aポーンを取るのはこの過程をさらに遅らせることになる。戦力の不均衡は実戦的には下位者に有利に働く。白の作戦は黒の作戦よりもはるかに自然になる。もし黒がかっさらわなければたとえクイーン同士が交換になっても白陣の方が伸びすぎていない分優っている。徹底的な分析が必要であるが、この種の局面はナカムラならどちらを持っても指せると想像される。

9…e5 10.Nf3

 10.Nb3 とこちらに引くのは 10…g5 11.Bg3 Nc6 で良くない。アニシュ・ギリは2016年のタリ記念大会でリー・チャオを黒でこてんぱんにした。

10…d4!

 たった1ポーンの代価にナカムラは中央を打ち破った。世界最強の一人に白で立ち向かってたった10手で自分のキングに避難所が全然ないという事態を想像してみるとよい。

11.exd4 exd4 12.Nxd4?!

 戦力得だがキングが危険にさらされている時は、多くの場合クイーン交換を誘うのが賢明である。黒は交換を避けようとすると手数がかかることがある。12.Qxd4 Qe7+ 13.Be2 g5 なら戦いが続く。途中白があくまで 13.Qe3 と交換を迫ると、黒は 13…Qxe3+ 14.fxe3 Nxe4 と白のポーン陣形を乱して大満足である。c3で駒を取ることになれば白には3個の孤立ポーンが残される。15.Be7 をおとりにすれば話は別だが、それでも黒は駒の動きが非常に良く、白は互角を維持できれば幸運である。(ルークでチェックするのは第一感だが、黒は …g7-g5 と突くのに苦労することになる。例えば 12…Re8+ 13.Be2 Qe7 14.Qd2 g5[ほかの 14…Bg4 のような手はゆっくりしすぎている。白は 15.a3 と突き黒の攻撃は頓挫する。]なら 15.Bxg5 と取ることができ、白は千日手で引き分けにできるし、駒の代わりに3ポーンを得るのみならず永続する圧力をかけることもできる。いろいろな可能性を考え合わせれば 15…hxg5 16.Qxg5 Kh8 17.O-O のような手順は白として確かに不満でない。)

12…Qb6

 これはルークのためにd8の地点を空け、白駒をさらに不調和にさせる。既に思わしい手がないエドワールは一貫性のある方の手を選んだ。

13.Nf3

 13.Nb3 とこちらに引くのは良くない。それは駒は中央にある方が良いからではなく、クイーンがd1-a4の斜筋を通って逃げるのが制約を受けるからである。さらにはこのナイトは黒が …a7-a5-a4 と突いていってナイトを仮住居から追い払うのを助長するかもしれない。一方で 13.a3 突きは黒に有利な一連の交換を招く。というのは 13…Rd8 14.Bxf6 Qxf6 15.axb4 Rxd4 16.Qf3 Qxf3 17.gxf3 Nc6 となって白はポーン得を維持できないからである。

13…Rd8 14.Qc2

 エドワールのこの手も正着である。14.Qb3 ならナカムラには巧妙な応手があった。14…g5 15.Bg3 Ne4 16.Be2 Bf5 17.O-O で少なくとも読んでいる最中には白キングがうまく逃げたように見える。キングは確かにより安全な場所を見つけたが、クイーンはそうでない。17…Nc5! でクイーンの逃げ場がなく、白は女王を助けるために戦力損をしなければならない。

14…g5 15.Bg3 Nc6 16.Bd3

 残念ながら 16.Be2 は見え見えの 16…g4 でまずいことになり白がつぶれる。今度は …Nd4 という跳び込みがある。

16…g4

17.Nh4!

 この決断は賞賛に値する。というのは大多数はナイトを端に置くのを恐れるだろうからである。しかし 17.Nd2 だと 17…Qd4 を招きd列にとてつもない圧力がかかる。たとえ白が 18.Nde4 のような手で大きな戦力損を免れたとしても困難は残る。盤に駒を配置して分析してみるとよい。

17…Bf8

 このビショップはb4に長居しすぎた。f8に引っ込んでh6のポーンを守ったが釘付けを続けることはできた。考え方は正しかったがやり方が間違っていた。17…Ba5! がやはり …Nb4 を狙い、同時に黒ナイトがe4に行けるままである。想定される 18.Qb1 Qd4 19.Be2 Ne4 20.O-O は 20…Nd2 でクイーンとルークの両当たりになる。17…Ba5 には 18.a3 が必要かもしれないが、b3の地点がゆるんで黒ナイトがそこに行けるようになる。

18.Qb1 Re8+

 白は釘付けに耐えきれないのでキングをよろけさせる。

19.Kf1 Be6 20.h3?

 あんなに強防を続けてきたエドワールに失着が出たのは残念だった。この手が無能なルークのためにh列を開けようとしているのは分かるが、反動が厳しすぎた。白には 20.Nf5 という強手があった。次はe3に戻る。最良の防御は(一時的な)攻撃であることが時たまある。

20…Nh5 21.Ne4

 ここでの 21.Nf5 は前手のせいで白に回復不可能な害をもたらす。各所に地雷があり、面白い例を一つだけあげてみる。21…Nxg3+ 22.Nxg3 Ne5 23.Nd5 Bxd5 24.cxd5 Bc5 25.Ne4 Bxf2! 26.Nxf2 g3 27.Ne4 Nc4!!

これで白陣が壊滅する。

21…Nxg3+

 21…f5?! は勝利を目前にしてころりと負けるたぐいの余計な手である。そんな必要は全然ない。

22.Nxg3 Rad8 23.hxg4 Ne5 24.Be2

24…Bxg4?!

 24…Nxg4 なら白はビショップを切らなければならない。25.Bxg4 Bxg4 は黒の得点だが、それよりもずっと良い戦術があった。白の最下段につけ込む 24…Bxc4! 25.Rxc4(25.Bxc4 は 25…Nxc4 26.Rxc4 Rd2 27.Rf4 Qxb2

で最下段での詰みのために白クイーンが取られる)25…Nxc4 26.Bxc4 Qxb2!

がそれで、白は試合を長引かせるためだけにビショップをf7で切らなければならない。黒の戦力得がものを言うはずである。

25.Bxg4??

 この手は黒を勝たせたので大悪手記号を付けなければならない。25.f3 がはるかに頑強な手で、黒が勝ちへの明快な道筋を見つけるのは難しい。そもそもあるのだろうか。

25…Nxg4 26.Qc2

 26.Qf5 は必然を遅らせるだけである。例えば 26…Qd4 27.Qf3 Nxf2! 28.Qxf2 Qd1+! 29.Rxd1 Rxd1+ で簡単に黒の勝ちになる。

26…Bb4 27.c5

 27.Nf3 は受けになっておらず、27…Rd2 で白クイーンのf2への利きを遮断される。

27…Qa6+ 28.Kg1

28…Be1

 28…Re1+ の方が白の最下段を守る最後の駒を除去するのではるかに強力だった。しかしこの時点ではもう大した問題ではなかった。

29.Rh3

 29.Ne4 は 29…Rxe4 30.Qxe4 Bxf2# で詰みになる。

29…Bxf2+ 30.Kh1 Re1+ 31.Rxe1 Bxe1 32.Nf3 Nf2+ 33.Kh2 Nxh3 34.Nxe1 Ng5 35.Qc3 Qg6 0-1

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(この号終わり)

2017年06月02日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(243)

「Chess Life」1999年6月号(1/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

カパブランカの布局戦略

 チェスの古典と見なされている本の一つはJ.R.カパブランカの『チェスの基本(Chess Fundamentals)』である。布局、中盤それに收局への貴重な洞察が豊富なのでまさしくそのとおりである。1921年に初版が出版され、1934年の再版ではカパブランカの序文が新しくなった(私の持っているのは1976年版である)。

 まぎれもなく名著である。カパブランカも気に入っていた。新しい序文では「・・・『チェスの基本』は今も13年前と同じく通用する。今から100年後も通用するだろう。・・・」と書かれていた。しかしチェスがいろいろある特徴の中でなかんずく科学であることを考慮すると、そのような主張はとても真実たり得ない。実際科学的な部分はこの13年間で既に大きく進歩していた。

 カパブランカの布局段階の扱いの中で二つの側面である基本原則と具体的な戦法を見てみることにする。

基本原則

 カパブランカは五つの原則について説明している。それらを書き連ねながら現代の知識に基づいて解説する。

 1.最も重要なことは駒を迅速に展開することである。

 これはかなり限られる。なぜなら白も黒も攻撃の速さが目標の布局定跡を選ばなければならないことを仮定しているからである。実際は布局の段階の全般的な目標は中盤戦のための用意をすることである。例えば閉鎖的な布局では駒の働きとポーンの配置が速度よりもはるかに重要である。

 2.戦力得するか動きの自由さを確保することが必須でなければ、展開が完了する前にどの駒も二度以上動かすべきでない。

 前半の部分は役に立つ原則である。問題は後半で、何が「必須」かは判断するのが難しい。このあと分かるようにカパブランカはこの原則を破ることをためらわなかった。

 3.1.e4 と 1.d4 以外の初手は大したことは達成しないので理論的にはこの2手のうち一つが最善のはずである。

 これはそのとおりではない。既に1934年までにレーティ布局(1.Nf3)が高級な初手としてしっかり確立していた。拙著の『良い布局の指し方(How to Play Good Opening Moves)』で論じたように、白の完璧な初手は 1.e4、1.d4、1.c4、1.Nf3 および 1.g3 の5手である。

 4.中央の支配は何よりも重要である。

 まったくもって正しい。

 5.ビショップより先にナイトを出せ。

 単純で役に立つ原則で、当てはまることは意外なほど多い。迷ったら従うことである。

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2017年05月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(476)

「British Chess Magazine」2017年3月号(2/2)

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シャールジャFIDEグランプリ(続き)

ディン・リーレン – ヒカル・ナカムラ
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Be7 5.Bf4

 后翼ギャンビットで問題を引き起こすことを試みるならこれが白にとって一番である。

 5.Bg5 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 だと黒にはタルタコーベル戦法の 7…b6 をはじめ楽しい選択肢がある(7…Ne4 ならラスカー戦法で、クラムニクは最古の 7…Nbd7 を最近採用した)。

5…O-O 6.e3

6…c5

 ナカムラはこれまでは 6…Nbd7 と指していた。しかしたぶん 7.c5 のあとの局面がまったく気にいってなかったのだろう。だから以前の主手順の 6…c5 を研究して後ろは振り返らなかった。

7.dxc5 Bxc5 8.a3 Nc6 9.Qc2 Qa5 10.Rd1

10…Re8

 旧手順の 6…c5 の復活に結びついたのがカルポフのこの着想である。

11.Nd2 e5 12.Bg5 Nd4 13.Qb1 Bf5 14.Bd3 Bxd3!

 カルポフは 14…e4? と指したが白は 15.Bf1! と指せばほとんど勝勢だった。

15.Qxd3 Ne4

 この手は良さそうである。黒はポーンを犠牲に代償を得ることになる。

16.Ncxe4 dxe4 17.Qxe4 Qb6

18.Rb1

 18.b4 なら 18…Bf8 と引いておけばよい。18.O-O なら 18…Ne2+ 19.Kh1 Qxb2 でナイトはc3を経由して逃げる。

18…h6!

 これはナカムラの新手だった。前例は 18…f6 で、黒は問題なかった。しかしナカムラの手は問題をもっと簡単に解決する。

19.Bh4 g5 20.b4

 20.Bg3 なら 20…Rad8! で …f5 突きを狙う。白クイーンはd5でチェックできず、空きチェックがあるのでd3へ下がれない。

20…Bf8 21.Bg3 Rad8

 やはり …f5 と突く狙いがある。

22.exd4 exd4 23.Be5 Bg7

 これで黒は犠牲にしたポーンを取り戻して互角になる。

24.O-O

 24.Nf3 Bxe5 25.Nxe5 Qc7 26.O-O Rxe5

24…Rxe5 25.Qd3 Qg6 26.Rb3 g4 27.c5 b6 28.cxb6 ½ – ½

 ナカムラの研究が素晴らしかった。

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(この号終わり)

2017年05月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(242)

「Chess Life」1999年4月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

スミスロフ対シー・ユン(コペンハーゲン、1997年)
8…Qe7

 これは黒の断トツの手で、まずナイトで白の黒枡ビショップを追い払うための中間駅としてd8を空け、そのあとはf8のルークの好所として用いる。

9.Re1 Nd8 10.d4 Ne6 11.Bc1 c5 12.a4 Rd8

 すぐに 12…Nc7 13.Bf1 Bg4 と指してもよいが、14.h3 には本筋でない 14…Bxf3?(スパスキー対シー・ユン、コペンハーゲン、1997年)でなく 14…Bd7 と指すべきところで、白がわずかに優勢だった。

13.Bf1 Nc7 14.h3 Bd7 15.g3 b5 16.Nh4! bxa4 17.Nf5 Bxf5 18.exf5 Ncd5 19.Ra3 Qc7 20.dxe5 dxe5 21.Qe2 Rab8 22.Bg5 h6 23.Bxf6 Nxf6

 23…gxf6? は 24.Qh5 で危険すぎる。しかし本譜の手のあと白のルークは非常に強力になる。

24.Qxe5 Qxe5 25.Rxe5 Rd2 26.Rxa4 Rxc2 27.Rxc5

 ここは勝負所である。黒は 27…Rb1! 28.Kg2 Rbb2 と指してf2の地点でチェックする手を狙わなければならず(スミスロフ)、十分引き分けにできる可能性があった。実戦は白が詰み狙いの攻撃にでることができる。

27…Rbb2? 28.Rc8+ Kh7 29.Rxa7 Rxf2 30.Rxf7 h5 31.Rff8 Kh6 32.h4 Rxf5 33.Bd3 黒投了

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2017年05月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(475)

「British Chess Magazine」2017年3月号(1/2)

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シャールジャFIDEグランプリ

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – アレクサンドル・グリシュク
シャールジャ・グランプリ、2017年、アラブ首長国連邦

1.Nf3 c5 2.e4

 ルイロペスのベルリン防御を避けるための工夫した手順。

2…d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6

 不滅のシチリア防御ナイドルフ戦法。今日では 1.e4 に対する黒の防御の二大支柱一つ(もう一つは言わずと知れたベルリン防御)。

6.Be3 Ng4

 これは依然として黒の有効な選択肢である。もっとも近年では 6…e5 の方がよく指されている。

7.Bg5 h6 8.Bh4 g5 9.Bg3 Bg7 10.h3

 10.Be2 と 10.Qd2 も重要な変化である。

10…Ne5

11.Nf5

 グリシュクは最近の対局で 11.h4 と指されたが 11…Nbc6 12.Nb3 g4 13.h5 Rb8 14.Be2 b5 とうまく応接し34手で勝った(M.バシエ=ラグラーブ(2804)対A.グリシュク(2737)、ドーハ、カタール、2016年)。11.Nf5 のあと白の手段が尽きてからは 11.f3 が主流手順になった。

11…Bxf5 12.exf5 Nbc6 13.Nd5 e6 14.fxe6 fxe6 15.Ne3

15…Qa5+

 この手は勝負手である。研究手順にとらわれずに迷宮に飛び込むグリシュクの勇気と自信には感服せざるをえない。変化としてはもっと穏やかな 15…O-O がある。

16.c3 Nf3+ 17.Qxf3 Bxc3+ 18.Kd1 Qa4+ 19.Nc2

 19.Kc1 は引き分けになるがその手順は長い。19…Bxb2+ 20.Kxb2 Qb4+ 21.Kc1 Nd4 22.Qh5+ Ke7 23.Bc4 Qc3+ 24.Kb1 Rhc8 25.Qxh6(25.Qd1 Rxc4 26.Nxc4 Qxc4 27.a3 Qb5+ 28.Ka2 Qc4+ 29.Kb2 Rc8 30.Ra2 Qb5+ 31.Ka1 Nb3+ 32.Kb2 Nd4+ 千日手)25…Rxc4 26.Qh7+ Kd8 27.Bxd6 Rb4+ 28.Bxb4 Qxb4+ これで千日手。

19…Bxb2 20.Rc1 Rc8 21.Bd3 Rf8 22.Qh5+

22…Ke7

 22…Kd7 と逃げる変化もある。

23.Qxh6 Bxc1 24.Re1

 この手は引き分けになるはずなので勝とうとした手とは言いにくい。しかしグリシュクが研究手順を思い出せないでいるのでどうでもいい。 24.Kxc1 なら 24…Nb4 25.Qxg5+ Rf6 26.Qg7+ Ke8 27.Qg8+ Kd7 28.Qg7+ Ke8 で引き分けになる。

24…Ne5 25.Rxe5

 25.Bxe5? はf2の地点が守られていないので良くない。25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+ 27.Kd2 Rxf2+ 28.Re2 Qc3+ 29.Ke3 Rf5 で黒が勝つ。

25…dxe5 26.Kxc1 Qa3+

 26…Kd6 と 26…Rc5 も指されたことがありどちらも引き分けになるはずである。

27.Kd2 Rxc2+ 28.Bxc2

 興味深いことに通信戦ではここで合意の引き分けになった。彼らにとってはたやすいことで、チェスエンジンとデータベースに相談できるしエンジンが0.00を示すことがすぐに分かる。しかしグリシュクはすでに累加時間で指しており、一方ナカムラはここまで彼本来の速さで指していたのでほぼ100分(!)も多く時間が残っていた。グリシュクのブリッツでの手腕は伝説的だが、彼でさえ本局に見られるようにプレッシャーでつぶれることがある。黒の問題は白が千日手を避けてそれ以上のものを目指して指そうとすることができることにある。なにしろ白はキングがより安全だし、望めばほとんどいつでも強制的に千日手にできるので何も危険を冒さないで済む。

28…Qb4+ 29.Ke2 Qb5+ 30.Ke1 Qb4+ 31.Kf1

 これが要点で、白はキングを安全にするためにc2のビショップを犠牲にしてキング翼での進攻を開始する。

31…Qc4+ 32.Kg1 Qxc2 33.Qxg5+ Kf7 34.Qxe5

 一本道の手順がやっと終わった。そしてたとえチェスエンジンが0.00を表示しても、黒はまだその道筋を見つける必要がある。白のキング翼ポーンの進攻という単刀直入の作戦に対して時間に追われている中では容易なことではない。

34…Qd1+

 黒はポーンを取ることができた。34…Qxa2 35.Qh5+ Ke7 36.Qh7+ Rf7 37.Bd6+(37.Bh4+ は 37…Ke8 38.Qg8+ Rf8 39.Qg6+ Rf7 で千日手になる)37…Kxd6 38.Qxf7 Qb1+ 39.Kh2 Qe4! クイーンを中央に据えれば引き分けが確実なはずである。

35.Kh2 Qd5

 チェスエンジンは実戦の 36.Qc7+ を防ぐ 35…Qd7 の方が好みである。

36.Qc7+! Kg8 37.Be5 Rf7 38.Qc3

 39.Qg3+ を狙っている。

38…Kf8?!

 チェスエンジンにとってはわずかに不正確な手だが、人間にとっては大分不正確である。

 38…Rd7 の方が黒駒の連係がとれていて良かった。39.Qg3+ Kf8 40.Qg5 Qxa2! やはり白には千日手しかない。しかし黒がクイーンを中央の自キングの近くに置いたままにしたかったのは理解できる。

39.Qc8+ Ke7 40.f4

 黒は駒の連係の悪さで苦労している。f7のルークとe7のキングが邪魔し合っている。

40…Qc6 41.Qg8 Qe8?!

 41…Qd5 何もしないことがチェスエンジンのしたいことで、喜んで0.00と表示する。実戦の手の問題は黒駒の連係をさらに悪くすることである。

42.Qg3

 42.Qg5+! Kd7 43.h4 なら白が大いに優勢である。黒駒はまだぎこちなく白はgポーンとhポーンを突いていくだけである。

42…Kd8?!

 明らかに 42…Qd8 43.h4 b5 なら0.00だった。これを指摘するのはただ単に黒がコンピュータなら決して負けないのに人間ならほとんど確実に負けるということを示すためである。駒の連係の悪さと明快な作戦のないことが人間の指し方に深刻な影響を与え誤りなく指すのを不可能にさせる。

43.h4

 ポーンが進攻を開始した。

43…Rh7

 ルークは一度もキング翼の束縛から逃れることができなかった。今は白ポーンがh5に進むのを止めているが、それも長くは続かない。

44.Qg5+ Kd7 45.g4 Qc8

46.Qg6?

 勝利までもう一歩というところでナカムラは彼らしくもなくつまづいた。対局後に認めたところによると 46.h5 だと黒が千日手にできると読み違いをしていた。

 46.h5! Qc2+ 47.Kg3 Qd3+ 48.Kh4 Qf1 46.Qg6 でg5が空いて白の勝ちになる。

46…Rxh4+ 47.Kg3 Rh1!

 これでグリシュクは時間切迫でも引き分けを見つけることができる。

48.f5 Rg1+ 49.Kh2 Qc2+! 50.Kxg1 Qc5+ 51.Kg2 Qxe5 52.Qf7+ Kd6

53.Qf8+

 53.Qxe6+ Qxe6 54.fxe6 Kxe6 は引き分けのポーン收局である。

53…Kd5 54.f6 Qe4+

 白キングは周りが殺風景すぎて千日手が避けられない。

55.Kh2 Qxg4 56.Qg7 Qf4+ 57.Kh3 Qf5+ 58.Kh4 Kd6 59.Qg3+

 59.f7 は 59…Qf4+ 60.Kh5 Qf3+ で白キングが逃げきることができない。

59…Kd7 60.Qg7+ Kd6 61.Qg3+ Kd7 62.Qg7+ ½ – ½

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(この号続く)

2017年05月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(241)

「Chess Life」1999年4月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5 Bxc3 8.bxc3(再掲)

ヤルタルソン対ラウシス(アイスランド、1996年)
8…Ne7

 クイーン翼ナイトは 9…Ng6 から 10…h6 で釘付けをはずすためにキング翼に向かう。白の応手はこれを妨げる。

D)9.Nh4! Ng6 10.Nxg6 fxg6 11.Bc4+ Kh8 12.f3!

 これは新構想である。白はeポーンとキング翼とを安全にしてから中央とクイーン翼で動くつもりである。もっと分かりやすい 12.f4 もいい手である。アダムズ対コルチノイ戦(マドリード、1996年)では 12…Qe8 13.fxe5 でわずかな優勢を保持した。

12…Qe7 13.Rb1 b6 14.d4 Be6 15.Qd3 h6 16.Bd2 c5?!

 この手はちょっとした不注意で、黒はb6の地点を永久に弱めた。白はすぐにこの機会に飛びついた。ヤルタルソンはキング翼をふさいで事の成り行きを見守る 16…g5 を勧めている。

17.Bxe6 Qxe6 18.a4! Rac8 19.d5! Qe8 20.Qa6 Rc7 21.a5

21…Qa4?

 この手が敗着になった。白に決定的なクイーン交換を許してしまう。21…Nd7! 22.c4 g5 23.g4! と慎重に守っておくところだった(ヤルタルソン)。

22.Qb5!

 22…Qxc2?? は 23.Rb2 で負けてしまうので黒は交換に応じなければならない。

22…Qxa5 23.Qxa5 bxa5 24.Rb5 Nd7 25.c4! a4 26.Ba5 Nb6 27.Ra1 Rb7 28.Rxa4 Rfb8 29.Bxb6 axb6

 本譜の手のあと黒は完全に動きを封じられて、白キングがb5に来るやいなや絶望の形勢になる。代わりに 29…Rxb6 ならヤルタルソンは 30.Rxa7 Rxb5 31.cxb5 Rxb5 32.Ra6 Rb2 33.Rxd6 Rxc2 34.Re6 c4 35.Rxe5 c3 36.Re8+ Kh7 37.Rc8 という確実な手順で白の勝勢になるとしている。詳しい変化は『チェス新報』第68巻第287局のヤルタルソンの解説を参照されたい。終局までの手順を以下に示す。

30.Kf2 g5 31.Ra6 Kg8 32.Ke3 Kf7 33.Kd2 Ke7 34.Kc3 Kd7 35.Kb3 Kc7 36.Ka4! Rf8 37.Rb3 g4 38.Kb5 h5 39.Rba3! h4 40.Ra8 Rf7 41.fxg4 Rf1 42.Rg8 Rb1+ 43.Ka6! Rb8 44.Rxg7+ Kd8 45.Ka7 Rc8 46.Kb7 b5 47.Rb3 黒投了

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2017年05月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(474)

「Chess Life」2017年3月号(1/1)

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マン島 次の一手

第4問
GMヒカル・ナカムラ
GMサビーノ・ブルネッロ

 白の手番

解答 51.Kd6 Nxd8 52.Kxd7 Ne6 53.Bb3 または 51…Ndc5 52.Bxb6! axb6 53.a7

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(この号終わり)

2017年05月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(240)

「Chess Life」1999年4月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5 Bb4 5.O-O O-O 6.d3 d6 7.Bg5(再掲)

C)7…Be6

 この手は凡手ではないが、白のc3のナイトは黒のb4のビショップより価値があることを学んだところである。

8.Ne2! Ne7 9.c3 Ba5 10.Ng3 c6 11.Ba4 Ne8 12.d4

 白は中央で少し優位に立っているのと小駒の働きに優るので、通常の布局どおりの優勢である(ドゥラス対クプチク、ニューヨーク、1913年)。

D)7…Ne7

 d5の地点を過剰に守りナイトをキング翼に近づけることにより黒は 8.Nd5 の狙いから毒気を抜いた。この手は 7…Bxc3 8.bxc3 の交換と共に指されるのがほとんどである。バッハマン対マロン戦(ストックホルム、1930年)は別個の一例である。

8.Nh4 c6 9.Bc4 Ng6 10.Nxg6 hxg6 11.f4 Bc5+ 12.Kh1 Be3 13.Qf3 Bxf4 14.Bxf4 exf4 15.Qxf4 Qe7 16.Qg3

 中盤戦の始まりで白は中央での優位、半素通しf列での展望、それに黒の二重gポーンにより典型的な布局の優勢を得ている。

E)7…Bxc3 bxc3

 現代ではc3のナイトを取る手がほかのすべての手に取って替わった。黒の「不作為」黒枡ビショップを白の危険性のあるc3のナイトと交換するのは大いに意味があることが分かっている。同時に黒はただで何かを得ているわけではないことを理解していなければならない。白は局面が開ければ双ビショップの潜在力で優勢になれるし、bポーンがc3に移って中央が少し強化されたし、半素通しb列での展望もある。だから黒は用心しなければならない。最近の大会から2局を取り上げて主要な作戦を例示する助けとしたい。

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2017年05月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(473)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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2017年トレードワイズ・ジブラルタル・チェス祭り

GMアレクサンダル・チョロビッチ

ヒカル・ナカムラ – ダビド・アントン・ギハロ
ジブラルタル・マスターズ、2017年2月2日

 黒陣は非常に堅固で、白が進展を図るには b4 と突くしかない。

23…Rb7

 黒は強いられてもいない時に後退を始めた。このような手の唯一の説明は恐怖心である。23…Rab8 なら b4 突きを防ぎ白をb3ポーンの守りに縛りつける。

24.Rb1 Be8

 この手は白に進攻させる。単純で直接的な最初の機会(23…Rab8)を逃したあと、ここではもっと複雑な先受けが必要だった。それは 24…Qe8! でa8のルークを守っておくことである。25.b4 axb4 26.axb4 Na6! という手順でそれが分かり、白には実戦の類似の手順中の 27.Ra3 がない。

25.b4 axb4 26.axb4 Nd7

 26…Na6 27.Ra3!

27.Nc4

 白はたった4手で着実に前進した。ここから白のやりたいことは Na5 でクイーン翼を固めたあとキング翼で f5、g4 などで前進を図ることである。

27…Nf8?!

 黒はまだ同じ調子で指し続け、事態の切迫を感じていない。27…exf4! が白のキングを少し弱め、白が f5 と突くとe5の地点を明け渡すことになるのでそれを防ぐ手段になる。黒はg列を心配したのかもしれないが、方策は十分にある。例えばコンピュータは白の手段は 28.gxf4 Nf8 29.Na5 Rba7 30.f5 しかないと言ってきかない。人間なら決して軽々しく指さない手である。その意図はf8のナイトに対する押さえ込みで、動ける枡がなくなっている。30…Qe5 31.Kh1 Kh8 32.Rg3 ナイトを出すためには黒は 32…g6 と突かなければならないが 33.fxg6 Nxg6 34.Rg1 となってナイトにはまだ圧力がかかっている(彼我のルーク同士を比べてみるだけでよい)。しかしそうではあってもこの方が黒にとっては実戦よりも良い。

28.Na5

 もう黒に …exf4 の機会を与えない意味で 28.f5 の方が正確だった。

28…Rba7

 28…exf4! と取れば 27…exf4 と取ったのと同じことになり、黒が局面の様相を変える二度目の機会だった。

29.f5

 白が押さえ込みにかかっている。

29…g6

 黒はようやく目が覚め、かく乱を図って絞殺を避けようとした。しかしすでに手遅れで、小さな疑問手を積み重ねてきた結果局面は非勢になっていた。

30.g4 h5

31.Bf3!?

 この手は黒にキング翼を閉鎖させる。しかしそれは実際は巧妙に隠されたわなだった。代わりに 31.gxh5 なら 31…g5 で、たぶんナカムラはそれを避けたかったのだろう。というのは 32.Rg3 Kh8 33.Qc1 Nh7 となると黒は当面は持ちこたえているからである。少なくともh7のナイトにはやることがある。それでも白は h4 突きとクイーン翼での作戦とを絡ませれば最終的には勝つはずである。

31…Qh7

 31…h4 32.Qf2 g5 は 33.Nc6! Bxc6 34.dxc6 で黒ナイトが永久に動けなくなるということがなければ黒が良い。実際は白が例えばビショップをd5に捌いたあとクイーン翼で進攻を始めれば黒が負ける。

32.Kh1 Qh6 33.Rc3

33…Nh7?!

 ナイトをh7に置くと白にキング翼を大きく破られる。代わりに 33…hxg4 34.Bxg4 Nh7 の方が弾力があり、35.Qf2 Ng5 36.Re3 Rb8 で黒はまだまだ戦い続けられた。

34.fxg6! Bxg6 35.gxh5 Bxh5 36.Qf2

 36.Bxh5 Qxh5 37.Rg1+ Kh8 38.Qf2 の方が黒にビショップ同士の交換を避ける機会を与えないので正確だった。しかし快速戦ではそのような細かい差異まで見通すのは困難である。

36…Bxf3+

 36…Bg6 が黒の最後のチャンスだった。もっともこれでさえ 37.Bg2 Ng5 38.Re1 Kg7 から …Rh8 の狙いに 39.Kg1! で白が大きく優勢で、a7のルークが浮くために黒はa8のルークを動かすことができず、例えば 39…Be8 には 40.h4± と突く。

37.Rxf3

 これで黒のキング翼は無防備である。ナイトとポーンが黒の両ルークをいかに麻痺させているかには驚くしかない。

37…Kh8 38.Rg1 Ra6

 白クイーンの利きからはずれた。しかし…

39.Qf1!

 それもつかの間だった。白クイーンはここからh3の地点もにらんでいる。

39…R6a7 40.Rh3 Qf4

41.Qe2

 41.Qg2! Qg5 42.Rg3 ならもっと速く勝っていた。

41…Rg8

 これは鮮やかな手筋を招いた。コンピュータによれば 41…f5 が絶対手で、42.exf5 c5 43.dxc6e.p. Qxb4 44.Nb7 という手順で白が勝つというが、人間には読めないし指せない。

42.Rxh7+! Kxh7 43.Qh5+ Qh6 44.Qxh6+ Kxh6 45.Rxg8

 あとは指さずもがなだった。

45…Ra6 46.Kg2 Rb6 47.Nc6 Ra6 48.Ne7 Ra4 49.Nf5+ Kh5 50.h4 Rxb4 51.Kh3 Rc4 52.Rh8+ Kg6 53.h5+ Kg5 54.Ng3 Rc3 55.Rg8+ 1-0

 自信のある方が勝った試合だった。これはナカムラの4度目の優勝で3連覇となった。この安定性は彼の棋風が同じ米国の超一流よりもオープン大会に向いていることの表れである。

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(この号終わり)

2017年05月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(239)

「Chess Life」1999年4月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49](続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6 4.Bb5(再掲)

 4ナイト試合は1990年頃まで定跡としてほとんど忘れられたままだった。それからジョン・ナンに率いられたイギリスのGMたちの情熱と創造性のおかげで、グランドマスターの関心がよみがえり現在まで続いている。4…Nd4 は 5.Ba4 でも 5.Bc4 でもそのあとの乱戦が黒にとって容易に危険なものとなることがあるので、特効薬とはなり得ないことが分かっている。だから80年以上前のように黒の主手順はやはり次の手だと考えられている。

4…Bb4

 この手は白の手とちょうど同じように申し分のない手である。黒枡ビショップがすばやく展開して最下段が空いたのでキャッスリングが可能になり、このビショップはeポーンへの攻撃に間接的に関与している。

5.O-O O-O 6.d3

 6.Bxc6 dxc6! 7.Nxe5 に飛びつくのは何にもならない。7…Bxc3 8.dxc3 Qxd1 9.Rxd1 Nxe4 10.Bf4 Bf5 11.Nc4 Rfc8 12.Ne3 Be6 13.f3 Nf6 14.c4 Nh5 15.Be5 f6 16.Bc3 Nf4 17.Re1 Re8! で互角である(マイルズ対ユスーポフ、フローニンゲン、1992年)。

6…d6 7.Bg5

 白が次に 8.Nd5 と指せばf6のナイトが釘づけにされる。黒はこの狙いにどう対処するか決めなければならない。最悪から最善の順に5種類の黒の手を考えてみよう。

A)7…h6?

 最悪の手。黒はわざわざ1手かけて自分のキング翼を破壊させる。

8.Bxf6 gxf6

 8…Qxf6? は 9.Nd5 Qd8 10.Bxc6 bxc6 11.Nxb4 a5 12.Nxc6 Qe8 13.Nxa5 または 13.Ncxe5 で少なくとも黒の2ポーン損になる。

9.Nd5 Bc5 10.Nh4! Nd4 11.Bc4 Be6 12.c3 Nc6 13.Qf3

 黒のキング翼ががたがたで白がだいぶ優勢である。

B)7…Bg4?!

 黒は対称形を続けている。この手はたぶん見かけほど悪くはないけれども、それを信用して実際に指すGMはこれまでいない。

8.Nd5

 シュレヒター対レオンハルト戦(ハンブルク、1910年)では 8.Bxf6 gxf6 9.Nd5 Bc5 10.Qd2 で白がうまくいった。

8…Nd4 9.Nxb4 Nxb5 10.Nd5 Nd4 11.Bxf6 gxf6

 しかしここで 11…Bxf3? と対称形を続けるのは 12.Qd2! gxf6 13.Qh6 Ne2+ 14.Kh1 Bxg2+ 15.Kxg2 Nf4+ 16.Nxf4 exf4 17.Kh1! Kh8 18.Rg1 Rg8 19.Rxg8+ Qxg8 20.Rg1 で黒の負けとなる。同じ狙い筋は黒の13手目の解説にも出てくる。

12.Qd2 Nxf3+ 13.gxf3 Bxf3

 『チェス新報』第58巻第348局のダニルクの解説によると 13…Be6? は 14.Qh6 Bxd5 15.Kh1! Kh8 16.Rg1 Rg8 17.Rxg8+ Qxg8 18.Rg1 で黒が負ける。

14.Qe3

 ダニルクは 14.h3!? のあと 15.Kh2 から 16.Rg1 と指す方が良いと指摘している。

14…c6 15.Qxf3 cxd5

 ここまではダニルク対リビン戦(ロシア、1993年)で、ここで単に 16.exd5 と指しておけば白が少し優勢(ダニルク)だった。

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2017年05月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(472)

「Chess」2017年2月号(4/4)

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次の一手

中級向け

第15問 H.ナカムラ – V.クラムニク
ロンドン・チェスクラシック、2016年
 黒番で引き分け

解答 1…Nf7!(1…Ke8? は 2.Ke5 Nb7 3.f6 Kf8 4.Kf5 Ke8 5.e7 Kf7 6.Ke5 で黒がどうしようもない手詰まりになり失敗)2.Kg6(白は黒をステイルメイトにするしかない。2.e7+ は 2…Ke8 3.Ke6 Nh6 のあと 4.f6 Nf7 でせき止められるか 4.Kd6 Nxf5+ 5.Kxc6 Nxd4+ で全面的な清算になる)2…Nd8 3.Kf6 Nf7! 4.exf7 ½ – ½

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(この号終わり)

2017年04月28日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(238)

「Chess Life」1999年4月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

対称形布局 4ナイト試合[C49]

 黒番では意欲的に指したくないなら相手の指す手をただまねしてみてはどうか。閉鎖的な布局では急戦よりもゆっくりした駒組みが普通なので魅力的な作戦になることがよくある。しかしこのやり方は 1.e4 に対しては実行が難しい。

 そもそも黒は対称になるように 1…e5 と応じなければならない。さらにその後は比較的開放的な局面になるので白は速攻する機会に恵まれる。これは黒が「自分のこと」をすれば良いというのでなく白の狙いをたえず警戒しなければならないということを意味する。過去100年以上の間黒が比較的長い間白のまねをすることができたまともな布局が一つだけあった。それが4ナイト試合である。本稿では次の手順を用いて最新の定跡の進展を紹介する。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3 Nf6

 両者とも周知の「ビショップよりナイトを先に」という原則に従っていて、ナイトを最もよく働く地点に置いた。定跡および実戦におけるこの局面の重要性は、ぺトロフ防御(2…Nf6)がしばしば現れることによって高まっている。白が主手順(3.Nxe5 と 3.d4)を避けて 3.Nc3 と指した時黒は対称形の 3…Nc6 と指すしかない。

4.Bb5

 本譜の手で4ナイト試合が確定する。この布局は「慎重派のルイロペス」ともみなすことができる。白のeポーンを 3.Nc3 と守ってから初めて白枡ビショップをb5に出してe5の地点を間接的に攻撃した。これは白の圧力の強さがルイロペスよりも劣るということを意味するが、黒もある種の反撃の機会がなくなる。

 4ナイト試合の初期には黒の通常の応手は 4…Bb4 で、白が少しの優勢を保持した。しかし第一次世界大戦の頃にアキバ・ルビンシュタインの 4…Nd4 が白から4ナイト試合の楽しみのほとんどを奪い去った。一流選手たちは白枡ビショップをa4やc4に引くのは好結果をもたらすことができないと即断した。だから白は 5.Nxd4 exd4 6.e5 dxc3 7.exf6 Qxf6! 8.dxc3 Qe5+ 9.Qe2 Qxe2+ 10.Bxe2 と指すよりなく、ほとんど互角になった。

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2017年04月26日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(471)

「Chess」2017年2月号(3/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

 初戦に続き第6回戦の負けはナカムラにとって二度目の打撃だったに違いないが、立ち直りも早く翌日には同じ戦型で雪辱した。

H.ナカムラ – M.バシエ=ラグラーブ
第7回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6 9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4 Bb7

 バシエ=ラグラーブは自分もナカムラもこれまで得意としていた 13…g5?! を避けた。

14.Bg2

 盤上でも通信戦でも色々な手が試されてきた。しかしこの手以外で白が対角斜筋を争うことができるとは信じがたい。

14…Rc8

 誰が黒かを考えればこの手は研究手に違いない。しかしほかの作戦も探求されてきた。

 a)2013ロードスでの欧州クラブ杯のアゴポフ対パリサー戦で私は 14…g5!? と指し、15.f5(15.h4!? は2012年フランス団体選手権戦のナイディッチュ対グリイェフ戦で指されたが、15…gxf4 16.g5 Ne5 17.Qxf4 Nh5 18.Qd2 と進み、ここで黒が 18…Nc4 からナイトを働かせたら優勢だっただろう)15…e5 16.Nb3 Rc8 17.Qe2 h5! 18.h3 Nb6 となり好調だった。

 b)14…d5!? はナイドルフ戦法の狙い筋で、アゴポフ戦の解説で書いたように時間を使って読んだ。ナカムラが指させようとしたのにラグラーブが避けたのは白の研究を警戒したのだろう。しかし2013年通信戦でのシュプレーマン対ロシェ戦では 15.e5(15.exd5 Nxd5 16.Nf5 が必殺のように見えるが実際は 16…Rc8! 17.Nxe7 Kxe7 で黒は大して悪くない)15…Ne4 16.Nxe4 dxe4 17.Qe2 Nc5 18.Kb1 Na4! 19.Be1(19.Bxe4? には 19…Bxa3!)19…O-O 20.h4 Rfd8 で黒がクイーン翼で白に対抗できた。

15.Kb1

 15.h4!? には 15…e5! と突かれ 16.Nf5?! に 16…Bxe4! と来られる。しかし本譜はキングが少し安全になったので今度こそhポーン突きがある。

15…g5

 急所の反発で、2手前よりもはるかに良いタイミングと思われる。

16.Qh3!?

 2016年テプリツェでのカンマザルプ対ソロドブニチェンコ戦では 16.f5? e5 17.Nb3 Nxe4! 18.Nxe4 Qxc2+ 19.Ka2 Bxe4 20.Qxe4 Qxf2 21.Rhf1 Qb6 となって白は2ポーンの代償が十分でなかった。一方 16.h4 はほとんど通信戦の世界でだけ試されてきた。本筋と思われるのは 16…Rg8(16…gxf4 17.g5 Ne5 18.Qxf4 Nfd7 19.Bf3 は盤面を支配している白が少なくとも少し優勢のはずである)17.hxg5(17.fxg5 Ne5 18.Qf4 hxg5 19.hxg5 Nfxg4 20.Bh4 Qd8 21.Nf3 Qb6 22.Nxe5 Nxe5 23.Bf2!? も指されていて、gポーンをくれてやって代わりに黒キングに対し長期に圧力をかける)17…hxg5 18.f5 e5 19.Nb3 で黒が戦術的にうまくいかなくなっていた。2014年通信戦でのモロゾフ対V.ポポフ戦は以下 19…Nxe4? 20.Nxe4 Qxc2+ 21.Ka2 Bxe4 22.Qxe4 Qxf2 23.Rc1 Rxc1 24.Qa8+ Bd8 25.Rxc1 Ke7 26.Rc8 と進み、白の大駒と白枡での攻撃が強力すぎる。しかし 19…a5! 20.Qe2 Bc6 がいくらか改良手順でこれまでのところ黒がだいぶ健闘している。

16…Nc5?

 これはバシエ=ラグラーブが愛用のナイドルフ戦法で研究負けした本大会2度目の不運な新手だった。

 16…Rg8? 17.e5! dxe5 18.fxe5 Nxe5 19.Bg3 Bxg2 20.Qxg2 は黒にとって非常に怖い(E.モスカレンコ対V.ポポフ、通信戦、2013年)。しかし退却気味の 16…Nh7! が通信戦で選ばれた手で、これまでのところ4局全部で引き分けになっている。黒は単にh列から圧力を抜き去り、17.f5(17.e5!? Bxg2 18.Qxg2 gxf4 19.exd6 Bxd6 20.Rhe1 Be5! は列を比較的閉鎖的なままにして黒にとって問題なさそうだし、17.Qxh6?! Bf6 18.Nxe6? fxe6 19.Qg6+ Kd8 20.Bd4 gxf4 は何も恐れるところがない)17…e5 18.Nb3 Nhf6 19.Rhe1 a5 は黒の反撃がちょうどいい時に始まる。

17.Rhe1

 この手はe4のポーンを守り、e4-e5 突きと Nf5 を準備し、17…gxf4 18.g5! Nfd7 19.g6 となることを期待している。

17…h5

18.Nf5!

 ナカムラはやらずにいられなかった。だが 18.fxg5!? Nxg4 19.Bg3 Ne5 20.Rf1 で白駒の陣容を良くする方がはるかに強力だったかもしれない。

18…Ncxe4

 明らかにこれが黒の当てにしていた手だった。黒が危機を脱するわけではないがほかに何があるだろうか。例えば 18…exf5 は 19.exf5 Bxg2(19…Nxg4 20.Bd4 f6 21.fxg5)20.Qxg2 gxf4 21.g5 Rg8 22.Bd4 Kd8 23.Bxc5 Qxc5 24.Qe2 となって、駒の見返りに白の主導権がとてつもなく大きくなり始める。

19.Bxe4 Nxe4 20.Bd4 Rg8 21.Nxe7

 急所の守り駒を取り払い黒の困難さを際立たせた。

21…Kxe7

 黒は 21…hxg4 22.Qxg4 Nxc3+ 23.Bxc3 Qxe7 といきたいところだが 24.Bb4! で具合が悪く 24…Rc6 には 25.h4 と来られる。

23.gxh5 gxf4 24.Qh4+ Kf8 25.Ka1 b4

25.Nxe4

 これでも十分だが 25.h6! の方がはるかに強烈だっただろう。25…bxc3 26.h7 e5 27.hxg8=Q+ Kxg8 28.Qh6 で黒キングの裸が命取りになる。

25…Bxe4 26.Rxe4 Qxc2 27.Ree1

 27.Rde1! bxa3(27…Rg2 28.Rxe6!)28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 なら完全に黒を粉砕していたというのがシリコンのご託宣である。しかしやはりナカムラが全部台無しにしたということではない。

27…bxa3

 27…Rg2 28.Qxf4 e5 という変化は白の駒得が最終的に物を言い 29.Qh6+ Kg8 30.Rc1 Qf5 31.Rxc8+ Qxc8 32.Rc1 Qd7 33.Bf2 bxa3 34.bxa3 となる。

28.Qxf4 axb2+ 29.Bxb2 Rg5!

 バシエ=ラグラーブは手の見えるのが何よりも取り柄である。白がルークを取れば千日手になる。

30.Qxd6+! Kg8 31.Rg1 Qa4+ 32.Ba3

 32.Kb1!? Qc2+ 33.Ka2 Qa4+ 34.Qa3 Qxa3+ 35.Kxa3(白がクイーンをa3に引き戻す前にキングを移動させたのはこのためだった)が強手だった。

32…Rxg1?

 白を勝たせてしまった、それも格好良く。32…Kh7! 33.Rxg5 Rd8 ならまだ戦いが続いただろう。またしても黒クイーンはタブーで、代わりに 34.Rg7+! Kh6 35.Rd4 Qxd4+ 36.Qxd4 Rxd4 37.Rxf7 Kxh5 38.Bb2 なら白の勝勢のはずだが、技術的に難しい課題が少し残っていることも明らかである。

33.Rxg1+ Kh7 34.Qd3+ Kh6 35.Rg6+! Kxh5 36.Rg1 f5 37.Qf3+ 1-0

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(この号続く)

2017年04月21日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(237)

「Chess Life」1999年2月号(3/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

アリョーヒン防御 4…g6 戦法 [B04]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第13局、1972年

1.e4 Nf6 2.e5 Nd5 3.d4 d6 4.Nf3

 この番勝負までフィッシャーはアリョーヒン防御を5回(1970年パルマ・デ・マヨルカ・インターゾーナルでの3回を含む)採用していたが、相手はいつも世界級の棋力よりずっと下だった。スパスキーにとってこの防御のために特に準備する特別な理由はなかった。

 4ポーン攻撃(4.c4 Nb6 5.f4)はアリョーヒン防御を「咎め」ようとする昔からの手法だったが、特段の成果がなかった。だから1972年当時はすでに本譜の手が現代式の手法になっていた。白は少し陣地が広いので指しやすくなり、黒にはこれといった反撃の糸口を与えない。

4…g6

 フィッシャーは既にこの二流の戦型をブラウン対フィッシャー戦(ロビニ/ザグレブ)で用いていて、大激戦の末98手で引き分けに持ち込んだ。本局でも意図した効果がいかんなく発揮された。スパスキーは対策を用意しておらず意表を突かれた。次のアリョーヒン防御(第19局)ではフィッシャーは通常の 4…Bg4 に戻った。

5.Bc4 Nb6 6.Bb3 Bg7 7.Nbd2?!

 黒の6手目の局面は1972年当時はそれほど分析されていなかった。それでも実戦のぎこちない手はスパスキーも気にいっていないはずだった。現代の布局定跡によると白の最も効果的な手法は、まず 7.a4 a5 と突き合ってから 8.Qe2 で作戦の用意をするか 8.Ng5 ですぐに作戦を始めるかである。

7…O-O 8.h3?!

 白の前手の唯一理にかなった点は、黒の …Bg4 に白が h2-h3 と突きf3で切ってきた時にナイトで取り返すことである。だから本譜の手は 7.Nbd2 の意図を否定している。通常の 8.O-O が適切だった。

8…a5! 9.a4?!

 黒はキング翼の展開を完了したあと、白のキング翼ビショップの位置につけ込もうとしてクイーン翼で動き出した。スパスキーの「手拍子」の応手でaポーンが弱点になった。代わりに 9.c3、9.a3 あるいはたぶん 9.Nc4 でもまだましだった。

9…dxe5 10.dxe5 Na6! 11.O-O Nc5 12.Qe2 Qe8

 この手に 13.Qb5? は 13…Qxb5 14.axb5 Bf5 から 15…a4 で受けにならないので、白はaポーンを取られるのを避けられない。

13.Ne4 Nbxa4 14.Bxa4 Nxa4 15.Re1 Nb6 16.Bd2 a4 17.Bg5 h6 18.Bh4

 白は完全に1ポーン損になっている。白の希望は黒陣に食い込んでいるeポーンのせいで中央が少し広い優位が将来のキング翼攻撃の根幹を成すことである。黒が断固とした指し方を続けていけば、白のチャンスはほんのわずかだと思う。18…Bd7 や 18…Be6 が良さそうである。残念ながら第7局のようにフィッシャーの指し方は真剣さが足りなかった。その結果としてこの番勝負の最長手数となり波乱万丈の内容となった。スパスキーが69手目でポカを出したので黒がようやく勝った。完全な解説は『チェス新報』第14巻第165局か数ある対局集のどれかを読んで欲しい。残りの指し手を解説記号付きで掲げる。

18…Bf5?! 19.g4!? Be6?! 20.Nd4 Bc4 21.Qd2 Qd7 22.Rad1 Rfe8 23.f4 Bd5 24.Nc5 Qc8 25.Qc3? e6 26.Kh2 Nd7 27.Nd3 c5 28.Nb5 Qc6 29.Nd6 Qxd6 30.exd6 Bxc3 31.bxc3 f6 32.g5 hxg5?! 33.fxg5 f5 34.Bg3 Kf7?! 35.Ne5+ Nxe5 36.Bxe5 b5 37.Rf1 Rh8?! 38.Bf6! a3 39.Rf4 a2 40.c4 Bxc4 41.d7 Bd5 42.Kg3 Ra3+ 43.c3 Rha8 44.Rh4 e5! 45.Rh7+ Ke6 46.Re7+ Kd6 47.Rxe5 Rxc3+ 48.Kf2 Rc2+ 49.Ke1 Kxd7 50.Rexd5+ Kc6 51.Rd6+ Kb7 52.Rd7+ Ka6 53.R7d2 Rxd2 54.Kxd2 b4 55.h4! Kb5 56.h5 c4 57.Ra1 gxh5 58.g6 h4 59.g7 h3 60.Be7! Rg8 61.Bf8 h2 62.Kc2 Kc6 63.Rd1! b3+ 64.Kc3 h1=Q! 65.Rxh1 Kd5 66.Kb2 f4 67.Rd1+ Ke4 68.Rc1 Kd3 69.Rd1+?? Ke2 70.Rc1 f3 71.Bc5 Rxg7 72.Rxc4 Rd7! 73.Re4+ Kf1 74.Bd4 f2 白投了

 結論 アリョーヒン防御の 4…g6 戦法は今でも通用する。

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2017年04月19日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(470)

「Chess」2017年2月号(2/4)

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ロンドン・チェスクラシック(続き)

F.カルアナ – H.ナカムラ
第6回戦、シチリア防御ナイドルフ戦法

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 h6 8.Bh4 Qb6

 遅延毒入りポーン戦法は相変わらず 6.Bg5 の試金石となっている。b2を間接的に守るカルアナの応手は最高峰のレベルでは普通の選択である[訳注 9.a3 Qxb2?? 10.Na4]。

9.a3 Be7 10.Bf2 Qc7 11.Qf3 Nbd7 12.O-O-O b5 13.g4

13…g5?!

 このような局面ではよくある着想で、白のキング翼のポーンの形を破壊しe5の地点の支配をもくろんでいる。しかしここでの黒陣には荷が重すぎたかもしれない。代わりの手は 13…Bb7 だが、次の回戦のナカムラ対バシエ=ラグラーブ戦で分かるようにそれでも黒にとってほとんど安泰とはいかない。

14.h4 gxf4 15.Be2 b4!?

 新手だが、互角にするのに十分というわけではない。代わりに 15…Rg8 は2016年スタバンゲルでのギリ対バシエ=ラグラーブ戦の手で、本誌2016年6月号の12ページに出ているように 16.g5! hxg5 17.hxg5 Rxg5 18.Rh8+ Rg8 19.Rxg8+ Nxg8 20.Qg2 Ngf6 21.e5! が 21…Bb7 22.Nxe6! の一発に基づいたきわめて危険な手だった。

16.axb4 Ne5 17.Qxf4 Nexg4 18.Bxg4 e5

 これが黒の読み筋だった。しかしカルアナは次の手をかなり速く指した。彼はあとで 21.Nf5 から先の局面は見えていたが、これまで見た黒の「最も惨めな局面」の一つなのであまり読んでいなかったと明かした。

19.Qxf6!! Bxf6 20.Nd5 Qd8 21.Nf5

 オーレ!チェスエンジンはこの手の強力さが分かるのにしばらく時間がかかるかもしれないが、クイーンの犠牲はこの上ない強手だった。白のナイトが盤の中央を支配し、黒キングはどこへ隠れるのだろうか。

21…Rb8?

 黒は白ナイトの一つを消しておかなければならなかった。21…Bxf5 22.Bxf5 Rb8 で黒は陣形が悪くてもまだまだ戦える。

22.Nxf6+ Qxf6 23.Rxd6

 悪い手ではないが白はここできれいな勝ちを逃していた。23.Nxd6+ Kf8 24.Bf5!! この軽妙手でf列が長く閉鎖されたままになるので、白がf列を支配し黒を完全に受け無しにする。例えば 24…Rg8(24…Bxf5 なら 25.Nxf5 Rd8 26.Rxd8+ Qxd8 27.Bc5+ Ke8 28.Ng7+ Kd7 29.Rd1+

と単純化して白勝ちの收局になる)25.Bc5 Be6 26.Rhf1 Kg7 27.Bxe6 Qxe6 28.Nf5+ Kh7 29.Rd6

でh6へのX線が決め手になる。

23…Be6 24.Rhd1

 カルアナは中央志向の方針を信頼した。しかし 24.Be3!? で 24…h5 25.Bg5 Qg6 26.Rhd1 から詰みを狙った方がずっと強力だったかもしれない。

24…O-O 25.h5!

 黒キングはg8にいてさえ安全とはほど遠い。白のこの手は誰が黒枡の支配者かを黒に思い起こさせている。

25…Qg5+?

 黒はg4のビショップを取るわけにいかないのでこの手はやけくその感じがする。しかしそうは言ってもマシンのように 25…Rfe8! 26.Bh4 Qh5 と卑屈に指すことのできる人間がどれだけいるだろうか。

26.Be3 Qf6 27.Nxh6+ Kh8 28.Bf5

 ここで初めてビショップがf列を閉鎖した。28.Nxf7+ Rxf7 29.Rxe6 も相当強力だっただろう。

28…Qe7? 29.b5?!

 カルアナはこの手に 29…axb5 と取ってくればその時こそf7に切り込むつもりだったに違いない。しかしすぐに 29.Nxf7+! Qxf7 30.Rxe6 Qxh5 31.Rh6+ Qxh6 32.Bxh6 とやっていけば2ビショップがとてつもなく強いので、なぜこう指さなかったのか不可解である。

29…Qe8?!

30.Nxf7+!

 ついにやった。30…Bxf7 と取ると 31.Rh6+ Kg8 32.Rg1+ で黒キングがたちまち処刑される。

30…Rxf7 31.Rxe6 Qxb5 32.Rh6+ 1-0

 32…Kg8 33.Rg1+ Rg7 34.Be6+ Kf8 35.Rh8+ Ke7 36.Rxg7 Kxe6 37.Rh6# で一巻の終わりである。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2017年04月14日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(236)

「Chess Life」1999年2月号(2/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局(続き)

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第11局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2 9.Nb3 Qa3 10.Bxf6! gxf6 11.Be2!

 白の10手目と11手目は局面に対する主眼の正しい手段である。fポーンを二重にさせることにより黒のキング翼に根本的な弱点を生じさせ、キング翼ビショップはh5に行ってf7の地点に狙いをつける用意をしている。これらの要素に白の展開の優位(展開している小駒が白の3個に対し黒は無し)が加わって白には犠牲にしたポーンの代償が楽々とある。

11…h5

 すぐに白のキング翼ビショップをh5の地点に来させないようにするのは要を得ている。しかし 11…Nc6 と展開するのも同じくらい良い手である。重要な実戦例はショート対カスパロフ戦(世界選手権戦第4局、1993年)で、12.O-O Bd7 13.Kh1 h5 14.Nd1 Rc8 15.Ne3 Qb4 16.c3 Qxe4 17.Bd3 Qa4 18.Nc4 Rc7 19.Nb6 Qa3 と進み、ここでカスパロフは実戦の 20.Rae1?! の代わりに 20.Qe3 Ne7 21.Nc4 Nd5 22.Qa7 の方が良く「代償があった」と指摘した。もちろん白は 20.Nc4 Qa4 21.Nb6 と指せば引き分けにもできる。

12.O-O Nc6

 黒はショート対カスパロフ戦(リガ、1995年)のように 12…Nd7 と指してもよく、13.Kh1 h4 14.h3 Be7 15.Rad1 b6 16.Qe3 Bb7 17.f5 Rc8 18.fxe6 fxe6 19.Bg4 Qb2! 20.Rd3 f5! 21.Rb1 Qxb1+ 22.Nxb1 fxg4 23.hxg4 と進んで混戦ながらいい勝負だろう。

13.Kh1 Bd7 14.Nb1!

14…Qb4?!

 後に 14…Qb2! が良く白は 15.Nc3 と手を戻すよりないと結論づけられた。それなら黒は 15…Qa3! と引き白にまた態度を決めさせる。勝つために最も有望なのは 16.Qe3 である。タリ対ブラウン戦(レニングラード・インターゾーナル、1973年)で白はすぐに 14.Qe3 と指した。このねじり合いの局面はいい勝負である。紆余曲折を経てその試合は43手目で引き分けに終わった。

15.Qe3 d5?

 黒はクイーンが困難に陥っていると認識していた。しかし実戦の手はうまくいかず黒は盤上至る所で弱点を抱えてそれに対する見返りがなかった。ここでは 15…Ne7 と指さなければならなかった。

16.exd5 Ne7 17.c4 Nf5 18.Qd3 h4 19.Bg4!

 これで見え見えの …Ng3+ が防がれ、黒陣は風前の灯火である。試合は次のように終わった。

19…Nd6 20.N1d2 f5?! 21.a3 Qb6? 22.c5 Qb5 23.Qc3 fxg4?! 24.a4 h3?! 25.axb5 hxg2+ 26.Kxg2 Rh3 27.Qf6 Nf5 28.c6 Bc8 29.dxe6 fxe6 30.Rfe1 Be7 31.Rxe6 黒投了

 結論 野心的なフィッシャー毒入りポーン戦法は現在でも通用し、9.Nb3 の変化に対する彼の手法も同様である。

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2017年04月12日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(469)

「Chess」2017年2月号(1/4)

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ロンドン・チェスクラシック

H.ナカムラ – W.ソー
第1回戦、グリューンフェルト防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3

 グリューンフェルト防御はナカムラにとって意外だったかもしれない。しかし黒が引き分けでも大満足な時にわざわざクイーン翼ギャンビット拒否を指さなければならない理由は何もない。おまけにグリューンフェルト防御は昔からソーの得意戦法の一つだった。そしてベイクアーンゼーではエリヤノフ相手に、「究極の手」コンテストでは当のナカムラ相手に連採していた。2016年セントルイスでのナカムラ対ソー戦(ブリッツ)でははるかに激しい戦型になり 3.f3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nb6 6.Nc3 Bg7 7.Be3 O-O 8.Qd2 Nc6 9.O-O-O Qd6 10.Nb5 Qd7 11.Kb1 Rd8 12.d5 a6 13.Nc3 Qe8 14.Qc1 Na5 15.h4 と進んで、既に白が突撃ラッパを吹き鳴らし勝ちきった。

3…d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3 c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2

 アナトリー・カルポフは白番で中央を完全に支配したままにするこのようなシステムを好んでいた。ここで黒の一番よく指される手は 9…Qa5 で、クイーン同士の交換になるかもしれない。しかしソーの好んだはるかに一般的でない手は、時にアーナンド、スビドレル、それにバシエ=ラグラーブによって用いられた変化でもあった。

9…e5!? 10.d5

 ここは勝負所のような感じだが、ナカムラは結構早く指した。2016年ビールでのスビドレル対バシエ=ラグラーブ戦(快速)では 10.dxe5 Qxd2+ 11.Kxd2 Rd8+ 12.Kc2 Bd7 13.f4 Bc6 と進み 14.Bd3?? には 14…Ba4+! があるので黒がポーンを取り返すことができた。

10…Nd7 11.c4!?

 この手は新手だが、生中継の観戦者たちはまだ両者の研究範囲なのかと疑っていた。以前は 11.Bd3 f5 12.Bg5 Nf6 13.c4 が指されていたが、ストゥパク対ライロ戦(スービック湾、2016年)では 13…fxe4 14.Bc2 Bf5 15.Ne2 h6 16.Be3 Ng4! 17.h3 Nxe3 18.Qxe3 Bf6 と進んで黒には何の問題もなかった。

11…f5 12.Bg5 Nf6

 黒の直前の2手は筋道立った手で、白は 13.Bd3 と指してストゥパク対ライロ戦に戻るしかないように思われる。しかしナカムラはまだ早指しを続けていて、早すぎるほどだった。

13.Ne2?? Nxe4!

 これは初歩的な手筋で、ナカムラはいったい何を見損じたのだろうか。明らかなことは彼の研究に穴があったに違いないということだけである。

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1 b6 18.Bb4 Ba6

 白はなんとかポーンを取り返した。しかし朗報はここまでである。黒は双ビショップを保持し、陣形的に優り、それにキングがはるかに安全である。最高峰のチェスでは試合はもうほとんど終わっていて、あとはナカムラの味わったに違いない苦悩を想像することができるだけである。

19.f4 Rc8

 白の最大の弱点であるc4に目をつけているが、20.c5 と突いてくれば 20…Rd7 21.d6 bxc5 22.Rxc5 Re8 と強引にe列に転じる用意がある。

20.fxe5 Bxe5 21.Rf3 Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4

 白は突破口を見出そうとしているが、自陣が撃破された。

23…Rd7 24.a4 Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8! 29.Bb4 Re8 0-1

 確かに異色ビショップなのだが、長くは続かない。だから早すぎる投了でなかったのは確かだ。30.Rxe8+ Kxe8 のあと 31.Bd2 でビショップ交換の3ポーン損の收局になるのを避けることができる。しかし 31…Re4+ 32.Kf2 Re2+ で結局ビショップ同士がなくなる。


ヒカル・ナカムラは同国の2選手に手痛い敗北を喫したが、それでも立派な’+1’で終えた

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(この号続く)

2017年04月07日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(235)

「Chess Life」1999年2月号(1/3)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

時の試練-ボビー・フィッシャーの布局

 本誌1998年4月号では1972年フィッシャー対スパスキーの世界選手権戦の布局を回顧する手始めとして、1.d4 に対するフィッシャーの黒番の4局を取り上げた。今回は 1.e4 に対するフィッシャーの黒番の最初の3局を取り上げることにする。

 本稿の私の目的は二つある。一つは世界チャンピオン25周年のフィッシャーを祝福することで、もう一つはあの時以来布局に起こった重要な進展を示すことである。あの番勝負の布局すべてについて随時取上げていくようにしたい。

シチリア防御ナイドルフ戦法 [B97]
白 GMボリス・スパスキー
黒 GMボビー・フィッシャー
レイキャビク、番勝負第7局、1972年

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6

 この戦法はポーンが毒入りでもないのにどういうわけか「毒入りポーン」戦法と名付けられている。黒の最も野心的で危険な選択肢で、2、3手もの手数をかけてbポーンを取りに行く。この手を世に知らしめたのはフィッシャーなので、少なくとも「フィッシャーの毒入りポーン」戦法と呼んでしかるべきである。

8.Qd2

 スパスキーは白番の第3局と第5局で負けたので早く雪辱したかった。彼がシチリア防御ナイドルフ戦法全般と特にこの戦法を研究してきたに違いないことは疑いない。危険性の少ない応手を望む者は 8.Nb3 と指すことができ、本誌1996年6月号の本稿で解説した。

8…Qxb2 9.Nb3

 本局以前でも現在でも主手順の戦型は 9.Rb1 から始まる。全般的な構想は白駒に包囲されている黒クイーンの位置につけ込むことである。すぐの狙いとしては 10.a3 から 11.Ra2 がある。

9…Qa3! 10.Bd3

 このビショップにとってはうれしい地点でなく、ここからはほとんどすることがないしd列での見通しもなくなっている。スパスキーは第11局で正しい手段を見つけた。それについては次局で取り上げる。

10…Be7!

 以前の 10…Nbd7 と比べてこの新手は重要である。ビショップが展開したので黒キングの安全性が増している。

11.O-O h6! 12.Bh4?!

 フィッシャーはこの型にはまったビショップ引きについてよく研究していた。後にタリ対ザイド戦(ソ連、1973年)で攻撃の巨匠は 12.Bxf6 Bxf6 13.e5! dxe5 14.Ne4 Nd7 15.f5! exf5 16.Rxf5 Be7! 17.Bc4 Nf6 18.Rxe5 と指して十分な代償を得た(しかしそれを超えることはなかった!)。

12…Nxe4 13.Nxe4 Bxh4 14.f5

 この手と少し先の手までは変化の余地がある。しかしグランドマスターたちは本局以降それらの変化を使わなかったので、あまり有望でないと判断されているのだろう。

14…exf5! 15.Bb5+?! axb5 16.Nxd6+ Kf8!

 16…Ke7?? は 17.Nxb5 Qa6 18.Qb4+ で敗勢になる[訳注 18…Kf6 で互角のようです]。

17.Nxc8 Nc6 18.Nd6

 18.Qd7 も白にとって満足できない。18…g6! 19.Qxb7 Qa6! 20.Qxa6 Rxa6 から 21…Kg7 で黒勝勢の收局になる。

18…Rd8

 黒は戦力得を固める用意をした。しかし不均衡な局面では細心の注意を払わなければ勝ちに持っていけない。フィッシャーの指し手は安易に流れて、スパスキーはかろうじて引き分けに逃れることができた。詳しい解説は『チェス新報』第14巻第502局やこの世界選手権戦についての多くの良書を参照して欲しい。

19.Nxb5 Qe7 20.Qf4 g6 21.a4 Bg5?! 22.Qc4 Be3+ 23.Kh1 f4 24.g3 g5 25.Rae1 Qb4 26.Qxb4+ Nxb4 27.Re2 Kg7 28.Na5 b6 29.Nc4 Nd5 30.Ncd6 Bc5?! 31.Nb7 Rc8? 32.c4! Ne3 33.Rf3 Nxc4 34.gxf4 g4 35.Rd3 h5 36.h3! Na5 37.N7d6 Bxd6 38.Nxd6 Rc1+ 39.Kg2 Nc4 40.Ne8+ Kg6 41.h4! f6 42.Re6 Rc2+ 43.Kg1 Kf5?! 44.Ng7+ Kxf4 45.Rd4+ Kg3 46.Nf5+ Kf3 47.Ree4 Rc1+ 48.Kh2 Rc2+ 49.Kg1 引き分け

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2017年04月05日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(468)

「British Chess Magazine」2017年2月号(1/1)

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ロンドン・チェスクラシック

ヒカル・ナカムラ – ウェズリー・ソー
第8回ロンドン・チェスクラシック、第1回戦、2016年

 大会初戦でナカムラはグランドチェストーナメント総合優勝を争うソーとの重要な対局に臨んだ。しかし自分の研究手順を忘れてなすところなく負けた。

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 7.Be3

 グリューンフェルト防御は最高峰レベルでは人気がある。

7…c5 8.Rc1 O-O 9.Qd2 e5 10.d5 Nd7 11.c4 f5 12.Bg5 Nf6

 最高峰レベルでは研究は奥深くまで行われている。この局面は前例がないにもかかわらず両対局者の研究範囲だった。

13.Ne2??

 13.Bd3 がナカムラの意図だったはずで、形勢は白がわずかに良いだろう。

13…Nxe4

 簡単な手筋だ!

14.Bxd8 Nxd2 15.Be7 Rf7 16.Bxc5 Nxf1 17.Rxf1

 戦力的には互角だが形勢は黒の方がずっと良い。黒には双ビショップがあり白キングは中央列で立ち往生している。さらには白の中央ポーンは弱い。

17…b6 18.Bb4 Ba6 19.f4 Rc8 20.fxe5 Bxe5

 ソーは単純に指しているだけで、白のc4ポーンが困ったことになっている。

21.Rf3

 代わりに 21.c5 は白キングが危うすぎる。白の問題は次の想定手順に表れる。21…bxc5 22.Rxc5 Re8 23.Rc2 Rc7 白は駒の連係がとれず黒が完全に勝勢である 24.Rd2(24.Rxc7 Bxc7 25.Rf2 Bb6)24…Rc4 25.a3 Bxh2 26.Kd1 Bb5 27.Rf3 Bf4

28.Rxf4(28.Rb2 Rxe2 29.Kxe2[29.Rxe2 Rc1#]29…Rc2+ 30.Ke1 Rc1+ Kf2 Rf1#)28…Ba4+ 29.Ke1 Rxf4

黒が交換得のうえに1ポーン得である。

21…Bxc4 22.Re3 Bg7 23.Nf4 Rd7

 ソーはdポーンに狙いをつけた。

24.a4

 24.d6 Bd4 25.Re7(25.Re2 Kf7 26.Nd5 Bxe2 27.Rxc8 Ba6 28.Rc7 Rxc7 29.dxc7 Be5

cポーンがいずれからめ取られるので同じ運命になりそうである)25…Rxe7+ 26.dxe7 Kf7 27.Rd1 Bf6

黒はeポーンをゆっくりからめ取ることができる。

24…Bh6 25.g3 Bxf4 26.gxf4 Rxd5 27.Re7 Rd4 28.Bd2 Kf8 29.Bb4 Re8 0-1

 2ポーン損でナカムラは投げ時だと判断した。ソーは才能あふれる相手に一方的に勝った。

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(この号終わり)

2017年03月31日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(234)

「Chess Life」1998年12月号(5/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

B)2…c6 D10~D19

 スラブ防御はこの手から始まるが、定跡として大いに理にかなっている。つまりクイーン翼ビショップを閉じ込めることなくd5の地点を守っている。残念ながらこの状況は主手順に見られるように一時的である。

3.Nf3 Nf6 4.Nc3 D15-D19

 この手に対して 4…Bf5?! は 5.cxd5! cxd5 6.Qb3! と応じられて、bポーンを守る正しい手段は 6…Bc8 しかなく、白が 7.Bf4 でかなり優勢の展開になる。もちろん 4…e6 なら定跡で何の問題もないが、2…c6 の意図(クイーン翼ビショップの斜筋をふさがない)はなくなる。キング翼ビショップを展開する必要があるので黒は 4…g6 から 5…Bg7 を選択してもよく、いくらか活気のないグリューンフェルト型の局面になる。だから「純正」スラブを保つためには黒は中央を放棄しなければならない。

4…dxc4 5.a4

 これが楽にポーンを取り返す唯一の手段で、主手順の戦型になる。これに対して黒が普通に展開するなら 5…Bf5?! だが白は 6.e3 または 6.Ne5 と指しどちらも少し優勢の布局になる。

 これらのどの戦型でも白のクイーン翼ビショップの迅速な展開は重要でないので、白は早く e2-e3 と突くことにより何か得することができるのだろか?二つの重要な状況を考えてみよう。

3.Nc3 Nf6 4.e3! D10

 これに対して 4…Bf5?! はやはりまずい。というのは 5.cxd5! と取られると 5…cxd5(もちろん 5…Nxd5 と取ることもできるが 2…c6 の意図を無視している)6.Qb3 となって黒は 6…Bc8 と引かなければならず 7.Nf3 で白が好調である。

 だから白は本譜の手で黒がスラブの手を指すのを妨害したことになる。そして黒は 4…e6 または 4…g6 の戦型で満足しなければならない。代わりに黒は途中で 3…Nf6 を延期して 3…e5、3…e6 それに 3…dxc4 のようなそれほど探求されていないシステムを選択することができる。しかし私にはそれらが100%本筋かについてためらいがある。

3.Nf3 Nf6 4.e3 D12

 この戦型はキング翼ナイトを1手目または2手目で展開してもよいので実戦的に重要である。しかしf3のナイトはd5の地点に何も圧力をかけていないので、黒はスラブの作戦を完遂することができる。

4…Bf5! 5.cxd5 cxd5 6.Qb3

 これが眼目の局面である。黒は 5.Nc3 e6 でも 5.Bd3 Bxd3 6.Qxd3 e6 でもほとんど苦労なく互角になる。

 ここからはドレエフ対バレエフ戦(ベイクアーンゼー、1995年、番勝負第2局)の手順を追う。

6…Qc7! 7.Bd2 Nc6 8.Bb5 e6 9.Bb4 Bd6 10.Qa3 Ke7! 11.Bxc6 bxc6 12.Nc3 Rhb8 13.Bxd6+ Qxd6 14.Qxd6+ Kxd6

 收局はほぼ互角のいい勝負である。両対局者はやる気満々で、戦いを続けた。バレエフは本局を『チェス新報』第62巻第407局でで詳しく解説している。

15.Na4 Nd7 16.b3 f6 17.Kd2 a5 18.Rhc1 Nb6 19.Nc5 e5 20.Ne1 Nd7 21.Ned3 Bxd3 22.Kxd3 Nxc5+ 23.Rxc5 a4 24.Rac1 Ra6 25.bxa4 Rb2 26.R1c2 Rxc2 27.Rxc2 Rxa4 28.Kc3 exd4+ 29.exd4 Ra3+ 30.Kd2 g5 31.Kc1 g4 32.Rd2 f5 33.Kb2 Ra6 34.Rd3 Ra7 35.Ra3 Re7 36.Re3 Re4 37.Kc3 c5 38.dxc5+ Kxc5 39.Kd2 Rd4+ 40.Rd3 Ra4 41.Rc3+ Kd4 引き分け

 白がクイーン翼ビショップを閉じ込めるのが意味を成すのはどんな時か?黒の通常どおりクイーン翼ビショップを早く展開するのを妨げることができるなら、白の早い e2-e3 突きは有効な手となる。

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2017年03月29日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(467)

「Chess」2016年12月号(2/2)

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グランドマスター・ブリッツ勝ち抜き選手権戦

H.ナカムラ – M.カールセン
ブリッツ(5分+3秒)第3局、クイーン翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 b6 4.g3 Ba6 5.Qc2 Bb7 6.Bg2 Bb4+ 7.Bd2 a5 8.O-O O-O 9.a3 Bxd2 10.Nbxd2 d5 11.cxd5 exd5 12.Ne5 Na6 13.Nd3 Qe7 14.e3 c5 15.dxc5 Nxc5 16.Nxc5 bxc5 17.Rac1 Rfc8 18.Rfd1 h6 19.Qf5 a4 20.Rc2 Bc6 21.Rdc1 Bd7

 ここで 22.Qd3 なら何事もなかっただろう。しかし本局が最後ではなかったがクイーンがポカで失われた。

22.Qf4?? g5 0-1

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(この号終わり)

2017年03月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(233)

「Chess Life」1998年12月号(4/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6 5.e3 Nbd7

6.Qc2 D46

 1990年代初めからアナトリー・カルポフが駆使したおかげでこの手が白の最もよく指される戦型になった。その着想はいたって簡単である。6…dxc4 からの難解な手順はここでは 7.Bxc4 が手損にならないので防がれている。その一方白クイーンの展開は役に立っている。結果として白はやや優勢の危険性のない状況で始動している。

 ここからはクラムニク対ピケット戦(ベイクアーンゼー、1998年)を追う。

6…Bd6 7.Bd3 O-O 8.O-O dxc4

 黒は中央で何らかの決まりをつける必要がある。さもないと白が適時の e3-e4 突きで好き勝手にふるまえる。一流の選手は 8…e5 9.cxd5 の黒の局面を信頼していない。

9.Bxc4 a6

 このaポーン突きはここ2年でほかの作戦をすべてかげらせた。黒はクイーン翼で陣地を拡張する用意をしながら、中央での最終的な仕掛け(…e6-e5 または …c6-c5)を白には秘密にしている。

10.Rd1 b5 11.Be2 Qc7 12.Ne4

 カルポフ対クラムニクの快速戦(モナコ、1998年)で白は中央に目を向けて 12.e4 と突き、12…e5 13.g3 Re8 14.a3 Bb7 15.dxe5 Nxe5 16.Bg5 Nxf3+ 17.Bxf3 Be5 18.Bxf6! で少し優勢になった。クラムニクはここで 18…Bxf6 に 19.Nd5! があるので 18…gxf6 と取ったがそれでも 19.Bg4! で白がわずかな優勢を保持した。

12…Nxe4 13.Qxe4 e5 14.Qh4 h6?!

 ピケットは 14…Re8 に新手を指されるのを恐れたようだった(カルポフ対アーナンド、FIDE世界選手権戦第5局、ローザンヌ、1998年)。しかし 15.Bd3 h6 16.Bc2 に 16…Be7! 17.Qg3 Bd6! で黒が簡単に互角にできる。

15.Bd2! Re8?

 黒は 15…exd4 と取らなければいけなかった。

16.dxe5 Nxe5 17.Ba5!

 前局とちょうど同じように展開に優る白がかなり優勢になった。クラムニクは決してその優勢を手放さなかった。『チェス新報』第71巻第466局のクラムニクの詳細な解説からいくつか形勢記号を拾うことにする。

17…Qb8 18.Rac1 Be6 19.Nxe5 Bxe5 20.Rxc6 Bxb2 21.Bc7! Qb7 22.Bf3 Rac8 23.Qb4 Be5 24.Rcc1 Qxc7 25.Rxc7 Rxc7 26.Qa5 Rc2 27.Qxa6 Rb8 28.Be4 Rc4! 29.Bd3 Ra4?! 30.Qc6 g6?! 31.f4 Bf6 32.f5! gxf5 33.Bxf5 Bxf5 34.Qxf6 Bg6 35.Rd2 Re4 36.h3 Rbe8 37.Qb6 b4 38.Rd4 Rxe3 39.Qxb4 h5 40.a4 Re1+ 41.Kh2 Ra1 42.Qb2 Rb1 43.Qa3 Kh7 44.a5 Ree1 45.Qf8 Rh1+ 46.Kg3 Rb5 47.Rd8 Rg5+ 48.Kf2 黒投了

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2017年03月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(466)

「Chess」2016年12月号(1/2)

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マン島国際チェス大会

解説 ベンジャミン・ボク

H.ナカムラ – B.ボク
第5回戦、キング翼インディアン防御

1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.f3

 この f3 システムをナカムラは誰あろうカスパロフに対してさえ指している!

3…e6 4.e4 c5 5.d5 d6 6.Ne2 Bg7 7.Nec3

 白は Nb1-c3 と指していなかったのでこんな手で変化することもできる。

7…a6 8.a4

8…Nh5

 8…exd5?! は手順が悪く、9.cxd5 Nh5 に 10.g4! と突く手があり 10…Qh4+ 11.Kd2 Ng3 12.hxg3 Qxh1 13.Bb5+ で白の勝ちになる。実戦はポーンがまだc4にいるので成立しない。

9.Be3

 9.g4? にはもう見たように 9…Qh4+ 10.Kd2 Ng3 の強手がある。

9…exd5 10.cxd5 f5 11.exf5 gxf5

12.Qd2

 ここでちょっと奇妙なことが起こった。私が考えている間にナカムラが戻ってきて棋譜に 12…O-O と書き自分のビショップをつかみe2に動かしたとたんにまだ私の手番であることに気づいた!私は審判のところに行ってことを大げさにするようなことはしないことにした。しかし少なくとも 12…O-O のあとの彼の意図は分かった。

 本譜の手の代わりに 12.Be2 は 12…O-O 13.O-O のあと 13…Re8 14.Bf2(14.Qd2?? は 14…Rxe3 で黒の勝ち)14…Qg5 に対処する適当な手段が白にない。

12…O-O 13.Be2

 予想どおり。

13…Nd7

 私は単に駒を展開することにした。

14.O-O f4

 14…Ne5 は 15.Bg5 がちょっと煩わしい。15…Qe8 に 16.f4 があってクイーンをg列に持っていくのがより困難になるからである。

15.Bf2

15…Qg5

 こう指すと g4 と突かれるのは分かっていたが、白キングがまったく弱くなりきわめて危なっかしいと考えていた。

 15…Ne5 と指すこともできたが、やはり 16.Ne4 で私のクイーンがg6に行けず 16…Bf5 17.Nbc3 で白が少し優勢かもしれない。

16.g4

 16.Ne4 は 16…Qg6 17.Nbc3(17.Bh4 には 17…Ne5 18.Be7 Bh3)17…Ne5 18.Kh1 Bf5 と進む公算が大きい。黒は好調で …Rae8 または …Bh6 で圧力を強めるかもしれず …Ng3+ の狙いも出てくる。

16…Ne5 17.Kh1 Nf6 18.Rg1

18…Qg6!

 この手が指せてまったくほっとした。いろいろな捨て駒が視野に入っている。

 最初は 18…h5 と指すつもりで、19.h4 Qg6 20.g5 Qf5 21.Rg2 Nfg4! 22.fxg4 hxg4 を想定していた。白は押しつぶされてしまうだろう。しかし 19.gxh5 と取られると 19…Qxh5 20.Qxf4 Ne8 21.Qh4 Qxh4 22.Bxh4 Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Nd2 となって黒は問題ないのだが白の主導権は厄介ものである。

19.Bh4!

 黒の捨て駒に備えて 19.Qd1 と指すと予想していたが、それでも黒は 19…Nfxg4! と切り込むことができるようで 20.fxg4 f3 21.Bf1 Nxg4 で勝勢である。例えば 22.Bg3 なら 22…f2 23.Rg2 Ne3 でよい。

 また、19.Na3 なら 19…Bxg4! が黒の読み筋で、20.fxg4 Ne4 21.Qe1 Nxc3 22.bxc3 Qe4+ 23.Rg2 f3 で黒の勝ちになる。

19…h5

 最初は 19…Bxg4 と取りたくてたまらなかった。20.Qd1(20.Bxf6 なら 20…Bxf3+ 21.Bxf3 Qxg1+ 22.Kxg1 Nxf3+ 23.Kf2 Nxd2 24.Bxg7 Nxb1 25.Bxf8 Nxc3 26.bxc3 Kxf8 27.Kf3 となるが、これでも白はたぶん持ちこたえることができるだろう)20…Qh5 21.Bxf6 Nxf3 22.Rg2 Rxf6 と進んで黒が勝ちそうに見えるが、残念ながら 23.Nd2 という手があり形勢が逆転する。

20.g5

 20.gxh5 も白はあまり気乗りしなかった。20…Qxh5 21.Qxf4 Nfg4 22.Qg3(22.fxg4 は 22…Rxf4 23.gxh5 Rxh4 で黒に立派な代償がある)22…Nxf3 23.Bxf3 Rxf3 24.Qxf3 Qxh4 25.Qg3 Qh6 となって交換損の代わりに黒の攻撃が強力で、26…Be5 の狙いがある。

20…Nfg4!

 このような局面では引き下がることはできない。

21.Ne4

 21.fxg4 は 21…hxg4 で白には指す手がなく、黒は容易に駒を攻撃に投入し続けることができる。例えば 22.Na3 Qh7 23.Qe1 Bf5 のあと黒は望むなら 24…Rae8 と指せる。

21…Bf5

 最初は 21…Nxh2 を読んでいた。しかし 22.Kxh2 Qf5 23.Nf2(チェスエンジンは 23.Rg2 の方がずっと強力だとしている。23…Qh3+ 24.Kg1 Qxh4 25.Rh2 Bh3 26.Nbc3 でh列での釘付けのために黒が問題を抱える)23…Ng6 24.Bd3 Nxh4 25.Bxf5 Nxf3+ 26.Kh1 Nxd2 27.Bxc8 となって、27…Nxb1 には 28.Be6+ があるので白が駒得のままである。

22.Nf6+?

 この手のあとはどうやっても白の負けである。たぶんナカムラは私の応手を見落としたのだろう。白は何があっても 22.Nbc3 と指さなければならなかった。黒はまだ少し優勢かもしれないが局面はまだ難解なままである。

22…Rxf6! 23.gxf6 Bxf6

 白はビショップを助けようがない。

24.Nc3

 白はもう負けを認めている。24.Qe1 は 24…Re8 で黒の狙いが多すぎる(24…Nxf3 でもよいが 24…Re8 の方が簡単)。24.Be1 は 24…Bxb1 であれれ、ということになる。

24…Bxh4

 ここでは黒の勝勢は明らかである。私のしなければならないことは冷静さを保ち最後まで正確に指すことだけだったが、うれしいことにとてもうまくやり遂げることができた。

25.Raf1 Bg5 26.h4

 26.fxg4 と取っても 26…Be4+ 27.Nxe4 Qxe4+ 28.Rg2 Qxg2+ 29.Kxg2 f3+ でやはり終わっている。

26…Bh6 27.fxg4 hxg4 28.Rxf4 Qh5! 29.Rg2 Qxh4+ 30.Kg1

 30.Rh2 も 30…Qg5 で見込みがない。

30…Ng6

 ほかの手もあるが、これが最もはっきりしている。

31.Rxf5 Bxd2 32.Rxg4 Bxc3

 このような局面では勝ち方がいくつもあるが、その中の一つを追求することにした。

33.bxc3

 33.Rxh4 なら 33…Nxh4 34.Rg5+ Bg7 で黒の勝ちである。

33…Qe1+ 34.Bf1 Kg7 35.Rfg5 Qb1 0-1

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(この号続く)

2017年03月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(232)

「Chess Life」1998年12月号(3/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

3.Nc3 Nf6 4.Nf3 c6

 5.e3 Nbd7 からの布局はメラン戦法と呼ばれている。最も重要な2戦型の 6.Bd3 と 6.Qc2 からの白の指し方を実戦例から取り上げる。

6.Bd3 D46

 これは白の最も積極的な手である。その作戦は単刀直入で、e2-e4 と突いてさらに黒のdポーンに挑みながらクイーン翼ビショップを開放する。これに対して黒はほぞを固めて自分から 6…dxc4 7.Bxc4 b5 と難解さに踏み込まなければならない。定跡に精通している必要があるが、最終的に互角になる見込みはきわめて大きい。しかし黒を持って指す多くの選手はより安全と感じる局面の方を好み、「同形」の展開を選ぶ。このあとはシェルバコフ対シャバノフ戦(ロシア選手権戦、1996年)の手順を追う。

6…Bd6 7.O-O O-O 8.e4! dxe4

 重要な中央のポーンを交換するのが普通の取り方である。8…dxc4 と取るのは 9.Bxc4 e5 10.Bg5 h6 11.Bh4 Qe7 12.Re1 Rd8 13.d5 Nb6 14.Bb3(サブチェンコ対シップマン、フィラデルフィア、1991年)となって白が優勢になる。

9.Nxe4 Nxe4 10.Bxe4 h6

 10…Nf6 は 11.Bc2 c5 12.Bg5 h6 13.Bh4 で釘付けが煩わしく、13…Be7 には 14.Qd3! がある。

11.Bc2 e5 12.Re1! Bb4

 一組のビショップを交換しておくのが理にかなっている。単に 12…exd4?! は不十分で、13.Qxd4 Bc5 14.Qf4 で白が展開で大きく優り陣形にも欠陥がない。

13.Bd2 Bxd2 14.Qxd2 exd4 15.Qxd4 Qb6 16.Qc3 a5 17.Rad1

 黒は展開で大きく立ち遅れている。これに対し白は絵に描いたように完璧である。展開は完了し、両方のルークは中央の素通し列に位置し、盤上の制圧はほぼ全体に渡っている。キング翼で猛攻を仕掛ける可能性が高く、自陣に弱点は一つもない。『チェス新報』第68巻第393局の解説でシェルバコフは 17…Qb4 が黒の最善手だと考えている。それでも 18.Qd3 Nf6 19.a3 Qc5 20.Re5 Qb6 21.c5 Qc7 22.Rde1 Rd8 23.Nd4 で状況は芳しくない。実戦は黒がたちまちつぶされた。

17…Nf6?! 18.Rd6! Qb4 19.Qe5! Qxc4 20.Bd3 Qg4?! 21.h3 Qh5 22.Qg3 Nd5 23.Re5 f5 24.Rg6 Rf7 25.Re8+ Kh7 26.Ne5 Rc7 27.f4! 黒投了

 白の 28.Be2! Qxe2 29.Rxh6+! Kxh6(29…gxh6 30.Qg8#)30.Rh8# の狙いに成すすべがない。

 最終盤は展開の優位の威力をみごとに示していた。黒は投了した時クイーン翼のルークもビショップもまだ戦いに加わっていなかった。

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2017年03月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(465)

「Chess Life」2016年11月号(1/1)

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シンクフィールド杯

開放カタロニア(E05)
GMウェズリー・ソー(FIDE2771、米国)
GMヒカル・ナカムラ(FIDE2791、米国)
2016年シンクフィールド杯第1回戦、ミズーリ州セントルイス、2016年8月5日

 2015年のシンクフィールド杯でヒカル・ナカムラはキング翼インディアン防御でウェズリー・ソーをつぶした。1年で変わったことが多く、ナカムラが同僚に対して選択した布局もそうである。

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5

 主手順は 7.Qa4 a6 8.Qxc4 b5 9.Qc2 Bb7 で、数え切れないほど指されている。

7…Nc6

8.Nxc6

 8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7+ Qxe7 11.Qa4 e5 12.dxe5 Qxe5 が通常の手順で、よく知られている。チェスエンジンは白の方を少し優勢としているが、異色ビショップと白のすき間のあるキング翼のために黒が互角にできる可能性が非常に高い。

8…bxc6 9.Na3 Bxa3 10.bxa3

 奇妙なポーン陣形ができあがった。黒はc列に孤立三重ポーン、a列に孤立ポーンがあり、白は1ポーン損でa列に孤立二重ポーンがある。身の毛もよだつような局面である。

10…Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8

14.Ba3

 この手はポーンをもう1個犠牲にして主導権を強める。d4のポーンはまったく気にしない。確かにあればいいポーンだが、白は犠牲にした戦力を正当化するためには活発に動く必要がある。

 14.Rd1 は以下 14…c3(14…e5 15.Qxe5 Nd5 はねじり合いになる。白は双ビショップで中央列のポーンも多いが、展開が遅れている。黒は非常に積極的に動いているが、長期的には陣形が白の有利に働くのは確かなのでそうすることが必要である)15.Qxc3 Bxe2 16.Re1 Qa6 17.Bg5 Qc4 で互角の形勢である。(ポーンが取られないように17…Rd6 と指すのは手間をかける価値がないかもしれない。どうして白に 18.Rab1 でb列を支配させるのか?)

14…Rxd4 15.Rfb1

 ここで初めて前例と別れた。抜け目のない手である。交換得になった場合白のもう一つのルークはf1よりa1にいた方が良い。これは典型的なチェスの論理に反するようだが、そのわけは白が a4-a5 から a2-a4 と突こうとしているからである。

 前例は2010年ブルニャチカ・バニャでのザハル・エフィメンコ(2689)対コンスタンチン・サカエフ(2607)戦で、15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(19…d4 も指したくなる手で、対角斜筋を開けナイトのためにd5の地点を空ける)20.a5 b5 21.Qe7 c5 22.f4 d4 23.f5 e5 24.f6 gxf6 25.g4 h6 26. Rf5 と進んで合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 私が見たかった手は 16…Rd5 だった。2ルークに対し2小駒と2ポーンの駒割は滅多に見られない。もっとも 17.Bxd5 cxd5(17…Rxb1+ 18.Rxb1 cxd5 19.Qxa6 は最下段が無防備なので黒にとって問題が大きい)18.Bxb6 cxb6 19.Qc3 は白が良すぎる。クイーン翼をのみで削るようにやっていけば、結局はルークが小駒より強くなる。

17.Rd1 h6

 これは辛抱のいい手だが、たぶん補強が必要だった。

 17…Nd5 18.e4 Nf6 は互角だが、白にポーンを突かせたのは黒のためになっている。黒のナイトがいつかはd3の地点に行ける。

18.Rxd7 Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

20…c5

 20…Nc5 21.Qd6 は白が優勢の実戦の進行にやや似ている。21…Nxa4 22.Qxc6 Qxc6 23.Bxc6 Nc5 となった時の大きな違いはそれぞれの二重ポーンが交換で解消していることである。これは黒にとって重要で、ナイトがc5に行ける。

21.Rd1 Nf6 22.Kf1 Kh7 23.Qc2+

23…Kg8

 対局後ナカムラは 23…g6 と突いてクイーンを盤上に残さなかったのを後悔しているようである。24.Qc3 Kg7 で白がどのように進展を図るか判然としない。どうやっても譲歩することになるだろう。もちろん白が優勢であるけれども 25.h4 Qc7 26.Kg1 e5 で戦いは続く。

24.Qd2 Kh7 25.Qd8

 クイーンが盤上から消えるのでソーは勝ち負けだけを目指して指すことになる。a7のポーンはすぐ目立つ弱点で、ほぼ互角の駒割にもかかわらず白がはっきり優勢である。收局ではルークが小駒を圧倒することがよくある。

25…Qxd8

 25…e5 26.Qxc8 Bxc8 27.Rd8 Be6 28.Ra8 c3 29.Ke1 は、…e6-e5 突きで白枡の支配がゆるんだので黒が実戦よりもずっと悪い。

26.Rxd8 c3 27.Ke1

27…Bc4

 27…c2 は 28.Kd2 Bxe2 29.Kxc2 Kg6 30.Rb8(黒はポーン狩りをしている暇がない)30…Ng4 31.Rb7 Nxf2 32.Rxa7 で次にb6のポーンが落ちるので良くない。

28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3 a6

32.Ra8

 たぶん 32.a5 の方が正確である。32…Bd5 33.Bxd5 Nxd5+ のとき勝つ唯一の手は 34.Kb3 である(34.Kd2 は 34…c4 35.Rd6 Nb4 となってこのナイトが奇跡的にa6ポーンの守りから追い払われない。白キングがc3に行けばナイトはa2からチェックするし、a3に行けばc2からチェックする。驚異的な要塞である)。

32…Nd5+ 33.Bxd5 exd5

 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 で白の勝ちになる。白キングが黒枡をぶらつくので黒キングは戦闘に間に合わない。

34.a5

 34.Rc8 bxa4 35.Rxc5 でも勝ちだがもっとてこずる。白は正確さを要求されるが、実戦の方はaポーンのおかげで早く終わった。代わりに 34.axb5?! axb5 35.Rc8 は 35…d4+ 36.exd4 cxd4+ 37.Kxd4 で引き分けに終わる可能性が非常に高い。

34…b4+ 35.Kd2 Bf1

 35…Bb5 36.Rc8 c4 はすべて守っているようだが、37.Rb8 から Rxb5 の狙いだけ抜けている。これはビショップが動かなければならないということで、bポーンが落ち勝負がつく。

36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 黒投了

 ナカムラは白のaポーンに対処できないと読んであきらめた。

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(この号終わり)

2017年03月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(231)

「Chess Life」1998年12月号(2/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め(続き)

1.d4 d5 2.c4

A)2…e6 D30~D69

 本譜の手の利点はキング翼ビショップの斜筋が通ることで、欠点はクイーン翼ビショップが閉じ込められることである。白はcポーンが4段目にありd5に圧力をかけているので、明らかに中央で少し優位に立っている。だから黒としては次のような目標を設定することができる。つまり何も不利をこうむらずに1手で …c7-c5 と突くことができるなら、ほぼ互角になれる。

3.Nc3

 白はd5に圧力をかけることにより、黒がただで …c5 と仕掛けるのを難しくさせる。黒が 3…c5 と突くとタラッシュ防御になり、4.cxd5 exd5 5.Nf3 Nc6 6.g3 で孤立dポーンに対する白の圧力が強くなる。

 代わりに 3.Nf3 は欠点がなく別手順の 1.Nf3 または 2.Nf3、それに 3.e3 とからも生じるので重要だが、3番目の手順は指せる手ではあってもつまらない。どうして白は黒がしなければならなかったようにクイーン翼ビショップを閉じ込めなければならないのか。3…Nf6 4.Nc3 c5 5.Nf3 Nc6 が想定され、準タラッシュ防御の無害な戦型になる。

3…Nf6

 普通の手。しかしGMたちの間では先に 3…Be7 と指し、4.Nf3 のあとで初めて 4…Nf6 と指すのが普通である。本譜の手のあと白は 4.cxd5 exd5 5.Bg5 で交換戦法のより優る型にできる。しかしこれには白にとって大きな危険性もある。ポーン交換で中央における白の優位は消滅し、黒のクイーン翼ビショップは自由になる。私の考えでは少なくともレイティング2100の選手でないと微妙な差異を白のために生かせない。

 交換戦法のほかに白の重要な選択肢は 4.e3、4.Bg5 そして 4.Nf3 の三つである。

 4.e3 は指せる手だが、それでも上述の 3.e3 で説明したのと同じ欠点がある。4…c5! 5.Nf3 Nc6 となって白が優勢になる可能性は乏しい。4.Bg5 は 3.Nc3 の 最も主眼とされる継続手である。白はd5に間接的に圧力をかけることにより、黒が …c7-c5 と打って出るのを難しくしている。黒の最も人気のある手法はタルタコワ戦法(4…Be7 5.Nf3 h6 6.Bh4 O-O 7.e3 b6)である。黒陣は欠陥がないが完全に互角というわけではない。

4.Nf3

 この手は白が1~3手目で Ng1-f3 と指してもよく同じ局面になるので非常に重要である。黒はもちろんいつものように 4…Be7 と応じることができるし、4…c5 5.cxd5 Nxd5(5…exd5 はタラッシュ防御に移行する)で中央での影響力の減少をこうむっても孤立dポーンを避ける準タラッシュ防御を選択することもできる。

 しかし重要な選択肢は次の手である。

4…c6

 この局面が実戦で特に重要なわけは、約半数がスラブ防御の 1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 e6 という手順から生じるからである。

 4…c6 は見かけは消極的だが狡猾なパンチ力を秘めている。もし白が何も疑わずにいつもの 5.Bg5 を指すと、5…dxc4 6.e4 b5! に驚かされることになる。4…c6 の主眼点は白が犠牲にしたポーンを容易に取り戻せなくすることだったことが分かる。このあとの指し手はとてつもなく激しくなることがある。黒の潜在的な可能性を初めて見せつけた世界級の選手はミハイル・ボトビニクで、その戦型には当然彼の名前がつけられている。閉鎖試合の「定跡書」の中では最も複雑で攻撃的で厳しい布局となっている。

 本手順としてアセーエフ対セルゲイ・イワノフ戦(サンクトペテルブルク、1997年)を追う。7.e5 h6 8.Bh4 g5 9.Nxg5 hxg5 10.Bxg5 Nbd7 11.exf6 Bb7 12.g3 c5 13.d5 Qb6 14.Bg2 b4 15.O-O O-O-O 16.Na4 Qb5 17.a3 exd5 18.axb4 d4 19.Bxb7+ Kxb7 20.Nc3 dxc3 21.Qd5+ Kb6 22.Bf4 Rh5 23.Qxh5 cxb2 24.Rad1 cxb4 形勢互角。試合は38手で引き分けに終わった。イワノフの詳細な解説は『チェス新報』第69巻第394局を参照されたい。

 上記の試合と解説をどう判断すべきか?そう、5.Bg5 は本筋で危険があり研究を要する。ガリー・カスパロフやガータ・カームスキーのような攻撃に秀でて深く研究している者が白を持って好成績を収めてきた。とはいえ控えめに言っても万人向けの戦型ではない。

 だから黒の反撃の可能性が十分に評価されるようになって以来というもの、明らかに白を持って指すものの大部分が 5.e3 に転向した。『チェス新報』第72巻(1998年の2巻目)の主要試合の数が現在の状況をよく物語っている。5.Bg5 が3局で 5.e3 が9局となっている。ここでクイーン翼ビショップの早い閉じ込めが有効な時について次の関連した考察をつけ加えることができる。黒がc4のポーンを取ったらそのポーンを取り返すのに大変苦労する時は、早く e2-e3 と突くのが有効な変化となる。

 5.e3 が高級な選択肢である理由には別の重要な要因がある。黒にとって …c5 は主眼の突きであることが知られているので、黒はそう突くために丸々1手費やさなければならなくなる。というのはもう …c7-c6 と突いているからである。布局の早い段階の指し手ではこのような無駄はたとえ閉鎖布局であっても許されない。アナトリー・カルポフの示唆に富む明察がこの本質をよくとらえている。「閉鎖布局では手損は大したことがないとよく言われてきた。開放布局ではもっと高くつくことはもちろんだが、閉鎖布局でも手損はすべきでない。」

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2017年03月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(464)

「Chess Life」2016年10月号(1/1)

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次の一手 米国選手権戦より

第1問
GMヒカル・ナカムラ対GMジェフリー・ショーン

 白の手番

第4問
GMヒカル・ナカムラ対GMサム・シャンクランド

 白の手番

第1問解答 32.Nf5! クイーン当たりと Nh6+ の両狙い(32…Qd7 33.Nh6#)。

第4問解答 37.Re7 でも長い目で見れば勝ちになるが 37.Qd2! Qxd2 38.Rxd2 なら 39.Ree2 から 40.Rxf2 でナイトが取れる(37…Nxd1 なら 38.Qxh6+ Kg8 39.Bd5+ R6f7 40.Bxf7+ で白の勝勢)。

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(この号終わり)

2017年03月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(230)

「Chess Life」1998年12月号(1/5)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

クイーン翼ビショップの閉じ込め

 ビショップは長射程の駒で、普通は元々の斜筋に沿って展開すべきで利きがよく通る。1.e4 布局では白にとってはかなり達成しやすい。これはキング翼ビショップの斜筋がすぐに通り、普通は d2-d4 突きも早く続いてもう一つのビショップも自由になるからである。一般によどみなく迅速な展開がeポーン布局の持ち味である。

 しかしdポーン布局では小駒の展開の速さは目的を持った本格的な中央の構築の次になるのが普通である。そして小駒はその中央の内側で良い位置を探り始めることになる。これはビショップの片方の展開が遅れることを意味することがよくある。今回は白が早く e2-e3 と突くことにより黒枡ビショップの展開を自ら遅らせるクイーン翼ギャンビット拒否戦法の重要な状況について説明する。本稿はシカゴのデイビド・グルーゼンマイヤー氏からの示唆に触発されたものである。

 起点となる局面は次の手順からできる。

1.d4 d5 2.c4

 黒は初手で白と同じ中央への影響力を目指し、白はすぐにその地点を切り崩しにかかる。実際のところ黒は 2…dxc4 と取ることにより中央の地点を「放棄」することも可能である。この戦型はクイーン翼ギャンビット受諾と呼ばれ、評価の高い布局となっている。白は容易にポーンを取り返すことができるけれども、黒は白が取り返しに手をかけることによりクイーン翼で積極的に反撃を開始することができることに期待をかけている。それでもはるかに人気のあるのは 2…e6 または 2…c6 でd5の拠点を安泰にすることである。順にこの2手を見ていくことにする。

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2017年03月01日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(463)

「Chess」2016年10月号(3/3)

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次の一手

初級向け第4問 M.バシエ=ラグラーブ対H.ナカムラ
インターネット(ブレット)、2016年

 白の手番

解答 1.Be5+ 1-0 1.Bg5! も正解。1.Be5+ のあとは 1…Nf6(1…dxe5? 2.Rf7#)2.Rxf6 Qxf6 3.Bxf6 Kxf6 4.Qxh6+ Kf7 5.Nd5 で黒は戦力損の上にキングがむき出しになっている。

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(この号終わり)

2017年02月24日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(229)

「Chess Life」1998年10月号(6/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ニシペアヌ対デゥミトラケ、ルーマニア選手権戦、1996年

17.Bb3!?

 この新手は筋の通った着想である。すぐにgポーンを突いていくのは白のためになるのかそれほどはっきりしないので、白はまず白枡ビショップの安全を図って戦いに引き戻すことにした。

 ストイカとニシペアヌが本局を『チェス新報』第68巻第302局で詳細に解説しているので、読んでみることを勧める。以下では要点だけを示すことにする。

17…Kf7?!

 この手は手損になる。正着は 17…Bxb3 で、以下 18.axb3 Ke6 19.g4 fxg4! 20.Ra4! h5 21.Rxe4+ Kf7 22.Nd5 Rae8 23.Rb4 b5 24.Nxc7 Rc8 が両者の最善の手順でいい勝負である。

18.g4

 18.Nd5 Rac8 19.c4! の方が強い指し方だった。

18…g6?!

 黒陣を活気づかせるためには動的な反撃が唯一の手段だった。そのためには 18…fxg4! と取ることが必要で、19.Nxe4 Bxb3 20.axb3 b6 21.Ra4 h5 22.Rc4 c5 23.b4 cxb4 24.Bxb6 a5 25.Rc7+ Ke6! が想定される(ストイカとニシペアヌ)。

19.g5! Rad8 20.Ne2 Rd7?!

 ベルリン対リガ戦の戦型の中で白優勢の1局となった。黒は堅実に 20…Bxb3 21.axb3 Rd7 で不利を最小限にとどめるべきだった。

21.c4! b5?! 22.Rc1!

 黒のキング翼の多数派ポーンが動きづらいのに対し、白のルークと小駒は黒の弱点のクイーン翼に侵入する。白の勝ちに終わるまでの手順は次のとおりである。

22…Rhd8 23.Nf4! Bxc4 24.Bxc4+ bxc4 25.Rxc4 Rb8 26.b3 Rb7 27.Ne2! Ke8 28.Nc3! Kd8 29.Kg2 Rb8 30.Bf4 Kc8 31.Na4 Rf7 32.Rc6 Rb5 33.Rxa6 Kd7 34.a3 黒投了

総括

 私にはリガ戦法を完全に信頼できると言えない。しかしまだ調査しなければならない所が多い。8.Nxd4 からの主手順では白の優勢は従来からの少し/通常の優勢を超えないということに自信がある。

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2017年02月22日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(462)

「Chess」2016年10月号(2/3)

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2016年シンクフィールド杯(続き)

H.ナカムラ – ディン・リーレン
第9回戦、準スラブ防御

1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.Bh5 h6 6.Bh4 dxc4 7.e4 g5 8.Bg3 b5 9.Be2 Bb7 10.h4

 この反モスクワ・ギャンビットの厳しい手法は近年は現代的な 10.Qc2 にほぼ取って代わられた。しかしナカムラはまだ一定のかみつく力があることを見せつけた。

10…g4 11.Ne5 Nbd7 12.Nxd7 Qxd7 13.Be5 Qe7

14.b3!

 要着。14.Bxg4 は 14…Rg8 15.Bf3 Nd7 で陣形がほぐれて黒が好調になる。

14…cxb3 15.axb3 a6

 黒は 15…Bg7 で展開の完了を優先させることもできる。そして 16.O-O O-O 17.Bxg4(ベルレ対ファン・ベリー、ロンドン、2008年)17…Rfd8!? 18.Bf3 Nxe4 19.Bxg7 Nxc3 20.Qd2 Kxg7 21.Qxc3 Kg8 と進めば、黒は乱れた陣形がポーン得で相殺される。

16.Qc1!?

 巧妙な新手。もっとも2007年クラスノヤルスクでのトレグボフ対モティレフ戦の 16.O-O h5 17.Re1 Bg7 18.d5 でも大して悪そうには見えなかった。

16…Rg8 17.O-O Nh5

 この手は白クイーンがf4に来るのを防ぎh4のポーンを当たりにしている。しかしここからナカムラの新手の主眼点を目(ま)の当たりに見ることになる。

18.d5!!

 そらきた!

18…Qxh4?

 重要な変化は 18…exd5?! 19.exd5 Qxe5 20.Re1 で、白は1駒と1ポーンを損しているがかなりうまくいくようである。例えば 20…Be7(20…Qf4 21.Bxb5+ Kd8 22.dxc6 Qxc1 23.Rexc1 Bc8 24.Nd5 は白の攻撃がうまくいっていて非常に強力である)21.Bxb5 Qc7 22.dxc6 axb5(22…Bxc6? なら 23.Nd5!)23.Rxa8+ Bxa8 24.Nd5 Qxc6 25.Qxc6+ Bxc6 26.Nxe7 Kf8 27.Nxc6 Rg6 28.Nd4

のあとの收局は白がやや優勢である。

 もっとも本譜の手もうまくいかないので、黒は 18…f6 19.Bh2 cxd5 20.exd5 Rc8 とやってみなければならないということになり、まったくの形勢不明だろう。

19.g3 Qg5 20.dxc6! Qxe5

 白ポーンをb7に進ませるのはほとんど誰も望まないが、20…Bxc6 では 21.Nxb5 できれいに一掃されてしまう。

21.cxb7 Rb8 22.Nd5!

 さらなる一撃を見舞った。ナカムラは本局では炎と燃えていて、試合はすでに終わっているようである。

22…exd5 23.Qc8+ Ke7 24.Rxa6

 両者の大駒の働きの違いを比べてみるとよい。白の狙いは 25.Rc1 である。

24…Nxg3 25.Bxb5 Ne2+

 どうにでもしてくれという手。黒は反モスクワがうまくいかない時は滅茶苦茶になることがある。

26.Bxe2 f6 27.Re6+! Qxe6 28.Qxb8 1-0


ヒカル・ナカムラにとってはかなり期待外れの状況が続いていたが、少なくともオリンピアードではよく準備ができていたし、シンクフィールド杯ではディン・リーレンを準スラブで完璧に粉砕して上々の気分で締めくくった。

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(この号続く)

2017年02月17日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(228)

「Chess Life」1998年10月号(5/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1 Qh4 11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2 Be6 15.Be3! f5 16.Nc3 Ke7

ホセ・ラウル・カパブランカ対エドワード・ラスカー博士、ニューヨーク、1915年

17.g4 g6 18.Kg3!?

 キングが「活動」しだしたが、たぶん時期尚早である。ストイカとニシペアヌはすぐに 18.gxf5!? gxf5 19.Ne2 と指すのが白の小駒をより速く動員する手段であると指摘している。

18…h5!

 黒はキング翼で反撃する必要がある。

19.gxf5 h4+

 ストイカとニシペアヌは 19…gxf5 の変化を詳しく分析している。その主手順は 20.Kh4 Rag8 21.Bg5+ Kf7 22.Ne2 c5 23.c3 Rg7! 24.Nf4 Rxg5! 25.Kxg5 Rg8+ 26.Kh6(26.Kxh5? は 26…Kf6! で負ける)26…Rh8+! 27.Kg5 Rg8+ で引き分けになる。19..gxf5 後のほかの変化は『チェス新報』第68巻第302局を参照されたい。

20.Kh2 gxf5 21.Ne2 b5?

 黒にとって不運だったのはここでこのポーンを突いたことだった。1手費やして自分のクイーン翼を弱め、白の白枡ビショップをもっと良い地点に追いやることになった。ストイカとニシペアヌはすぐに 21…Rag8! と指すのが正着で形勢不明の局面と指摘している。

22.Bb3 Bxb3 23.axb3 Rhg8 24.Rd1! Rad8

 白の狙いは 25.Rd5 だった。代わりに 24…c6 は 25.Nd4 にしてやられる。

25.Rxd8 Kxd8 26.Nd4 以下略、白勝ち

 ここまでの手順はラスカーが『チェスの戦略』で取り上げていて、「f5のポーンが落ちる」と言って締めくくっている。実際 27.Nxf5 で黒には望みがない。

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2017年02月15日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(461)

「Chess」2016年10月号(1/3)

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2016年シンクフィールド杯

W.ソー – H.ナカムラ
第1回戦、カタロニア布局

1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.g3 Be7 5.Bg2 O-O 6.O-O dxc4 7.Ne5 Nc6 8.Nxc6 bxc6 9.Na3

 c6のポーンを取るのは昔から白に何ももたらさないと知られている(8.Bxc6 bxc6 9.Nxc6 Qe8 10.Nxe7 Qxe7 でも同じ)。しかしc4に目標を定めるのは最近かなり流行している。ナカムラは強く応じた。

9…Bxa3 10.bxa3 Ba6 11.Qd2 Rb8 12.Qa5 Qc8 13.a4 Rd8 14.Ba3!

 この手が必然というわけでは決してないが、ポーンを犠牲にするのは良さそうな手に見える。白はクイーンを強力で締めつける地点に転回させておいて、黒枡ビショップと同じことをさせるつもりである。

14…Rxd4

 この手も勝負手に違いない。2015年レイキャビクでの欧州チーム選手権でメルクミアン対フリートマン戦は 14…Rb6 15.Bc5 Rb2 16.e3 Nd7 17.Be7 Re8 18.Ba3 Rb6 19.Bc5 Rb2 20.Qc3 Qb7 21.Ba3 Rb6 22.Rad1 Nf6 23.e4 と指し回され黒が苦戦に陥った。

15.Rfb1!?

 この手は新手だった。本局とよく似ているのは2010年ブルニャチカ・バニャでのエフィメンコ対サカエフ戦の 15.Rab1 Rb6 16.Bc5 Rd5! 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qb4 Nd7(単に 19…d4!? もありそう)20.a5 b5 21.Qe7 c5 で、すぐに合意の引き分けになった。

15…Rb6 16.Bc5

16…Rd7

 代わりに 16…Rd5 ならソーは 17.Bxd5 cxd5 18.Bxb6 axb6 19.Qd2 Ne4 20.Qe3 で当面黒ポーンを止め(続いて f2-f3 と突くかもしれない)、a4-a5 と一時的にポーンを犠牲にしてルークのために素通し列を作るつもりだったかもしれない。

17.Rd1

 白は争点を維持した。17.Bxb6? と取るのは 17…cxb6(17…axb6 18.Qe5 Qd8 19.Bxc6 Rd6)18.Qe5 Nd5 となって黒が交換損の代わりに非常に指しやすくなる。

17…h6?

 この手はおかしかった。しかしナカムラは陣形をゆっくり立て直す余裕が十分あると思っていたのだろう。17…Nd5!? の方がずっと積極性があり、18.e4 Nf6 となれば白はd5の地点を永久に譲るか、e4の守りに縛りつけられるか、あるいは 19.Bf1!? Nxe4 20.Rxd7! Nxc5 21.Rxf7!? Kxf7 22.Qxc5 とでもやってみなければならない。しかしa7のポーンは落ちず 22…Qd7 23.a5 Rb7 24.Qh5+ Kg8 25.Rd1 Qe7 26.Qf3 ということになれば白に2ポーンの十分な代償がないことは明らかである。

18.Rxd7!

 やっと時機到来である。

18…Nxd7 19.Bxb6 cxb6 20.Qd2

 ソーの指し手の意味が明らかになった。黒がポーンでなだれ込むことができるようになる前にd列から攻め込もうというのである。ここで 20…Qc7 ならd6の地点に利くが、21.Rd1 Nc5 22.Qd8+ Qxd8 23.Rxd8+ Kh7 24.Bxc6 c3 25.Rd1 となってcポーンが落ち白の勝つ可能性が高くなる。

20…c5 21.Rd1 Nf6 22.Kf1!

 非常に冷静な手で、黒の 17…h6 よりはるかに役に立っている。白はキングがcポーンに十分近いのでクイーンを交換することができる。

22…Kh7 23.Qc2+ Kg8 24.Qd2 Kh7 25.Qd8! Qxd8 26.Rxd8 c3

 黒はビショップを働かせなければならない。しかしこれでも負けを免れるには十分でない。ソーは想定局面を何の問題もないと判断した。

27.Ke1 Bc4 28.Kd1 Bxa2 29.Kc2 Bc4 30.e3 b5 31.Kxc3

 黒は交換損の代わりにまだ2ポーンを得ている。しかし白のキングだけが働いていて、ナカムラは引き分けにできるだけのポーン清算をすることができない。

31…a6 32.Ra8 Nd5+ 33.Bxd5

33…exd5

 この手は見事な読みのためにあっさり負けになる。しかし 33…Bxd5 でも 34.Rxa6 bxa4 35.Rxa4 となって負けのようである。お互いキング翼に4ポーンがあり、黒になおcポーンがあっても白の勝勢である。35…f5 36.Ra5 c4 37.Kd4 Kg6 なら 38.g4!? と突けて黒のcポーンが落ちる。

34.a5! b4+ 35.Kd2

 黒のポーンは怖そうだがソーは何も恐れていない。

35…Bf1 36.Rc8 c4 37.Rb8 b3 38.Kc3 1-0

 キングの働きが勝利をもたらした。38…Bd3 39.Rb6 f5 40.Rd6 で白の簡単な勝ちである。ただし 40.Rxa6?? には 40…b2 がある。

(クリックすると全体が表示されます)

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(この号続く)

2017年02月10日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(227)

「Chess Life」1998年10月号(4/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4 Bd6! 9.Nxc6 Bxh2+!

C)10.Kh1

 これが主手順である。

10…Qh4

 これで白の手は自殺手だったように見える。しかし白には非常手段のしのぎの手筋がある。

11.Rxe4+! dxe4 12.Qd8+! Qxd8 13.Nxd8+ Kxd8 14.Kxh2

 駒の取り合いが終わり棚卸しの時機である。黒は小駒2個の代わりにルーク1個とポーン2個を取って、戦力的にはポーン半個分ほど得している。しかしほかの点では白が有利である。1)黒のルークが白陣に弱点を見つけるよりも、白の小駒が黒陣に弱点を見つける方が容易である。2)黒はキング翼の多数派ポーンを動員しようとしても黒枡の差し迫った弱点のために困難を抱える。3)黒キングは素通しのd列で不安を抱えていて、すぐには安全な避難所が見つかりそうにない(14…f5?? 15.Bg5#)。

 黒はキング翼の多数派ポーンを動員するのとeポーンを守るために …f7-f5 と突く必要があるので、まずビショップを展開する必要がある。

14…Be6 15.Be3!

 白は白枡ビショップのことに注意しなければならないが、…c5 を防ぐことによりその安全を確保した。15.Nc3?! は劣った手で、黒は 15…c5! でたぶん少し優勢になる。

15…f5 16.Nc3 Ke7

 ここが洗練された收局の出発点である。重要な実戦例3局を年代順に簡潔に紹介する。

 ジークベルト・タラッシュはここで 18.Nd5+ を狙いとする 17.Rd1 を推奨した。それは90年くらい前のことで、17…c6?! なら 18.Bb6! で黒のルークがd列で活動するのを防ぐ。しかしIMのストイカとニシペアヌ(今はGM)は『チェス新報』第68巻第302局で 17…Kf7! のあと 18…Rad8 で黒が問題ないと指摘している。

ベルリン対リガ、通信戦、1906~1907年?

17.g4 g6 18.g5

 無理矢理の黒枡戦略はうまくいかない。もっとも白の本当の問題は次の手で起こる。

18…Rag8!

 黒はこれで 19…h6 でキング翼の締め付けを突破する用意ができた。エドワード・ラスカー博士は『チェスの戦略』改訂第2版(1915年)で白は 19.Rg1! で黒の意図を妨げるべきだと指摘している。

19.Bd4?! h6 20.Bf6+ Kf7 21.Bxh8 Rxh8 22.Rd1

 ここで黒の作戦の深遠な意図が明らかになった。22.gxh6 Rxh6+ 23.Kg2 は 23…c5! から 24…b5 で白のビショップが捕獲される。本譜の手でビショップは助かるが、黒にはキング翼で4対1の圧倒的な多数派ポーンができる。

22…hxg5+ 23.Kg2 Kf6! 24.Bb3

 この手で 24.Nd5+? は 24…Ke5! 25.Nxc7 Bc4 から 26…Be2 で黒キングが詰み狙いの攻撃にさらされる。そこで白はビショップの交換を急いだ。その結果生じる收局は黒チームが少し有利である。白は29手目で防御態勢を達成できたが、白チームは40手目と41手目で指し過ぎて、黒がきれいに順当勝ちを収めた。残りの手順には形勢記号をいくつか付けておくだけにする。

24…Bxb3 25.axb3 Ke6 26.b4 Rh7 27.Ne2 Rd7 28.Nd4+ Kf6 29.c3 c6?! 30.Rh1! g4 31.Rh8 Re7 32.Ne2 Rd7 33.Nd4 Re7 34.Rf8+ Kg7 35.Rd8 f4 36.Rd6 Kf7 37.Nc2 Re6 38.Rd7+! Re7 39.Rd6 Re6 40.Rd1?! Kf6 41.c4?! Re7 42.Rd4 Kg5 43.Rd6 e3!! 44.f3 e2 45.Ne1 g3 46.b5 Rh7! 47.bxc6 bxc6 48.Re6 Rh2+ 49.Kg1 Rf2 50.Nc2 Rxf3 51.Rxe2 Rd3 52.Ne1 Rb3 53.Rd2 f3 54.Nd3 a5! 白投了

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2017年02月08日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

開放試合の指し方(164)

第10章 そのほかの布局 ジャック・ピーターズ(続き)

ビショップ布局(続き)

 この手は f2-f4 と突く作戦の失敗を認めたものである。ここで 4.f4? と突くのは 4…exf4 5.Bxf4 d5! 6.exd5 Nxd5! となって、黒キングよりも白キングの方が薄い。

 しかし 4.Nf3! は局面に合った現実的な判断を表わしている。白は実行できない作戦を放棄し、黒の …d7-d5 と突く構想の欠陥に目を向けようとしている。黒のd5とe5のポーンが弱くなることを見越して、Nc3、Bg5 から(O-O のあと)Re1 のような手でそれらに圧力をかけるつもりである。

 別の賢明なやり方は 4.Qe2!? で、eポーンに対する狙いにより黒が …d7-d5 と突くのを思いとどまることに期待することである。しかし黒はそれでも 4…d5! と突くのが良いのは、5.exd5 cxd5 6.Qxe5+ Be7 で展開が迅速に進むからである。たぶん白がポーンをかすめ取るのは危険すぎる。黒は …Nc6 または(…O-O のあと)…Re8 でクイーンを当たりにすることによりもっと手得する。

4…d5 5.Bb3

 白は 5.exd5? cxd5 6.Bb5+ でポーン得することができない。なぜなら 6…Bd7! 7.Bxd7+ Nbxd7 でe5のポーンが守られるからである。

5…Bd6

(この章続く)

2017年02月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 開放試合の指し方

「ヒカルのチェス」(460)

「British Chess Magazine」2016年9月号(2/2)

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バクー・オリンピアード(続き)

ヒカル・ナカムラ 2789
ロベルト・マルクス 2662

第5回戦、米国対セルビア

 この均衡のとれた局面でマルクスは 21…Qd8? とポカを指し、 22.Nxg6! でもう終わりになってしまった。22…Nxg6 は 23.Qg3 Nde5 24.Bxe5 で白が利子付きで戦力を取り返し、途中 23…Kf7 なら 24.Rf1+、23…Kh7 なら 24.e5! で決まっている。


優勝した米国チーム(左から右へ)ヒカル・ナカムラ、ジョン・ドナルドソン(団長)、サム・シャンクランド、レイ・ロブソン、ウェズリー・ソー、ファビアノ・カルアナ

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(この号終わり)

2017年02月03日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(226)

「Chess Life」1998年10月号(3/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅳ)8.Nxd4

 ベルリン対リガ対抗戦以来これが断然の主手順となっている。その論理には非の打ち所がない。白は犠牲にしたポーンの1個を取り返し、9.Nxc6 と 9.f3 の両方を狙っている。黒は窮地に陥っているように見える。しかしリガの選手たちが独創的な戦術を用意していたのはまさにこの手に対してである。

8…Bd6! 9.Nxc6

 もう引き返すには遅すぎる。クプチク対スタイナー戦(米国、1947年[1927年?])では白は 9.Qh5?! と指した。そして 9…O-O 10.Nxc6(10.Qxd5?? Bxh2+)10…bxc6 11.Bxc6 Rb8 12.Nc3(12.Bxd5? Nf6 13.Qd1 Nxd5)12…Nf6 13.Qf3 Bxh2+ 14.Kxh2 Qd6+ から 15…Qxc6 でもっと悪い結果になった。

9…Bxh2+!

 白には選択肢が三つある。

A)10.Kxh2

 これは単純かつ明快である。黒は 10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ ですぐにチェックの千日手による引き分けにできる。

B)10.Kf1?!

 これは安全そうに見えるが、その実黒に 10…Qh4 でチャンスを与える。

 1)11.Be3?! O-O 12.Nd4 Bg4 13.Nf3 Qh5 14.Nc3(14.c3 b5 15.Bc2 Rfe8 16.Bd3 Re6 17.Be2 Rf6 も黒の攻撃が決まった[プルーン対ケレス、通信戦、1932年])14…Rad8 15.Qd3 Bxf3 16.gxf3 Qxf3 17.Nxe4 dxe4 18.Qc3 Qh3+ 19.Ke2 Qg4+ 20.Kf1 Rd5 21.Bb3 Rh5 22.f3 exf3 白投了(マローツィ対ベルガー、ウィーン、1908年)

 2)11.Nd4+ b5 12.Be3 O-O! 13.Nf3 Qh5 14.Bb3 Bg4(14…c6 も有望[レオンハルト])15.Qxd5 Bxf3 16.Qxh5 Bxh5 17.Bd5 Rae8 18.Bxe4 Rxe4 19.g3 f5 20.Nd2 Rg4 ここで 21.Kg2? f4! で黒が優勢(二ホルム対レオンハルト、コペンハーゲン、1907年)の代わりに正着の 21.Nf3 Bxg3 22.fxg3 Rxg3 でほぼ互角

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2017年02月01日 コメント(2)

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(459)

「British Chess Magazine」2016年9月号(1/2)

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バクー・オリンピアード

セオ・スレード

ヒカル・ナカムラ 2789
ジョン・ショー 2454

第2回戦、米国対スコットランド

 ナカムラは既に優勢だったが、相手の 20…Qd6?? のおかげで 21.Bd5! でたちまち勝ちになった。

 黒が4駒で当たりになっているビショップを 21…Bd7 と引いてe8のルークにも十分な守りを利かせれば、白はもちろん 22.Bxf7+ と指す。だから黒はe6のビショップをこれ以上守れないので投了した。GMを21手で負かすとは大したものである。

1-0


ナカムラは相手のひどいポカに乗じて短手数で2局勝った

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(この号続く)

2017年01月27日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(225)

「Chess Life」1998年10月号(2/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀(続き)

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

Ⅰ)8.Ne5

 白はc6のナイトに脅威を与え、e4のナイトを攻撃するためにfポーンを自由にした。だが黒にはこれぞという戦術の一発がある。

8…Bd6!

 ぴったりの受けである。8…Qf6? は 9.Nxc6 Qxf2+ 10.Kh1 Bd7 11.Nd2! bxc6 12.Nxe4 dxe4 13.Rxe4+ Kd8 14.Rxd4 Bd6 15.Bf4 c5 16.Rxd6! で黒の負けになる。

9.Nxc6

 白はチェックの千日手にしぶしぶ同意するしかない。9.Qxd4?! と取るのは 9…O-O 10.Nxc6 bxc6 11.Bxc6 Bc5 で黒が優勢になる。

9…Bxh2+! 10.Kxh2

 8.Nxd4 の場合と異なり(後述)d列がふさがったままなので 10.Kh1? は負けになる。

10…Qh4+ 11.Kg1 Qxf2+ 引き分け

Ⅱ)8.c4

 この手はe4のナイトの守りをたたくことによりそのナイトを切り崩す理にかなった着想である。『MCO(Modern Chess Openings)第12版』(1982年発行)では主手順とされていたが、ほとんど探求されていないままである。

8…dxc3e.p.

 ここからはヤネーチェク対シェフラー戦(ウィーン、1961年)の手順を追う。『ECO(Encyclopaedia of Chess Openings)』(第3版)は 8…Bb4 を改良手の候補として指摘し、9.cxd5 Bxe1 10.Qxe1 O-O 11.dxc6 Nc5 12.Qb4 という手順を示して「白が少し優勢」としている。私にはかなり形勢不明の局面に見える。

9.Nxc3 Be6 10.Nd4 Qd7 11.Nxc6 Nxc3

 11…bxc6? は 12.Nxe4 dxe4 13.Qc2 Bd5 14.Rxe4+! で白の攻撃が本当に必殺になりそうである。

12.bxc3 bxc6 13.c4

 MCO第12版はここで終わっていて「白の攻撃が強烈」としている。一方ECOのC巻(第2版)は「白に犠牲にした戦力の代償と主導権がある」としている。どちらも正しいが、13…Kd8 で究極の形勢判断はそれほど明白でない。

Ⅲ)8.Bg5

 白は黒クイーンを当たりにすることにより別の駒を先手で攻撃に繰り出した。この手はヨハン・ベルガーがリガ戦法を咎める手の追究で1909年に初めて指摘した。

8…Be7

 理にかなっているのはこの手だけである。黒は展開を進め、攻撃駒との交換は歓迎する。ほかの手はかなり劣る。

A)8…f6? は 9.Nxd4! Bc5 10.Nxc6 Bxf2+ 11.Kf1 Qd7 12.Nc3! O-O 13.Nxd5 bxc6 14.Bxc6 fxg5 15.Bxd7 となって白が大きな戦力得で決定的な形勢である(ECO C巻[第2版])。

B)8…Qd6?! は 9.c4! dxc3e.p.(9…Be6 は 10.cxd5 Bxd5 11.Nxd4 f6 12.Nxc6 bxc6 13.Nc3 O-O-O 14.Nxe4 Bxe4 15.Qg4+ f5 16.Qe2 Bd3 17.Qe3 で黒陣は滅茶苦茶である)10.Nxc3 Be6 11.Nxe4 dxe4 12.Nd4! Qd5(12…b5 なら 13.Rxe4! bxa4 14.Qxa4 Qd5 15.Re5!、12…Be7 なら 13.Bxe7 Kxe7 14.Bxc6 bxc6 15.Rxe4 でどちらもはっきり白が優勢)13.Qc2 Bd6 14.Bh4! b5 15.Nxe6 fxe6 16.Bb3 Qc5 17.Qxc5 Bxc5 18.Rac1 となって白が勝勢の收局に近い。以上の変化はどれもJ.ベルガーによる。

9.Bxe7 Kxe7

 こう取る必要があるがそんなに悪くない。c6のナイトは釘付けからはずれ、キャッスリングしないキングには適度に安全な居場所が見つかる。「自然」な 9…Qxe7?! は 10.Nxd4 O-O 11.Bxc6 bxc6 12.f3 c5 13.Nc6(13.Nb3 c4 14.Nd4 c5)13…Qd6 14.Qxd5! Nf6! 15.Qxd6 cxd6 16.Rd1! で不利な收局になる。

10.c4

 10.Bxc6 bxc6 11.Nxd4 Kf8! 12.f3 Nf6 13.Nxc6 Qd6 の局面は1921年のクラウセの分析によるとほぼ互角のいい勝負となっている。これは正しそうである。

 本譜の手で白はまた主眼のd5とe4の切り崩しを目指している。ここからはGMビクトル・コルチノイの分析手順を追う。

10…dxc3e.p. 11.Nxc3 Be6 12.Bxc6 bxc6 13.Nd4 Nxc3 14.bxc3 Qd7 15.Qg4 c5 16.Nf5+ Kd8 17.Qxg7 Re8 18.Qxh7

 コルチノイはこの局面を白が少し優勢と判断している。戦術の要点は 18…Bxf5 に 19.Rxe8+ の切り返しがあることである。

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2017年01月25日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(458)

「Chess」2016年9月号(1/1)

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ビルバオ・マスターズ
ビルバオでヒカル・ナカムラがついにマグヌス・カールセンから初勝利

M.カールセン – H.ナカムラ
第1回戦、シチリア防御ドラゴン戦法

1.e4 c5 2.Ne2 d6 3.Nbc3 a6 4.g3 g6 5.Bg2 Bg7 6.d4

 閉鎖シチリアからフィアンケット・ドラゴンまでカールセンは本当にほとんどどんな種類の局面でも指しこなす。

6…cxd4 7.Nxd4 Nf6 8.O-O O-O 9.b3

9…Nc6

 9…Bg4!? の方がもう少し厳しい感じがする。その意図は …Qc8 から …Bh3 で、10.f3 Bd7 11.Bb2 Nc6 となれば白は有利なようにc6での陣形を変えることができない。

10.Nxc6!

 普通はこのような交換は良くないとされる。しかしここでは黒が …a6 に1手かけていて、白には Bb2、Na4 そして c4 で締めつける単純で効果的な作戦がある。

10…bxc6 11.Bb2 Qa5 12.Na4 Bg4 13.Qe1!

 これに対して 13…Qxe1 なら 14.Raxe1 Nd7(e4-e5 突きが当たりにならないようにする)15.f4 Bxb2 16.Nxb2 f6 17.c4 で白が優勢になる。しかしナカムラはすぐに次の果敢な手を悔やむことになる。

13…Qh5?! 14.f3 Bh3 15.g4!? Qh6 16.Rd1 g5

 愚形になるが黒はキング翼で動く余地がなくなりかけていた。

17.Bc1 Bxg2 18.Kxg2 Qg6

19.h4?!

 カールセンにしては珍しく頭にかっと血がのぼった。彼は大会の出だしは必ずしも良くない。19.c4 なら本筋だったし、19.Nb6 から Nc4 なら局面を支配している。

19…gxh4! 20.Qxh4 d5!

 ナカムラは好機をとらえた。黒はこれで持ち直したが、カールセンはまだ現実に気づいていなかったようである。

21.g5? dxe4! 22.f4 e6!

 これで簡単に受かっている。白は世界チャンピオンかもしれないが、指し過ぎでポーン損になる。

23.c4 Rfd8 24.Rde1 Ne8 25.Nc5 Nd6 26.Qf2

 カールセンはまだ盤上の一部を抑えているが、ナカムラはゆっくりと白の切り札をそいでいくことに満足する。

26…f5 27.Bb2 Nf7 28.Bxg7 Kxg7 29.Qg3 Rd6 30.Rd1 Rad8 31.Rxd6 Rxd6 32.Qc3+ Kg8 33.Rf2 Qh5!

 白のナイトはc5の好所に居座り続けているが、キングの守りからは離れている。

34.Qh3 Qd1 35.Qe3 e5!

 必殺の反撃第二波の始まり。

36.Qg3 Rg6 37.Kh2 exf4 38.Qxf4 Qh5+ 39.Kg1 Qd1+ 40.Kh2 Qh5+ 41.Kg1 Nxg5 42.Qb8+ Kg7 43.Qe5+ Kh6 44.Qf4 Qd1+ 45.Kh2 Qd4 46.b4 Kg7 47.Qc7+ Kh8 48.Qc8+ Rg8 49.Qxf5 Nf3+ 50.Kh3 Qd6 0-1


ナカムラは黒でカールセンに勝ったあと何も危険を冒さないようになった。

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(この号終わり)

2017年01月20日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(224)

「Chess Life」1998年10月号(1/6)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

リガ戦法は見かけより優秀

 以前の本稿である局面をより深く理解することがどのように白にとっても黒にとっても布局戦法の復活につながってきたかを話題にした。今回は戦術と洗練された戦略の機会を与えてくれる戦法を取り上げる。この戦法は現代のチェスの舞台ではほぼ完全に忘れ去られている。

 私の考えではこの戦法は「見かけより優秀」で、言い換えれば定跡での評判より優秀である。以下の事実は人気のなさを示している。『チェス新報C巻』の初版(1974年)では2行と8脚注が割り当てられていた。第2版(1981年)ではまだ同じ2行と8脚注だった。それが第3版(1997年)ではたった1行だけになった。

 これ以上気をもたせないように言ってしまうと、それはルイロペスのリガ戦法(C80)である。この名前は1906~1907年(資料によっては1907年だったり1908~1909年だったりする)に行われたベルリン対リガの通信戦からきている。通常の手順は次のとおりである。

1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Nxe4 6.d4 exd4 7.Re1 d5

 この局面は黒にとってこの上なく危険そうに見え、実際そのとおりである。黒は展開が遅れ、キングが元の位置で動かないままで、両方のナイトとも釘付けにされている。(実際同時指導対局で何回かこのような局面から簡単に勝ったことがある。)しかしリガの選手たちは黒の創造的な戦術の可能性を発見し、そのことでこの戦法が(定跡で)生き延びることになった。

 白の順当な手はⅠ)8.Ne5、Ⅱ)8.c4、Ⅲ)8.Bg5、Ⅳ)8.Nxd4 の4とおりある。最後の2手がより重要で、それらに重点をおき、残りの2手は簡単に手順を示すだけにする。

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2017年01月18日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3

「ヒカルのチェス」(457)

「Chess Life」2016年8月号(1/1)

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お楽しみチェス
究極のブリッツ決戦大会 次の一手

第2問
GMウェズリー・ソー
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第4問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 黒の手番

第5問
GMファビアノ・カルアナ
GMヒカル・ナカムラ

 白の手番

解答

第2問 39…Bd4! のあと 40…a2 で黒にクイーンができる(すぐに 39…a2?? は 40.Be5)。

第4問 60…h5?? は 61.Kc5! から 62.a5! で駄目である。実戦は 60…Ke5! 61.Bh1(61.Bxh7 なら 61…g3!)61…Kd6! 62.a5 Kc7! 63.Kc5 g3 で黒が勝った。

第5問 白は 34.Nxg5 Qxd3 35.Nxd3 で勝った。しかし 34.Nh4! Qxd3 35.Ng6+! の方がはるかに速い(35…Kh7 なら 36.Nxf8+、35…Kg8 なら 36.Nxe7+)。

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(この号終わり)

2017年01月13日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: ヒカルのチェス7

布局の探究(223)

「Chess Life」1998年9月号(4/4)

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布局の探究

GMエドマー・メドニス

ドラゴンの毒牙を抜く(続き)

1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cxd4 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 g6 6.Be3 Bg7 7.f3 O-O 8.Qd2 Nc6
Ⅱ.9.Bc4 Bd7 10.O-O-O

B.10…Qa5 [B79]
ナン対ウォード(ヘイスティングズ、1997~98年)

11.h4 Rfc8 12.Bb3 Ne5

 『チェス新報 』の初版が出版された1975年でも黒はこう指すのが良いと考えられていた。しかし一番の否定面はc列での黒の反撃開始が1手遅いということである。二番目は黒のキング翼ルークがキング翼からいなくなっているということである。

13.h5! Nxh5 14.Nd5!

 黒にとって意外で不快な事態の変転である。クイーン無し中盤戦を強いられ、白にだけ攻撃の可能性があり、白は好きな時に犠牲にしたポーンを取り返すことができる。

 白のもっと野心的な作戦は黒にとって楽である。つまり 14.Bh6? Bxh6(14…Nd3+! も良い手である)15.Qxh6 Rxc3! 16.bxc3 Nf6! は黒が好条件で主眼の …Rxc3 の交換損をやってのける(既に黒が少し優勢)。代わりに 14.g4 Nf6 15.Bh6 は 15…Rxc3! 16.bxc3 Bxh6 17.Rxh6 Rc8 でほぼ互角だが、黒の選手が望んでやまないたぐいの動的な局面である。

14…Qxd2+ 15.Rxd2 Kf8 16.g4 Nf6 17.Rdh2!

 白はキング翼での圧力を強め、これからの難儀を最小限にする最良の方策について黒を五里霧中にさせた。

17…Nxd5 18.Bxd5 Nc6

 18…Rc7 に対してナンは 19.Rxh7 Rac8 20.c3 を示している。白の攻撃は危険を「伴わない」し、戦力も互角である。本譜の手は駒交換によって白の攻撃力をそぐ理にかなった目的だが、黒の攻撃の可能性を完全に殺す欠点もある。

19.Nxc6 bxc6 20.Bc4 h6

 この手は黒枡ビショップ同士の交換を実現させるが、局面を白ルークのためにさらに開放することになる。しかし 20…Be6 21.Bxe6 fxe6 では 22.Bh6 で白の優勢は変わらない(ナン)。

21.Bxh6 Bxh6+ 22.Rxh6 e6

 22…e5 は 23.Rh7 Be8 24.g5 Rd8 25.Rh8+ Ke7 26.R1h7 で良くない。そして 26…d5?! と突くと 27.exd5 cxd5 28.Rxe8+! Rxe8(28…Kxe8 でも 29.Bxd5!)29.Bxd5 で白がはっきり優勢になる(ナン)。

23.f4! Ke7 24.e5

 24.f5 も良い手である。本譜の手で白は攻撃を継続する前にさらに締めつけようとしている。

24…dxe5?!

 黒は 24…d5 で局面を閉鎖的に保った方がもっと抵抗の見込みがあったと思う。

25.fxe5 a5?!

 この手と次の手を指している余裕はない。ナンは守勢の防御の 25…Rg8 26.Rh7 Be8 27.Rf1 Rb8 の方が黒が持ちこたえる可能性があったと指摘している。しかし 28.b3 から白キングが出てくるので黒にとって嫌な局面である。

26.Rh7 a4?! 27.Rf1 Be8 28.Rf6! Ra5

 これではなすところなく負ける。しかし意図していた 28…Kd8 と逃げる手は 29.Bxe6! fxe6 30.Rxe6 Rcb8 31.Rd6+ Kc8 32.Re7 でひどいことになる。

29.Rxe6+ Kd8 30.Rd6+ Ke7 31.Re6+ Kd8 32.Rf6! Rxe5 33.Bxf7 Ke7

 33…Rc7 には最も単純な 34.Bxg6 で良い。

34.g5! Rxg5 35.Re6+ Kf8 36.Bxe8 黒投了

 最後に以下のコメントを付け加えたい。GMジョン・ナンはここ20年間で最も偉大な攻撃的選手の一人である。彼は複雑さを避けることもなければ捨て駒を避けることもしない。それでも最大の得点をあげる重要なやり方は、何の危険もなく危険な攻撃ができるならばどうして紛糾させるのか、ということである。

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2017年01月11日 コメントは受け付けていません。

カテゴリ: 布局の探求3